エンゼルソードに花束を!

(16)反撃

 小銃を手にもう片方の手でエンジン横の細いパイプを掴みすっと降りて来る。
「お前の役目は終わった」
そう言ってすかさずホウに向かって二発。頭と心臓を射抜かれたホウは、笑顔のままその場に倒れで絶命した。
素早くユンは綾瀬の首に手をかけ、銃を彼女?に近づける。
「ホワイトデビルのスーツってすごいよねえ。銃弾三発までならはねのけるんだろ?どういう仕組みになってんだろうね。お嬢さんさっき一発当たったから」
そう言って綾瀬を抱えたホウはたて続けに二発、銃弾を綾瀬の腹部へ打つ。さすがに至近距離だとかなりの衝撃らしい。
「あうっ!」
綾瀬の口からうめき声が漏れ、エンゼルスーツが青く光った。
「動くなよ、みんな動くなよ。動いたらこのお嬢さんに四発目撃ち込むからな。おっと後で俺の体のマグナムも撃ち込んでやるか」
そう言ってにやつくユンに、
「汚ねぇぞこの野郎!」
そう言って飛び掛かろうとする鎌田少尉を、ユンを睨みながら俺はなんとか取り押さえた。
「さあ、そろそろ効いてくる頃かな。誇り高きホワイトデビルのお嬢さん。どうだ?俺といい事したくなってきたか?」
ユンの腕に首を絡ませられて、暫くうつむいていた綾瀬がすっと顔を上げると、その表情はうつろになっていた。
「あら、いい男じゃん…ユン様だっけ?敵にしとくのもったいない…」
そう言いながら綾瀬の手はまるで恋人に甘えるかの様にユンの首筋に絡みつき始めた。
「ははは、ホワイトデビルも所詮女だね。うーん、かわいいじゃないか」
「ほめてくれてるの?嬉しい…ねえ、いいことしたーい」
そう言いつつ完全に理性を失った様子の綾瀬は、キスをせがむ様にユンの口元に顔を近づけ。あろう事かユンの股間を片手でまさぐり始める。
「大きいのね…うふ…」
俺はそんな綾瀬をもう見ていられなかった。
「やめろ!綾瀬!やめろ!」
俺の言葉に全く耳を貸さない様子の綾瀬は、今度は再び両手をユンの背中に回し、自分の下半身をユンの股間に押し付けて腰をくねらせ始める。女性化の進んだ綾瀬のウェストはくびれ、ヒップは小柄ながらも丸く大きくなっていて、女のラインがくっきり出始めていた。
「やめろったら!やめろ!」
俺は目をそらしながらもう一度叫ぶ。
「女の子達は逃がしたが、替わりに、このホワイトデビルのスーツの機密とボーイッシュな可愛い女戦士は頂いていこう。スーツは多分数億の価値、この子は俺のボディーガードとして教育してあげますよ」
そう言って勝ち誇った様に笑うユンであった。
ふと、そらした目線を木暮中尉に向けると、彼女の手が後ろにいて飛び掛かろうとしている鎌田、大村、そして浜少尉を後ろ手に制止している様な手つきだった。
「ねえ…あたしも連れて行って…あっちでいい事しましょ…」
そう言いながら綾瀬の両手が銃を持っているユンの手を握ったかと思うと、彼女?はユンのその手を両手でつかみ、そこに力一杯膝を当てた。
「な、なんだ!」
そう叫ぶユンの手を更にもう一度膝で蹴り上げると、彼の手から銃は離れ、それは床に転がった。
「き!貴様!」
綾瀬がユンに掴みかかろうとするが、その手をするっと抜けてユンは機関室の奥の方へ逃げていく。
「まて!この野郎!」
男の感覚に戻ったのか綾瀬がベルトの銃に手をかけようとするが、痺れているのかうまく銃が抜けなかった。
「綾瀬!大丈夫か?」
「だめ、体が重い」
「無理すんな!」
綾瀬を介抱しようとした俺だが、
「あれ、演技だよな…」
「当たり前じゃない!恥ずかしさこらえてやったんだよ!」
俺の声に本当の女の子みたいに肩振るわせて綾瀬が抗議する。
「追って!」
木暮中尉が叫ぶ中、
「綾瀬!ここで待ってろ!」
俺はそう言い残し、そして俺達は狭い機関室の中を奥へと進んだその時、錆びたボイラーの上から人影が飛び降りて来たのが見えた。先頭を走っていた俺はいきなりそいつに回し蹴りを食らったが間一髪避けたもののその場に転がった。そいつは上下黒の皮のライダースーツに目無し帽をかぶっていたが、見事な女性体型だった。
「女かよ!」
俺の言葉に
「下がって!みんな手出ししないで!」
木暮中尉が俺の前に出てその黒づくめの女と相対した。
黒ずくめの女が木暮中尉に襲い掛かるが、その手刀や蹴り足を組み合わせた見事な格闘術に俺もぎょっとする。むろん木暮中尉も負けてはいない。息を呑む壮絶な格闘戦が繰り広げられている。
闘いながらその黒い女は隣の部屋へ移動。そこは難破船の中央らしいが、床に大穴が開いており、その底は瓦礫だらけの岩場が見える。その場所を良く知っているのか、怪しい女はその穴の淵を忍者の様に渡り歩き、遅れて追ってくる足元がおぼつかない木暮中尉に容赦なく手刀と蹴りを食らわせ始めた。やがて黒づくめの女が放った強烈な回し蹴りが木暮中尉のゴーグルをかすめた。それは彼女の顔から外れると同時に何かが割れる音と共に壁にぶつかる。そして黒い女のキックは横の細い金属のパイブにぶつかるが、鈍い音と共にパイプが曲がってしまった。
「大村!真下技術少佐から預かった物を撃って!」
二人を追いかけて突然後ろで待機している俺達に向かって木暮中尉が叫ぶ。
「え、これですか?これ…銃じゃないですよ」
「撃ちなさい!あの女に!」
「り、了解!」
腰に下げていた何やらカセットガンみたいな奇妙な形の物があの黒い女に向けて放たれる。と、ブーンという音と共にその女の動きがおかしくなり、左腕をおさえた形で彼女は壁にもたれ、そして力なく崩れ落ちる様に座り込む。
「真下技術少佐があんたの暴走を止める為に作った物よ。あなたの左腕と左足を止める電場パルス銃。スパイがあなただってあたしは信じたくなかった。今の今まで。あの金属のパイプを曲げるまで…」
一瞬の静寂。どうやらエンゼルの面々はその黒い女の正体を知っている様子。

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