メタモルフォーゼ

(9) 「女性化最後の儀式お母さんごめんね」

 とうとうその日が近づいて来た。ゆり先生の車の中、まいちゃんの横で僕はずーっとぶるぶる武者震いしっぱなしだった。純ちゃんの手術は成功なんだって。おめでとう。擬似女性になった純ちゃん。そして僕はもうすぐ両性体に。体の震えが全然止まらない。まいちゃんが話しかけてくれるけど、殆ど受け答え出来ない。
 久しぶりの早乙女クリニック。到着すると、パジャマ姿の、え!ともこちゃん?
包帯が今朝取れたというともこちゃんの顔。可愛い二重、小さくつんとした唇、ふっくらした頬。
「ゆっこー、ようこそ変身ルームへ!」
 可愛く手を振り、僕に抱き付いて来たその柔らかい女の子。
「ともこ。その顔、どう見たって、若い時の鷲尾○知子じゃん」
「ああん、恥ずかしい。んでんで、ゆっこ、いつ女の匂いになったの?」
「え、この匂い?あはは秘密」
 まいちゃんが横でくすって笑う。

 早乙女クリニックは騒がしかった。白衣姿のいろいろな見知らぬ人達。前に見たちょっと不気味だった地下室に次々人が出入りする。二階の部屋で少しくつろぐ僕。その時
「ダンダン!!」
 すごいノック音、誰よそんな乱暴に!
 ドアを開けて、現れたのは、何と見上げる様な二m近くの身長に、がりがりの細い体、窪んだ目と鷲鼻!
「キャッ」
 思わず叫ぶ僕。その怪物は僕に怒鳴った。
「キサマ、ガ、ジッケンタイ、二十七ゴウ、カ!」
 びっくりして腰を抜かして立てない僕に、その怪物は更に怒鳴る。
「ドウシタ、ナゼ、コタエナイ!!」
 誰、誰よ、この人、あ、もしかして。
「ドクターライ!こんな所に。皆が待ってますわ。あ、始めてでしたわね。すみませんご紹介が遅れまして。明日、卵巣移植の…」
「シッテイル!カルテヲミレバワカル!コイツデサイゴカ!!」
 な、なんて失礼な。そんな僕にゆり先生がウインクしてくれた。
「ドクター・ライ、私の恩師よ。これでも執刀医なの。ドクター、純の所へ」
「ジュン!ナンダソレハ!ジッケンタイ二十六ゴウのコトカ!?」
 突然のびっくり出来事!えー!?、僕あんな人に改造されるの!?

 僕はまいちゃんとともこちゃんを探す。二人は一階の先生の部屋にいた。
「まい、ともこ、なにあの人!」
 コーヒーを飲んでいた二人は、同時に吹き出して笑い出す。
「ゆっこ、見た?、見たんでしょ!ライ先生!すごいよねー、怪物だよね」
「私二十八号、ともこが二十九号なんだって。ゆっこが二十七号だよね、ははは」
 二人の話しに幾分心が収まる僕。
「香港の人だって。腕はすごいんらしいよ。私達二人ともあの人に手術されたんだもん。泌尿器と心理学と外科の国際的権威なんだって」
 へええええええ…
「純ちゃんは?」
「うん、今面会謝絶だって。たぶんずっと眠ってると思う」

 とうとう手術の朝。僕は早起きして。パジャマの上から上着をはおり、まだ暗いうちからクリニックの庭へ。寒い中、男の子である最後の朝を体で感じたい。そんな僕の頭の中で、まだ心にひっかかる最後の関門の事。ふとその時、
「ゆっこちゃん。もう起きたの?」
 ゆり先生だった。
「あ、おはようございます」
「おはよう。あ、丁度いいわ。皆まだ来てないし、早いうちがいいから」
「あ、先生。それって」
「まいちゃんとかから聞いてるかも知れないけど」
「何か、最後の関門とかで」
 僕の体がまた武者震いし始める。
「じゃ、今から始めるわ。こっちいらっしゃい」
 僕はごくりとツバを飲んで、ゆり先生に続いた。

