メタモルフォーゼ

(24) 「新しい仲間達」

「ただいまー」
「あ、ともこちゃんお帰り。おねがい早く着替えて手伝って!お客さん増えてきたからさ」
「はーい…」
 レジ打ちで忙しそうな河合さんの横をすり抜ける様にして、ともこちゃんが奥のオフィスへ急ぐ。
 渋谷の有名ショッピングモールの一角に最近移転新装オープンした河合さんのブティック兼雑貨屋は、品揃えの良さと雰囲気の良さで早くから口コミで女の子達の噂になって、連日大賑わい。特に高校生の女の子達の帰宅時間時間と重なる夕方なんて、もう猫の手も借りたいくらい。そして今は学校が始まった冬休み明け。お年玉をいっぱい貰った女子学生達の熱気がすごい。
 奥の事務所の鏡の前で、紺色のブレザーと白のブラウス、赤のチェックのスカートを脱ぐと、ほっそりした白い肌の美少女が映る。
「また、大きくなったかな…」

女性化の具合を見る智子/月夜眠
女性化の具合を見る智子 / 月夜眠


 鏡に映ったともこちゃんの胸、薄いピンクのキャミソールとブラに包まれた自分の胸は、先日計った時はCカップ一杯に膨らんでいた。でも…
「もうっ、また買いなおさなきゃいけなくなっちゃうじゃん…」
 鏡に向き直ってちょっと微笑むと、鏡の中の、若い時の鷲尾い○子に似たくっきりした顔立ちの美少女も微笑んでる。
「手術じゃ先越されたけど、絶対ゆっこやまいなんかより可愛くなってやるんだもん…」
 そう言って大きくなった自分の胸をつんと指ではじくともこちゃん。事実去勢されてから卵巣を産め込まれた彼女?の体は、術後、以前にも増して更に真っ白になって柔らかくなり、女らしい曲線てで全身縁取られるのもそう時間がかからず、特に下半身への脂肪の蓄積が早く、ヒップとお腹の形は早くから女性化が進み、昨年の夏からは、体育の無い日はもうフィメールパッド無しで学校へ行ける程になっていた。しかも女性特有の感というか、超能力めいた物も早くから備わり、それがブティックの商品の仕入れの際に効果を発揮し、流行りそうな商品の選定にも役に立っているみたい。
「ともこー、早く!御願い!」
「はーい、今いきまーす」
 忙しそうな河合さんの声に答えると、手早く店の制服替りのジーンズとピンクのラメ入りTシャツに着替えたともこちゃんは、鏡の中の自分にウィンクした後、足早に事務所を出た。

