メタモルフォーゼ

(28) 「最終変身開始」

フェアリールームの中のカプセル型の手術台の上の裸になったまいちゃんと、彼女?の大きく膨らんだ胸がうっすらと隣の部屋から見えた。今までと違うのは、ライ先生の横で結城先生が助手として座っていて、ライ先生と同じ様なもう1台のマニュビレータを操作していた事だった。
「先生もそろそろ年だしね・・・」
 僕の横でそっとゆり先生が呟く。2人の先生の共同作業の為か、まいちゃんの手術は3時間程度で終わり、そして今度はゆり先生の手でまいちゃんの股間にあのゼリーがしっかりくっつけられた。看護婦さん達がフェアリールームからまいちゃんをベッドに載せて運び出すと、僕と陽子ちゃんのにわか看護婦が付き添って、隣の部屋に行き、結城先生の所から来た看護婦さんといっしょにまいちゃんの看病をした。暫くした時、
「じゃ、ゆっこ、陽子、行くね」
 僕達のいる部屋のドアの所で、ピンクのガウンに着替えたともこちゃんが、微笑みながら小さく手を振っている。
「あ、ともこ・・・」
 僕と陽子ちゃんがともこちゃんをフェアリールームまで送ってあげた。僕がびっくりしたのは、今度は結城先生がメインで手術を行っているみたい。ライ先生がアシスタントしている様子だった。
(あのすけべ親父が?)
 僕はなんだか複雑な気分だったけど、よくよく考えてみれば、ああいう手術をする以上は女の子以上に、女性の秘部について知っておかなきゃならないのかもしれない。仕事柄そうなってしまうのかも知れないなあ。
 夕方近くになって、ようやくともこちゃんの手術が終る。まいちゃんの横に運び込まれたともこちゃんは、口元にうっすらと微笑みを浮かべていた。
「ともこちゃん、どんな夢みてるのかなあ」
 陽子が独り言の様に呟く。僕はその時、全て無事に終わった事にほっとして、急にトイレに行きたくなった。
「女の子って、毎回パンツ脱がなきゃいけないんだよね。本当面倒・・・」
  女の子で暮らして2年以上経つのに、まるで今更の様に独り言を呟く僕。と、その時僕は自分の真っ白なパンツのマチ布の普段シミの付かない所にくっきりと付いている小さなシミを見逃さなかった。それは丁度あのゼリーの貼り付けられた股間の男性自身のすぐ下のあたりだった。
「あれ、いつのまに。かぶれたのかなあ。でもかゆみも痛みもないし・・・」
 大急ぎで用をたした後、陽子に断って僕は自分の部屋に急いで戻った。
(大事な所だし、変になってたらやだなあ)
 そう思いながら、僕は床にぺたんと座りナースウェアを恐る恐るめくりあげ、ストッキングとパンツを膝まで下ろし、恐々手にした手鏡で自分の股間を確かめた。暫くそれを確かめる様にしていた僕の顔がだんだん真っ赤になり、心臓がどきどきしはじめた。
「こ・・・こ・・・これ・・・、まさか・・・」
 僕の血を吸って真っ赤になったゼリーはいつの間にか僕の股間にすっかりめりこみ、赤いアザの様になっていた。そして、くちゅくちゅした皮膚に包まれた僕の男性自身は、いまや体にめりこみそうになっていた。と、その真下には、お尻の方に向かって2㎝程の切れ込みが走っている。
「これ、まさか・・・、そうなのかも・・・」
 指先の爪の半分位しか入らなかったけど、その切れ込みの中に指を入れて確かめると、その中はとても鮮やかなピンク色になっていた。そして、指先には微かにぬるっとした液体がわずかに付いている。
「これ、これって・・・」
 と、いきなり部屋の電話がコロコロンと鳴る。多分ゆり先生か誰かの呼び出しの電話なんだろうけど、僕の頭の中に何かが鳴り響き、床にペタン座りしたまま動けず、そのまま気絶するかと思った程だった。頭がぼーっとして口が開きっぱなしになり、心臓はがくがく音を立てて鼓動しはじめ、僕の目はなかなか焦点が合わなかった。ようやくゆり先生が部屋に入ってきて、異常な状態になってる僕の頬を叩いてくれるまで、僕の意識は完全に宙を舞っていた。
「ゆ、ゆっこちゃん・・・」
 ゆり先生がそれを触って、ちょっと唖然とする。男性器の名残の真下に微かに出来た、中がピンク色に染まった湿っぽい切れ込み。とうとう僕に女の子にとって体の中で最も大切な箇所が出来始めたんだ。

「・・・しかしゆっこ、よく食べるわね。まあ、いいんだけど」
「だって、僕骨盤大きくしなきゃいけないんでしょ」
「まだ僕なんて言ってる、この子」
「いいじゃん、他の人の前ではちゃんと(あたし)って言ってるからさ。あ、シラスじゃこいらないの?じゃ僕がもらっちゃお」
 僕はゆり先生の分の大根おろしの上にシラスじゃこを乗せた物を箸で手前に引き寄せる。
