あたしたちは元気だよ

第五章 劣等生達の悩み

 さふぁいあ号は無事早乙女美咲研究所に到着。とにかく体に付いた砂とか塩を洗いたくて、あなたは水着のまま研究所内のお風呂に直行します。
「○○さん水着可愛い!」
 すれ違った訓練生達のそんな声に軽く会釈を送りながら、着替えの入ったバッグを手にお風呂場に入ると、既に三人の先客が脱衣所にいました。よく見るとみけちゃん達のダンスレッスンを受けているのをあなたが見学していた時の、元ガリ勉タイプの由美ちゃんと、ますみちゃんに抱きつかれていた弘子ちゃん。そして、入所時に体重が八十キロも有ったという。
「あ、あたし?菜摘です」
 今は痩せて他の二人と変わらない体系になったその子が軽く会釈しました。
只、それ以前にあなたが不思議に思ったのは、脱衣所の中の三人の不思議な行動でした。
 三人とも下はビキニの水着のショーツをはいていて、これからお風呂に入るというのに何やら脱衣所でダンスレッスンのおさらいみたいな事をやっていました。
「あ、はいてるビキニですかぁ?あの、男性機能停止になると、これはいてお風呂に入っていい事になってるんです」
 あなたのそれとない質問に菜摘ちゃんが答えてくれました。
「よかったよね。やっと女の子への一歩踏み出した時にさ、お風呂とかでみんなに自分の男の子の部分見られるのってさぁ」
 風呂場の大きな鏡の前で、軽くターンの練習しながら、由美ちやんが付け足してくれました。
 午前中のダンスレッスンでさんざんますみちゃんに怒られていた由美ちゃん。最下位の成績でここに入ってきて、黒眼鏡をして典型的な勉強小僧タイプの容姿で、体もがりがりだった写真を幸子先生にちらっと見せてもらったんだけど。
 レオタードを脱いだ由美ちゃんの白くなった体には、早くも全身に女の脂肪がとりまいて、体の凹凸を埋めようとしていました。
 胸は思春期前の女の子みたいな小さく尖った形になっていて、先に女性化したけがれを知らなさそうなピンクのバストトップが、尖った胸からぴゅっと突き出ています。
 今は黒縁メガネじゃなく女の子用の細身のメガネをしているらしいけど、それを取った顔を観ると、頬にも女の肉が付き始めてふっくらしはじめ、長く伸びた睫毛が彼女?の目元を女らしく変えつつありました。
 脱衣所の奥でやはり軽く飛んだりしていた弘子ちゃんも、体系的にはあまり由美ちやんと変わらない様子だけど、胸の膨らみは由美ちやんより大きく、跳ねて着地する時はもう少し胸が揺れています。
 しかし、入所時太っていた菜摘ちゃん。地獄だったと思われるダイエットは彼女の体から不要な部分だけを落としていったのか、胸とヒップは早くも普通の中学生の女の子程度の大きさになり、そしていつしかそこの脂肪も女の子の脂肪に置き換わったらしく、バストとヒップをぷるぷるさせながら尚も鏡の前で熱心にダンスのおさらいをしていました。 しかし、まだ心は男の子のままなのか、上半身裸でも三人は全くおかまいなしな様子。(案外こういう頑張り屋さんタイプの子が早く成長するのかも?)
 少年から少女に変わり始めた三人を暖かい目で見つめながら、あなたはビキニのスカートを脱ぎにかかりました。

「明日はこの上にスカートはいて、ビキニの上付けて女の子デビューなんだよね。すっごくドキドキしてる」
 ふとそう言いながら、尚も鏡の前で踊り続ける菜摘ちゃんの言葉に、あなたはちょっとびっくり。
「え!スカートワンピじゃないの?いきなりスカートビキニ?」
「うん。最初タンキニって聞いてたんだけど、突然全員スカートビキニって話になって。わあ!○○さん、日焼けの跡可愛い!」
 答えてくれた菜摘ちゃんがあなたの方を振り返った時、いきなり話がとんじゃいます。 弘子ちゃんと由美ちゃんもあなたの所に来て、日焼け止めのせいかちょっと薄いけど、あなたの白い肌にくっきり焼きついたビキニの肩紐の日焼け跡を、冷たく柔らかくなった指でなぞりました。
「あ、あたしも明日こんなのが体に焼き付いちゃうんだ」
 なぞる指を止めて由美ちゃんがちょっと憂鬱そうな顔をする。
「え?由美ちゃん。嬉しくないの?」
「だって…」
 ふっとあなたの前を離れ、大鏡の前でダンスの一シーンをゆっくりと踊る由美ちゃん。「あのさー、ここで片手でピストルを撃つ所なんだけど、女の子ってどういう時にこういう仕草するんだろ?」
 突然の由美ちゃんの問いかけに皆が顔を向き合わせます。
「あの、多分さ、あたしの彼氏はあなたに決まり!とか、そういう場面だと思う」
 弘子ちゃんの言葉に、あなたと菜摘ちゃんがうなづきます。
「やっぱりそうなんだ…」
 あなた達の様子を鏡で見ていた由美ちゃんがそういいつつ、肩を落とします。思春期前の女の子みたいになった体を鏡でしばしながめつつ、由美ちゃんがぼそっと喋ります。
「やっぱりあたし明日女の子の水着やめる」
 弘子ちゃんと菜摘ちゃんの驚いた声に由美ちゃんが続けます。
「あたし自信ない!頭の中まだ男だもん!」
 そしてやはりポカンとしているあなたに向かって半分泣きそうな顔を向けました。
「僕嫌だよ!やっぱり嫌!ベッドの上でさ、男の人に胸とかあそことか触られてさ、よがり声上げている自分なんて、僕絶対想像できない!出来ないよ…」」
 とうとう一人称が僕になった由美ちゃんが、体を震えさせて、尚も続けます。
「ねえ、○○さん。僕、明日男の子の海パンでも大丈夫だよね?おかしくないよね?胸だってまだこんなだしさ!ねえ、おかしくないでしょ?男で泳いでも!?」
 そう言ってあなたに向かってくる由美ちやんを、胸元でしっかり抱きしめるあなた。水着のブラ越しに膨らみはじめた小さな胸の感触。でも彼女?の水着に隠された下半身はもう大きくなる気配すらありません。
「残念だけど、由美ちゃん。あなたの胸はもう男の子じゃとおらないと思う。小さいけど、ちゃんとした女の子のバストになってるもん」