「ありがとうございましたぁ」
 やっとお客の入りが一段落したのは夜8時頃。ブティックの試着ルームの壁に手をついてふっと息を吹いて休んでいるともこちゃんの目が、突然一点に釘着けになった。
(あそこにいるのは、あれ?真琴??で、横にいるのは確か…ゆっこのクラスメートの中村クン??)
 程なく真琴ちゃんは、ともこちゃんのちょっとあきれた目線に気付きながらも、嬉しそうに笑いながら、中村クンを置いて駆け寄ってくる。白のふわふわセータにタータンチェックのミニスカートに黒のストッキング。本当ごく普通の女の子している。
「ともこさーん。こんばんわあ」
「あ、真琴ちゃん…。中村クン。いらっしゃい…」
 ブティックの前で一人あきれている中村クンに少し引きつった笑顔で挨拶した後、 おもむろに真琴ちゃんの手を引っ張り、店の木目調の試着室の陰に引っ張り込むともこちゃん。
「ち、ちょっとぉ、何すんだよともこ姉さん!」
「真琴!あんたどういうつもり?今頃は美咲先生とこの卒業試験対策で忙しいはずでしょ?それに、なによ!こんな忙しい時期に中村クンとはいえ、男とデートしてさ?あたしに彼氏いないの知ってのあてつけなわけ??」
 今にも首を絞められんばかりのともこちゃんの剣幕に、伸びたまつげに大きく可愛くなった目をぱちくりさせながらじっと相手を見つめる真琴ちゃん。やがてぷっと彼女?は吹き出し笑い出した。
「真琴!何がおかしいのよ!」
 その声にとうとう真琴ちゃんが笑いだす。
「だって、だってさぁ、ともこさん、可愛いんだもん。彼氏いないとか、あてつけとか、女の子になってきてんじゃん」
「シーッ!バカ!声が大きいの!」
 誰かに聞かれていないかあたりを見回し、そしてまだ呆気にとられている中村クンと目が会うと再び会釈して、再び真琴ちゃんに向き合うともこちゃん。
「あんた、卒業課題ちゃんとやってるの!?」
「もう結構終っちゃったよ。あと18個かな?」
「(…結構早いのね…)…何しに来たのよ!?」
「ほら、この前僕のスカートのファスナー壊れたじゃん。可愛いの一杯そろえてるともこ姉さんのいるお店で買おーっかなーって思ってさ」
「…いい!あんたには割り引き無しで売ったげるから!」
「いいけど、お金は中村クンが出すんだよ。だって弁償だもん…」
「こっこのっ!」
 軽く真琴ちゃんをぶとうとしたけど、中村クンの視線を背中に感じたのか、ともこちゃんはふとその手を後ろに回し、再び中村クンに軽く会釈。
「あ、あの、ともこさん。お世話になります」
 挨拶をする中村クンの手を早く早くって感じで真琴ちゃんが引っ張り、店先のスカートのコーナーへ連れて行く。
「全くどうなんだろ。ほんの半年の間にあんなに女の子になっちゃって…」 
 ともこちゃんが独り言の様に呟く。美咲先生の教え方が上手くなったのか、真琴ちゃんの飲み込みが早いのか。呆れて見ている中村クンに一方的にキャッキャと喋りながら、膝上の丈のスカートを次々に腰に当てていくその姿は普通のティーンエイジの女の子そのもの。その姿にとうとう中村クンが我慢出来なくなったみたい。
「お前さあ!いいかげんにしろよ!なんで俺が元クラスメートの男にスカート買ってやんなきゃいけないんだよ!」
「ああんもう!野暮な事言わないの!人に聞かれたらどうすんのよ」
 意外にも落ち付いた様子で、右手で中村クンの口を塞ぎ、きよろきょろとあたりを見回し、左手で軽くパンチをする真琴ちゃん。
「なんだよこの手、いつのまにこんな生暖かくてぷよぷよ…」
「いいじやん、もう!僕もう男の子じゃないんだから」
 口に当てられた手を振りほどいて、あっけにとられた様子で喋る中村クンに、真琴ちゃんが小さいけどしっかりした声で反撃。
「はいはいもう、喧嘩しないの。真琴、スカート決まったの?」
 いつのまにか奥から出て来た河合さんが、アクセサリー棚に手をかけてずっと様子を見ていたみたい。
「あ、河合さんこんばんわあ。これにしょっかな…」
 中村クンの手を引き、ともこちゃんの横をすっとすり抜けようとする真琴ちゃん。
「えいっ」
 軽く足をひっかけようと出したともこちゃんの足の上をふわっと飛び越えて、真琴ちゃん達はレジへ向かう。
「ともこちゃん。その棚の中から何か一つサービスしたげて」
「えー、サービスしたげるのーぉ」
 真琴ちゃん達の後からレジに向いながら、ともこちゃんに指示する河合さん。その声にぷっと膨れながらも、安物だけど可愛いいものばかり集めた、自慢の小物コーナーに向うともこちゃん。
「んと…これかな」
 たくさんある中から直感で1つを取り出し真琴ちゃんに差し出す。
「わあ、ともこ姉さんありがとっ。僕こういうの前から欲しかったんだ。」
 白とピンクの淡いマーブル調の模様の手鏡を受け取った真琴ちゃんが嬉しそうにはしゃいでいた。
 挨拶の後店を去って行く二人。ともこちゃんがじっとよく見ていると、どうやら手を繋ごうと真琴ちゃんが差し出す手を中村クンが何度か降り切った後、とうとう繋いでしまう。
「なんか妹ができたってかんじかな…」
 ともこちゃんは、何か不思議な物でも見る目で、2人が消えて行く様子をじっと見つめていた。