 先生に連れられて始めて行く地下室。扉を開けると、そこはアルコールの匂いが漂うすごい実験室みたいな所。ガラス張りのいくつもの部屋に並んだ装置・薬品・資料。二人の女の白衣の人が何かパソコンの前で仕事してるみたい。すごい。こんな部屋がゆり先生のクリニックの地下に有ったなんて。そして奥の方の部屋に何やら薄いピンクと白の不思議なカプセルの様な装置。
「これよ。純も、まいもともこも。みんなここで可愛く変身したの」
「フェアリールーム」と書かれたルーム名プレートの部屋。でも先生はそこを素通りそして一番奥の部屋に行った。
「ゆっこちゃん。ここから先は一人で入りなさい」
 真っ暗な部屋の中、ちょっと怖い。入っていくと隣のガラスで仕切られた薄暗い部屋にゆり先生が椅子で座っている。そして部屋の中に一条のライトが照らされた。
「キャッ」
 その先に照らされた物を見た僕は思わず叫んでしまう。そこには一人の台の上に寝た全裸の男の人、いや良く見ると首だけがない男の全裸模型だった。そしてすごくリアル。特に、その見事に立った大きな男性自身が不気味だった。
 僕はとっさに部屋から出ようとしたけど、ドアにはカギが掛けられている。
「先生、ゆり先生、開けて!開けて!!」
 今にも起きあがり動き出しそうなその模型。でも先生は座ったままだった。
「ゆっこちゃん。最後の儀式とも言えるテストをします。あなたの場合、これを話したらテストの支障になると思って秘密にしておきましたけどね」
 僕は嫌な予感がして、じっとガラス越しゆり先生を見た。逆光で見えない先生の顔。部屋のスピーカーが再び喋り始めた。嫌な予感は的中した。
「これからの事は、あなたにとってもう決して遊びではないのです。あなたには卵巣が移植され、もうちょっとの事では男の子には戻れない体になるの。はっきり言います。男の子を捨ててちょうだい。これから先は男の子を捨てた人だけに私達は治療の継続を行うの。ゆっこちゃん。今から暫くの間。その人形の男性自身を愛撫して、口に含んでちょうだい。センサーが仕掛けて有って、長い間上手に行った場合は、その先から精液に似せた…」
「いやあああ!」
 大声で叫び僕はへなへなと座る、そんな事だと思ってた。絶対何か最後にされるって思ってた。でも、こんな事嫌だ。
「先生っ、出してっ、出してよ。あんなに厳しい特訓受けたもん!、ねえ、手術して。ねえっ!」
 ドアをどんどん叩き、泣きながらゆり先生に哀願する僕。
「あーあ、だめだわ、予想以上に深刻だわ、こりゃ」
 先生の独り言がスピーカーを通して聞こえてくる。
「ゆっこちゃん。ねえ、とりあえず口に含むだけでもやってよ」
 先生の声がいつのまにか優しくなる。
「嫌っ絶対嫌っ!」
 悲鳴に近い声で僕。そんな卑猥な事出来ないよ。先生の言葉にかたくなに抵抗しながら、十分二十分と時間が経過していく。
「ねえ、ねえ、ゆっこちゃん。人形なのよそれ。本物じゃないのよ。お願いっ」
 僕はやっと目を明け、その人形を見つめた。ぐずり疲れて少し気分的に落ち着いたのか、とにかく、どんなものか見るだけでも見ておこうっていう気分になった。
 泣きべそをかきながら僕は人形の傍らへ行く。そして触ってみた。僕はまたわめく。
「先生、人間みたいだよ!暖かいし、ぐにゅって触り心地だし!」
「そのまま、ペニス握ってみて」
 先生も急かす様に。僕は震える手でそっと握った。そう、人形だ、人形だもん。でもそのとたん、僕の頭に残っている男の部分がわめき出した。
「やっぱりいやだあ!先生!僕ホモじゃないもん!」
「もーっ!ゆきこ!!あんた女になるんでしょ!!」
 ドンとガラスを叩き、初めて先生が僕を呼び捨てにして怒った。ごめんなさい先生。僕まだ男がすごく残ってるみたい。男の子として男性自身口に含むなんて、口が抵抗する。でもでも。
「ゆきこ、もういい。無理しないで。カギ開けるから出てらっしゃい。やっぱり無理だったのね、あなたには」
 とうとうゆり先生の諦めの声。カギを明けに椅子から立とうとする。その時僕の頭の中で育ってきた女の子の部分が反撃し始める。
「待って、待って先生!やる。やります!」
 僕は、じっとそのそそり立つ物を凝視していた。それは大きいけど懐かしい形をしていた。僕にも昔こういうのは付いていた。今でこそもうこの十分の一位になっちゃってるけど。
 見ているうちに、ふと昔の記憶が頭の中に浮かんで来る。寝ている僕にのしかかる様にして僕の物を口に含んでくれた、かっての恋人の雅代ちゃん。その可愛いおしりをなで、頭を撫でてあげると、目を細める様にして一生懸命しごいてくれた。その光景がふっと消え、今度は中学時代の友達の部屋。初めて見る裏ビデオに映る、可愛いAV女優達。男のペニスを口に含み、あえぎ声を上げる姿。演技だって分かってても、とても幸せそうな顔してた。そしてそのシーンがだんだん僕になっていく。ペニスを口に含み愛撫する胸の膨らんだ丸くて可愛い僕。いくつも裏ビデオ見たけど、男のそれを口に含んでる女の子達はみんな幸せそうだった。
 僕はベッドの傍らに手をかけ、無言でじっとそれを見つめた。硬そうな体につんと立ったその姿が、もうそれを失ってしまった僕には、何だか頼もしく感じる。これって男そのものなんだ。僕が変身しようとしている女って、それを受け入れる為に、ふうん、何だか不思議だな、男と女の形って。なんか関係ない事ばかり頭の中で考える僕。その時、
「ゆっこー、何やってんの」
 スピーカーからいきなりまいちゃんの声。横にはともこもいる。多分ゆり先生が呼んだんだ。
 その時、ガラス越しの部屋で喋るまいちゃんの横で、ともこちゃんが横を向き、あっ、まさかともこ!。
 ともこの去勢が決まったとき、本当はそんなに女になりたくなかったって泣いたともこ、あのともこが、某女優そっくりになったともこちゃんが、その口にあれを頬張るAV女優の真似をして、目をぱちくりさせながら、可愛く僕の方に向き直る。まいとゆり先生の笑い顔。
「ゆっこ、ひとおもいにっぱくってくわえてさ、その人形に優しくしてあげなよ!」
 まいちゃんがガラスをドンドンさせながらマイクで喋る。やっと僕にはバンジージャンプに挑む人の気分と同じになってきた。そう、ひとおもいに。うまくやればすぐ終わる!でも、でも。
「先生、部屋暗くして。そして、みんなそこから見ないで。恥ずかしいから」
 やっと決心がついた感じ。ゆり先生もほっとした様子。
「じゃ、センサーだけ監視しておくわ。じゃみんな、出ましょう」
「えーっ、ゆっこが男を捨てる瞬間見たかったのに」
「だいじょうぶ、モニターからみれるわよ」
「あっそうか」
 隣の部屋は暗くなり、ライトに照らされたその男性器と、傍らの僕。なんだか教会で懺悔してるみたいだった。部屋の中は静かで、時折何かの装置の音がカチカチ。僕の呼吸が荒くなって、喉がカラカラになってくる。皆が消えてから、もうかなり時間がたったと思う。そうだ、やらなきゃ。これ、フェラチオって言うんだよね。女の子が男の子にしてあげる、いい事。
 僕は目をつむり、そっと両手でそれを掴んだ。生暖かくて硬い。本当に良く出来てる。目を明けると、それを掴む僕の手がライトに照らされてすごく神秘的に輝いてた。
「僕の手って、こんなに柔らかくて白かったっけ」
 独り言の様に呟き、僕は覚悟を決め、目を瞑り、口をそれに持っていった。
(お母さん、僕男を捨てます)

