あたしたちは元気だよ

第六章 エッチ講座開講?

 長々とお風呂に入り、後から入ってきた女の子に変わりつつ有る他のトレーニング中の子達の体とかを興味深げに見つつ、お話とかも少ししてあげて、ようやくお風呂から出てきたあなた。
 髪を乾かし、持ってきた下着を付け、タンクトップとショーパン姿になったあなたが建物のホールに出ると、外国の人含めた何人ものお客さんが新棟のホールで待機していました。
 ゆり先生と三宅先生がそんなお客さん達を応対している中、軽く会釈をした後、さっきの由美ちゃんの事が気になってあなたは幸子先生のいる所長室へ行きました。
「だめだめ、明日は予定通り。延期なんて却下!」
 午前中の恵美ちゃんの事も有ってか、強気に話す幸子先生。
「やっぱりさ、三宅先生の強引さも必要ってわかったからさ」
 幸子先生はサマードレスを脱ぎ、黒のミニのスーツ姿に着替えながらあなたといろいろやりとり。大きくなつたヒップをスカートで包み、お化粧台に座ってメイクしながら幸子先生が続けます。
「あと少ししたら臨時定例会。その後八時ごろからみんなで立食の夕ご飯の予定。定例会は一応極秘事項だから○○ちゃんは遠慮してね。そのかわりその間二時間ばかりさ、今の研究生とお話してくれないかな」
 さすがにもう若いとは言い切れない幸子先生。あなたがお世話になった頃はまだピチピチでベースメイクさえ不要だった彼女だけど、今は下地を顔に塗りながらあなたにお願い事。
「何話したらいいのかな?」
 ちょっと困惑顔のあなたに幸子先生がビューラーで睫毛を整えながら言います。
「さすがに赤ちゃん産んで三十超えるとね。目じりとかにもシワができ始めてさあ、あっそうそう、ここ卒業してから今までの事。隠さなくていいから何でも好きにお話してあげて。あの子達にとっては○○ちゃんの体験話全てが新鮮なんだから」
「赤ちゃんは?」
 ちょっと興味深く質問するあなた。
「今は両親に面倒みてもらってる。普段はここにいてちゃんとあたしが面倒みてるよ。純は映画撮影でしばらく帰ってこないからちょっと寂しいけどさ。本当、あたしがまさか赤ちゃん産むなんて、ね」
 あなたがみんなの集まる旧棟の広間へ行こうとした時、
「あ、恵美ちゃんは遅れて行くか、ひょっとしたら行かないかも」
「え?何してるんですか?まだあの男の子達と一緒?」
「わかんない」
 マスカラを手に鏡とにらめっこで幸子先生が答えました。
「今もう三宅先生にお任せしてる。ひょっとしたら…」
 そういいかけて、幸子先生はマスカラをしまい、アイカラーの小さなケースを手に取り、手早くまぶたを化粧し始めましたが、
「ううん、なんでもない。あ、早く行ったげて。みんな○○ちゃんのお話楽しみにしてるからさ」
 あなたも何かひっかかるものを感じましたが、そのまま研究生達の待つ会場へと急ぎました。

 あなたが会場に入ると、既に集まっていた十人位の研究生達から歓声の声といくつかの拍手が聞こえます。
 皆まだトレーニング受けて四ヶ月のはずなのに、会場にはうっすらと女性香が漂っていました。早くも体臭の女性化が始まった子もいるのでしょうか?
