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道標(しるべ)求めて フォーラム
自己決定権回復し繁栄を

琉球新報20150219
 琉球新報社と沖縄国際大学産業総合研究所は15日、宣野湾市の同大で、フォーラム「道標(しるべ)求めて―沖縄の自己決定権を問う」を開いた。姜尚中聖学院大学長が、「琉球とアジア、主権をめぐって」のテーマで基調講演し、朝鮮半島の冷戦構造終結による沖縄の基地縮小を訴えた。パネル討議第1部「歴史の教訓、そして未来へ」では、姜氏のほか上村英明恵泉女学園大教授、姜弘(きょうこう)北京師範大副教授、波平恒男琉大教授、島袋純琉大教授が登壇。琉球併合からの歴史的背景を踏まえ、基地問題を抱える現状について政治、国際法、琉中関係など多様な観点から意見を交わした。(本文敬称略)

◎主催者あいさつ
 富田 詢一(琉球新報社社長)
 沖縄は今、大きな歴史的転換期を迎えている。名護市辺野古の新基地建設やオスプレイ配備などをめぐって、民意が反映されない状況が続いている。
 現状を打開し、未来をどう切り開くかを模索するため、琉球新報は連載「道標求めて」を始めた。
 ASEANや中国の経済力は大きくなっており、世界は冷戦の時代から協調の時代に入った。東アジアも世界的潮流の中で信頼関係の構築が求められている。
 「アジアの交流拠点」など沖縄が果たせる役割の重要性は強まっている。歴史や国際情勢を踏まえ、沖縄がどのような将来像を展望できるかが問われている。



●基調講演  脱冷戦で基地縮小へ

 姜 尚中氏(政治学)

 琉球新報の連載「道標(しるべ)求めて」は、沖縄の進むべき道標は「縦糸と横糸で考えないといけない」という重要な指摘をした。
 縦糸は歴史だ。琉蘭、琉仏、琉米の条約は、琉球が主権国家として国際法上の主体であることを示しており、大きな意味を持つ。琉球併合が事実上、韓国併合にそのまま適用されたプロセスも見えてくる。
 横糸ではこの問題をより普遍化していく。琉球・沖縄の置かれている状況と朝鮮半島の位相が共振している。沖縄をはじめ、広域・多国・多地域間の共存、安全平和の秩序を目指すべきだが、それを阻むものがある。植民地支配、戦争の歴史であり、その問題を顕在化させない大きな重石となってきた冷戦だ。
 欧州では冷戦が崩壊した。分断の象徴であるドイツが分断を超えようと、東方外交が進められた。一方、現在の東アジアは依然、冷戦が終わっていない。これを清算しない限り、過去の戦争と植民地時代の本質が顕在化できない。それが顕在化したとき、冷戦によってつくられたさまざまな権力構造が、新しい広域的な秩序を求める動きとなって立ち上がる。冷戦をどう終わらせるか。そこにさまざまなせめぎ合いがある。
 沖縄の基地を縮小もしくは完全に除去するためには、この冷戦構造を終結させなければならない。最前線基地が現在の朝鮮半島の韓国であり、北朝鮮だ。沖縄の脱冷戦・脱基地と、朝鮮半島の脱冷戦・共存は相互に共振し合う関係だ。
 朝鮮半島の冷戦を終結させるためには南北、米中の4カ国によって休戦協定を平和協定に変えることだ。戦争が終わることが脱冷戦の第一歩になる。また、南北、米国、日本、ロシア、中国の6カ国協議の重層的な展開を通じて非核化を達成しなければならない。南北の2カ国と4カ国協議、6カ国協議が重層的に展開される多国間のラウンドが継続しなければならない。6カ国協議は公式文書で、将来軍縮に成功したら、この協議が東北アジア地域の多国間の安全保障の枠組みになるとうたっている。
 日本の最大の問題は、米国との2国間同盟に特化した、あまりにも偏った安全保障のくびきから解放されていないことだ。その最も大きなしわ寄せを沖縄に負わせている。事実上、軍事的植民地のような状況だ。日米の軍事同盟の性格を弱め、平和的関係へ徐々に移っていく必要がある。
 中国が中心になり、6カ国協議が前に進めば、東北アジアのきな臭い関係は少しは和らぐだろう。もし、米朝、日朝が国交正常化した場合、南北は将来、国家連合という第1段階を経て、10年から20年かけて連邦制に移り、さらに10年かけて統一という3段階を踏んだ統一も夢物語ではない。
 6カ国協議が成功して初めて、東南アジア諸国連合(ASEAN)に対し、東北アジア諸国連合(ANEAN)ができる。2つの諸国連合が一緒になって東アジア共同体の平和の下部構造ができる。そうなれば沖縄の基地の役割は大きく減る。この地域で開発や貿易、人の移動、物流が活発化すれば、その中心に琉球・沖縄が躍り出ても不思議ではない。
 平和と安全の秩序をつくれるかどうかは、6カ国協議にかかっている。これが成功すれば、在沖・在韓米軍の役割が終わる時代へと向かうのではないか。そうなれば、沖縄はわれわれが想像する以上の可能性が開かれる。観光、貿易、沖縄の豊かな自然を活用した。それこそかつての琉球と同じような繁栄に満ちた島が取り戻せるのではないか。