………ぱく…あう…

 とうとう口に含んじゃった。その瞬間体に電気が走ったみたいな気分。いや、それは気分じゃなく、電気ショックだった。なんか不思議な感覚が全身を覆って行く。
「あ…あう」
 僕の乳首とか、退化したあそことか、背中とか、電気を流された様にジーンと感じて行く。あ、あ、僕変になりそう。全身の快感に僕は目が虚ろに。そして無意識のうちに口の中の物をやさしく愛撫。
「う…うううん…」
 ああ、自分が消えて行くみたい。僕は無意識のうちに人形に馬乗りになり、人形のあそこだけでなく、いろいろな所を愛撫し始めた。
「あは、うふふっ」
 僕、なんで笑ってるんだろう、なんでこんなに感じるんだろう。ああん、いい気持ち。とうとう僕の片手は自分の胸に。もう完全に飛んじゃった。

「わあすごい、ゆっこ。シックスナインみたいになってる」
「ゆっこって、本当はあんなに淫らな娘だったんだ。ねえ、先生あたしあそこまでやんなかったよね」
「何言ってんのよ。あの子の感覚が敏感なだけだったのよ。ふう、それにしても、あの子ってわかんないわね」
 モニターを覗き込み、ゆり先生達が口々に好きな事を言うけど、僕には聞こえない。二十分後、男のあれに似せたセンサーが作動し、それに似せた薬が僕の口の中にぶちまけられた。
「あう、うぶぶっ…、きたなあい」
 頭の中で何かのスイッチが切り替わった僕の虚ろな目。
「終った、終わったよ…」
 薬まみれになったそのものを眺めながら、僕の中で微かに残っていた自分が、そう呟いた。

