神話が生まれる背景と、新に生まれる神話
教科書の誤った「信用創造」の説明
<教科書が誤りをおかす原因、準備金の率とその扱い方>
現在日本の準備率は1.3%。しかしほとんどの教科書は10%として説明している。準備率が高いということは、銀行が貸出を多く実行するとそれに伴って準備金を多く積まなければならなくなる。 教科書の説明ではこうなる⇒貸出を増やすには、充分な準備金を用意しなければならないので、銀行は多くの預金を獲得したり、日銀からの借入に頼ることになる。
1.3%ということは調べれば簡単に分かることだ。日銀のホームページ
準備預金制度における準備率▲
を見ればすぐ分かる。このような簡単なこともやらず手抜きして教科書を書いているのか、知ってはいるけれど率の高低は説明に影響なしと考えているのか、あるいは意図的に高い準備率で説明しているのか? どうしてこんな過ちをしているのかわからないが、ともかく多くの教科書がそろって10%として説明している。また、銀行貸出では、銀行が融資先企業に口座振り込みではなく、現金を手渡しするかのように書いている。では具体的にどのような説明なのか、いくつかの教科書の例を引用することにした。さらに、「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」という神話が経済学者業界で信じられている、その背景となる考え方、また、その神話から生まれる「新たな神話」についても取り上げてみることにした。
準備率が10%だったり、20%だったり
初めに取り上げるのは「準備率が10%だったり、20%だったり」という教科書。「仮に10%とすると」などという書き方をする必要はないと思う。 せいぜい「計算を簡単にするために、実際は1.3%だけど、ここでは1%として話を進めよう」なら、計算の苦手な学生のためになるかもしれないが……
しかし、数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。
* * *
『新版 図解 金融を読む事典』
日本総合研究所編 東洋経済新報社
2003.8.14
このようにハイパワード・マネーからマネー・サプライを創り出す金融機関の機能のことを信用創造機能といいますが、これは一体どのようなものなのでしょうか。 例えば、日本銀行が金融機関に1億円を供給したとします。この時、
預金準備率が仮に10%だったとすると
、金融機関は1000万円は準備預金として日銀預け金に残し、あとの9000万円を貸出に回すことができます。
T注
準備率は正しく表示しましょう。読者が迷いますよ。
* * *
『事典 金融と経済のしくみがわかる』
芹澤数雄 中央経済社
1998.12.30
以上のプロセスを、
準備率が0.1
、供給されるハイパワード・マネーが100億円であると想定して示すと、表のようになります。
<表 銀行行動のモデル>
預金
100
90
81 ・・・
貸出
90
81
72.9・・・
現金準備
10
9
8.1・・・
すなわち、供給されたハイパワード・マネー100億円が預金され、そのうち10億円が現金準備として保有され、残余の90億円が貸し出されるわけです。この貸し出された90億円が取引などに使われ、それが預金されます。この90億円のうち9億円が現金準備として保有され、残余の81億円が貸し出されます。
T注
日銀当預に預ける準備なのか、銀行が手元現金として保有すべき準備なのか?でも、そんな細かいことは問題にすべきでない、と言いたいのかもしれない、と思う。
* * *
『金融のすべてがわかる事典』
三宅輝幸 日本実業出版社
2001.11.1
銀行が預金を受け入れてそれを貸出する過程で、全銀行では預金も貸出も増えていきます。こうした銀行の機能を信用創造といいます。
A銀行が100億円の預金を受け入れました。A銀行は、
10億円を支払準備として残し
、90億円をJ社に貸出しました。J社は90億円を仕入代金としてK社に支払い、K社はそれをB銀行に預金しました。B銀行は9億円を支払準備として、残り81億円をL社に貸出しました。 L社は81億円を仕入代金としてM社に支払い、M社はそれをC銀行に預金しました。そして、C銀行は8.1億円を支払準備として、残り72.9億円をN社に貸出しました。
