No.140

槍ヶ岳トレッキング奇行(2日目)

2005.4.26掲載

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10月4日(土)ニ日目 双六小屋〜槍ヶ岳

朝、明るくなっていたのでがばっと起きると、もう6時前だった。
なんとよく寝ていたのだろう。熟睡してたんだ。山小屋で夜中に一度も起き
なかったなんて奇跡だ。ぱきらも同じだったみたい。寝しなにあんな電話が
あったというのに。

良く眠れた理由は他にもあった。いつもなら、ご来光を拝むために早起きさ
せられるのだけど、ここではお日様の登るのが槍方面から。そうなると、目
の前の樅沢岳が邪魔でご来光を拝むのは相当お日様が高くなってからで、
写真的にもあまり期待出来なかったから。それでも、もしかしたら・・・と思い
念のため小屋前に出て見ると、鷲羽岳の上の方が朝日を浴びているのが
見えた。数人の人達がそこにいた。

それにしても、ぱきらはどうするつもりなんだろう。おかあさんは一人で心細
いのだろうし戻った方がいいんじゃないだろうか・・・。でも、ぱきらの返事は
あっさり「行くよ」だった。帰ったところでどうしようもない。まぁ、それはそうな
んだけど。

それで、結局今日は予定通り槍を目指すこととなった。
相変わらず、起きてスグのごはんは苦手で、食べた後、なんとなく胃もすっ
きりせず、むしろ気持ち悪いくらい。必然的にその後の行動がのろくなる。
んで、小屋を出るのは大抵ブービー賞になってしまうのだけど、こんなワタ
シ達よりも遅い人が大抵1組はいるのがちょっと救いだったりする。みんな
いろいろ。これで、いいのだ。

出発前、時間稼ぎにのろのろと荷物を詰めながら、同じ部屋のご夫婦と今
後の予定を訊いてみると、今日は槍を目指すそうで、私たちと同じルートの
ようだった。この小屋からはいろんなコースがあって、ワタシ達と同じルート
の人はもしかしたら、いないんじゃないかって思ってたから、少しホッとした。
おまけに奥様の方は、さほどイケイケタイプ(あくまでも登山者的に見て)に
は見えなかったから。

さて、なんとかかんとか、ようやく出発する気になった。
とりあえずは小屋の目の前にある樅沢岳を目指す。のろのろ出発を遅らす
ワタシにしびれを切らしてタンタン踏んで待ってたから、歩き出すとぱきらは
早かった。ワタシも少しずつではあるけど、朝1番の歩き出しにも慣れて来
て、昔ほどひどくはなくなったような気がする。でも、それはただ、このところ
ストックを使うようになったからだけなのかもしれないけど(^-^;A"。

樅沢岳には30分ほどで着いた。この小さな頂に上がっただけで、小屋前
にいた時には見えなかった眺望が開けた。おぉ。。。。。四方が山だ。そし
て、遥か前方に、昨日見ていたよりもかなり大きな槍ヶ岳がド迫力で見え
るではないか。曇り空でガスっているせいで今日は黒く見える槍ヶ岳。で
も、それがまた威厳を放って神々しい。かっこええ。。。ガスがあるとほんと
に神々しく見える。



そして、見渡せるようになった今日のルートを目で辿ってみる。あぁ行って
こう行って、ずーっとずーっと行って・・・。と、遠いよぅ・・・。昨日見ていたよ
りも、あんなに大きく見えるようになっていうのに、槍ヶ岳はまだまだ遠い・
・・。百歩譲って、今日は縦走だから高低差が少なくてラクなハズ。そう、
遠く見えても、昨日1300m登って来た事を思えば、全然らくちんじゃない
か。と、自分に言い聞かせてみる。だけど・・・、あの・・・あの辺までなら確
かにラクそうだよ。だけどね、最後の方は、下ることなくものすごく登り続け
なきゃいけないことになっているじゃないか・・・。

それを確認しただけで、早くもぐったり。。。思わずため息が出てしまう。こ
んな登山者って他にいるのだろうか・・・。自分でも呆れてしまう。だけど、
今日はまだ、歩き出して1時間も経っていないのだ。とにかく歩き出そう。
とりあえず、ここからは下るのだから。