 【第1部 歴史の教訓、そして未来へ】
   ★パネリスト
     姜 尚中氏  聖学院大学長
     上村英明氏  恵泉女学園大教授
     姜 弘 氏  北京師範大副教授
     波平恒男氏  琉球大教授
     島袋 純氏  琉球大教授
     (進行)潮平芳和 琉球新報社編集局長


○冒頭提起@ 
条約と琉球併合 「属国」主張、日本のみ

 上村英明氏(国際人権法)

 琉米修好条約から去年で160年となった。自己決定権の主体の問題について条約から考えたい。
 条約が締結された1850年代は国際法がアジアに浸透してきた時期だった。米国・フランス・オランダの3国は琉球を条約主体と考えていた。フランスとオランダは批准に至らなかったが米国は上院の賛成を経て批准した。これは重い意味がある。
 中国も沖縄が自己決定権の主体だと認めている。琉球併合を察知した中国は1877年、「国際法上この併合は不正だ」と日本政府に抗議している。さらに琉球国はこの3つの国際条約を使って「琉球併合は抑圧だ」とアピールしていた。
 唯一の例外が日本。日本だけが国内問題であり琉球は属国だとした。琉球藩になった以後も琉球国は独自の外交行為をしている。近代国際法上、属国は日本政府が勝手に言っているというのが私の考えだ。
 もう一つ、1969年のウィーン条約法条約第51条に「国の代表者に対し強制的に結ばれた条約は無効である」と書いてある。韓国はこの条約に基づき、第2次日韓協約は無効という主張をしている。
 この視点から琉球併合を考えられないか。明治政府は1879年に琉球藩を廃止して沖縄県の設置を求め、合意文書と軍隊を送り迫っている。いわゆる「国の代表者に対する強制」と見ることは可能である。琉球国は通達を拒否していたが、最終的に軍隊を送り合意に至ったとするならばウィーン条約法条約違反となる。
 植民地の特徴は、本国が外交や政治でその地域を道具として使うことだ。皆さんがこの160年の間に納得しないことがあるとすれば、それは日本という国家に道具として使われた気持ちを持っているのではないか。沖縄県という枠組みで物事を考えることに限界が来ている。
 名護市辺野古の問題について、一部メディアも含め安全保障問題と捉えられているが、自己決定権を持っている琉球の中に基地を造るという問題は、琉球の人民の意思を無視した人権上の問題だ。


○冒頭提起A
 沖縄の自己決定権 国際社会に訴え共闘を

 島袋 純氏(行政学)