(本当、早くなったものね)
 そう言いつつ、あなたが上座に座ると、遅れてきた子達が足早に次々と下座に座っていきます。
 タンクトップにショーパン、ルームウェア、ジャージ、Tシャツにミニスカート。皆様々な服だけど可愛いデザインのものばかり。さすがは多くの男の子達から選ばれた女性化研究生達。
 あなたが指で人数を数えようとした時、
「今十九人。恵理だけがいない」
 あなたよりも前に人数を数えていた子の声がしました。
「恵理どうしちゃったの?」
「え!ひょっとしてあのまま帰っちゃったの?」
 まだ事情を知らない子もいるみたい。
「恵理ちゃんは大丈夫。只今日ちょっと遅れるみたいだけど」
 あなたのその言葉に、前の方にいたA組五人のうち、亜里沙、真莉、瑠奈ちゃんがクックックッと笑い始めます。そんな三人に向かってあなたは指を口に当てて
(喋らないの)
 のポーズ。そして、
「恵理ちゃんがいないけどはじめまーす。えっと初めての人もいるかな。あたしは○○△△といいます。ここの卒業生で今は都内で小さな喫茶店でウェイトレスで働いているの。当然ながら、ここに来る前は男の子でした」
 そして、この研究所の事、女の子で入学した高校の事、卒業してからの事。あなたは全世界で何百万人に一人の体験を皆に話し始めました。

「えっと、体験談以外に何もお話の用意してないんだけど、何か質問有る?」
 研究生の簡単な自己紹介の後、早くも質問タイム。どんな質問が出てくるか、ちょっとあなたはドキドキしているところ早くも一人が手を上げます。
「○○さん。彼氏はいるんですか?」
 いきなりの質問にあなたはちょっと息を詰まらせますが、そこは正直に。
「います。と言うより、いたかなあ」
 暫く思い出す事もためらっていた彼氏を思い出しつつ答えるあなた。
「あの、彼氏とは、その、エッチ…したんですか」
 二重まぶたに長い睫と黒髪。あの三人とは違うA組の子の質問に部屋中はいくつかの笑い声。
「ちょっと、いきなりすごい質問してくるじゃないの」
 照れ笑いしながらあなたは答えます。でも良く考えたら、そういう事はこの子達にとってかなり重要なお話なのかも。
「えー、だってさ、幸子先生からさ、どんな質問でもしていいからさってぇ、言われてたしぃ」
(もうっ幸子先生!)
 A組なんだから多分優秀なんだろうか。早くもギャル語が日常生活に混じり始めたその子の言葉に、あなたはちょっと困惑顔。
「ねえ、○○さん、すっごい真面目な話、女の子の立場でのエッチってさ、すっごく興味有ってさぁ」
 エッチの質問したその子が話を続けた時、
「はーい!はい!」
 一人の研究生がその言葉をさえぎる。ふとみるとその子は、あ!由美ちゃん!
「ちょっと由美!質問の途中なんだけど」
 先に質問した子のその言葉に由美ちゃんが強引に質問の続きを始めます。
「あ、あの!エッチの前に、その…」
 な、何よ、何を言い出すの!?
 由美ちゃんの顔を見つめるあなたの顔が少し強張ります。そんなあなたの表情を気にもせずに、由美ちゃんが続けます。
「あ、あの、○○さん。教えてください!一体どんな風に男の子を好きになっていったんですか?」
 その言葉にあたりはしんとなります。先に質問していた子も、何か言いたげにして言葉を呑みました。何人かの女の子?はあなたの顔をじっと真剣な顔で見つめ始めます。
 そうだったんだ。やっぱりこの中に隠れ恵理ちゃんはまだいたんだ。
 しばしの沈黙の後、あなたは皆を見渡して、覚悟を決めました。あなたにとっては恥ずかしくてあまり言いたく無い事でしたけど。
