メタモルフォーゼ

(26) 「子宮移植、もう男の子には戻れない」

だんだん暖かくなっていく3月の始め頃、僕の子宮移植の日程がゆり先生から発表された。春休みの初日に移植手術して、そして数日後に美咲先生の所へ行って静養。そして春休みの終り頃また早乙女クリニックに戻ってくるんだって。
 あ、そうそうみけちゃん、智美ちゃん、ますみちゃんには、陽子ちゃんと真琴ちゃんの手術成功を伝えておいて、ついでに僕の子宮移植のスケジュールも話しておいた。
「へえー、あの渡辺クンが安倍な○みになってるんでしゅか。まあ、少し似た雰囲気は有ったでしゅけどねぇ」
「陽子が、坂下千○子にねえ。ふーん、似てはいたし、なんか雰囲気もそう言われてみれば似てる所あったかも…」
 密談の出来る喫茶店でいろいろ話し合った後、僕自信の事の話しに。
「じゃゆっこ。春休み終わって2年生になったら、ほぼ女の子の体になってるんだ」
「うん、その、うまくいけばね…」
「子宮移植終ったら何かお祝いしたげようよ」
(えー、いいよぉ、そんなに気使ってくれなくってもさ)
 と言おうと思ったけど、でもこういう時は女の子は気持ち良く受けとって、お返しを忘れずに。昔のゆり先生の講義中の言葉が頭の中に響く。
「ありがとう、みけちゃん、智美ちゃん、ますみちゃん」
 なんかほっと心和む気分。
「ところでゆっこしゃーん、あの3人組っていつスカート履かされるんれすか?」
 突然のますみちゃんの問いに僕はちょっと飲んでたジュースがむせた。そうだった!あの3人と久保田さん忘れてた。うーっ、えっとぉ、僕の時は春休みからいきなり伊豆に行かせられて、あーっ!僕の静養期間とあの4人のトレーニング開始時期が重なる!
「た、たぶん…その私が伊豆にいる時に、あはは」
 ちょっと恥ずかしげに話す僕。
「へーぇ、じゃ暫くはスカート姿のあの3人と一緒に暮すんだ。静養するんでしょ?ご飯とか持って来てくれたり…きゃはははは!」
「もー、変な事言わないのーっ!」
 なんか面白そうに身を乗り出してきた智美ちゃんに僕は軽くパンチ1発。でもなーんか憂鬱だなあ…。

 手術の1週間前、僕は子宮移植の為の最後の体の検査が有った。検査に来たのは、ライ先生の所の白人の女医さんと看護婦さん。そしてゆり先生が僕の細かい記録とか資料をいろいろ見せて説明していた。
「じゃ、ゆっこちゃん。服脱いで。ブラは外してキャミだけになって…」
 前は女性に裸を見られるのは嫌だったけど、ここまで体が変化した今はもう、結城先生とかの男性の先生に、たとえ診察でも裸を見られるのが嫌になっていた。むしろ体形が同じになってきた女性の前だと、抵抗無しに裸になれる。
「ゆっこは今後はレディーとして扱われるから。余程の事が無い限り、男性の医者の診察は無いのよ」
 ああよかった。やっばり男の人に裸見られるのって抵抗有るし…あ、そか僕って以前は男の子だったっけ。
  
