メタモルフォーゼ

(4) 「ふくらみ始めた胸」

ゴールデンウィークの一週間は授業はお休み。その間僕達三人はゆり先生の早乙女クリニックに行くことになり、初 めての外出と当座の女性用品の買い出しも、その時ゆり先生と一緒にする事になった。
 その前日ゆり先生が来てくれて、ここに来てからの初めての身体検査がゆり先生と美咲先生の手により始められた。学校とかでする検査とかとは大分違い、前にゆり先生にされた時と同様すごく細かく綿密に行われ、何枚も部分的に写真を取られた。
 僕達はショーツとキャミソールだけの姿になり、それを二人の先生に見せるのはすごく恥ずかしかったけど、自然と慣れていった。よく見ると、まいちゃんの着ている薄いキャミソールの胸の所は、本当、小さいけど、はっきりしたふくらみが有った。
 身長・体重はもちろん、アンダーとトップバスト(これは初めて計られて、すごく恥ずかしかった)・ウェスト・ヒップ以外に腕・足回り含め全身の細かいサイズ。視力と聴力、血液・尿等など。
 終わった後で、一人ずつ二人の先生の前に座り、アドバイスを受けた。最初はともこちゃん。
「上、脱いでみて」
 の美咲先生の言葉に腕をクロスさせて可愛く脱ぐ彼?。
 二人の先生が、記録表を見つつ、彼?の胸を指で触りながらいろいろ聞いてるみたい。程なく終わり、僕が呼ばれる。
「じゃあ、脱いでみて」
 先生の言葉に僕は可愛いピンクのレースのいっぱい付いたキャミソールを、腕をクロスさせて意識して可愛く脱ぐ。この脱ぎかたも美咲先生から教わった事の一つ。僕不器用だったから一度教わってから、かなり長くこればっかり鏡見ながら練習したんだ。
「あれ、すっごく可愛く脱ぐじゃん。ミサ、よく仕込んだわね」
「あたり前じゃん、あたしは完璧主義なんだから」
 練習したのは僕なんだけど…
 ゆり先生のきれいな指が、僕の乳首に触れる。そう、僕乳首の感覚だけ、なんだか以前と違うんだ。
「外見上は、殆ど変わり無いんじゃない?ともこちゃんと同じく…、これ感じる?」
 乳首の回りを触りながら先生が聞く。僕が首を振ると先生は、僕の乳首に手をやる。
「これは?」
 先生の滑らかな冷たい指がそっと触れると、乳首全体に冷たいぞわっとした、ピリッと電気が走った様になり、僕は
「んっ」
 と声を漏らす。続けて触られる僕はどうしていいかわからず、つい目を瞑ってしまう。大きくなり始める男性自身を押さえ切れず、つい左手を股間に当てる。でも先生は構わない。
「だいぶ敏感になったみたいね。これもともこちゃんと同じ…か。普段どんな感じ?」
「うん、何だか先に何か付いてる様な感じなんです。」
「うん、大丈夫。ちゃんと変化はしてるみたい」
 ゆり先生から記録表を見せてもらう。あのダイエット料理のせいで、体重は来てから五Kgも減っている。今五二Kg。身長とか、体の大きさは変わらないけど、全身から総じて筋肉が減っていってる感じ。ゆり先生の記録表を見せてもらうと総じて、初めて計ったアンダー・トップバスト以外は-が付いていた。その中で、身長は殆ど伸びていない。それと、
「ふうん、ヒップ+-0。体重減ってるはずなのに、どういう事?ミサ?」
「胸より先におしりに女の子の肉が付いてきたみたいなの、この子。たたくとポチャッと可愛いのよ。ちょっと後ろ向いてみて」
 あの時叩かれた時の感触は、気のせいじゃ無かったんだ…。キャミソールを戻し、立って後ろを向くと、ゆり先生は僕のショーツに手をやり、足の付け根に触った。
「最初このあたりに肉が付き始めるんだけど…、あれ、本当だ」
「ほら、だからあの薬個人差がかなり有るのよ。わかったでしょ?」
「ううん、これだけじゃちょっと」
 その後二,三学術的な事を二人の先生は喋っているけど、僕には解らない。
「こういう風に肉がついて、ポワンとなってくのよね」
 ゆり先生の指の感覚がショーツごしに伝わって来る。すっと手を外して今度は背中をなぞっていく。
「あと、あの薬打ってる限り、身長はもうあまり伸びる事は無いと思うけど」
「うん、わかってる」
「じゃいいわ。次、まいちゃん来て」
 キャミソールの上からブラウスをはおる僕の横にまいちゃんが来た。
「あ、まいの胸みたいっ」
 ともこちゃんも走り足で来る。その時のともこちゃんは…。僕と同じ様にスカートを履かずにブラウスだけをはおり、胸の所で腕を組み、膝を揃えて小股に…
「みさ、どうやって教育したの?一ヶ月前まで男の子だったと思えない。みんな仕草がすごく可愛いじゃん」
 ゆり先生がびっくりして聞く。そうだよ、先生。涙涙の苦労が有ったんだよ。
「まだまだ、粗削り。ここからよ。まい、胸を出してみて」
 ちょっとびっくりしてポカンとしているともこちゃんを尻目に、美咲先生が言う。
でもまいちゃんは、ブラウスの胸で手を組みうつむいたまま。
「みんな見てるもん、恥ずかしいよ」
 そのまま首を振るまいちゃん。
「だって、まいちゃんまだ男の子でしょ。胸見せるのなんて恥ずかしくないじゃん」
「だって、僕の胸、もう男の子じゃないもん!」
 美咲先生の声にまいちゃんがなんだか女の子がだだをこねる様な不思議な口調で答え、さっと手をクロスさせた。そこに現れたのは…
 誰が見たってもう男の子の胸じゃなかった。乳首は僕達よりおおきく、乳輪まで盛り上がっている。その土台となる胸は、小さいけどもう乳房と言ってもいいみたい。
 ふっくら円錐形に盛り上がった胸はゆり先生に言わせると、本格的に膨らみ始める一三,四才位の女の子の胸らしい。
 気を効かせて僕とともこちゃんは場を外す。
「形が良くなってるわ。やっぱりちゃんとしたホルモン治療しないとね」
「体もちょっと白っぽくなてるけど、でもまだまだ男の子の体だわ」
「どう、これ感じる?どれくらい?」
 僕とともこちゃんはそれをうらやましく聞いていた。まいちゃんは僕達より少なくとも半年以上早くホルモン打たれてるから仕方の無い事なんだけど。
 純ちゃんとまいちゃんの例から、僕達も少なくとも半年以上打つとあんなになっちゃうんだ。
「がんばろうね」
 と、ともこちゃんが言う。
「うん、がんばろっ」
 僕が答えた。見つめる僕たち二人の間には、男友達とはちょっと異なる不思議な友達感覚を感じた。

