メタモルフォーゼ

(14) 「水着モデルになった僕」

 夏休みも終りに近づき、いよいよ待ちに待ったクルージングの日が迫って来た。バイトが終る頃には智美ちゃんもみけちゃんも、純ちゃんとすっかり仲良しになり、まるでクラスメイトみたいなお付き合いをする様になっていた。そして当日、真っ青に晴れ渡った日の朝、
 水着の上にサマードレスを羽織った僕、そしてやはり水着の上にタンクトップと短いジーンズのショートパンツ、最近目立ってきたお尻を見せびらかすかの様な服の純ちゃん。
「こんにちはー、お世話になります」
「こんにちはー、私もお世話になります。招いて頂いてありがとうございます」
「すっごい船ですねー、いくらしたんですか美咲しぇんしぇー!」
 みけちゃん、智美ちゃんの横で、挨拶もしないで下世話な話をしようとしだすますみちゃんの頭をこずきながら、僕は、美咲先生の別荘から飲み物とか食べ物の入ったクーラーボックスを「さふぁいあ」号に積み込み始める。
「あ、お手伝いします」
 と言って、別荘へ続く階段へ走りだそうとするみけちゃんと智美ちゃんを僕は必死で止めた。だってそこには…。

「陽子ちゃん、真琴ク…ううん、もう真琴ちゃんだよね。ごめんね。手伝ってばかりで参加出来ないで」
「ううん、いいのよゆっこ。あたし本当にここへ来て良かったと思ってるもん。ねえ、真琴ちゃん。すっごく厳しいけどね」
 陽子ちゃんの横では、女性化直前の美少年期に入った真琴ちゃんが恥ずかしそうに笑っていた。
 白いレディースのTシャツに、お手伝いし易い様にと美咲先生に特別に許された、男物のジーンズ。でも少し汗ばんだTシャツの背中に薄く何か透けているのが見える。そう、それは可愛いブラジャーだった。
「真琴ちゃん、可愛くなったね。そっか、もうブラしてるんだ」
「うん、もうブラ無いとすれて痛む様になったからさ、一週間前から付けたの。いいよ、気にしないで。来年は参加出来る様に頑張るから」
白くふっくらしてきた二の腕に少し汗をにじませた真琴ちゃんが、オンナらしく膨らんできた頬でにっこりと微笑む。

「ねえ、お手伝い本当にしなくていいの?」
「あ、いいっていいって、今日は三人はゲストなんだから」
 気を効かせすぎて、知らない間に別荘に行かれる事を心配しつつ、僕は荷物運びを続けた。
「ゆっこしゃあん、私は手伝っていいんでしょ。別荘行ってみたいんですけどー」
「こらっ、陽子と真琴の事考えてあげなって」
 僕は小声で囁き、いたずらっぽく笑う真っ赤なアロハのますみちゃんの可愛い黄色のショートパンツを軽くむぎゅっと握った。手に感じる天然の女の子のお尻の肉の感触が、なんだか気持ちいい。
「ゆっこー、ともこ来たよ!」
「ゆっこ、えへへっおひさあ!」
 まいちゃんが、河合さんと一緒に車で来たともこちゃんをご案内、そして智美ちゃんとみけちゃんを紹介した頃、ゆり先生達がやってきた。
「はいはい子供達、ちゃんと用意出来たの?今日は可愛いお客様もいるんだし、そそうの無い様にね」

