エンゼルソードに花束を!

(13)ちびっ子ギャング始動!

「よし!行け!ちびっ子ギャング!」
防人岬の近くのテトラポッドを積んだだけの小さな堤防に漁船に似せたエンゼルボートが接岸し、ゴスロリ服の奄美まどか・ひみかの二人が飛び降りるのと、多分難破船からだろうと思われる高輝度のサーチライトが光ったのと、
「おい!この野郎!そこの漁船!立ち去れ!」
下品な怒鳴り声がスピーカーから大声で怒鳴ったのはほぼ同時だった。
「やべぇやべぇ!」
そう言って月明りの中二人のゴスロリ少女が浜辺でわざと折角の服を泥まみれにしているのを見届けた鎌田少尉。そして、
「大村!行くぜ!」
「わーったよ!もうヤケだクソ!」
鎌田少尉の声にわめく様に叫んだボートの操縦席の大村は、横のレバーを引く。と、漁船のカモフラージュは全てはがれて海に落ち、流れる様なデザインのボートが現れる。
瞬時に海洋仕様の光学明細に覆われた船は防人岬の難破船へ向かう。何語かわからない怒鳴り声が難破船のスピーカーから大音響で聞こえ、程なく
「タタタタタタ!」
自動小銃かマシンガンの音が聞こえてきた。
「大村!あの銃の音わかるか!?」
「あ、ああ!AK47だ。まだ使われてるのか」
「大陸行って10クレジットありゃ手に入るさ」
「バカな奴らだ。あんな性能の悪いので船狙ったら、狙えば狙うほど外れるぜ」
ヘッドセット超しにそんな会話する二人。
「さてと、ゴスロリ娘を援護するか!」
そう言って軽い音を立て弾倉をMP5に装着し、揺れるボートの上に立ち、吠える様な声で難破船に向かって一声上げる大村少尉。骨董品同然だがAK47とは格が違う。凄まじいうなり声を上げ、難破船にめがけて打ち込まれる銃弾、ボートに積まれた山の様な弾倉が蛇の様にうねり、難破船の船体を一直線に火花が走っていた。
オペレーションはこうだ。鎌田と大村が囮として海上のボートで敵の注意を引いているわずかの隙に、俺と綾瀬は難破船の前方、木暮中尉と愛原・矢吹両少尉の三人は後方より、敵の歩哨が海に気を取られ持ち場を離れた隙に近づく。そして、森井・霧雨・連光寺の三人はエンジン付きのパラグライダーで難破船の上空から降下。三方向から急襲して敵のアジトを制圧する。浜少尉は人質救出用の乗り物の用意でリリーは森井少尉達を運搬。鎌田と大村の二人は暫く海上で暴れた後、多分来るであろう敵の応援に備えるってシナリオだが、即席同然で作った計画であり、敵の数や規模も今一つ不明。それに人質の女の子二十人がどこにいるのかもわからない。只それについては、あのゴスロリ服着たちびっ子ギャングの奄美姉妹の演技力にかかっている。
鎌田と大村が海上で暴れている時、敵も遂に機関砲の準備ができたらしい。難破船の船首から鈍い砲撃の音と閃光弾の光が鎌田と大村のボートに近寄ってきた。
「やべ!もう来やがった。ずらかるぜ!」
その言葉に大村の操縦するボートは急旋回して難破船から離れ、外洋へ向かった。
丁度その頃、リリー少尉の操縦するヘリから降下した森井・霧雨・連光寺の三人は暗闇に紛れ、難破船の上空を飛行していた。三人とも背中には目標地点自動着地機能付きの大きな逆噴射機能付きのパラセイリングのリュック、暗視ゴーグルに手には機関銃。弾倉は背中のリュックに装備。そして下方からの攻撃を防ぐ為の白いマントの様な物を装備していた。
只、殺人許可は出ているものの、敵方とはいえむやみに人を殺めない様、リュックの弾丸は即効性のある神経毒を仕込んだものだが、それでも一発当たれば相手は二時間は動けないだろう。