 バスト80、ウエスト67、ヒップ75女の子としてはちょっと変な数字だけど、それが僕の今のプロポーション。血液は完全に女の子の血、皮下脂肪の成分もほぼ女の子。その他かなりの部分が、1年前移植された卵巣によって女の子化していた。でも骨盤だけは殆ど変化が無い。そして、女の子に特有の体のホルモンバランスに関しては、殆ど変化が無くずっと単調な値が示されていた。
 次に僕は完全に裸になって診察室のベッドに寝かされ、様々な所を検査された。退化した男性自身の形。看護婦さんの手によって、包茎状態で体に埋没しそうになっているそれの皮を向かれると、不思議とピンク色に染まって尖った突起物に変化した元亀頭であつた部分が現れた。今でもそこから小水は出てるんだけど…。看護婦さんにそれをカメラで撮影される時って本当に恥ずかしかった。
 次に僕に生えた恥毛の様子もカメラに撮られる。女性ホルモンの影響なのか、おへそから下の方に生えていた毛はすっかり消え、逆三角形の女形に生え揃っていた。そして僕今始めて気が付いたんだけど、僕のおへそは完全に縦長に変化していた。
「女の子は男の子と違って胴が長く伸びるから、女の子のおへそはたいてい細長になってるはずよ。ゆっこもそうなってるって事は、ゆっこのお腹だってしっかり変化してる証拠なの」
 そして、僕の胸の検診が始まった。その形と柔らかさとかをこと細かに調べられるんだけど、何だか胸をマッサージされている気分。看護婦さんの白く滑らかに指で触られるのがとっても気持いい。でも…あれ?あれれ?この感触好きだったはずなのに?どうして?
(何だか頼りない感じ。もっと堅いざらざらした手で、もっと力強く触って欲しい)
 触診されている時、そんな感じが僕の心の底から湧きあがってくる。これって、これってまさか、僕の体って、男の人に障られる事を…!?
「やっやだぁ!」
 僕はいきなり顔を真っ赤にして両手を手に当てる。
「ア、ゴメンナサイ、チョットハズカシカッタデスカ」
 看護婦さんが触診の手を止め、僕に問い掛けてくれた。
「あ、ごめんなさい。そんなのじゃないんです」
「ソウデスカ、ダイジョウブデスカ、ツヅケテモイイデスカ」
「あ、はい。お願いします」
 片言の日本語でのやりとりが終って、看護婦さんは続けて検査を始める。僕はぼーっとなってされるままになっていた。
(須藤クンにされている時、始めてだったから舞いあがってあんまり感覚とか覚えてなかったけど、今度もし男の子とエッチする時が来たら、僕ってどうなっちゃうんだろ)

 とうとう手術の朝を迎えた。ゆり先生の指示で僕はノーブラの上にタンクトップを着て、下はショーツは履かず、フレァーショーツだけを履いて、上からカーディガンをはおり、ゆり先生に連れられて地下室へ向った。ノーブラの胸が直接キャミに当たって変な気分。やっばり僕ブラ無しだと生活できない体になったんだ。
 途中、応接室に行くと、そこにはともこちゃん、まいちゃん、みけちゃん智美ちゃん、そしてますみちゃんがいた。僕の足は期待とちょっとした恥ずかしさでがくがく震え、皆に手を小さく振るのが精一杯。
「ゆっこ、頑張ってね」
「成功して戻ってきてね」
「皆でお祝いしてあげるから」
 口々に僕を励ましてくれる姿にちょっと僕は目頭が熱くなる。
「みんな、ありがとね。本当にありがとね」
 鼻を指で拭った後、再びゆり先生に連れられ、地下室へ向かった。

 地下室の入り口からは、陽子ちゃんと真琴ちゃんが、準看護婦の衣装で、先生方が見守る中僕をフェアリールームへ連れて行ってくれた。そこで自分からカプセルに寝転ぶと、陽子ちゃんとと真琴ちゃんに笑顔で軽く手を振る僕。そんな僕達を見る先生達もなんだか緊張している様子。子宮移植は純ちゃんについで2度目だけど、ガン細胞の特異性を利用した女性器形成は僕が始めてなんだ。成功の保証はされてない。
 僕はカプセルの外から僕を見つめるゆり先生と美咲先生そして結城先生にも微笑んで、手を顔の近くで振った。
 ライ先生の指示で僕の体に麻酔が打たれる。だんだん薄れていく意識の中、フレアーショーツが下ろさた後、僕の体にはメスが入れられ、切開されていく。その後は血とか拭かれてるんだろな。僕の体を流れるすっかり女の子の成分になった血が…。そして
「あ、あ…子宮…」
 卵巣の時と同じ、何か冷たい物が僕のお腹に落とされ、体温を奪って温まっていく。向こうの部屋ではライ先生のマニュピレータが動いて…。