 洞窟を利用した船着場から、色採りどりの女の子?ばかり十人を乗せた白とピンクの「さふぁいあ」が緑がかった海にゆっくり滑り出していく。皆の歓声とエンジンと水飛沫の音を聞きながら、去年と同じサングラス姿で操縦するゆり先生はすごくご機嫌そうだった。ところがその時、
「あゆみさーん、あゆみさん、聞こえますかー、どうぞ」
 無線からはっきり聞こえる声。え、あゆみさんて?誰?ふと美咲先生の顔が曇ったみたい。
「あゆみさーん、美咲あゆみさーん!聞こえますかあ、どうぞ!」
 あ、美咲先生って名前は「あゆみ」なんだ。初めて聞いた気もする(笑)それにしてもなんか馴れ馴れしい。誰なんだろう?ところがその声に美咲先生は少し舌打ちをした後、無線を切って船をゆっくり旋回させて止め、サングラスを外してラウンジの皆に向った。
「ねえ、誰かこいつらに今日の事喋った!?」
「え、こいつらって、誰なんですかこの無線の人」
「去年の時、追い掛け回されたあの雑誌社のカメラ連中よ!」
 美咲先生は再び船首に向き直った。やがて美咲先生の名を叫ぶ声に、いらいらしながらマイクに向かう。
「あのねー、困るんですけど、こういう事されると!ねえ聞いてます!?どうぞ!」
「あゆみさーん!今日そのまま遊びに出られると思いますかあ?昨年のあの記事大好評でしてね!あなたの船籍と所有者を調べたブレスが今日少なくとも二社あなた達を待ちうけてますよ!現れるのを今か今かとねー!どうぞー」
「ああ、もうー!なんでそんなに邪魔したがるわけ!」
 たちまち美咲先生は両手で顔を覆い、天を仰いだ。
「あゆみさーん、それより提案ありましてぇ!我々と契約しませんかあ!独占取材という事で。プレゼントもたくさん持ってきました!どうぞ!」
 え?プレゼント?なんだろう。そしてその言葉に僕の心がすごく揺れるのは何故なんだろ。
「しかも、今日は自由に遊んで頂いて構いません。邪魔にならない様に写真とりますから!どうぞー」
 その直後スピーカーから大勢の男の歓声、一体何人いるんだろう。そして顔を覆った指の間からじっと沖を見る美咲先生。あ、そういえば、沖合いに小さなクルーザが浮いてる。たぶん去年のあの思い出の船!
「美咲先生、先生!プレゼントだって。何くれるんだろ」
「ねえ先生、あたしたち別に構わないよ!」
 去年を知ってるまいちゃんとともこちゃんが口々に話す。僕も、うん、ちょっとならいいかなって感じ。
「そうじゃなくて、あんたたちはいいのよ。今日来てくれたゲストの子供達がさ」
 悩み深げに吐き出す美咲先生。
「え!私達?全然OKっすよ。ねえ」
 真っ先に切り出すますみちゃん。智美ちゃんもみけちゃんも快く同意した。
「まあ、男ッ気が無いのも面白くないし…、ねえ、あんたたちの男慣れにもいいか、ねえ…」
 地悪そうに僕やともこちゃんの方をじっと見つめる美咲先生だった。
「マキ(河合)さん、ゆり。あんたたちさえ良けりゃいいよ。あたしは」
「え?私達?いいよいいよ。どうぞどうぞ」
 ゆり先生と河合さんが笑いながら答えた。
「ねえ、先にプレゼントとかいうの貰いましょうよ。それ貰ってからでいいじゃない?」
「あ、そうですよ。貰う物貰ってから考えましょうよ、ねえ智美さん。そうしましょそうしましょ」
 ますみちゃんと智美ちゃんが飛びはね、肩を叩き合って提案。そうなの?女ってこうあるべきなのかな。僕も真似していいのかな。

 相手のクルーザの人も、みんなファッション雑誌に出て来る夏の男女って感じの人だった。日焼けした毛むくじゃらのサングラスに白のショートパンツとアロハシヤツ。ひげもじゃだけど、なんかすっごい夏のお洒落した人が、さっき無線で話してたサングラスチーフ。他女性一人含む四、五人のスタッフの人々。
「お嬢様方、貢物をどうぞ。ご満足頂けますかな」
「わー、すごい…」
 僕達は皆一同に声を上げた。パイナップル、オレンジ、バナナ等の南国のフルーツが数箱、シュノーケル用品、釣具。そしてサングラス、浮き輪、水着まで、殆ど海のレジャー用品一式。
「これ、全部差し上げますよ。後、お貸しするだけですけど、ウォーターバイク一台とバナナボート一つ、好きに使って下さい。」
 誰一人文句言うひと娘はいなかった。

 日差しが強くなって、海もだんだんエメラルド色に輝く頃、最初に美咲先生所有の小島へ。プレスの人々は僕達の荷物を下ろしてくれた後、自分達の撮影機材とかを汗だくで船から降ろしていた。
「あ、あの手伝います」
「あ、お嬢さん、いいですよ。僕達の仕事だし、モデルにそんな事させらんないですよ」
 僕の申し出に、にっこり微笑むその男の人。何だかかっこいい。汗の匂いが…、あ…れ…、僕。
「皆さん僕覚えてますか?去年カメラアシストやってた僕。わかんないでしょ多分。今こんなに痩せましたし、サブチーフにもなったんですよ!」
 あ、覚えてる。まだ殆ど男の子だった僕達に、大きくなったら撮って見たいといった、あのおたくっぽい人!面影でわかったけど、今はすっかりかっこいい海の男姿。
「いやあ、趣味かもしれないんだけど、こいつに美少女とか撮らせると、うちじゃ右に出る奴いねえんだよな。今回こいつの企画なんだよ」
「よろしくお願いします!あの、そこの四人さん、去年の。いやあ、可愛くなりましたね。女の子って常に変身するから面白い。今年はいっぱい撮らせてもらいますよ!」
 さっきのチーフの紹介で少し照れながらその元おたく男が挨拶。でも大丈夫かなあ。純ちゃんはもうお尻大きくなってんだけど。他の三人は…。