「こら!ゆっこちゃん、いいかげんにしなさい!誰がそんな行儀作法教えた?」
「はあい・・・」
 昨日まいちゃんとともみちゃんの手術が無事終り、そして僕もとうとう生物学的にちゃんとした女性に変身している事がわかり、僕は朝からすごく上機嫌。
 ゆり先生とこうして朝ご飯を食べている時、ライ先生始め看護婦さん達の食事の用意を終えた美咲先生が食卓に入ってきた。
「終わったよ、ゆり。何これ?昨日と同じメニューか・・・牛スジの煮物に、ジャコ大根おろし、卵に・・・」
「美咲先生、これあげる」
 僕は手元の牛スジの煮物の入った小鉢を手にとって(はいっ)て感じで美咲先生に差し出す。
「何いってんのよ、誰の為にこういうの作ってると思ってるのさ」
「だって僕お尻大きくしないといけないんでしょ。牛乳とシラスでいいじゃん。これ変な匂いして嫌なんだもん」
 椅子に座った美咲先生に、僕はぷっと口を尖らせる。
「骨を大きくするのにはカルシウムとコラーゲンが必用なのって前にも言ったでしょ。女そのものになったゆっこちゃんには、お肌の事も考えてさ」
「だって、ゆり先生、ほらいろいろサプリメントとかあるじゃん。コラーゲンの錠剤とかさ。ああいうの飲めばいいんじゃないの?」
「ああいうのは高いの!もう、ゆっこいいかげんにしてよ。あんたを女の子にするのにいくらかかったと思ってるの?それでなくても今年は4人を女の子にしなきゃいけないんだからさ!」
 ゆり先生の替わりに美咲先生が怒った様に言うと、やや乱暴に器に卵を割り、僕に醤油を取る様に求めた。
「でもさ、やっぱり女なんだから、魔法の薬みたいなものとかに憧れるよね。こういうのもいいんだけどさ・・・」
 ゆり先生がふとつぶやく様に言う。
「ゆり!あんたも先生でしょ!つまんないこと言ってるんじゃないの。カルシウム欲しけりゃ小魚食べりゃいいし、コラーゲン欲しけりゃ牛スジ食べればいいの。イソフラボンなんて毎日豆乳飲んどきゃ十分よ!」
「だってあたしの専門は精神科よ。患者に夢を与えるのも仕事だし・・・」
「少なくともあたしはこうして今の美貌保ってきたんだし!」
 ゆり先生の言葉をかき消す様に美咲先生が言い返す。
「ねえ、ミサ、あんた今日あれ?やけに食いつくじゃん」
 (美貌)の言葉に吹き出しながら尋ねるゆり先生に、何も答えない美咲先生。僕とゆり先生は顔を見合わせてふっと笑う。同時に僕は女として扱われた気がしてとても嬉しくなった。そしていずれ僕自身も身をもってそれを経験する事がやってくるんだと思うとなんだか複雑な気持ち。

 手術が終わって安静にしているともこちゃんとまいちゃんに朝ごはんを持って行く様に言われた僕は、部屋に戻ってピンクのパジャマを脱ぎ、普段着に着替えようとして、ちょっと手を止めた。意地悪そうな目をした僕はショーツとブラのまま、ベッドに座って白いナースストッキングを履きはじめる。普通の女の子並にすべすべに、そして白く柔らかくなった足をストッキングが形良く整えてくれた。ぽんとベッドから立ち上がりそのまま姿見の前に行き、手の肘の位置にウエストのくびれがはっきり出来始めている事、そしてもうすっかり女のシルエットにになった下半身のを確認して、ちょっとおなかを触る。
(暫くはたくさん食べれるけど、その後は食べれなくなるんだよね。すぐおなかが出るらしいし、便秘だってひどくなるみたいだし)
 順調に育っていってるらしい子宮をなでる様におなかをさすった後、傍らにたたんであったナースウェアを手にとって、足を通した。

「ゆっこちゃん!なんて格好してんのよ!」
 多分ゆり先生の言う通りあの日らしい美咲先生の声を後に、僕とゆり先生は笑いながら2人の朝ごはんを部屋に持っていく。
「わー、ゆっこ可愛い!」
「すごい、本当の看護婦みたいじゃん」
 2人の言葉に少し照れながら、僕は2人の前に朝ごはんを準備した。
「ねえ、すっぴんでしょ?口紅もしてないよね?」
「あたりまえじゃん、看護婦は仕事中はしちゃいけないんだよ」
 羨ましそうに言うまいちゃんに僕が答える。
 お仕事があるのか、すぐに出て行ったゆり先生を皆で見送った後、今度はともこちゃんが目を輝かせながら聞いてくる。
「ねえ、子宮移植してから何か変わった?ねえ、ねえ!?」
「いいじゃんもう。そのうちともこにもわかるからさ」
 僕は少し顔を赤らめる。
「ねえ、言ってよ。ほら、もうあたし達女同士じゃん」
「え、なんで?違うよ」
 まいちゃんの言葉に僕はちょっと意地悪っぽく答えた。
「なんで違うのよ?」
