メタモルフォーゼ

(15) 「体育祭でチアガールになった僕」

楽しかった二度目のクルージングも終り、高校では二学期が始まる。僕の正体が分かって以来、みけちゃんと智美ちゃん、そしてますみちゃんは何かと僕を庇ってくれる様になった。水泳の着替えの時、
「はい、ゆっこ、奥へ行く!」
 とか言って、自分達は僕の前で隠してくれる様に着替えを始めるし、他の女の子達の前でも、わざと
「ゆっこ、今日あれだもんね」
 等と言ってくれたりする。でも、僕達同士だけになると、少し事情は変わって、僕は苛められ役になったりするんだ。

 水泳の授業も終った頃、体育の授業が途中で自習になったある日の事。クラスメート達はお互い喋ったり、ボールで遊んだり思い思いに過ごす中、そんな女の子達を三角座りしながらじっと見つめる僕とみけちゃんと智美ちゃん。ドッジボールやるからと、皆を仕切始めたますみちゃんを目で追う僕の足元がいつもと違う。何やらもこもこした靴下、えへへ、昨日智美ちゃんとみけちゃんと一緒に買いに行ったんだ。髪にしているピンクの髪留めと一緒に。僕の正体が分かってから保護者みたいになってくれて、いろいろ教えてくれるんだ。頭の中に男の子の部分がまだ残ってて、まだ女の子になりきれてない僕だけど、そんな僕が怖くて買えなかったルーズソックスとか、アクセサリの品定めをしてくれて、嬉しくて早速今日履いてきている。
 そんな僕のブルマに何か小石みたいなのが当たる。ふと見ると、次の小石を指につまんで意地悪そうに僕を見つめる智美ちゃんの視線が有った。僕も負けじとやりかえす。たちまち、みけちゃんを挟んで小石の投げ合い戦争が始まる。それを冷ややかな目で見るみけちゃん。
「もう、何やってるのよ、あんたら!」
「だって、ゆっこったらさ、男のくせにブルマ履いてるんだもん…、可愛いレースのブラまで付けて、とうとうルーズソックスまでさ…」
「もう、智美!、シッ」
 みけちゃんが止めるけど、僕は一瞬誰かに聞かれていやしないかとびくっとした。幸い人は近くにいない。
「もう!智美!おねがいだからああ…」
 僕はみけちゃんごしに智美の手を掴もうとし、失敗してみけちゃんの足の上倒れ込んだ。僕の膨らんだ胸が、みけちゃんの柔らかな太腿に当たる。みけちゃんが少し呆れた風。
「でもさ、ゆっこってよくここまで変身したよね。今の胸の柔らかさとかさ、ぽちやぽちゃした体とか、完全に女の子じゃん」
「みけ、ちょっと、他の子が聞いてたらどうすんのよぉ!」
 そんな僕の言葉を気にせず、みけちゃんは僕の横にぴったりくっつき、足の形を比べ始める。
「智美、ほら、足の見た目とかさ、あたしとあんまり変わらないし、ほらブルマのここ(と言って、股間をすっと指さす)の形とかさ、ほんと良くカモフラージュしてるよね」
 確かに足の白さとか艶とかは、僕のそれはもう殆どみけちゃんと変わらない。今度はみけちゃんは僕の太腿をつつき始める。あ、そこは…
「あーー、ほら智美、つついたら判る。外見柔らかいけどさ、奥の方がまだ固い」
「え、うそ、触らせて!」
 小石を握るその手の指で、僕の太腿を触る智美ちゃん。あ、なんだかつるつるの指先が気持ちいい。
「ねえねえ、ゆっこのあそこってさ、今どんな形になってるの?」
 智美!いきなりそんな核心をついた質問するなよ!僕は周りを見渡して他の子がいないのを確かめる。いろいろ普段からお世話になってるから、答えておくだけは。
「今、あれはもう小指くらいかな。でももう立っておしっこ出来ないの。お腹の形が女の子になってきて、あそこの付け根がかなり奥の方に移って、それでさ、男としてちゃんとおしっこ出来る長さじゃないし。もうどうしても座ったりしゃがんだりしてしか出来ないんだ」