 スタッフの人がバレーボールの支柱を立ててくれたので、まずは皆でビーチバレーする事に。他、スタッフの一人が横で簡単なカクテルとソフトドリンク、そしてフルーツとか用意してくれた。自分が男の子か女の子かなんか忘れて、僕達は歓声を上げながら楽しんだ。もちろん、去年付けてたパレオはもう取っちゃっていた。あのパッドは、僕達の下半身に、目だって付いてきた柔らかな脂肪の上にうまく食い込んで張り付いてくれてる。その上に水着用のガードルと水着を付けているので、あの部分は本当綺麗にカモフラージュされ、みけちゃんとか智美ちゃんの下半身と殆ど変わらなくなっていた。
 途中何度か、メイクのお姉さんに軽くメイクされ、プロ用写真機の大きなシャッターの音が響く。なんかすごく緊張する。
「緊張しないで、遊び、遊びなんだから」
 スタッフの人達の声が入るけど、だって僕まだ体が…。
 歓談中のディレクターチェアに座る三人の先生達は、お酒も少し入って早くも女王様機分。ふっくら可愛いまいちゃんは二人のカメラマンにちやほやされてご機嫌な様子。
「魚釣りに行く方、誰かいませんか?」
 スタッフの声にますみちゃんとゆり先生がプレスのクルーザで島の小さな桟橋から緑の海へ。横では美咲先生の運転するウォーターバイクに引かれたバナナボートで、純ちゃんがカメラに撮られながら歓声を上げている。
 やがてはスタッフの人々もビーチバレーに入り、皆の歓声が上がる。プレイするまいちゃんの大きくなった胸が揺れる度に、スタッフの人々の目線がそこに集まっているみたい。僕のまだまだ小さなバストが少し悔しい。
「ああ、女っていいなあ」
 僕が即席コートの脇で座ってたそがれていると、ともこちゃんが横に座った。
「とーもこっ、大きくなったじやん」
 僕はつんとともこちゃんの胸を指でつつく。でもたちまち背中に回られたともこちゃんに両手で胸を握られ、悲鳴を上げた。その時シャッターの音。
「ああん、こんな所撮らないで下さい」
 カメラの主は、あの元おたく男だった。
「いやあ、女の子のかわいらしさって、そういう日常の行動に良く出るんですよ」
 カメラを手にその男が笑う。
「私達なんて撮っても、可愛くないし。お尻だって小さいし」
 ともこちゃんが少しどきっとした事を言う。
「いやあ、そんな事ないですよ。アダルトはともかく、商用モデルの子とかは、そんなにお尻なんて大きくないんですよ」
「へえ、そうなんだあ」
 ほどなくそのカメラマンは僕の横に座った。
「いやあ、あなた達と話していると、なんか気疲れとか無くてすごく仕事し易い。話ししていても、普通の女の子はあいづち打つだけだけど、あなた達は答えてくれるよね。言われない?少年みたいだって」
「い、いいえ、そんな事いわれませんよ」
 僕はあわて首を横に。
「はははは、ちょっと失礼だったかな。でも俺はあなたたち気に入りました。もちろんあなたの他のお友達の方もね。それじゃ」
 その男は立ちあがり、今度は美咲先生の所へ。ちゃんとソフトドリンクを持っていく所がなんだか…、ふふふ。
「あたしたちってさ、まだまだ女の子になりきれてないみたいね」
 今度はともこちゃんが僕の胸をつつく。その指は僕の水着の下の柔らかい膨らみにずぶずぶ刺さっていった。
「えーっ、だってともこさ、前あそこ取られる前、本当は女の子になりたくないって言ってたじゃん」
「もう、あれは取り消し!」
 ともこちゃんの手が再び僕の胸を掴む。乳首がもろ刺激され、僕は変な悲鳴を上げちゃった。