 朝ごはんに手をつけかけたのをふと止めて、ともこちゃんがちょっと怒った様に言う。
「だって、僕はもう女の子だけど、ともこやまいはまだ完全な女じゃないじゃん。2日後だよね?あのゼリーみたいなもの外さなければさ。僕はもう・・・男の子には2度と戻れないけどっ」
 腰に手を当ててちょっと自慢げに言う僕。
「むかつくーー!」
 ともこちゃんがそう言うと、割り箸の袋をぐしゃぐしゃと丸めて僕に投げつけた。
「んなこと言うなら、あのゼリーみたいなもの外してやる!」
 僕はいたずらっぽく笑うと、ともこちゃんののベッドの布団に頭からもぐりこみ始めた。
「ちょっと!何すんのよ!」
 ともこちゃんの声にもひるまず、僕は布団の中でともこちゃんのパジャマに手をかけていた。当然冗談だったけど。でも、その騒ぎに気づいた美咲先生が部屋に入ってくる足音には気づかなかった。

  さんざん美咲先生に怒られた後、僕は大急ぎで服を着替え逃げる様に外へ出た。ちゃんとした女の子になったという自信からか、僕はちょっと肌寒いけど、寄せ上げのブラにともこちゃんの店で買った白にラメ入りのタンクトップ。そして膝上丈のデニムのスカート。そして
(せっかく女の子になったんだから・・・)
 と、タンクトツプの胸元にシルバーのクローバーのネックレスを光らせ、ピンクの小さなショルダーを肩にかけ、白のミュールをつっかけて駅に急いだ。
 実はこんな体になっちゃった今、絶対買いたい物が有ったんだ。ゴールデンウィークで混雑する原宿の駅で降りると、すぐにショーウィンドーを鏡代わりにして、自分の姿をチェック。しっかり脹らんだCカップの胸元と光るネックレスのバランスに満足すると、僕はお目当てのブティックに急ぐ。
 欲しかった物の1つは白いカプリのパンツ。小さいけどヒップの形がやっと女の子っぽくなった僕にとっては、こうなる前からの憧れの品だった。一度みけちゃんの持っているのを貸してもらって試したんだけど、ウエストがきつかったのはいいとして、僕にはヒップのボリュームがまだ無く、太ももからヒップにかけての綺麗な曲線が出なかったし、下腹部の邪魔な物もまだ目立ってて、股間にも綺麗なビーナスラインも出なかった。
 あれから1年。女の子の肉がたくさん付いた僕の体は、そろそろそれを受け入れてもいい頃だと思った。
 ブティックの若い女性店員に相談してみるけど、丈の長いのとかヒップハング、太ももの細いの、太いの、ブーツカットのものとストレート、伸びるの伸びないの等、本当パンツ1つとってもこんなに種類が有るんだってびっくりしてしまう。さすがに店の女の子は僕の体を計って、いくつかいいのを3本程瞬時に選んで、試着ルームへ持っていってくれる。
「ヒップが小さめなんですね。羨ましいですね」
 なんていいながら、僕のおなかと試着したパンツに手を入れて計ってみたり、ヒップのかなり際どい所を触って感触を確かめたり。でもその仕草はまぎれも無く僕を女性と信じきっての手付き。股間が女の子らしくなった事で僕ももう怖くなんかなかった。店員さんの前でわざと試着のパンツを脱いでみたりすると、
「いい脱ぎっぷりですね」
 なんて冗談を言われる。
 僕のヒップはいずれ大きくなるという事を考慮して、店員さんが結構ぴったりと体の線が出る伸び伸びの生地のを選んでくれた。
 そしてもう1着。それは僕が本当に女の子の体形になった時しか履けないと思ってた物。それはミニスカートではなく、ホットパンツだった。やはり店員さんと一緒になって探したのが、白で小さくロゴが入っていて、裾にフリンジの付いたデニムのホットパンツ。
「案外あなたみたいなお尻の小さな女の子に合いますよ」
 店員さんの言葉に気を良くした僕は、その場でちょっと恥ずかしかったけど、そのホットパンツを履き、履いてきたスカートと買ったカプリパンツを貰った紙袋に詰め、店を後にした。股の間にきゅっと食い込む感覚と、
(あ、履いてる)
というホットパンツの今まで感じた事の無い感触。スカートと違い、大事な部分をしっかりガードされてるんだっていう感覚さえ頭に浮かぶ。

 ところがその途端、道歩く人の視線が僕の素足に集中する感じがする。そして女の子になって始めて街中で人目にさらす僕の白く柔らかくなった太ももに、僕の顔は真っ赤になった。
(平気、平気っ)
 と暫く歩いていると、行きかう女の子達の中には僕と同じホットパンツの娘がちらほら。その娘達の姿を目に焼き付けてから、ショーウィンドーを鏡代わりに僕の姿をチェック。
(大丈夫じゃん・・・、大丈夫じゃん!僕、全然あの娘達に見劣りしてないし・・・ほら、あの娘より、可愛いし!)