「どんな風に男の子が好きになっていったか、よね。いずれあなた達が女の子になっていく過程で自然にそうなっていくんだけどね。人それぞれだけどさ。あたしの場合は…」
 ちょっと恥ずかしげにうつむいた後、あなたは過去の事を思い出しつつ話し始めました。
「あたしもさ、最初はすっごい嫌だった。ゆり先生の面接の時は平気ですって言ったけどね。そのうちホルモン注射受け始めるとね…」
 そういってあなたは部屋の畳の上で、ちょっと楽な姿勢に足を崩します。
「ほら、あなた達もそうだと思うけどさ、皮膚が白く弱くなって全身の筋肉が消えていくでしょ。だんだん自分が弱い人間になっていくみたいでさ」
 ちょっと遠くを見る様な表情になったあなたが続けます。
「それでさ、だんだん男の子の一人遊びもしたくなくなってきて、夜が寂しくなってきたの。誰かとお話したいって思ったり、誰か横にいてほしいなって思い始めたのね。あの時はここのトレーニングも厳しくて、一人何度も夜泣いたし」
 あなたは生徒達を見渡し、何か言いたげな子がいない事を確認してから続けます。
「あのね、夏休みが終わると百項目試験ていう辛いトレーニングが有るの。どんなのかは幸子先生に聞いてね。その中で郊外実習とか結構有るの。渋谷とか上野とか遊園地とかにも行くし。当然女の子でね」
 あなたのその言葉に何人かが、
「え!本当!?」
 と嬉しそうな声を上げました。あなたは更に続けます。
「久しぶりに街を歩くとさ、不思議なの。見かけた同世代位の男の子の何人かがね、まぶしく見えるの!え?なんかかっこいいって。そして顔をそむけちゃうの」
「あ、あたしも、それある」
 前の方のA組の女の子?達の誰かがそう言うのが聞こえました。多分男の子とBまでいったという瑠奈ちゃんかな。
「あとさ、スポーツとかをテレビで観ると、選手の人の体ってがっしりしてていいなあってだんだん思う様になってさ。観た後風呂場とかの鏡とかで自分の裸みてみると、当然ながら、もう全然違う体になってるのよね。かなり女の脂肪付いたし、9月頃はやっとあたしの胸だって膨らみ始めたし。それで、鏡に映っている自分の横にね、かっこいい男の子とか、スポーツ選手を並べてみると、わあ、なんか絵になるじゃんて、思ったわけよ」
 何人かのクスクス笑いの声を聞いた後、ちょっと間を置いて続けるあなた。
「決定的だったのが、10月のテニス旅行の時。あ、そうそう、もう始まってる水着デビューは殆どクルーザとか小島が舞台であんまり人目につかないけどさ、10月は軽井沢のテニスコートで一般の人に混じって女の子デビューだから覚悟してよ。全員、スコート着用だからね!」
 あなたのその言葉に、歓喜の声とブーイングが半分ずつ。
「やったー!あと2ヶ月じゃん!」
「えー!最近スコートでテニスする人あんまりいないって聞くよ」
「あたしまだ太腿自信ないのに!」
 その声にちょっとあなたは意地悪く、
「すごいよねー、ただでさえ注目あびるわよ。先生とかOB含めて今年は30人の女の子が全員スコートでさ、テニスコート5面くらいを独占するのよね。あったしはもう普通のオンナだから心配ないしさ。今年参加してさ、みんなのそわそわぶりみてやろっかなーあ」
 ブーイングの混じった皆の笑い声を聞きながら再びあなたは話し始めます。
「話しを戻して、あたし達のテニスデビューの時にさ、大学生の男の子ばっかのグループが横でプレイしてたの。みんなかっこいい人ばっかでさ。あたしとか、あたしと同期の子とか、もうじっとみとれちゃってさ、テニスどころじゃなかったの。もう、お話したい!一緒にプレイしたい!一緒に横にいたい!てね。実際ナンパされかけたんだけど、幸子先生とか真琴さんとかが妨害してくれちゃってさ!」
