俺の中の杏奈

(9)早くも女風呂デビュー

(あーあ…、どうしよっかな…この体…)
 自分の部屋に戻り、水着を脱いでピンクのフリル付のショーツ一枚で姿見に体を映して大きなため息をつく僕。
 日焼け止めを塗っていたにも関わらず、僕の体はうっすらと小麦色に焼け、ホルターネックの水着のブラとスカートで隠されていたおへそから下太股の上の部分が真っ白に日焼け残り。その白い胸の部分は、小さいながらも乳房になりかかって、円錐形に尖った胸と、つんと上を向いたもう男とは言えない赤黒く大きくなったバストトップ。ウエストの部分が少しくびれ、おへそは女の子のそれの様に長く縦長になり始めている。
 体のでこぼこは殆ど無くなって、薄い脂肪の襦袢を着た感じ。これじゃ、水着着れば女の子に見えたって仕方ない。
「あ…」
 もう一度大きなため息をついて無意識のうちに右手の指を唇に当てる僕。柔らかくなった唇に添えられる、細くしなやかで柔らかくなり始めた僕の指。と、僕の背中に一冊のレディース雑誌が当たる。
「いったい、もう!」
 お約束で反射的に僕が抗議の声を上げるけど、
「何自分の裸見て悦に浸ってるのよ!あんたも早くさがしなさいよ!ほら!めいちゃん(水村)の見た日記もう一回調べて!!」
 柴崎さんのどなり声がする。後ろを振り返ると足元に乱暴に置かれた杏奈の日記の後ろで、ぺたん座りした水村さんが杏奈の日記の一冊を殆ど顔とくっつける様にして調べている。その横で僕から取り上げたアイフォンで最近放置してある杏奈のSNSと、メールその他をぶつぶつ言いながら調べていた。
「もうっ、めんどくさい」
 女の子の様な口調で独り言を呟いた僕は、慣れた手付きだけどのろのろと仕方無さそうにブラを手にして胸に付け、傍らの椅子にかかっていた部屋着のサマードレスを頭から被る。
「先生!(柴崎)やっぱ見当たんない…」
「もっかい調べて!」
 残念そうに言う水村さんに柴崎さんが強い口調で言う。そして僕にも…
「のろのろしてんじゃないよ!あんたもちゃっちゃと調べるの!」
「あた…僕、もう疲れちゃったよ…」
 そんな僕の太股に、もう三十歳近いのに年甲斐もなく、白に大きなキティちゃん柄のTシャツに、ピンクのショーパン姿の柴崎さんのキックが炸裂。
「あんたが杏奈の兄の右京だってばれたらどんなに大事か知ってる?消されるわよ!それともあたしが消してあげようか!?」
「好きにすればいいじゃん…」
 昼間のイベント疲れでさ、僕もう早く寝たいんだけど…と思いながら、僕は水村さんの横に座って、のろのろと杏奈の日記をチェックし始める。と程なく、
「先生(柴崎)、これ何だろ?」
「え、何か有った?」
「今年の初め頃の日記の横のイラストなんだけど、Mahoって書かれた女の子のイラストの上にクリオネが二つ書いてあって、二つのハートは暖かいねって書かれてて、そして多分これフランス語だと思うんだけど…」
 杏奈から僕に受け継がれたアイフォンに目を近づける様にして、中身をチェックしていた柴崎さんは、それを聞くとアイフォンを僕のベッドの上に放り投げ、水村さんの横に駆け寄る。
「日記本文には無かったから、イラストをチェックしてたんだけど…」
 そういう水村さんに目もくれず、柴崎さんは水村さんに指し示されたイラストと短いフランス語に見入り、そしてなにやらブツブツと独り言。そして、突然
「オー!マイガーッ!!」
 両手を後頭部に当て、目を瞑りのけぞって、そのまま僕のベッドにダイブして倒れこむ柴崎さん。僕と水村さんは何が起きたんだろって感じで顔を見合わせた。やがて、柴崎さんはベッドの上で天井を見つめながら独り言みたいにつぶやく。
「[クリオネの誘惑]ですって!?ええ!知ってるわよ!フランスのティーンの女の子達に大人気の、百合、レズ小説よ!」
 僕と水村さんが再び顔を合わせる。
「あの二人、出来てたのよ!手の指で作るサインは、ハートじゃなくってクリオネの形をもじってたのよ。あのお話の中ではこれからどう?って事なの!そんなの想定外よ!いつのまにそうなってたのよ!どーすんのよどーすんのよ!あたしの責任じゃないわよー!」