 釣りに行った面々が帰って来たのは丁度お昼位。そこで昼食になった。サンドイッチとかおにぎりとかの入った小さな包みを開けて、テーブルに広げる僕達。
「皆さんもどうぞ」
 河合さんの声にチーフは笑いながら答える。
「ははは、お嬢様方、男の料理をお見せしましょう!おい、準備だ!」
 一斉にスタッフ達はクルーザに駆け込み、中から運び出したのは。
「わあ、すごい。こんなの料理するの!」
「美味しそう!」
 両手でやっと抱えられる大きな牛肉のかたまりをいくつも運び出し、棒に針金で固定し、支柱で支え、下で焚き火をし始める。傍らにはジャックダニエルとかハーパーとかのいくつもウイスキーの瓶が並ぶ。焼けた肉をテーブルの上の可愛いおにぎりとかサンドイッチの傍らにドスンと置いて、手際良く切り分けていく…。
「さあ、お嬢様方、どうぞ」
 そっか、これが女の子に対する男のもてなしなんだ。僕はとっても上機嫌。やがて皆は車座になってわいわい言いながら食べ始める。僕の横には、写真の専門学校を出たばかりという若いスタッフが座った。細いけど、日焼けした筋肉の付いたその男の子の手。その横には、それに比べて、日焼けしてもまだ白く柔らかく丸みを帯びてきた僕の手。
(こんなに変身しちゃった)
「おとりしましょうか」
 その男の子の声に対し、僕は先にお皿をとり、逆にその子の為に焼肉とサンドイッチを盛ってあげる。
「ありがとう」
 きつい仕事でお腹が空いていたのか、荒々しくぱくつくその男の子の横顔を僕はじっと見つめた。
(お仕事おつかれさま)
 何かが僕の心の中で変わっていくのを感じる。

 いつのまにか、ますみちゃんは荷物の中からギターとアンプを取り出し、屋外電源に繋いで、あのプレゼントされたギターを器用に弾き始める。以外にもそのメロディーは
「ハワイアンスチールじゃないから、音は少し違うけどね。あちきはこういうのも弾くんだよ」
 (ハワイの結婚の歌)とか、(小さな竹の橋の上で)とかハワイアン音楽を弾き始める。ふーん、只のロック少女じゃなかったんだ。
 仮眠したり、オイル塗ったりして十分休憩した後、午後は江ノ島近辺にクルーザで繰出す事にした。そういえば去年は追いかけられてさんざんだった。
 江ノ島近辺に近づくにつれ、浜辺の黒山のひとだかりと、車、車のすごい渋滞。とにかくものすごい込み様。よかったあ、あんな中に巻き込まれなくて。無線もいろいろ聞こえて来る。その中で、
「こんにちはー、又来てくれましたね、サファイア号の皆様!今年こそ合流しましよう。どうぞー」
 その時すかさず、同調させていたあのカメラマンのチーフの声が響いた。何かいろいろ喋っていたみたい。そして、
「あゆみさーん、聞こえますか。今後何喋られても黙っていてくださいねー、聞こえますかー、どうぞ」
 あのチーフの無線が聞こえた。
「なーんか、邪魔しないって言っててさあ、結局ずーっと邪魔されているじゃない」
「いいじやん、結構楽しいし、頼もしいし」
 美咲先生とゆり先生が何やら離していた。その時、僕達の前を走るプレスの人々のクルーザに、もう一台別のクルーザーが近づいた。なにやらあのチーフと対照的な七三分けにサングラスのアロハシヤツを着た人が、デッキで大声で何か喋っている。
「三宅!こら三宅!きたねえぞ!抜け駆けしやがって!」
「まあ悪く思うな!これでこの前の借はお返しだって!俺達独占契約したんだからよ!あとでみつくろってネガ送ってやるよ!他の所も今追い払ったばかりだぜ、はははは」
「まあ仕方ねえや!三宅!ちゃんとしたの送れよ!」
 あのチーフはその男に笑いながら答えていた。知り合いみたい。
「私達って狙われてたんだ」
 みけちゃんがちょっと得意げに呟く。
 ちょっとポーズとかとって、船の上での写真とか撮られた後、葉山の予約してあったヨットハーバに係留した後、僕達はプレス側で用意したというレストランに入った。
「午後のデザート、僕達がおごりますよ」
 予約されていたレストランの一角に通され、デザートのコースが運ばれた。十人の女の子と数人のカメラマンはとっても目立つみたい。レストランの中とか、デッキとかから、何人もの人が何事かとのぞきに来る。始終カメラで撮られた僕達、本当のモデルになった様で悪い気はしなかったけど、もう気になって気になって、折角の焼きクレープの味なんて殆ど判らなかった。
「ねえ、ゆり先生。真琴クンと陽子ちゃん可愛そう。僕達だけこんな楽しんでさ」
「…仕方ないわよ」

