メタモルフォーゼ

(29) 「真琴に彼氏が出来てた?」

「あーっ!今日買ってきたホットパンツ、無いよ!」
 先生達が結城外科へ戻った後、部屋へ戻った僕は、そこに今日買ったばかりのそれが消えてるのに気が付いた。せっかく今日それを着てみけちゃん達に後でみせびらかそうと思ってたのに!でも心当たりは有った。
(まさか、真琴・・・)
大急ぎでそのままゆり先生の部屋へ行く僕。
「ゆり先生、真琴知らない?」
 そこでは、ゆり先生と陽子ちゃんが、椅子に座って疲れた顔してお茶を飲んでいた。
「え、真琴?ついさっきさ、ゆっこが着ていた服着て出て行ったけど」
 あー、やっぱり・・・!
「え、あんたが貸してあげたんじゃなかったの?」
 相変わらず、僕の方を見ないでティーカップを口に付けるゆり先生。僕はこの時確信した。間違いない、ゆり先生はわがままだった僕に完全に怒ってる。
 あわてた僕はそのままゆり先生の背後にまわって、首筋に抱きついてほお擦りを始める。
(え、僕の今の行動って、教えられたわけでもないんだけど・・・)
「ゆり先生!ごめんなさい!今日わがままばかりして・・・」
「ちょっと・・・ゆっこ・・・」
僕の行動に陽子ちゃんが驚く。
 と、ゆり先生は落ち着いた雰囲気でティーカップを傍らに置き、僕の肩を後ろ手に軽く抱いてくれる。
「あたしが怒ったってわかった?そうよ。よくわかったわね。また一歩女に近づいたわけだ。女を怒らせると男以上に怖いんだから。ね、ゆっこちゃんお願いだから、あんまりわがままばっかり言わないでね」
 僕は黙ってうなづいた。

 さっきの事も有って、今日は一日部屋でおとなしくするつもりだった。TVをみつつ部屋でファッション誌とかをめくっていると、夜になって突然僕の携帯が鳴る。
「ゆっこ、ねえちょっと来てあげて。真琴が大変なの!」
 陽子ちゃんからだった。
(もう、僕のパンツ勝手に履いていってさ!今度は何だよ!)
 僕は乱暴にスエットスカートを脱ぎ捨て、今朝買った白のカリプのピタパンに足を通して、髪を整え、早乙女クリニックを後にした。

 指定された渋谷の喫茶店に行く僕、とそこには
「みけ、智美、ますみまでいるじゃん。ねえどうしたの??」
  喫茶店の奥のスペースでは、3人と一緒に僕のタンクトップとホットパンツ姿の真琴ちゃんが、陽子の隣にうな垂れて座っていた。よく見ると、どうやら泣きべそかいている様子。
「陽子、どうしたの。実はあんまり今日真琴の顔見たくないんだけどさ」
 本来僕が着て、みんなにみせびらかそうとしていた服を、前に座っている真琴が着ている事自体許せなかった。
 と、僕の言葉に反応して机にうつぶせて声を上げる真琴ちゃん。喫茶店内の他のお客さんも気にしているのかこっちをじろじろ見始める。こうなると僕もちょっと立場が無い。
「わかったわよ、もう責めないから家もどろっ」
 僕がそういって真琴の手を取ろうとしたとき、その手が結構汚れていて、そしてタンクトップの肩の部分も結構泥が付いている事に帰が付いた。
(え??)
 僕がちょっと変に思った時、
「まこちゃん、失恋したみたいでしゅよ」
 さっきからじっとジュースのストロー加えていたますみちゃんがぼそっと呟く。
「失恋!?」
 僕は思わず声を出してしまう。
「さっきから1時間この調子なんでしゅ。何言ったって、どうなぐさめてもだめなんでしゅ」
 ますみちゃんがそういって大きくため息を付く。
「今日、デートの日だったんだって。彼氏と会ってうまくいってたんだけどさ、後をつけてきたその彼氏の彼女という女とさ・・・」
 智美ちゃんがぼそっと言う。
「こともあろうに、近くの公園でその女と取っ組み合いの喧嘩してさ、相手の女が助けてーって言ったら、彼氏がその女の味方して、一緒にどっか行っちゃったんだって」
 みけちゃんが最後まとめた時、机にうつぶしている真琴ちゃんの口からのすすり泣く声が、また大きくなった。
「そうだったんだ・・・」
 まだ女の子に変身途中だった真琴ちゃんは、彼氏がいるなんて口にも出せず、しかも当日は朝からお手伝いとかさせられ、デート用の服も買いにいけず・・・。
「ねえ、僕、相手の女に勝ったんだよ、だのにさ、なんで彼氏を持っていかれるの?」
 くぐもり声で真琴ちゃんが喋る。その言葉に僕は、
(え・・・?)
 という表情。
(だって、そりゃあんたが今女だからじゃん。女と男じゃ違うんだからさ)
 多分皆同じ事を考えていたんだろう。みな噴出したいのを必死にこらえ、ますみちゃんなんて、後ろを向き、椅子のうらで必死で笑いをこらえてた。