「あ、やりそう…」
 誰かがそう呟き、どっと笑い声が聞こえます。
 その夜の特別スケジュールの事を話そうとしましたが、今年はどうなるかわからないので飛ばしてあなたは話を続けます。
「テニスデビューから帰ったらもう興奮してドキドキして体が火照ってさ、冷たいベッドの上に寝転がって体よじらせて、そしてとうとう左手がブラの中に自然に入っていってさ。あなた男でしょ!何やってんのって頭の中で誰かが叫ぶんだけど、もうだめだった。左手でやわらかくて大きくなったあたしのバストを触って、右手であたしの男性自身、じゃなくてその裏側を中指と人指し指を立てて、本当無意識にそうなっちゃったの。他にもお腹とかふとももの内側とか背中とか、知らない間にあたしの体に女を感じる所が一杯出来てたんだ。あ、ここも、ここも感じちゃう。ああ、あたし、もう女なんだって。そして、その日からあたしの夜の一人遊びは女性型に変わっちゃったんだ」
 皆があなたの話に聞き入って、せき一つしませんでした。話しててちょっと恥ずかしくなったあなたは、再び足を組み直して間を置きます。
「次の年の三月にとうとう卵巣移植されちゃって、女の子で高校に入るでしょ。もうそしたら天国!今時の男の子ってみんなスタイルとか顔いいしさ。もう自分が男の子だったなんて事すっかり忘れてさ、クラスの女の子達と、あの子いい!あの子かっこいい!お友達になりたい!あの先輩ステキー!ってさ」
 そして一呼吸入れて最後に、
「そして、あたしは夢見る一人の普通の女子高校生になったわけ」
 集まった元男の子達から羨望の眼差しを感じ、拍手をする子も数人。
「じゃあ、がんばらなくても、自然にそうなっちゃうんだ」
 そう独り言の様にしゃべる、由美ちゃん。そんな由美ちゃんにあなたはちょっとあきれたという感じで上座から話しかけます。
「由美ちゃん!男の子好きになる様にがんばるって、何よあれ。お風呂場での言葉聞いてておかしかったわよ。女の子は努力する前に感じるの!あなたの体も心ももう男じゃなくなってきてるんだから」
「う、うん…」
 あなたの言葉にそううつむいて答える由美ちゃんだったけど、どことなく何かふっきれた表情が顔に浮かんでいました。
「まあ、これはあたしの場合だけど、みんなだって大筋はこんな風に男の子を好きになっていくんじゃないかな」
 そう言ってあなたは長々と話した体験談を締めくくりました。

「ねえ、エッチは?男の子とのエッチは?」
 由美ちゃんに質問を遮られたA組の子が再びあなたに回答をねだります。
「もう!あんたって子は!」
 少し笑いながらあなたは手元のメモ用紙を手でくるくる丸めて手に持ち、女の子らしく投げる前にちょっと手を止めて、そしてポンと投げつけます。
「もう!幸子先生甘すぎ!あとできっちり申し入れとこ!」
 ちょっとすねたふりをるあなたに、その子がちょっとしわがれた女声で抗議。
「だーって、だってさ!幸子先生に聞いたらケリ入れられるんだもん!早すぎってさ!」 皆が声を出して笑う中、あなたも
(なんだ、そうだったんだ)
 とちょっと声を出して笑います。
「奈々、しつこい…」
「さすが奈々」
 午後のクルーザで一緒だった亜里沙、真莉、瑠奈ともう一人のA組の子がそう言って笑いながら、その奈々という名の子を後ろからかわるがわるなでる様にはたきます。
「いたいの、あんた達!」
 そう言って少し笑いながら後ろを振り返る奈々ちゃん。もう、本当にこの子達この春まで男の子だったの?
