メタモルフォーゼ

(3) 「変身開始」

翌日の早朝、まだぼーっとする頭とかすかな頭痛を我慢して起きあがり、慣れない手つきでゆり先生と食事の準備を手伝い、自分の部屋を含む早乙女クリニックの掃除等をしていた。
 オレンジの可愛いスカートを履きたかったけど、先生からは汚れるとだめだからって履くのを禁じられた。仕方無しに薄いピンクの柔らかいTシャツと薄いグレーのスゥエット地のスカートを履き、束縛された慣れない状態に、ついしりもちをつく事も少なくなかった。時折掃除の手を休め、ショーツとジュニア用スリマーの柔らかい感覚とストッキングの不思議な感覚を新鮮に感じたりもした。

 次の日の朝目がさめてすぐ、ゆり先生から、純ちゃんが昨日の夜手術室から帰ってきたと伝えられる。ゆり先生から
「起こしてきて」
 と言われたし、それより一目純ちゃんを見たくて、大慌てでスパッツのパジャマのまま隣のドアをノック。返事は無いけど鍵は開いていて、そっと部屋に入ると、布団にくるまった純ちゃんが見えた。そっと近ずいて顔を見てみると、あれ、純ちゃんてこんなに頬が紅に染まってたっけ。気にせずに純ちゃんを起こしにかかるとものすごくむずかる。
「純ちゃん!起きろっ」
 と僕は布団をはいで、純ちゃんの上に馬乗りになった。
「あっ、もう何すんのよっ」
「もう八時だよっ、みんな待ってるよ!」
僕はそういいながら、ふざけて純ちゃんをを背中からぐるっと抱きしめた。その時、
「やん!」
と言う純ちゃんの小さな悲鳴。僕も異常を感じて離れた。
「純…ちゃん…」
 僕の手の指は、突起物の様な物が二つ、純ちゃんの胸に有るのを感じた。手術前見た時は彼?の胸は大きくはなってたけど突起物は無かったと思う。僕はそれが何かすぐわかった。あと純ちゃんの仕草がほんのり柔らかさを伴っている様にも感じた。
 純ちゃんは、とみると両手を胸の上に組んで、少し怒っているようだった。一瞬の沈黙の後、純が口を開いた。
「今、すっごく痛いんだから。そんで、すっごく眠いのよ」
「ごめんね、純ちゃん」
「今行くから待っててよっ!」
「純ちゃん、胸…」
「いいじゃない、どうだって!」
「おめでとう」
 僕は半分うらやましく思って、ついそんな言葉が出た。すると純ちゃんの顔に笑顔が戻った。
「起きなかったあたしが悪いんだもんね。ねえ、ゆっこ、いいもの見せてあげる」
 純ちゃんはベッドの上で僕の方に座り直すと、白い可愛いナイティの前のボタンをゆっくりはずした。
「わあ…」
 思わずため息をつく僕。乳輪こそ大きくなっていたとはいえ、二日前までは小さかった純ちゃんの乳首はすっかり大きく、隆起し、尖って上を向いていた。そればかりではなく、胸骨の上に乳首を中心にした膨らみは、まだ小さいけど完全に丸くなってる。
「純ちゃん、体も柔らかくなったんじゃない」
 純ちゃんは顔を赤くして言った。
「知ってるよ。胸だって今すごく痛むの。あの手術のせいで…ね。来年の今頃はゆっこだって…」
「どんな手術されたの?」
「来年になったらわかるよ」
 興味津々に聞く僕に、純ちゃんは答えるのを拒んだ。
「ふふ、今日から私、女子高校生なんだ。午後になったら学校に服とか教科書とか、取りにいかなきゃ」
 そうなんだ、純ちゃん?今日から…でも…
 不安げな僕をしりめに純ちゃんはそのまま可愛く伸びをし、着替え始めた。違う、二日前と。ぐっと可愛くなってる。本当、ボーイッシュな女の子って感じ。
何が有ったんだろう。

「えっ、どこへ行くって?」
「伊豆の別荘なの」
「そこって、ひょっとして美咲先生の所?」
 純ちゃんは知ってるみたい。
「そう、ゆっこちゃんみたいな子があと二人来るらしいの」
「そこで、僕暮らすの?」
「そう。お友達も出来るし、美咲先生いい先生だから」
 なぜかそこで吹き出す純ちゃん。

 朝食の時いきなりこんな話が出た。当初ここで純ちゃんとゆり先生に指導されながらって事になってたんだけど、純ちゃんが予想以上に女性化が早く進み、今年から女子学生として高校に行く事と、ゆり先生がにわかに忙しくなった事。他に二人の女性変身希望の子がいる事等からこうなってしまったらしい。そういえば昨日掃除している時慌ただしく電話していたゆり先生をみてたっけ?

