エンゼルソードに花束を!

(19)悲しみと喜びと

 あの事件の後、エンゼル達はおのおの平常心を取り戻し、通常任務に戻っていった。しかし只一人、秋元大尉はすっかり体調を崩して軍の病院に入院していた。無理もない。既に彼女と同期のエンゼル達は全員殉職。先だってピクシーアローの結城真弓曹長(殉職してエンゼルソード中尉扱い)を亡くし、今度は部下の栗原中尉がスパイで逮捕、その上海事担当の奄美まどか・ひみか両少尉も殉職。特殊第九十一部隊エンゼルソード副指令としてあまりにもふがいない結果だった。
奄美姉妹を失った鎌田少尉は、その心の傷の癒しを秋元大尉のお見舞いに求め、秋元大尉も同じだった。思えばこの二人はあの特殊部隊入隊テストの時、鎌田少尉が秋元大尉のパンツを見てからかった時からのくされ縁で、特に秋元大尉は日頃の悩みと相談と愚痴のはけ口に、良く鎌田を呼び出していたらしい。全くなんであの巨体のむさくるしい男がエンゼル達に人気が有ったのだろう。
栗原元中尉の裏切りに関しては、その処罰にあたり、特殊部隊において見せしめの極刑か、あるいはこれまでの功績を重視しての除隊・保護観察処分か意見が二つに分かれた。しかし彼女の肩を持つ大村少尉の優秀さは部隊皆知っており、本人の責任において身請けの意思もあり、その結果左手と左足の義手義足を普通の民間レベルの物に取り換え、軍女子刑務所での不定期刑とあいなった。素行が良ければゆくゆく刑務所員の武術教官への道が有るらしい。
暫くして全てが落ち着いた頃、エンゼルソードの緊急集会が行われるという話を聞いた。何故か俺と大村、鎌田にも召集がかかった。俺はてっきりあの事件の最終報告だと思ったが、鎌田からも何やら話があるとの事。エンゼルの集会なのに何を話すつもりなのか。
「なんかいい話かもよ」
すっかり女っぽく可愛くなってしまったエンゼルスーツ姿の綾瀬が集合場所の周防准将の部屋に向かう途中で何か意味ありげな様子で歌う様に言った。
「いい話ってか?まさか誰か結婚とかか?結婚したらエンゼル辞めなきゃいけないんだろ?」
「うん、そーだよ」
「まさかお前?もう嫌になったか?鎌田がお前の事気にいってたよな。あそこまだそのままだろ?夜は大丈夫か?」
「なんでそういう事言うのよ」
からかう様に言う俺に、そう言いながらぷいっと頬を膨らませてすねる綾瀬。
「もうお前は女だよ。結婚でもなんでもしちまえ」
あきれた様に俺は彼女?に言った。


その部屋では周防准将がデスクに座り葉巻を咥えながら正面を見据えて動かなかった。横にいた榛名中佐もあっけにとられた様子で腕組みをしながらも口をポカンと開き、その目は一点を凝視している。その二人の目線の先には直立不動の鎌田少尉。そしてその横には今入院先からやっとの思いで出てきたのか。青い顔にげっそりした頬の秋元大尉がうつむいて立っていた。
俺達や他のエンゼルの隊員達も、つい先ほどの鎌田少尉の言葉に信じられないという顔をしている。そのまま誰も動く事もなく、誰も喋らない空間が暫く続いた。
ふと鎌田がはっきりした口調で周防准将に向かって話す。
「今一度お願い申し上げます!榛名中佐との!秋元大尉との結婚をお許しください!」
鎌田少尉のその声に周防准将の眉が動く。その横で秋元大尉はハンカチを取り出し、目頭を覆い始めた。
「准将殿!秋元大尉はもう精神的に限界であります!この上は不肖、私鎌田が彼女を引き取り!看病と治療の上、幸せにしてやりたいと考えております。いや、そう決意致しました!」
そう言う鎌田少尉を身動き一つせず、目だけ動かしてギロっと睨みつける周防准将にすごみを感じた俺。そのままこの場で准将得意のナイフが鎌田少尉に突き刺さるのではないかと思った。只、鎌田少尉も負けじと周防准将の目をじっと見据えていた。