 冬休みも終り、一見何事も無かった用に新学期が始まる。でも僕達の仲間は新年早々いろいろ忙しかったりする。真琴ちゃんと陽子ちやんは、美咲先生の所の卒業の為の残った課題をクリアする為に頑張っているみたい。僕も近く行われる子宮移植前の問診で、しょっちゅうゆり先生達に呼び出され、検査とかの回数も増えた。朝霧クン中村クン佐野クン達もなんだか落ち付きがなく、何かと授業中もそわそわしている。
 そんな中、ゆり先生と美咲先生には難問が待ち受けていた。まず女性への移行を希望するあの3人を一人ずつ呼び出して、細かい心理テストと問診を行う必要が有った。途中で中止といってもなかなか出来ない治療であるからで、特にゆり先生は見かけの華やかさとは違う、辛くて苦しい女性の現実をくどいくらいに聞かせていた。
 生理の辛さ、体が弱くなる事の弊害、精神的に受身になる辛さや鬱と戦う時の辛さ、ドロドロした女同士の世界、常に綺麗で清潔にしなきゃならない辛さ、化粧の煩わしさ、ブラとかガードルとか体を補正しなきゃいけない面倒さ、美味しい物をお腹一杯食べられない辛さ、まだ根強い女性差別、出産と子育ての辛さ等々。
 男性と比較してこれだけの辛い面が有るって事を時には声を荒げ、時には脅す様に話す様には、横で聞いてた僕も一瞬子宮移植をためらう程だった。
「わかってるの?女の子になるって事がどれだけ大変か?それに、あなたいずれは男の子に抱かれるのよ?あの汗臭い男の子達に抱かれる体になるのよ?本当にいいのね?」
 ゆり先生のこの最後の言葉の後には、さすがに3人とも口が重くなっていた。

 面接と問診と検査の結果、3人とも適正と判断された事をゆり先生と美咲先生から聞かされた時、僕は正直驚いた。
「ほんとに、ほんとにOKなの?」
「以外にも精神的な面全てにおいて女性的だったのよ。私も正直言って驚いたわ」
「なんか信じらんないなあ…」
 その資料を無理矢理覗き込もうとする僕に、ゆり先生が手元で隠そうとしながら答えてくれた。
「多分一人一人の時はその気持を押し殺していたと思うのよ。たまたま今回同じ境遇の人と、その心内を話す機会が出来て、一気に心が解放したんじゃないかなって思うの」
 何やらグラフみたいな物に目を通しつつ、僕に答えてくれる美咲先生。僕は自分の胸に出来た柔らかな膨らみをつんと指で弾いてみる。
「あの3人にこれと同じ物が出来るんだよー、信じられる?」
 独り言の様に呟く僕。と、その時
「えいっ」
 ゆり先生が意地悪そうな笑顔で僕の胸を掴む様にタッチ。
「や、やん!」
 咄嗟に両手で胸を隠し、ゆり先生に半身で構え、僕はじっと先生を見つめる。
「あんた、ほんとに女っぽくなったわねぇ」
 今度は美咲先生が僕のスカートをめくろうとするのを、僕は両手で塞ぎ、ソファーの上に足を乗せて女の防御姿勢をとった。
「こんな姿にしたの誰よっ」
 ぷっとふくれた僕に、二人の先生は只笑ってるだけだった。
「さてと、ああーこれで終りじゃないんだ。今度はあの3人の御両親説得して了解とらないといけないのよー、もう本当頭痛いわ…」
 そうなんだ。とっても難しい仕事がまだ残ってるんだ。

 冬休み明けのある日の学校の昼休み。僕がちょっと一人でもの思いにふけっている時、
「ゆっこしゃん!ゆっこしゃん!ちょっと来てくだしゃいな!」
 教室にどどどっと入って来たますみちゃんがそう叫んで僕の手を引っ張って連れだそうとする。
「何よっもう騒々しい」
 抵抗する僕に、ますみちゃんはけらけら笑いながら僕に耳打ちする。
(さっき朝霧クンと中村クンと佐野クンを、あたしとみけしゃんと智美しゃんで屋上へ呼び出したんでしゅよ。女の子になるんだったら、是非教えてって)
 僕は変な顔をして、ますみちゃんから顔を遠ざける。
「何を教えてって言ったのよ?」
 と、ますみちゃんがケタケタ笑いながら机をドンドンと叩いて、また僕に耳打ち。
(クラスの男子で誰が一番好き?ってさ!)
 僕はとっさにますみちゃんを手で押しのけ、呆れた様子で話す。
「あんた、そんな事聞いて面白いの!?みけや智美まで!」
 再び僕を連れだそうとするますみちゃんが叫ぶ。
「いきましょうよ!あの3人いじめるととっても面白いし、今とってもいいとこなんれすから!」
「いいっ!あたしは行かないっ!もう、何考えてるのよ!」
「えーーっ、面白いのになあ。やっぱりあたしたちと違って、ゆっこしやんは元…」
「わーーー!こらーー!ますみーぃ!殴るぞ!」
 ほんとに危なっかしい!一瞬男口調に戻った僕の剣幕に、はっと気付いてそして僕にウィンクして、逃げる様に去って行くますみちやん。突然の事に教室中のクラスメートの視線が僕の方へ。恥かしくなってそっと椅子に座る僕に、
「ゆっこ、一体どうしたの?」
 クラス委員長のつばさちゃんが声をかけてくれる。
「あ、いや、その、なんでもないです。あ…ははっ」