「それじゃあ、僕達編集の仕事が有るので、このへんで!」
 ようやく解放されたのは午後三時頃。今となってはとっても別れるのが辛くなったプレスの人に送られ、そして僕達はそのクルーザに手を振りながら夏の午後の日差しと波の音の心地良い中、伊豆の別荘に向かった。
「楽しかったね」
「うん、良かったあ」
 皆で口々に言いながら別荘下の桟橋で余韻に浸っていた。そんな中僕は荷物を降ろし、別荘の階段へいろいろ運んだりしていた。
「あといくつ位かなあ」
 荷物運びに疲れ、ちょっとクルーザの中で休憩していると、波音の聞こえる夕焼けの中、船首のデッキの上に四つのシルエットが写る。誰かはすぐに判った。
「あれえ、純とみけと智美と、ますみもいる」
 あのアンミラのバイト以来、すっかり仲良くなって、今や僕抜きでもあんなに楽しく喋ってる。なんか仲間外れな気分だった。耳をすますと、波の音と海鳥の鳴き声に混じって会話が聞こえて来る…。

「純さんも、ゆっこも羨ましいなあ。可愛くて、スタイル良くて、拳法とかも出来るし、こんなクルーザとか持っている人とも知り合いだし」
「そう?私ってそんなに羨ましい?」
「うん、すっごく。お友達になって良かった。あれゆっこは?」
「今いろいろ後片付けしてるんじゃない?」
「あ、手伝いますよ」
「いいって、ゲストの人はここで遊んでていいのよ」
 こら、純!お前も手伝え!と声をかけようとした時だった。
「ねえ?私の事本当にお友達として気に入ってくれた?」
「うん、とっても」
「私がどんな人でも?」
「え?」
 純ちゃんは、女らしくなってきたお尻を僕の方に向け、船首から遠くの海を見つめている様だった。その横でみけと智美の横顔のシルエット、そして少し離れてますみちゃんが別の海を見ている。その時、純のシルエットがみけと智美の方に向って、何やら内緒話しする格好。そしてその瞬間、二人のシルエットは純から一m程飛び跳ねる。
「えええーーーーーーー!」
「嘘!嘘でしょーーーー!」
 嫌な予感が僕の全身を駆け抜け、ぞっとする感覚が手足に。
「純さん、あたし信じられない!」
「純さん、ひょっとしてニューハーフだったの?だって高校生でしょ!」
「ううん、ニューハーフでもないんだ。あと二年すれば、あたし、赤ちゃんだって生めるもん」
「みけしゃん、智美しゃん。実はあちきこの事知ってたんだ」
「えええ!?」
「どういう事!ますみ!」
 始めて口を開くますみちゃん。でも、どうして!どうしてばらしちゃうの!純!
 二、三言会話した後、智美ちゃんととみけちゃんは、純ちゃんの体を所々触り始めている。
(純、ちょっと、ちょっとやめてよ!!)
 でも、僕が今出て行ける状態じゃなかった。そして四つのシルエットは小声でいろいろ喋り始める。時々みけと智美のびっくりする様な声。デッキの操縦席近くに身を移した僕は気が気でなかった。やがて純ちゃんは携帯電話で誰かとお話しし始めた。その時もデッキのシルエットからすごい驚きの声が上がった。
 しばし沈黙が続く。沈みつつある太陽はその色を鮮やかにし、かもめの声が少なくなり、波の音が大きくなっていく。
「でもさ、純ちゃんは純ちゃんだもん。あたしは別にいいと思うな」
「怪しい人って訳でもないし、本当の女の子になるんでしょ」
「普通の男ってさ、女の子に隙とかあったら変な事したり考えたりするじゃん」
「純さんてさ、恋愛の対象って男の人なんでしょ?だったらいいじゃん」