 ゴールデンウィーク初日、僕達はBMWに乗り、早乙女クリニックへ向かった。僕は来たときと同じ、僕はオレンジのアンサンブルと白のブラウスだったんだけど、まいちゃんととも子ちゃんは、これといって女物を持って無かったので仕方無しに別荘で来ていたブラウスと新しい白のフレアー。結局僕はブラジャーは付ける事が出来なかった。
 買い物に行けるとあって、僕たちは夜遅くまでゆり先生の持ってきたジュニア用のファッション雑誌を読みふけり、殆ど配給同然の下着とかストッキングとは異なり、様々のデザイン・色・形にわくわくしていた。そのせいあってすごく眠いけど、約一ヶ月ぶりの本格的な外出のせいもあり、初夏の朝風と太陽をすごく心地好く感じ、眠気をさましてくれた。昼近くにになり湘南海岸へ入るとそろそろ車が込み出し、以前僕が恐い目に合ったあの稲村が崎で、僕たちは早目に昼食を取る事にした。
 久しぶりの人目はやっぱり恐いけど、女の子修行のおかげでもう以前の僕とは違い、
「女の子として見られたい」
 って気持ちだった。芝生の上に座り、意識して可愛くサンドイッチをほおばり、(座った時は、おしりを中心にして丸く。脇を締めて、常に自分自身に可愛いさを感じ、パンツを見せない様に常に人目を意識して)と仕草の一つ一つも美咲先生にしつけられた通りこなした。かなりの人がいたけど誰も不思議に思わない様子。
「可愛いなあ」の声も時々僕の耳に。こうなると、もうトイレも恐くない。まいちゃんとともこちゃんと一緒に、おっと歩く時も気をつけて…
 トイレも何人か女の子がいてびっくりしたけど
「大丈夫」
 と自分に言い聞かせる。鏡を見ると、うーん、ちょっと不安だけど、いるよね。こんなちょっと可愛い男の子みたいな女の子。やっぱり女の子達は他人の顔とかより仕草とかを結構意識してるんだ。だから前は…、とにかくしおらしくすればいいとだけ考えてたから。
 ショートカットの細めの僕達女の子?三人が暫く散歩に歩いて行く様子はごく自然に人々の中に溶けこんでいった。