「お前、これがどういう事かわかってるのか?」
「はい!十分承知しております!」
睨みを効かせた准将の言葉に、少しおびえながらもはっきり言い切る鎌田少尉。
「いいの?それで」
今度はぼそっと榛名中佐が秋元大尉に話しかけ、そして続ける。
「結婚したら、エンゼルソードは抜けなきゃいけない。その掟はわかってるよね?」
「…はい…」
榛名中佐の方を向いてそう小声で返事した彼女は、今度は周防准将の方に向き直った。
「周防長官。お願い致します。彼と一緒にさせてください。退役を…、ご承認ください」
そう言って秋元大尉は周防准将に向けて深々とお辞儀をし、そのまま動かなかった。再び部屋は緊張と静けさが支配した。誰も何も言わず、咳すらも誰もしなかった。
鎌田少尉をじっと睨み続けていた周防准将はふと目線を手にもつ葉巻の灰を落とす灰皿に向け葉巻を押し付けてねじり消し、おもむろに立ち上がり、デスクの後ろの大きな窓ガラス越しに軍空港をじっと眺め始める。まだ続く静寂の中、窓の外を眺めつつゆっくりはっきりと話し始めた。
「秋元麗華大尉。部下の栗原中尉の逮捕及び奄美まどか・ひみか両少尉の殉職の責により、本日をもって特殊第九十一部隊副指令の任務を解く…」
准将殿のその言葉に、秋元大尉はすっくと顔を上げ、そして無言で再びお辞儀をする。だが、周防准将の言葉はそれで終わらなかった。
「但し、人質無事救出の功により、本日をもって空席となっているエンゼルソード下部組織、ピクシーアローの部隊司令官を命じる」
准将のその言葉に一同驚きの表情を見せ、秋元大尉は目を見開き、口を少し開け、まさかという顔で、彼の後姿を凝視した。
「ピクシーならたとえ結婚してもやめねばならないという規則は無い。結婚して退役までピクシーにいる女性下士官も何人かいる。まあ、エンゼルへの昇格試験は受けれないけどな」
そう言って准将殿はようやくる俺達の方へゆっくり向き直って続ける。
「今後はピクシーにおいて優秀な人材を育てて、エンゼルに送り込んでほしい。以上だ」そう言って周防准将は再びデスクに着き、黙って新しい葉巻を取り出し、ナイフで吸い口を作り始める。
その前で秋元大尉は顔をくしゃくしゃにして体を震わせた。口からは嗚咽の声さえ出始めた。
そして、
「あ、ありがたきお言葉…喜んでその任務…拝命致します!」
彼女の目は涙で開く事が出来ないらしい。無様な顔を皆に見せながらも彼女は准将閣下に敬礼を行った。
「実は、私もあなたと同じ事考えてましたの。あなたの口からそんな言葉が出るとは思ってもみませんでした。なんだかんだ言いつつもエンゼルの事考えて頂いてたのですね」
榛名中佐が感慨深い表情で周防准将を見つめるが、
「榛名中佐!お前にあなた呼ばわりされる筋合いは無い!」
榛名中佐を睨みつけてそう言った後、
「俺は秋元大尉の経験を考慮し、規則に基づき辞令を発したまでだ」
そう言い放つと再び葉巻にナイフを入れ始める周防准将。
「はいはい、そうでございました」
腕組みをしつつ周防准将殿を横目で眺めていた秋元大尉はふっと笑顔を見せ、そして俺達の方へ向き直り話始める。
「辞令!。名前を呼ばれたら前に出なさい。まず、木暮桜花中尉」
榛名中佐のその言葉に一同がざわつく。
「イェッサ…」
少し驚きの声も交じって木暮中尉が返事をして皆の前に出る。
「本日付けで特殊部隊第九十一部隊、大尉及び副司令官に任命する。今後は前任の秋元大尉に負けず劣らず、エンゼルソードを取り仕切る事」