 大声で叫びながら僕のベッドの上で手足をばたばたさせる柴崎さんだった。
「どんな、お話なの?」
 水村さんが我に返った様に柴崎さんに言う。
「彼氏もいる普通のルナって女の子が、クロエって女の子に迫られるの。クリオネはクロエから採られてるのよ。ルナの前で可愛く振舞うクロエに、ルナもだんだん気を許してって感じの…」
 突然黙り込む柴崎さん。そして突然
「右京!ていうか偽杏奈!今から温泉行くぞ!」
 なんで今から?信じられないといった顔の僕。
「やめようよ、だってこんな体で風呂なんて入れないじゃん!」
 だが、僕は多分女の子の持つ感というものが宿り始めたのだろうか、すごく嫌な予感がした。そしてそれは的中する。
「バカね!女で行けばいいじゃん!」
 柴崎さんの顔をまつめたまま二、三歩あとずさりする僕。
「ほ、本気で言ってるの?」
「あたりまえじゃん!失敗だったわ!男慣れさせる前に女慣れさせとくべきだった…」
「やっやだよー!」
 柴崎さんの無謀な提案に一言そう叫び、部屋の隅へ逃げる僕。
「やだよっ!なんであたしがそんなとこに行かなきゃなんない…いかなきゃいけねーんだ、ったく…ああっもう!」
 その瞬間、完全に女言葉を喋ってしまった事に気づいて訂正しようとしても、男言葉が咄嗟に思い出せなくなった僕。昼間、真帆ちゃんと愛利ちゃんと言葉少なめだけど、いろいろ話ししたせいだろうか。
「だめ!付きあいなさい!」
「やだやだやだ!」
 僕を捕まえようとかる柴崎さんから逃げる僕の口から無意識に出る女の子の抵抗の言葉。
「あ、いたたっ昼間あんたに蹴られた足が…」
「え?」
 柴崎さんのその言葉に一瞬ひるんだ僕はまんまと計略にひっかかり、柴崎さんに捕まって後ろに引き倒されてしまう。
「めい(水村)ちゃん!ガムテ持って来て!股間処理するから!」
「やだってばー!」

 時刻はもう夜の八時。サマードレス姿で水村さんが用意した女の子お風呂セットの入った可愛い杏奈のバッグを手に憂鬱な顔の僕。水村さんと一緒に連れて来られたのは、過去田柄さんと何度か来たことのある江ノ島の近くの大きな温泉施設。



(可愛い子いたらひっかけようぜ)
 田柄さんのその言葉が頭の中に響いた。時刻柄、仕事帰りのスーツ姿の人、若いOLの人も少なくない。僕はもう顔から火が出る思い。あの中にこれから混じるのかと思うと。
「大丈夫ですよぉ」
 はげましのつもりなりか、水村さんが声かけてくれる。
「水村さん、僕水村さんの裸見る事になるんですよ」
「別にぃ。もう慣れたし。杏奈様の体も女の子らしくなってきたし、胸も出来てきたし。ほら昼間ちゃんと女の子してたじゃないですか?」
「あれは、ゲストとして一般の人から一歩はなれた所にいたから、その、僕だって…」
 うつむき加減でそわそわしながら施設に入る僕。と、
「こら、もっと堂々と歩きなよ。かえって怪しまれるじゃねーかよ」
「そうですよぉ。顔上げて、胸つんして歩いてください」
「おめー達より自分の方が可愛い!そう思いながら歩け!女だけの場所は女同士の意地の張り合いと戦場なんだからさ!」
 そうこうしているうちに温泉施設の受付。今までの緑じゃなく赤のキーを渡され、今までとは逆方向に歩かされていく僕。
(女湯って一度覗いてみたいよなあ)
 田柄さんの言葉に笑いながら入っていった逆方向の男風呂をふと振り返る。少なくとも、もう僕はそっちに行くのには体が変わりすぎた。
 そして、とうとう「女」とかかれた暖簾をくぐる僕。その奥へ進むと、どんどん強く臭ってくる化粧品と香水と女の混じった独特の臭い。はーん…とあきらめた様にため息つく僕。今後はこんな世界で生きていかなきゃなんないんだ。
 ここは女の子達の人気スポットだと田柄さんに聞いた事有る。子連れのお母さんに混じって、予想以上に若い女の子達がいる。その子達が体をタオルで隠さず堂々と胸をあらわにして、下も隠さずに…。田柄さんの夢をこんな形で先に実現した僕だけど。もう恥ずかしくて…。
 ロッカールームのなるべく奥の方へ行こうとする僕の手を引き戻して、中央の若い女の子達の群がってる所へ連れて行く柴崎さんが小声で言う。
(怯えないで!堂々として!変に思われるじゃないの!)