「どうだった?女の子で人前に出た感じは?」
 車を運転しながらゆり先生が聞く。後ろの席でまいちゃんを真ん中に三人肩を寄せ有っていた。不思議、男の子同士ならこんな事しないのに…だってまいちゃん柔らかいんだもん。
「なんだか不思議な気分だった」
まいちゃんが眠い目をこすりながら言う。
「うん、なんだか普通に暮らしてる男の子が可哀想に思える。僕たち男の子だけど、あんな体験が出来て、夢みたいだった」
 僕も言う。そう、なんていっていいかわかんないから、答えになってない感じだったけど、ともこちゃんが締めくくってくれた。
「あのね、一ヶ月ぶりに外に出たから、すごい開放感。顔とか手とか、あと男の子の時は隠していた足。一ヶ月ぶりに外に出たとかに太陽が当たると、ああ暖かいって心から感じるし、雲でそれが隠れると、不思議、恐いっ早く出てきてって思ったりする。風が吹くと軽く感じて、くるっと自分もつられて回りたくなるし、あと、海とか木の緑とか、目にくっきり写るんだ。あと、スカートとかブラウスとか、そう、粗暴な男の子の殻を抜けて、自分が神秘的な存在になったっていうか…」
 そう、僕も本当そんな気持ちだった。ともこちゃんすごくうまく表現してくれる。言葉言葉の節々に頷いていた先生は、だんだん静かになっていった。
「先生?」
 まいちゃんが、気になって呼びかける。
「良かった。ともこちゃんがそうなってて」
 先生が答える。でも何の事かわからない。
「みんなそんな感じだったの?」
 ゆり先生の言葉にみんな頷く。
「それはね、嬉しい事なの。あなたたちの肌がちょっぴり女の子に近づいて来た証拠よ。良かったわね」
「えーっ、そうなの」
 みんなびっくりして目を丸くする。ともこちゃんはいきなり手を胸の所で組んでもじもじさせ始めた。僕もおもむろに手を見る。手のすべすべはハンドクリームのせいだと思ってたけど…、みんな黙ってしまった。
「特にともちゃん。昨日の診察では、みんなより一番女性化が遅れてたんで心配してたんだけど」
 先生はふと信号で止まり、後ろを振り返ってともこちゃんを見た。
「まだ始めたばかりだし、個人差も有るから気にしないでね。あせらなくていいから、ゆっくりふわふわ可愛くなってってね」
 とうとう禁断の世界に踏み行った僕たち三人。
「ねえ、男の子に戻りたい?」
 眠ってるまいちゃんごしにともこちゃんがそっと聞く。
「答えは決まってるでしょ」
 僕は眠そうに答え、柔らかいまいちゃんの二の腕にもたれかかった。

 早乙女クリニックに到着した後、皆でわいわい言いながら久しぶりの美味しい夕食を皆で作って食べた後、夜遅くまでファッション雑誌を読みふけっていた。純ちゃんに会えなかったちょっと残念。どうやら学校の合宿に行ってるみたい。
「何の問題もなく、ちゃんと女子校生してるよ」
 のゆり先生の言葉にはちょっとびっくりしたけど。

 翌朝、僕達は車で上野のジュニアをかなり扱っている大きな某衣料品店に連れてこられた。ゴールデンウィークのすごい人出の中、その店の表には「棚降中」の貼り紙。そっと裏口から僕達は案内され、そしてそこで僕達を待っていたのは、
「今日は午前中はあなたたちの為に、借り切ったの」
 ゆり先生が微笑む。そう、僕達三人の為だけのショッピングフロア。配給同様の地味な服とか下着を来て、毎日へとへとになるまで女の子修行していた僕達の目には、フロア全体に花が咲いた様。
「わあっ、どれでも選んでいいのっ」
「僕、こんなフロアに来るの初めてっ」
 僕達は歓声を上げる。でもちょっと甘かったみたい。
「但し、一人二十万円まで。スカートはキュロット含めて五本、ワンピースは二枚位。ショートパンツとか、膝上二十Cm以上のミニは禁止。シャツとかブラウスは十枚位。あとは…」
 先生はちょっと笑った。
「残った金額で、ファンデーションとソックス、ストッキングを購入すること」
「ええっ、スカートたった五本なの?ミニとかもだめ?」
 早くも、丸い縁取りの黄色のスカートを手にしたともこちゃんが残念がる。
「あのね、今あなたたちそれ履いて町を歩ける?まいちゃんだって胸を除けばまだ男の子の体と殆ど変わりないのよ。少しでも男の体形がごまかせるのを選んでちょうだい。しかも、まだあなたたちは高校生にもなってないんだから。教えたファッション講義は知識として頭の中にいれておきなさい。あくまでもあなたたちは、こ・ど・も、なんだからっ。それと秋になったらまた今度は冬の分を買う事になるからね。今は五本。ちゃんとコーディネイト考えてから選びなさい。ちゃんと教えたでしょ。コーディネートの基本!」
「はーい…」
 言われてみればそのとおり。僕は素直に返事した。ゆり先生の注意はまだ続く。
「それと、店員さんの言う事を良く聞いて、女子学生らしく、可愛い物を選びなさいね」
「えっ店員さんいるの!?」
 びっくりしてまいちゃんが尋ねる。先生はふっと笑って
「大丈夫。私のお友達なの。あなたたちの事はちゃんと知ってるわ。それじゃ、みんないってらっしゃい。」
「やったーっ」
 僕達は花畑の中に突進していった。