失恋した真琴ちゃんを慰める/月夜眠
失恋した真琴ちゃんを慰める / 月夜眠



「今日さ。ゆり先生に言われたんだ。あたしたちの中で、一番女性化すすんでるのは真琴だって。でもさ・・・」
 僕は真琴をつつきながら続ける。
「女としての恋愛なんて、まだぜんぜんだめじゃん!」
 ふと真琴の泣き声が止まる。
「全然男の事わかってないじゃん!相手の女なんて絶対それ作戦だと思うよ。男ってさ、女の弱い所みたらほっとけないんだからさ」
 と、がばっと真琴ちゃんが赤い目をしながらも起き上がり、僕をきっと睨む。
「ゆっこにそんな事言われたくないもん!なんだよ!つい最近女になったくせに!ゆっこだって昔須藤に振られたじゃんか!」
 またもや店のお客さんの目が僕達に集る。(女になった)という言葉にぎょっとしたけど、よかった。それは別の意味にもとれる。
「須藤・・・クンに振られたって、あれは須藤・・・クンがアメリカ行ったからでしょ?」
「だってその後手紙だって来てないじゃん!」
「だから何って、なんであんたそんな事知ってんのよ!まさかメールのぞき見してんの!?」
 2,3回言い合ううちに僕もだんだん声が大きくなってくる。とその時、
「はい、すとーっぷ。まこ(真琴)元に戻ったみたいよね」
 みけちゃんが冷めた目をして言う。
「うん、じゃあこれでめでたしという事で、陽子、ゆっこ、まこ連れてかえってね。よろしく」
 少し笑いながら智美ちゃんが続ける。
「ねえ、久しぶりにカラオケいかがでしゅか。せっかくみんな集った事でしゅし」
 僕も今朝からのゆううつな気分を晴らしたくて賛成した。他のみんなも続く。