そうして、遥か遠くに見える槍ヶ岳を一歩一歩目指す。
高低差200mくらいのアップダウンが繰り返される。下りては登り、下りて
は登り・・・。だもんで、先を行くぱきらの姿は殆ど見えないことが多かった。
大抵、ワタシの居る処よりひと山先に進んでて、山の陰になって見えない
のだ。ぱきらが立ち止まって写真を撮るか、待っててくれないとぱきらには
会えない。こんな所でワタシひとり、黙々と歩いている。孤独だ。後ろから
来る人も殆どいない。

あぁ、それにしても、誰かこの登り部分をひょいと削って、下り部分に埋めて
くれたら、この道は平坦なとってもラクちんな縦走路になるのに・・・。でも、し
んどいか、と訊かれれば、それほどしんどくはなかった。ストックを使うように
なってから、特に下りは随分とラクに感じる。それに、やっぱり今日はそんな
急坂ではないもの。ラストの登りを除けば。ただ、その分、運動量が少ない
分寒かった。遮るものが何もなく風も強く吹きつけてくる。

チョコや飴を口に入れたいけど立ち止まると寒い。う〜ん・・・銃走路はおや
つタイムもままならない。歩くと暖かくなるから、と、ぱきらに止められていた
カッパ。我慢してたけど、我慢出来なくなってきた。こうも風に吹かれていて
は暖まる暇もない。寒いものは寒いのだ。また立ち止まって荷物を下ろし、
カッパを着る事にした。ぱきらは、寒がりのワタシが重ね着してる服を、やれ
歩いたから暑くなっただの、休んだから寒くなっただの、と言って、その都度
立ち止まるのが堪らないのだ。ただでさえ、ワタシの為に停止する時間が
長いので。

さすがにカッパを着込むと、風が遮られる分寒さも和らいだ。
結局、その後少ししてから、ぱきらもカッパを着た。風には粉雪も舞い始めた。
寒いはずだ。そうこうしている間にも、周りの景色はどんどん変わって行った。

右手は、昨日歩いてきた方向だ。昨日見てきた山々の見える角度が45度
(でいいのかな?)だけ変った景色。
今となっては、遥か後ろの方向に見える大きな山が笠ヶ岳。昨日、お話した
年配のご夫婦が向かわれたはずの山。昨日は近すぎて分らなかったけど、
こうして離れたところから見ると、裾野が広く、結構ボリュームのある大きな
山だ。また、ちょうど右手のずっとずっと向こうには、ガスを吐く焼岳が小さく
見えた。ちょっとしたおとなしい怪獣みたいでかわいかった。でも、それも後
になると、ガスで、ほとんど何も見えないことの方が多かった。

一方左手の景色は、ガラリと趣向が変わっておもしろい景色だった。
全然植物の生えてない赤肌の、でごでごつっくんつっくんした鋭い起伏が左
側に向かって続いている。これは一体・・・。この山はどうゆうルートをとって
歩いて行くのだろう。。。考えただけでもぞっとする。オットが地図を広げて確
かめたところ、どうやら赤岳と言う山らしかった。そして、その向こうに続くの
が硫黄岳。な〜るほど。見えた姿そのまんまの名前だった。少しほっとした
のは、この二つの山には地図上では登山道は表示されてなかった。難路を
示す点線表示でもなかった。そうだよな、そうだよな。こんなぎざぎざどうやっ
て歩けっていうんだ。これで、少なくともぱきらに「次、ここ行こう」って言われ
なくても済む(^-^;A"

さらに、左側前方には大天井岳も見えてきた。槍ヶ岳のご近所さんだ。
こちら側の景色は、初めて見る景色って言うこともあるのだけど、本当にたく
さんの山々が遥か遠くまで連なっていて、日本の屋根とかなんとか言われて
る理由を肌で感じることが出来た。ワタシ的には『山の巣』を見ている、ってい
うか、山の巣に入り込んでしまったようだった。これだけ壮大な景色が見れる
縦走路は初めてで、見ていて飽きなかった。

ふたりとも口をついて出てくるのは同じ歌だった。
♪アルプス一万弱〜小槍のうえ〜でアルペン踊りをさぁ踊りましょ♪
この”こやり”ってあの小槍のことだったんだ〜。槍の穂先の横には、確かに
小さなおまけのような”小槍”が付いていた。