「連光寺、敵の様子は?」
「海側の銃器らしきものに取り付いてるけど、範囲が広いねえ…まんべんなく…」
「数は?」
「ざっと三十ってとこかねぇ」
「ノルマ、一人十人ね」
一足先にヘリから降下りた連光寺少尉と森井少尉がヘッドセットで会話。連光寺御世少尉は綾瀬の前年にエンゼルに着任した新人同然の少尉だ。頭にはベージュに茶色のリボンのついたテンガロンハットがお気に入りらしい、見た目からして西部劇のガンマン気取り。それだけではなく銃器の早打ちのスペシャリストで、今まで後方支援ばかりだったが、今回初めて突撃班として先鋒を切る事になった。只、エンゼルの隊員になった事が余程嬉しかったらしく変な癖がある。
「船上は狭いので、纏まって降りるのがいいんじゃないか?遠方の奴が来る前に近くの奴を殲滅する必要あるけどね」
もう一人の霧雨少尉の声。エンゼルスーツの上に短い忍者刀、くないや手裏剣みたいな物を装備した鉄鋼と手甲と脚絆を付けた、まるで忍者みたいなスタイルの霧雨少尉の声が ヘッドセットから聞こえる。銃よりナイフの方が早くて正確と言う彼女独自の忍術理論を持ち、銃は護身用に持ち歩く程度だった。人はなるべく殺めないというエンゼルの非情の精神から、彼女の忍者武器も神経麻痺の薬を仕込んだものだ。
「オケ!自動目標到達の逆噴射は、目標五十メートル上空にて。同時に一斉射撃。幸運を!」
「ラジャー!」
少尉としてはベテランのリーダー格の森井少尉の指令に二人が答える。
「スリー!ツー!ワン!掃射!」
難破したタンカーの操舵室裏を目指し、マシンガンで神経弾を敵の頭上にぶちまける三人。どこから漏れたか海上から来ると思っていた敵の手下共は不意をつかれ、何人もが何もせずに甲板に転がった。
甲板に着地する寸前にパラセーリングのリュックと防弾マントを脱いだ三人は、襲ってくる敵を格闘戦にて瞬時に五人をその場にねじ伏せた。
「てめーら…何者だ…」
連光寺少尉に急所を三か所やられて床に転がって身動きすら出来ない初老の敵兵士の言葉に、彼女の悪い癖が出る。さっと腰のエンゼル仕様の銃を手に取り、テンガロンハットに当て、そして見え見えの西部劇のヒーローみたいなポーズ。
「知らざあ言ってきかせやしょう!エンゼルソードで一番の銃の使い手、早打ちのミヨとは俺様の…」
「何やってんの!早く来なさい!」
口上を言いかけた連光寺少尉のヘッドセットから森井少尉のどなり声が聞こえた。
「ちぇー…」
そうふくれっ面した彼女だが、突然背後に現れた二人の気配を悟り、そのまま横っ飛びざまに振り向きコンマ数秒で二発ずつ、計四発の神経弾を相手に撃ち込み、二人はうめき声をあげて倒れる。
「思ってたよりハードだぜ…」
そう言って彼女は起き上がり、森井少尉と霧雨少尉の後を追った。
「始まったね…」
綾瀬と俺は難破船の前方、先の灯台の方に舳先を向けている貨物船の近くで、近くをうろついていた敵の歩哨の動きを見ていたが、案の定騒ぎが起きると歩哨達は船の方へ走っていく。
その様子を見て俺達も駆けだそうとした時、
「はなせー!はなせー!」
「ばかー!ばかー!」
波風の音に負けない二人の女の子のきんきん声が聞こえてくる。見ると二人の別の歩哨が一人ずつ女の子を肩に担いで波打ち際を歩いていく。俺と綾瀬はその様子を見て思わず笑う所だった。悲鳴を上げていた二人はあのゴスロリ少女に化けた奄美まどか・ひみか姉妹である。
「全く、手間かけさせやがってよ」