「私のお友達で、美咲先生という人がいるんだけど、そこで約一年間で女の子の全てを身につけて欲しいの」
「いいなあ、私ずーっとゆりねえだけに教えられたんだよ。別荘まで行けて」
「いつ出発するんですか?」
「それが、明日には来てくれって。荷物後でいいからって」
「はははっ、美咲先生らしいや」
 そんなの急すぎるよ。でも、純ちゃんでも「先生」呼びする美咲先生ってどんな人なんだろう?
「美咲先生って、どんな人なの」
 僕の問いにゆり先生と純ちゃんは少し笑った
「会えばわかるって」

 午後になり、純ちゃんは体操服や教科書等、重そうな荷物を抱えてクリニックに戻ってきた。しばらくして僕を呼ぶ声がする。少し慣れてきたスカートをひるがえして階段をかけあがり、彼?の部屋へ。
「あっ純ちゃん、可愛いっ」
 思わず僕は声を上げる。そこには前に制服業者さんのところから取ってきた制服を試着した純ちゃんが、嬉しそうに鏡の前で何度もくるっくるっと回ってしきりにポーズを取っていた。
 濃い緑のブレザーに紺と緑のチェックのスカート。赤いボータイ。
「えへへー、ゆっこ、着てみたいでしょ」
「うん、御願い着せて!」
「だーめ、ゆりねえから着せちゃだめっていわれてるもん」
「えええー」
「来年まで我慢させるって言ってたから」
 ゆり先生ってすごく冷たい所も有るんだ。ちょっと残念。でもそれ以上に僕の気にかかる事が有る。
「ねえ、純ちゃん。体育の時とか、どうするの?みんなと泳いだりする事も有るでしょ?どうするの?だって、あれ、まだ付いてるんでしょ?ブルマとか履いたら…」
 くるっと回って今度はどすんとベッドの上にお尻から座ると、僕の方を見てちょっと笑う。
「うん、まだ付いてるよ。ちょっと小さくなってるけど。でもね平気なの」
 純ちゃんはそう言うと制服のスカートを捲くり上げる。どきっとする僕。
 スカートの下にはちゃんと紺のブルマーを履いていた。でも、あれっ股の膨らみが無い。普通の女の子と同じ様にそこは奥の方に丸く流れていた。あの女性自信の持つ微かな膨らみまで有る。
「純ちゃん、これどうなってるの!?」
 純ちゃんは何も言わず、すっと立ち上がると傍らの引き出しから何やら取り出して僕に見せた。
「これ、付けてるの」
「これは…何!?」
 それはとっても柔らかいシリコンみたいな物で作られた女性自身の付いたパットみたいな物だった。そっくりな上に、それにはちゃんと恥毛までついている。
「これを特殊のな接着剤で付けてパンツを履くとわかんないの。男性自身は、ほら、この割れ目のふっくらした所の裏にしまう場所が有るから。そしてトイレの時は割れ目からから出して。あ、ゆっこはまだだめよ。男性自身がまだ大きすぎるから。私みたいに…」
 そう言って、純ちゃんは言葉を切った。
「もう、大きくなっても親指程しかないの。固くもならないしぐにゃぐにゃで、もう精子も殆ど作れなくなっちゃってるの。こうなって、そう、もう男の子じゃなくなって初めてこれ付けれるんだ」
 最後の方は独り言みたいに、しみじみと純ちゃんは呟いた。
 それをじっと見る僕は複雑な気分。以前GFの雅代ちゃんとHした時ははっきり解らなかったけど、今こうして女性自身(といっても作り物だけど)を見るとすごく複雑というか、ちょっとグロテスクみたいな所も有る。将来たぶん僕にも付けられるんだけど、あんまり頂けない気分。
「ごめん、あたしの望んだ事なんだけど本当にこうなっちゃうと何だか寂しくて。ゆっこ、美咲先生の所で頑張ってね」
「うん、ありがと。ごめんね、変な事聞いちゃって」
「あ、明日行くんでしょ。準備手伝ってあげる」