後ろでは、直属の部下の愛原少尉と矢吹少尉が手を取り合って飛び跳ね歓声を上げるが、即座に榛名中佐の一喝で黙り込むんだ。
「次、森井沙弥香少尉」
その声に驚いた表情を見せた彼女は小声で返事をし、緊張しながらも榛名中佐の前に立った。
「本日付けで特殊部隊第九十一部隊中尉、兼小隊長を命じる」
「イ、イェッサ!」
榛名中佐の辞令に緊張気味に答えて敬礼する彼女に、榛名中佐は周防准将のデスクに置いてあった二つの白い綺麗なな木製の箱から、真新しいエンゼルの身分証を取り出し、両手で彼女に手渡した。
「新しい身分証明書と日本軍公認の殺人許可証です。これを受け取る重大さと責任、わかってるよね」
「は、はい!十分承知しております!謹んで拝命致します!」
震える手でそれを受け取った彼女は恥ずかしそうに元の位置に戻った。
あれ、白い箱がもう一つ?誰だろ?と俺が思った時、
「浜夕日少尉!」
という榛名中佐の声。あ、薄々俺もそんな感じがしていたが。
「来ると思ったんだよなあ。木暮上がったし、栗原いなくなったし」
前に出て行かず、そのままの位置で腕組みをして毒づき始める浜少尉。
「何企んでるのよ?嫌だよあたしゃ殺人許可証なんて。いらねーよそんなの」
「人殺しなさいって言ってる訳じゃないでしょ?嫌ならやらないに越した事ないし」
浜少尉の文句に少し困惑気味に答える浜少尉だが、
「おばさん、いいかげんにしないか」
そう言って切ったばかりの葉巻を口にした周防准将が咎めた。
「ったくもう、准将閣下まであたしをおばさんとか言うし、あんたの方が年上だろっつーの。なんなのよこの組織はもう…」ぶつくさ言いながらゆっくり皆の前に出て榛名中佐の前に進み出て、嫌そうな顔をしつつも
「なんですかぁー」
と言って敬礼する浜少尉。
「本日付けで特殊部隊第九十一部隊中尉、及び後方支援チーフを命じます。同時に今まで兼任していたピクシーアローとの連携の任を解きます。秋元大尉に任せてください」
「ブーブー…」
そう言ってふくれっ面をしながらも渋々新しい殺人許可証兼身分証明書を受け取る浜少尉。そして珍しそうにカード型のそれを眺めていた彼女がいきなり目を輝かす。
「ねえねえ、本当にあたし人殺していいの?」
いきなりの突拍子も無い彼女の質問に、流石の周防准将も葉巻の煙がむせたのか、ゴホッと咳をして、
「ま、まあな」
と短く答える。
「じゃ、じゃあさ!手始めにこいつ殺していい?」
そう言って笑顔ではしゃぐ浜少尉が指さす先には、榛名中佐がいた。
「ちょっと!夕日!なんて事言うのよ!」
そう言って左右を見渡して困惑気味に答える榛名中佐。
「おーい…二人とも仲良くやれよ…古い付き合いなんだし、お互い名前で呼び合う仲なんだろ?」
「大きなお世話よ!さんざん体使わせた上にあたしの仕事の楽しい所ばっかり取り上げてさ!ピクシーの女の子達とわいわい言いながら仕事するの楽しみだったのに。あーあ、あたし軍の食堂のお姉さんでいた時の方が良かったなあ…」
そう言いつつまだ文句言いつつ元いた自分の場所に戻る彼女。これで終わりかと思ったその時、
「アンジェラ井上中尉!」
打って変わった榛名中佐の呼び声に当の彼女がびくっとして答える。
「ア、アノ、ヤッパ、ウチ、降格デッカ?」
そう言いつつそそくさと立っているエンゼルの女の子と俺達の間をすり抜ける様にして、榛名中佐の前に立ち、申し訳なさそうに頭を下げる。
「アンジェラ井上中尉!返事が無い!顔あげんか!」
「イ、イェッサ!」
榛名中佐の喝の声に、顔を上げ彼女を見つめながらきりっと敬礼する井上中尉。と、中佐殿はそんな彼女の前に近づき、引きつった笑顔を見せ、右手で彼女の顎に手を当て、映画の女悪役みたいに喋り始める。