 麻酔にも似たあの快感が全然覚めない僕。ふと気がつくとあのフェアリールームの中のカプセルに、可愛いパープルのパンツだけの姿で寝かされていた。
 あ、ゆり先生、美咲先生。白衣姿のまいも、ともこもいる…。ああ、頭がぼーっとする
「じゃ、ゆっこちゃん。女にするよ」
 後ろを向きながら先生はいろいろな装置の電源を入れていく。そしてカプセルの上部を明け、ケーブルに繋がれたその装置。それは下から見ると、二つの大きな丸いくぼみが見える。それをゆっくり僕の胸の上に
(あ、これ、胸の整形でもするのかな)
 白くなった体に大きな乳首。降ろされたその装置は僕の両方の乳首をカチッと摘む。
(い、痛っ)
 何か注射が打たれたみたい。すごく痛くて僕はぎゅっと手を握った。その瞬間。
「あ、あ、ああああああああああん!、いっいやああああああああん!」
 僕は目を見開き、今までに出した事のない、よがり声みたいな声が口から出た。胸の先を柔らかい羽の様な物とかいろいろな物がくすぐって行く。頭がおかしくなりそう。
「ゆり先生!先生!これ、いやああああん」
 マスク越し、ゆり先生が声をかける。
「いいのよ。声出したけりゃ思いっきり出しなさい。そして我慢してね。暫く続くから。それね。あんたの胸の形とか、乳腺とか、完全に女の子に変えてるの」
 そんな声なんて聞こえない。頭とか体の中で何かがはじけとぶ。僕は無意識のうちに腰を動かし始める。固定用の腰ベルトがぎしぎし音を立る
「やだ!先生、やめてえええ、いやあああああん!」
「ゆっこちゃん!しっかり!しっかりして」
「気絶しちゃだめ。自分をしっかり持って!!」
 大声で泣き叫ぶ僕にまいとともこが声をかける。
 今までに経験した事の無い快感。頭の中で何かが回ってる。やがて、その鋭い快感は少しづつやんわりした快感に変わっていく。涙でぐしょぐしょになった僕の顔はだんだん快感に溺れる女の子の笑顔になっていく。
「う、うううううん、あああああん……」
 だんだん僕の腰の動きは、男性の縦運動から、丸く円を描く女の腰の動きに変わっていく。前にゆり先生に女の手ほどき受けた時みたいに。でもそれは一時的な物だったけど、もう今は違っていた。酷く言えば、僕の神経に無理やり異常を起こさせ、何か嬉しい事が有った時の腰の動きが女の動きにしかならない様に固定させる為だったらしい。
「う、うううん……」
 僕の治療はまだ続く。ああ、だめっ壊れそう。完全に神経のどこかが逝っちゃったのがわかる。
「ゆっこ、もう大丈夫だよね」
「ゆっこ、すっごいよだれ出てる。はははっ写真撮っときたかったな」
「ダイジョウブダ。ニダイノモニター、ガ、マワッテイル!」
「キャッ」
 部屋に入ってきたライ先生に、ともこちゃんが驚く。
「あ、先生。もうすぐ前処置終ると思います」
 その言葉にライ先生は傍らの二十本位の脳波形を一目見るなり吐き捨てる様に言った。
「バカモノ、マダコイツハ、クルッテイナイ、モット、イタメツケロ!!!」
あ、あの先生…

 ふと我に返った僕。頭ががんがん。そしてぼーっとする。僕の胸の装置は取り外されていたみたい。確かめようとして起きようとしても、全身が固定されていて動けない。後ろ向いていたゆり先生が気付く。
「あ、ゆっこ。気がついた?すごいよがり声上げてたよ。「おとうさん」とか、「おかあさん」とかも喋ってたのよ。何か私達悪いことしてるみたいだったわ。一時間近くもね。もう終わったけど」
「あ…先生、もう終ったの、僕の手術」
「ううん、まだまだこれからよ。でもね、後は全身麻酔かけてやるから、もうあんなに快感に苦しまなくても、うふふっ、いいからね」
「ゆり先生、僕の胸改造されたんでしょ。見たい…」
「だめよ。すぐに次の手術が始まるから」
 そして程なく入って来たマスク姿大勢の人。男や女や外国の人もいる。部屋は少し騒がしくなってきた。
「デハカイシスル!タイショウ、ジッケンタイ二七ゴウ、ヒトカ、オスニ、メス、セイショクキノイチブ、イショク!」

 まだ麻酔でぼーっとした僕に数本の注射。そして腰に載せられた大きな複雑な装置。あ、パンツずらされているみたい。電子的な、つんとした音が鳴り響き、僕の体を何かが触り始めた。
(ああっ神様っ!)
 痛くないけど、僕は目を瞑る。心臓のどくどくする音が僕の耳に入ってくる。傍らでライ先生が複雑な装置に手をはめ、操作している。その手の動きと共に、僕のお腹で何か触られている気分。そうなんだ、マニュピレータなんだ…
ぼうっとした頭でそんな事思っていると突然、お腹がすごく涼しくなった。
「あ…」
 そして、それはポトンと落ちてきた。僕の体の中に。氷みたいに冷たい物。
「あ、卵巣…」
 それは僕の体温を吸ってだんだん暖かくなっていく。遠くで、ライ先生の手が細かく動く。ちくちくする様な不思議な感触。多分いろいろ繋ぎ合わせてるんだ。そしてこの瞬間、僕の性別は男性から両性に。
「お父さん、お母さん、ごめんね…」
 ふと僕は呟き、一筋の涙が目から毀れた。
「おやすみ、ゆっこちゃん。目が覚めたら、あなたは半分女の子よ」
 僕のおでこに軽くキスされた感じ。その直後ふわっとした思いが僕を取り巻き、僕はすっと気を失った。

