メタモルフォーゼ

(25) 「陽子・真琴改造手術?」

冬にしては少し暖かい1月の終りの日、陽子ちゃんが卒業試験をパスした事を僕は学校の保険室でゆり先生から聞いた。その週末、
「陽子!おつかれさまー!」
 難しい課題をクリアし続けたせいだろうか、以前よりかなり痩せた様子の陽子ちゃんが、入院用の大きな荷物バックを3つも下げて早乙女クリニックに入って来た。純の部屋に案内して落ち付かせて紅茶を入れてあげながらも、話題は辛かった卒業試験の事ばっかり。やはり和服の着付けが最後になったみたいだけど、過去に美容院で着付けの経験が有った陽子ちゃんには思った程難しくなかったみたい。
「あたしもやっとこれで本当の女の子に仲間入り出来るのね」
「そうだよ陽子、おめでとーっ」
「あ、ねえゆっこ。最後の試験が有るって聞いたけど、何?」
(ウップ…)
 陽子ちゃんの言葉に一瞬紅茶がのどの変な所に入った。
(絶対言っちゃいけないっていわれてたっけ)
「あ…ねえねえ、陽子手術いつなの?」
「え?えへへーぇ、あさってぇー」
 陽子ちゃんが傍らのベッドに置いてあった枕を抱きしめ、ベッドに転がって嬉しさを一杯に顔に表した。
「えー、平日じゃん。あたし陽子の手術立ち会いたかったのにさー」
 相変わらず陽子ちゃんは枕を抱きしめてにへらーっとしている。
「真琴はいつぐらいなの?」
「え?真琴?うん、予定だと来週位に課題終ってこっち来るんじゃないかなー。あと課題は3つ位残ってたはずよ」
 僕の枕をもてあそびながら話す陽子ちゃん。
「ねえ、それよか最後の試験て何よ?教えてよー!あさって手術なんだから明日位に有るんでしょ?」
 せっかく話しをはぐらかしたと思ったのにーっ。
「あっあの陽子、あたし検査あるから、下行くね。あははっ」
「もう!ゆっこ!教えてくれたっていいじゃん!」
 あわててドアから出て行く僕。後ろ手に閉めるドアに枕が当たる音がした。
「ゆっこ待ってよ!」
 階段を降りて行く僕を追って来る陽子ちゃん。ああんもう勘弁してよぉ。僕がゆり先生に助けを求めようと地下室への階段を下り始めたその時、
「バカヤロウ!キヲツケロ!!」
(えっ!いつのまに!?)  
 思わずはちあわせしそうになったのは、いつのまにかここに到着していた、あの骸骨みたいなライ先生だった。
「あ、あの、ライ先生、こんにちは…」
 とその時、
「ゆっこ!なんで逃げるのよ!」
 地下室からの階段を上がりきる所にいたライ先生と一瞬目が合う陽子ちゃん。
「キャーーーーーー!」
 陽子ちゃんの悲鳴が早乙女クリニックに響いた。