「この前も散々説教したけどさぁ、もし今度勝手な事やったら…」
「…勝手ナ事、ヤッタラ…アハハ」
榛名中佐の鬼の様な笑顔に流石の井上中尉もひきつった作り笑顔になる。
「さんざんぶちのめして、二階級降格で曹長にしてピクシーに蹴落としてやっからな!そこで秋元大尉に可愛がってもらえ!いいな!?」
「イ、イエッサ、イエッサ…」
そう答えて井上中尉はこそこそと元いた自分の場所へ戻っていく。短い時間だったが結構長く感じた緊急集会が終わった。
「以上をもって解散しますが、真田少尉と綾瀬少尉は残ってください。それでは任務に戻ってください」
榛名中佐の言葉に足早に部屋から出ていくエンゼルの面々と鎌田少尉と大村少尉。部屋に周防准将と榛名中佐、そして俺と綾瀬だけが残った頃、わざわざ榛名中佐が部屋のドアの所へ歩み寄り、左右確認の上自らドアを閉めた。
一体何の話だろうという感じで俺と綾瀬が顔を向けあっていると、戻ってきた榛名中佐が俺に向かって話し始めた。
「真田勇気少尉。極めて重要な話があります」
続けて話し出した彼女の言葉は俺にとっては衝撃的な物だった。
十分後、俺だけが呆然とした顔つきで部屋から出てくる。わずかの時間の話だったが、それは俺の魂を打ちのめすのに十分だった。と、そんな俺を部屋の外で待ち構えていた奴がいた。大村と鎌田である。
「なんだよ、お前だけに話ってなんだよ?」
「特殊部隊長官殿と泣く子も黙る九十一くのいち部隊長官殿直々のお話か?」
そろって俺をけん制する鎌田少尉と大村少尉。栗原元中尉の件でいがみ合ってた奴らがもう仲直りかよ。
「なんだよ、言ってみろよ。特命任務か?給料アップか?」
「軍高官の令嬢とのお見合い話か?俺のいる真下技術少佐の研究室にもいるぜ。エンゼルだけど法橋少尉っていう軍高官のお嬢様が」
「お前だけだぜ。花嫁候補が決まってないのは。あ、綾瀬がそうだっけ?」
立ち去ろうとする俺の両肩に一人ずつ手をかけ笑いながら問いただす鎌田少尉と大村少尉。
「なんだよ。良けりゃ替わってやるぜ。出来るもんならな」
相変わらず半分空に浮いている気分で、足もふらつきながら答える俺。
「あーもうじれってーな!教えろよ!」
鎌田少尉がそう言って大きな手のひらで俺の背中をどんと叩く。いいかげんうざくなった俺は立ち止まって後ろを向き、そしてため息一つついて話す。
「二つに一つ選べとよ。まず、特殊部隊を辞めて陸軍に戻るか…」
「なんだそりゃ?なんでおめーみたいな優秀な奴が?」
驚く大村少尉の顔を見ながら俺は続けた。
「そして二つ目、エンゼルソードに入るか」
さすがにそれを言った時、鎌田と大村は驚いた顔をしたが、二人ともいきなり笑いだす。
「こりゃおもしれぇ!遂にエンゼルも男性兵士投入か。まあ女ばかりだと心細いんだろな」
「察するところ、今の九十一部隊に九十二部隊を作って、お前はそこの部隊長とか…」
鎌田と大村が好き勝手に言い始める。
「そーじゃねーよ!」
怒った様に俺は言って、そして恥ずかしそうに続ける。
「俺に、女になれってさ。綾瀬みたいになれって言うんだよ。機密事項だ!良けりゃ替わってやるぜ」
笑ってるのか驚いているのかわからない顔をしている二人に、更に俺は続ける。
「エンゼルは基本的に波長の合った者同士二人ペアで行動するんだけど、綾瀬と波長の合う奴がいねーんだとよ。そりゃそうだ。元々男だしよ。それで波長の合う俺にエンゼルに入れってよ」
そう言って俺は足早にその場を離れた。
「なんだそりゃあ!」
「嘘だろ!おい!」
背中で二人の驚きの声を聞きつつ、俺は廊下を足早に立ち去った。