 翌朝早く、僕は黒のワンピースにサングラスをしたゆり先生と一緒に、白のBMWで伊豆へ向かった。昨晩純ちゃんとわいわい言いながら選んだ当座の下着類と服とか、純ちゃんから貰った簡単な化粧道具と、タオル類と…もう、何で女の子として暮らすとなると、こんなにどこへ行くにも荷物が多くなっちゃうんだろ。真っ白なブラウスにオレンジのアンサンブル姿の僕、早朝だけど、ちょっと人目を気にしながらそれらを車に詰め込むと、制服姿の純ちゃんが僕にお弁当を渡してくれた。
 部屋の家具とか備品は後でゆり先生が運んでくれるみたい。湘南海岸を横目で見る頃僕は車を止めてお昼にする事にした。
「えー、車の中で食べるんじゃないの!?」
「どうして?こんなにいい天気なのに、車の外に出ないの?」
「だ、だって僕…」
「こーらっ、僕じゃないでしょ。人様の目の有る所で」
 先生はそういうと、ぽんと僕の頭に可愛い黄色の帽子を乗せてくれた。
 乗せられた帽子を顔がなるべく見えない様にかぶり直し、しぶしぶ車を降り車を降りると風が容赦なく僕を襲う
「わっ」
 危うく下着まで見えそうになった僕の口から、思わず声が出て、慣れない手つきで前を押さえた。幸い回りには人はいなかったけど(もしいたら、白の可愛いガードルが見えたかも知れない)
「ゆっこちゃんっ、もう世話の焼ける」
 ゆり先生は僕の帽子を直し、手を取って強引に連れ出した。
 洞窟の上の海と江ノ島の見える小高い丘の芝生に座り、僕はおにぎりをぱくついた。
平日の午後で殆ど人はいなかったけど、それでも僕はどきどきして顔は真っ赤だった。
「ブラ…着けさせた方が良かったかな…」
 さっきから僕の食べかたを注意していたゆり先生がふと呟く。
「ちょっとうつむいて」
 そうした僕の背中を先生の手がすっと走る。上着の下に手を入れ、ブラウスごしにキャミソールの縁を走らせる指に一瞬ぞくっとした。
「だわね、普通これくらいの子はみんなブラ付けてるし、人に見られたらちょっと変に思うかも知れないわね。」
「え、下着わかるの?」
「うん、上着の上からはっきり線が見えてるけど、あなた位の背丈の女の子は普通逆にブラの線が無いとおかしいもん」
 下着の線が…僕は更にすごく恥ずかしくなった。そして、うわあ最悪、トイレに行きたくなった。
「先生、トイレに行っていい?」
「行けば?」
「ねえ、付いていって。僕恥ずかしいもん」
「何言ってるの、さっさと行ってらっしゃい」
 仕方無く、トイレにしぶしぶ行く僕。人気が無かった事にいくぶん安心した僕は、トイレの前で大学生風の女性二人と鉢合わせしそうになった。
「あ、ごめんなさい」
「…すいません」
 小声で答える僕の目が、その女性と合う。動転した僕はあろう事か男子トイレへ。
「そっち違うよ」
 女性の声に大慌てで女子トイレへ。ああ、帽子が有って良かった。いくらかでもごまかせたかな。
 すっと女子トイレの洗面所に駆け込み、心臓がどきどき言ってる僕の耳にさっきの女性の声が聞こえる。
「あれ、あの子変」
「どうして?」
「あれ、男の子じゃない?」
 しまった!。僕は大急ぎでトイレの中へ。そこで耳を澄ます僕は気が気でなかった。
「男!?」
「だって、男の匂いだったもん。おどおどして、男トイレに行こうとしたし」
「うっそー、どうしよう」
「待っててやろうか、変態かもしれないし」
 とりあえず、もうその事も有って我慢しきれなくなった僕は、しゃがむ事なんて考えなく、立ったままスカートを上げ、震えながら用をたした。でも僕は出て行けなかった。
(先生、助けて)
 ずっと心の中で願う僕の耳にあの女性の声が遠目に聞こえる。数分立ってその声がトイレに入って来た。
「ねえ、間違いだったらどーすんの」
「ごめんねって謝るだけよ…あ、しっ、まだ入ってる」
 しばらくして、ドアをノックする音が
(あ、もうだめ)
 その時、
「幸子、まだ入ってるの?」
 それは間違いなくゆり先生の声だった。
(先生っ)
 危うく声を上げそうになった僕に、先生は声をこらして言う。
「何も喋らずに出て来なさい。走らず、内股気味に歩いて…」
 どうやら、先程の二人の行動の異常さに気付いた先生が、気を効かして助けに来てくれたみたい。飛び出る様に僕は女子トイレから出て、ずっとうつむいたまま、先生の後を追いかけた。ふっと横目で見ると、さっきの女性が、こちらを時折見ながら歩いて遠ざかって行くのが見える。その他にはあたりにはもう一人もいない。
「先生、恐かった」
 僕は擦り寄る様に、ゆり先生の横にくっつく。その時、浜辺から心地良い風がすっと僕のスカートにまとわりついた。
「あっ気持ちいい」
「ほんと…」
 先生のワンピもふわふわと浮いている。
 ストッキング越しになでる様に僕の太股を触って行った後、帽子が飛びそうになる。慌てて帽子とスカートを押さえる僕、そう男の子の時だったら、こんなことしないで、ただ単に風に向かって立っているだけだろう。ましてや、腿をなでる様な感触なんて味わえないだろうな。
 不思議な感覚にぼっとしている僕の鼻に、つんと何か解らないけどいい匂いがする。横を見ると先生が僕の首とか服に香水を吹き掛けてくれていた。
「女の子って感覚が敏感だから、最初からこうしとけば良かったね」
 初めて女性の香水をつけられた僕。ゆり先生のふっと微笑む顔を見た僕は目をつぶり風とスカートの触れ合う感覚と、僕を中心に飛んでいく香水の香りを楽しんでいた。