 目のやり場がないほど女の子達であふれかえってるその一角に入ると、おもむろにキティちゃんTシャツを脱ぎ、ショーパンに手をかける柴崎さん。水村さんも手をクロスさせて、僕の着ている様なサマードレスの肩紐から手を抜く。ストンと落ちるドレスと共に、大きな胸を包むブラが露になる。
 渋々水村さんと同じ様にしてサマードレスを脱ぐ僕。女の子達に囲まれたブラとショーツ姿の僕に、本当顔から火が出る思い。と、程なく僕の目は、横の女の子のグループの一人に目が行く。僕と同様バストトップは大きいけど胸の膨らみは僕と同じ位。しかも形が良い分僕の方が女の子らしい胸してる。
「こら!他人をじろじろみない!見るなら見ないふりしてこっそり見る!女の掟だよ!」
 小声で僕に注意する柴崎さんはもう水着跡の残る大きな胸を露にしてショーツ一枚の姿だった。
「先生(柴崎)、それDですか?」
 僕を挟んで横で水村さんがブラを外しながら言う。
「あ、あたし?Dだけどちょっときついかも。めいちゃん、それD位でしょ?」
「うん、D。いいなあ、あたしより有るなんて」
 初めて見た水村さんの胸。もう僕の股間のあれは興奮して…いや、全然なんともない…。僕も覚悟決めてブラを外すけど、当然二人と比べると、貧相な位の貧乳…。
「こら、早くしないと置いてくよ、貧乳!」
「あ、ちょっと!」
 そのままショーツを大胆に脱いでロッカーに放り込んでタオルと小物入れを手に大浴場へ行こうとする柴崎さんと水村さん。それを追う様に大胆にショーツを脱いでロッカーに入れて駆け出す僕。
「ひっどーい…」
「かわいそう…」
 僕の後ろで、女の子グループの誰かがそう言って笑うのが聞こえた。
 掛かり湯の後、真っ先に大きな展望風呂へ向かうあたしたち?三人。富士山の見える大浴場。二ヶ月前男だった僕に誰一人変な顔する人いない。ちょっと拍子抜け。
 そこに三人寄り添って浸かりながら、時々特定の女の子を目で合図して僕に見る様に言う柴崎さん。僕と同じ位の胸の人。僕より胸がぺたんこの人。腰のくびれが殆ど無い人。驚いたのは年は僕と同じなのに、僕より腰のくびれがなく、ヒップも未発達の娘がいる事。
 そして、顔も今の僕より男の子っぽい女の子。すね毛が濃くてそれをカミソリで剃っている女の子。そして、あそこの毛も、男みたいに一杯ある人。
 女って風呂場じゃみんなタオル巻いてるってイメージだったのに、そんな事している女の子が珍しい位。
「どう?これが女で、女風呂の実態なのよ。あんたなんて自分が思っている以上に女で通ってるんだから」
「そ、そうみたいです」
 なんか僕、少し自信ついたみたい。まだ体が女として未完成な僕でも…。只、無理矢理女の子にさせられた事については正直嫌なんだけどさ。と、その時、
「先生!」
「自爆霊先生!」
 二十歳位のお姉さんといった感じの二人の女性が手を振りながら転ばぬ様に早歩きで笑顔で近づいて来る。柴崎さんも大きく手を振って答えていた。
「先生!昼間見てましたよ!かっこよかったじゃないですか」
「モデルさんみたいでしたよ。まだビキニ着れるんですね」
 一人はタオルで髪を巻き、一人は胸元にタオルを持って、下は全く隠さずの姿で湯船のあたしたち?三人の前に座る。僕の目はだんだん女の子達のそんな姿にも慣れてきたみたい。
「久しぶりじゃん。こんな所で奇遇ね。昼間見ててくれたんだー」
 二人に向かって笑顔になる柴崎さん。二人は彼女が精神科医として受け持った患者さんらしい。なんだかんだと三人でいろいろ昔話している。そんな横で僕もだんだん女として自信が付いてきたのだろうか。作り笑いだけど笑顔でにこにこしながら相槌を打っていた。
「でもいいなあ、先生まだプロポーションいいし、可愛いしさ」
「あたしもモデルやりたいなあ」
 と、その時愛想笑いしている小さく膨らんだ僕のバストトップをぶすっと指で突く柴崎さん。
「やん!」
 上手い具合に女言葉が出たけど、女の子の前で僕にそんな危ない事…もしも男言葉が出たらどうすんだよって感じで口を尖らせて柴崎さんを睨む僕。
「大丈夫よ、こんな貧乳ずん胴の子でもモデルやれるんだからさ」
 おーっほっほという感じで笑いながら喋る柴崎さん。
「先生!ちょっとそれってひどくない?」
「かわいそうじゃん!ほら怒ってるし…」
 そう言いながらばしゃばしゃと柴崎さんに手で湯をかける彼女。と、
「ちょっと胸見せて」
 僕の前に来ると彼女はいきなり僕の胸に手を伸ばし始める。
「年いくつだっけ?」
 僕は恥ずかしさと、もしやばれるかもという気持ちでもう頭の中が真っ白。
「じ、十七です…」
 うつむいたままそれだけ言うのが精一杯。
「十七かぁ、若いなあ、いいなあ…」
 そう言いながら彼女は僕のふくらみ始めた胸を触り、そしてもう大きく赤黒くなった僕のバストトップを触り、その下にいつのまにか出来たシコリを指で優しく縁取る様に。
 それは僕にとって初めての感覚だった。くすぐったくて、恥ずかしくて、柔らかくて。第三者に女としての僕の胸を認められた瞬間。
「感じる?だめだよね。こういうの男にやってもらうのが一番だよね」
 僕は前に田柄さんに乱暴に胸をもまれた時の事を思い出す。あんなのより今されているこれの方が気持ちいい!
