あたしたちは元気だよ

第四章 エリート訓練生達

三宅先生達に少し遅れて研究生の女の子デビューの海辺に到着したあなたと幸子先生。穴場でそんなに人影が無い浜辺の二本のパラソルの下では、ゆり先生と三宅先生、そして大塚先生が待機していました。
 まだまだ美貌を保ちつつも、さすがにもう三十歳後半のゆり先生と三宅先生はビキニではなく、紫と緑のタンキニの水着にサングラス。大塚先生も横でサングラス顔で何やらウィスキーの水割りみたいなのを飲んでいます。万全の警護体制!
「いい、帰りはあたしが運転するから」
 ゆり先生がサングラスを少し外してあなたに微笑みました。目の前には、元気に女の子デビューした三人と、ついさっきまで辞めるって言ってた恵理ちゃんが、そんなこと忘れたかの様に波打ち際で水の掛け合いをやってます。
「あー暑っ。あたしも脱ごうっと」
 そう言って幸子先生は着ていたタンクトップとミニスカートを脱ぎ、何と白のスカートビキニ姿でゆり先生の横に座りました。
「あんたもう三十路超えてるはずだろ?少しは考えて水着着ろよ」
「いいじゃん、三宅先生よりまだ若いしさ、河合さんも似合うって言ってくれたし」
 お互いバツが悪いのか、ゆり先生を挟んでまだ少しいがみ合い状態の幸子先生と三宅先生の会話にほくえそみながら、あなたもショートパンツとTシャツを脱ぎました。
 とっておきのピンクのスカートビキニ姿になったあなたは、真っ白になった体に日焼け止めをそそくさと塗り、傍らのビーチボールを手に、四人の訓練生の待つ波打ち際へ駆け出しました。大昔の男の子時代には感じる事の出来なかった太陽が肌をくすぐる感覚を楽しみながら。

 恵理ちゃん以外の子は、男の子時代になんらかの形で女の子の水着体験有るらしく、堂々とビーチバレーしているものの、初めて女の子水着、しかもスカートビキニ着た恵理ちゃんは普通に振舞っているものの、おどおどしっぱなしで、常にあなたに
「どこか変?」
「ちゃんと女の子になってる?」
 としつこい位あなたに聞いてきます。
「大丈夫!変になってたら真っ先にゆり先生とか三宅先生が飛んで来るわよ!」
 と声を掛けてあげるのですが、もう恵理ちゃんまじめ過ぎ!スカートはあなたのまだ未熟なヒップを隠す為でもあるんだから!
 そうこうしているうちに日も上がって暑くなり、穴場の浜辺にもどんどん人が増えて来ます。そうなると、幸子先生も混じったスカートビキニの女の子?達六人のグループは一躍脚光を浴びる様になります。
 時折ナンパしようと近づいてくる男の子達のグループに、うまくあしらおうとする幸子先生。その様子をじっと見守るA組の女の子?達三人。そして、その影に隠れる様にしている恵理ちゃん。見渡すと他に女の子達のグループが殆どいない事もわかった。
 幸子先生によると、まだ先生が研究生だった頃、この浜辺で地元のゴロツキ共に一部の生徒が誘拐されそうになったとか。
 更に浜辺が混み始めると、あなた達の女の子?グループを数グループの男の子達が遠巻きにして見守り始めてます。とさっきから近づいたり離れたりしていた一つのグループの高校生位の男の子達がとうとう強引にあなた達に近づいて来ます。
「なあ、折角会えたんだしさ、お茶くらいいいだろ。そっちの女の子達だって悪い気してないはずだぜ」
 二人の男の子が無謀にも幸子先生に立ち向かい、その横で三人の男の子がA組の女の子?達の手を掴もうとしています。とその時、
「こらあ!!」
 と言う声と共に、赤ら顔の大塚先生がメガホンを持って奥のビーチパラソルから飛び出して来ました。
「なんだよ!あのじじい!」
 一番女の子っぽくて可愛い子の手を握っていた男の子がそう言い捨てて波を足で乱暴に蹴って去っていくと他の子も続いて退散していきました。
 程なく大塚先生があなた達の所に来て、退散していく彼らを見据えながら
「大丈夫か」
 とか言ってくれてます。ところが、A組三人は何かしっくり来ない様子。
「えー、どうしたの?怖くなかったの?」
 幸子先生も三人の側について不思議そうに聞き返します。と一人が
「あ、あの、ちょっとドキドキしたかも」
 とか言い出す始末。
「バカヤロ!お前まだ女始めて間もないだろ!男だってばれたらちょっとした騒ぎだぞ!」
 大塚先生がその子の頭をこづいて注意し出す始末。その横で恵理ちゃんは手で胸を隠しながら怖がっている様子。幸子先生が近づいて無言でそんな恵理ちゃんを介抱しています。と
「僕、トイレ行って来ます」
 小さなヒップに水着のスカートを翻してトイレに走っていく恵理ちゃんを見ながら
「ちょっと早すぎたかな…」
 と幸子先生も心配そうでした。