こうした取引がC、D、E銀行……とさらに続いていくと、関わったすべての銀行では預金総額が1000億円となり、当初受け入れた100億円の預金が900億円増額することになります。すなわち、この一連の取引で900億円の信用創造が行われたことになります。
T注
神話を要領よく説明している文章だ。常識と思われることについては、疑う姿勢は持たない。それが通せる、幸せな生き方だと思う。
* * *
『入門 現代日本の金融』
玉木勝 シグマベイスキャピタル
2002.4.1
銀行から企業に貸し出された際の資金は全額流出するわけではなく、貸出金の一部は預金として残ることになる。これは必ずしも当該貸出銀行だけを意味するのではなく、企業が他の銀行に預金することも含めている。 すなわち銀行システム全体としては貸出の何倍もの預金そして貸出が増えていくことになる。結局銀行システムメイリオ;全体としては預金者からの預金や中央銀行が市中銀行に貸出や手形・債券の買いオペにより供給した資金の10倍近い係数(これを信用乗数という)の貸出が可能であると言われる。このように銀行全体、つまり銀行システム全体として多額の信用(預金と貸出)が創造されていくことを銀行の信用創造という。
銀行Aは預金者から1億円の預金(これを本源的預金という)を預かっている。この銀行Aは、すべての預金者が一斉に押しかけて預金全額を一度に引き出すことは起こり得ないこと、また、日々の支払に応じるには預金の10%程度を手許においておけば充分であることを、経験的に知っている。そこで銀行Aは、
1億円の10%に相当する1000万円だけを銀行の金庫に残し、(これを現金準備という)
、残りの9000万円を企業Pに貸し出す。 次ぎに9000万円の貸出を受けた企業Pは、その資金を企業Qに支払い、企業Qはその取引銀行である銀行Bに、9000万円を預金する。この瞬間に、もともと1億円しかなかった預金は1億9000万円に増えている。続いて銀行Bは、その10%の900万円を預金準備として残し、残りの8100万円を別の企業Rに貸し出す。企業Rはその資金を企業Sに支払い、企業Sは銀行Cに8100万円を預金する。(この時点で預金は2億7100万円にまで増えている) 銀行Cは、その10%の810万円を現金準備として残し、残りの7290万円を企業Tに貸し出す。
このようにして預金と貸出の連鎖は無限に続き、最初の1億円の本源的預金から、最終的には総額10億円の預金と総額9億円の貸出が創造されたことになる。このような形で銀行の信用創造が行われている。
T注
準備とはそれぞれの銀行が手元に用意しておくもので、日銀当預は考えていない。
* * *
『テキスト現代金融』
土田壽孝 ミネルヴァ書房
2004.1.30
信用創造とは、銀行組織全体として当座勘定を通じる小切手による決済を媒介として行われる、預金通貨創出という貨幣供給機能のことです。
銀行の預金通貨創出の根源となるのは、本源的預金といわれる現金通貨によって預け入れられる預金(現金準備)です。この本源的預金となりうる現金通貨のことを、ハイパワード・マネーとよんでいます。信用創造で生み出された預金通貨は、その名の通り預金として創出され保有されますが、この預金は派生的預金といわれます。
初めに経済組織の中に市中銀行が1つだけあり、全ての取引決済が銀行内の当座預金口座振替で行われるという仮想敵な場合を想定しましょう。この場合にはこの銀行が保有する本源的預金は、中央銀行によって市中に提供された現金通貨の全部です。仮に100の本源的預金がこの銀行に預けられたとすると、その時点での銀行の貸借対照表は資本部分を無視して書くと、
────────────────┬───────────
資 産 │ 負 債
────────────────┼───────────
現金準備 100 │本源的預金 100
────────────────┼───────────
資産合計 100 │負債合計 100