「…そりゃ私だってライ先生と初めて合った時びっくりしたけど…」
「あなたの手術の為にわざわざ来てくれたライ先生に、キャーーはないでしょ…」
 ゆり先生の部屋で僕とゆり先生を前にして、がっくりと落ち込んでいる陽子ちゃん。
「だって、暗がりでさー、わかんなかったんだもん…ほんとに恐かったんだよーっ」
 陽子ちゃんの弁明にふーっと溜息をつくゆり先生。
「ほら、ライ先生すっかりふくれちゃって部屋に閉じこもっちゃったし。あさって手術してくれるかわかんないよ、もう…」
 僕も今後どうなるのかちょっと不安だったけど、とりあえず最後の試験の事で陽子ちゃんからあれこれ聞かれる恐れがなくなったので、内心ほっとしていた。ちょっと沈黙が続いたその時、
「ゆり?いるの?入るよ」
 部屋のドアが開いたそこには、美咲先生が大きなバッグを持って立っていた。
「あ、美咲先生、こんばんは」
「ミサ、お疲れ様」
 部屋に入るなり、何か不安げに中をぐるっと見渡す美咲先生。何やら部屋に漂う何か沈んだ空気を察した様子だった。
「何よこのどんよりした空気は。陽子に何か有ったの?」
「ねえミサ、ライ先生に挨拶した?」
「さっきしてきたわよ。相変わらず学術書読んでたわ」
 ゆり先生は少しほっとした様子。
「良かった、もう忘れてるみたい。ねえ陽子ちゃん、ライ先生にこのお酒と氷とグラス持って行ってあげて」
 というと、ゆり先生は傍らの戸棚からバランタイン30年を取り出し陽子ちゃんに渡す。
「何?ゆり、また何か先生怒らす様な事したの?」
「いーの、もう」
 意地悪そうに言う美咲先生の言葉を打ち消すゆり先生。
「陽子ちゃん、持っていったら一言だけ謝っておきなさい。あの様子じゃもう怒ってないと思う。ライ先生の唯一の楽しみなのよ。美味しいお酒飲みながら学術書読むのがねー。本当私には考えられないけどさ」
 陽子ちゃんが部屋を出て行った後、ゆり先生と美咲先生が何かひそひそ話をし始めた。
「ねえミサ、ライ先生、純の事は何か言ってた?」
「ううん、教えてくれないのよ。元気な事は確かなんだけど…」
 純と聞いて、僕はいてもたってもいられなかった。
「美咲先生!純の事、今何か判ってるの?」
 先生2人は僕の顔を見た後、ちょっと顔を曇らせた。
「確かなのは、今ライ先生の指導下にいる事。でも居場所がどこかわからないの。元気なのは確かなんだけど…」
「ひょっとしたら精神的に完全に落ち付くまで入院してるのかも知れない。だって自殺までしようとしたんだから…」
 あの事件からもう数ヵ月が立とうとしてる。お正月に貰った年賀状以外、今純を感じるものは無い。とても寂しいんだけど、でも元気だよって聞いて少し安心した。きっと何か事情が有るに違いないんだ。純ちゃんだって香港で寂しいはずだよね。僕も純ちゃんが元気で戻ってくるまで寂しさを我慢しようと思う。

 今日はいよいよ陽子ちゃんの手術の日。昨日は僕の時みたいに、たくさんの人が昨日早乙女クリニックに出入りし、今朝の地下室はとっても騒がしい。でも今日学校休んで陽子ちゃんに付き添いたいという願いはとうとうゆり先生には聞き入れられなかった。そんな中どうやって抜け出してきたんだろう、
「ねえ!、ゆっこ!お願いだから、最後のテスト教えてよ!」
 朝、僕がでかけようとするその時、またその事を思い出して玄関先まで迫って来る陽子ちゃんに、僕は今日はやっぱり付きそわなかった方がよかったかな?なんて思いながら足早に学校へ向った。
 1時限目、2時限目…時間がどんどん過ぎていくけど、僕は陽子ちゃんの手術の事が気になって授業なんて全然頭に入らない。とうとう昼休みに僕は学校を早退して早乙女クリニックに向かった。
 本日休診の札のかかる早乙女クリニックで、2人の先生が陽子ちゃんの手術を行っている中で河合さんが、集まった人々の雑用係として忙しく動き回っていた。
「あら、ゆっこちゃん!?学校は?」
「あ、河合さん、あの、ちょっと早退してきちゃった」
「もう、しかたないわねぇ…」
 そして、地下室へ行こうとする僕は河合さんに腕でストップのサインを出されてしまう。
「だめ、今は関係者の方以外は邪魔になるから行っちゃだめなのよ」
「えー…」
 がっかりした様子の僕の肩をポンと叩く河合さん。
「ゆっこちやんが学校サボって陽子ちゃんの見舞いに来たって言っといてあげるわ」
「えー、ゆり先生に変に言わないでよ」
 僕は自分の部屋に戻ると、制服のままベッドにポンと飛び乗ってずっと天井を見つめていた。気疲れが溜まっていたのか、僕の意識はふと途切れた。