 その時、僕の頭の中で何かのスイッチが入ったみたい。僕は笑顔を取り戻し、すっくと顔を上げ、脹らんだ胸をつんとさせて駅への道を歩き始める。とその時、
(折角可愛く変身したんだし・・・)
 僕は携帯で行きつけの美容院で一番原宿から近い所に電話すると、1時間位で予約が取れた。大急ぎで近くの小奇麗な雑居ビルの化粧室に入ると、他の女の子達に混じってピンクのポーチの中の少ない化粧品で念入りにメイクを始めた。
  ちょっと肌寒い中での僕のホットパンツ姿に、一緒に化粧室にいた女の子達の視線を感じるけど、もう僕は全然気にしない。
(いいもん、あんたたちより可愛くなってやるもん)
 あの子達と違って、僕のはプロ級のメイクの腕を持つゆり先生にみっちり仕込まれたんだもん。負けるはずがない。
 競う様にその娘達とメイクの腕を競ったけど、自然な頬の赤らみと、マスカラ、そして口紅で作る唇の形。自然さではどうみても僕の勝ちだった。つかつかとその場を去っていく僕の背中に感じる女の子達の嫉妬の目線がすごく気持ちいい。あ、僕なんだか本当、性格が変わっていきそう。

「ゆきこちゃん、今日デート?」
 ちょっと高いけど、時々行く店の高感度高い男性の美容院のスタッフが、いつもと違うちょっと大胆だけど大人びた僕の態度に興味を示す。
「ううん、違うの。只のお買い物。あ、こういう髪型に・・・」
「へえ、いつもと違って大人びた感じにするんですね。やっぱり彼氏出来たんじゃないの?」
「いいじゃん。早くお願い!」
 美容院のスタッフの言葉に僕はぷっとすねる。
「髪染める?」
「え、髪?・・・」
 2年前まで男の子だった僕は、当然今まで髪なんか染めた事なかったし、染めるなんて事自体頭の中になかった。
「似合う・・・かな?」
 僕は照れてその男性スタッフに聞いた。
「始めてだっけ?やってみようよ。応援するし」
「う・・・うん。じゃ、お願い」
「へえ、じゃ今日は始めて大人びたゆきこちゃんを見れるかもね」
 僕は何も言わずにうなずく。後ろをばっさりと切られた僕の髪は、次第にショートボブに整えられる。そして、初めて髪を栗色に染められた僕の顔からは、今までに無い大人びた女性の雰囲気が生まれた。そしてシャギーが入り、全体にふわっとWAVEがかけられ、いい香りのするワックスで整えられていく。
(僕、なんだか別人になったみたい)
 鏡に映った僕の変身していく姿に、僕の顔はだんだん驚きと満足げな顔つきに変わっていった。
「へえー、やっぱり思った通りだよ。ほら、最初ここに来たときはさ、本当男の子じゃないかなって思ったけど、やっぱり女の子だったよね。しかもこんなに可愛い大人びた顔になるなんて」
(だって最初に来た時、僕まだ半分男だったもん)
 そう言いたくなった自分をぐっとこらえて、僕は只々微笑んでいた。

 美容院から出た僕はもうすっかり上機嫌!昼下がりの原宿から家に帰るのがもったいなくて、そしてこんなに大人びた可愛い女の子になった僕を皆に見せびらかせたくて。僕は河合さんや真琴に見せびらかせてやろうと思い、途中渋谷で降りて河合さんのブティックへ向かった。
 信号を渡ったその時、
「ちょっと彼女、写真いいかな」
(えっ)
 と思った瞬間、若いのにあごひげを蓄えた、いかにもカメラマンという人に、カシャカシャッと数枚写真を撮られてしまった。
「あ、あの・・・」
  驚いて声の出ない僕に、その横に立っているもう一人のちょっと年配の人が声をかけてきた。
「可愛い服着てるね。スタイルいいし。なかなかだよ」
「あ、あの・・・」
 相変わらず声が出ない。
「どうしたの?あ、俺達怪しいもんじゃないよ。しかし、今時の娘にしてはめずらしいね。普通はスカウト?どこの雑誌?とかキャーキャー聞いて来る奴が少なくないのにさ。ねえ」
 年配の男の人が、横のカメラマンとうなづき会う。
「ねえ、俺達さ、センスの良い女の子を捜してるんだよ。まあぶっちゃけた話スカウトだな」
「君一人だろ?どう、ちょっと話聞いていかない?」
 僕の足はがくがくと震え、顔が真っ赤になった。僕がまさか、そんな・・・
「ねえ、ちょっと君、いや、驚いたならごめん」
「君ごめん、良かったら名前と電話番号だけ教えてくれない」
 急に優しく接してくれる二人の様子から、どうやら変な人ではないみたい。
「あ、あの、堀幸子っていいます」
 僕はうつむいたまま小さく答える。
「堀、幸子・・・ゆきこちゃんか。あ、俺達はね○○企画から依頼受けてるんだ。ほらタレントの△△ちゃんとか◇◇ちゃんとかが所属している」
 カメラマンの人が僕にいろいろ説明している横で、年配の男の人が暫く僕を見ていたと思うと、ふと思い出した様に声を上げた。
「君さ、ひょっとして2年前からDo!Beに載ってる女の子ばっかりのクルーザーチームの一員じゃないか?確かメンバーの一員に堀なんとかという娘がいたし、なんか君に良く似てるし」
 もう、なんでそんな事まで知られてるんだよ!