「でもよー、こんな奴商品の中にいたか?どっから逃げ出したんだよ」
「通風孔じゃねーのか?あーあー折角のおべべがどろだらけで台無しだよお嬢ちゃん。あははは」
「待ってなよ。大陸に行ったらもっとかわいいセクシーな服あげるからよ」
笑いながら藪に隠れている俺達の目の前を通り過ぎていく二人。
「しかし、やけに重いぜ」
「このびらびらの服が海水に濡れてるからだよ。さあ、早いとこあの売り物のギャルの中に放り込んじまおうぜ」
奴らの後を追っていくと、二人はまだ抵抗する奄美姉妹を担いだまま揃って船の船首の横の新しく作ったドアみたいな所に消えていった。
「コールエンゼル!奄美両姉妹、潜入」
その様子を見ていた綾瀬がヘッドセットに向かって怒鳴る。
「首領!奴らが来ました!」
難破貨物船の船長室らしき所で、多分人質の女の子達の搬送先と連絡を取っていたユウ・カイウェンは、手下のその言葉を聞くと話を打ち切り、テレビ電話のスイッチを切って立ち上がる。
「来たか。海上からか?人数は?」
「それが、海から来た奴が囮みたいで、ホワイトデビルが三人空からパラグライダーみたいな奴で…」
「なんだと!?」
そう叫ぶと貨物船の操舵室の下の船長室の窓に駆け寄り、窓を開けて様子を見るユウ。外では銃声と叫び声で騒がしい。
「あの野郎、まさか二重スパイじゃあるまいな…」
少し考えた末、彼は手下に指示する。
「ジョーを第四船倉に連れていけ」
そう言ってユウはいらいらしながら船長室のデスクに荒々しく腰掛け、傍らのワインの瓶をラッパ飲みし始める。


「そーら!お仲間が戻ったぜ!」
そう言ってゴスロリ娘に化けた奄美姉妹を抱えた二人は機関室の扉を開け、やや乱暴に二人の双子を放り込む。
「仕事増やすんじゃねーよ」
「脱走なんて出来ると思うなよ」
二人は高笑いしながら機関室のドアを閉める。わずかなLEDライトの明かりの中、一部動力としてまだ使われているのか、ボイラーとエンジンの音がする中、毛布に包まった人質の女の子達はおびえた目をして奄美姉妹を見つめていた。
「あなた達も捕まったの?」
一人の女性が二人に声をかけたのと同時に数人が駆け寄り、泥だらけのゴスロリの二人をぎゅっと抱きしめたり体のゴミや泥を払ったりしてくれる。
「お姉さん達、捕まった人?」
姉の奄美まどか少尉が抱きしめてくれてる女性に問いかける。
「そうよ…この先どうなるかわからない」
「ここにいる人みんなそうなの?」
「どういう事なの?」
女性の言葉に妹の奄美ひみか少尉が話す言葉に、二人の周りにいる女の子達は少し面食らった顔をする。
「助けに来た」
「何が有っても騒がないで」
どう見てもティーンのゴスロリ服着たお人形さんみたいな姿の二人の言葉に女の子達はお互い顔を見合わせるけど、
「な、何言ってるのあなた達、助けに来たってそんな…」
一人の女の子の言葉に構わず、二人の少尉は背負ってきたクマのリュックの中からゼリー飲料みたいなのをバラバラっと機関室の床にばらまける。
「まずいけど飲んで。数時間は元気になる」
そう言って二人はそこに集まった女の子達にそれを次々と投げ渡す。
「まどかでーす。女の子達いたよ。機関室」
ゴスロリ服に仕込まれているらしいマイクに向かってそう喋る奄美まどか少尉の前で、次々にドリンク剤を女の子達に渡していく奄美ひみか少尉。と、
「だめ!そんな女に渡さないで!」
皆から少し離れて機関室の隅で横たわってる黒のドレスの女性にひみか少尉がドリンクを手渡そうとした時誰かがそう叫んだ。