 僕が眠りから覚めた時は、もう窓の外はもう暗くなっていた。
「えー、もうこんな時間!?」
 僕は飛び起きて制服のまま階段を駆けおりて、河合さんのいないのを確認してから地下室へおりていく。そこの資料室みたいな所では、外国の人に混じって、ゆり先生と美咲先生が英語で談笑していた。どうやら手術はうまくいったみたい。程無くその資料室の窓ごしに僕の姿を発見したゆり先生が部屋から出て来た。
「ゆっこ!学校サボったでしょ」
「だって、陽子の事気がかりだったし…」
 ゆり先生は僕を手招きして、奥の入院の為の小部屋に入っていく。そしてそこには、
「あ、陽子…ですよね」
 ベッドに寝かされている陽子ちゃんの顔を包帯で覆われ、点滴の針が腕に刺さっている。カルテみたいな物を持って立っている看護婦さんの横では、椅子に座って何か資料みたいな物に見入っている結城先生がいた。
「あ、結城先生、こんばんは」
「ああ…」
 ちらっと僕の方を見て、また資料を読みふける結城先生。
「うまくいったんですよね?」
「ええ、成功よ。陽子ちゃんもこれで本当に女の子の世界に入ったのよね。あ、だめだめ、明日にならないと目は覚まさないわよ。それに今絶対安静だし」
 陽子ちゃんの所へ行こうとする僕をゆり先生が制した。僕はちょっと最後のあの試験の時、陽子ちゃんがどういう雰囲気だったか、とっても知りたかった。
「ねえ、ゆり先生。陽子のあの試験どうだった?」
「ああ、あれ?」
 ゆり先生は少し笑って手を口に当てる。
「大変だったわよ。ものすごく抵抗したの。もう嫌がって嫌がって。最後は観念したみたいだったけどね」
「えー、陽子なんてもう心の底まで女の子だって思ってたのに。それじゃ真琴の時なんてもっと大変じゃないの?」
「さあ、どうかしらね…」
 僕の言葉に、ゆり先生がまた少し吹き出して笑う。
「全く、誰が考えたんかね?あんなくだらん事を最後の試験だなんてよ」
 資料を読みつつ結城先生が独り言みたいに呟き、白衣のポケットから煙草を取り出して火を付け様とした。
「早乙女君、灰皿…」
「結城先生!ここは禁煙です。絶対安静の患者が寝てるのに、もうなんて無神経な…」
「あ、ああ、そうだったな。ちょっと一服してこよう」
  なんか疲れ気味に資料を傍らのサイドテーブルへ置くと、結城先生がポケットに手を入れながら外へ出て行った。
「手術は成功したけど、皆とっても疲れてるから。でもミサなんてこれからすぐ伊豆へ戻るのよ。真琴の様子見にね。ライ先生は結城先生の病院へ仮眠取りに行ったし。私もちょっと寝ないと」
 ゆり先生が大きなあくびをする。
「ねえ、真琴はいつ?」
「真琴、ああ、あの子結構頑張ってるみたい。今日ミサが行ったのは、あの子の最後の課題の着物の着付けと女の子の丸文字をチェックしにいったみたいよ。皆のスケジュールも有るし、今度の日曜日位じゃないの?」
「えー、じゃ僕今度は立ち会えるよね?」
「別に立ち合ってもいいけど、邪魔は絶対しないでよ。ごめん、ちょっとあたしも休むわ」
 ゆり先生が病室から出ようとした時、
「ゆり?あ、これから戻るから」
 ここに来た時に持ってた荷物を手に、美咲先生がドアを明けてゆり先生に挨拶する。
「大丈夫?帰れるの?」
「あ、うん。早瀬先生に送ってもらうから。じゃ土曜日真琴迎えに来てよ」
「本当にそれまでに課題クリア出来るの?」
「多分大丈夫じゃない?じゃあね」
 ドアを閉めて足早に立ち去る美咲先生。あの恐い美咲先生に大丈夫って言われてるんだ。真琴ちゃんかなり頑張っているみたい。僕とゆり先生も、陽子ちゃんに付き添いの看護婦さんに挨拶して部屋を後にした。