 10時間後、僕の体には無事子宮が移植され、傷口も特殊な装置で塞がれていく。後には切られた所に赤い線が残るだけだった。
「ライ先生お疲れ様です」
 椅子からふらふらと立ちあがる汗でびっしょりのライ先生を美咲先生が介抱する様に差さえ、階段を上がって行く。
「ミサキ、アトアレヲタノム」
「あ、ええわかってますわ。あのパットはちゃんと貼り付けておきます」
  美咲先生とライ先生が消えた後、奥の部屋から結城先生が大きなスーツケースを持って来た。中を空けると、ドライアイスと共に何重もの箱に入れられた小さなケースが現れる。
「早乙女君、ここから先は君の仕事だよ」
「わかってます」
 結城先生から小さなケースを受け取ると、その足でフェアリールームに行き、カプセルを開けると、ぐっすり眠ってる僕の傍らへ近寄った。他の先生達に指示すると、僕の両足はぐっと開かれ、傍らの固定場所に移される。丁度産婦人科に有る検診用の台に乗っているみたいな感じ。
「1回でちゃんとくっつけないと…」
 そのパットは1回でちゃんと目的の場所にくっつけないと、女性器の場所がずれたりする。もし装着前に他の細胞がくっついたら、その部分がガンになつたりするちょっと危険な細胞の塊だった。
 消毒済みのピンセットと手術用の手袋で、その物質はゆり先生の手により僕の股間へ。男性自身を通す穴が開いてるんだけど、そこには僕の退化したそれが通され、ぺちゃんこになった精巣の上にその透明なゼリーみたいなのが覆われて行く。さすがに美容外科で鳴らしたゆり先生の手によって、ほぼ正確にそれは僕の股間に上手く装着された。
  その物質がしっかり落ち付くまで、ゆり先生は僕に付き添ってくれる。その物質は僕の細胞を取りこみ、コピーの細胞を次々と作り、やがてはそれ全体がそのコピーの細胞に変わっていく。でも、その染色体は女性の染色体なんだ。
「ゆっこちやん。これであなたもあたしと同じ体になるのよ」
 ゆり先生が僕の頭をそっとなでてくれた。

「ゆっこちゃん?目が覚めた?」
 ゆり先生の声で僕は目が覚めた。頭がぼーっとする。えっとどうしたんだっけ?今日は何月何日なんだっけ?学校?休みなんだったっけ。それにしても長い夢だった。僕は完全に女の子として、いろんな所を旅して…。あ、そうだ。僕子宮移植されて、あ!この股間にむにゅむにゅしたのって何!?
 ゆり先生の見てる前で僕はパジャマを脱ぎ、ショーツを下ろして、確認してみると、そこには退化した男性自身を覆う様に、薄い黄色の柔らかなゼリーみたいな物がくっついていた。
「ゆり先生!これって…」
 先生は傍らの椅子に座り、ちょっと微笑んだ・
「ゆっこちゃん。まずはおめでとう。子宮移植は成功したわ。あなたの下半身は、将来赤ちゃんを生む為に今後いろいろ変化していくでしょうね。それと、そのゼリーだけどね」
 ゆり先生はちょっと改まって椅子に座りなおした。
「あなたに今からそうね。約40時間の猶予をあげます。そうね、あさっての深夜までかな。これが最後の選択なの。もし女の子になりたくなかったら、40時間以内にそのゼリーを外して欲しいの。でももし、40時間内に外さないとね…」
「え、外さないと?」
 ちょっとびっくりしてゆり先生に尋ねる僕。
「外さないと、あなたは、もう2度と男の子には戻れません」
 僕はきょとんとしてゆり先生の顔を見る。
「あ、あの先生。僕って、まだ男の子に戻れるの??」
「もう、いいかげんに僕っていうのやめなさいよ。こんな胸してさ」
 膨らんだ僕の胸を指でつつくゆり先生。
「そうね、卵巣摘出して、男性ホルモン打って、毎日筋力トレーニングして、でももう精子は…無理かもしれないなあ」
「ゆり先生、大丈夫だよ。もう男の子に戻る方が大変だってわかってるもん」
 まだ麻酔が少し効いてるみたい。僕はゆり先生に断わって再び眠る事にした。