途中、2〜3組の人達に前を譲った。
その中に、昨日わざわざ地図上にコンパスを出して正しい方向を見極めてく
ださったあの親切なカップルもいた。ワタシ達と同じルートだったんだ〜♪って
うれしくなった。仲間がいたんだ〜。今日の最終目的地は南岳小屋とのこと
だった。ぱきらもまだ最終目的地をどこにするかは迷っているみたいだった。
南岳小屋となると、この先の槍のまだもうひとつ先の小屋だった。縦走だから
そんなにしんどくはないよ、とぱきらは言うけれど。。。槍だけでアタマがいっぱ
いのワタシにとっては、そんな先のことは考えられないことだった。

ラクだラクだと思って、呑気に歩いている縦走路にも落とし穴はあった。
突然目の前に現れるクサリ。クサリを見ただけで心拍数が上がる。手に汗が
滲む。く〜!こんな縦走路でもあったか〜やられた〜!でも、ここのクサリは
頑丈に整備されていて、怖くはなかった。むしろ丁寧過ぎるくらいだった。も
っともっとクサリの必要なところに限って、クサリは付いてなかったりする。た
ぶん、付いていたものが古くなったか何かで取れてしまってそのままになっ
ているのだろうけど。それが、夏の西穂高岳だった。危険なところは、クサリ
付ける方も大変なんだろうな。。。

安心して歩けるところに出て、ふと、目の端に何かハッとするものが感じられ
て、ゆっくり首を動かして見ると、やっぱり♪やっぱりだ〜!雷鳥だ〜♪それ
も2匹で。「ちょっちょっちょ・・・・」興奮と、一応雷鳥に逃げられないようにと
の思いで、言葉にならない言葉を小さく発し、珍しく近くにいたぱきらに知らせ
る。冬毛になりつつあって、足元だけに白い毛が生えているのがかわいかっ
た。ちゃんと自然の景色みたいになってる。冬毛の雷鳥を見るのは初めてだ
った。ワタシ達に気付かれたことに気付いている様子だったけど、逃げるそぶ
りもなく、目をぱちくりさせていてかわいかった。カメラを向けてごそごそするぱ
きらにも同じだった。


ふっふっふ・やっぱり今回も見つけたのはワタシだった。苦、あればラクあり、
だ。

そして、そのラクの後、すぐに苦はめぐってきた。
朝から歩き始めて4時間足らず。いよいよ千丈沢乗越えにさしかかり、ここか
らは登る一方のラストスパートだった。ラストスパートったって、もちろんまるぼ
ーにスピードは出せないけど。辺りはガスッてて、もう遠くの山なんて何も見
えなかった。当然、目の前にそびえたっているはずの槍の穂先も見えない。
さらに風が強くなり雪も本格的に降ってきて相当寒かった。もう、上に着るも
のはない。しょうがないので、カッパの下にごついフリースを着込んだ。フリー
スを出すと、リュックは殆ど空っぽになった。何の楽しみもなく、ただ黙々と歩
いた。登りだったけど、身体は一向に暖まる気配がなかった。この冷たい風の
奪う熱量の方が、運動量を上回っていた。

槍の穂先へは、この先の、ちょうど穂先の麓っていうか、肩の所にあるらしい
槍ヶ岳山荘付近に重い荷物を置いて、往復1時間くらいで行って来れるらしか
った。このお天気では、せっかく怖い思いをして穂先に登れたとしても周りは
何も見えないだろう。それにそれに、あの長ーい垂直梯子は間違いなく濡れ
ているだろう。間違いなく滑るだろう・・・。あなおそろしやおそろしや。。。ワタ
シは、寒さと恐怖で青ざめながら、ただただ黙々と、瓦みたいな平たい小さな
石だらけの急な斜面をよろよろとジグザグに進んだ。

だけど、足を前に出しても出しても進んだ気がしなかった。
どうにもこうにも、だるくて眠くて寒くて・・・。歩いていて、しかも、山を登ってい
る最中なのに、眠いなんてどういうことなんだろう・・・。ワタシは自分でもワケ
が解らなかった。血圧が低かったのか、何なのか、このまま眠ってしまえたら
どんなにしあわせだろうと思った。雪が小さな霰に変って来た。

やっとのことで、ようやく槍の肩に着いた。
左手には大きな槍ヶ岳山荘。テレビで見たことのある赤い屋根。
右手にはでっかくて黒い槍の穂先がガスの中にうっすらと見える。そして、そ
んな穂先に登ろうとしている人や降りてきた人の色鮮やかなカッパが行き交
うのが、やっぱりうっすらと見える。うぅっ、こんなお天気だろうと何だろうと、行
く人は行くんだ・・・。ぱきらも・・・行く・・・のかなぁ・・・。行く・・・・・んだろうな・
・・・。なんて、思いつつも、そのことには触れないでいた。とにかく、お昼ごは
んがまだだったので、この天候だし、小屋に入って休ませてもらうことにした。