 その時桟橋を誰かが歩いて来る音がした。僕は慌てて椅子の影に隠れる。そして僕が見たのは。
「陽子!真琴!?」
 出かかった声を必死でこらえ、僕は息を飲んだ。何を、何を考えてるの純!
「よ、陽子。どうしてここに!?」
「伊豆の療養地って、陽子、あなたまさか、あなたも男の子?だったの」
「みけちゃん、智美ちゃん、ごめんなさい。今まで騙してて。あたし、本当の女の子になる為にここに来たの。それでさ、この子誰だかわかる?」
 始終うつむくそのシルエットが陽子ちゃんから紹介された。その時、
「渡辺クン…だよね。みけ、渡辺君だよ。でもまさか」
「あたしも今判った。でも、胸あるじゃん!ほら学校で一緒のクラスだった時ってこんな風じやなかったよね!?」
 うつむいていた真琴ちゃんがすっと顔を上げた。
「みけちゃん、智美ちゃん。これが今の僕なんだ」
 真琴ちゃんは手をもぞもぞさせ始めた。
(うっそー!)
 僕は口に手を当てた。あろう事か真琴ちゃんはその場でTシャツを脱ぎ、ブラジャー姿になっていた。シルエットからも胸の膨らみがよく見える。そしてとうとう両手を女の子らしく背中へ、程なくブラジャーが外れると現れたその小さな膨らみに、かわるがわる触るみけちゃんと智美ちゃん。
「渡辺…君!?」
「う、うん、僕、女の子になるんだ。何か今でも信じられないけど、いずれ赤ちゃん生める体になるんだ」
 ブラジャーを元通りに着ける彼に、みけちゃんが手助けしてホックを止める。
「わかってくれた?あたしはもうお尻だって大きいし、もう子宮だってあるけど、真琴ちゃんは最近訓練始めたばかりなの。陽子ちゃんは、時期が来たら手術になるかも。そしてね。もう一人会わせたい人がいるの」
 まさか!と思った時、純ちゃんの非情な声が聞こえた。
「ゆっこ!そこにいるんでしょ。もう出てきたら?」
 僕は頭がぼーっとなり、操縦席から立ちあがって、デッキへ向った。だめだ、まともにみけちゃんと智美ちゃんの顔が見れない。
「ゆっこ…、ともこちゃんも、まいちゃんも、そしてあなたもそうだったんだ」
「なんかあたし、信じられないよぉ」
 みけちゃんが両手で顔を覆った。

 暫くは誰も口を開かなかった。純ちゃんは相変わらず遠くの海を見つめてる。他はみんな思い思いの格好で海を見つめてる。でも皆うつむいたり、目を閉じたり。
 長い沈黙の後、智美ちゃんが切り出した。
「渋谷でさ、あたしをチーマーから助けてくれた時さ、なんか女の子って気がしなかったけどね、やっぱり」
 みけちゃんがその言葉に頷く。
「みけ、智美。あたしの場合ね、子宮はまだだけど、体の中には卵巣だけ入ってるの。ねえ、あたしの事嫌いになった?元男の子のあたし」
 僕は涙も忘れ、恐怖で声も細々としか出ない。でもその時、
「誰が嫌だって言った?あたしを助けてくれたじゃん。あのゆっこに変わりないでしょ」
「ゆっこといると楽しいもん。本当の女になるんでしょ?何年かしたらさ、あたしたちと同じ体になるんでしょ。いつまでも友達だよ、ゆっこ」
 恐怖が解け、緊張が一気に解けた僕はその場で座り込み、大声で泣き始めた。その背中でみけちゃんと智美ちゃんが背中を摩ってくれたり、手を握ってくれたり。そして、その時、
「ますみ!何であんただけこんな秘密知ってたんだよ!」
「自分だけ、一人優越感に浸ってたんでしょ?」
 秘密を知った二人は少し涙声で今度はますみちゃんに食らい付き始めた。
「じ、冗談じゃないですよ。あちきだってこの秘密知ったとき、本当に誰かに喋りたくて喋りたくてむずむずしてたんですから!ほらこの前アンミラでさ、男の子なのに、あちきより可愛い姿してたゆっこしやんと純しゃんみてたら、もう悔しくって悔しくって、それこそ、学校の放送室に忍び込んでさ、マイクに向って全て喋ってやろうかって思った位で、わあああ、やめて下さい!ちょっと、やめて下さい!!」
 程なく大きな音を立てて、ますみちゃんは、みけちゃんと智美ちゃんと純に担がれてデッキから海に落ちた。でもその時、皆の顔には笑顔が戻っていた。
 純ちゃん、有り難う。自分をまず盾にしてそして僕の事を皆にうまく話してくれたんだ。