 目がさめたらもう夕方。ゆり先生の運んでくれたおかゆを食べた後、ちょっと動き回ろうとしてベッドから出ると、あの股間のゼリーの感覚が何だかおかしくて、僕はちょっとショーツを脱いでみた。
「あ、ちょっと堅くなってるみたい」
 指で触ると、その弾力は人間の肉の感触に似て、なんだか少し変。
「ちょっとだけなら…」
 僕は男性器を通している穴の部分をちょっとめくって見る。以外にすぐ外れ、そのゼリーの貼り付いていた所の下は赤いぶつぶつがぎっしり出来ていた。
「わあ、なんだろ。きもちわるい…」
 再び僕は元通りに貼り付けると、術後検査を受けに地下室へ行く。

 翌日、僕が目を覚ますと、あのゼリーの貼り付いてる部分がちょっと痛む。昨日と同じ様にそれを確認する為に、ゼリーをちょっとめくって見た。
「あ、いたた…」
 昨日と違い、それは僕の皮膚にしっかりくっついていて、何とか剥がせる様だった。その下の皮膚はもう真っ赤になってて、一部かすかに出血しているみたいだった。なんだかとっても気味が悪くなってきた。
「今日の夜までか…もし剥がさなかったらどうなるんだろ…」
 その日も術後の検査は夕方まで続く。血をとられたり、薬品とか飲まされたり。心電図とられたり。解放されたのは夜の8時だった。もうくたくた。でもやっぱり股間に貼り付いてるあのゼリーみたいなのが気になった。
「あと、数時間なんだよね。本当にどうなるのかなあ…」
 スカートにTシャツ姿でそのままベッドにごろんと寝転がり、そして意識がだんだん薄れて行く。
 深夜2時、その細胞は動き出した。ガン細胞の持つ血管誘引のシステムを利用し、瞬く間に血管と神経を物体一面に血管を張り巡らせた。濃い黄色になっていたそのゼリーは瞬く間に真っ赤に染まり、それと同時にその下の皮膚の細胞は全て溶け、僕の体とその部分は完全に結合した。そして僕の皮膚と同じ性質の物がその物体を覆っていく。元男性器だったその突起物には、その物室から伸びる触手みたいな細胞が網の目のように絡まり、何か別の形に作り変える準備を始めた。

「あ、も、もう朝じゃん!!」
 翌朝、時間の経過に驚いた僕は、急いでスカートをたくしあげ、ショーツを脱ぎそのゼリーを確かめる。そして僕の目に映る、グロテスクに血を吸って真っ赤にそまり、ぷよぷよになったその物質。
「キャアアアアアアアア!!!!!」
 その声に下からゆり先生が階段を上がって行く音が聞こえた。
「ゆっこ!ゆっこ!どうしたの!?」
 下半身裸のまま、僕はベソをかきながら必死でそのゼリーを引き剥がそうとする。でも、もうそれは自分の体にしっかりと食い込んでいる様にはがれなかった。
「先生!とれない!とれないの!」
 泣きながらゆり先生に訴えかける中、検査とレポート作りでここに残っていた美咲先生も上がってくる。
「ゆり先生、美咲先生!やだあ!取って!取って!!」
 二人の先生は僕の股間を凝視してちょっと触って見たりもした。
「成功してる…」
 二人顔を見合わせてぽつんと喋った言葉に、僕の涙はすっと止まった。