その日の夜、勤務を終えた俺は行きつけのバーで一人酒を飲んだ後、半分酔っぱらったまま綾瀬のいるアパートに押し掛けた。普段母艦のセイレーン・コール号にいる場合が多いのだが、今日はたまたまそこにいた綾瀬が俺を出迎えた。
久々に来た綾瀬の部屋には、十数足の靴やブーツやミュール、多くの服のかかったクローゼット。可愛い小物にアクセサリーと化粧品でごった返している化粧台、かわいい柄のカーテンとカーペット。かわいい縫いぐるみに、あちこちに貼ってある男性俳優のポスター。棚には花まで生けてある。もう完全にどこかの独身OLの部屋そのものだった。
「おい!綾瀬!いったいどんな話したらあんな事になるんだよ!特殊辞めるか女になるかなんて、究極の選択そのものじゃんかよ!」
俺の剣幕に部屋の奥からのそっと出てきたルームウェア姿の綾瀬がちょっと気後れして話し出す。
「だって、当初は栗原中尉と組むはずがいなくなっちゃうんだもん。僕だってまさかこんな事になるとは思わなかったもん」
女の子らしい身振り手振りでおおげさに話す綾瀬だった。
「なんだよ!綾瀬!お前がメインで俺はおめーの付属品かよ!周防も!榛名も人間じゃねーよ!」
「そりゃそーよ!新日(新日本帝国)から送られてきた、捕らわれて人質になったエンゼルの自殺シーンの映像観て、笑いながらワイン飲む様な人よ!榛名中佐は!」
以前に聞いたエンゼルソードの初期のエピソードだった。まあ中佐殿の本意はそうでないらしいが。
「真田、じゃ辞めるの?」
「辞めたくねーよ!この仕事は俺大好きだし!」
「じゃ、エンゼルに入る?」
「…田舎の親にどう説明すんだよ!俺の親父も佐官まで務めた軍人だぞ!結構おっかねーんだぞ!」
「准将から話してもらえばいいじゃん!ねえ!真田クン!」
ひときわ女らしい話し方になった上に、真田クンと来た。今まで呼び捨てだったのに。
「真田クン、お願い、辞めないで…」
暫く俺を見つめていた綾瀬の目が流し目になり、俺に哀願する様に首に両手をかけてくる。
「お前さ、俺の気持ちにもなってみろよ」
「僕の事好きでしょ?」
「なんだよいきなり!」
「ブラジルでキスしてくれたじゃん…」
「あれは、別れの挨拶だ!」
「結構ディープだったじゃん…」
今度はそう言って俺の腰に両手を回して、すっくと顔を上げて俺の顔を見つめる綾瀬。
(お前、本当にあの綾瀬浩二だったのか?)
確か特殊部隊のテスト受けた時、俺と綾瀬はほぼ同じ体格だったはずが。肩幅は小さく、胸元にはルームウェア超しにはっきりとわかる胸の膨らみ、そして彼女?の体から漂う女独特の甘い匂い。そのまま綾瀬は背伸びして目をつぶり俺の唇に自分のそれをくっつけようとする。
「お前、そんな事しても…」
「お願い。特殊部隊辞めたら、僕たちもう永遠に会う事なんて出来ないんだよ」
綾瀬の唇を避けようと顔を背ける俺に、尚も俺の顔をじっと見つめてそう言いながらキスをねだってくる彼女。その顔は昔の綾瀬浩二の面影はあるものの、ぱっちりと大きく二重に成形された目に長くなったまつ毛に細い眉。ふっくらとした頬にぷるんとした唇。まるで綾瀬浩二の妹だと言われればそれで通じる…。
(かわいい…)
ふと油断した俺の顔の後頭部に綾瀬の手がかかり、柔らかくなった彼女?の唇がしっかりとくっついた。
(もう、どうにでもなれ!)
とうとう俺は綾瀬の誘惑に負け、そのまましっかりと綾瀬を抱きしめた。他の女の子を抱いた時みたいに、俺の手に綾瀬の背中にブラが当たる。
(もう、こいつは女なんだ)
そのまま俺達二人は絡んだまま横のベッドに倒れ込んだ。

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