 あなたの胸に顔を埋めている恵理ちゃんの手にぎゅっと力が入り、掴まれているあなたの肩が少し痛い。
「だったらさ、明日の女の子デビュー延期すれば?」
 彼女の髪を優しくなでながらあなたが提案するけど、
「それも嫌!ますます落ちこぼれになっちゃう!あたし、中学までは成績はいつも学年トップだったのに、ここに来たらずっと最下位みたいだもん!これ以上みんなと差を付けられたくないもん!」
 その言葉にあっけにとられたあなた。彼女?が胸をうずめているビキニのブラ越しに何か熱いものがあなたの胸を濡らしていきます。既にこういうめそめそをしている事自体、由美ちゃんが女になってきている証拠なのに…。
 それでもあなたは、一息ついて彼女?を説得しようとします。
「あのね由美ちゃん。それもいいんだけどさ、女の子になるんでしょ?成績トップとかさ、そんな事以上に女の子には大切な事が有るんだからさ」
 ああ、ここにも隠れ恵理ちゃんが一人。ひょっとして他にもこういう心情の子がいるのかもしれない。
 ほどなく由美ちゃんはあなたの胸から顔を上げ、真っ赤な目を手でこすりながらあなたから離れ、再び鏡の前に立って無意識に髪を整え始めました。
「いい。僕頑張って、男の子、好きになる様に努力する」
 とうとうあなたもちょっとあきれ顔。
(そんなんじゃなくって!ここを卒業する頃には自然に…)
 と言おうとしたけど…。さっきの三宅先生を真似して、前向きな言葉をと考え、あなたは後ろから恵理ちゃんの肩を抱いて勇気付ける様に言います。
「さあ、明日は女の子デビュー!何百万人に一人の貴重な体験なんだよ!がんばって!」「う、うん…」
 しぶしぶ納得したかの様な彼女?を観つつ、あなたは過去にもそういう子がいた事を思い出しました。卵巣移植される前に逃げ出そうとしたあの子や、女子高校生で入学する高校の入学式前に、幸子先生の前で不安でさんざん泣きべそかいたあの子の事とか。

 と、その時廊下が騒がしくなり、程なく水着姿女の子?数人がとびこんで来ました。それはさっきクルーザに乗り合わせた亜里沙、真莉、瑠奈の三人。脱衣所が急に騒がしくなります。
「あ、○○さん。さっきはどーもー!」
「あれ、菜摘?弘子?あ、由美もいるー」
「何やってんのよ!あれ、由美泣いてるの?なんで?なんでなんで泣いてるの?」
 A組三人は手早くスカートとブラを外し、鏡の前の由美ちゃんの横で水着跡のくっきりついた体を見せびらかす様にポーズをとります。
「ほら由美!弘子も菜摘も!明日はあんた達が女として洗礼うけるのよ。ひょっとして怖いの?」
「大丈夫だって!由美みたいな子普通に女の子でいるから!」
 応援が来た事にほっとして、あなたも他の子にならい、ショーツはそのままでブラを外します。露になったくっきりと水着跡のついた大きくて可愛らしい胸。まだAカップの時に卵巣移植と同時に少し乳腺と基礎部を整形された効果も有って、あなたもちょっと自慢のDカップ。たちまちけたたましい三人組が群がってきます。
「わあ、○○さんの胸、ちょー可愛い!」
「元男の子だったなんて思えない!」
 しばらくあなたの胸を触っていた三人組みは、ふとそこを離れると、まだ鏡の前でうじうじしていた由美ちゃんの胸を背中から攻撃。
「きゃああああっ!」
 そう叫んでくるっと後ろ向きになって軽く叩く素振りを見せた由美ちゃんを、三人組みはお風呂場に引っ張り込んでいきました。
 そんな様子を安堵の気持ちで見つめるあなた。由美ちゃん、心配ないよ。こんなに優しくて仲間思いの友達がここには一杯いるんだから。

 お風呂場の洗い場で相変わらず騒ぐ、女の子でトップクラスの三人と、まだまだ女の子特訓中の三人。全く隔たりを感じさせず、普通におしゃべり好きの六人の女の子といった感じ。
 その姿を観ながら、一足先にあなたは浴槽に浸かって大きく背伸び。
 大きくなったあなたの胸が湯の中でふわっと浮く感じを、改めて新鮮に感じました。そう、あなたにもあんな時代が有ったんです。

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