「あ、あの・・・」
 と、その時僕の携帯の着信音が鳴った。
「あ、ちょっとごめんなさい」
 ほっとした様に僕はバッグから携帯を取り出した。
(あ、ゆり先生からだ・・・)
「ゆっこちゃん!どこ行ってるの!さっきからライ先生とかが捜してるのよ!昼過ぎからライ先生の診察が有るって言ったじゃん!」
 あ、そうだった。僕自分の変身にすっかり舞い上がっちゃって・・・。
「今どこ?渋谷!?もう、わかったから早く戻ってらっしゃい!」
 (助かった)僕は携帯を切る時思わずそうつぶやく。
「あ、あの、今家から電話が有って、すぐ戻って来いと言われたので」
「お、おいおい、マジかよ」
「ごめんなさい。失礼します!」
 僕はくるっと身をひるがえす。
「あ、ちょっと、ゆきこちゃん!」
「これ、ちょっと!」
 多分名刺だろうか、僕に手渡されたはずのその紙切れはむなしく地面に落ちた。大急ぎで駅に戻る僕だけど、駅に近づくにつれてだんだん後悔の気持ちがこみ上げて来る。そう、良く考えてみたら、モデルスカウトなんてそうそう有る話じゃない。ためらったのは僕がまだ本当の女の子じゃない為だし、もしいろいろ調べられて、僕の正体がばれたら、それが怖かったんだ。
 駆け足で駅に戻る僕の目に少し悔し涙が浮かぶ。
(なんで、どうして今僕、本当の女の子じゃないの!?もし本当に女の子だったら、絶対モデルの話、受けてたかも)

「ゆり先生、僕だよ・・・」
 早乙女クリニックに戻った僕を、僕のクラスメートか誰かと勘違いしたゆり先生が
「えっ?」
 と驚きの声を上げる。
(ねえ見て、僕こんな姿になっちゃったよ)
 ゆり先生の前で僕は少し照れながら両手を広げ、昔美咲先生の所で教え込まれたステップターンで軽くくるっと回る。だんだんヒップが体の中心になりつつあるせいなのかわからないけど、すごく簡単に自然に出来た。髪につけたワックスの香水の香りと、僕自身の女性化した甘い香りが混じり、僕の鼻をかすかにくすぐっていく。
 大人になり始めた普通の女の子のちょっと冒険したい時期、ホットパンツに胸元がふっくら脹らんだ白いタンクトップ。ファッション雑誌とかによく出てくる、栗色に染めたショートボブの髪。自分が他人に見られるのをこんなに嬉しく感じた事は今までなかった。
 とその時
「ゆっこ!帰ってきたの!?」
 地下室からどたどたと階段を上る音が聞こえ、真琴ちゃんがゆり先生を押しのけて僕の前に立った。
「ゆっこ!まだ終わってないんだよ!まいちゃんやともこちゃんはまだあんまり動けないし!お医者さん達だってまだ下でいろいろ仕事やってんだから!みんな手伝いで忙しいのにさ、ゆっこだけ何だよ!なんでこんないい格好してさ!」
 少し涙目になった真琴ちゃんがゆり先生の制止を振り切り、僕はてっきり平手が飛んでくると思って顔を背けたけどけど、意外にも真琴ちゃんは握った手で僕のおなかとか腕をまるでねじ込む様にして叩く。その握った手からは硬い男の子のものではなく、柔らかでつるつるした感覚が伝わってくる。
「ご、ごめん、真琴・・・」
 今度はすねる様にして、僕のホットパンツとか髪とか白のタンクトップを掴んではひっぱる真琴ちゃんを、ゆり先生がなだめすかし、お手伝いの続きをお願いしていた。
「あとで貸してね・・・」
 顔も向けずそういい残して真琴ちゃんが地下室に消えていく。
「みんな協力してんだから、ゆっこも一人勝手な事しないでよ。女ってみんな協力していろいろ物事を進めるんだから」
「はい、ごめんなさい」
 ゆり先生の小言に僕は素直にぺこっと頭を下げた。
「でもね、自分勝手も女の特徴だし・・・それにしてもさ、さっきの真琴の態度とか仕草とかさ。多分今一番女の子になってるのはあの娘かもね・・・」
 ゆり先生が独り言の様に言う。
(ちゃんとした女なったから、みんなに喜んでもらおうと思ったのに)
 僕はせっかく可愛くした自分を誰にもほめてもらえず、ちょっと悲しくなり、ゆり先生の顔を見る事もなく部屋へ戻った。

 部屋へ戻り、今朝の看護婦の衣装に着替えようとしたけど、ともこちゃんもまいちゃんも元気になってるし、さっきの事も有って、
(可愛いのになあ)
 残念そう大事に準看護婦の衣装を洗濯用の籠に入れる。そして、鏡の前に立って、今日原宿から電車に乗り、そして多くの人に見られてきた自分の白のラメ入りタンクトップとジーンズ地のホットパンツ姿を改めてチェックした。