 そういいつつ、僕は少し前の事を思い出した。すごく我慢した後トイレに入って、座ってパンツを脱ぐ時間も惜しかったから、スカートをたくし上げてパンツを少し下ろして用を足そうとした時、
「あ、ああ!!」
 奥の方に引っ込んでしまったそれは、もう手まで引っ張り出せなかった。とうとう少し小水をひっかけたまま結局座ってする事にした。
「後でちゃんと綺麗にしとこう…」
 小水の匂いが少し鼻についた。でもその匂いは以前のツンと来るアンモニア臭では無く、微かなアンモニア臭と僕自信の女としての体臭が入り混じった、あきらかに前とは異なった匂いだった。
「もう立ってトイレも出来ないんだ…」

 そんな事を考えてふと物思いにふけっている僕の足に、ドッチボールがポンと当たる。
「あっもう!」
 僕の目には横でそのボールを拾い上げるますみちゃんが写った。
「ますみ!何すんのよ」
「何すんのよじゃないですよゆっこしゃん!皆ドッチボールやるって言ってるのに。ゆっこしゃんがどこのチームに入るか、結構重要な問題なんですよ!さ、はやく来てくだしゃい!」
「いい、あたし今日疲れてるから。パス」
「何疲れてるんですかあ、本当にもう!だらしないですよぉ、元男の子のくせに…」
「わああああ、わああああ!」
「ゆっこ!いこいこ!早く!!」
 きょとんとして、ふと口を滑らせたますみちゃんの声を掻き消す様に叫ぶ、智美ちゃんととみけちゃん。本当もうあぶなっかしい!
「みけちゃん、智美ちゃん、ごめんね。本当に今日は動きたくないの」
「あ、じゃあ教室かどっかで休んでたら?」
 優しく言ってくれるみけちゃん。
「ゆっこしゃん、本当どうしたんでしゅか!」
 しつこく食い下がるますみちゃん。僕は少し頭に来て叫んだ。
「今日は、あれ!!!」
「あ、そうだったんでしゅか、ごめんなさいゆっこしゃん。全然気付かなくて、あ、あれ???」
「嘘ばっかし…」
 手に持ったボールをますみちゃんにポンと当てて、智美ちゃんが呟いた。

 教室に行く前にトイレに入り、丁寧にブルマとパンツを下ろして腰掛ける僕。人工の割れ目から、小さな突起物みたいになった男性器の名残を引っ張り出して用を足し、ふと一息。
「これはこれで付いてた方が便利かなあ…」
 完全に女になると、いちいち丁寧に紙で拭く事が必要になってくるらしい。今はそんな事ないんだけどね。そして教室に戻ろうとした瞬間、隣の男子トイレからの聞き覚えの有る男子数人の話し声が聞こえてきた。少し立ち止まって聞いている僕、すると!
「お前さ、A組の女で誰が一番可愛いと思う?」
「あの四人組いるじゃん、堀と水無川、如月、金井だっけ?昔、武見とかもいたよな?揃って可愛いのはあの四人か?」
「おー、あいつらマジ可愛いだろ?アンミラで揃ってバイトしてたみたいだし、時々原宿とか渋谷歩いてるし、特に堀さ、あいつ拳法までやってるだろ?」
「堀ってさ、成績優秀、スポーツ万能、で拳法までやってるの?」
「この前渋谷でさ、男にかつあげされそうになってさ、逆にぼこぼこに叩きのめしたらしいぜ」
「うそ!堀が!!」
 僕はぎくっとした。いつのまにあの事みんなに知られてたんだろ。ただ可愛いといわれてなんだか嬉しい。でもその途端!
「堀!いいじゃん!やりてええ!一発やらせろ!!」
 途端、僕は目を向き凍った様に立ちすくんだ。心臓が早鐘の様に鳴り、息が途切れ途切れになる。一発って、エッチの事!?
「おい!おまえうるせえ!」
「でも堀ってさ、すげえ幼児体型だろ。くびれねえし、けつ小せえし!」
「でもさ可愛いぜ。俺前さ、女のアクション映画見てて、その時むらむらきてさ、そういえば堀って拳法やってんだなって思い出してさ、堀とかの写ってる写真みて一発やった事有るぜ」
「うそ、最低な奴!俺は髪の長い水無川の方がいいや。胸も大きいし、ダンスやってるし」
「堀なんてさ、皆で襲ったら絶対最後まで抵抗するだろな、ははははは!」
 だんだん顔が真っ赤になり、喉がからからになっていく。もうそれから先の話しってもう聞けない!ひどい!ひどいよ!僕が、僕が男の子達のオナペット…!?しかも女として!?
 そういえば僕も男の子の時、友達とクラスの女の子誰がいい?エッチしたいの誰?とか修学旅行の夜とか話した事有った。その時は別に気にもしなかった!半分女になった今そんな事言われてみたら、もうやだやだ!
 僕は息をころして、その男の子達が去るのを待ち、がくがくする足を引きずる様にして更衣室へ向った。大急ぎで体操服から制服に着替える間も、すごく重たい気分。僕の体は、顔が真っ赤になったり、心臓がどきどきいったり足ががくがくしたり大変だった。でも、何故なのか分からない。男の子の頭で考えた場合、たいして動揺する様な言葉じゃないのかも。
 でも女の子の頭で考えると、可愛いと言われたうれしさ、そして犯されるといった怖くて嫌な気持ちがごっちゃになって、こんな気分になったのかも知れない。そりゃ、そりゃあ男の子は、可愛くて美人の娘を犯したいってのは自然かもしれないけど、半分女の子になった僕にとってはすっごい迷惑!!エッチの対象にされるなんて絶対嫌!!
「今日早引けするっ」
 ドッチボールやり始めたクラスの娘達への挨拶もそこそこに、僕は大急ぎで早乙女クリニックへ帰った。患者さんの診察中だったゆり先生の不思議そうな目線を観じつつ、僕は階段を駆け上がり、自分の部屋へ。カバンとかを放り出してベッドの上にジャンプ。目にはうっすら涙さえ浮かんでいた。明日、声の主のあいつらに会ったらどうしてやろうか。こんな酷い侮辱なんて初めて!思いっきり悪口いってやろうか、人前で蹴りいれてやろうか…。でも少し気分が落ち着いてきた時、ふと別な考えが浮かんで来る。
(あいつらって、僕の事を女として誉めていたんだよな)
 暫くベッドの上で何気なく天井を見つめていて、だんだん気持ちが落ち着いてきた時、ゆり先生がノックの音と共に入って来た。
「ゆっこちゃん、どうしたのこんなに早くすごい勢いで帰ってきて?何か嫌な事でも有ったの」
「え、う、うん…」