「幸男、待てよ。一緒に帰ろうぜ」
 僕を呼びとめた親友の重雄君。よく一緒に帰ってるんだ。
「おい、角に新しく定食屋できたろ?もんじゃ一00円だってよ」
「あそこのヤキソバうめえんだぜ、行こうぜ」
 いつも行動を仕切る彼に僕はいつも付いていくタイプだった。
「幸男、今度さ遊園地いかね?」
「うん、行きたいな」
 いろいろなアトラクションで楽しむ僕達二人。
「幸男、昼飯、お前の好きにしていいよ」
「幸男、ジュース買ってきたぜ、おめえの好きなイチゴの奴」
 次々に僕の為に世話を焼いてくれる重雄。でもだんだん奇妙な事が。
「幸男、アイスクリーム買ってきたぜ。俺チョコ。お前苺な」
 苺って、なんだか女みたい。そして
「幸男、これお前に似合うんじゃないか?」
 売店で差し出されたカチューシャ。しかも可愛いパープルと白。
「えええ、こんなの似合わないよ。僕男だし」
 付き返す僕に目もくれず、次は可愛いネックレスを差し出す重雄。
「重雄、冗談やめてよ」
 僕は重雄をちょっと突飛ばした。

「動脈接合完了、ライ先生、毛細管の方はどうですか」
「マチヤガレクソババ!イマヤッテルトコダ!!」
「し、失礼しました。ドクター」
 女性の助手が怯える。ライ先生の額にも大粒の汗。
「ドクター、もう八時間ぶっ通しですよ。少しお休みになった方が」
「ダマレ!ジャマスルキカ!!」
 はいはいという顔でゆり先生。皆が緊張している中、ライ先生は三台のモニターを前に。僕の血管や神経をマニユビレータで一本一本繋いで行く。そして、美咲先生とゆり先生は、血だらけになった僕の顔を整形手術していた。
 眉毛の多くを永久脱毛。目を丸く、くりくりっとさせる手術。まつ毛とうなじ、生え際を女にする成長促進のホルモン投与、メスと薬品で施される二重の目。鼻を整形され、頬には柔らかい脂肪。そして、
「ほら、ゆっこちゃん。セクシーよ」
 そう言いながら、ゆり先生は僕の唇を整形していく。
「ケッカンセツゴウオワリ、ナガセ!」
 とうとう小さな卵巣を通った血液が僕の体内を流れ始めた。やがて成長していくそれはいろいろなホルモンを作っていくだろう。
「あれ、今ゆっこちゃん微笑まなかった?」
 ゆり先生が少し目を止めて聞く。
「何言ってるの。気のせいよ」
 特殊な装置で歯並びを整えて行く美咲先生が呟いた。
「重雄、なんかおかしいよ、今日」
「何がだよ、幸男」
 遊園地の外れに重雄連れて行って、僕は疑問をぶつけた。
「こんなに良くしてやってるのにさ」
「あ、良くしてくれるのはいいんだけど」
 僕はちょっともじもじし始める。
「僕ってさ、今日なんか女みたいに扱われてない?」
 僕は少し照れて言う。
「へ、そうだよ、何が悪いんだよ」
 びっくりして何も喋れない僕を気にせず、重雄はあさっての方向向いて喋り出す。
「おーい、おまえら何とかしてくれよ、こいつ今日おかしいんだぜ」
 その方向には、いつのまにか、あ、僕の初体験の相手の雅代ちゃんと、女友達の京子ちゃんとかなちゃん
「幸男くーん、いいよね、今日重雄君とデート?」
「おお、京子、こいつ変なんだ今日。仕込んでやってくれよ」
 そう言うと重雄は僕をドンと突飛ばす。ふらふらとその女の子達の所まで吹っ飛び、彼女達に支えられる。僕はちょっと不機嫌。
「何だよ、雅代ちゃんまで」
「何言ってんの。なんで男の格好してんのよ、幸子!」
「あ、今日重雄とデートなんでしょ。あたし達が女の子にしてあげるっ」
 言うが早いか、三人の女の子達は僕に抱きつき始めた。
「こら、やめろよ、何すんだよ!」
 でも皆は辞めない。
「ゆっこ、女になろっ、ねえ女になろうよ」
「可愛くしたげるーっ」
「キスしたげるね」
 女の子三人の服はみるみる溶け、シヤンプーつけたみたいに泡だって行く。その中に包み込まれる僕。