 ゆり先生と美咲先生による3人のご両親への説得が極秘裏に進められていた。1件1件訪問してこの治療が国際的であると同時に極秘のプロジェクトである事をまず説明する事が相当骨が折れる仕事だったみたい。中村クンの場合は本当強引で、認められなきゃ家出するとまで言って無理矢理説得させたらしい。佐野クンの場合、ゆり先生達の持参の資料に加え、どこでどう調べ、集めたのか、現在の性同一障害の資料を元に、ゆり先生達の訪問の後、1週間位かけてなんとか両親を説得した。
 一番苦心したのが朝霧クンだった。彼の両親とお姉さんは、ゆり先生達がやってる治療行為が本当に信じられなかったみたいで、まるで騙しているみたいに思われたと聞かされていた。
 そういえば、ゆり先生達が朝霧クンの家族を説得している丁度その頃、体育の授業で女の子達がこの寒いのにブルマ姿でバレーボールをさせられているのを、ゆり先生と一緒に見知らぬ3人の人が見学に来てたっけ。僕はちょっと自分のブルマ姿を他の人に見られているのが恥かしかったので知らん顔していた。
 その日の夜早乙女クリニックに来客が有り、僕が紅茶と御菓子を持って応接室に行った時、お客様が昼間僕達の授業を見に来ていた3人で、しかも朝霧クンのご両親とお姉さんだって事がはじめてわかったんだ。
「堀…幸子さんですか?」
「はい…そうですけど…」
「今日のお昼に体育の授業をされているのを見せて頂きましたけど」
「え…ええ」
 朝霧クンのお母さんの問いかけに、僕は昼間の事がちょっと恥かしくて、ゆり先生の横で恥ずかしげにうつむき加減で小声で答えた。
「体育は女子の方で…ブルマで…あ、当然ですよね。女の子ですもんね」
「え、は、はい。そうです」
 僕と朝霧クンのお母さんとのしどろもどろの会話。その時、
「堀さん。あなた本当に女の子…なんですか?そうですよね?」
 朝霧クンのお姉さんがたまらず身を乗り出してきた。僕は何と答えたらいいかわからず、横を向いてゆり先生の顔をじっとみつめた。
「いいのよ、ゆっこちゃん。正直に話していいから」
 といっても、だんだん女の子っぽくなっていく自分の正体をばらす言葉なんて、そう簡単に言えっこない。暫く沈黙した後、僕は覚悟を決めた。
「2年前までは…男の子でした。でも今は、えっと…」
「2年前、私達の施設に入ってホルモン療法と女性としての生活を1年経験して、卵巣を移植して、女子高校生としてあの高校に通学し始めました。既に1年が経過しようとしています。この春は子宮移植の予定です」
 僕の言葉をさえぎる様にゆり先生が要領良く話し出す。僕の正体を知った人がまた増える。ゆり先生の言葉に僕は恥かしくなって顔を真っ赤にした。
「早乙女先生。暫く堀さんと私達だけでお話させて頂けませんか?」
「ええ、いいですよ」
 ゆり先生はすっと席を立ち、僕にウィンクして応接室を出て行った。暫くの沈黙の後、またうつむいている僕に朝霧クンのお母さんが声をかけた。
「堀さん、あなたはどうして女の子になりたいと思ったの?」
 それって実は僕にとって、とっても説明しにくい質問なんだ。でも、今はなんとなく話せそうな気がする。2年間女の子として暮してきて、なんとなく、そして今更ながらに僕が女の子になりたがってた理由が判った気もするし。
「最初はただ、なんとなく女の子になりたいって思ったんです。理由は判りませんでした」
「理由も無く、女の子になりたいって思ったの?」
 朝霧クンのお姉さんがちょっと声を大きくした。
「理由を説明する必要が有るんですか?」
 僕もつられて声が大きくなる。ちょっと2人を驚かせてしまったみたい。僕は声を落ち付けて続けた。