「ふうん、でもそれって女の子にとって嬉しい事じゃない?」
「嬉しくないよぉ、僕とエッチしたいなんて言うんだもん!」
「それは、ゆっこちゃんに女としての魅力を感じている証拠じゃない!」
 ベッドの上で、制服を着たままの僕の傍らで頬杖をついてゆり先生が呆れた風。
「もう、ゆり先生までそんな事言うんだ…」
「だって当然じゃない。あなたもう女なんだから」
「え、だって…」
 不満そうにベッドに寝転がって足をばたばたさせる、そんな僕をゆり先生は軽く抱きしめてくれた。
「先生、ねえ、慰めてよ…」
 僕は何かを期待する様に、ゆり先生の柔らかな腰からお尻を軽く抱きしめる様に手を回した。
(ねえ、柔らかい手で僕を抱きしめて!)
 ところがゆり先生はそんな僕の手を体から離し、ベッドから立ちあがった。
「だめだめ、ゆっこちゃん。今日はまだ患者さんの予約入ってるし、遊んでいられないの」
「えー、じゃ終ってから。僕久しぶりに先生と寝たいもん」
 本当に女の子がだだをこねるといったそんな雰囲気で僕は先生に甘えようとする。でもゆり先生はいつもとは違っていた。
「だめだめ!あたしはレズじゃないんだから!そりゃ高校に入学した時は、まだあなたは可愛い男の子っていう感が有ったけど」
 ちょっと呆然として口を半開きにする僕を見つめながら、先生はドアへ向う。
「卵巣移植されてさ、ぽちゃぽちゃになったゆっこちゃんには、もう性的な魅力は持てないのよ」
「先生!だって僕まだ半分…」
「早く彼氏作りなさい!」
 そう吐き捨てる様に言ってドアから出て行くゆり先生。途端に僕の目から両目から涙があふれ出始めた。前にも増して泉の様に沸いてくる涙を僕は止める事は出来ない。枕を抱きしめてじっと我慢するけど、声を押さえるのがやっとだった。
「冷たいよ…ゆり先生…」