 カラオケショップでは、まず真琴ちゃんの為に、他みんなで「元気を出して」を歌うってあげる。失恋した女の子に(元気になって)と歌いかけるその歌に、さすがに最初はまためそめそし始めた真琴ちゃんは、最後にはみんなと歌う様になり、僕も一安心。そして、久しぶりに皆でわいわい歌った後、
「ゆり先生達が心配してるから・・・」
 と、先に陽子ちゃんが真琴ちゃんを連れて帰る事になった。夜も9時を回った頃、僕とみけちゃんと智美ちゃんとますみちゃんは、別の喫茶店へ移る。
「ゆっこ、陽子から聞いたよ。女になったんだってね。おめでとう」
 いきなりみけちゃんからそう言われて、僕は顔をあからめる。
「ゆっこ、おめでとう!」
「ゆっこしゃん、よかったでしゅね、おめでとーっ」
 智美ちゃんもますみちゃんも口々におめでとうって言ってくれる。
「ちょっと、人に聞かれたらどうすんのよ、でもありがとう」
 照れ隠しで笑いながら、3人の手を取って握り締める僕。
「はい、これ」
 智美ちゃんが、自分のしていた指輪を一つ僕にはめてくれた。みけちゃんも自分のしていたビーズの腕輪を1つ僕にはめてくれて、そしてますみちゃんも、自分の髪に付けていた猫の形の髪飾りを僕に付けてくれる。
「みんなありがとね。なんだか、本当にみんなの仲間入りしたんだって、あらためて女になったんだって気がする」
 僕はうれしさ一杯の笑顔を3人に向けた。
「来年は、多分陽子や真琴も仲間入りだよね」
「さ来年は、あ、あの3人も・・・本当なの?ちゃんとやってるの?」
「ううん、一人増えて4人だよ」
 おかしそうに噴出して、僕は智美ちゃんに答えた。
「ほら、ねえみなしゃん、ゆっこしゃんも女になった事だしさ、ほらあれ」
「え、?ああ。あれね」
「いいんじゃない、ゆっこがOKするならさ、一緒にどう?」
  今度はなにやら僕の知らなかった秘密めいた話をし始める。
「え、なによなによ?」
「あのでしゅね、ゆっこしゃん・・・」
 暫く小声でいろいろ喋る僕達。話を聴き終わって、僕はちょっと考え込んでしまう。
「ねえ、ゆっこ。女になったんでしょ」
 智美ちゃんの言葉に押される様に、僕は決心した。
「うん、あたしも一緒に行く」
「じゃあ、4人で予約いれましゅよ、いいれすね」
「え、ゆり先生じゃだめなの?」
「ばかね、自分が保健の先生やっている学校の生徒にそんな事できないじゃん」

 ゴールデンウィーク明けの初の学校の日。朝制服のスカートを身につけようとした僕の体の腰の位置には、既に骨盤の端が出っ張っていた。今までは寸胴体系でウエストの位置なんてそんなに決まっていなかった僕に、今はっきりとウエストの位置が示されたんだ。
 そして体育の授業の時、僕が履いたブルマのヒップの部分はすでにたるみが消え、ぴちっとヒップを包んでいた。そして走る時、前と違って心持ちなんだかヒップを突き出すというか、上げる形になってるのに気が付く。走るスピードはかなり落ちていて、走る時の足の付け根の重心の位置がわずかにいつもより横にずれているし、そして太ももに力が入らない。
(いいよ、こうなるって事はわかっていたし)
 体育の後、腰がすごく痛んだ。僕の下半身はもう女へ向けて最終変化が始まっているのに、僕の気持ちだけはまだ男の走りを求め、結果的に無理をさせちゃったんだ。
「ねえゆっこ、無理したんじゃないの?」
「保健室行こうよ」
 みけちゃんと智美ちゃんが付き添ってくれた。幸い今日の担当の保健の先生はゆり先生。
「どうする?ゆっこちゃん。暫く体育休む?」
 ベッドにうつぶせにねかされ、腰に冷湿布を当てられている僕の横にゆり先生が座ってくれた。
「いい。出る。だって、僕ブルマはくの好きなんだもん」
「何よそれ。変態みたいじゃん」
 うつぶせのまま喋る僕に、智美ちゃん達があきれていた。
「え?みけとか智美は嫌なの?」
 くぐもり声で喋る僕にみけちゃんがつかつかとあゆみより、ブルマ越しに僕のヒップをぺちゃっとはたく。
「いたーいっ」
 そんなに痛くなかったんだけど、女の子のお約束で僕は声をあげる。
「こんなの履くの好きだなんて言ってる子なんて殆どいないよ。体の線とかはっきりわかるし、パンツのラインとか透けるしさ、男子がやらしい目で見るしさ!」
 確かに、僕の元カレの須藤クンが以前話してくれた話だと、学校中でもアイドル級の可愛さのみけちゃんの体操着姿は、男子の間では評判で、その写真をよからぬ事に使ってる奴も少なくない。今のクラスにも何人かいるって事、絶対に言えない、っていうか何かの時の為に黙ってよーっと。
「あ、そうそう女子の体育来年からショートパンツになるってさ」
「えーっ先生、本当ですか!?」
「やったーっ」
 ゆり先生の言葉に喜ぶみけちゃん達。多くの学校でブルマを廃止する動きがあるけど、とうとうこの学校にもその流れが押し寄せたみたい。
「えー、つまんない・・・」
 本気でそう思ってつい口に出してしまう僕のヒップを、今度はゆり先生が半ば本気でぶつ。
「いたっ!」
 まともに患部に響いた僕が思わず悲鳴を上げる。
「先生!僕患者なんだよっ」
「また僕なんて言ってるし・・・」
 そう言うと、今度はブルマに包まれた僕のヒップをそっと撫でた。ぞわっとする不思議な感覚。
「ねえ、みけちゃん、智美ちゃん。女の子に変身中の男の子のヒップ、触ってみる?」
「わー、おもしろそう!」
「ちょっと、ゆり先生!」
 僕の声は無視され、3人はブルマごし僕のヒップとか腰の部分をさわり始める。女性3人のすべすべした指先の感触は、くすぐったくて、そしてすごく恥ずかしい。
「ほら、ここに腰骨が出っ張ってきてるでしょ?普通の男の子の腰にはこんなのは無いし。ほら女の子はここでくびれるから、体の半分近くがヒップに見えるの。男はここが腰なんだけど、ここだとヒップの割合は1/4位なの」
「あ、これ、あたしが痩せてた時と同じ感覚」
 みけちゃんが興味深そうに喋る。
「でも、全体は小さいでしょ。でもほら、ヒップの丸みだけこの子昔からあるのよね。かなり脂肪も付いたみたいだし」
「あ、やわらかーい。あたしとおんなじ・・・」
 智美ちゃんも珍しい物でも見る様な調子で触りながら喋る。
「もう、先生!この前の事まだ怒ってるでしょ!」
 まだ女に変身途中の秘密にしておきたい部分を、女友達に暴露される恥ずかしさも限界に達した僕が、ゆり先生に泣き言を言う。
「え、なになに?ゆっこ、ゆり先生怒らせたの?」
「そうよ。この前あんまりわがままばっか言うから、ちょっと絞めてやったの」
 みけちゃんの問いに答えたゆり先生が、僕の腰の冷湿布をまた軽く叩く。