 真琴ちゃんの卒業試験終了を金曜日の夜確認して、土曜日の朝、僕はゆり先生の車で伊豆へ真琴ちゃんを迎えに行った。別荘の玄関ではまいちゃんが待っていてくれる。
「美咲先生いる?真琴は?」
「あ、部屋で準備して待っているはずよ」
 まいちゃんと合流して僕達は真琴ちゃんの部屋へ急いだ。
「真琴?いる?」
 返事が無いので、そっと部屋を開けると、真琴ちやんはベッドの上で服のまま膝を抱え込む様な可愛いポーズで寝ていた。傍らにはちゃんと荷物を詰めたらしい鞄が一つ置いてあり、部屋の脇には、最終テストで使われた薄いピンクの振袖とか襦袢類が一まとめにして着物掛けにかかっている。
「なんでこの子だけこんなに早く可愛く女っぽくなったんだろね。陽子ちゃんの場合はもともと女の子だったから、あまり変わったっていう気がしないんだけど」
 ゆり先生のちょっと羨ましげな視線と声。
「僕も、真琴が10ヶ月前には目立たないクラスメートの男の子だったなんて、もう信じられないよ」
 僕も同感だった。チェックのミニスカートに黒のストッキング、白のセータ姿で寝ている真琴ちゃんの顔は、以前の面影は有るけど、睫毛が伸び、唇は愛くるしくふくらみ、ぷよぷよとふっくらしたほおにはピンク色がかっていた。その姿はますます安倍な○みに似てきたみたい。
「あ、あたしは毎日顔あわしてるから、そんなに変わったとはおもえないんだけど。でも確かにここだけはすごく変わったよね」
 まいちゃんはそういうと、真琴の胸に出来た大きな膨らみを指でつんと触る。
「…あ、おはようございます…寝てた、あはは…」
 まいちゃんの胸攻撃と人の気配で、ごそごそと起きだしながらも、膝を揃えてベッドにきちんと座りなおす様子は、何かあどけないお嬢様といった雰囲気まであった。
「じゃ真琴、行くよ」
「うん…」
 なんでもないって素振りしてるけど、明らかに真琴ちゃんの足は緊張してるからだろうか、小刻みに震えていた。

 途中、湘南海岸に有るの洞窟の真上の公園で昼休みにした。そこはかって僕が伊豆の別荘に連れていかれる時、初めて女の子の姿でトイレに入って、女子大生2人に騒がれそうになった所。
「ああ、すっごく懐かしい…」
 あの時は春で少し暖かったけど、今は真冬。海の色も寒そうな鉛色だけど、でも景色は全然変わってない。変わったのは僕だけだよね。
「前来た時、僕確かに男の子だったよね…」
 僕の体の筋肉はかなり溶けて柔らかな脂肪になってるし、キャミソールだけだった僕の胸には、今はBカップのブラがしっかりついてるし、あの時びくびくして入れなかった女子トイレだって、今となっては、そっちに入らないといけなくなっちゃったんだもん。立ってトイレなんて、体形と男性自身が変わっちゃった今はもう絶対出来ない。
「ゆっこ、もう行くよ。暖かくなったらまたゆっくり来ようよ」
 どこからか、江ノ電の警笛の音が聞こえる。一人昔を思い出している僕は、ゆり先生に促され、足早に車へ向った。