 小高い岬の上の松林に囲まれた白い別荘に着いたのは夕方近くだった。用意された部屋に急いで荷物を置いた後、ゆり先生と一緒に居間に行き、そこで噂の美咲先生を紹介された。
「美咲です。よろしく」
 冷たく言い放った彼女は、黒のタイトスカートに白のブラウス。キリッとした化粧に黒メガネ。髪を後ろに纏めた姿は、いかにも厳しそうな先生という感じだった。
「自己紹介が無いようだけど」
 早速冷たい声が飛んできた。
「は、はい。あの、幸男です」
「私は、あなたは幸子さんだと聞いていますが」
「すみません、幸子です。宜しくお願いします」
 うわあ、すごく恐そうな先生。
「みさ、早速く厳しいわね」
 ゆり先生が笑いながら言う。
「何言うのよ。ここへ来たからには私に総て従ってもらうわよ。ゆりっ、あなたもね」
「はいはい、わかりました」
 ゆり先生と美咲先生はすごく仲が良さそうだけど。
「それと、昨日からうちに来ているあなたのお友達を紹介するわ」
 美咲先生に呼ばれたその二人は奥からすっと出て来た。
「ともこちゃんとまいちゃん。仲良くしてね。今日から来る幸子ちゃん」
「古屋ともこです、よろしく」
「まいです、よろしく」
 清潔そうな白のタイトスカートに薄いピンクのブラウスを着た二人がペコッと挨拶をする。
「幸子です。よろしくお願いします」
 軽く挨拶をした後僕は二人をじっと見つめた。
 知子ちゃんは可愛いって言ってもまだ男の子の可愛さであり、女の子とは違った顔つきをしていた。でも、まいちゃんの方は…僕はぎょっとした。
 長く伸びた髪を後ろに束ね、ふっくらした頬、そして、男の子にしてはちょっと豊かになっているブラウスの胸元。女の子と見えない事もない様子だった。
「あ、この子がまいちゃんね。ふうん、結構可愛いじゃない」
「でも可哀想なのよ。女の子が欲しかった母親に無理矢理ホルモン治療受けさせられて。母親も家出するし、またその投与の仕方が素人で。孤児院から回りまわって私の所に連絡が来て、やっと引き取ったの。名字は一応美咲を名乗らせるわ」
 ずっとうつむく美咲まいちゃん。
「知子ちゃんは、孤児院の時のまいちゃんの友達なんだけど、いつも二人揃って女の子の服着てばかりいたんで、そう、結構手を焼いてたみたいよ。だから一緒に引き取らされたというか。」
 結構冷たく言い放つ美咲先生にむっとしたけど、何か言える訳も無く、僕はじっとしていた。
「さて、夕食の用意。と言ってもご馳走は無しよ。ゆり、久しぶりに食べていく?私のダイエット料理?」
「いい、私まだ死にたくないから」
 笑いながらゆり先生は答える。
「ゆりっ、生徒の前で冗談は無しよ」
「はいはい、わかったわよ。じゃあ後はおねがいね」
 先生が帰っていくのを僕は空しさと不安で一杯になりながら見送った。僕はどうなるんだろう、ここで。