 すこし場が静まるのを待って、あなたは貴重な初体験を話し始めました。
「あたしは、早かったなあ。高校二年の最後。相手は一つ上のサッカー部の男の子よ」
 その言葉に皆がどよめきます。
「えー!幸子先生より早くない?」
 またもや奈々ちゃんの危ない発言に皆の笑い声の中、他の子に次々とはたかれる奈々ちゃん。
「いたいって言ってんのに、もう!」
 そういって最後にはたいた子にはたきかえす彼女。
(そっか、こういうムードメーカーみたいな子もちゃんといるんだ)
 この子達全員好きになりそうって思い、あなたは話を続けます。
「高校二年になる前の春休みに子宮移植されて、あそこに特別な処置をされるの。その時一応性別はオンナになるんだけどさ。夏頃には外見は女性自身に変わるけど、中がまだ完成してないのね。それで、その後初潮が来たらもうどっからみても、どことっても女の子ってわけ」
 そうあなたが話したとき、
「そうなんだ。じゃあと一年半後には、あたし女なんだ」
 男の子とは思えない甲高いアニメ声でそう喋っているのは、今日調理実習室で大塚先生に試食を薦めた子でした。ちょっとその子に微笑み、話を続けます。
「子宮移植後の高校二年からつきあったの。あそこが女に変わってから体を許してあげたけど、エッチ求められても断り続けてさ。早くあれが来て欲しい!ってもう待ち焦がれたわ。彼が卒業するまでにあげたいって思いが有ってさ。あ、なんか懐かしい思い出だわ」 集まったみんなの顔を眺めつつ、だんだん独り言みたいに喋るあなた。
「初潮が来たのは遅くて、高校2年の終わり。卒業式まであと一週間だった。もうたまらなくなってさ、ある日体育の授業が終わった放課後、体操着のままで帰宅しようとしていた彼を校門近くで待ち構えてさ、今日、いいよって彼に告ったの」
 そこまで話した時、
「わー、すごい!少女漫画みたい!」
 またもや茶々入れる奈々ちゃんでした。
「そのまま彼に引かれる様に体育館の倉庫に忍び込んだの。そしたらさ、跳び箱で囲まれた空間にマットがしかれてて。誰か他にもここでやってたんだよね。そして、学校に人気が無くなるまでそこでじっと彼に抱かれてさ。あたしは寒かったから丸首シャツとブルマの上に上下ジャージだったんだけど、彼にちょっとトイレ行ってくるって言って、体育館のトイレに入ってさ」
 口元に笑みを浮かべた奈々ちゃんとか他の子の興味しんしんな目が可愛い!
「トイレで丁寧にあそこを処理してさ、可愛くする為にジャージ脱いで、寒かったけどシャツとブルマ姿になったの。そして、鏡に映ったブルマ姿の自分をみつめていると、男の子時代のあたしから、女の子になっていく自分の姿が本当走馬灯みたいに頭をよぎってさ。最後に、白くて柔らかくていい香りのする生き物になっちゃった自分に微笑みかけて、さよなら男の子のボク、こんにちはオンナのあたしって言ったの」
 と、またもや奈々ちゃんが
「あー、それと同じ台詞、幸子先生も何かの時に言ったって」
 その言葉にあなたはとうとうあきれます。
「ちょっとぉ!奈々ちゃん!あんた普段幸子先生とどんな会話してんのよ!」
 わざとらしく怒った様子であなたは奈々ちゃんに向き直ります。
「え?ゆっこ先生?先生じゃないもん。あたしのマブだもん。ちなみにさ、まこっちもミケっちもますみんも、みーんなあたしのマブだから」
 あっけらかんとして話す奈々ちゃんに、笑い声と共にあちこちからタオルとかハンカチとかが飛んでいきます。
「あのさ、○○さん、実は奈々ってさ、ここじゃ成績ダントツのトップなんだよ。中学の時は不良みたいだったらしいけど」
 A組の亜里沙ちゃんが上座のあなたの所に這っていって、あなたにこっそり耳打ちします。