「ただいまーっ」
 そのままいつの間にかうとうとした僕の耳に、純ちゃんの元気な声。あ、もう六時じゃん。どたどたと階段を昇る音は、僕の部屋の横の純ちゃんの部屋に消えていく。ぼくは意識がもうろうとしたまま純ちゃんの部屋へ行った。
「え、ゆっこ?いいよ、入ってきても」
 中に入ると、制服を脱いで下着姿でベッドに座り、ストッキングを脱ぎにかかっている純ちゃんが目に入る。
「もう、女のコになってさ、最初なんでもなかったのに後で嫌になってくるのが、このパンストよね。暑いし、伝線気にしなきゃなんないしさあ」
 ルーズソックスごとストッキングを脱ぎ捨てた純ちゃんがすっくと立ちあがる。腰にはもう女の子らしいウエストのくびれがはっきり。
「でもさ、腰が女の子になってから、ガードルの有り難みが分かるんだ。男の子の時ってさ、腰のくびれがないから、ガードルが落ち着かないでしょ。女の子のくびれが出来たらさ、きっちりそこまでサポートしてくれて、腰の肉を上下全体で包んでサポートしてくれて…」
「純…ちゃん」
 一方的に喋る純ちゃんの目をじっと見つめると、純ちゃんも只ならぬ僕の雰囲気を察してくれた。
「ゆっこ、どうしたの?」
「ねえ、僕を慰めて。一緒に寝て」
「ど、どうしたのよ。だめよ、あたしやる事いろいろ有るんだしさ。それにあたしレズじゃないし」
 ああもう、ゆり先生と同じ事言う!僕は今日の事を純ちゃんに早口で喋った。すると、
「もう!何言ってるのよ。エッチしたいってセクシーだって言われてるんだから、女として光栄じゃない!」
 俯いて黙っている僕の傍らで純ちゃんはパステルカラーのミニのスーツに着替えながら、急がしそうに更に言葉を投げる。
「もう、まだまさかそんな事言ってくるなんて思わなかった。そろそろ甘えるのやめたら!?あたしだってゆっこ位の時さ!もう女の子より男の子の方が好きだったよ。ゆっこわかってる!?あと半年したらさ、そのお腹に子宮移植されるんだよ!そうなったらもう体的には普通の女とおんなじなんだからね!いつまで男の気持ちのままでいるのよ!さ、あたしもう出かけるから!」
 忙しいみたいだけど、僕の横をすり抜けて純ちゃんは出かけて行った。僕は一人部屋に戻る。
「ゆっこちゃん、夕食にしようよ」
「僕、今日いらない!」
 ゆり先生の内線電話も邪険に切って、僕はふてくされてそのまま、寝付いてしまった。

 夜の十時頃、ふとゆり先生が手に何か持って僕の部屋に入って来た。
「ゆっこちゃん?寝てるの?あのさ、私の発明品試してみてくれない?これね、人工的に女の子の生理の時の臭いを再現したスプレーなの。女の子にしか分からない臭いなんだけどさ、一日数回あそこにスプレーするといいわ。あなたが元男の子だって事をばれなくする方法の一つよ」
 ねぼけ眼でその臭いを嗅いでみるけど、
「うーっ血の臭い、変なの…」
「数日中にさ、小さな香水用の容器に入れて渡したげる」
 そう言うと先生はドアから出ようとした。
「ゆり先生…」
「え、何…」
 僕にはまだ今日の事が忘れきれなかった。
「あ、あの、お願いです」
「もう、何よ全く」
「僕に、女を教えて!」
 それを聞くやいなや、ゆり先生はおおげさなアクションで手を額に当て、天を仰いだ。
「もう、今日ゆっこちゃん変よ!本当に!だから好きな男の子を作りなさいって言ってるでしょ!!あたしは女なんだから!」
 がっくり肩を落す僕、その時入れ代わりに多分渋谷からの帰りなのだろうか、純ちゃんが入って来る。
「ゆっこ、へへぇー、聞いたよ。女を教えて欲しいって?」
 僕は少し俯きながらこっくりとうなずく。
「後であたしの部屋へおいでよ。添い寝は嫌だけどさ、いいもの見せてあげる!」