 スコットランドの独立投票が報道を賑わせた。欧州では主権国家からなる欧州ではなく、地域からなる欧州というのが、統合の重要なスローガンだ。
 欧州では、内的自決権という、ほぼ主権国家と同じような権限の獲得が認められ、一種の連邦制が実現していく状況がある。スペイン、イタリアもそうだし、イギリスのスコットランド、ウェールズなどが非常に大きな権限を持ち始めている。
 スコットランドは人民の自己決定権を有するということを自らが宣言したことが大きい。沖縄の「建白書」のように、自治体の代表、国会議員が署名し、それをスコットランド人の意思として確立したからだ。
 一種の「権利の章典」だ。スコットランドの人々はこれに基づいて自らの議会、政府の仕組み、統治の基本法を発案した。
 スコットランドに独立を含め、自由に権力機構を創設する自己決定権があるということが、イギリスの中で承認されている。
 自己決定権を誰が持つことができるのか。重要なのは意思の要件だ。自己決定権を有する主体であるという意思、憲法制定権者となっていくという意思、国家の形成者となっていくという意思だ。ここが提示できないと、そういった人民に該当するのかという要件がクリアできない。
 東アジアではどうか。沖縄の人々に人民の自己決定権があるという認識を沖縄の人々が自らの意思として確立できるのか。そして、日本国民、日本政府と共有できるのか。韓国でこういったことができるのか。中国の中で、少数派に対する人民の自己決定権を認める用意があるのか、フィリピンでできるのか。
 人民の自己決定権を主張する少数派、辺境の方々と沖縄は相互に連携を強化し、国際社会に訴え、同時に国際立憲主義を要求していくことが必要だ。
 主権国家間の対立、排他的ナショナリズムを克服し、地域からなるアジアをつくれるか。これがアジアの統合においては非常に重要なテーマではないか。
 沖縄が果たす役割は、日本に働き掛けるのと同時に、こういった弱い地域と連携して、自分たちを権利の主体として奮い立たせて自己主張し、国際社会に訴えていくという道筋ではないか。


●第1部パネルディスカッション

琉球と中国 認識共有

 潮平 上村氏の提起を踏まえ、修好条約から「琉球処分」までの歴史をどう捉えるか。
 姜弘 琉球が独自の文化を持つ独立国だったのは歴史的事実だ。沖縄の真の帰属は未確定という思想があるのも事実。これら歴史的事実が何を示唆するのかを考えるのが大切だ。近代以前の琉球は他民族に翻弄されてきた。琉球と中国の歴史的関わりだが、「琉球処分」までは琉球と中国は友好的な貿易往来、文化的な交流があり、その過程で衝突や対立はなかった。
 最近一部の人たちが、中国が琉球を狙っているという「中国脅威論」をあおっている風潮がある。そんなこと心配しなくてもよろしいです。歴史的事実として琉球は中国の一部ではなかった。これは中国で主流の意見だが主要メディアで報じられていない。
 波平 ペリーが来て琉球は初めて条約を結んだ。同じ年(1854年)に日本も日米和親条約を結んだ。そこから東アジア全体が国際法秩序に律せられる近代的な関係に変わっていった。琉球併合の時代はそのような過渡期だった。
 中国は琉球が主権を持つ国だと見ていた。日本だけが(琉球は)日本に帰属すると主張した。中国は属すると一度も言っていない。そういう意味では中国と琉球は認識を共有していた。各国と信頼関係をつくる上で、そのような理解の土壌があるのではないかと私は思う。 
 姜尚中 韓国併合のプロセスと「琉球処分」のプロセスは二重写しだと感じる。日韓基本条約が今年締結50年となるが、条約締結の時に植民地支配はいつ失効したのか、韓国併合は国際法上どうなのかという議論があった。日本政府の基本的な考え方は、村山政権の中でも、併合は遺憾であったけれども国際法上は合法的だったということだった。
 韓国側は韓国併合は非合法であり、強制された不当なものであるという立場だ。日韓の間で歴史学者がお互いにすり合わせをした場合でも歴史認識が違う。
 琉球に国際法上の主体があったというが、日本政府は「琉球処分」は国内問題だと処理する。これは国際法上、妥当性を欠いていると言えるのか上村氏に聞きたい。
 上村 韓国併合の妥当性については、日本国内で歴史学者と国際法の専門家の間で議論が盛り上がらず、政府寄りの論理になってしまった。琉球の主体性についても、琉球の人たちが自分たちの立場から見てどうなのかを主張することが大事だ。どう考えるかを判断し、国際社会にぶつけてみることが大事だ。
 姜尚中 琉球併合と韓国併合についての国際的な共同研究や国際シンポジウムを開催するべきではないかと思う。