「亜里沙!パンツ!何この可愛いピンク」
 多分後ろからは四つんばいになってる亜里沙ちゃんのパンツが見えているんだろうか、奈々ちゃんが触ろうとするその手を亜里沙ちゃんが
「うるさいなあっ」
 と片手で払おうとしていました。
「あ、あたしオンナになった時の就職先もう決めてっから。ここの先生。ぜってー面白そうじゃん!」
 三代目の早乙女美咲研究所の所長ってひょっとしてこの子かも。でもなんか頼もしい。ここの研究所も暫くは安泰かなあ。とあなたが思っていると、
「○○さん!続き続き!何中断してんのよ!」
 その言葉にあなたは笑いたくなる衝動をおさえ、軽く舌打ちして口をきっと結び、傍らのノートを両手に持ち、立ち上がって奈々ちゃんをノートで叩く素振り。
「あ、中断の原因はあたしか!キャー痛い痛い!」
 おおげさにする奈々ちゃんから離れて再びあなたは上座に戻ります。そして再びお話を続けました。
 トイレから彼の待つ体育倉庫へ走っていく時、揺れる胸と大きくて走りにくくなったヒップを感じて、今日で男の子の事全て忘れようと誓った事。
 ブルマ姿で学生服の彼の胸に飛び込み、抱かれながらブルマ越しに女性自身を触られ、ると無我夢中で彼氏にむしゃぶりついて、次第に裸にされてもう死んでもいいって思った事。全身を触られ、そしてとうとう彼の下になった時、男の子を誘う仕草とか表情が自然に出る様になり、そして…。
 奈々ちゃんに刺激されたのか、あなたの口は軽く饒舌になり、処女を失った時の気持ちとか様子があなたの口からぽんぽん飛び出て来ます。こんな気持ちいい事が世の中に有ったなんて知らなかったという様子で。
 いく時の瞬間が、女の子達の間で噂されていた様に、本当に高い所から飛び降りる気持ちだった事。その時すごい悲鳴があなたの口から出て、同時に本当に女になったんだって感激してどっと嬉し涙が出た事…。そしてあなたのあまりにもジュニア小説みたいな初体験の話は終わりました。
「○○さんすごい、絶対エロ小説書いたら売れるよ」
 そんな奈々ちゃんを無視する様に、あなたはさっきからどうしても言いたかった事を話し始めます。
「あのね、みんな誤解しないで!男の子に抱かれる為とか、可愛くなってちやほやされる為に女の子になるんじゃ無いよね。みんなわかってると思うけど」
 ちょっと声を大きくして話すあなた。
「ふくらんでいく胸とか、大きくなっていくヒップとか、白くて柔らかくてすべすべになる体とか、果物みたいになる体臭とか、そしてふっくらして可愛くなっていく顔とかさ。これ男の為じゃないから。全部赤ちゃんの為なんだよ」
 皆の顔に真剣な眼差しが戻り、あなたも落ち着いてゆっくり喋り始めます。
「あなたたち、赤ちゃん産んで育てる事の出来る体になるんだよ。その為に選ばれた男の子達って言っても過言じゃないんだからさ。男なんてさ、赤ちゃん育てる只のサポータ…」
 そうあなたが言いかけた時、部屋の奥のドア付近に立ってじっと皆の方を見ている女の子が一人。よく見ると、それは恵理ちゃんでした。あなたの目線に皆も後ろを振り返るとあたりはざわつき始めました。
「恵理…」
「恵理どうしたの?遅かったじゃん…」
 そんな中、恵理ちゃんは笑みを浮かべ女の子らしく、小股で皆に近寄って一番後ろの方に座ります。
「恵理、みんな心配してたんだよ」
 その前にいた、今日女の子の名前になったばかりの美雪が後ろを振り向いて心配そうに話しました。
「う、うん、ごめん」
 そんな様子を見ていて、最近敏感になってきたあなたのオンナの感が何かを感じました。今日の昼と打って変わった垢抜けた表情、そしてしおらしい可愛いすり足みたいな歩き方!この子やっぱり!