 一時間後、電卓をスカートのポケットに、スカートとブラウスを手にとり、時には試着室に入ったりして品定めをしている僕達。鏡を前にコーディネイト、スカートを手にとり、ウエストに当てて感じを見たり、鏡の前でいろいろとっかえひっかえ比べて、悩んだり、店員さんのアドバイス聞いたり、「可愛い」なんて喋っている姿は、普通の女の子とあまり変わらない。
「女の子らしい可愛い服の合わせかたと仕草」はさっきゆり先生が教えてくれた。
 なんか男の子がズボンを選ぶ様な、無粋な動作に先生がしびれをきらしたみたい。慣れない手つきでスカートのウエスト部分を両手に持って、僕の腰に当てる。こうして何かにつけて一つ一つ男の子の動作を捨て、女の子の仕草を身に付けていく僕達。ただ、しばらくたつとみんな忘れちゃうのが現状だったけど。
 みんないろいろ悩んだ末、僕はちょっと長めの水色に花柄のスリップドレスとかベージュのラップスカートとか、ちょっと大人びた物にカットソーやフリル付きのブラウスとかシャツとか、結構無難に選んだ。まいちゃんはラップやトラベーズやハイウェストとかいろいろなデザインのスカートと多種多様なブラウス、サマーセータ等いろいろコーディネイトを楽しめる様な買い物。ともこちゃんは、女子学生にしてはちょっと大人びた水色とピンクの可愛いスーツと普段用のスカートとブラウス、シャツ。とか、結構しっかり分けてる感じ。
 そして、今度はいよいよファンデーション!!。階段で一階上に上がった僕達の目の前に可愛い下着売り場が有った。でも気後れして行けない。
「なにやってんの、早く選んでらっしゃい。パンツは二0枚以上、キャミソール一0枚以上、ガードルは七枚位。これはちゃんと店の人と相談してね。ストッキングも二0本位かな。あとソックスは適当に。それとまいちゃん?」
 先生はいたずらっぽくまいちゃんを見た。
「ブラ合わせるから、こっちにいらっしゃい」
「わーん」
 言葉にならない声を出す、まいちゃん。
「じゃ、先に選んでいてね」
 先生に連れられる様にまいちゃんが歩いて行く。その先には白く光るバストアップマネキンのディスプレイに付けられた色とりどりのブラ。何だかまいちゃんが、僕達の知らない世界に連れていかれる様。
「ゆっこ、行こっ」
 僕と同様羨ましそうな目でまいちゃんを見ていたともこちゃんが僕のオレンジのスカートを引っ張った。

 白、ピンク、イエロー、ブルー、パープルにフリル、プリント、ストライプ。今まで配給かもらったパンツしか履いた事の無い僕にとって、まるで宝石の様にパンツの山と可愛いキャミソール。ブラを付けられる様になるまでは、結構キャミソールって後ろ姿をゴマ化すのに役立つみたい。
 ソックスと一緒に宝物を一杯選んだ後、店員さんの付き添いでいよいよ、僕に有ったガードルの選定。
「まだお尻が男の子のままだし、そうね、このあたりなんか」
 店員さんの用意してくれたジュニア用のガードルを履くと、柔らかいほわっとした感覚に、ヒップが優しく包みこまれる様。
「まいっ可愛いっ」
 一足早く品定めを終わったともこちゃんの声、はっとした僕は大急ぎでブラ売り場へ行き、声のする試着室の中へ。そこには…。白のスカートで上半身裸、じゃない、白のシンプルだけど可愛いブラを付けたまいちゃんが顔を真っ赤にしてうつむいていた。足もがくがく震えてる。
「僕の心臓が、どきどき、すごい音を立ててるのがわかるんだ」
 まいちゃんの手が、はっきり膨らみの有る左胸へ。
「触っていい?」
 僕の声に恥ずかしげに肯く彼?
 そっと触ると、ブラという皮に包まれた小さいけど柔らかくて暖かい膨らみが僕の手のひらに感じられた。
「嬉しい…」
 まいちゃんのそっと呟く声と共に涙が一筋彼?の顔に見えた。