「2,3日後に多分ライ先生とかの診察が有ると思うから、ね、体大事にしててね。風邪ひかないでね」  
簡単な診察の後、ゆり先生と美咲先生はそういい残した後、大急ぎで僕の部屋から出て行った。エアコンの軽音しかしない部屋の中で、暫く呆然としている僕。でもだんだん胸の底から何か湧き上がっていく。いつもなら大きく体を震わせて「やったーっ」て叫ぶ所なんだけど、何故か両膝をしっかり合わせ、手を胸の前で何か抱きかかえる様にして、何か大切なものを抱きしめる様な仕草を無意識にやってしまう。
「よかった・・・」
 小声で呟く様に言った後、今度は体の中で何かが踊り始めた。ベッドから飛び跳ねるかの様に飛び起きた僕は、それにつられる様に体を回すと、それにつられて僕の履いている長めのスカートの裾がひらひらと舞う。そして
「やったーーーーーーーー!」
 大きく万歳する様な格好で喜びの声を上げる僕だった。
(あ、着替えなきゃ・・・)
 そのままTシャツとスカートを脱ぎ、ブラに手をかけようとした時、昨日たくさん汗かいたからだろうか、手に持つTシャツとブラから汗の匂いがした。
(男の子の時の汗って、どんな匂いだったっけ)
 もうかなり前から、女の子の匂いになってしまった僕には、昔の男の子の匂いが懐かしい気がする。ふと横を見ると下着姿の僕が姿見に映っていた。
「あれ・・・」
 その姿に、ちょっといつもと違う雰囲気を感じた僕。
(え?前より色白になってる・・・)
 ブラとショーツだけの僕の姿は、腰のくびれとかは相変わらず殆ど目立たないけど、明らかに1週間前より色白になっていた。そればかりか、パットを付けていないにも関わらず、ショーツに包まれた僕の下半身は、男性自信の膨らみが殆ど目立たなくなっていて、おなかの膨らみとか、股間のラインがじわじわと普通の女の子のになりつつあった。しかも気づかないうちに産毛さえも抜け落ちた僕の太ももにはたっぷりと脂肪が付き、艶かしい女のラインを作り始めていた。そして、
(あれ・・・)
 僕の顔からは少年ぽい面影は抜け、まつ毛が増え、唇が更に膨らみ、化粧もしていないのに、白くなった顔の頬には薄いピンクがかかっている。
少年から美少年、そして少女に変身していった僕は、今度はいよいよ大人びた女性への変身が始まっていた。
「あっ・・・つっ」
 僕は再びお腹に少しじわっとした痛みを覚える。でも僕には分かっていた。それは具合が悪いんではなく、移植された子宮が僕の年相応に発育しようと急激に成長しているせいだった。
 もう2度と男のコには戻れなくなった僕。嬉しい様な切ない様な、不思議な感覚に陥った僕は、窓に駆け寄って下着姿のまま窓を開けると、肌寒い空気に僕の裸を晒した。
  木々の向こうに見える伊豆の海。鉛色から少しずつ春の色へ変わっていきつつあるその海の色を眺めつつ、少し冷たい空気の中、照らす太陽の光が暖かい・・・。
「僕、とうとう女の子にされたんだ・・・」
そんな不思議な感触を楽み、独り言を言いつつ、ぼーっと海を眺めていた。と、突然、
「ゆっこ!風邪ひかないでって言ったのに!なんでそういう事!」
 突然ゆり先生の声が聞こえたかと思うと、たちまち先生は窓を閉め、傍らに有ったピンクの大きなバスタオルを僕にかけてくれる。
「もう!今大事な体なんだから!本当は絶対安静なのに・・・」
「ゆり先生・・・」
 怒った様に話すゆり先生の腰を、僕はしっかりと抱きしめ、無意識のうちに胸にほお擦り。
「ち、ちょっと、ゆっこちゃん・・・」
 ゆり先生が驚いて、そのまま2,3歩あとずさり。ゆり先生からはとてもいい香りの香水の香り、そしてきゅっとくびれたウエストとお腹は、僕のそれよりもまだ遥かに柔らかく、そしてほお擦りした胸は大きく、大人の香りがした。
「お姉ちゃん、ゆりお姉ちゃん・・・、ありがとね・・・」
 ちょっとびっくりしてたけど、たちまち優しい顔で、ゆり先生は僕を軽く抱きしめてくれた。
「早く何かきてらっしゃい」
 まるで母親が娘に言う様に、ゆり先生が僕に指図。僕は姿見の鏡の横に置いてあったピンク地に白でファッションモデルみたいな女の子の絵の書いてあるTシャツを頭から被る。その時、ドアのノックする音と共に美咲先生が入ってきた。