 その夜、顔に包帯を巻いた陽子ちゃんと、ともこちゃんを交えて5人で久しぶりに僕の部屋で賑やかな一時を過ごした。といっても陽子ちゃんは顔に包帯してて、目と口だけが出ている状態であまり喋れなかったし、真琴ちゃんは陽子ちゃんと違って手術前に行われる最後の試験の事を教えてくれってねだる事をしなかった。陽子ちゃんも口止めされているのだろう、その事は絶対話さなかった。
 さすがにお腹に女の子の機能の一部を入れられた陽子ちゃんは、疲れ易くなってるのか、早めに自分の部屋に戻って行った。その後、一人お菓子とか食べながらテレビを観ている真琴ちゃん。あの試験の事について何も聞かれないし、話さない状況に、逆に僕はなんだかそわそわし始める。
「ね、ねえ。明日手術前にさ、最後の試験が有るんだけどさ…」
「え、最後の試験?」
「う、うん。あのさ、何があっても驚かないでね」
「何って?」
「あ、あの…」
 かわるがわる僕達が話す事を、なんかまるで聞いてないみたいな表情の真琴ちやん。
「それでだめだったら、手術中止になるんだ?」
「う、うん。そうなの。私達は全員、陽子もクリアしたんだけど…」
「じゃあ、それって今まで僕が受けてきた治療と同レベルの事なんだ」
 相変らず、お菓子をボリボリと食べながら話す真琴ちゃん。
「じゃ、すぐに終るけどすっごくきわどい事なんじやない?だって明日朝からの手術前に終らせるんでしょ?」
 あ、やばい。このままだと真琴の誘導尋問にひっかかってしまう。3人はそこで話を辞めた。
「ほらテレビでもバラエティのクイズ番組に有るじやん。10点の問題が続いて、最後の問題だけ1000点とかさ。そんな感じじゃない?」
 胸に二つの膨らみが出来て、全身すっかり丸みを帯びたあの元渡辺クンが、なんでこんなに頭の回る子になったんだろ。その夜はそれでお開きに。でも本当に明日、真琴ちゃん大丈夫なのかなあ。