 鏡の前に、1つの姿が浮かんでくる。それはまだ小学校の時の夏、学校のプール解放の前にランニングシャツとジーンズの半ズボン姿で鏡に向かって母親から渡された櫛で髪の毛を整えている姿だった。普通半ズボンなんてもう中学に入ると誰も履かない。
(こんな幼い子供みたいな格好、もう2度とする事無いと思ってた)
 胸を隠す為にデザインされ、女の子らしさを出す金のラメをちりばめたそれは、昔僕が着たランニングシャツとは違い、既に胸も大きくなり、全身丸みを帯びて白く柔らかくふっくらした体になった僕の体を引き立てるかのよう。
 半ズボンよりも短く、フリンジの付いたホットパンツは、小さいながらも、これからだんだん大きくなりつつある僕のヒップを包み、股間はすっきりしていて、ビーナスラインを形作っている。そこから伸びるストッキングに包まれた太ももは、ちょっとセクシーな雰囲気が漂っていた。
(あ・・・かわいい)
 自分の事をこれほど本当に可愛いと思った事なんて、過去になかったと思う。鏡に向かって横にVサインを作り、ちょっと微笑むと、鏡の中の僕もあどけない笑顔で僕をみつめた。
「僕、ゆっこっ」
 ちょっとお尻を引いて手を両膝に当て、片手でVサイン、顔をちょっと横に向け舌を出してそしてウインク。
「もう絶対男に戻れないんだもんねーっ」
 独り言にしては大きい声をあげながら、僕はベッドの上へそのままダイブ。今女の子の肉を更に全身に付けようとしているけど、既に僕の体重は50Kgをとっくに切っていた。足取りも軽く、ふわっと僕の体は宙に浮いてベッドに沈む。うつぶせのままシーツの冷たい感触とブラで包まれた胸が少し僕の体重で潰れる不思議な感覚を感じた後、そのシーツを指でぎゅっと掴む僕。
(とうとう女のコになっちゃった・・・)
 まだ生理こそ来てないけど、僕の体は今小学校高学年の女の子とほぼ同じ状態らしい。
(生理っていつ来るんだろ・・・辛いって聞いてるけど、どんな感じなんだろ。そして、女の子のあそこって、いつ出来上がるんだろ・・・)
 そんな事考えながら今度はくるっと仰向けになって、ストッキングに包まれた足の指先をこすりあわせながらじっと天井を見つめる僕。美容院で付けられたヘアワックスの柑橘系の香りが再び鼻をくすぐった。
 しばらくそうしていると、部屋の電話が鳴る。ゆり先生からだった。
「ゆっこちゃん、何してるのよ。早く降りてきてよ。ライ先生と結城先生の診察があるからさ、言ったでしょ、もうっ」
 僕はちょっとぎくっとする。僕の診察って、ひょっとして・・・
「あの、ゆり先生。診察って・・・」
「何いってるの!ほら、その、ようやくあたしたちと同じになり始めた所があるでしょ。ライ先生がすごく上機嫌で・・・」
 やっぱり!もう僕男の人に胸観られるのも嫌なのに、ましてや・・・
「だめだよ!だって僕もう昨日から女の子と同じになったんだからさ!男の人にそんなとこ見られるなんていやっ」
「何いってんのよ!性的に女になっただけで、体はまだまだ変身途中なんだからさ。ね、お願い、いう事聞いて」
「ゆり先生か、美咲先生が触るならいいっ」
「・・・ちょっと待って」
 多分ライ先生とかと相談しているんだと思う。だって、だって絶対嫌だもん、そんな事!ほどなくゆり先生がまた電話口に出た。
「ねえ、ゆっこちゃん、わがまま言わないで、お願い降りてきてよ。それとラフなスエットに着替えてね」
「やだったらやだもん!だって先生だってさ、男の人にあそこ触られるのって嫌でしょ!」
 ほどなく誰かが階段を上がってくる音がしたので、僕はどきっとして電話口から離れ、部屋に鍵をかけた。間一髪でその取っ手をがちゃがちゃと誰かが引っ張る。
「ゆっこ!ねえ、みんな待ってるんだからさ。降りてきてよ」
 声の主は陽子ちゃんだった事に一瞬ほっとするけど、僕はとうてい部屋の鍵を開ける気にはならなかった。僕はどうしていいかわからず、その場に座り込んでしまう。そのうちゆり先生と美咲先生とかも部屋の前に来て
「ゆっこちゃん!早く開けなさい」
 なんて言いだす始末。
(嫌なものは嫌なんだもん・・・)
 僕は膝を抱えて、じっと震えていた。とその時聞こえた部屋の窓をノックする音。
(え!なんで窓が!?)
 窓を振り返ると、その外にはいつのまにか真琴ちゃんがいた。多分、隣の純ちゃんの部屋のベランダを伝って僕の部屋のベランダに入ってきたんだと思う。すっと鍵のかけてなかった窓を開けると、真琴ちゃんが僕にウィンク。
「ゆっこ、ここから出たいんでしょ?ほらベランダ伝いに純ちゃんの部屋へ行けるよ」
(うそ?真琴助けてくれるの?)