 あなたがふと本部?の二本のパラソル下を観ると、ちょっとヤンキーっぽい、二人の学生風の男の子二人がゆり先生達に近寄っている事に気づきました。二人は美咲先生とゆり先生に近づくと、何やら親しげに会話を始めています。
「幸子先生、あれ何?」
 その言葉に幸子先生や他の子達もあなたに近寄って何やら不安げな様子。
「まさか、ナンパ?あの子達ってゆり先生達が二十代に見えるのかな」
 そのうち二人は三宅先生としっかり握手し始めます。ようやく歩いて戻っていった大塚先生も何やら会話に加わっている様子。
「ナンパ…じゃないみたいね」
「知り合いか何か?」
「わかんないけど、そうじゃないの?」
 波打ち際にいる5人は、浜辺のパラソルの下で尚も話し続けているゆり先生達と二人の見知らぬ男の子達を見ながらひそひそ話し。とその時、
「あれ、恵理まだ帰ってきてない…」
 A組の女の子?の一人がそう言うと、向った先のトイレの方をみながら言います。
「大きい方じゃないの…」
 あなたがそう言ってちょっと不安げにトイレの方へ歩み寄った時、突然何か変な気配がしたかと思うと、多分さっきの男の子達だろうか、恵理ちゃんの手を強引に引いてトイレの陰から連れ出そうとしているのが見えます。
「キャー!!」
 あなたはそう叫んで、浜辺のパラソルに向って何か喋ろうとしますが、意味不明な言葉が出るばかり。頭の中は恵理ちゃんを助けようとトイレに駆け出す様に指示がでるけど、足はすくみ、只足をどたどたとその場で踏み鳴らすばかり。すっかり女の子になったあなたは、もう男の子時代の勇気とかは全く消え去ってしまった事に気が付きました。
「先生!恵理が!」
 その声を聞いて真っ先に幸子先生がトイレに向って走り、続いて何事かとパラソルを飛び出した大塚先生が恵理ちゃんの窮地を察し、
「この野郎!!」
 と言いながら猛スピードで砂浜の上をトイレ付近に向って走り出します。
 恵理ちゃんの手を引いて奥の松林へ駆け込もうとした数人の男の子達の足が速まるけど、後ろを振り返って猛スピードで追ってくる大塚先生を見て諦めたのか、とうとう恵理ちゃんの手を離し、その場でうずくまる彼女を置いて松林の奥の小道に姿を消しました。
 それを観てようやくあなたの足は自由が利く様になり、他の女の子?達と恵理ちゃんの横に駆け寄ります。
 一足先に彼女?の元に着いた大塚先生に介抱されていた恵理ちゃんに、
「大丈夫?」
「変な事されなかった?」
 皆が口々に声をかけ、尚もうずくまって黙っている彼女?を立たせて、バスタオルにくるんでゆり先生達の待つパラソルの下に連れて行きます。
 その間、恵理ちゃんは両手で自分の肩を抱き、粗い呼吸をしつつ一言も喋りませんでした。