「ねえゆり、ライ先生3月29日だってさ。それでさ・・・」
 部屋に美咲先生が入ってきた時、僕はもう美咲先生に向かって歩いていた。
「え?え?何よ、ゆっこちゃん?」
 僕はゆり先生にした様に、美咲先生に抱きつき、顔を胸にうずめた。
「わあっ!こらっ!」
 はずみで美咲先生も数歩後ずさりしたが、そこにはベッドがあり、先生は僕に抱きつかれたままベッドに倒れこむ。でも、僕これ計算済みだったんだ。
「あゆみ姉さん、ほんとに、ありがとね・・・」
 僕は倒れたまま、美咲先生の胸に顔をうずめてほお擦りする。ゆり先生と同じくらい柔らかな体だけど、でもゆり先生とは違う果物の様な香りがする。
「ちょっと、やめて!くすぐったいから、ちょっと!ゆっこ!」
 ケタケタ笑いながら美咲先生が抵抗。
「ちょっと、ゆっこちゃん!あたしはちゃんで、ミサにはさん付けなの?しかも名前で呼んでるし・・・」
 その様子を笑って見ていたゆり先生がいじわるそうに言う。
「はい、もう終わり。ゆっこちゃん、その姿なかなかセクシーで可愛いわよ。はい、お返しね」
 そういうと美咲先生は僕の頬に軽くキス。驚いた僕はベッドから立ち上がった後、その事で真っ赤になった。更に、姿見に映っていたのは、Tシャツとショーツ姿の女の子の僕。
(あ・・・なんか、ちょっとエッチで可愛い・・・)
 恥ずかしかったけど、美咲先生にセクシーで可愛いと言われたのがだんだん嬉しくなり、僕は鏡の前で、男の子の時に見たアイドル写真集を思い出しでいくつかポーズ取ってみる。白に薄い紫の花柄のショーツにピンクのTシャツ。そこから伸びる白くてやわらかく健康そうな手足。パンツの前というか、お腹が膨らんだのでもう奥の方に移動しちゃったんだけど、男性自信のふくらみは、もう言われるまで誰も気づかないかもしれない。いつしかマスカラさえ付けていないのに、円らで潤んだ様になり、女らしくなった僕の目は、鏡の中で優しい笑みを浮かべていた。
「そうそう、ゆっこちゃんが変な事するから、忘れる所だったじゃん!」
 僕がスカートを履き始めた頃、美咲先生がゆり先生と何やら話し始めた。
「4月から、4人受け入れるけど、部屋の準備とかを皆で手分けしてやんないといけないからさ。ライ先生達が帰った後、時間あけといてね。それから、陽子と真琴だけど、ゆりの言う様に、陽子はまいちゃんの行ってる学校に行かせるわ。もう女子高校生としての生活もある程度経験してるみたいだし。それから真琴だけど・・・」
 あ、そうだった。久保田さん達4人が4月から入所するんだった。そういえば、この前の終業式、担任の先生が変な顔してたっけ。だって1年で5人ものクラスメートが転校するんだもん。その5人とも美咲先生の所へ来る為なんだけどね。久保田さんはいいとして、中村クン朝霧クン佐野クンはちゃんとやっていけるんだろか、とっても心配。
 美咲先生が真琴ちゃんの話をしようとした時、またドアがノックされ、まいちゃんと陽子が顔を出した。
「ゆっこ!もういいの?」
「絶対安静じゃなかったの?」
 とその後ろから、両手にお盆を持った真琴ちゃんが現れた。と、その衣装を見た時、僕はどきっとする。緑の格子柄の膝上スカートに、草色の上着と濃い赤のボウ。それは、ともこちゃんの行っている高校の制服だった。
「真琴!どうしたのその制服?ともこから借りたの?」
 ちょっとうつむき加減で恥ずかしそうにして何も言わないで、僕のベッドの上のテーブルに朝ご飯を置く真琴ちゃん。その代わり、美咲先生が説明してくれる。
「真琴はね、ともこと一緒に河合先生の所で暮らす事になったの。真琴は女の子の世界を殆ど知らずにいきなり女の子になっちゃったからね。社会勉強に河合さんの店でアルバイトする事にもなったんだ」
「えー!良かったじゃん真琴」
「先週届いたんだ。ゆっこに見せたくて、ここまで持ってきちゃった」
 僕の言葉に真琴ちゃんはすっかり照れて、部屋の中で嬉しさを隠しきれず、制服姿で軽く踊る様にしている。スカートからチラチラとブルーのパンツが見え隠れした。