 そして、1週間後の学校の放課後、僕達仲良し女の子?4人組みは、新宿のとある美容外科の前にいた。
「いいでしゅね、ゆっこしゃん。後悔しないでしゅよね」
「後悔なんて、しても仕方ないでしょ。女の子なら普通なんだし」
 この前の内緒話、それはみんなで揃って耳にピアスの孔を空ける事だった。先日、みんなもするからと、保護者役のゆり先生にまた無理を言って、貰った同意書をぎゆっと手に持って、僕は順番の来るのを待った。
「はい、ちくっとしますよ。我慢してくださいね」
 僕の番が来て、若い女医さんが僕の耳に器具をあてた時、僕の頭の中に過去の1シーンが浮かぶ。
「・・・じゃ、ゆっこちゃん、女の子にするよ・・・」
 後ろを向きながら軽く僕に言ったゆり先生。それは今から1年以上前、僕に卵巣が移植される直前のシーンだった。今の僕の気持ちってそれにすごく似てる。
 男の子でもピアスの孔を空ける人は多いけど、僕にはそれが体を女に固定する一種のおまじないに思えたんだ。
「どうしました?今日はやめますか?」
「あ、すいません。お願いします」
 女医さんの言葉にあわてて僕は処置をお願いした。きゅっと股をしめ、目をつぶる僕。そしてそれは一瞬で終わってしまう。すぐに通された医療用ピアスの感覚がとても不思議だった。
 窓口で薬をもらって振り返ると、そこには同じ用にピアスを空けた、みけちゃん、智美ちゃん、ますみちゃんが手を小さく振って出迎えてくれた。
「またあたしたちと同じ体に近づいたよね」
 智美ちゃんの言葉がとっても嬉しい。その後行った渋谷のアクセサリショップでは、みんなが僕の為に1つのピアスをプレゼント。それは薄いピンクの花模様の、とっても女らしい可愛いデザイン。ありがとう、みんな。一生大切にする。