「ゆり婿ありがと。やっぱあんた役にたつわ」
「冗談やめてくださいよ」
 シートに寝そべっていた三宅先生にまだゆり婿と言われて機嫌が悪いのか、大塚先生はそう短く吐き捨てると、恵理ちゃんにかかっているバスタオルを掛けなおしています。
 恵理ちゃんになぐさめの言葉を掛けつつ、あなた達は初めてさっきからそこにいる謎の学生風の男の子二人を観察すると、引き締まった浅黒い体に白い歯をしたちょっといい男の子でした。
「えー、三宅先生いつのまにこんな男の子と知り合いになってんのよ」
 恵理ちゃんを介抱する手を止めた幸子先生が、ちょっと口を尖らせながら三宅先生にけん制の言葉をかけます。
「あたしのお友達の毅君と大輔君。遊びに来てくれたのよ」
「ちーっす!」
「どもっす!」
 そう言ってにっかと笑う男の子二人を、A組三人組がちょっとおどおどした様子で観ているけど、そんな様子にかまうこと無く、彼らはまだ力なくそこでしゃがんでいる恵理ちゃんに声を掛け始めます。
「聞いたっすよ!全然平気!気にする事ないって!」
 その言葉を聞いて軽く首を振る恵理ちゃん。
「違うの、あの人たち変な人じゃなかったもん」
 彼女?のその言葉に居合わせた皆が一同に驚きの声を上げます。
「恵理!?それ何よ」
 三宅先生が恵理ちゃんの方を抱きかかえて問いただすと、
「だってさ、あの子達、こんなあたしを可愛いって言ってくれたんだもん…」
「なんだそりゃあ??」
 大塚先生がびっくりして声を上げ、三宅先生がゆり先生の方を向いて、やってられないって表情でオーバーなゼスチャー。
「あ、あのね、恵理ちゃんさ、男の子が女の子ナンパする時、可愛くないとかそんな事言うはず無いじゃん」
 シートの上に座っている恵理ちゃんの前に幸子先生が座り直して、説得する様に言うけど、
「可愛いって言ってくれたもん!お話したいって言ってくれたもん!悪い人じゃないもん!」
 そう言って再び体育座りで顔を膝に埋める恵理ちゃん。
「恵理ちゃん、僕からあたしに変わってる…」
 ちょっと呆然となっている幸子先生の耳を三宅先生が引っ張ります。
「あんた、恵理の努力を認める言葉はさんざんかけてきたと思うけどさ、可愛いとか、そういう言葉かけてあげた?」
「あ…言ったこと…無いかも…」
「それだよ原因は!」
「だ、だって三宅先生からだって、あたしそんな言葉…」
 幸子先生とそう会話した後、乱暴に三宅先生は幸子先生の耳を離しました。
「痛ったい…」
 ちょっとすねてオーバーに言葉を返す幸子先生でした。

「ここ思った程良くないわね。ミサ、そろそろ船に行ったら?」
「そうね、そろそろ行こうか。ゆりは?」
「あたしとゆっこは戻って今日のディナーの続きやる。今さ、夕食の準備って朝霧さんだけになってるからさ」
 頃合と思ったのか、ゆり先生がそう促し、三宅先生もそれにうなずきます。
「じゃあ、みんな用意して。それから毅、大輔、恵理をお願い」
「大丈夫っすよ」
「任してくれっすよ!三宅さんの頼みなら何だってやりますよ」
 その言葉に幸子先生がちょっと驚く。
「え、三宅先生、恵理は別なの?」
「そう、別行動とらせるから。毅、そのバッグに恵理の下着とか服入ってるからお願い」「了解っす」
 そう言って後片付けをし始める男の子達と三宅先生達。
「あ、あの恵理は?」
「言ったでしょ、別行動だって」
「あの男の子達と?」
「そうよ?問題ある?」
「だ、だって…」
 A組女子?の一人が恵理ちゃんを気にして、ゆり先生に不安そうに小声でいろいろ聞きます。
「だってさ、まだ体は男だよ。それに恵理だけずるい!」
「ずるいって、何、あんたも遊びたいわけ?」
「そりゃあ…」
 その子はちらっと男の子達の方を見て再びゆり先生に向き直って、口を尖らせます。
「さっき波打ち際でさ、男の子に絡まれそうになったとき、あたし悪い気しなかったもん。只さ、男だってばれた時どうしようかって怖かったけど」
 それを横で聞いていた三宅先生は、ちょっと意地悪そうな笑みを口元に浮かべた後、男の子達に小声で言う。
「ねえ、あんた達。この子達が男の子だって知ってるよね?」
 その言葉に、
「えーー!」
 と声を上げ、研修生四人が毅君と大輔君の方をじっと凝視。
「え、今流行りの男の娘っしょ?」
「まじ平気っすよ」
 二人のその言葉に答える様に毅君と大輔君はちょっとチャラくVサイン。
「誰から聞いたのよ」
「決まってるっしょ、そこにいるおばさんから」
「誰がおばさんよ!」
 調子に乗り始めた大輔君に、軽く手元の砂を握って投げつける三宅先生。
 しばしの沈黙の後、
「やっぱり!恵理だけずるい!」
 A組三人が抗議しはじめるけど、皆は無視する様に後片付け。やがて周囲の人々の眼差しを受けながら、遠くに見える浜辺の桟橋へ向けて皆が動き出します。
 あなたもピンクのスカートビキニの上にTシャツとミニスカートを付け、カバンを肩にかけて準備OK!
「恵理、いいなあ」
 A組の子の羨望の眼差しを受け、そこに残って手を振る毅君と大輔君。そして、
「あ、あの、よろしくお願いします」
 と、場違いな言葉を話している恵理ちゃん。本当真面目なタイプなんだとあなたは心の中で笑いました。