中に入ると、玄関の土間にあったストーブに吸い寄せられて行き、周りに集ま
って暖を取っている人の仲間に入れてもらった。おぉ〜ぬくい、ぬくい♪天国じ
ゃ〜。苦のあとのラクじゃ〜。でも、このラクの後には、最大の苦が待っていた
りするのかな。。。この槍ヶ岳山荘は、これまで入ったどの山小屋よりも大きか
った。まず、玄関の土間にストーブを置ける広さにびっくりした。小屋の中をうろ
うろする人の数も半端じゃない。まぁ、このお天気のせいもあるのだろうけど。
さすがは定員は650人。そして、新しくてきれいだった。とても、山小屋とは思
えなかった。どうやら、最近増築か改築したばかりのようだった。

荷物を下ろし、ぱきらが地図を広げてみると、なぜかコースタイムよりも30分
も早く、最後の登りを1時間半で着いたことがわかった。まだ、13時前だった。
あのコンディションなのに不思議でしょうがない。寒かったから、速く速く・・・っ
てなったのかな(笑)

ふと見ると、あのコンパスの親切なカップルがいた。もう、穂先に登ってきたそ
うだ。はっや〜い。早すぎる〜。やっぱり、何も見えなかったらしい。女のコの
方は、そんな偉業を成し遂げたような顔もしてなくて、全く普通で大人しかった。
ワタシとは違うタイプの女のコなのだろう。いやそうじゃなくて、ワタシみたいな
タイプの人間が山に来ている事の方が問題なのではないだろうか、と思う。今
日は、予定通り南岳まで行くつもりだけど、テント泊の予定をどうしようかな、と
男の人は悩んでいた。このお天気でテント泊〜?外は雪どころか霰になってき
て風もあって回復しそうにないっていうのに。ワタシとぱきらは、思わず顔を見
合わせて目をまん丸にしていた。この点については、ワタシ達は同じタイプの
人間らしかった。

そして、ぱきらの口から思いがけない言葉が出た。「今日は穂先は止めてお
こう。」「えっ・・・・。」「何も見えないんやったら、登っても意味がない。」そうだ
そうだ〜!その通りだ〜!ぱきらはものすごく天気にこだわる。写真を撮りた
いこともあるけど。それが幸いした。あぁぁぁぁぁよかった〜。とにかくよかった
〜。おまけに、今日の宿泊もここですることに決定。南岳小屋までは、コース
タイムで2時間半もある。しかも、この天候だ。ぱきらの選択はいちいち正しい。
もう歩かなくてもいいのだ。これでようやく、ワタシも心の底からリラックスでき
る。「でも、時間ありすぎるなぁ。」

とにかく、受付を済ませ、案内された部屋は残念ながら旧館の方で古かった
けど、2段ベッドの上段だった。今日は何人で寝ることになるのかな。ほんと
に大きな小屋で、どこかに『大浴場』なんてところがあるんじゃないかと思って
しまう。泊まる部屋に行き着くまで迷子になりそうだ。お昼ごはんは、昨日の
山小屋で頼んだお弁当だったので、1階の喫茶兼食堂で、うどんをひとつだけ
頼んで、そこで食べさせてもらうことにした。素泊まりの人達の為の自炊室も
あったけど、何だか古くて寒くてしぃ〜んとしてて解剖室みたいだったので(実
際には見たことないけど)そこではちょっと・・・っていうカンジだった。一応、気
を使ってうどんを頼んだワタシ達だけど、周りには、普通にお湯を沸かしてカッ
プラーメンを食べてるグループも居た。

さて、長い長い山小屋の昼下がり。
広い小屋の中は、あちこちにストーブが置かれててありがたいのだけど、ベッ
ドのある個室にはさすがにないので、そんなところには寒くて居られない。外
もお天気はひどくなる一方で、当然寒いし何も見えない。居られる場所は限ら
れてくる。玄関の土間のストーブ周辺か、喫茶店か、談話室。喫茶店だって、
何も注文しないのにいられやしない。となると、2箇所しかない。でも、暖房が
効いてて、テレビがあって、本がある談話室があるのは何よりありがたいこと
だった。ワタシ達はそこを行ったり来たりして、うろうろと時間を潰した。山好き
な人達と山の話をしたり、山に関する本を読んだり、うとうと眠ったりして、山小
屋での贅沢な時間を。