軍拡競争 平和遠のく

 潮平 基地問題、自己決定権について聞きたい。
 姜弘 米軍基地が県民に損害を与えており、沖縄は軍事植民地と言われても不思議ではない。基地問題は今後も大きな争点になるだろう。日米両政府の理解を求め、場合によっては国連の協力を得て民意に沿う解決策を見いだしてほしい。琉球の自己決定権が尊重されなければならない。
 日本政府は積極的平和主義を掲げ、中国の脅威に備えると主張する。その備えに対して中国は備えなければならない。軍拡競争により、沖縄が真の平和から遠ざかることを懸念する。
 東アジアの平和があるからこそ沖縄の平和があり、沖縄の平和がなければ東アジアの平和もない。アジアの国々とともに沖縄の将来を考えていく必要がある。
 波平 安全保障を中心に東アジアにどういう国際協力の枠組みをつくるか。EUは時間をかけて国家から主権を譲渡し、一方で地方分権を進めた。そこには欧州が二度と戦争をしないという意思があった。東アジアにはそれがない。日本は戦後、米国からアジアのリーダーと認められることで反省することなく歩んできた。今、辺野古の問題で沖縄の自己決定権が否定されようとしている。これを阻止できなければアジアの安全にとっても良くないし、沖縄の日本への従属も固定化される。日本政府は右傾化しているが、その中でも決めるのは沖縄の住民だということが重要だ。
 姜尚中 原発の問題もそうだが、国は公益という問題で国策を押し付けてきた。戦後、日本には真の意味での地方自治が根付かなかったということだ。沖縄が自己決定権を考えていくことにはもっともな理由がある。日本国憲法第1条に天皇は日本国の象徴だとあり、一君万民的な形になっている。この考えが平和的に定着した中で、民族差別があるのは当然だ。天皇にまつろわないマイノリティーは認めないという中で、今の沖縄の状況もある。沖縄が独自の自治州となれば、日本の国体を変えられる。多民族、多文化のさまざまな決定権を持った人々が共存できる共和国に近づくことになる。
 上村 日本社会は内側から話を持っていくと何もしないが、外圧に弱い。沖縄が自己決定権を行使するには外圧のルートをいかに巧みに使うかが重要だ。これは本来の琉球の姿でもあると思う。これを踏まえて新たな政策をつくってほしい。

○質疑応答 
地続きの人権侵害断ち切る

 潮平 沖縄の今後の課題は。
 姜弘 沖縄で中国の観光客は炊飯器と温水洗浄便座を買っているという記事がネットで読まれている。中国は既に琉球を旅行先として積極的に選択している。追い風がある。琉球は既に中国との交流中継地になりつつある。若い人も双方の歴史的往来に関心を持ち、発展的で建設的な関係をつくることを願う。
 潮平 フロアの参加者から質問はないか。
 泉川友樹さん(日本国際貿易促進協会職員)上村さんに質問だが(豪州で先住民の土地利用の権利を認めた最高裁判例に関し)琉球併合を否定させるには日本の裁判所に訴える必要があるのか。
 上村 豪州の人種差別政策「白豪主義」が否定された1960年代から多文化主義の多様な試みがあり、その土台の上に最高裁判断があった。単に訴訟すれば成果が上げられるかと言えば簡単ではない。
 波平 尖閣諸島に関連し「安全保障のジレンマ」によって限りない軍拡を招くのは愚かな方法で、双方で武力の類いは遠ざけるのが一番だ。総体として見れば近代日本はもっぱら殴る側で、殴られる痛みを知らない。一方で沖縄は弱小国で、自己決定権を剥奪された「琉球処分」から沖縄戦、今の基地問題までが地続きのようになっている。断ち切らなければならない。沖縄は非暴力が特徴だ。自己決定権を確立していくためにも平和の声を発信していくべきだ。
 島袋 国連の人種差別撤廃委員会などは、過度な基地負担をはじめ、沖縄の言語や歴史教育を正規の過程でやらないのは人権侵害であるとして、日本政府に改善を勧告した。
 スペインのカタルーニャは言語正常化運動をやったが、沖縄が基地集中をなくし、言語や歴史、文化教育を充実させるのは正常化であり、当たり前のことだ。沖縄で人民の自己決定権を基に自治州を提案する動きは既にある。
 今後やるべきことは(国連に沖縄の不当な状況を訴えた)立法院の1962年「2.1決議」以上の重要な決議、あるいは建白書、権利章典を明らかにすることだ。それに基づき自分たちの望む政府の在り方を検討することだ。辺野古に関しても自己決定権に基づき、拒否を貫くことだ。
 姜尚中 北緯38度線は野生の王国になり、絶滅種も生息するとされる。東北アジアに非武装・非核地帯をつくる構想を自治体が宣言してほしい。まずは沖縄と済洲島だ。国が認めようが認めまいが自治体の宣言を東アジアで増やしていくことが重要だ。


