エンゼルソードに花束を!

(15)内通者は誰!?

 時を同じくしてエンゼルの兵器研究所兼工房では、所長の真下技術少佐のいる所長室のドアがいきなり開いて数人の銃を持った兵士がなだれこんできた。見れば真下技術少佐は、机の上の台座に乗せた何かの銃の分解整備中らしい。
「なんだよお前ら、部屋に入る時ノックぐらいしろよ」
そう言いつつ顔を上げた真下技術少佐は兵士達を見ていぶかしげな顔をする。
「なんだ?軍警備局が俺に何の用だよ?」
すると小隊長らしき兵士が真下技術少佐の前でうやうやしく敬礼して話す。
「真下技術少佐殿、大変遺憾ではありますが、これより貴官を拘束致します。手を置いてください」
「置いてくださいったってよ、この銃の照準器の整備明日までにやってくれって、榛名中佐から言われてるんだぜ」
「我々はその榛名中佐からの命を受け、貴官を拘束に参ったのです。申し訳ございませんが、手を頭の上に乗せ。横の会議室までお越しください」
所長室の前は研究所の職員でたちまち人だかりが出来る。エンゼル下部組織のピクシーアローの女の子達、それにエンゼルの法橋少尉も駆けつけてきた。
「なんだそれ?理由はなんだよ?」
「お答え致しかねます。どうぞこちらへ」
めんどくさそうにデスクから立ち上がる真下技術少佐だが、
「少佐殿、手を頭の上に置いてください」
「何もしねーよ!」
「規則ですので」
うやうやしくもあるが厳しい口調でそう言うと若い指揮官はそのまま真下技術少佐を横の会議室へ連行。閉められた会議室の前では大勢の職員やエンゼルの関係者が取り囲んでざわついていたが、同行した警備局の兵士が追い払い、ドアの前に張り付いた。


一方難破船の船尾の方では愛原少尉と矢吹少尉がグレネード弾とライフルで二人で敵の洞窟内に建てられたバラックのアジトと格闘していた。フォールンエンゼル(殺人許可)モードになっているものの、爆薬の扱いに慣れている矢吹少尉は人命尊重の精神に乗っ取り、直接敵を撃たずに洞窟内の天井めがけて爆薬を撃ち込み、崩落した岩でアジトを埋めようとしていたが、想像以上に岩盤は堅かった。
「やべ…そろそろ爆薬が」
「えー!どうすんのよ!」
エンゼルスーツのスカートの裾から予備のジュエル型の弾丸を取り出す矢吹少尉に、まだ執拗に迫ってくる敵の手下に銃で応戦しながら愛原少尉が叫ぶ。
「引き下がりたくないなあ、敵ももうそんなにいねーだろ…」
そう言いつつ、矢吹少尉は胸元から別の紫色のジュエルを取り出して銃口にセットしようとするが、
「やめとこ…あんまり人が燃えるの見たくねーや」
そう言いつつその紫色のナパーム弾を万一の為にベルトのサックに刺し、自分の銃からグレネード用のアタッチメントを外して通常の銃に戻した。
とその時、海上から凄まじい機関銃の音。ボートに乗った鎌田少尉と大村少尉が体制立て直して応援に駆けつけてきた。旧式とはいえ毎分一千発近く出るMP5を操縦席の上に据え付け、大村少尉の補助の元撃ちまくる弾丸は敵のバラックのアジトを恐怖に陥れるのに十分だった。
「これだけ騒いでるのにさ、なんで警察とか軍とか来ないのよ!」
「警察はこねーよ!ここは新日(新日本帝国)の奴の私有地だから手が出せねぇ!」
「軍は!?」
「わかるだろ!動けりゃエンゼルソードなんて呼ぶわきゃねーだろ!」
「こんな物騒な極秘任務なんてあっかよ!」
ここに到着するまでに何やら軍や警察と連絡とっていた大村少尉に、不平不満ぶちまける愛原少尉。
「愛原、矢吹、援護するからアジトの制圧に行け!」
「わかった!」
「了解!」
大村少尉の言葉に愛原少尉と矢吹少尉は、敵の猛攻で動けなかった大岩の影から飛び出し、物陰に隠れつつ洞窟内のバラックのアジトに向かう。