中には外人さんもいた。山小屋で見る初めての外人さんだった。さすがは槍
ヶ岳。インターナショナルだ。どこの国の人だろう。英語ではなかったような気
がした。何となくドイツ・・・っぽかったかな(^-^;Aその外人さん達も居場所を求
めてうろうろしていた。人だらけで、まるで銭湯のような談話室を覗き込んで、
肩をすぼめて手を広げる、あの、外人さん独特のポーズも見えた。

ワタシ達はそこで長いこと本を読んだ。
せっかく確保した本棚のすぐ側という居心地の良い場所で、冷えた身体を温
めたかった。手にした本の中で特に、ワタシは登山に関する医学の本が気に
なった。食いしん坊でしんどがりのワタシにとっては、まずはエネルギーの効
率的な摂り方や選び方が最重要課題で参考になった。他にも、いろいろ工夫
出来ることがあるんだなって思った。

だけど、ワタシはある項目のところで、ハタと手が止まった。
ー思考が薄れる。寒い。眠い。歩行がよろけるー。『低体温症』のその症状は、
ワタシの今日の最後の急坂を登っている時と、よく似ていた。これが進むと
凍傷・・・とかになったり、死んでしまったりもする深刻な症状だ。おぉ〜コワ。
あの眠さは異状だった。ワタシはもしや、低体温症だったのでは・・・。もしかし
たら、あの状態がもうちょっと続いていたら、あのまま意識が薄れて行ったの
かも・・・。ちょっとちょっと〜と隣で、やはり写真集など見ているオットに知らせ
る。「見て見て!ワタシ、低体温症だったんかもしれんよ!」

それを読んで、「う〜ん・・・・・。」と唸ったオット。
確かに、症状は似ているけど、あの時のワタシが死に繋がっていた程重篤と
はとても思えない。有名な外国のもっともっと高い山で、本当の低体温症で命
を落としてしまった人に申し訳ないと思う。でも、高い山じゃなくても遭難するこ
とがあるのも現実だ。単に血圧が低くても眠いだろうし、医者じゃないから、ほ
んとのところはどうだったのか、それは今でも解らないけど、でも、山って言うの
は、やはり普通に平地にいるのとでは勝手が違う。改めて、気をつけないと、と
怖がりのワタシはより強く思った。

待ちに待った晩ご飯。
食堂は修学旅行生が一度に食事が出来るくらい、いやもっと大きかった。外人
さんの少人数のグループもいて、一瞬、外国の山に来ているような気さえした。
でも、おかずは揚げ物だった。冷めただけでなく、常温状態に冷たくなっていた。
ここの常温は低い。食べるとお腹の中からじかに冷たくなった。これまでどっぷり
暖かい談話室にいた身にとっては、この広い部屋は寒い。ワタシはとうとう、イス
の上で正座をして縮こまって食べた。これだけの人数分を熱々のまま食卓に載
せるのは無理がある。だから、贅沢は言わないけど、献立ミスだと思ってしまっ
た。

ごはんの後、もう少し談話室で暖を取った。なんてったって、寝る部屋は寒い。
相変わらず満室の談話室。うろうろしてると、玄関先にあるストーブの周りにイ
スを集めて談話中の外人さん達がいた。この山荘は飲料水がないので、洗面
所の横に置いてある、普段生活の中ではゴミ箱として使っている青い容器から、
柄杓で水を汲んで歯磨きをした。

こんな山小屋で、夜中にトイレに起きるのは出来れば避けたいので、念入りに
トイレを済ませ、覚悟をして寝床に入った。いつもそうなのだけど、同じ部屋の
他の人達は早くも就寝中だった。たいていの場合ワタシ達は、ごそごそと最後
に、電気を消して寝床に就く。すごい雨風が窓ガラスを叩きつけていた。すきま
風が入ってくる。外を見てみると、窓の桟に霰が吹きだまっていた。

もしかしたら、明日、槍の穂先には雪・・・なんかが積もってたりするのだろうか
。。。いや、あの地形では雪は積もらないだろう。それよりもっと最悪なのは、
凍ってツルツルになることだ。。。あなおそろしやおそろしや〜。

そうして恐ろしがりながら、ワタシは眠りに落ちていった。

三日目へつづく。。。

 

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