「「恋愛のススメ」って、このビデオ十八禁じゃん!アダルトなの?このタイトルで!?」
「そうよ、あんまりエッチなのが好きじゃないゆりねえが薦めてくれた、数少ないエッチビデオなんだよ」
「ふうん…」
 アダルトビデオって、見ない方じゃなかったから…。でも最近女の子に変身しはじめてからは見てなかったなあ。少しどきどきして僕は始まるのを待つ。やがて始まると僕の目線は画面にクギ付けになってしまった。
「わあ、可愛い…」
 ピアノのBGMが流れる中、薄いブルーのスーツを着た、とっても綺麗で可愛い女の子が、三浦○和似の男の人にナンパされ、そのままデート。アクセサリーをプレゼントされる時の女の子のとっても嬉しそうな表情、男の子にそのネックレスを首に付けてもらう時、そっとそれに手をあてがう可愛い指先の表情と笑顔、冗談でも言い合ってるのか、二人で小道を歩く時の、幸せそうで揺れる様なその娘の表情。所々に出て来る男の子の、女の子を気遣う行為と、それに優しく答える女の子の仕草。
「わあ、綺麗、アダルトなんて思えない」
 一つのアイスクリームを二人で舐めるシーン、ちょっとわざとらしいけど、女の子の幸せそうな表情は演技とは思えないもん。そしてレストランで食事して、
「えー、この後ホテル行っちゃうの!?」
 でもその女の子の気持ち分かる。あれだけ優しくされて、愛されたんだったら…。部屋に入り、自ら上着を脱ぎ、白のタンクトップとスカート姿になり、上半身裸になったその男の人にキスをせがむその子。タンクトップに透けるブラジャーが可愛いな。少し日焼けした少し小柄なその男の人の引き締まった体と、男らしい胸板。わあ…
「ゆっこ、どう?」
「うん、あの男の人かっこいい!」
 思わず喋っちゃったその言葉、その瞬間、あれって思ったけど、僕は続きを見たくって仕方ない。ベッドの上ではショーツとブラだけになったその女の子が、男の人のあそこを口で…。卵巣移植手術の日の朝の僕が、だんだんその光景にオーバーラップしていく。次に男の人にブラを外される女の子。そのバストは、
「わあ、僕の胸と良く似てる!」
 いつの間にか僕の指は、無意識のうちに唇へ…。
 その白くて可愛い胸を男に揉み解され、気持ち良さそうに喘ぐ女の子。褐色で逞しい体と白くて丸くて可愛い体がお互いに絡み合ってる。
「いいなあ、優しくされて、気持ちいい事されて…」
「あのさーゆっこ、あなたの体は今、あの画面の白くて丸くって可愛い方に近いんだからね」
 やがてクライマックス。無修正のまま、男の人のペニスは、可愛いその女の子のあそこへ。でも
「わあ、こんな可愛い子でも。あそこはあんなにグロテスクなんだ!」
「そうよね、神様も意地悪だよね。本当もっと可愛く作ってくれたらいいのに…」
 僕の溜息に、純ちゃんが答える。
 気持ちいいのか、辛いのか、女の子のくすぐったいのかよく分からない表情とよがり声、そしてエッチしているあそこから流れ出て来る白っぽい液体。そして…、男の人の精液が嬉しそうな表情の女の子の顔にかけられるその瞬間。僕と純ちゃんは肩を抱き合ってじっと見つめていた。これが女の子って生き物なの!?
「…はい、おしまい。貸したげるよ。よかったでしょ」
「う、うん。有り難う」

 部屋へ戻って僕はもう一度それを見始めた。男の子にエスコートされる女の子って、やっぱり幸せなんだろな。そしてやがてエッチなシーンへ。本来の僕は、あっちの褐色の胸板の厚い人の方なんだけど、今の僕は…。そう思いながら僕は自分の乳首をそっと触る。ビデオの女優さんの胸は、本当僕自身、裸で鏡を見た時と同じ形をしていた。
「あ…」
 全身を走る冷たくくすぐったい感触、いけない、こんなはしたない事しちゃ…。でも体は正直だった。なまじ胸が似ている女の子が、男の子に愛撫されている所を見た僕の指は胸から離れなかった。同時に聞こえて来る、その女優さんの喘ぎ声。無意識のうちに、僕はその声を真似ていた。
「あっあああっ、ううん…」
 もうそれからの事は今となっては、あんまり覚えていない。感覚が敏感になった僕の頭の中では、既にその男優さんが僕の体を愛撫している光景が広がって行く。僕の指先は、全身に付いた柔らかい女の子の脂肪を優しく撫でて、全身に出来始めた女としての性感体を探す様。手術の時に矯正された僕の腰は、もう前後じゃなく、女の子らしく円を描き始め、手と指と、そして足は、そんな事をしている自分を恥らうかの様に、もじもじした物になっていく。全身汗びっしょりになり、可愛い声であえぐ僕。とうとう女としての最終段階の変身が始まったみたい。