 半信半疑ながらも僕は真琴の顔を見つめた。
「だってほら、ベランダの間50Cm位離れてるでしょ?」
「それくらいわけないじゃん、ゆっこだったらさ」
「あのさ、僕もう太ももとかお尻に女の肉がいっぱい付いちゃったから、もう男の子の時みたいに行けないよ」
「大丈夫だよ、ほらあたしがサポートしたげるからさ!」
「本当?」
 僕は真琴ちゃんの言葉を信じて窓に駆け寄る。だがそれは間違いだった。すっと僕の横を潜り抜けた真琴ちゃんは部屋のドアに取り付き、たちまち鍵を外してしまう。
「ま!真琴!なんてことすんの!」
  たちまち部屋に入ってきたゆり先生と美咲先生と陽子ちゃんの顔を見た途端
「キャーーーーーーッ!」
 僕は思わず悲鳴を上げるけど、たちまち僕は3人に取り押さえられてしまった。
「真琴!おぼえてろよ!」
 思いっきり男に戻って悪態ついてやろうとしたけど、もう僕の喉からは男の声は出なかった。
「あのさあ、女だってさ、産婦人科とか泌尿器科とか行ったら嫌でも触られるんだよ!出来かけの○○○○触られるくらいどうってことねーだろ!」
 本気で怒っていた美咲先生が今まで見た事の無い剣幕で僕を怒鳴りつけ、僕の全身から恐怖で力が抜けた。その時、
「ミサ、いいのよ。この子もう元男の子だなんて思わない方がいいから」
 ゆり先生が僕の手を押さえつけつつ僕ににっこり微笑んで続けた。
「ねえ、ゆっこちやん。世界で始めて本当に女の子になっちゃったあなたに、みんな興味持ってるの。お願い協力してちょうだい。そのかわりさ、後であたしの知ってる秘密のレストランで美味しい物ご馳走してあげるし、ほら、そろそろ夏だよね。あんたの好きな水着2着買ったげる。なんならスカートも1本付けてあげようか?」
(ゆり先生そんなの卑怯だよ!だってそんな事言われたら、僕・・・、最近何かプレゼントされるって言われたらものすごく心がウキウキしちゃうのに・・・)
 うつむいて黙っている僕に、ゆり先生は今度はちょっといたずらっぽい目をしてなおも続けた。
「いいのよ。それでも嫌だっていうならさ、これあんたにかがせるだけだからさ」
 といって、ゆり先生はスカートのポケットから小さな薬の小瓶を出し、僕の前でちらつかせた。
「何かわかる?へへへーぇ、強力催眠薬。まあ2時間は目を覚まさないわね。これ使ってゆっこちゃん下に持っていけば、女の子の大事な部分だけでなく、裸にされて全身触られるでしょうね。可愛く脹らんだおっぱいとか、くびれはじめた腰とかさ」
 その声と目に僕はゆり先生の本性みたいな物を感じ取り、ぎょっとしてしまう。
「もちろん、そうなったらさっきの食事とか水着はなーーーし。さ、どうするの、このまま素直に診察に応じて、プレゼント付きの短い診察で終わらせるか、2時間たっぷり全身男の人に触らせるか・・・」
 ここまで言われたら、もう僕の答えは1つしかなかつた。
「わかった・・・わよ!行けばいいんでしょ!」
「ふふふっ、素直なゆっこちゃんは好きよ」
 そう言うとゆり先生が僕を引寄せひたいに軽くキス。皆の手をふりほどいた僕は観念した様にその場でタンクトップを脱ぎ、ホットパンツとパンストを乱暴に脱ぎ捨て、部屋着のスエットスーツを取りにクローゼットに近寄った。せめてもの抵抗の印に、僕は下着の入っている引き出しからハードガードルを取り出したけど、美咲先生に見つかり、それを強引に奪い取られてしまう。そして
「あんた、ゆりを本気で怒らせたでしょ。よほどの事無いかぎりあの子怒らないけどさ、あの子怒ったらああいう態度で接するのよ。怒ったらあたしより怖いんだからね」
 ちょっとびくっとした僕は、美咲先生の目を眼鏡ごしで見つめた。
「しばらくゆりに逆らわない方がいいわよ」
 美咲先生に小声で耳元でそうささやかれ、僕はその後素直にゆり先生に連れられ部屋を出る。
「全く、ゆりの交渉術にはいつも感心するというか、怖いっていうか、そこまでやるかって・・・さ。ゆっこちゃんの行ってる学校の保健の先生の職もそうやって手に入れたんじゃないの?」
 美咲先生が意地悪そうにゆり先生に言う。
「さあ、どうかしらね。あ、そうそう、真琴、お手柄ね」
 ゆり先生にそういわれて皆にVサインを送る真琴を僕は最後にきっと睨んだ。

 地下室の診察ベッドに寝かされた僕。産婦人科でそうやるみたいに首の所にカーテンがしかれ、僕の目からは体で何されているかわからない様になってるけど、それがかえって怖かった。横にゆり先生が付いてくれているだけまだ助かった気がする。
 やがてライ先生達の声が聞こえ、部屋中に人の気配があふれる。
「ゆっこちゃん、こんなに早く結果が出るなんておもわなかったよ。わからんもんだねえ」
 上機嫌な結城先生の声と共に、多分初めて聞いたかもしらないライ先生の笑い声まで聞こえる。
(もう、なんだよ!僕こんなに恥ずかしいのにさ!)