 別の場所でスニーカー・パンプス・サンダルと、乳液、ローション、シャンプーとかを買い揃え、早乙女クリニックに戻ったのは、夜八時近くだった。個人用の化粧品とかはまだ許可されないみたい。
 そして、ドライブとかゲームとかをしたり楽しいひととき。買った衣服が店から届いた日には一日中ファッションショー。そんな中、僕達は毎日下着を気分に合わせて履くという可愛い趣味も出来始めた。ゴムで縮まった小さな可愛い布、それに僕のまだ小さいヒップと、有ってはいけない男性自身が可愛く包まれ、その上に履くサポートストッキングのぞっとする感触と可愛く包むガードルのフィット感に、今更ながら快感を感じる僕達。一ヶ月も履いていたのに…。
 やっぱり、女の子として優しく扱われた事、自ら選んだ可愛い下着と服に包まれた事、そしてそれにより中学の時、おばさんの家で一度女の子の格好して以来久しぶりに感じた「うっとり」感のせいなんだろな。
 そうした楽しい日々がたちまち過ぎ、とうとうまたあの地獄の別荘へ戻る日がやってきた。
「いやだあ、ここにいたいっ」
 と泣きじゃくるまいちゃん。僕もゆり先生の後ろに抱きついて、涙を我慢した。香水のいい香りがゆり先生の背中から漂ってくる。
「我慢して、あと何ヵ月かじゃない」
「ちょっとどころじゃない、美咲先生、時にひどすぎるもん」
 ともこちゃんも口を尖らせる。みんなの愚痴をさんざん聞いたあと、ゆり先生が美咲先生の弁護。
「あの人はとってもいい人なの。今のやりかたにはあの人なりの考えが有ると思うの。とにかくあの人の目標は、あなたたちを容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能のスーパーレディに変えるべく、その基礎をあなたたちに教えているのよ。先生が悪い人じゃない事は分かってるでしょ。秋まで、頑張って。無事出所出来たら、みんなにいいものプレゼントしてあげる」
「本当!」
 僕は叫ぶ、でもどうしてプレゼント位で喜ぶんだろ。やっぱり、これ(といって僕は薄いピンクに赤の花柄のスカートを触る。その下には可愛いピンクのパンツとガードル)のせいなのかな。
 その夜、久しぶりにゆり先生の手によってホルモン注射が施された。打つたびに僕達のどこかが女の子になってるはずなんだけど、僕とかともこちゃんなんて殆ど変わんないよ。
 明日の出発に向けて荷物を整理する僕達の顔からは楽しい表情は消えていた。