「理由は多分有ると思います。でもそれをうまく説明する事が出来ないんです。大人の人はすぐに理由を聞きたがりますけど。こういうのは潜在的ないろいろな事が複雑にからみあって、その結果自分は女の子になりたいって感覚的に思う様になったんです。僕、いや私達みたいな大人でも子供でもない年頃だと特にその気持が、たとえ人にうまく説明出来なくても、正直に表面に出ると思うんです。それじゃいけないんですか?」
 黙っている二人に僕は更に続けた。
「男の子を異性とみて愛されたい。強くて素敵な男の人につくしてあげたい。いつまでも綺麗で可愛い人になりたい。そして好きな人の赤ちゃん産んで大切に育てたい。そういった事が女の子として生きていくうちにどんどん心の中に生まれて来たんです。女性ホルモン与えられたり、卵巣移植されたりしたからそういった考えになったんじゃなくて、産まれ付き持ってたそういう心が、そういった物に刺激されて実体化してきたんです。僕…いや、私は産まれた時から本当は女の子だった。今になってやっとそう思えるんです」
 産まれて初めて、こういう問題の僕なりの意見を纏める事が出来た。更に僕は続けた。
「この治療は、途中で中止する事も出来るんです。僕くらいになるともう中止は難しいと思うんですけど。朝霧クンが本当はどちらの性が合っているのか、試す意味で受けてもいいんじゃないですか?」
 つい先日、(あの3人にこんなの(胸)が出来るんだよ。信じられる?)なんてゆり先生に言った事をころっと忘れたかの様だった。再び暫く沈黙が続く。とその時、
「堀さん。あなたが元男の子だっていう証拠が有るなら見せて欲しいんだけど」
 どうやら、朝霧クンのお姉さんがまだ疑っている様子。でもそれは朝霧クンの事を本当に思っての事なのかもしれない。僕は少しためらったけど、すっと立ちあがってスカートを脱ぎにかかった。
「堀さん。いいのよ、もう十分わかったわ」
 あわてて僕の手を止める朝霧クンのお母さん。でも僕はもう決心したんだ。
「いいんです。お二人には今の僕の正体をお見せします。それを見たらゆり先生の治療が本物だって判るでしよう。女の子になりかかってはいるけど、僕は本当に女の子じゃないんです」
 僕は覚悟を決めて息を飲み暫く目をつむった後、以前陽子ちゃんや真琴ちゃんにそうした様に、ショーツを下げてフィメールパッドを外し、そこにあった小指の半分程になった突起物を手であてがって二人に見せた。信じられないといった表情が2人の顔に現れる。
「…ごめんなさい。こんな恥かしい事までさせて。私つい今しがたまで、あなたが本当は女の子で、私の弟に無理矢理何かおかしな治療を受けさせる為に嘘ついてると思ってました」
 朝霧クンのお姉さんがそう言うと、お母さんと一緒に、元通りに直そうとする僕に、スカートを履く手伝いをしてくれる。その顔はさっきとは比べ物にならない位優しい表情で、少し笑みまで浮かべていた。
「ゆり先生、もういいよ」
 僕の言葉に外で待っていたゆり先生が応接室に入ってくる。
「幸子さん。本当ごめんなさい。そしてゆり先生、本当に有り難うございました。優治を宜しく御願いします。」
「堀さん。本当ごめんなさい。弟…だよね、まだ。弟の良いお友達になってあげて下さい」
 結局お父さんらしき人は一言も喋らなかったけど、多分了解してもらえるんだろな。
 深々と頭を下げる3人に、僕達も治療許可を頂いた事に丁寧にお礼を言って、玄関から外にまで送りにいった。3人の姿が見えなくなった後、ゆり先生が大きく背伸びをした。
「あーーっ、良かったわ。許可して頂いて。それにしても良く説得できたわね。聞いてたわよ。ゆっこもなかなかやるじやん」
「もう先生!こういうのはやるとかやらないとかの問題じゃないでしょ!」
 怒った僕の剣幕にゆり先生が一瞬たじろぐ。
「わかってるわよ。冗談よ冗談。本当に有り難う」
 ゆり先生の脇腹に僕はいつもより強めにひじ鉄をいれておいた。

 

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