「ゆっこ!起きてゆっこ!真琴ちゃんがあの部屋の連れて行かれたの!」
 ともこちゃんとまいちやんに揺さぶられて僕ははっと目を覚ます。あ、もうこんな時間!僕はブルーのパジャマの上からカーデイガンを羽織って、地下室へ急いだ。あの部屋の横の控え室に入ると、丁度ゆり先生が真琴ちゃんに説明している最中だった。
「…時間が来たら、そこから精巣萎縮と麻酔の薬品が出て、それを全部飲んで欲しいの。それでね真琴、…」
 暗がりの中でゆり先生の説明が続く。そしてその部屋の中の真琴ちゃんは、立ったままじっとベッドの上に横たえられた人形をずっと凝視していた。
「真琴、ショックなんじゃない?あんなことさせられるなんて思ってもみなかったんじゃないかな?」
 僕に小声で話すまいちゃん。
「でもさ、覚悟決めてあれ口に含んだ時、もうこれで本当に男の子には戻れないんだって思った。なんかもやもやも吹っ切れたって感じしたけど」
 僕がまいちゃんに答えたその時、
「それだけ?」
 真琴ちゃんの声が聞こえた。でも、それだけって?
「ねえゆり先生、それだけでいいの?」
「え?ええ、それだけよ…」
 予想だにしなかった展開に、ゆり先生や美咲先生、そして僕達もびっくり。僕なんて真琴ちゃんが先に進めなかった時の励ましの言葉まで考えてたのに。
「僕ね、昨日堀さんの話聞いた時、今日ここでひょっとしたら男の人とエッチしなきゃいけないんじゃないかって」
「え?何ですって!?」
 いきなりマイクのスイッチを切るゆり先生。あ、まずい…
「ゆっこ!あんた何か喋った!?」
「え、いや、何も…」
 すごい顔でにらむゆり先生と美咲先生に、僕とともこちゃん、まいちゃんは圧倒されて何も言えず俯いてた。
「何も言ってないわけないじゃん!真琴のあの言葉聞いた限りだと!」
 美咲先生が軽くビンタするみたいに僕の頭をはたく。あ、でもなんか真琴ちゃんが逃げなくてよかった。
「ゆり先生!美咲先生!」
 突然控え室のスピーカーから真琴ちゃんの声が響いた。慌てて、ゆり先生がマイクのスイッチを入れる。
「なあに、真琴?」
 つかつかと僕達のいる控え室が見える窓の所へ寄って来る真琴ちゃん。ちょっと驚いている僕達に向って真琴ちゃんがふっと微笑み、そして右手を額に当て、敬礼のポーズを取る。呆気にとられる僕達。
「渡辺真琴、16才、あ・た・し今から完全に男の子である事を捨てます!」
 ぐるっと皆をはちきれんばかりの笑顔で見回す真琴ちゃん。そしてあの人形の横たわっているベッドに行くと、その上に飛び乗って、目を瞑り人形自体を愛撫しはじめた。暫くは皆言葉も出なく、女の子へ変わっていこうとする真琴ちゃんの様子をじっと見ていた。
「さっきの表情見た?もうあれは完全な女の子だったよね?」
「なんか女の子のオーラみたいなものまで感じた…」
 暫くしてから僕とともこちゃんが顔を見合せて呟く。そして、ベッドの上の真琴ちゃんはセータとスカート、ストッキングまで脱ぎ、下着のままで更に人形と戯れはじめる。
「ちょっと、真琴!私何もそこまでやれなんて言ってないでしょ?あ、あーあ、咥えちゃった…」
 思わず美咲先生がマイクに向って喋る。当の真琴ちやんは、人形のそれを口に含み、目をとろんとさせ、シックスナインの形になり、そして膨らんだ胸を人形にこすりつけ様としていた。なんか、ちょっとしたAVを観てる用な感じ。
「あーあ、真琴、あんたもこれで女の子になっちゃうのね…」
 ちょっと不思議な美咲先生の言葉をゆれ先生が聞き逃さなかった。
「女の子になっちゃうのねって、どういう意味?」
 ゆり先生の言葉にちょっと肩を落として、美咲先生が溜息をつく。
「あたしね、本当言うと、あの子だけには女の子になって欲しくなかったの」
「えーーー!?なんでー??」
 僕たちが一斉に声を上げる中、
「美咲先生って可愛い男の子好きなんだよね」
 一緒に暮しているまいちゃんがぼそっと呟く。
「あー!、だから僕達の時は厳しくて、真琴ん時は優しかったんだ!」
 僕がちょっと怒った様に言うと、まいちゃんが手を振った。
「違うの。真琴にはとても厳しかったわ。仕事でもあったけど、厳しくすればするほど真琴が…」
「ホルモン療法始めさせて、3ヶ月目位が一番可愛かったかな。でもだんだん自分と同じ体になっていく真琴見ていると、ちょっと複雑な気持だったわ。むろん仕事だからしっかり厳しくしたけどさ。そうすればするほど、あの子は女っぽくなっていくし」
 美咲先生は手を顔に当て、ちょっと言いずらそうにする。
「わかんないでしょ、こんなあたしの気持あんた達にはさ…」
 ううん、なんとなく僕には分かるよ。美咲先生。そんな先生の心を知ってか知らずか、真琴ちゃんがとんでもない事を始める。ちょっと切れたのか美咲先生がマイクに向って怒鳴る。
「こらあ!真琴!誰がブラまで外せって言ったぁ!!」
 その言葉にちらっと僕の方を見る真琴ちゃん。
 「えー、だって気持いいんだもん。こんなたくましい体の人いたらいいなあ…」
 その顔にはもう女のうつろな表情が浮かんでいた。
「ほんと、なんか恐れを知らないティーンエイジの女の子そのものになっちゃってるわ」
 ゆり先生も呆れた様に呟く。
「もう、あのおとなしかった渡辺誠クンはこの世にいなくなっちゃったのね…」
 ありし日の渡辺誠クンの姿をまぶたにうかべつつ、僕もふと独り言。やがて真琴ちゃんの体内には精巣に対する毒液と麻酔薬が送り込まれ、真琴ちゃんはゆっくりと眠る様に静かになっていった。