「ゆっこー、ゆっこー」
「やめて、助けてーっ」
 三人の女の子の甘い匂いが僕に染み込んで行く。ついに溶け出した僕の服。そこはもはや少し膨らみ出した小さな乳首。
「ゆっこー、おっぱい可愛いっ、かんじゃお」
「あああああ、やめてーっ」
 噛まれた胸はたちまた可愛い乳房になっていく。そして女の子達は、僕の顔にかわるがわるキス。目がぱちくりし始め、頬がぷっくりして、唇がつんと上向きになっていくのを感じる。髪が伸び、全身がつるつる、そしてふっくら丸みをおびていく。おしりがなんだか、ぷにぷに、ぷるぷる。そんな中、泡まみれの女の子達は一人一人それに飲みこまれ、溶けていった。ゆっこー、ばいばいって声を残して。
遊園地だったはずなのに、見渡せばいつのまにか淡いピンクと白の空間に変わってる。そんな中後ろから僕の肩を掴むのは、重雄だった。
生まれたままの姿の女の子になった僕を、重雄はしっかり抱きしめた。
「幸子、俺、お前が好きだ」
 迫って来る唇、驚いて声も出ない僕だったけど、ふと目を閉じた。優しくしてくれた重雄、そして僕の唇が…
 はっと僕の目が覚めた。う、うん夢だったんだ。なんで僕、重雄とキスなんかしなきゃいけないんだろ。あれ、あれれ、僕どうして。何、なに、この顔の包帯。あれ?
 麻酔明けの頭がだんだんはっきりしてきた。今何時?僕どうなったんだっけ?えっと、えっと、ああああ!そうだ!僕あの、あの、卵巣移植!?
 がばっと乱暴に起き上がったその時、僕の胸にいつもの刺激。でも感じる場所がいつもと違う。あれれ?
 鏡の前に立つと、顔は全部包帯。目だけ開いたその姿が怖い。でもそんな事どうでもいい。急いで脱いだそのパジャマの下には。
 僕は包帯のせいで喋れなかった。でも包帯してなくても、声が出なかったと思う。その胸は、女の子というよりは、始めてヌード写真に出演した、あどけないAV女優のバストの様だった。つんと上を向いた薄いピンクの可愛い乳首。それより少しだけ濃い色のでふっくら膨らんだ乳輪。そして下半分が見事に丸く、可愛く三段の膨らみになったマシュマロの様な僕のバスト。
(綺麗…)
 そして僕は、興奮して振るえる手でパジャマを下ろす。でもそこには…。履き返させられた可愛いピンクのレースのパンツ、その上からおへそにかけて、クロスした縫い跡も無い、僅かな赤い一本の線が有るだけだった。良かった。綺麗に処理されている。
(あ、おなかがすごく張る…)
 多分、埋め込まれた卵巣がすごい勢いで成長してるんだ。あはは、とても不思議、不思議だよ。僕のお腹に卵巣が埋め込まれたなんて。

「ゆっこ!目が覚めた!?」
 物音に気付いて、部屋にやってくる、まい、ともこ、先生達、そして看護婦さん。
「ゆっこ、おめでとっ、おめでとうっ」
 顔に包帯姿で、まいとともこと抱き合う僕。あれ、怪物は?
「ライ先生はアメリカへ帰ったわ。研究が有るって」
 なんだ。僕一言お礼言おうと思ったのに。あと、あ、純ちゃんは?
「ゆっこ。おめでとう。気分はどう?」
 あれ、いつもなら僕に抱き付いて来るはずの純ちゃんなのに、なんだか少し大人になった感じ。
「純ちゃん、どうしたの?なんか雰囲気違うじゃん」
 閉じられた口でやっと喋れた僕。その僕の問いに、クスっと笑う純ちゃん。まさか?
「ゆっこ、あたしね。子宮移植されたら、なんかその、いつもの元気なくなっちゃったみたいなの」
 なんかいつもの純ちゃんの方がいいな。
「まあ、純の場合一時的な物かもしれないしね。ちょっと精神的に様子みましょ。さて、ゆっこちゃん、渡す物が有るわ」
 ゆり先生はバッグら封筒に入った一枚の書類を取り出し、僕に渡してくれた。僕はそれを見るなり、もごもごと口走り、胸にぎゅっとそれを抱きしめた。
堀幸子、一六才、女性。それは僕に与えられた戸籍謄本だった。