 夏に向けて、だんだん暑い日が増えてくる様になり、女の子達は薄着をする様になってくる。僕の場合は去年はまだ怖くてできなかった薄着が、今年は下半身が女のシルエットに近づき、ピッタリパンツとか、ミニスカート姿とかが堂々と出来る様になったのがとっても嬉しい。
 腰の痛みは、ひいてはまた出たりを繰り返す。体育も少しの間休みがちになってちょっと残念だった。でも腰の痛みが引く度に、僕のヒップの位置がわずかに上がり、腰の位置がどんどん後ろにずれ、変に言うとどんどんへっぴり腰が強くなっていく感じ。骨盤と太ももの骨の接点の位置も少しづつ横へ広がっていく。
 ゆり先生の作ってくれる食事とかもきちんと残さない様に心がけ、その結果、大きくなっていく骨盤の腰の上に、見事なまでの柔らかい女の肉がたっぷりまとわり付いていく。
 更に、僕のお腹に埋め込まれた卵巣は、女としてまだ成長しきれていない僕の体を早く女にしようと活発に女性ホルモンを出しているみたい。
 あと、一時的に子宮口は僕の尿道につなげられているんだけど、もう小指の半分位になり、女の子のクリトリスになり始めたった僕の男性器からは、トイレの後、わずかに糸を引く様な液体が目立つ様になる。この前埋め込まれた子宮が、卵巣の活発な動きに負けまいとして、活発に成長している証拠だった。
 2週間に1度、ゆり先生によって僕の秘部の診察が行われる。写真を撮られたり、粘膜と分泌物のサンプルを取られるのは嫌だったけど、なんとかおとなしく我慢をしていた。
 その切れこみは診察をするたびに、後ろに5ミリ程長く伸び、次第に粘膜も厚くなり、分泌液も、ゆり先生の言うには、只の汗の成分から、だんだん酸性の女の子の秘部の分泌物の成分に変わってきているらしい。
「ねえ、ゆり先生。ほらこの前の約束。スカートとレストランはもう済んだけど、ほら、その水着2着は?」
 僕の秘密の部分を診察しているゆり先生に、申しわけなさそうに聞く僕。
「ちゃんと覚えてるわよ。だって今体にあわせたってさ、夏までには多分体のラインとかサイズが変わってるからさ。もう少し待ちなさい。」
「はあい・・・」