「恵理、遅いじゃん。今○○さんの初エッチの話で盛り上がってたんだよ」
「もうっ、あんたはなんでそういう話し方しか出来ないの!?」
 後ろを向いて恵理ちゃんに話す奈々ちゃんの後頭部をこつんとこずくあなた。
「初エッチ、かぁ…」
 そう呟いて自分の太股に頭を埋める恵理ちゃん。
「ねえ、どうしたの?」
「大丈夫?」
 皆がちょっと様子のおかしい恵理ちゃんを介抱しようとかけよりはじめた時、彼女?はすっくと顔を上げ、嬉しそうな顔を皆に向けました。
「みんなさ!絶対早めに男の子と寝るべきだよ!絶対世界観変わるから!」
 部屋中に、ほぼ全員の悲鳴に似た歓声が上がります。
「恵理!何!男と寝てきたの?どこまで行ったの!?」
「え、うん。Bまで、だってCなんて出来る訳ないでしょ」
 あなた達より進んだよって顔で恵理ちゃんがおすまし顔で話します。
「男の子って誰!?」
「ひょっとして今日の水着デビューで会った男の子?」
「亜里沙!誰よその男の子って?あんた知ってるの!?」
「元女の子だってさ。三宅先生の教え子って言ってた」
「ちょっと、ちょっと何がどうなってるの!?」
 部屋の中が騒然とした時、
「はーい、じゃあ恵理ちゃんこっち来てね。はーい!今から恵理ちゃんターイム!今日恵理ちゃんが体験した事みーんな喋ってもらうからね」
 奈々ちゃんが顔を真っ赤にしている恵理ちゃんの手を強引に引いてあなたの横に座らせました。そしてその時、
「大丈夫だよ○○さん、さっき話そうとした赤ちゃんの事なんてさ、みーんなわかってるからさ」
 軽くウィンクしながら小声で話す奈々ちゃん。そしてあなたは恵理ちゃんの為に上座を譲って席を立ちました。
 恵理ちゃんの話を今か今かと目を輝かせている20人の元男の子達を見ているうち、あなたには皆がちょっと可愛そうに思えてきます。
 男と違って女が楽しいのは結婚するまでか、もしくは三十歳位まで。殆どの女の子は結婚したら家事と育児に忙殺され、ピチピチしていた肌とか体も下降線に入り、事実そうなってからも若い時みたいに輝き続ける女性はそんなに多くありません。
 あなたもそうだけど、ここにいる男の子達は女として楽しい時期の既に半分以上を男の子で過ごし、そしてあえて困難な女の子の人生を歩もうとしています。
 奈々ちゃんみたいな子ならいいけど、ここにいる二十人の元男の子達のはたして何人がずっと女で輝いていけるのか。ちょっと可愛そうにあなたは感じ始めます。
(そうよね。今は間違いなくあなた達の一番楽しい時間かも。男の子とのエッチとかに夢中になってもさ、同年代の女の子と同じだもん。あたしもこれ以上みんなに説教じみた事言うのやめよう)
 そう思いつつ足早に部屋のドアへ向うあなた。
「じゃこれでね。がんばって女の子になってね」
「ありがとうございましたー」
 皆の拍手とその声をあとにして、あなたは部屋の外へ出ます。
「…、だからさ、もう触られた所がぞくぞくして、胸触られるたびに、自然とエッチな声が出てさ、頭の中が女に少しずつ変えられるっていうか…」
 元気になった恵理ちゃんの声が部屋の外まで聞こえてきます。
「大好きだよ、みんな」
 そう独り言を言ってあなたは部屋をあとにしました。

 あなたが研究所の新棟のホールに入ると、丁度こちらでも定例会が終わったのか、20人位の人がぞろぞろと会議室の扉から出てきました。そして、
「うわあ、すげー事おしつけられちまったよ。あんな所で体育理論なんてぶちまけなきゃ…」
「何言ってるんですか大塚先生、大抜擢ですよ。これで憎らしい三宅先生にも少しは反論出来る様になりますよ」