 翌日から僕達の辛く厳しい日々が始まった。まず食事は栄養計算されているとはいえ、徹底したダイエット食。美咲先生の指導を受けながら作るんだけど、包丁の使い方から始まる厳しい指導。少しでも変だと冷たい声や、手にした細い棒が飛んでくる。
 そして、まるで宝塚音楽学校の寮みたいな厳しい生活が待っていた。

 六時三十分  起床
 七時〇〇分  朝食作り又は掃除
 八時〇〇分  朝食 
 九時〇〇分  学習開始
十二時〇〇分  午前学習終了
        交代で食事作成
十二時三十分  昼食
十三時〇〇分  女性特別授業
十六時〇〇分  授業終了
        全員で夕食作成
十七時〇〇分  夕食
十八時〇〇分  洗濯・掃除・雑用等
        終了後自由時間
二十二時〇〇分  就寝

        外出は禁止!!

 土曜日の午後と日曜日は学習が無く自由時間となり、その他に毎日二錠の薬と毎土曜日にホルモン等の注射が有る。授業中に着る服は、手渡された各自五枚のブラウスと三着のスカートのみ。
 午前中の授業は、中学校時代の勉強の復習なんだけど、美咲先生の分かりやすいけど集中的な授業でへとへとになる。午後はちょっと楽しい授業。これは僕達が女の子として暮らして行ける様、女性特有の知識を基礎から広く応用まで、教えてくれる。この時は美咲先生以外にゆり先生や、その御友達の女性の先生(どこから、どういう依頼で来られるのか謎だけど)が教えてくれる。
 それでも最初は本当地獄みたいだった。朝、目覚ましを三つ用意して起き、眠い目をこすって丁寧に洗顔。女性用の洗顔料とかの匂いに最初は閉口したけどじきに慣れた。その後三人に用意されたオイリースキン用の化粧水をはたき、その香りでやっと目が覚める。大急ぎで部屋に戻り、ピンクのパジャマを脱ぎ、ブラこそ付けないけど、ショーツ、キャミソール、パンスト、ガードルを大急ぎで付けて、自分で洗ってアイロンかけて、きっちりと畳んだブラウスを身に付け、制服代わりの白のスカートを履く。感触なんて楽しんでいる暇なんて無い。その後エプロンを付け、すぐ別荘の掃除・もしくは朝食作り。
 本当は汚れを付けたく無いし、又動きやすいからパジャマでやりたいんだけど、美咲先生は意地悪なのか絶対許してくれない。そのくせ少しでもスカートやブラウスに汚れがつくと容赦なく棒、時には軽く平手が飛んでくる。スカートって、特に膝までのタイトだと、本当に不便。慣れない最初は何度も尻餅ついたりこけたり、その都度美咲先生の怒る声が…。
 朝食、まあ昼食や夕食の時もそうだけど、少しでもマナーが悪いと、時にはフォークまで飛んで来る。朝食が終わると、大急ぎで部屋に戻り、髪をとく。この時から授業が始まるほんの三十分位がやっと一息つける最初の時間。初めてその時女の子してる自分に気付き、まだ短い髪を少しでも女の子らしく可愛いピンで止めたり、前髪をたらしたり。ブラウスとスカートを直したり、時にはスカートを捲くり、ガードルを整え直したり…。そう、そうしないと授業前の美咲先生の身だしなみチェックでまた怒られる。
 朝からのハードスケジュールのせいか、授業中の居眠りも少なくなく、美咲先生の容赦無い平手が飛ぶ。午後はまだ高校生にもなっていない僕達にとっては不必要とも思われるんだけど、結構内容も多彩で特殊な教育が施される。仕草や言葉使いから化粧の他、流行ファッション(アクセサリー種・ブランド・着こなし、ゆり先生担当)・女性文字(丸文字とかも含む)・女性心理・ピアノ・女性文学・作法・英会話・ヘアメイク・恋愛・女性対人・着物着付け、洋裁等。そして、他に合気道、護身術まで有る。龍子先生っていう人が担当なんだけど、美人で、すごく腕が良くて、教えかたもすごく上手な人だった。
 特に恋愛なんて、まだ男の子の僕達に女性としての立場で、男性心理を教えてくれるので複雑な気分。女性心理学と同様、終わった時なんてマインドコントロールされたみたいな感じ。
 女性対人学なんて、聞いているとなんだか恐くなってくる。女の子同士の関係って結構どろどろした物が有ると聞いていたけどこれ程とは思わなかった。嫉妬、やきもち、しかといじめ。それが理由もなしにいつでも襲いかかってくる。そしてそれに対する対処方法、気くばりの秘訣等、先生の話しを僕達は本当に学校の授業の様に聞いていた。
 授業が終わり、夕食の準備か掃除。夕食が終わるとやっと自由になれるんだけど、洗濯とか御風呂とか、予習復習なんかもこの時にやんなきゃいけない。御風呂の時なんか、最初美咲先生がつきっきりで、まいちゃんを除いては髪の毛も伸びていない僕達に、頭へのタオルの巻きかた、バスタオルの使い方や、胸への巻き方から、シャンプー、リンス、乳液、ローションとかの使い方から総て伝授される。一度教わって二回目から間違えると、裸の僕達の背中にパーンと手形が付く。