真琴(誠)ちゃん。初セーラ服/月夜眠
真琴(誠)ちゃん。初セーラ服 / 月夜眠


「まいさん、一緒だよね。真琴と別れるのは辛いけど、仲良くしてね」
「うん、ゆっこからいろいろ陽子ちゃんの事聞いてたし。仲良くしようね」
 なんか2人で肩とか叩き合ってるし。
「あ、それとゆっこちゃん」
 思い出した様にゆり先生が僕に話す。
「当分、ゆっこちゃんの食事は魚と野菜中心になるから。あとコラーゲン含む物をいくつか。他に乳製品もかなり食べてもらうから」
「え?なんで?」
 魚はあんまり好きじゃないんだけどなあ・・・
「もう、あんた、子宮と骨盤大きくするんでしょ?皮下脂肪もそれなりに溜めなきゃいけないし。骨盤を成長させる為にはコラーゲンとカルシウムは絶対毎日必要なのよ」
 ゆり先生の後で美咲先生がちょっと怒った様に言う。真琴ちゃんが持ってきた朝ご飯には、ちゃんと干物が1匹お皿に載っていた。
「でも、ゆっこが成功して良かった。ともこにも教えてあげなきゃ。ねーえー、あたしはいつ?」
 「そうね、ともことまいは、ゴールデンウィーク頃に移植じゃないかな」
「えーっ本当!?絶対だよ」
 ゆり先生の答えに、まいちゃんが目を輝かせる。
「じゃ、ゆっこ、ゆっくり休んでね」
「何か有ったら電話で呼んでね」
 皆口々にそう言って、部屋から出て行くのを、僕は手を振って見送る僕。さすがにまだ手術の時の疲れと、急激な体の変化の疲れが体に残っているのか、朝ごはん食べたら急に眠くなり、再び僕は深い眠りについた。
  
 朝早くからライ先生が、他の外国人のお医者さん数名と伊豆の別荘(美咲研究所)を訪れた時、それはもう大変な騒ぎだった。幸いだったのは、多分人類史上初めて、男性への女性生殖器移植に無事成功したライ先生自身が、当然ながらすごく上機嫌で、それに2ヶ月後の2人、そして次の年の対象となる陽子ちゃんや真琴ちゃんの元気な様子を見てゆり先生によると、始めて冗談めいた言葉を言ってたらしい。
 でも、僕にとっては大迷惑だった。一日中検査で体のあちこちを触られたり、MRIとかにかけられたり、血を取られたり。特に、あそこの触診!!看護婦さんはいいけど、ライ先生始め、結城先生とか何人もの先生が僕の股間を何度も何度も触りながら観るし、写真とか一杯撮られるし!特に結城先生はもう僕の頭の中では「すけべおやじ」という烙印を押してたから、診察で一瞬目が合った時ちょっと睨んだりしちゃった。
「ゆっこちゃん、お願い、不機嫌にならないで。終わったら好きな服1着買ってあげるから」
 ゆり先生が皆の目を盗んで僕に耳打ちする。
「えー、1着だけ?3着欲しいな。あと何か美味しいものご馳走してよ。皮下脂肪増やしたり、子宮大きくしないとだめなんでしょ?」
「もうっこの子は!」
 一瞬怒ったゆり先生。
「わかったわよ!そうしてあげるから、今日は一日いい子にしてて!お願いだから!」
 ようやく僕の不機嫌は治る。でも、取引の内容とか、頼み事とか、本当に僕女っぽくなってきた。後で思うとちょっと噴出してしまう。