 いつのまにか、夜布団で寝る度に、僕は変化していく自分の下半身を幸せ一杯の表情で撫でるのが日課になってしまう、時には痛みに耐えながらも、まるで成長していく子供の頭を撫でるかの様だった。
(やわらかい・・・とっても・・・白くて・・・すべすべ・・・)
 僕の腰まわりとお腹にまとわりついた女の肉は、行き場所がなくなると、今度は僕の足の付け根から太ももを襲いはじめた。だんだん下着のショーツからは肉がはみ出る様になり、ヒップ全体にはもう一回り肉が付き、次第にハート型のヒップに変化していく。完全に僕の太ももの筋肉を溶かしたそれは、これでもかって言うくらいひつこいくらいに太ももにまとわりついていく。
 6月終りには、みけちゃんまでとはいかないけど、後ろ姿は智美ちゃんとほぼそっくりのシルエットに変身してしまう。ずん胴だった僕の体が、短期間の間に劇的なほどオンナらしい体つきに変わっていく様子は、僕のクラスメートの間でも話題になり始める。
(ゆっこ、男の子とエッチした)
なんて噂も聞こえてくる。確かに初体験した女の子は、赤ちゃんを産む準備をする為に、いろんな所が発達すると聞いてるけど。
 ある日の体育の時間、雨だったので男子と一緒に体育館での授業となった。ピチピチにふくらんだブルマがちょっと恥ずかしかったけど、最初のミーティング時、体育の宮田先生も、僕の体の劇的な変化に興味持っていたらしく、容赦ない質問が飛んできた。
「堀さん、あなた急に大人の体つきになったけど、何か生活に変化有ったの?」
「いえ、別に何もないです・・・」
 僕は顔を赤らめ、てうつむいてぼそっと喋る。ところが横の男子の列にいたちょっとチーマーっぽい男子の一人(それは元カレの須藤クンの友達で大澤っていうクラスの人気者だったけど)が笑いながら喋った。
「おい、堀。お前この前帰ってきた須藤とエッチしたんだろ。須藤言ってたぜ、気持ちよかったって!」
「えーっ」
「うそーーっ」
 女の子達の間から声があがる。当然それはカマかけようとしたそいつの罠。僕は怒って言いかえそうとしたけど、ちょっと考え、別の作戦に出た。
 僕は膝を閉じ、両手を顔に当てて顔を左右に振った後、そのまま膝に顔を両手ごと当てて泣くふりをした。ところが不思議とうそ泣きしたつもりが涙まで出てしまう。その姿を見たクラスのみんなと先生達は大慌て。
「大澤!なんて事言うの!」
 あわてて宮田先生が僕の肩を抱き、介抱し始める。
「大澤!てめえレディーに向かってなんてこと言うんだ!このやろう!」
 男子体育担当の大塚先生がすごい剣幕で大澤クンの所へ向かう。
「大澤さいてーっ」
「大澤クン最低!」
「あーあ、大澤、堀泣かせた!」
 口々にクラスメートもブーイング。
「お、おい、ちょっと待ってくれよ、堀、冗談だって!嘘だって!!お前いつも違うって言い返すじゃんか!」」
 大慌てで弁解する大澤クンを
「このあほんだらあ!」
 大澤クンの背中に大塚先生のキックが入った。もう後には引けず、僕はうそ泣きを続ける。
「ま、まあ、年頃の女は何有ってもおかしくないからさ。胸が急に大きくなった子もいたし・・・」
 一応宮田先生がその場をうまくまとめてくれた。うそ泣きを続けながらも作戦がうまく行った事にほくえそむ僕。それにしてもなんか女って得?それとも・・・、ずるい??
とにかくもう、何も怖くない。何もためらう事なんかない。このままじっと女の子に・・・はなっちゃったんだっけ。うん、そう、僕は大人の女になるのを待つだけ。えつと大人の女って、ほらあれが来れば・・・ねっ。

 7月に入ると、ともこちゃん、まいちゃんの下半身にも小さな切れ込みが出来た事がわかり、一応僕達3人の女性化は多分成功って事になった。よっぽど嬉しかったのか、2人からは僕のヒップの変身の様子とか聞こうとしてひっきりなしに携帯に電話がかかってきて、暫くはいろいろ説明してあげるのが大変だった。
そしてある日の事、僕はゆり先生に連れられて約束の水着を買いに、河合さん所ではなく、新宿のとある有名店に足を運んだ。いつみても水着のコーナーって、お花畑みたいでうきうきする。
「デザインだけで選ぶんじゃなくって、自分の体系の事考えなさい。ゆっこの場合体はまだ女としては貧弱なんだから」
 僕の今のサイズは9号。たくさん女の肉付けたつもりなのに去年より1サイズ下になってた。やっぱりウェストのくびれが目立ってきたからみたい。今年は思い切って、僕は淡いパステルピンクの、タンクトップとショートパンツ付きのビキニ、そしてパレオ付きの黄色い花柄のビキニを選んだ。
「ちょっと、試着した方がいいんじゃない?」
 ゆり先生と一緒に試着ルームへ入って、下着の上からビキニをつけると、
(わーっ、なんかすごく頼りない・・・)
 ビキニとしてはオーソドックスなデザインなんだけど、なんかピチピチの下着って感じで、これを付けて人前になんて、ちょっと恥ずかしい!
 ゆり先生はしきりに僕の水着とヒップの形の相性とか、秘部の所の形を気にしていた。
(やっぱり、ビキニやめようかな)
 と僕が思った瞬間。
「うん、いいんじゃない。別に問題無いみたいだから」
 そう言うと会計の準備を始めるゆり先生。
「あ・・・あの・・・」
「何よゆっこちゃん。もう1着はだめよ。さあ、それ脱いで持ってらっしゃい」
 こうして僕の今年の夏の水着はとうとうビキニに決まっちゃった。