 早くも、もうやだ、脱ぎたいと思い始めたスカートやガードルを外せるのは御風呂の後。可愛いパジャマに着替え、部屋でやっとくつろげると思ったけど甘かった。スカート履かない代わりに、強力なゴムのついたギプスみたいな物を明日朝まで両ひざにはめなければいけないんだ。男の脚癖を徹底的に直す為らしい。そんなこんなで本当に自由になれるのは、ほんの一時間位だった。
「もうやだっ、帰りたいっ」
 ここへ来て一0日後、就寝前に三人が僕の部屋に来てTVを見ている最中、まいちゃんが最初に音を上げ出した。
 僕のベットにドスンと寝転がり、ギプスのついた足をバタバタさせる。ふっと笑う僕と知子ちゃん。一緒に遊ぶ機会こそ少ないけれど、すっかりこの頃には仲良しになってる。
「僕ももう疲れちゃった」
 ともこちゃんも疲れた様にこぼす。こんな時ついみんな男言葉が戻ってしまう。正直言うと僕も同感だった。意外にスカートとガードルは、急に身に付け出した僕達にとってかなりストレスがたまる物だった。ズボンと比べ動きが束縛されるし、トイレだって結構不便。ガードルだってそう、夕方にはおなかに血がたまっている様な感じもする。ここへ来る前はあんなに身に付けたくてたまらなかったのに。ついでにいうと、女の子のパンツだって、やたらゴムが入ってるから最初はかぶれた様になってかゆかった。そう、あの束縛感覚もせいぜい一日位だったら楽しかったんだ。
 只、少しだけど自分自身に変化の兆しが感じられるのが、唯一僕達が頑張れる源だった。まいちゃんはともかく、僕とともこちゃんは手足の皮膚があっという間にすべすべになったし、手の甲のきめなんて、たちまち目に見えるくらい細かく、そして色白く変化しちゃった。油肌だった顔もだんだん油分が少なくなって、何も付けていないのにすべすべに変わっていくのがわかるんだ。
 けど、こう毎日、しかもこんなハードスケジュールでは本当たまらない。それに時折来る女性ホルモンの副作用の頭痛とか吐き気が更に僕達を襲う。
 まいちゃんの目には涙さえ浮かんでいる。別に泣く事も無いと思うんだけど、そういえば最近のまいちゃんは少し涙もろい。美咲先生にしかられてすぐ泣くのはまいちゃんだった。多分まいちゃんにとっては新しく投与されるホルモンのせい?
 でも僕と、少なくとも知子ちゃんにとっては疑問のはず。毎日薬を飲んで、先日都合三本目のホルモン注射をしたんだけど、皮膚以外はあまり体の変化無いみたい。頭痛と吐き気はするのに。ちょっと不思議なのは、そう、前回の注射の後、僕の乳首にかすかに何か付いてる様な感じがした位かな。
「僕達ここにまるで、いじめられに来たみたいじゃん!あそこまできつくすることないじゃん!」
 半分泣きべそのちょっとふっくらした顔を真っ赤にさせてまいちゃんが怒る。そう、今日はまいちゃん英語の授業中、久しぶりに居眠りして美咲先生に頬をはたかれたんだ。先生も手加減してるんだけど、どういう訳か今日のはもろに入ってすごい音がした。唯、最初は先生の事悪くも言ってたけど、この頃になって皆そういう悪口は言わなくなった。だって、一番疲れているのはあの美咲先生自身だと思うから。総てにおいて、口調とかは厳しいけど親切に教えてはくれるもん。