 横にいたあなたに気づかずに、悩み顔で通り過ぎる大塚先生と結城先生。
「日米のMTFとFTMの子三十人の個別の体力育成メニューなんてさ、結城先生、俺暫く寝られないですよ…」
「はーっはっははは!まあ頑張って下さい大塚先生!」
 うなだれている大塚先生の背中をいきおいよく叩く結城先生でした。そうこうしているうちに。
「○○ちゃん!お疲れ様!」
 見ると、幸子先生他、看護士の真琴さん。レッスン担当と生活指導のみけさんと、ますみさんと智子さん。他知らない間に増えていた見知らぬ女の子が数人があなたを取り囲みます。
「あれ、朝霧先生は?」
「今会食の準備中で今日の会議は欠席。ねえどうだった?奈々ちゃんすごかったでしょ?」
 意地悪そうに言う幸子先生。
「うん、みんないい子ばっかり。あ、奈々ちゃんが幸子先生とか真琴さんとか、みけさん達の事みんなマブダチって言ってましたよ」
 その言葉にみけさんとますみさんが怒った様に言います。
「クソ生意気な女、じゃなくて男!」
「あちきの友達なんて、百年早いっしゅよ!」
 でも顔は笑っていたので、マブダチってのは本当かもね。
「ミケちゃんさ、部屋に行ってみんなに着替えて夕食に来る様に言ってきて」
「うん。ついでに奈々にヤキ入れてくる」
 そう言って、みけさんが新棟に向って走り出し、あなた達は夕食を用意してまっていてくれてる朝霧さんに会う為、食堂へ急ぎました。その途中、
「誰がマブダチだこらー!」
「きゃあ!水無川(みけ)先生ごめんなさい!」
 笑ってるのか怒ってるのかわからない奈々ちゃんとみけさんの声が新棟から聞こえてきました。

「わー、可愛い制服…」
 立食形式の料理が揃った食堂に、早乙女美咲研究所の研究生の正式制服姿で現れた二十人の女の子予備軍の男の子達。スカートはあなたがここにいた時と同じブルーのチェックのミニだったけど、半袖ブラウスの襟と袖とポケットの縁、そして大きな胸のボタンはスカートと同じ柄になっていて、ちょっとしたアイドルグループみたい。ますみさんのデザインだって。
 そして同じブルーのチェック柄のスカーフ。どんな形でもいいから体に付けなきゃいけないんだけど、二十人の研究生達は、それを髪に結んだり、そのままスカーフにしたり、手に巻きつけたり、ネクタイにしたり、ハンカチーフみたいに胸ポケットを飾ったり。
 それぞれ創意工夫して体に付けて、一人として同じ使い方をしている子はいませんでした。
(いいなあ!あたしもこの時代に入所したかった!)
 パーティーが始まってすぐ、しばし悔しがった後、あなたは小皿に料理を取った後、流暢な英語で外国の人と話をしている幸子先生の所に飛んで行きました。

 なんだかんだでようやく就寝時間。でもみんなは色とりどりの可愛いパジャマ姿でさっきミーティングの合った部屋に全員集まって、今度はなにやら秘密のお話。
 男性とのエッチ経験の有るあなた。男の子とペッティング経験の有る瑠奈ちゃん。そして今日皆の知らない間にそれを済ませてきた恵美ちゃんが上座に座って、他の未経験の女の子?達とかなり際どい話で盛り上がりはじめました。
「恵美!あんた出て行くんじゃなかったの」
 下座に座った奈々ちゃんが意地悪そうに笑いながら、恵美ちゃんをけん制。
「もうねーよ、バーカ!」
 負けじと恵美ちゃんも奈々ちゃんに向って可愛い舌を出して笑います。男の子とちょっと体験しただけで、こんなに自信が持てるんだとあなたもちょっと安堵の表情。
 時折あがる驚きの声と笑い声。夜はだんだんふけていきますが、遅くまで誰も部屋から出て行こうとはしませんでした。

Page Top