 一昨年の夏、まだ体が男の子だったのに女の子水着デビューしてしまった時の、あのヨットのクルージングのお話が、また今年も美咲先生から来てしまった。なんでも今度はこそこそやらずに、もう最初っからあの雑誌とタイアップという事になってしまってる。
 今日は早乙女クリニックに美咲先生と河合さんも集って、僕とゆり先生と最初のミーティング。
「しかし、ミサもなんだかんだ言いながら、目立ちたがりなんだから」
「いいじゃん、ゆり。もう毎年あの連中に追いかけられるくらいなら、今年はちゃんと手を打とうと思ってさ」
「えっと、今年は東京から行くのは、ゆり先生に、僕に、ともこ、智美、真琴、みけ、ますみ、河合さんもいるよね。えー、車とかどうすんの?」
「何言ってるのよ、今年はあたしたちはVIPモデル扱いなんだから。ちゃんとイベント会社の人がマイクロバスをチャーターしてくれるのよ」
「え、じゃ、僕モデルとして認められるの?」
「あたりまえじゃん。ともこも、まいも。ちゃんと一時的にだけど専属モデルよ。もちろん、オ・ン・ナでね」
「今年は真琴と陽子がモデルデビュー・・・か。2人とも女子高校生デビューはしたけどさ、体はまだ半分男だしうまく隠さないと。なんか最近真琴よりも陽子の方が心配だわ。なんかどじってくれるんじゃないかって思ってさ」
 みんな思い思いわいわい言いながら、この企画を楽しみにしている。
「あーっ、ねえ、中村クンとか朝霧クンとかは、佐野クンとか、久保田さんとか、ちゃんとやってるの?」
 元クラスメートの3人はともかく、せめて久保田さんとはお話したいと思てたけど、なんだかんだ忙しくてぜんぜんあれいらい連絡とってない。
「何よいきなり、あきちゃん、ゆうちゃん、みきちゃん、雅美ちゃんで、ちゃんと訓練受けてるわよ。まあ今年のクルージングはあきらめてもらうけどさ」
美咲先生がぷっと吹き出し笑いながら言う。
「あのね、真琴の症例でわかったんだけど、人それぞれの体質で薬の効き方に個人差が有るって事がわかったの。今の4人は個別に調整した薬使ってるわ」
「ねえ、今どうなってるの?あの4人」
「今度自分で行って確かめてらっしゃい」
 ゆり先生が意地悪そうに言った。僕はこのなごんだ雰囲気を逃さず、前から気になってた事をこの時とばかりにゆり先生と美咲先生にぶつけた。
「ねえ、純ちゃんは?来ないの」
 僕はじっと2人の言葉に聞き耳を立てた。
「純?うーん、まだ来れないわよね、あの調子じゃ・・・」
「ミサ!シーッ!」
 あんのじょう、美咲先生が口を滑らし、ゆり先生が美咲先生の腕をこずく。美咲先生も大変な事言っちゃったとばかり、口を手で覆い隠した。ゆり先生もそういうサインを送ってしまった事を後悔したのか、しまった・・・って顔をする。
「ねえ、二人とも!純ちゃん今どうなってるか知ってるんでしょ!ねえ!」
 僕の言葉を聴いていないかの様に、2人は腕でこづきあいを始めた後、ゆり先生が僕の方へむきなおり、神妙な顔つきで話し始めた。
「ゆっこちゃん、ごめん。今は話せないの。でもね、元気なのは確かよ。信じてちょうだい。お願い!」
 でも僕はその言葉を聞いて少し安心した。すくなくても、純ちゃんは元気で、なんらかの事情で来れないって事を2人の先生もちゃんと知ってるんだ。

 

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