「あれ、でもクルーザが無いけど」
 浜辺の桟橋に近づくにつれ、そこにあるはずの物が無い事に皆が気づき、とうとうあなたが三宅先生に言った時、遠くの岩場の影から一隻のクルーザーが姿を現しました。懐かしいサファイア号。あなたも入所四ヶ月目で水着デビューした思い出のクルーザー!
 と、
「結城先生!」
 大塚先生がそう叫んで走り出し、砂浜の上を走りながら一足先に桟橋に向かっていきます。
 そっか、操縦しているの結城先生なんだ。
「まあ、肩身の狭い者同士仲のいい事…」
 ゆっくり歩きながら三宅先生がちょっと呆れ顔で話します。
「え?だってライ先生引退しちゃったからさ、今卵巣とかの移植手術って結城先生なんでしょ?」
「そうだけど、私生活は全然変わってないわよ。女だらけのあたしたちのグループで一人浮いてるわ。まあゆり婿先生が来たからいいお友達になるでしょうけどね」
 その傍らでは、A組女の子?達が桟橋に着いたクルーザを見て
「ええ!あれに乗れるの?」
「初めて見た!」
 と大はしゃぎしていました。

 まだまだ暑い昼下がり南伊豆の海に、ホワイトとパープルのツートンのクルーザがエンジンの音を響かせてゆっくりと波を切っていきます。その舳先では、さっきまではしゃいでいたA組の女の子達三人が、舳先から落ちない様に手すりにつかまり、水着のスカートで覆われた小さなヒップを突き出して風を楽しんでいました。
 その後ろで懐かしそうに、やはり風を楽しみつつ、後輩達の後姿をチェックするあなた。 個人用に調合されているホルモン剤は幸子先生を女の子に変えた時と比べて二倍から四倍のスピードで、男の子を女の子の体にしていくってさっき三宅先生に聞きました。
 そのおかげで、入所わずか四ヶ月の彼女?達は、筋肉をほぼ溶かされて柔らかな女の脂肪に変えられ、全身にぽちゃぼちゃの女の子の肉がまとわりつき、早くも胸は自然な膨らみが作られ、うっすらと水着の日焼け跡がつき始めた体の白い部分は真珠の輝きになりつつあります。
「あんた達も、女になることにしたんだよね。結構辛いよ、女の子でこれから生きていくって事」
 独り言の様にあなたが言った時、
「ちょっとこのあたりで休もう」
 南伊豆の海岸線からはるか遠くまで来たあたりだろうか。操縦していた三宅先生がそう言うと、奥のキャビンに寝そべって、だらしなくウィスキーを飲んで話している結城先生と大塚先生の間に割って入っていきます。
 あなたも女の子になる事を決心した三人の男の子が急に可愛らしく感じられ、スカートを外したビキニ姿でその子達に近づいていきました。
「ねえ、そういえばさ、あんた達の名前聞いてなかったね」