「あたし達はその女に騙されて連れてこられたのよ!」
「あたしもよ!」
「そんな女に構わないで!」
人質の女の子達の非難の声がどんどん大きくなる。
「シー!騒がないで!」
通信を終えた奄美まどか少尉の声に一同が黙る。皆が静まったのを見て彼女は妹のひみか少尉の前で震えている、皆とは少し年齢の高そうな女性の横に四つん這いになって行って問いかけた。
「それ、本当なの?」
まどか少尉の言葉に、泣きはらした目を伏せながら彼女がうなづく。
「あなた名前は?」
「…ホウ・ユンファン…」
その様子を見たひみか少尉も彼女に近寄って尋ねる。
「もうしないって約束してくれる?」
相変わらず無言でうなづくホウ。
「裁判で、証人になってくれる?」
まどか少尉の問いにも、軽くうなづく彼女。
「じゃ、これあげる」
震える手でホウがドリンク剤を受け取ったのを見ると、二人は機関室のドアに向かって人質の女の子達を守る様に先頭に座り
「位置情報おん…」
位置を知らせる発信機のスイッチを入れて、その時を待った。


「女の子達は機関室!」
船の前方の出入り口らしい所を見張り、突入の機会を待っていた俺と綾瀬。その綾瀬に奄美まどか少尉から連絡が入り、それを聞いた綾瀬が俺に言う。事前に貰ったあの難破船の同型の貨物船の見取り図からすると、操舵室の真下がそうらしい。
綾瀬は俺にも聞こえる様にスピーカーの音量を最大にした。俺達とは反対の船の後方でやはり難破船を見張っているはずの木暮中尉と愛原、矢吹両少尉だが、やたら銃声が聞こえる。洞窟に似せた敵側の秘密のアジトがあり、そこから出てきた手下と派手に銃撃戦の真っ最中らしい。その銃声の合間から木暮中尉が指示する声が聞こえてきた。
「綾瀬!あたしは今から人質救出でそちらへ向かう。出入り口とやらの場所を教えて!森井、霧雨、連光寺!高甲板上の敵の注意を船の後方から逸らして!」
とその時、
「えー!二人でやるの!?」
不満そうな愛原少尉の声がする。
「だってあいつら、こっちが神経弾使ってるって知ってるから、死なねぇとたかくくってめちゃめちゃ特攻やってくんだよー!」
「いい、もう実弾使っていいから。フォールンエンセルモードになってるでしょ?」
「了解!じゃ本気でやるね」
木暮中尉と愛原少尉との通信が終わったらしい、今度は木暮中尉と浜少尉の声が聞こえる。
「おばさん!鎌田と大村にボートで船尾に回って、そこで撃ち合いやってる愛原と矢吹の援護してって言って!おばさんはリリーの乗り捨てたトレーラーハウス、中掃除して女の子が乗れる状態にしてこっちへもってきて!リリー聞こえる?乗り捨てた場所おばさんに話してあげて!」
木暮中尉に綾瀬が続く
「おばさん!今船に忍び込むのに確実なのは船首の下にある出入口だけなの。一旦あたし達と合流して場所確認して!」
「うっさいなー!おばさんおばさんて!」
浜少尉の言葉を最後に、綾瀬のヘッドセットからの通信は途絶えた。
船の操舵室の後ろの甲板では、せっかく降り立ったものの、予想外の敵の数になかなかそこから前に進めない森井・霧雨・連光寺の三人が物陰からの撃ち合いに苦戦していた。そこへ、木暮中尉から、敵の注意を船尾から離せとの指令。
「やばいなあ…動けねーよ」
森井少尉がそう言った時、突然上の操舵室の窓ガラスが割れる音と何人かの人の気配。
「やば!上からも来やがった!」