「休み中一体何をやっていたのっ!」
 トレーニング開始直後、早速美咲先生の怒る声。授業に遅れるわ、足とかの動作はがさつになるわ、食事は行儀悪いわ、身だしなみはちょっとだらしなく…。
 かなり怒られた後、フレアスカートの僕達の膝に足かせの様に再びあのギプスがはめられてしまった。そして長くつらいトレーニングが再開された。
 休み前と違っていたのは、さらに細かくなった美咲先生の仕草チェック。唯、こうしなさいって言うのではなく、自分達で独自に女の子らしさを演出する様にいわれ、ちょっとでも男が出ると叱られるという次第。僕達は夜TVで事細かに女の子達の仕草をチェックし、真似に真似た。そして月一万円のお小使い。散歩と買い物程度の外出許可。午後の個人授業、みんなに出来た下着選びの趣味。そしてまいちゃんのブラウスに透ける可愛いブラジャー。
「スーパーレディになるの」
 ゆり先生のその声を頭に焼き付け、僕達は我慢してトレーニングを続ける。小さな棒を手に、相変わらず厳しい美咲先生。午後のちょっと楽しい授業と、ゆり先生のはげましの言葉とプレゼントを心の支えに、僕達は頑張った。
 勉学の他、作法、ピアノ、手芸、そして護身術の合気道とかも確実に体得していく。美咲先生の叱りの言葉や罰にもじっとこらえた。怒られたりした時は、夜ふっと近くの町に散歩に行く。柔らかなスカートを翻し、また風に翻され、ストッキング越しに空気を感じ、不思議な感覚に気分をやわらげた。でもまだ自信が無いので三十分程で皆戻ってきてる。そうしていくうちに不思議と僕達からだんだん男の子の持つ気配が少しずつ抜け、何か分からないけど、何か清潔な気配が少しずつ入れ代わりに僕達に伴っていくみたいな感じ。もっともっと頑張ろう。清楚で、おとなしくて、優しくて…僕達はそれをより実践し始める。
 男の子の時読んだ「今昔物語」の一シーンをふと思い出してしまった。旅の途中、道に迷ったお坊さんが途中に見つけた古寺に泊まる。もてなしの後の夜、住職さんに棒でぶたれてしまう。最初は悲鳴をあげていたお坊さんの声はだんだんおとなしくなる。次第に馬の姿になっていくお坊さんの声は「うーんうーん」とうなる声から馬の泣き声に。とうとう馬になってしまったというお話し。
 同様に美咲先生に叩かれ、次第におとなしくなっていく僕達。やがて体が…
 そんな事を考えながら夜は、可愛い下着を着けての一人遊び。片手でちょっと感じて来た胸を触り、片手で男性自身を…。だんだんすべすべしていく体がホルモンによる効果だとわかり、体のあちこちを触る行為も増えていく。
「女の子になるんだ…」
 だんだんエスカレートしていく僕。そして、僕の我慢が少し報われる日が突然来た。それは五月が終わり六月も終わりになったある日の事。僕は風邪の様な症状で三日間寝込んでしまった。全身が暑く、喉が乾く脱水症状の中、美咲先生がうってかわって手厚い看護をしてくれる。そういえばやっと最近努力の甲斐有って叩かれなくなったもんな。
 三日目の夜、ふらつく足で風呂場へ行くと、ともこちゃんとまいちゃんが先に入ってる。まいちゃんの背中のブラジャーの跡が羨ましい、と普通なら思うんだけど、病気がちの僕は構わずまいちゃんの横に並ぶ。
「ゆっこ、もういいの?」
「うん、なんとか。だって三日もお風呂はいんないと嫌だもん」
 僕は、ボディシャンプーをスポンジに付け洗い出す。その手が胸に来た途端、
(ころっ)
 とした感覚を感じる。
「う…ん?」
 僕はもう一度胸をスポンジでゆっくりと洗う。
(ころろっ)
 そしてその途端、ビクン!としたすごい感覚が僕を襲った。
「ああんっ」
 思わず声を上げる僕に
「ゆっこ、どうしたの!」
「気分悪いの?」
 二人が声をかけて来る。構わず僕は恐る恐る自分の胸を見てぎょっとした。泡で包まれた僕の胸は、乳首を中心としてうっすら盛り上がっていた。そして、そして乳首の色と大きさがなんだか変!
 大急ぎで泡を洗い流し、胸にタオルを当て外に出る。粗いタオルの目に触り、乳首がちくちくする。
(うそっ、うそーっ)
 脱衣所でそっとタオルを外した僕の体が鏡に写っている。その胸は…、多分寝込んでいる間に急に変化したのかな…。セピア色に色付いた乳輪の真ん中に、小指の先程に大きくなった乳首がむくっと一cm位隆起している。そしてダイエットで痩せてあばら骨さえ見えている胸の乳首を中心にした部分だけは、まん丸にバストの基礎が出来ていた。
「ああああ…」
 声を上げる僕の手から、はらりとタオルが抜け落ちた。はっきりわかんないけど、あの病気は、こうなる為に起きたんだって気がする。
 声を聞いてまいちゃんとともこちゃんが駆け寄る。僕の様子を見て何だかわかったみたい。
「ゆっこ、触らせてっ!」
 今までまいちゃんにしか言わなかった言葉をともこちゃんは僕に言う。彼?のすべすべした手が僕の胸に。つるっと冷たいじんとした感覚、何だか…気持ちいい。
「あ…ん、へんな気分…」
「ゆっこ、よかったねっ、よかったねーっ」
 まいちゃんが僕に抱きつく。まいちゃんの膨らみの有る胸と僕のかすかに膨らんだ胸が触れ合って、なんだか、変な心地。と、そのまま湯船にドスーンとはまってしまった。その中でもまいちゃんは僕を離さない。ふと見るとまいちゃんの胸は、いくぶんブラに矯正されたせいかもしれないけど奇麗な円錐型に膨らみ、完全な少女の胸になっていた。そして、男性自身が…
 以前はむけていた先端が、もう明らかに包茎状態になっていた。効果が無い様に思えたけど、あきらかにあのホルモンは僕達の体を少しずつ変えていってるんだ。
 ただ、そんな僕達をともこちゃんがじっと羨ましそうな目で見ているのにやっと気付いた。そう、彼?だけがまだ目立った変化が無い。そしてある事件が起こった。
          