 止まったクルーザの舳先の女の子?達に割って入ったあなたを、三人は快く迎え入れてくれます。
「あたし、亜里沙」
「あたしは、真莉」
「あたし、瑠奈」
「へえー、凝った名前付けたのね。あたしは○○」
 三人の自己紹介に、あなたも自己紹介しました。
「可愛い名前ですよね。自分で考えたんですか?」
「今時下に子って付く名前なんて殆ど無いですよね」
 ボイトレが進んだ、澄んだ女声で三人と話すあなた。
「みんな女の子水着は初めてじゃないんだよね」
 あなたは、横にいる亜里沙ちゃんのビキニの肩紐を指でなぞりながら、微笑んで話します。
「うんそう、三人とも去年の夏は女の子の水着経験有るよ」
「あたしと亜里沙は水着の跡つけてさ、そのまま学校の水泳授業出たもんね」
 真莉ちゃんのあっけらかんとしたそのすごい話にあなたは息を呑みます。
「それ、本当!?」
 亜里沙ちやんが続けて話します。
「あたしはその時内緒で薬やっててさ、胸も膨らんでたからさ、先生が仕方なくこれ着ろつて女の子のスクール水着着せられてさあ、はははっ」
 声も出ず、じっと亜里沙ちゃんを見つめるあなた。
「あたしはさ、そのまま授業受けさせられたの。そう、二人とも後で学校中で問題児扱いされてさあ。いいもん、絶対女になってやるからってさ。怖いものなかったしぃ」」
 けらけら笑う二人に追従する様に瑠奈ちゃんが笑います。
「瑠奈ちゃんは?」
 その言葉に、ちょっとおとなしそうな瑠奈ちゃんがあなたに微笑みかけました。
「あたしは冬に室内の温水プールだったから、そんな事件無かったの」
「そう」
 普通な子もいるんだ、とあなたがほっとした時、
「でもさ、でもさ、瑠奈って男とエッチしたよね」
 びっくりしてバランスを崩し、クルーザから落ちない様に手すりにつかまるあなた。
「でもCまでいってないもん。Bまでだもーん」
 突然子悪魔の様な表情で笑う瑠奈ちゃん。その豹変ぶりは本当に…。
「いいなあ、彼氏待っててくれてるんでしょ?体が女の子になるまで」
 あなたが研究所でトレーニング受けた時代とは、この世界はあまりに変わっている様子でした。
「すっごい世の中になったわあ」
 信じられないといった様子で、あなたはその場を離れ、奥のキャビンに行き、ソファーに座っている三宅先生に今の話をしました。でも、
「ゆりに聞いたわよ。もうあたしの時代じゃないってさ」
 三宅先生はそう言うと席を立ち、舳先にいる女の子?三人に声をかけます。
「さあ、お譲様方。そろそろ帰るわよ」
三宅先生が操縦席に座ると錨を上げるモーターとエンジンの音が鳴り響き、再びさふぁいあ号は早乙女美咲研究所へ向かって水上を滑り始めました。