「大丈夫だよ。乳腺しっかりしてるし、形はいいし。Dまでは行くんじゃない?」
「え?」
 びっくりして顔を上げ、彼女の顔を見る僕に、笑顔で答えて、僕の頭を軽く撫でる彼女。
「大丈夫だって、これからよ。ほら、お尻だってさ、大きすぎるのはやだけどさ」
 もう一人の女の子も僕にそう言って笑って続ける。
「ねえ、彼氏は?いるの?」
 なんとなく気を許した僕が笑顔で首を少し振ると。
「早くみつけなよ。世の中変わるぞー、楽しいぞー!ねぇー」
 うなずき合う二人に、男だった時の友人で昼間に会った高杉や本間の顔を思い出す。友達としてはともかく…というか、こんな体になった僕にとって、友達と彼氏って、何がどう違うんだろ?
 二人とも彼氏持ちなんだろか?しばし自分の彼氏自慢が始まる。と、横でじっと聞いていた柴崎さんが意地悪そうな顔しはじめる。
「あーら二人とも。この杏奈ちゃんは十七歳にして、既に男とB体験済みよ」
 その言葉に
「えーーーーーーー!!」
 二人揃って素っ頓狂な悲鳴上げる彼女達。
「あーんた達十七歳の頃って何してたっけ?引きこもってたり、登校拒否してたり」
「なによそれ!」
「今ここで言わなくったっていいじゃん!」
 そう言いながら柴崎さんと湯のかけあいする彼女達。ってさ、僕と田柄さんのあれって、そのB体験て奴なの?
「ねえねえ、Bやった人って、今でも付き合ってるの?」
 もうなんで、女ってそういう話に突っ込むんだよ。それにさっきの彼氏自慢とかさ。
「ううん…、好きでも、嫌いでもない人。いきなり押し倒されて…、何だかわかんなかった」
 初めてその女の子達と顔を合わせて、少し笑って話す僕。
「え?キスは?」
「キス…してない…」
「信じらんない!体目的?」
「えー、でも体許したんだったらさ、気はあるんじゃん?大切な人かもよ」
「とりあえずキープって感じ?」
 僕は湯船の底にまた杏奈が潜んでないかと足元を見渡したけど。幸い寝てるのか機嫌がいいのか、杏奈の姿は見えなかった。只さ、もうさ、彼氏とかさ大切な人とかさ、体許すとかさ、その、僕にはわかんないよ。でもさ、あの時田柄さんに気にいられようとして杏奈のテニスウェア着たのは確かだけど、あの時の僕って、何を考えてたんだろ。田柄さんが去っていった時の僕の気持ちって、何だったんだろ?