 そんな僕にとっての秘密の楽しみは、夜寝る前にちょっと一人遊びする事。以前は布団にこすりつける様にしていた僕も、何故か普通の男の子がするのと同じ様にしはじめた。。だって時々美咲先生が部屋のチェックをしているし、そんな時ちょっと汚れたベッドなんて見つけられた日には…。
 そして、前にも書いたけど最近はちょっと乳首が感じ始めた。女の子の裸とか思い描きながらしていた時とはちょっと異なり、まだ全然変化無いけど、そのうち膨らんで行く事を想像しつつ、ハンドクリームですべすべになり始めた指で時折乳首を触る事が、日ごとに増えていく。そしてその指で男性自身を…。すべすべの指がすごく気持ちいい。
 そう、もう僕は未知の世界に既に足を踏み込んでしまったんだ。いずれこんな風に遊べない日が必ず来る。その時は逆にどういった事を…。ううん、今は考えない。

 やがて、僕達はだんだん美咲先生に怒られなくなっていった。それは僕達が上辺だけだけど少しずつ女の子に近づいて来た事を示している。修行ともいうべき訓練がやっと実を結始めたんだ。ゴールデンウィークを目の前に僕達は五本目の注射をしたけど、相変わらず体の変化は前と同じ様な状態だった。
 その他は、短いなりに僕達の髪の毛は少し伸び、ピンで止めるだけでは無く、ムースを付けてボサボサにしたり、前髪をたっぷり垂らしたりいろいろなアレンジが楽しめる様になった。僕と知子ちゃんはそう、そのせいで女っぽくとはいかないまでもかなり可愛らしい顔つきになってきた。元から髪の長いまいちゃんは、暇さえ有れば雑誌傍ら髪の毛を触る事が多くなった。
 なんだかんだいいつつも、授業の方は美咲先生と僕達の努力もあって、確実に学力が上がっていった。午後の特別講義もいよいよ一通り学んだ後、一部選択制になり個別授業となった。女性文字をすぐ覚えた僕は、デザイン・手芸・女性文学系統を選び、ともこちゃんはピアノが得意になり、幾分女性化が進んでいるまいちゃんは、やっぱりメイクとかに夢中になった。ファッション・小物とかの雑学と、護身術を含む合気道はどういう訳か三人とも共通して学んだ。
 一時は結構苦痛だったスカートとかギプス、ガードルにも慣れていき、段々苦にならない様になってきたんだ。そして、ある日。授業前のミーティングで美咲先生から三つの事が言い渡された。
一つ目は、スカートをタイトからフレアーに変える事。
二つ目は、ゴールデンウィーク中にゆり先生と共に女性として外出する事。
そして、三つ目はまいちゃんだけに。そう、胸の発達が速くて乳首が下着にすれて痛む様になったので、ゴールデンウィーク中にブラジャーを付ける事になった事
 以上だった。
「まいーっ、なんで隠してたのっ」
「どうして言わなかったのっ」
「だってさ、ねえ、恥ずかしいもん」
 しまった、美咲先生の前ではしゃいでしまった。でも今日の先生は何故か怒らない。
「ちょっと待ってなさい」
 そう言った先生は、自分の部屋から三着の白のフレア-スカートを持ってきた。
「今すぐこれに着替えなさい」
「ええ、今ここでですか?」
 男の子とは思えない慣れた手つきで、しかも行儀良く僕達はタイトスカートを脱ぎ、用意されたスカートに履き換えた。さながら「更衣室で着替え中の女の子」の様子だった。
 わあっ、すっごい開放感。約一ヶ月ぶりに足が自由に…・、あれ?でもなんだか変な感じ。どうして?