 【第2部 自己決定権と沖縄経済】

 フォーラム「道標(しるべ)求めて−沖縄の自己決定権を問う」のパネル討議第2部は「自己決定権と沖縄経済」をテーマに、沖縄国際大教授の富川盛武氏、同大教授の仲地健氏、かりゆしグループCEOの平良朝敬氏、那覇市IT創造館館長の岡田良氏が活発に意見を交わした。急成長を遂げるアジア諸国の活力を取り込みながら、沖縄が主導権を握って観光インフラを整備し、観光客を受け入れる計画をつくる必要性、高付加価値型のIT業界を誘致する方策などが提案された。登壇者らは初等・中等教育の予算を充実させるなど人材育成の重要性も強調した。

   ★パネリスト
     富川盛武氏  沖縄国際大教授
     仲地 健氏  沖縄国際大教授
     平良朝敬氏  かりゆしグループCEO
     岡田 良氏  那覇市IT創造館館長
     (進行)松元 剛  琉球新報社編集局次長兼報道本部長

○冒頭提起
 潜在成長力高い沖縄

 富川盛武氏(経済学)

 40年にわたる沖縄振興計画を総括すると、変わったこととして、社会資本が充実した。基地需要が減少し、観光需要が増大した。
 問題は、変わらないところだ。依然として本土と格差があり、県民1人当たり所得、大学進学率は全国最下位。自立経済の基礎となる技術進歩や生産性、移輸出力など「経済の筋力」を計測すると、サービス業以外はほとんどマイナスだ。沖縄経済はボリューム的には膨らんだように見えるが、自らの体力で増大したとは言えない。
 現在走っている振興計画「沖縄21世紀ビジョン」には他の計画にない特徴がある。通常の経済指標ではなく、5つの将来像を示し、「沖縄らしい自然と歴史、伝統、文化を大切にする島」を1番目に掲げた。長い歴史に裏打ちされた、人を大切にする文化を土台にしている。
 策定に当たっては県民の意見を聞き、県民の総意を示した。国が違う方針を示した時には県民は物申すことができる。自己決定につながる要素を入れた。
 世界の市場が今、沖縄の可能性を認めている。根底にあるのはアジアの懸け橋となる「橋頭堡(きょうとうほ)」の役割と「ソフトパワー」という、魅力だ。
 日本は「失われた20年」から抜本的に浮上できず、人口減少で厳しい局面にさらされている。他方、沖縄の隣のアジアでは中国やASEAN、ミャンマーまでダイナミズムが重層的にうごめいている。社会、経済の枠組みをアジア規模で考えなければならない時代が来た。沖縄がアジアの懸け橋となることが日本全体の発展につながると、沖縄振興基本方針にも文言が刻まれた。
 国際物流ハブが始動し、海外観光客も増加している。アジアを見据えた先端のものづくりも始まった。沖縄の潜在成長力は非常に高い。もうかるから外資が来る。地理的優位性と歴史、文化、風土の多様性が沖縄を引き上げている。国のたがにはまった振興策ではなく、沖縄の多様性を前提に、アジアの中の沖縄として自己決定することで、自立・発展が見えてくる。

○議題@
 県経済の現状 県主導の観光基盤へ

 松元 県経済の現状を伺いたい。
 平良 県内の観光入域客数は前年を上回り、直近の日銀短観(企業短期経済観測調査)でもサービス業の好調な業況判断が示されている。観光関連産業は好調が続いている。成熟した国内旅行客のマーケットに加え、アジア経済のダイナミックな成長とともに拡大する(外国人の)訪日旅行マーケットが背景にあり、今後も成長が期待される。
 一方、スカイマークが離島路線からの撤退を打ち出し、ソラシドエアが新たに就航するなど環境の変化や不透明な要素もある。今後の推移を注視しながら、官民一体となって懸念材料への対応を着実に実行する必要がある。
 岡田 県が1998年に立ち上げ、99年に本格始動させたマルチメディアアイランド構想は、10年で2万5千人の雇用を目標にした。現在は3万1千人に上り大きくクリアしている。IT業界のGDP(国内総生産)も当時の900億円から4千億円近くに増え、非常に効果が現れている。
 当初は労働集約型の雇用が多く、沖縄の優位性はなかった。その後、那覇市ではゲーム開発やSEO(検索エンジン最適化)対策などの高付加価値型の誘致が始まった。教育関係者も理解を示し、(それに対応する)人材育成を中長期的に実施してきた。人材を育成すればITも集積するという認識が広まっている。沖縄を第1希望として地方進出を検討する企業が増えている。
 仲地 沖縄の財政依存度(公的支出額/県民総所得)は復帰直後22%ぐらいだった。最近では37.5%に上り、全国平均(23.2%)に比べて非常に高い。しかし、低所得の類似10県の平均(35.7%)からすると、あまり変わらない。
 自民党の細田博之幹事長代行が「沖縄県民1人当たりの国の助成は(細田氏の地元の)島根の10倍以上あるんじゃないか」などと言っていた。しかし、2011年度の財政依存度を比べると、島根県の県民1人当たりの公的支出額は137万円で全国1位だった。沖縄は105万円で17位だ。沖縄だけが国におんぶに抱っこというわけではない。