 美咲先生にこの事を報告したけど、まだブラは早いとか言われてしまう。がっかりした僕に再びつらい毎日が始まった。そして数日経ったある日の事。
 授業が始まると同時にともこちゃんが先生に質問した。
「先生の打ってくれてる薬って、本当に効くんですか」
 いきなりの事で、僕はびっくりしてともこちゃんを見る。
「ええ、そうです。まいちゃんとかゆっこちゃんの胸の変化を見たでしょ」
 あきらかに機嫌悪そうな態度に、美咲先生もちょっとたじたじとなる。
「私だけ、なぜ変化が無いんですかっ」
「それは…個人差が有るから…よ」
「本当なんですかっ!僕にはあの薬効かないんじゃないんですか!」
「ともこちゃんっ、実際あなたの体が少しでも変わっていってるのは検査でも分かっています。辛抱な
さいっ」
「嘘っ、嘘だよっ。まいだって、ゆっこだって、可愛い胸…」
 そして、あろう事かともこちゃんは、わーっと机の上に泣き伏せてしまう。僕もまいちゃんもどうしていいか分からない。普段美咲先生に怒られたりしても絶対に涙を見せなかった彼?が…。
 (そう、これこそともこちゃんの心が女性化してる証拠らしいんだけど)
 ふと見ると美咲先生も予期せぬ出来事に動揺を隠しきれない様子。
「ともこちゃん、こっちへ来なさい」
ふと、美咲先生はともこちゃんを呼び、
「今日の午前中は自習にします」
と言い残し、泣きじゃくるともこちゃんを連れて部屋の外へ出ていった。
 その日の午後はゆり先生の「アクセサリーの効用」の講義。始まって一0分位経って、ともこちゃんがふらふらと戻って来た。
「あら、おかえり。どうしたの?気分でも悪いの。またミサったらいじめたわね」
「ゆり…先生…」
 ともこちゃんはそう言うと、ゆり先生の胸に崩れ落ちた。びっくりして席を立つ僕達。
「ともっ、ともこちゃん!ともこちゃん!!あ、すごい熱」
 その時、
「ともこちゃん、ともこちゃん見なかった!?」
 美咲先生が駆け込んで来る。
「ミサッあんた何したの!?」
 青ざめてゆり先生が聞く。
「ゆり、ごめんなさい。大変なの、この子ったら…この子ったら、あの薬を四本も自分で注射しちゃったの…」
「え…でも、あたしの薬だったら、たくさん打っても熱が出るだけでしょ」
「違うの、あなたのルビーGじゃなくて、あたしのアクアマリンB型…」
「ええっ、あれってまだ動物実験中でしょ!?しかも強力すぎるからって…」
「この子が、あんまりむずかるから、試しに一本打ってあげたら…、あたしの知らない間にあと三本…自分で…」
「ミサっなんて事を…」
 完全に意識を失ってるともこちゃんを抱きかかえ、ゆり先生が外へ。美咲先生も一緒に外へ出る。BMWのエンジンが程なく聞こえ、あたりには静寂が戻った。取り残された僕とまいちゃんはどうしていいか分からない。
「あんなに大騒ぎしなきゃ良かった。ともこちゃん気にしてたんだ」
「うん、ともこちゃん大丈夫だといいけど…」
 僕達はふと窓際へ行き、BMWの消えていった方角を眺め、ともこちゃんの無事を祈った。

 翌日も、その翌日も先生達からは連絡すらない。午後の授業も中止になっちゃったみたい。僕とまいちゃん二人だけの日が続く。更に運悪く、僕の胸がちょっと痛み出した。
(女の子なら、誰でも最初経験する痛みらしい)
 更にキャミソールに大きくなった乳首がすれて、赤くなってくる。余程、まいちゃんからブラを借りてみようと思ったけど、美咲先生に固く禁じられてるし、いきなり帰ってきてまたお仕置きなんてもうされたくない。僕は我慢した。
 三日目、美咲先生からやっと電話連絡が有り、僕が受けた。
「変わった事無い?」
「別に何も有りません。ねえっ、ともこちゃんは?」
「今、入院してるわ」
「先生、大丈夫なの」
「変な心配しなくてもよろしい」
「先生っ僕心配してんだからっ」
 それで切れてしまった。
 