 翌朝、皆と顔を合わせるのが恥かしくて、朝食もそこそこに飛び出す僕。手に持つ箸を口に軽く咥え、僕の慌しい動きを不思議そうに目で追う純ちゃんがいた。
「純?昨日ゆっこちゃんに何かしたの?」
「え?うん。あのビデオ見せたげたの。とても気に入ってたよ」
「え?あのビデオ観せたの?うーん、変に誤解しなきゃいいんだけどなあ」
「女の子に変身中の男の子の気持ちって、経験者にしかわかんないよ」
「ふうん、そうかもね…」
 そう呟きながらゆり先生はトーストに口を付けた。

 学校まで急いだものの、昨日の夜から殆ど何も食べていない僕のお腹がぐーぐー言い始める。朝食べときゃよかったなんて思っている時、
「堀、堀じゃんか!待てよ。一緒に行こうぜ!」
 僕はぎくっとして振り向く。あー!クラスメートの須藤君。そして昨日トイレの中で一発やらせろ!なんて言ってたあいつ!只、特に女の子達の間では可もなく不可もなくって評価が付いてるけど。でも昨日の事が有るので、僕は無視無視!
「堀!どうしたんだよ。いつものお前らしくないじゃんか。そう冷たくすんなよ。ふう、それにしても腹減ったな。俺朝食ってねえんだよ。朝マックつきあわね?」
「何よ、勝手に行けばいいじゃん」
 どうしてそう勝手に物事進めるかなあ。男って。
「そう冷たくすんなよぉ、おごってやるからさ」
 ああ、お腹空いてる上に、おごってやるの言葉、僕っていつの間にそんな言葉に弱くなったんだろ。
「じゃいいよ、おごってくれるんなら」

「ソーセージマフィンのセットにホットケーキも付けてよ。それとコーラのサイズはMだかんね」
「全く良く食うなあ、お前」
 マックの二階に陣取り、下の売り場へ行く須藤君を目で追う僕は、ちょっとしたお姫様って気分。昨日の罰って観も有ったけど、男にご飯おごらせる女の子の気分も悪く無い。いいなあ、うふっ。そういえば、昨日のビデオの女の子はイタリア料理おごってもらってたっけ。僕は朝マックか、まあいいじゃん。そうこうしている内に須藤君が上がってくる。
「えへへっ、ありがとっ」
「あ、うん、これくらいならいつでもおごってやるよ」
「え、毎日でも?方角同じだからさ、ますみも連れてきていい!?」
「待てよ、そりゃ勘弁してくれよぉ、あいつ可愛いけど、うるせえったらないぜ」
「みけとか智美でもいいよ。でもみけすっごく食べるからね」
「だから勘弁しろって!」
 時間にして十五分位、普段の雑談を二人でしてるって感じだったけど、こうして僕にとって、女の子としての初めてのデートは終る。

 学校では、秋の体育祭に向けて準備が始まった。中でもクラス対抗の女子応援合戦が大変!振り付けとか衣装とか全部自分で決めなきゃいけないし。でも僕達のA組では振り付けは演劇部のみけちゃんと軽音楽のますみちゃん。衣装は智美ちゃんと、早いうちに担当が決まっていた。
「でさ、ゆっこは衣装のサブね。器用だからいいでしょ」
 僕は言われるままに衣装のサブチーフに決められちゃった。

 二十人もいる女の子達が一つに纏まるのがこんなに難しいなんて思わなかった。男の子と違って女ってなんでこう自分勝手でわがままで!選曲でまず意見が対立、衣装の基本色で意見対立!そして衣装デザインでまたもや意見対立!!意見が通らないと平気でボイコットなんて言い出したり、妨害する娘達もいて、放課後の打ち合せはもういつも大変だった。僕が中心になって、とにかく言う事聞かない女の子達の家庭訪問までして、ようやく骨子が固まったのは、計画提出前日の夜遅く、学校近くのマックで疲れに疲れてうとうとする僕達。
「んでぇ!音楽がTMNで、振り付けはユニット系のバックダンサーをモデルにして、後何だっけ、ますみ…、ああ疲れた」
「衣装、はいゆっこしゃん、どうぞ…」
「衣装は、水色系で、サテンを使って、両肩ストラップで、ちょっと宇宙系だけど、なんでレース付けたり、ウェストにリボン付けなきゃいけないの!」
 でも正直言って、腰のリボンはちょっと賛成だった。だって僕の腰のくびれの無さがカモフラージュ出来るもん。
「もう言わないでよぉ、それ譲らなかったらさ、今頃まだ纏ってないよ!」
「服のデザインどうしても私?」
「いや、そりゃもう、そんな難しいの実現出来るのゆっこしゃんしかいないっすよ!」
「いい、今からみんなで考えよ。今からゆっこん家ね」
 疲れたけど、この数週間女の子達に揉まれた僕は、また一つ女の子に近づいたって感じ。