「女達を輸送潜水艇へ、援軍は?」
AK12を手に当初より勝手が違ってきた状況に、いらいらしながら手下に告げるユウ。そして、
「日本の警察に連絡しろ。襲われてるってな」
「警察…ですか?」
それを聞いたユウの部下が驚いた顔をする。
「ここはおめぇ、日本だろう?日本の警察に守ってもらおうじゃん?」
にやけた顔で答えるユウだった。
やがて銃を持ったユウの手下数人が女の子達が捕らわれている機関室へ向かった。
「なんだよ、内通者がいるから楽勝って言ってたのになあ」
「万全の体制じゃなかったのかよ」
女の子達を連れに来た手下共は口々にそう言いながら機関室へ。
「さあ、お嬢様方、出航でーす」
一人がそこのドアを開けておどけ気味に言う。しかし目の前に二人の見慣れぬ少女が正座しているのを目にしたそいつは一歩あとずさりする。
「おまえ…誰だ!?」
奥にいた手下共が続ける。
「ホワイト…デビル…」
「なんで…ここに」
座敷わらしみたいなおかっぱ頭の双子のエンゼルの口元がかすかに微笑む。
「Welcom to my house(私のお家へようこそ)」
「Would you like to play with us?(一緒に遊びませんか)」
そう言うと二人はゼンマイ仕掛けの人形の様にはじけ飛んだかと思うと、目の前の二人の首に抱き着き神経弾を撃ち込み、残りの逃げていく奴全員の背中に二~三発撃ち込むと、手下全員はおとなしく床にはいつくばった。
「脱出する?」
「ううん、今だと女の子達が危ない」
「ほとぼり冷めるまで待つ?」
「うん、仲間を信じよう」


同じ頃、難破船近くの道路では何も知らない地元警察がバリケードを築いて通行を規制していた。
「おかしな話だよなあ…テロだって言うのに、自前のガードマンで処理するから手出しするななんてよ」
「まあ、署長が何もするなって言うなら、それでいいんでないかい?」
不審そうに言う若手警察官に、リーダーらしき人物が暇そうにしながら煙草に火をつけた。と、そこへ轟音を立てて一台のトレーラーが走ってくる。運転しているのはようやく瓦礫だらけのトレーラー中を片付けて隣街からやってきた浜少尉だつた。
「どけどけどけどけぇ!どけぇーーー!」
目の前の警官隊に気づいた浜少尉はクラクション鳴らしながら大声で怒鳴る。
「停まれ!停まれ!」
そう言って警官がトラックの前に立ちはだかる。
「お前!死にてーのか!このタコ!」
そう叫ぶ浜少尉だったが、警官の前に車止めの巨大な棘付の柵を見つけて急ブレーキをかけざるを得なかった。
「おばさん!だめだめ!ここは立入禁止!」
「何が立入禁止よ!この先で何が起きてるか知らないの!?」
「だめだよ!何人も通すなとの命令だから!」
「誰がそんな事言ってるの!」
「ここ管轄の警察署長だよ。さあ降りた降りた!」
「こら!離せ!離しなさい!」
トレーラーの窓を開けて叫んでいる浜少尉の元にかけより、強引にドアを開けて数人がかりで警官たちは浜少尉を引っ張り出す。
「そっちこそ離せよ!」
とうとう引っ張り出された浜少尉が警官のリーダーらしき背の高い男に食ってかかる。
「あたしはこーゆー者だから!」
そう言って警官に掴まれている手を振りほどいて着ているコートのボタンの胸のあたりを外すと、そこにはエンゼルスーツの胸元のエンブレムが見え隠れした。
「げっ、ホワイトデ…」
一斉に手を離した警官の一人がそう呟いた途端、ベルトに刺した先端に火花の走るベルトのサーベルを瞬時に伸ばし、呟いた警官の喉元に突きつける浜少尉。
「あんた、今なんつった?」
「あ、あの、エンゼルソードの…」
警官の怯えた声にサーベルを縮め元のベルトの鞘に直す浜少尉。
「あ、あの、一応身分証明書を…」
「ああ?証明書!?うっぜーなあもう!」
警官のリーダーの言葉にめんどくさそうに答えつつ、
「どこやったっけ…」
エンゼルスーツの上からあちこち体を抑えた後、大胆にもスーツのスカート部をまくり上げ、隠しポケットみたいな所からそれを取り上げ、
「ほらほらほらほら!」
と背の高い警官のリーダーの顔の前でジャンプしながら身分証をひらひらさせる浜少尉だった。それを見た警官のリーダーが
「おい!」
と顎で部下に合図すると、警官達はそそくさとバリケードを横にずらし始める。
「ぼさっと突っ立ってないで!あの船に人質救助に行きなさい!」
「いえ、その、我々は署長からここを動かず警護しろと…」
「ったく使えねーなあ!」
そう言い残して浜少尉はさっとトレーラーに乗り、難破船の方へ向かう。
やがて浜少尉は難破船から一番近い道路の場所にトレーラーを止め、暗視ゴーグルを付け難破船の船首のドアへ向かった。とその瞬間背後ですさまじい爆発音。咄嗟に木の陰に身を隠すが、その時浜少尉の見たのは、運転席からごうごうと炎が上がる無残なトレーラーの姿だった。暫く呆然と立ち尽くしていた浜少尉はようやく事態の重大さに気が付いて一人叫ぶ。
「折角掃除したのにーーーー!」
とその時浜少尉の暗視ゴーグルに、道の反対側の森を走り去る人影が見えた。
「待ちなさい!」
そう言って腰のサーベルを抜きつつ後を追いかけたが、なんなく逃げられてしまう。と
「まさか…」
見失った時点で何か気が付いた様に独り言。だがすぐ我に返ってヘッドセットに向かって喋る。
「法橋!今すぐヘリで簡易式のエンジンの付いてない揚陸艇をヘリのスリングで持っといで!女の子達はそれに乗せてボートで引っ張るから!」