そう言うと森井沙弥香少尉は、ベルトに刺した宝石みたいなアタッチメントを自分の銃口に差し込み、ジジジと音を立ててタイマーみたいなダイヤルをねじる。
「連光寺!援護」
「あいよー!」
掛け声と共に連光寺少尉が物陰から飛び出し、割られた操舵室の後ろの窓に向かって正確に数発撃ちこむ。続いて
「許せ!」
そう言って森井少尉がそこに向かってアタッチメント付の銃で特殊な銃弾を撃ち込むと、悲鳴と共に鈍い爆発音と火花が窓から噴き出た。森井少尉が好んで使う時差式の短針グレネード弾。中にいた奴は多分無数の針で人の形は留めてはいないだろう。
「どうやらあたいの出番みたいだね」
その様子を見届けた忍者みたいな霧雨少尉が森井、連光寺の二人に軽い笑顔を見せた。
「やれる?霧雨?」
「ああ、奴らもこんな狭い所で銃は使わないだろう。援護よろしく」
森井少尉に相槌を打ち、忍者刀を左手に、前に水平に持ち、いくつかの手裏剣型の神経弾を右手の指に挟み、
「ヒュー!」
口笛の様な息を吹き霧雨少尉は狭いデッキの通路を猛然と船首へと走り出す。突然の彼女の行動に通路にたむろしていた敵の手下共は面食らい、やみくもにナイフで切りかかろうとするが、それより早く彼女の忍者刀が手下共の手足を次々と切り裂く。悲鳴を上げて倒れる奴らとか、それでもまだ霧雨少尉に襲い掛かろうとする奴を森井、連光寺両少尉が神経弾で仕留めていった。


霧雨の見える範囲で最後の奴はおびえた顔をして意味不明の言葉を口にして彼女に銃を向けるが、その瞬間彼女の右手が動くと、そいつの首に二枚の手裏剣が既に刺さっていた。
と、そこは船長室の真横だった。中にいたユンは、先程から外の様子を部屋の窓ガラス越しに見ていたが、エンゼルらしき影が通り過ぎた瞬間窓をぶち破り、銃を構えた。だがガラスの割れる音にいち早く連光寺少尉が反応し壁に張り付いて応戦。ユンの姿が消えた所にすかさずベルトから緑色のジュエルを自分の銃に装着し、わずか五センチの隙間に命中させると、船長室はたちまち煙で充満した。
「誰かいたの?」
「なんか白のスーツのすっげぇ場違いな恰好の奴が撃ってきた。敵の幹部かボスじゃねーか?」
森井少尉の声に連光寺少尉が答える。その横で息を切らしている霧雨少尉と共に、操舵室と船倉の間の物陰に隠れる三人。相変わらずまだ敵の手下は船倉超しにかなりの人数がいる。
「次、あのクレーン下まで行くよ!」
再び三人は囮となるべく船首の方向へ走り出した。


一方女の子達が捕らわれている機関室では、人質の姫達がそわそわしている様子。いきなり連れてこられたゴスロリの少女が皆を助けに来たと言うわ、非常食まで配ってくれる始末。
「あなた達は誰なんですか?」
とそのゴスロリ少女に問いかける娘もいたけど、二人は唇に指をあてて静かにしてのゼスチャーしかしない。と、再び機関室のドアが開く。見ると先程奄美姉妹をここに放り込んだ奴だった。
「外は混乱中だ。絶好の機会だぜ」
「よーよー、姉ちゃん達、遊ぼうぜ!」
ナイフをちらつかせながら女の子達に近寄る二人。悲鳴を上げて部屋の隅に集まっていく女の子達をかばう様に奄美まどか・ひみか少尉が男達をにらみつつ、座ったままあとずさり。
「おい、さっき脱走したこの生意気そうな二人ふりふりのお嬢ちゃんにしようぜ」
「お前ロリコンだったのか?へへへ」
「たまにゃいいもんだぜ。おめーもやれよ」
息が荒くなった二人はにやつきながら奄美姉妹の元に近寄っていく。
「おい!おめーら!おとなしくしてろよ!俺達に逆らったらこうだからな!」