「あのさぁ、最初にキスしようよ。それにもし大切な人だったらその時ちゃんと引止めとかないとだめだよ」
「そそ、ぎゅっと抱きしめたりとかさ、流し目使うとかさ、嘘でもいいから気持ちいいふりするとかさ」
「恥ずかしいかもしんないけど、恥ずかしいふりして、でも心は大胆にさ」
「目つぶったら恥ずかしくないから。彼氏の顔見ると恥ずかしくなっちゃうから」
 もう手取り足取り、二ヶ月前まで男だった僕に女の彼氏と始めての事を教えてくれる彼女達。
「あのへタレが…」
 柴崎さん小声で舌打ちするのが聞こえた。そしてばかばかしいという顔で、横で湯船の縁に座って足をばたばたしていた柴崎さん。僕の女性化教育に必要だと考えていたのか黙っていたけど、とうとう
「お前ら、いいかげんにしとけよ。初心な女子高校生に何話してんだよ」
 と二人に言う。そっか、僕もうすぐ女子高校生になるのか。
「なんでよ、初心な女子高校生が男とエッチ寸前まで行かないでしょ?」
「だってこれ、先生が高校生だったあたしたちに教えてくれた事ばっかじゃん!」
 その途端ずっと押し黙ってた水村さんが大笑いする。
「そうだったっけ?」
 と柴崎さんもしらっとする。
 と、いきなり彼女達の一人が僕の下腹部。そう、脱毛で綺麗に長方形に女性のそれに整形されたアンダーヘアの部分にぎゅっと指を突き刺してくる。咄嗟に危険を感じて両手をそこに当てる僕。それ以上、下に手がいくと、僕の秘密がばれる!
 でも彼女はそんな僕の顔を見て、なにやら勝ち誇った笑い顔。そして、
「早く経験しなよ。そしたらもっと可愛く綺麗になるから」
 とドヤ顔。と、風呂場の奥からどうやら彼女達を呼んでいるらしき声。
「あ、終わったみたい」
「それじゃねー」
 さんざんあたしたち?に迷惑をかけていってくれた彼女達はようやく離れていった。
 女の子ってやっぱり優しいなあ。いろいろ教えてくれたり気遣ってくれたりって感じる僕。二人が去っていく様子を手を振りながらみていた柴崎さんにその事をぼそっと言う僕。
「まあ、エッチすればね。多分あんたもさ…」
 あさっての方を見ながら僕に言う彼女。とそのままの姿勢で彼女が続ける。
「あんたにはさ、あの二人はそう見えたの?優しくいい人に?」
「う、うん」
 と彼女は大きくため息を付く。
「だから、男って奴はさ…」
 柴崎さんて僕が男だったって事忘れていなかったんだ、ははは。
「逆よ逆!あれはあんたを見下してたのよ!」
 え?という顔をする僕の方を振り向いて続ける彼女。
「女は確実に自分より格下だと思う相手にはすごく保護者みたいに優しくなるもんよ。あんたの方が自分達より若い時に男と関係したって話聞いてから、自分達のプライド取り戻そうとエッチな話ばっかりしてたでしょ。あんたは子供!あたしたちは大人!だってね」
 そうだったの?僕にはあんなに優しくしてくれたって思ったのにさ。
「あんたもこれからは、あんな表裏有るドロドロした女の世界で生きていかなきゃなんないのよ。嘘、裏切り、なんでも有りのさ。頭の中が単純な男のまんまだったら絶対耐えられないと思うからさ」
 そして突然声を荒げ、
「あーあ、あたし男に生まれたかった!」
 と言ってまた足で湯船の湯をばたばたさせる柴崎さん。と、その時、
「えー、女って楽しいですよー」
 さっきから黙ってた水村さんが久しぶりに喋る。
「まあ、めいちゃん(水村)みたいに女が向いてる生き物もいるしね」
「えー、だって先生って年に会わずキティちゃんとか、ミニスカショーパンとか、体ぴったり服とか、結構女楽しんでませんかぁ?」
「おおきなお世話よ!そうでもして男からかってやる楽しみでも持たないと、女なんかやってらんないわよ!」
 柴崎さんと水村さんが話してる中、僕は複雑な気持ちだった。女って、そうなの?そんなもんなの?僕女で生活していけるの?
「あ、だからさ、こんどあたしが杏奈様に女の楽しみ教えてあげる為に、いいとこ連れてってあげようと思いますぅ」
「どこへ?」
 僕を一瞬ちらっと見て笑った水村さんが柴崎さんにそっと耳打ち。その途端、体を前後に揺らして手を叩いて大笑いする柴崎さん。そして
「いいんじゃない?面白そうだから連れてってあげれば?」
「はいですぅ」
 そう言って僕に大きなおっぱいの胸元で小さくVサインする水村さん。いつのまにか女性の裸の胸を見るのに慣れてしまった僕。それに、どこ連れていくつもりだよ水村さん!
「あー、もうやめたやめた!女の勉強おしまい!せっかく来たんだからのんびり浸かって帰ろっと」
 そう言って手に持ったタオルで髪を包み始める柴崎さん。
「杏奈さんもやってください。髪が傷みますよ」
 そう言って長く伸び始めた僕の髪をタオルで包んでくれる水村さんだった。


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