「ゆっこちゃん、包帯外すよ」
 診察室の椅子に座らせられた僕の顔の包帯が外されて行く間、僕の心臓はどきどきしっぱなしだった。
 まず細く整えられた眉が現れる。その下には二重になり、目尻を丸く整えられた可愛い目。丸みを帯びた鼻、ふっくらした頬。そしてふっくらした唇。鏡を見る僕の膝ががくがく震えていく。何も言えなかった。
「わあ、可愛い。ほら、広末○子に似てる」
 ともこちゃんが僕の髪を撫で、僕の横に屈んで、鏡を見ながら言う。
「ゆっこにお姉さんがいたら、こんな感じじゃない」
 僕の映ってる鏡に身を映し、髪を整えながらまいちゃんが言う。
全体にボーイッシュな所が残っているけど、目とか口の辺りは女の子。ホルモンで変ってきた頬が白ふっくらと映ってる。
「あ、いたたっ」
 僕のおなかでまた痛み。でもそれは移植された卵巣がすごい勢いで成長している副作用だった。
「ゆっこちゃん、お腹痛む?薬出そうか」
「あ、いいです。薬って、あの生理痛のですよね」
 お腹を撫でながら笑って言う僕。
「まあ、あと数日我慢して。痛み消えた頃から多分女の子と同じホルモンが体に回ってくよ」
 すっかり変わって大人びてしまった純ちゃんがにこにこしながら話す。
「ほら、ゆっこちゃん。みんなも、ほら。全員手術無事完了の記念写真」
 どこからかカメラを持ってきた美咲先生がシャッターを切った。

「ええ、護身術?それで拳法?、だって女の子のすることじゃないでしょ」
「何言ってるの。これからの女の子って、自分で自分の身を守って行かなきゃ」
 高校入学の四月八日まであと約一ヶ月、その間僕達は護身術として無理矢理拳法を学ばされる事に。もともとトレーニングの一部に有ったので、皆それなりに段こそ無かったけど、そこそこマスターはしていた。それと移植された卵巣の発育、そしてそれから分泌される本物の女性ホルモンのせいで、初期は僕達かなり太りやすい体質になるらしい。スポーツなら何でもいいんだけど、純ちゃんの提案で中国武術になってしまう。それはかってのブルースリーのジークンドーの元になった、女性向け拳法なんだって。
 この事が決まる時、ゆり先生がすごく不思議な事を言ってた。
「トレーニング開始時、私があなたたちにスーパーレディになるのよって言った事覚えてる?あなたたちは普通の人間とは違う存在になるのよ。元々有る男の子としての体の俊敏さと脳の分析能力、それに今度は女としての体の柔らかさと丈夫さ。そして女の判断能力が加味されるの。まあ、すごいことになるわよ」
 それって、どういう事なんだろ。

 それはすぐ判った。純ちゃんが時折習いに行ってる、とても可愛い中国女性の先生が拳法の師範についてくれた。
 伊豆の別荘に戻った時から、その人にいろいろ指導受たんだけど、本来運動神経とかそんなに良く無い僕達が、不思議とみるみるその武術の型、受け、攻撃とかをマスターしていった。だって武術の型とかも、二、三回教えられただけで、マスターしてしまうし、相手の次の動きとかを見切れる様になるのも時間がかからなかった。僕達って、こんなに優秀だったっけ!?
 中国の武術練習着こそ着てないけど、色とりどりのタンクトップとショートパンツに身を包んだ僕達は、毎日が楽しくて仕方ない。
「ねえ、ともこちゃん、何だか怖くない?自分が自分で無いみたい!」
「私、こんなに自分の体が動くなんて、信じられない」
「ねえ、純ちゃん。こんな不思議な事って」
 僕の問いかけに、純ちゃんが笑う。
「拳法だけじゃないわ。同じ事が、今後学校で勉強とかスポーツに現れて来るの。楽しみにしててね」
 その言葉に僕達三人は目を丸くした。
「だって、この一年地獄だったんでしょ。その見返りと成果がこれなの」
 すっかり大人しく。でも、二本のスティックを持たせると、もはや先生と互角に戦える程になった純ちゃんが、目を細くして微笑んだ。
 この武術訓練はこの後三月一杯続き、純ちゃんは三段に。僕達三人は信じられないけど楽勝で初段を取り、武器も、長短のスティック、そして剣を一応マスターしてしまった。
「ワタシ、八ネン、コレオシエテル、アナタタチミタイニ、ユウシュウナヒト、ハジメテヨ」
 先生の驚いた顔が忘れられない。以降もこの先生の住んでる葉山に、僕達は時々教わりに行く事になったんだ。
 その先生の武術訓練の最中、それぞれの進学する高校の制服とオリエンテーションを受けたんだ。そう、いよいよ高校進学の準備!しかも女の子として!!
 僕の行くのは、純ちゃんの行ってる高校とは異なる、都内にある私立の共学の超有名ミッション校。既に推薦枠で受かっているみたい。たぶん裏には、ゆり先生達の組織が関わってるんだろう。
 とうとう僕は、ゆり先生に付き添われ、その高校へ。ああ、懐かしい学校の雰囲気!
「堂々としてね。トイレ間違えないでね」
「はい、先生」
 僕は女の子達の列に並び、次々と教科書を受け取る。女子保健体育、家庭科等の女の子だけの教科書が目新しい。そして、制服の採寸。一応ここの高校は私服OKなんだけど、指定行事には制服着用となってるみたい。
「はい、次の方。ええと、堀幸子さんですね」
 係員の人の指示に従い。前の女の子可愛いな、なんて思っている僕の番。でもまだ残っている男の子の心の部分が、まだ慣れていない僕を震えさせる。
「あ、緊張しないで下さいね。すぐ終りますから」
 震える僕を女性の係員の人が採寸。何ヶ所か計った後、ちょっと不思議な顔をしながら、制服引き換え書類を記入し、僕に手渡す。
「ええと、ちょっとウェストのサイズが大きいので、少し標準より大きめにしておきますね。腰の方が細くなったら直し効きますから、言ってください」
 そりゃそうだよ。僕の腰ってまだ男のままだもん。ははは。
 それよりも、僕の持つ紙カバンにどさっと入れられた衣類。それらは、
(ブラウスに靴下、ネクタイ、あ、体操服とブルマ!、水着!、えっ何の青いの。これって、レオタード!?そして、スパッツとビスチェのトップスまである!!)
 僕は顔を真っ赤にして、走る様にその部屋を出た。
「ゆっこ、ゆっこちゃん!どこいくの!」
 先生の呼ぶ声も暫く耳に入らなかった。
「先生!貰っちゃった、貰っちゃった!」
 僕は軽く飛び跳ねて先生に抱き付く。