 結局その日は予定を変更して、皆で別荘に泊まる事に。手分けして軽く後片付けの後、別荘の広い浴場へ。もうさながら修学旅行の旅館の女湯みたいな混雑と騒がしさだった。そして、皆の背中にくっきり付いた水着の跡。僕も胸に付いた可愛いそれを触りながら、去年の夏、一人で海で泳いだあの時を思い出した。体型が女性化しつつある今、もう今あの海水パンツはもう履けないだろう。もう後戻り出来なくなった自分にちょっとキュンとしている僕。で、そんな中、
「真琴クンがいないよ」
「いいよ、真琴クン入っても」
 みけちゃんと智美ちゃんの言葉が意外だった。
「えっ?でもあたしとか陽子はほとんど体が女だけどさ、真琴ってさ、胸は出てるけどまだ体が男だよ」
「いいのいいの、気にしないから。えへへ、何かいろいろ教えてあげたくなっちゃった。女の事とかさ」
「えへへっOK。連れてくる」
 バスタオルを胸に巻き、飛び出して行ったのは純ちゃんだった。
「純!何、行儀の悪い!」
 風呂の外で美咲先生の声がする。そして程無く、
「嫌だよ、僕、恥かしいもん」
「さあ、早く脱いで!あたしだって元男だし。男の裸なんて見慣れてるからさっ」
「でも、二人本当の女がいるじゃん」
「その子達が一緒に入ろうって言ってんだから」
「男物の海パン無い?」
「もう、いいかげんにしなよ!先輩の言う事聞けないの!!」
 そっか、真琴ちゃんて女という点から見れば一番新人なんだ。あはは。やがて胸にバスタオルを巻き、頭にキャップを被った真琴ちゃんが登場。みけちゃんと智美ちゃんの大笑いの声が風呂場に響く。
「真琴クン可愛い!」
 胸をタオルで隠して恐る恐る浴槽に入ろうとする真琴君、
「はーい、ご開帳!」
「あ、何するんだよぅ」
 そのバスタオルを浴槽のみけちゃんが剥ぎ取り、一緒に入っていた僕は一瞬ぎょっとした。あれから僅か二ヶ月しか経ってないのに、真琴ちゃんの乳首は小指程の大きさになりつんと上を向いている。白くなよっとし始めた体に、ブラジャーの跡が付いた胸はもうAカップ程の膨らみが有った。
「真琴!何男言葉喋ってるのよ!女言葉使うんでしょ」
「だって、だってさ!」
「いいの、あたしが許してるんだからさ」
「このおっぱい可愛いじゃん、ほら」
「わあっ」
 智美ちゃんが浴槽にダイブする形で、真琴ちゃんの胸を後から触る。可愛そうに真琴ちゃんはみけちゃんと智美ちゃんのおもちゃみたいになってる。その時、みけちゃんの足に真琴ちゃんの興奮した男性自身が当たったみたい。
「キャ!何これー!」
「みけ?どうしたの?」
「真琴ったらさー、あれ大きくしてんの。いやらしい。今足に当たったの。ねえ純さん、真琴のこれいつ取るの?」
 あまりの展開に髪を洗ってた純ちゃんが大声で笑い出す。
「みけちゃん、もう勘弁したげなよー」