 陽子ちゃんの術後の検査と処置、そして真琴ちゃんの手術で再び早乙女クリニックに集まった人々の世話係をする為、僕とともこちゃん、まいちゃんは朝から大忙しだった。それによって真琴ちゃんの手術の立ち合いが認められ、見習看護婦の衣装を着せられて地下室に行った時は、もうフェアリールームに真琴ちゃんが寝かせられていた。
「カワイイ、カンゴフサン、マコトチャンノ、ムネヲダシテクダサイ」
 黒人の医師から指示され、開いたカプセルの側へ行き、真琴ちゃんのタンクトップをたくし上げ、そっとブラを外すと、多分僕と同じ大きさ位に膨らんだ可愛いバストが現れた。更にその先生の指示で、バストに透明な薬を塗ってあげてると、真琴ちゃんが目を覚まし始めた。
「あそこが…痛いの」
 精巣が破壊される時かなり痛むので、あの時の麻酔はその為の処置らしいんだけど、まだ真琴ちゃんには痛みが有るらしい。
「真琴、今から胸の整形と神経中枢の基礎的な女性化の治療するみたいだから」
「本当、頭が変になるくらい気持いいからね」
 説明する横でともこちゃんがウインク。やがて数人のお医者さんの手で真琴ちゃんの胸に手術用の機器が降ろされる。
「陽子ちゃんは?」
「今はまだ休んでるけど…」
 横にいた美咲先生が指示を出してくれて、まもなくまだ顔に包帯巻いている陽子ちゃんがきてくれた。
「陽子ちゃん、あたしこれでやっと陽子ちゃんと同じ体になれる」
 真琴の出した手に陽子ちゃんが指をからめた。
「あのさ、でも顔の包帯恐いよ…」
 いきなり真琴を手で軽くぶつ陽子ちゃんだけど、多分包帯の中では笑ってる事だと思う。
「がんばってね。ここから出る時、真琴はもう半分女の子なのよ」
 僕の言葉に、真琴ちゃんが嬉しそうな笑みを浮かべた。

 ライ先生が何台ものモニターのある机に座り、とうとう真琴ちゃんの手術が始まる。僕達は隣の部屋から、窓ごしに見る事になっていた。カプセル内で真琴ちゃんの胸に設置された機器にスイッチが入ると、真琴ちゃんが一瞬びくっと痙攣した様子、そしてそれに続いて、なにやら悲鳴らしい物が聞こえてきた。
「真琴、我慢して、気をしっかり持ってね。痛くはないでしょ?」
 ゆり先生の言葉に少し慣れてきたのか、次第に悲鳴はあえぎ声に変わっていく。僕はなんだかたまらなくなって、そのフェアリールームに飛び込んでいった。部屋にはいるやいなや、
「あーん!やだー!やーーーん!いやーーーーっ!」
 胸を強烈に刺激されている真琴ちゃんが、もう本当始終すごい声を出しながら、カプセルの中で体を震わせている。
「本当すごい声だすわね。陽子の時は色っぽい声でずっと悶えっぱなしだったんだけど。そういえばゆっこちゃんの時も結構騒がしかったわね」
 ゆり先生が意地悪く僕に言う。
「あーーーん、あーーーーん…」
 相変らずカプセルの中でよがり声を上げている真琴ちゃん。とそのうち、
「あーん、先生!先生!」
「え?何?どうしたの?」
 美咲先生がどきっとしてカプセルに駈け寄った。
「ねえ!先生!僕、今どっちなの?男の子なの?女の子なの、あーん、あたし、わかんない!」
「もーっ!うるさい子ね、まったくーっ!」
 その声に拍子抜けした美咲先生が腕組みして怒った様に喋る。
「あーん、僕!どっちなの!、あたし、あたし…男なの?女なの」
「もー!うるさい!」
 美咲先生がハイヒールで軽くカプセルを蹴飛ばした。