○議題A
 自立への提言 技術振興、人材育成で発展

 松元 沖縄の自立経済に向け何が必要か聞きたい。
 仲地 観光と情報の2大産業を伸ばすことが重要だが、まずは経済発展の足かせになっている基地関係収入を考えたい。民間部分では軍関係の受け取りは年間2089億円で、県民総所得における割合は5.3%となる。基地従業員は安定職として人気だが、県内就業者数約60万人のうち約9千人で1.5%だ。市町村財政における基地関係収入は年間計255億円、41市町村の歳入総額に占める割合は3.9%。基地を抱える25市町村で見ても4.4%しかない。これらをどう見るかだ。
 岡田 IT企業の集積を成長軌道に乗せるべきだ。出先事務所的な「サテライト」で沖縄の人を安く雇い、仕事が済んだら戻っていく企業もあり、目利きは必要だ。だが、ここ5年で変わりつつある。沖縄に来る会社の約7割は東南アジアを見ている。加えて沖縄の人には独特の才能がある。色彩感覚だ。ゲーム会社のイラストレーション部門など沖縄に合ったビジネスの沖縄移転が始まると簡単に他には移れなくなる。給料の高騰も始まる。そういう環境づくりが大切だ。
 平良 覚悟さえできれば自立経済は達成できる。裾野の広いリーディング産業として観光業の発展は最重要で、交流人口を増やす仕組みが重要だ。海外との競合を意識した戦略と戦術の構築が必要だ。物流の質を高める高付加価値型の産業集積とハブ化を目指す取り組みが重要だ。ITを活用し、相乗効果を創出するための大胆な仕組みづくりも必要だ。人材育成や高度な情報収集、管理分析機能、インフラ整備は欠かせない。
 富川 3つ提言したい。島が発展するには外との交流を発展させるしかない。ヒューマンネットワークとビジネスネットワークの構築が必要だ。ビジネスにはデータだけでなく現地の生の声が必要だ。
 2番目は技術振興だ。沖縄の優位性を生かしたオンリーワンをつくる必要がある。3番目は人材育成だ。沖縄は大学進学率は全国最下位だが、専門学校進学率は1位か2位だ。中間層を引き上げる必要がある。アジアからの観光客も増え、いろんなノウハウが不可欠になる。人材があれば基地がなくても発展できる。

○議題B
 アジア戦略 ITに高付加価値を 医療ツーリズムが鍵

 松元 県は今、アジア経済圏構想を推進している。グルーバル化が進展する中で、沖縄がやるべきことは。
 富川 県人口は2025年ごろにピークを迎え、その数年後に減っていく。県内の所得番付の上位企業は銀行や電力会社などで全て人口減少の影響を受ける。物事をアジア規模で考えないと、沖縄の企業の将来は厳しい。「沖縄21世紀ビジョン実施計画」や「国際物流ハブ構想」を推進するために何ができるか集中的に考え、ビジネスを顕在化させる段階に入っている。
 平良 課題は観光インフラの整備。国が決めるのではなく、県民の意思を反映して主体的に進められることが重要で、実効性を担保する権限の確保が必要だ。那覇空港の第2滑走路が供用開始されると、沖縄に入る人や物が拡大する。どの程度のインフラや対応する人材が必要か、各業種で現実的なイメージを描き、増強策を早急にロードマップとしてまとめなければならない。
 岡田 日本人しかできない業務とそうでない業務が分類され、コスト安に耐え切れないものを東南アジアへ技術移転する動きが当たり前になるかもしれない。その際、(顧客の多岐にわたる問い合わせへの対応などを請け負う)BTO業務やSEO(検索エンジン最適化)対策など日本でしかできない業務を沖縄に残す必要がある。
 IT革命の次は、3Dプリンターが世の中を変えるといわれている。例えば、これまで職人が手作業で靴を作っていたのが(ネット上にデザインがアップされたら)3Dプリンターで製作できるようになる。
 仲地 沖縄の課題解決の方策に医療ツーリズムがある。アジアにおける医療ツーリズムの市場規模は13年の1兆円から18年には3兆円に拡大すると予測されている。
 沖縄の場合、離島住民は十分に医療を受けられないのに、なぜ外国人をという問題にぶつかる。しかし、ビジネスの立場に立てば、医療はサービス業になる。米軍キャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区の跡地に重粒子線治療施設を建設する計画がある。中国の富裕層の受け入れに焦点を絞り、ビジネスと捉えて進めていくことができないか。