 お風呂から出ても、真琴ちゃんは皆の玩具同然になっていた。広い応接間で、伸び始めた真琴ちゃんの髪を、皆で真琴自信によって三つ編みとかに結ばせるけど、当然うまくいかない。両脇に座ったみけちゃんと智美ちゃんが、困惑してる真琴ちゃんの髪を引っ張ったり肱でこづいたり。そして文句を言う真琴ちゃんの言葉遣いを、女言葉で言い直させたり。
 真琴ちゃんも、見知らぬ人にならともかく、元クラスメートの女の子達にそんな事されるのが面白くないみたい。
「もう嫌だよ!僕女になるの嫌になってきた!」
「何、あたし達先輩に逆らう気!?あんたより一五年以上女やってんだからね!」
「何よ!胸こんなにしてる癖に!可愛いブラまで付けてさ!このぉ」
 両脇の二人は、スカートからパンツが見えるのも気にせず、真琴ちゃんに襲いかかり、小さな胸を再びもみ始めた。
「やめてよー!痛いんだからさ!」
 みけちゃんのパンツとか見えても、そんなに興味も持たなくなってしまった僕。昔だったらそんな光景ってお金払ってでも見たいって思ったのに、僕本当に変わった。そんな彼女達を見ながら、キャミソール姿で髪をタオルが拭きつつ、純ちゃんが微笑む。
「ああ、良かった。ほらあたしのバラシの賭けは成功した訳だ」
「でももしうまくいかなかったら、どうするつもりだったの?」
「まあ、その時の後三手程は考えていたからさ」
 へええって感じで、まいちゃんとともこちゃんがお互い顔を見合せる中、純ちゃんがジュースの入っていた紙コップを口に咥えたまま、新しいそれを取りだし、その女の子に変わり始めた少年を苛めてるみけちゃんに手渡した。
「はい、これ。女同士の杯。二人で飲んでさ、後で真琴に渡してあげなよ」
「わあ、何か面白そう」
 みけちゃんと智美ちゃんが、中に入ったジュースを一/三ずつ飲んだ後、そこでまだひっくり返ってる真琴ちゃんに手渡した。
「ほら、真琴。純さんの用意してくれた女の杯、飲みなよ!」
 もう、完全にあの二人は真琴ちゃんを男扱いしていない。
「もうやだ!女ってさ、男同士より怖いじゃん。え、これ?飲めばいいんでしょ」
 何の躊躇いも雰囲気も無く、片手で一息に飲み干す真琴ちゃん。
「あーーーっ」
「やなやつーーー!」
 皆が口々に罵る中でとうとう純ちゃんが口に咥えたコップを真琴ちゃんにぶつけて叫ぶ。
「真琴!!あんた、いいかげんにしないと、まじで男に戻すぞ!」
「あ、ごめんなさい。純さん!」
「罰としてさ!罰として!」
 一瞬みんな静まり帰った。
「罰としてさ、明日、あたしの水着一つあげるからさ、それ着て皆と泳ぎに行く事!!」
 みんなほっとした後、笑い声があたりに響きわたった。と、その時、
「あんた達、ゆり見なかった?マキは?」
 なんか怒った様子で美咲先生が応接間に飛び込んで来た。
「え、お風呂じゃないの?」
「クルーザの格納庫で今日貰ったプレゼント見てたけど、あ、でもそれから大分経つわね」
 まいちゃんとともこちゃんが口々に喋る。
「あのさ、今日のプレスの連中どうもおかしいと思ったらさ、やっぱり今日の事ばらしたのゆりだったのよ!」
「えーーーー!」
「本当!?」
 皆が驚く中、美咲先生が話し続ける。
「でさー、さっきゆりが来て、今日のギャラとか言ってさ、二十万円あたしに手渡すのよ。マキとゆりも二十万円ずつだって!」
「えー、信じらんない!」
「あんなにさー、プレゼントとか、美味しいお肉とかさ、レストランまで予約してもらってさー、それにとっても楽しかったしー」
「ちょっとひどいよねー、返した方がいいんじゃない」
 皆口々に非難する。ところが、
「あんたたち、そうじゃないでしょ!このクルーザとか今日の事とかさ、全部あたしが仕切ったんだから、あたしが全額貰うべきでしょ!」
「え、え?」
「あ、そう?」
「あ、そうなんですか…」
 皆が一瞬呆れてきょとんとする中、
「ゆり、どこ行ったんだろ。捕まえて取り返してやる!」
 どたどたと音を立てて、美咲先生は再びゆり先生達を探しに行ったみたい。ぽかんとあっけに取られている僕達。やがて、
「美咲先生ってさ、気高いと思ってたけど、案外俗っぽい人なんですね。あちきますます好きになっちやいました」
 ソファーの上で三角座りしているますみちゃんが、コップにジュースを継ぎ足しながら楽しそうに喋った。

 翌日、昨日の残りの食料と飲み物を持って、再び近くの美咲先生の小島にクルーザで連れて行ってもらった。
「純、ありがとう。ゆっこの悩みとか、陽子、真琴の寂しさとか、一気に片付けてくれて。本当お礼を言うわ」
「いいって、あたしをここまで女にしてくれたんだもん。お礼したいしね」
 美咲先生と純ちゃんがにこやかに会話していたのを僕は本当に感謝の気持ちを一杯にして聞いていた。
「じやあ、みんな着いたわよ。あたしはここで休んでいるから、戻る時になったら行ってね」
 陽子ちゃんは水着の経験があるみたいで、僕達と一緒になり、海に漬かって皆と水の掛け合いを始める。そして、
「真琴!罰ゲームだよ、分かってる!?」
「あ、あの、恥かしいよ」
 純ちゃんにもらった珍しいギンガムチェックのAラインの水着を付けた真琴ちゃんが純ちゃんに手を引かれて海に。
 皆に水を掛けられ、そしてやり返すうち。真琴ちゃんの言葉使いは自然に女言葉に変わっていく。誰にも邪魔されない綺麗な小島の海で少し遊んだ後、白い砂に座りこむ真琴ちゃん。その肩を掴む様に触る僕。当然ながら、手の感触はまだ男の子そのものの固い物だった。
「真琴ちゃん?どう?始めての女の子の水着着た気分は」
「うん、あたし今日始めて本当に女の子になれたって思ったわ。太陽がさ、僕に女を焼きつけてるって感じがする。ほら」
 ちらっと水着の胸元をめくる真琴ちゃんの体には、くっきりと女の子の水着の跡が付き始めていた。

 

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