 日に二回程連絡は有ったものの、帰って来ない。とうとう一週間がすぎてしまった。
その日の朝、
「ともこちゃん、もう会えないのかな…」
 トーストを食べながらまいちゃんが呟く。
「まいっ、変な事言わないで」
 コーヒーを飲みながら僕は怒った様に言う。でも、確かに昨日一日は何の連絡も無かった。自習しろなんて言われても、気になって勉強どころじゃない。そしてその日の昼、あのBMWのエンジンの音が久しぶりに聞こえた。
「あっ戻ってきた!」
 駐車場の上の部屋に行き、下をみると、ゆり先生と美咲先生と、あれ?もう一人麦藁帽子の青いドレスの女の子が…
「あれ誰?」
「ともこ…じゃないよね。胸有ったもん」
 何かにつけて、チェックが厳しい。でも、ともこは?ともこちゃんは!?
「ただいま、帰ったわよ」
 美咲先生の声に、僕達は暗い表情で階段を降りる。
「一週間も二人だけにさせて、ごめんなさいね」
 ゆり先生も何だか申し訳なさそう。
「先生、ともこは、ともこは!?」
 その時、
「まいーっ、ゆっこーっ」
 二人の先生の後ろから飛び出して来たのは、さっきの青いサマードレスの女の子だけど、ええっともこちゃん!?
僕達二人をぎゅっと抱きしめるのは、まぎれもなくともこちゃん。でも、前のともこちゃんでは無かった。僕の胸に、まいちゃんの胸と同じ感覚が。そう皮に包まれた柔らかい感触…ひょっとしてブラジャー!?
「まいーっゆっこっ、僕、こんなに変わっちゃった。ほらっ」
 くるっと回ってスカートをひるがえすともこちゃん。水色のパンツがちらちらした。
「体が、軽くって、柔らかくって、胸も、柔らかく膨らんで…ブラも付けさせてもらったんだーっ」
 楽しげに歌う様に話すともこちゃんのブルーに花柄のサマードレスの胸は、小さいけど、はっきりとした二つの膨らみが有り、顔の表情も前と異なり、すごく明るくなっている。
「でも、素直に喜べないわ。ともこちゃん、あなた死にかけたのよ。あんな勝手な事するから。」
「うん」
「もう絶対勝手な事しないって約束してくれる?」
「はい。絶対しません」
 ゆり先生の言葉に素直に頷くともこちゃん。
「それと、ミサっ、薬の効用は認められたけど、あなたまだ終わっちゃいないわよ。どう処分されるか」
「うん、覚悟してる」
 美咲先生が顔を曇らせた。
「だめーっ」
 そこへ、ともこちゃんが割り込んでいく。
「美咲先生を怒らないでっ、僕がっ僕が悪いの。勝手に注射したの僕なんだ。それに、薬が効かないって言ったのも僕だし、だから先生が研究中の薬を僕に…」
 ゆり先生のスーツにしがみつきながら、ともこちゃんはまたわーっと泣き出す。本当に突然涙もろくなった彼?
「可愛く、可愛くなりたかったんだ、僕…」
 泣きじゃくるともこちゃんを見ているうち、ふと僕もなんだか目に涙が浮かんできた。まいちゃんもそうみたい。
 しばらくして、ゆり先生の口が開いた。
「わかったわ。今度の件はともこちゃんに免じて、私からもドクターに口添えしてあげる。唯、夏のボーナスは低いわよ」
 黙って頷く美咲先生。
 なんだか分かってきた。僕達、何かの研究機関のモルモットにされているみたい。
でもいいんだ。女の子になれさえすれば…。
 ふいに美咲先生の口から、予想もしなかった言葉が出た。
「でも、ともこちゃん。トレーニングは、手を抜かないわよ」
 美咲先生らしい言葉に一同あっけに取られたけど、涙目のともこちゃんが元気に答えた。
「はいっ、僕がんばりますっ」
 みんな、なんて答えたらいいか分からなかったけど、なんとなしにその場はなごんでいった。
「先生、僕の胸なんですけど、ちょっと痛み出して…」
「え、あそう。じゃ、ちょっと見せてくれる?」
 ブラウスのボタンを外し、キャミソールをスカートからひっぱり出して、胸を見せる僕。
「へえっ、乳首、大きくなったじゃない。あ、ちょっと赤くすれてる」
「そうなんです。すれて、時々痛むし、すれてなくても痛む時が」
「ゆり、付けさせた方がいいかも」
「そうね、乳首がすれて痛むのは絶対避けなきゃいけないし。よし、今度の土曜日は、あ、もう七月だっけ。また迎えに来てあげるわ。ゆっこちゃんにはブラ。そして三人には水着を一枚ずつ買ってあげる」
 水着と聞いただけで僕達の目が輝いた。
「だって、もう三人ともブラ付けられる位までなったんだもん。それと、ミサ。今年もやるんでしょ。クルージング」
 ゆり先生がいたずらっぽく美咲先生を見る。
「やりたいけど、だってボーナスどうなるか」
「このぉ、しっかり溜めてる癖に」
 ゆり先生がひじで美咲先生をこづく。クルージングって、ええっ美咲先生ボート持ってるの!?かたぶつそうな人なのに!?
「持ってるなんてもんじゃなくて、二級持ってる上に、この別荘の下に個人マリーナが有って、大きなボート持ってるのよ。おまけにその回りのビーチとこの先の無人島一つ、全部ミサの物だもん。」
 羨ましそうにゆり先生が話す。
 ええっ、すごい、信じられない。そんなお金持ちの人だったんだ、美咲先生って。
「ねえ、ミサ。ボートとプライベートビーチいらないから、島だけちょーだい」
「ダメ」
 冗談にも冷たく応対するあいかわらずの美咲先生だった。 

 

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