となります。現代の預金準備制度は部分準備預金制度ですから、受け入れた預金の一定割合を預金引出しに対しての準備として残せばよいので、
今仮にその預金準備率を10%としてみましょう
。このことは銀行が受け入れた預金総額の10%の現金準備を持てばよいということですから、現に所有する本源的預金として受け入れた100の現金準備があるのですから、総額では1000の預金を受け入れられることになります。 つまり900は銀行が生み出した預金なのです。当然この生み出された預金は収益を稼ぐ貸出資産となるべく創出されたのです。このとき銀行の貸借対照表は、
────────────────┬───────────
資 産 │ 負 債
────────────────┼───────────
現金準備 100 │本源的預金 100
貸 出 900 │派生(当座)預金100
────────────────┼───────────
資産合計 1000 │負債合計 1000
となっています。現在の仮定の下では、銀行と資金取引のある人は全てこの銀行に当座預金口座を持っています。したがって、この900に相当する資金を借入た人は、その資金を何に使おうとしても支払いのためには全員がこの銀行の当座預金から資金を引き出す小切手を振り出すことになります。 その結果、誰かが支払のために振りだした小切手は、その小切手を受け取った人が再びこの銀行の受取人名義の当座預金口座に預け入れるわけですから、銀行内部では当事者の口座間の資金の振替だけで資金決済が完了します。 全員がこのように当座預金口座で小切手による決済を行う限り、銀行から現金準備の流出が発生しないので、銀行は900の預金通貨を発行し続けることができます。通常、当座預金には利息はつかないので、銀行は貸出からの収益を全部獲得できます。銀行から支払準備となるべき現金が流出するとそれに応じて預金通貨つまり銀行の貸出も縮小しなければならないことになります。
T注
銀行制度が出来始めた頃の話で、現代の金融制度の解説ではないようだ。
* * *
『金融論』
{新版}
柴沼武・森映雄・藪下史郎・晝間文彦 有斐閣
2000.2.20
前の項では、ハイパワード・マネーに乗数倍された貨幣が供給されることが示されたが、これは銀行の非銀行部門への貸付という信用創造過程を通じて行われる。こでは、中央銀行が増加させたハイパワード・マネーが、銀行の信用供与を通じてどのように貨幣を増大されるかを見てみよう。 ただしここでは、
銀行は預金総額の10%を準備として保有し
残りの90%を非銀行部門に貸出し、また非銀行部門は現金を保有せず、借り入れた資金はすべて銀行に預金するとする。(中略)
支払準備制度の下では、日本銀行はこれらの法定準備率を変更することができる。法定準備率の低下は、貨幣乗数を上昇させるため、マネーサプライを増加させ、金融緩和効果をもつ。逆に、法定準備率の上昇は貨幣供給量を減少させる。
窓口指導は、日本銀行が長く採用してきた政策の1つであったが、これは日銀が銀行の貸出増加額に対して規制を行うことである(日本銀行は1991年に、窓口指導を今後行わないと発表した)。これは、法定準備率の変更のように、貨幣乗数を増減させる政策であるとみることができる。 たとえば、銀行の貸出額の制約が保有準備の増加を意味するとすると、貨幣乗数は小さくなり、金融引締的効果をもつ。しかし、それが銀行の証券投資などに結びつくときには、その効果を弱めることになり、有効な政策でなくなる。さらには、この政策は民間銀行による効果的な資金配分を阻害するものであると批判されてきた。(中略)
貨幣は現金通貨と預金通貨とからなるが、現金通貨は中央銀行によって直接供給される。中央銀行は、ハイパワード・マネーの供給量を変化させ、コールレートなどのインターバンクマーケットの利子率に影響を与える。預金通貨は貨幣乗数の大きさに依存し、また貨幣乗数は銀行の資産・負債管理および家計などの民間非銀行部門の資産選択によって決定される。
T注
現在の準備率は1.3%で、1991年10月に改訂されたが、それ以前は2.5%。アメリカのそれに比べれば準備率変更の効果は少ない。 アメリカの準備率については、