一人が姉のまどか少尉の来ているゴスロリ服に手をかけ、ナイフで切り裂こうとした瞬間、
「やめたげて!」
部屋の隅に集まっていた女の子の一人がそう言って立ち上がる。
「そんな年端もいかない子にひどいことしないで!やるなら…あたしがやったげるわ!」
ちょっとお姉さん風の女の子だった。それを見た二人はお互い顔を見合わせ、両手でちょっとおどけた仕草を見せた。
「姉ちゃんみたいなのは仕事終わったらいくらでもやれるしな。こんな可愛いピチピチのギャルと遊べる機会なんてなかなかねーし」
「待ってろ、大陸着いたらかわいがってやるからさ」
二人は大笑いしながらまどか少尉のゴスロリ服の胸元にナイフを入れて切り裂き始める。
「どうだいお嬢ちゃん?お兄さんが大人にしてやるぜ。へっへっへ!」
そう言ってまどか少尉の顔に自分の顔を近づけ下品な笑い声で挑発する男
「おとなしくするんだぞぉ」
もう一人が彼女の喉に自分のナイフをあてた瞬間、
「お兄さん達、頭悪すぎ!」
姉のまどか少尉が男を睨みつけてそう言った横で、
「運も悪すぎ!」
妹のひみか少尉がそう言った瞬間、二人のゴスロリ少女はまるで機械人形の様に二人に飛び掛かり、一人ずつ首と頭に後ろからしがみつき、頭につけていた羽の飾り物の根本を男達の首に刺す。
「いて!」
「おめーら!なにしやがった!」
その場に座り込む二人の男の前に仁王立ちになる二人のゴスロリ少尉。
「ヒョウモンダコとイモガイの毒」
「動いたら死ぬよ」
無表情でそう言う奄美姉妹。ところが一人が、
「てめえ!なめやがって!」
そう叫びつつ起き上がってまどか少尉を掴みかかろうとした時、
「うぐ…」
いきなり首を掻きむしり部屋の中をよろよろと歩いたかと思うと。口から泡を吹いて倒れた。多分あと一分もしないうちに絶命するだろう。その様子をみていた女の子達の何人かからいくつかの悲鳴が上がるが、
「おとなしくして!」
「ばれたらまずいから!」
そう二人がなだめている横で、あまりの事にわなわな震えていたもう一人の男が、苦しみながらも何かを叫ぼうとしている。咄嗟にまどか少尉は男の後頭部に銃の様に自分の指を当てる。
「喋るなっつーの」
それでも尚も抵抗しようとする男に対し、ひみか少尉はひらひらのスカートの内側から小さな銃を取り出し、男の腹めがけて二発を撃つと、何か叫ぼうとした男の口からうめき声がもれもそのままぐったりした。
「あ、あの毒とこの神経弾の毒って、相性悪くなかったっけ?」
「運が良けりゃ生き返るかも」
無表情でそんな会話した後、二人は揃って先程二人の身代わりになると言ってくれたお姉さんの前に行くと、揃ってぺこりとお辞儀。
「ありがとうございました」
「お友達になってもいいよ」
怯えた様子の相手の女性は二人のゴスロリ娘をみつつもひきつった様子で軽くお辞儀をする。同時にゴスロリ服の背中の紐をするすると同時に引き抜くと、服は真っ二つに割れて足元に落ち、二人は白とコバルトブルーのユニフォームを着た誇り高きエンゼルソードの女戦士に早変わり。
「エンゼル…ソード」
多分何人かは、あの軍事パレードをテレビで見たんだろう。人質の女の子達の間からそんな言葉と同時に安堵のため息が漏れ、皆の顔に笑顔が戻る。
「もう少し静かに待ってて」
「必ず助けるから、何が有っても声出さないで」
そう言って二人は機関室の出入り口横にへばりついた。

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