とき同じ頃、スパイの容疑者として真下技術少佐が監禁されている会議室では、彼の監視に従事している軍警備局の若き士官が落ち着かない様子。とうとう彼は部屋から出て榛名中佐に連絡を取り始めた。
「中佐殿、その疑う訳ではありませんが、本当に真下技術少佐が容疑者なんでありますか?」
別部署で大使の警護に当たっている榛名中佐は少し間を置いて小声で答える。
「ブラックホール砲で新日本帝国の技術者と交流有ったし、エンゼルのメンバー以外でエンゼルの通信を傍受していたのは彼だけだし、法橋少尉の話だと栗原中尉のエンゼルスーツを隠したらしいのよ。何かあったの?」
「それが…」
警備局の士官が困惑気味で続ける。
「普通我々が拘束した容疑者は、大体おとなしくして震えたり、訳のわからない事喋ったりするのですが…」
「どうなの?彼の様子は?」
「それが、その、ソファーに寝っ転がってコーラとポテトチップ食いながらずっと映画観てるんです。余程肝が据わってるのか、それとも…」
「今別の線で調べてるからちょっと待ってて」
警備局の士官は無線を切り、不審げに真下技術少佐の拘束されている部屋に戻る。
「これ、面白いよなあ」
相変わらずソファーに寝転がって映画観ながらそう独り言を言う真下技術少佐を見て、他の警備局の兵士も顔を見合わせていた。
待つこと数分、警備局士官の携帯に榛名中佐からの連絡が入った。それを聞いた彼は驚いた様子で暫く立ち尽くした後、真下技術少佐におごそかに話す。
「ま、真下技術少佐殿。その…容疑は消えました。部屋へお戻りください」
「え?そうなの?」
警備局士官の顔も観ずにそう言って、そのままテレビの画面を見続ける真下技術少佐に、彼は申し訳なさそうに話す。
「あの、本当に容疑晴れましたので、部屋の方へ。その、ご無礼はお詫び申し上げます」
「嫌だよ、まだ映画途中だし、俺もう仕事する気ねぇ。まあ、君も任務だったんだろ」
困惑気味の警備局士官が尚も無線を手に何か榛名中佐と話しているが、
「少佐殿、榛名中佐殿が重要な話が…」
「うるせえ!ババァ!俺当分お前の仕事はしねぇって言っといてくれ!」
「あの、そうおっしゃらずに…」
無線機を持ち尚も困惑気味の警備局士官に、わざと榛名中佐に聞こえる様に言う真下技術少佐。それでも尚無線機を押し付けてくる士官から不機嫌そうに彼はそれを受け取る。
「あー、あんたの小銃送り返すから、整備とか調整とかそっちでやってくんない?俺もう仕事しねーから」
意地悪そうな笑みを浮かべながら話す真下技術少佐だが、何やら榛名中佐の話を聞いているうちに次第に真剣な表情になっていく。そして、
「嘘だろ…おい…」
そう呟き、尚も榛名中佐の話を無言で聞いていた。