○課題C
 具体的課題 多国籍間交流し事業創出

 松元 自立経済に向け、具体的な課題は何か。
 仲地 人材育成だ。小中学生である初等・中等教育の底上げが必要だ。地域社会に貢献したいとの目標を持つ人材を育てることが経済的自立につながる。それは一括交付金の活用で実現できる。一括交付金には公共投資交付金と特別推進交付金の2種類ある。
 後者は少し使い勝手が良くなり、ソフト事業や人材育成に使える。これを傾斜的に初等・中等教育に配分すれば(地域力は)変わっていくと思う。
 岡田 一括交付金は創設から3年が過ぎ、減額された。使い切れなかったからだ。公務員はハード事業の専門家は多いが、人材育成事業を設計できる人は少ない。だが学校の先生や産業界は(課題や方法を)分かっている。地域の課題は皆さんが知っている。パブリックコメントなどで問題を提起していくことが自己決定権だと思う。
 多国籍間によるビジネスと技術の交流も提案したい。沖縄にしかできないことをつくり、ビジネス、技術、マーケットに加え、文化の交流を進めれば、税金対策でアジアに逃げる日本の会社を止められる。「沖縄がフロントランナーになる」というのは安倍さんの言葉じゃなく、私らから自己決定していくべきだ。
 平良 短期的課題は中央政府の規制緩和を勝ち取ることだ。沖縄の魅力や独自性、意識を高めるため「しまくとぅば」の奨励や五感に訴えるソフトづくりが必要だ。長期的課題の1点目は自己決定権を獲得することだ。県民が沖縄のあるべき姿を明確にイメージし、知恵を絞り、決定し、実行する必要がある。2点目は人的ネットワークを構築し、アジアと日本をつなぐ接点になることだ。日本国への貢献にもなる。長期的視点の人材育成が必要だ。
 富川 早急に取り組みたいことはビジネスコンシェルジュをつくることだ。外から沖縄がよく見えているかと言えば、まだ見えていないと思う。現地を知り、情報があってこそビジネスができる。きめ細かい情報をデータベース化し、正確な情報を伝えられるようにしたい。

○質疑応答 
外資系ホテルは財産

 松元 フロアから質問はないか。
 大村博さん(「琉球・沖縄の自己決定権を樹立する会」代表幹事)沖縄経済はこれまで「ザル経済」と言われ、外部から進出した企業に利益を持っていかれ、県内は何も変わらなかった。ザル経済の克服策はあるか。
 岡田 IT企業ではそういう企業が多かった。しかし、県が実施する誘致セミナーを通して、沖縄を訪れる企業に「何がしたいのか」「どうやって人材育成するか」「沖縄に貢献するビジネス展開はあるのか」などを必ず聞いている。沖縄に恒久的に立地する目的かそうじゃないかが分かる。今はきちんとした思いを持ってくる企業が増えている。(企業の考え方を)見極める目をわれわれが付けてきたのも事実だ。
 平良 外資がホテルに入ると大変だからと反対する人もいるが、観光は装置産業だ。50〜100億円の資金がないと建設できない。資金のある人にホテルを建設してもらい、むしろそれを沖縄の財産としても考えていいのでは。一番問題なのは、事務所だけを沖縄に置いている「テント産業」だ。そういう人たちは制限する必要がある。
 富川 (利益が)外部に出るのは仕方ない部分もある。それ以上に得意分野で稼ぐことがビジネスの原点だと思う。

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