今回は仕事術の話。
新入社員教育の現状がどうなのか、承知しないが、わたしが就職した頃は各社とも新人教育には最低3カ月は費やしていたと思う。
わたしの場合、最初に就職したのが製造業の事務系採用だったので、最初の2週間は社会人としての基礎などの座学。そして事務系新人研修のメインカリキュラムである、販売研修のための基礎研修がGWまでの2週間行われた。
そして、GW明けから、事務系採用同期は全国の販売会社にばらまかれた。
(ちなみに技術系採用は工場実習だったらしい。)
わたしは販売系は全く興味が無かったので、本社での後半2週間の研修と、3カ月、名古屋に配属になった営業研修期間は苦痛以外のなにものでもなかった。
唯一の息抜きは、名古屋の街中の東急ハンズに遊びに行くことくらい。
ちょうどその時期、日立やキャノンに就職した同級生は、システム系の研修を受けている中、自分は大型スーパーの駐車場で、車の展示商談会のテントの中にいるというのが、非常にあせりでもあり、選択を誤ったとの後悔の気持ちでいっぱいだった。
時間がもったいなく、営業以外の勉強したくてしょうがなかった。
運良く研修後の配属はシステム部門になったので、他社に就職した同級生に遅れはしたが、システム系の研修をみっちりと受けることが出来たので、その時は転職せずに終わった。でも、そのまま営業部門に配属になったら、転職しようと考えていた。
最初に就職した会社の、いわゆる春に行う新人研修は、そんな感じであまり良い思い出がない。
結局、数年後に今の仕事に転職することになるのだが、今の職場でも同じように新人研修を受けた。
こちらは1週間のカリキュラムで、完全座学。
電話応対などの社会人としての基礎や、組織構造など、本当に仕事をしていく上での基礎的なことに対する研修であった。
すでに社会人として仕事を経験し、いくつものプロジェクト管理を経験していたわたしにとって、この転職後の研修は気分的にとても楽だった。
そんな研修の中で、とある幹部の講話があった。
はなしの取っ掛かりは、自分の新人時代は、役に立たない悪い新人だったという話だった。
とある職場に配属になった新人時代のその幹部は、いつも適当に決裁を回していたという。
その決裁を、当時の上司であった係長は逐一チェックして、その新人時代の幹部にこうするんだと説明していたらしい。
その幹部、上司の係長がいつもチェックしてくれるので、いつも適当な決裁を回してさっさと定時に帰宅して、遊びまわっていたとのこと。
そのうち異動で別のセクションに変わったが、何箇所か異動を重ねるうちに、そのとあるセクションの係長として、その上司と同じポジションにつくことになったらしい。
まあ、よくある話で、その人の立場になったときに、その人の気持ちがわかったというやつだ。
ここで話が終われば、本当にどこかで聞いたことのある話なのだが、彼のえらいところは、こうこうこういう理由で、新人時代の自分が悪いヤツだったと分析したところだ。
彼が言うには、その当時、係長の下には5人の係員がいた。
仮に5人の係員がそれぞれ60分かけて仕事をしたとする。
係員A 60分 -------→ 係長へ回付(チェック12分)
係員B 60分 -------→ 係長へ回付(チェック12分)
係員C 60分 -------→ 係長へ回付(チェック12分)
係員D 60分 -------→ 係長へ回付(チェック12分)
係員E 60分 -------→ 係長へ回付(チェック12分)
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係長の仕事 12分×5人分=60分
所長が言うには、係員が60分かけて処理する仕事は、係員が5人いれば1/5の12分で係長がチェックできる状態で決裁を回さなければ、組織は成り立たないとのこと。
で、自分の新人時代は、適当に決裁を回すので、係長は自分一件の書類を60分かけてチェックしていた。
だから、自分の新人時代はなっていなかったと彼は結論付けていた。
現実には、係長固有の下からまわってこない仕事も多いので、5分でチェックできる状態で決裁を回すのが、組織構成上もベストだという。
組織というのは、こうした考えで設計されているので、よく憶えて置くようにといのが、講話の要点だった。
自動車会社にいたころ、後工程を考えて仕事をしろということを、イヤというほど教え込まれた。
頭ではわかっていたが、具体的な数字で示されたのは、この幹部の話がはじめてであった。
それ以来、わたしは常にこのことを頭に置いて仕事をするようにしている。
相手が何を望んでいるかを想定して、アウトプットを提供するのはビジネスの基本だが、その相手の立場を考えて、そのアウトプットをチェックするのにどれだけの時間がとれるかということも想定して仕事を進めると、とてもスムーズに話がまとまると思う。
余談になるが、その幹部のすごいところは、自分が係長になった時にはじめて、自分の新人時代はとんでもないヤツだったと気が付いたらしい。
新人時代は適当に決裁を回すことに全く罪悪感なく、いつも適当に仕事をして、さっさと帰っていたのだから、本当にストレスをためることなく新人時代を満喫していたに違いない。
この人、そのごも順調に出世して昇るところまで登って行った。
やはり、人の上に立つというのは、そうした度胸も必要なのだろう。
(04/11/21)
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