 翌日の朝、女子体育の宮田先生に昨日徹夜近くで作った計画書を手渡す僕達。宮田先生は計画書を受け取ってまずびっくりした様子、そして読んでみて更に驚いた様子。
「はい、特に問題とかは無し。このまま進めてくれていいわよ」
「え、は、はい」
 みんななんだかちょっと調子狂った様子。
「しかし、体育祭始まって以来あなた達が始めてよ。ちゃんと締めきり当日に持って来て、それに一発でOKしたのは」
 みんなほっとした様子でクラスへ急ぐ。
「ゆっこが纏めたみたいなもんだよね。やっぱり違うよね。半分男の子が入ってると」
 意地悪く智美ちゃんが笑った。

 TMNの音楽に合わせたみけちゃんの考案した振り付けは、すごくかっこいい。こうなると女の子達は、纏まるまでの仲たがいとか喧嘩が嘘の様!みんな協力しあい、細部を微調整したり、個々に自主練習したり。そして僕のデザインした衣装も、薄い水色を基調に、レースとか、わざと大きくデザインしたリボンは淡い水色にと、とっても可愛い物に仕上がった。あれだけ喧嘩した娘達が、放課後残って衣装作製とかに協力してくれて、もう、本当に女って単純!
 衣装が出来るまでは、学校指定の赤のエアロビ用ユニフォームで練習、そして本番二週間前に早々と完成したその可愛い水色の衣装を着て校舎の屋上で練習した時は、もう大変だった。TMNの曲に合わせて見事に踊る、二十人の電子の妖精みたいな可愛い娘達。
「可愛い!」
「いいなあA組…」
 黒山の人だかりの中で踊るのがすごく恥かしい。後で気付いたんだけど、その衣装ってストラップレスのブラが、すごくくっきり透けるんだもん。
 そんな中、唯一男の子で放課後まで残って手伝ってくれたのが須藤君だった。最初は嫌だったけど、いろいろ手伝ってくれたりおごってくれたり。荒っぽい態度もだんだん忙しい僕を労わる様な感じに。愚痴とかも黙って聞いてくれる須藤君。だんだん本当に仲良しになりつつ有った。
 体育祭当日、僕は唯一の出場競技「女子千五百メートル」で楽々一着を取った後、その衣装に着替え、ポンポンを持ってトラック脇に立ち、愛想をふりまいていた。
 そして遂に来た本番!多くの人の前で踊り終え、皆の歓声に包まれ、発表結果は堂々優勝!その瞬間仕切役だった僕とみけ、ますみ、智子ちゃんがまず抱き合って涙涙、そしていつのまにか僕達四人は女の子達に胴上げされ、宙を舞っていた。
 興奮冷めない内に教室へ戻ると、机の中に一枚のメモが有った。
「おめでとう!祝福の言葉を言いたいので、すぐ第二体育倉庫に来て!須藤」
 須藤君からだ。いろいろお世話になったし、こっちもお礼したいし。じゃ可愛いこの姿のままで行ってやろ。僕はうれし泣きの声がまだ残る教室を後にした。