 ゆり先生より先にその日は早乙女クリニックへ戻った。通学時に新たに割り当てられる、まだガランとした部屋で、僕は震える手で袋からまず体操服を取り出した。中学の時のブルマを履いた時の記憶が蘇る。でもそれはあくまで他人の服だった。でも、今僕の目の前に有るのは、
「これ、僕のなんだ。僕の女の子用体操服とブルマ、僕の水着、そして」
 レオタードを取り出して体に当てる。薄いけどしっかりした伸縮自在の薄い水色の布。
「きゃはっ」
 僕は声を上げた後、それを体に当てたままくるくると踊る。スカートがそれに併せてふるふるする。
「ブルマ、着てみよっと」
 たちまち下着姿になり、紺の布の塊を手に。両足からそろそろと履いてみる。
「あ、やっぱり…」
 履いた感覚はやはり昔と違っていた。体に付いてきたぷるぷるの女の子のお尻の肉を、ブルマはくるっと包み込み、きゅっと引っ張り上げる。もう僕は別段驚かない、いつのまにかこんなに変わったんだってふと思ったくらい。それよりも、お腹のおへそから下に急にたっぷり付き始めた脂肪を、すべすべで静電気が起きそうな感じで可愛く包み込んでいく感覚、そしてすっかり小さく柔らかくなった僕の男性自身を、それはお尻の方に向けてパンツで押さえてたんだけど、それが容赦無く押しつぶされていく感覚が新鮮だった。
丸首の女性用体操服を着こむと、鏡の前に、一人のスポーツ少女が写った。ブルマから出る柔らかい太もも。お尻を向けると、足の付け根から太もも上にかけてだけ女の子になった僕がいる。
「腰のくびれ、欲しいなあ…」
 そして、その格好のままレオタードを両手に持ち、体に当て、再びくるくるっ。
「ラ・・ラン」
 思わず口から出た言葉に、自分で赤面しながら少し乱暴に体操服を脱ぎ捨て、今度はレオタードを着こむ。鏡に写ったその姿を見た時、ちょっと顔が曇った。
「あ、まだ女の子じゃない…」
 体の線がもろに露わになったその姿は、男の子…じゃないんだけど、腰のくびれが殆ど無い僕にとっては少し不恰好に感じる。そういえば、中学の時、体育で指定のレオタード着るのをみんな嫌がってたっけ。特に太めの女の子とか。たちまち落ち込んで行く僕は慌てて、今度は紺のスパッツと赤と黒のビスチェの様なトップスを着てみた。これって学校の体育のエアロビとかに使うみたい。
「あ、これなら何とか…ごまかせるかな」
 丁度腰の辺りで色の切り替えが出来るので、腰のくびれが何とかごまかせる。
「いやだなあ、いきなりレオタードで授業なんて有ったら」
 ふと股間の小さな膨らみに目が行った。そういえば、あのパッド。純ちゃんが付けてたのを一瞬だけ見たけど、まだあれ手渡されていない。
「ねえ、本当にいいの?僕これで女子高校生として生活出来るの!?」
すっごい不安。

 

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