「わあ、こんなに違うんだあ」
「あたしもあと五年たったら、こんな風になるんだ」
 帰港途中のサファイアのキャビンの中では、三人の女の子達が、あなたの水着のスカートをめくって、あなたの腰骨とかヒップとか太ももを触っては、今の自分と比べています。
「○○さん、あたしとあまり身長とか体型とかかわんないよね。じゃあたしの体こんな所でくびれて、こんな風に女の肉がついちゃうんだ」
 亜里沙ちゃんがそういいながら腰に手を当ててお尻を振るポーズ。
「あたしどうなんだろ、ねえ○○さん、ちょっとあたしの横に立って」
 瑠奈ちゃんがそう言った時、
「きゃあっ」
 という亜里沙ちゃんの悲鳴。あなたが何事かと見ると、何とキヤビンの奥で大塚先生とウィスキーを飲んでいたはずの結城先生が、いつのまにか亜里沙ちやんの背後に忍び寄って腰に手を当てていました。
「うーん、君の場合は後ヒップは十五センチは大きくなるなあ」
 結城先生のその言葉を聞かないうちに、亜里沙ちゃんは一メートル程飛びのいて、そして他の二人とくっつきあって怯えた顔をしています。
「てか、誰なのよあの男の人!」
「知らない!」
「顔は見た事あるけど」
 女の子?三人で、まるで変態の人をじっと見つめて怖がる様な表情をしています。
「なんだよー、お前らばかりで楽しんでさ、こっちも少しはかまってくれよぉ」
 赤ら顔で再び大塚先生の横へ行き、
「だよなあ!」
 と同調を求める結城先生。それを少し驚いた表情でみつめるあなた。
「ちょっとあんた達、この人が誰なのか、本当に知らないの?」
「しらなーい」
「わかんなーい」
 三人の女の子?達のその声を聞いて頭を抱えるあなた。
「あんた達何言ってんのよ!この人は結城先生でしょ!あなた達を女の子に改造してくれる!」
「ええーーー!」
 狭いキヤビンの中を更に一歩後ずさりする彼女?達。
「いいじゃねーかよ、事前診察位やってもよー、なあ、大塚先生」
 酒が入ってるせいなのかもしれないけど、心細いのか、ひっきりなしに大塚先生に同意を求める結城先生の様子が、あなたにはなんだか可愛そうに思えます。お仕事ではすごい人なのに。まだこういうエッチ癖直らないんだ。
「もう!ばっか親父!」
 キヤビンのすぐ後ろの操縦席の三宅先生の言葉が、あなたにはっきり聞こえました。

「ほら、そろそろ恵理達と別れた海岸よ」
 エンジンのスロットルをゆるめながら三宅先生がそう言うと、スロースピードになったサファイア号を操り、注意深く海岸線を見渡します。
 あなた達も操縦席の横に来て、もう夕焼けも近くなってきた日差しをバックに少しまばらになってきた浜辺の人々を眺め始めました。
「あいつら、ちゃんとエスコートしてるかなあ」
 三宅先生がそう言って小さな双眼鏡を目に当てようとした時、
「あ、いたいた。ほらあそこ。小さな岩の向こう」
 みんなが一斉にそちらの方を見た時、
「いたいた!」
「恵理!元気!?」
 そこには例の二人の男の子にウインドサーフィンを教えてもらっているらしい恵理ちゃんの姿が有りました。スカートビキニ姿で震えながら帆の梁に掴まっていた彼女は、あなた達に気づくと、片手を離し、笑顔で大きく手を振っています。
「恵理元気になってる!」
「良かった!」
 小躍りしながら手をたたき合う三人の姿は、もう普通に女の子でした。ふと、その中の一人の真莉ちゃんが不思議そうに操縦席の三宅先生に尋ねます。
「ねえ、三宅先生。あの男の子達会った時から気になってるんだけど、小柄だし女の子慣れしてる雰囲気だったけど、ほら、三宅先生ってアメリカで…」
 それは、もしかしたらってあなたもあの二人に会った時から思っていた事でした。真莉ちゃんの芯を付いた質問に三宅先生がどんな表情するかと、ちょっとどきどきしていましたが、
「え?あの二人?そうよ。アメリカでのあたしの施設の研究生の一期生。当然元女の子よ」
 あっけらかんとすごい秘密を暴露してしまう三宅先生に、あなたも他の女の子?達ももしやと思っていたはずなのに、驚きの声を上げてしまいました。
「結城先生、俺、なんか大変な集団に関わってしまった気がしますよ」
 キャビンではもうすっかり酔っ払い状態になった大塚先生が、尚もカットグラスを口に近づけながら結城先生に話しかけています。
「いやあ、大塚先生。あなたにもいずれこのグループの面白さがわかります…」
 結城先生がそう言いかけて、自分のグラスにウィスキーを注ごうとした時、エンジンを止めた操縦席から三宅先生が半分怒った様子で飛び出てきました。
「もう!二人ともいいかげんにしてちようだい!戻ったら臨時定例会でしょ!そんな状態で会議に出て平気なの!?」
 そう言いながら二人から乱暴にウィスキーのグラスを取り上げ、氷ごと中身を洗面台にぶちまけてすたすたと操縦席に戻る三宅先生。
「ほんとに男ってバカよね!?」
 そうあたし達に話す三宅先生の様子を見て、四ヶ月前は男の子だった三人組は大笑いしていました。

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