「須藤君?来たよ」
「あ、ゆっこ。ご苦労様!優勝おめでとう!」
「あ、有り難う!須藤君のおかげだよぉ、いろいろ励ましてくれたり、手伝ってくれたり」
 僕は少しはにかんだ様子で男子学生服の須藤君の前にたたずむ。僕本当なら、須藤君の一つ上で、しかもむさい男の子の制服を着ているはず。でも今、まるで可愛い妖精の様な衣装で彼の前でにっこりする僕。
「ゆっこ…」
「え、なあに…」
 この瞬間、須藤君の目にただならぬ雰囲気を感じた僕、一瞬身構えようとしたけど、遅かった。
「ゆっこ、好きなんだ!好きになっちまった!」
 突然、僕の柔らかく女性化した体が須藤君の手にしっかり抱きしめらる。
「あ、ちょっと、ちょっと!須藤君!」
 だめ、だめだ!殆ど筋肉が溶けて脂肪になった僕の腕に、須藤君を振り払う力が出てこない。そうこうするうち、須藤君の手は僕のブラジャーをまさぐり始めた。僕の顔は、まだ半分男の子だった事を思い出し、真っ赤になって行く。
「ゆっこ!こんなに可愛い女の子に出会って!仲良くなれて!嬉しいんだ!」
「……!」
 突然の事に、僕は怯えて声が出ない!今度は須藤君の片手がブラから外れ、腰のあたりをまさぐりはじめる。パンツのラインをなぞられ、腰に巻いたリボンが解かれて…!
「や…やめて、お願い…須藤君」
 がっしり抱きしめられ、抵抗出来ない!僕の胸が須藤君の胸元で潰れていく。水色のレースごしに彼の熱いペニスが、僕の下腹部を刺激してるっ!それを気持ち良さそうに体を揺らす彼、あ、だめ、彼の息づかいが荒くなっていく!ああっ僕の頭の中に突然男の時の僕が出て来ちゃう!ああ、僕男なのに、こんな薄い可愛い服着て!しかも男の子に迫られてるぅ!!
「ゆっこ!」
 その瞬間、須藤君の唇が僕の唇を覆う。硬い彼の唇を柔らかく受け止める、なんて柔らかくなった僕の唇…、微かなタバコの味…。
(やっやだ!僕!男の子とキスしちゃった…!)
 僕の意識はそこで途切れたみたい。全ての力が抜け、がっくりと膝をつき倒れ込む僕の耳に、僕の名を呼ぶ須藤君の声が木霊の様に響いていた…。

 ふと気がつくと、僕は保健室のベッドに寝かされていた。
「ゆっこじゃなくて、堀さん、どう?気がついた?」
 あ、ゆり先生。そうか、体育祭の日は当直だったんだ。みけ、智美、ますみ、他のクラスメートの女の子達も僕のベッドの周りにいるのが見える。そして、あ!須藤君!
 僕は一瞬顔から火が出る思いがして、掛けられた布団を目元まで引き上げ、そのままじっと睨む様な目つきで見ると、ふと目線をそらす彼。
「ゆっこ、気が付いた?」
「大丈夫?」
「須藤君がね、倉庫で倒れているあなたを見つけて、運んで来てくれたのよ」
 須藤君を睨む僕の目が更に鋭さを増す。でも彼は目を反らしたままだった。
「みんなごめんなさい。大丈夫だから、心配かけてごめんね」
 ふと僕は布団から顔を出してみんなに謝る。
「ゆっこ大変だったもんね、今回」
「疲れてるんだよね。後の掃除とかかたづけはやっとくから、寝てていいよ」
 口々に声をかけてくれるクラスメートに僕はその都度お礼を言う。
「さあ、それじゃみんなありがと。後は先生が看病するから」
「あ、はい」
「じゃ、戻ろう。ゆっこ、明日休んじゃえば?」
 程なく、部屋は僕と須藤君、そしてゆり先生の三人だけになった。
「…嘘ばっか!」
 須藤君に向ってそういい放ち、僕は再び恥かしくなって目だけを出して布団にもぐり込む。
「…ごめん」
 やっとそれだけ言って黙り込む須藤君。
「さあさあ、須藤君ももう行きなさい。まあ、男女の仲だし、倉庫で何が有ったか私は特に聞かないけどね」
 あ、やっぱり何か感づかれてる。心理学の研究家だもんな、ゆり先生は。
「あ、じゃこれで失礼します。ゆっこ、元気だせよ」
 出て行こうとする彼のその言葉に思わず、「いーーーだ!」というポーズを取る僕。いつの間にこんな幼い仕草する様になったんだろ。
「さてと、ゆっこちゃん。帰る?それとももう少し寝てく?」
「う、うん。もう少しだけ…」
「男の子の中で、あんたの事「ゆっこ」なんて言うの須藤君だけだもんね。どうだった?男の子との初キッスの味は?」
「え、えええーーー??」
 ああ、やっぱり全部見透かされてるよぉ。
「だってさ、妖精みたいなあんな可愛い格好した学校のアイドルの一人と、暗い倉庫の中二人っきりになってごらんなさい。男の子なら誰だってむらむら来て、襲っちゃおうなんて考えるのも不思議じゃないわよ」

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