「まいちゃん、ちょっと歩いてみなさい」
 歩き出したまいちゃんも
「あれ、おかしい、どうして」
 やっぱり僕と同じ気分になっているみたい。
「ゆっこちゃん、ちょっと走ってみて」
 ちょっと走り出す僕。あれ…・どうして!足が、変、というか…うわあ、どうしよう。
 ともこちゃんもちょっと走ってみて茫然となっている。
 僕達はもう男の子の歩きかた、走りかたを忘れてしまっていた。ほぼ一ヶ月、両足を揃えた格好で生活させられた僕達には、自然と女の子らしい足の仕草が身についてしまっていたんだ。しかも、意識しないのにちょっとヒップを上げ気味に立ってしまう姿はタイトスカートとガードルで長い間矯正されてしまった結果だった。
 歩く時、束縛されてないはずなのに膝が離せず、歩幅はタイトスカートを履いている時と同じになり、走るとフレアスカートの中で両膝はくっつきあい、それを中心に両足は円を書く様に外向きに動く。動作を止めると、両足は自然と内股になった。
「先生、何だか…」
 どうやっても女の子の動作にしかならない。僕達三人ははしゃぎ始めた。その時、
「静かになさい!はしたない!」
「あっ」
 美咲先生は、かなり強く僕達のおしりを平手で叩いた。その時僕はぎょっとする。かなり以前に僕が先生に叩かれた所とほぼ同じ所、そう足の付け根の所を叩かれたんだ。以前はぴしゃっとした感覚だった。でも、
(今の感覚は、何?)
 ピシャッじゃなく、ポチャッと弾力が感じられ、先生の手を押し返す感覚だった。
(手加減、してくれたのかな。今日先生気分が良さそうだし)
 唯、別段気にも止めず僕達はいつも通りの生活を送って行った。唯、スカートがフレアになっても僕達の足は崩れず、かつ、今日よりギプスは任意になった。
 その日の夜、みんな有頂天。そう、初めて肉体的な明確な女の子への変化を皆一同に感じたからだった。
「そういえば、もう一ヶ月たつんだよね」
「ああ、脱走しなくて良かった」
 僕とまいちゃんが楽しそうに話す。
「そう言えば、なんかこう、顔とか肌とかずいぶん滑らかになってきてない?」
 レースの縁取りの着いた薄いブルーのナイティ姿で、手にクリームを付けながらともこちゃんがふっと言う。
「だって、毎日乳液とか化粧水つけたもん」
 猫とひよこの描かれた、愛らしいスパッツ調のパジャマでまいちゃんが笑う。
「最初、すごくつっぱって痛い位だったよね」
 そう、僕本当に痛かったんだ。今はそうでも無いけど。
「あ、そうだ。まいちゃん、もうブラ付けるんでしょ」
「あ、うん、そうなんだ」
「いいなあ、僕なんか」
「まい、ねえ、ちょっとだけ見せて」
「やだよ、僕恥ずかしいもん」
「いいから、見せろっ」
 笑いながら知子ちゃんがまいちゃんに襲いかかる。
「あーっ、まいの胸尖がってる」
「もー、だめだったら」
 それを聞いた時、僕の頭に、手術前の純ちゃんのバストが浮かんできた。そう、みんな可愛くなっていくのに、僕は…。
 手のすべすべと顔のつるつるを感じながら、僕は少しゆううつな気分で二人のじゃれあいを見ていた。
「まいっ、僕にもみせろっ」
 唯、その時、そんな僕にも確実に身体の変化は起きていたんだ。肌の感覚の変化とおしりの感覚の変化は、決して気のせいではなかったんだ。  

 

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