 恥ずかしさと悔しさで僕は声が出なかった。
「じゃ、はじめよう」
 その声と共に
「シツレイシマス」
 白人の看護婦らしき人の声と共に僕のスエットのスカートが脱がされ、パンツに手がかかる。それを足首から脱がされると、
(もう!好きにやってよ!)
僕にはあきらめの気持ちが出てきた。そしてごつごつした指先で僕に出来始めた女性の秘密の部分の触診が始まった。
「ヴァギナ・・・は、意外と発達してるね。30ミリ位か、深さはうーんまだ浅いな、深い所で5ミリ、男性器、小指の先位かな。写真を・・・、測定器は・・・、長さ25ミリ直径は15ミリ。まだ尿道は健在か、そうだよな。でないとションベンできないもんな・・・ははは」
 天才外科医のはずの結城先生のこの下品な言葉に、僕の手が震える。
(我慢しなきゃ・・・)
 まだ触診は続く。
「もう粘膜が張ってるよ。サンプル取って。それから分泌物・・・」
 結城先生の指がもろに僕の出来始めたあそこをぐりぐりとさわり始める。僕の目からはたまらず1筋の涙が出る。時折ライ先生と談笑しながら、ライ先生の指と思われる指も僕を触り始めた。
「ゆり先生・・・僕やだぁ・・・」
 涙目の僕の髪を無言でゆり先生がなでてくれた。少しは気が落ち着いたかもしれない。そんな事に全く気づかない結城先生は更に僕の体を触り始めた。
「すごいな、ゆりやあゆみの報告から想像できない位おなかとか太ももが、股間の部分とかが柔らかいよ。腰骨も、少し大きくなってるね。あれ貼り付けて2ヶ月たらずでここまで発達するのか、いやあ、ライ先生。あなたの発明品はすごいよ」
 通訳を通してライ先生に伝わると、ライ先生の口からも笑い声がもれる」
「ゆっこちゃん、血液取るから、ちょっと痛いけど我慢してね」
 そういって僕の方に顔を出したのは、結城先生夫人の早瀬先生だった。
(先生、助けてよ、あなたの夫、僕にこんな事してるのに)
 注射針の痛みの後、今度は僕の胸をまくる感覚が有った。ごつごつと硬い指が僕のブラを無理矢理押し上げ、そして
(ゆり先生!僕そんなの聞いてない!)
 僕は目でゆり先生に訴えかけようとしたけど、ゆり先生は別の方を向いていた。そして節くれだった指が僕の大きくなった乳首を何回もつまみ、触診のはずなのに、手で鷲づかみに・・・
「おい、これすごいよ。17・8の処女の乳房そのものだよ。この柔らかさとか、この張りとかさ。俺の女房の胸より可愛くて張りがあるぞ!」
「なんですって!!」
 傍らの早瀬先生が大声を出す。と
「結城先生!何やってんですか!!」
 ゆり先生がカーテンをめくって、結城先生に注意。とたん僕の口からは悲鳴に似た声があがり、涙があふれる。
「結城先生!胸部のマッサージは私達の仕事のはずですよ!大体胸の豊富手術の予定もないのに!なんで外科医の結城先生が触るんですか!」
 美咲先生が大胆にも結城先生の手を掴んで注意する。
「い、いや、俺はさ、褒めたつもりだったんだよ!もうどこへ行っても女で通じるぜ、この体だと。君達もさ、よくここまでこの子を女に・・・」
 結城先生がちょっと後ずさり。でもゆり先生他女性医師達の非難の声が続く。あのライ先生までもが、手でちょっとおおげさなポーズを取り、部屋の隅へ行ってしまった。
「どこへって、どこなんですか!」
「セミヌードでも通じる所って事じゃない!?」
「あなた!なんでいつもこうなんですか!」
 女性陣からいろいろ罵詈雑言を浴びせられ、すっかり塞込む結城先生。
「結城先生!腕は一流なのは認めますけど、こんな事されたら困ります!」
「あなた、今度こんな事やったらもう離婚ですよ!大体こんな事ばっかりやってるから、大学病院から追い出され・・・」
「ああ、わかったわかった!一応予定の触診とサンプルは取ったから、今日は終り!」
 結城先生は部屋の隅のライ先生を促して外に出て行く。
「ゆっこちゃんごめんね。許してね」
まだヒックヒックしている僕に早瀬先生と美咲先生が、パンツとスエットを元通り履かせてくれた。
「ごめんねー、恥ずかしかったでしょ」
 ゆり先生が言ってくれたけど、僕はちょっと気になった。
(ゆり先生、僕の目を見て言ってくれない・・・)
 そういえば、僕が胸を触られているのを、少しの時間見て見ぬふりをしていた雰囲気も有った。
(まさか・・・これ、さっきの僕に対する仕返し!?)

 

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