「親分、人質の所に行った奴が潜水艇に戻って来ねぇ!」
その言葉にユウは舌打ちした後、いらいらした様子で黒の手袋をはめ、ガシャンと音を立てAK一二の安全装置を外し、白のスーツから葉巻を取り出して火を付けた。
「久々に銃撃戦やるか」
そう言って葉巻を喰えたままAK12マシンガンを肩にかけ、PL15ピストルを手にモニター室のドア横のいくつかのコップに向けてそれを撃つと、たちまち音を立ててそれは全部割れた。
「まだ腕は鈍っちゃいないようだ」
そう言ってユウはモニター室から出て行った。
先ほどジョーが自爆した船倉の出入り口付近では、俺と綾瀬と木暮中尉が狭い廊下でドアを盾に敵兵と撃ち合いの最中だった。
「糞!これじゃ機関室へ進めねぇ!」
俺の軍服は三発までの簡易防弾機能のついたエンゼルスーツとは違う。そこへトレーラーを近くに乗り捨てた浜少尉が船首のドアから駆けつけてくる。
「おばさん、見ての通りだ!人質の所には…」
「こっちも大変なのよ!トレーラー爆破されちゃったの!」
「爆破って、なんで!」
「知らないわよ。とりあえず法橋少尉に緊急でヘリで輸送艇スリングで持ってこいって言ったけど」
「こっちも敵多すぎて機関室までたどりつけねぇ!」
「さっき双子の人魚(奄美姉妹)と話したのよ!通風孔使えって」
浜少尉と俺が怒鳴りあう中、俺はさっき手下共が奄美姉妹を担ぎ上げて船に入っていった時の話を聞いた。通風孔使って奄美姉妹が脱出したのではないかと話していた事を思い出した。
「場所はわかる?」
「入口はこの船倉の中。後は人魚達が教えてくれる。この船の構造は知ってるって。改造されてなければの話だけど…」
「よっしゃ!」
俺達は浜少尉をかばい、まだ血なまぐさい匂いが充満している船倉に再び入りドアを閉めた。と、船倉の上の通路から銃声。同時に綾瀬が短い悲鳴と同時に壁に背中からぶつかった。綾瀬のエンゼルスーツが鈍く光り、寒い部屋に一瞬熱い風がゆらめいた。
エンゼルスーツは銃弾の衝撃を光と熱で全体に拡散させて打ち消す仕組みになっている。只し三発までだが。咄嗟に俺達は横にあった木箱の陰に身を潜めた。幸いにも通風孔は木箱の近く。そこに身を潜め撃ってきた相手の方へ銃を数発撃つ俺達。物陰に隠れていたもののそいつは倉庫の階上から悠然と葉巻を咥え、こちらの様子を伺っていた。
「森井少尉!第四船倉に誰か来れる?」
「中尉!こっちもまだ手が離せないよ!」
「甲板は後回しでいい!一人手練れが第四船倉の上の庇にいる」
木暮中尉と綾瀬少尉の話を無線で聞いていた霧雨少尉が言う。
「第四船倉の上部の庇ね」
木暮中尉がそれに答える。
「援護するよ。その後操舵室付近まで引くから」
霧雨少尉が目でそれに了解のサインを送った。

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