 そのまま20分程叫び続けた真琴ちゃんがぐったりした頃、カプセルの下半分が開き、結城先生他数人の先生が部屋に入って来る。ライ先生も席を立ち、フェアリールームの隣のマニュピレータの有る設置されている部屋に移動した。
「はい、これからは関係者以外だめよ」
 いよいよ真琴ちゃんに卵巣が移植されるんだ。僕はフェアリールームを出て、隣の部屋に移動した。
「あたしもあんな風にして女にされたんだ…」
 包帯の下からちょっとくぐもった声で陽子ちゃんが喋る。
「ねえ、陽子、包帯いつとれるの?」
「うん、あと3日位かな」
「きっと可愛くなってるよ。ゆり先生も美咲先生も美容外科の天才だもん」
 包帯の隙間から陽子ちゃんの目が笑う。
「ゆっこ!ほらほら!」
 ともこちんとまいちゃんの声に、僕はフェアリールームと堺の窓に行く。正に今卵巣が移植されようとしている所だった。小さな容器から出された卵巣は、切開された真琴ちゃんのお腹に入れられ、それと同じに、フェアリールームを挟んで反対側の部屋にいるライ先生が、神経と血管を繋ぐマニュピレータを動かし始める。
「真琴、どんな夢見てるのかなあ」
 ともこちゃんが一人呟く。こうして陽子ちゃんに続いて真琴ちゃんも半分女の子の体に変わっていった。

両性体になった真琴と変身前の誠/月夜眠
両性体になった真琴と変身前の誠 / 月夜眠


「陽子、包帯取るよ」
 次の週の水曜日の夜、まいちゃんは通学の為伊豆に戻ったけど、僕とともこちゃんと美咲先生とゆり先生は、陽子ちゃんの包帯を取る場に立ち合った。手鏡を渡された陽子ちゃんの包帯が頭の方から外されて行く。そして眉毛と目が出た瞬間、
「えーーーっ」
 陽子ちゃんの口から驚きの声が出る。くっきりと整えられた眉の下には長い睫毛を持つぱっちりとした可愛い目が有った。やがて小さく整えられた鼻と、可愛らしく膨らまされた唇が現れる。
「これ、あたしだよね。あたしなんだ…」
 手鏡で自分の顔を見た陽子ちゃんの口から、漏れる様に呟く声。細く長い眉とリスの様な丸く可愛い目に、ぷるんと膨らんだ唇。その顔はバラドルの坂下千○子によく似た顔つきになっていた。と、その時陽子ちゃんがある一つの事に気が付いた。さっきからそこ真琴ちやんがいた事に。しかも顔に包帯巻いてない!
「ちょっと!真琴がなんでこんな格好でここにいるの?整形手術受けたんじゃないの!?」
「あ、陽子に話してなかったっけ?真琴は今朝病室から出られる様になったの。それでさー、美容外科手術不用だって!眉の一部と口髭の永久脱毛だけで済んだの。
「えっへへーっ、あたしもともと可愛いから、手術いらないんだよー」
 安倍な○み似の顔に憎たらしい笑顔が浮かぶ。
「あっそう、真琴、そんな憎らしい事言うんだったら、他の人にもばらしちゃおっかなー。(あーん、僕女の子?男の子?どっちーぃ?)て手術中に大声でさー。ますみとかに言ったら…」
「嫌だよゆっこ!そんな事したら、あたしゆっこの事絶対嫌いになるから!」
 僕の言葉にちょっと反抗する様な目で食って掛かる真琴ちゃん。「僕」から「あたし」へ。「堀さん」から「ゆっこ」へ。真琴ちゃんが今はっきり女の子になったんだって事を改めて意識した。

 

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