 その日の夜、ゆり先生美咲先生他、まいちゃん陽子ちゃん、そして真琴。全員で先生達の打ち上げパーティの準備と接待役をしている時、僕はもう部屋でくたくたになってぐったり。とその時、部屋を激しくノックする音が聞こえた。
「もう、誰?あたし今ぐったりしてるんだから。絶対安静のはずでしょ?」
 怒った様にそれに答えると、
「ゆっこ!あたし、真琴と陽子ちゃんだよ!」
 ドアが開き、多分卵巣移植成功時のパーティで貰ったと思われるピンクのシャネルスーツの真琴ちゃんと、多分料理を手伝ってたのか、エプロン姿の陽子ちゃんが入って来る。
「ゆっこ、これパーティ料理少し持ってきてあげたから、元気出してね」
 陽子ちゃんの持つ盆にはいくつかのオードブルの盛られた皿と、ジュースの入ったグラス。
「わあ、陽子ありがとう」
 僕の返事に坂下千○子似のリスみたいな目が笑う。
「ねえ!ゆっこ。ゆっこの緑のドレスどこ?」
 声のする方へ目を向けると、なんといつの間にかスーツを脱ぎ、ブラとショーツとストッキングだけの真琴が僕の衣装棚の方へ向かって行く。寄せて上げるブラの中央には、しっかりとした谷間が有った。
「ゆっこの緑のドレスってさ、東京じゃなくここに有るってゆり先生に・・・」
 特にためらいも無く、僕の衣装棚を開こうとする真琴。
「ちょっと真琴!いきなり部屋に入ってきてあたしの服出せって、それってさあ!」
 女っぽくなった真琴の下着姿がちょっと可愛かったけど、不機嫌になった僕はちょっと怒った様に叫ぶ。
「いいの、お願い。今日下で真琴大活躍だったんだからさ。外国の先生相手になれない英語で一人で一生懸命喋ってホステス役勤めてさ。衣装直しってことで貸してあげて。ゆり先生からもお願いするって」
「そう、そうなんだ・・・」
 あの地味で目立たなかった渡辺クンが・・・。お目当てのドレスを探し当て、今それに包み込まれていこうとする真琴ちゃんの後ろ姿に、僕はほんの1年前まだ男の子だった真琴ちゃんのとぼとぼ歩く後姿を重ね合わせてみる。
(真琴、あんた女の子になってよかったよね)
「あたしもここで着替えよっと。この部屋暖かいし」
 いつの間に持ってきたのか、紙袋から出した水色のスリップドレスを手にし、真琴ちゃんの横でエプロンと部屋着を脱ぎ始める。
「ゆっこ、ごめん急いでるから、背中のホックとファスナーとリボンお願い」
 そういうと真琴ちゃんはつかつかと僕の寝ているベッドの横に来てくるんと背中を向ける。
「真琴・・・あんたねー」
「いいじゃん、元クラスメートなんだしさー」
 仕方なく僕は、僕のドレスを着た彼女?の背中のホックを留める。その時手に当たる、すべすべでぷるぷるとした柔らかい背中の肉。甘い女の子の匂いが僕の鼻をくすぐった。
(こんなに女っぽくなって!)
 ファスナーを上げるふりをして、僕は真琴ちゃんの背中を手の甲ですっと撫でる。
「きゃん!!!!!」
 一瞬飛び跳ねた後、彼女?はベッド横から1m程飛びのいた。
「ゆっこーーー!何すんだよ!僕背中すごく弱くなってんだからさ!」
「お返しよ!あたしはこれでもあんたの先輩だぞーっ」
 一瞬男言葉に戻った真琴ちゃんは、また性懲りも無く、僕の方へ背中を向けた。ファスナーを上げ、腰のリボンを大きく可愛く結んであげると、再び真琴ちゃんは上機嫌になり、姿見の所で髪を整え始める。
「ねえ、まいちやんは?」
 ふと気になる僕。
「あ、まいさんはずっと台所で料理作ってる。あまり初対面の人と話すの好きじゃないみたい」
僕に背中を向け、ブラをストラップレスに付け替えながら答える陽子ちゃんの大きくなった胸がちらちらする。真琴ちゃんより、ちょっと女っぽいシルエットの陽子ちゃんが、スリップドレスを頭から被ってる。
「面白いわよ。ゆり先生と美咲先生が、なんとか中村クン達4人分の費用もらおうと必死でライ先生おだててるし、真琴は1人で他の先生達の相手してるの。あたしはこれから結城先生と今日来てくれた看護婦さんの応対で大忙しよ」
「陽子ごめんね。あたし術後なのと、今日の事でくたくたなの」
「いいって。しっかり寝てなって。ほら真琴行くよ!」
 姿見の前の真琴をお尻をぶつけてどけて、髪を直す陽子ちゃん。そしてスリップドレスと緑のドレスの裾を翻し、今や両性体となった2人の元男の子が部屋を出て行った。

 

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