法定準備金要額▲
を参照のこと。
* * *
『マクロ経済学』
明石茂生 中央経済社
2003.9.20
ある市中銀行Aに中央銀行から(手形割引や手形貸出による)貸付があって、銀行A自身が余分に1,000万円を貸出する余裕ができたとしましょう。 ある企業に貸付が行われたとすれば、その貸出金1,000万円はその企業の口座のある銀行Bに振り込まれるでしょう。そのうち、2割が現金化されて残り8割の800万円が預金として預けられるとします。
預金準備率が1割であるとしますと
、銀行Bにとって同じくそのうちの9割である800X0.9=720万円が貸出に可能な金額です。
T注
数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。
* * *
『金融経済論』
里麻克彦 税務経理協会
2001.1.15
マネーサプライは物価動向に強い影響を与え、適切な管理に注意を払わなければ、増加がインフレの原因となる。また、実質成長とも密接な関係がある。ところが、定義によるマネーサプライは、日本銀行にとって直接には量をコントロールできないのである。 日本銀行は、現金通貨と準備金と呼ばれる日本銀行への民間金融機関からの預金通貨からの預金量だけ直接にコントロールできる。マネーサプライの構成要素である預金通貨や準通貨については、民間部門が保有を選好する際に日本銀行の強制力は及ばない。 それに対して、物価水準や経済成長に深い関係を持つのは、マネーサプライ全体なのである。金融政策として貨幣量の調整が難しいのは、一部の貨幣量を通して、マネーサプライ全体を調整するということによる。この直接に調整可能な現金通貨と準備金である日本銀行への預金は、マネタリー・ベースあるいはハイパワード・マネーと呼ばれる。
日本銀行は、民間金融機関から持ち込まれた手形の割引率である公定歩合を変更して、預金、貯金金利の収益率に影響を及ぼし、マネーサプライ全体を調整しようとする。これは、貸出政策と呼ばれる金融政策であるが、マネーサプライへの影響は間接的である。マネタリー・ベースとは、日本銀行が直接に調整できる預金の総額である。 次節であきらかにされるように、
その何倍かのマネーサプライを生み出す
ことから、ハイパワード・マネーとも呼ばれる。(中略)
金融機関は、貸出利息と貸出額から計算される総収入から、預金利息と預金総額の費用を差し引いたものを利益とする。この利益を最大にするような貸出額を決めるのが、金融機関の最適行動である。 ところが現代の銀行システムでは、現金が預金として金融機関に預けられるとき、全額を貸出しに振り向けることはできない。金融政策の手段として、また預金者保護の目的で支払準備制度が設けられている。これは、債務としての金融機関の預金について、支払準備あるいは法定準備率として決められた一定割合を、無利子で日本銀に準備として預け入れることを義務づけられている。 この制度により、金融機関はすべてを貸出に振り向けられないのである。前述のように、預金の払い戻しが不可能となる債務不履行に備える協同の資金準備が目的であった。 しかし、日本銀行がこの割合を政策的に変更すると、金融機関の貸出を調節して利用可能な資金量を直接増減できる。与信活動に影響を与えることにより、マネーサプライの増減をコントロールす上限るのである。
現金通貨の増加は、預金準備率の逆数倍の預金通貨を創り出す。このプロセスは信用創造と呼ばれ、
預金準備率の逆数を貨幣乗数あるいは信用創造の乗数と言う。 準備率を10%として
、上限まで貸し出されていく過程を考慮する。(中略)
貨幣乗数
現金通貨の増加が、最大値として預金準備率の逆数倍の預金通貨をもたらすプロセスは、信用創造と呼ばれる。このことから、預金準備率の逆数は信用創造の乗数とも呼ばれる。信用創造の大きさは、預金通貨創造の波及、すなわちメカニズムの機能がどのように伝播していくかに依存している。 波及効果がなく、伝播の速度が速く完全であれば、預金通貨の創造額は理論値と等しく乗数倍となる。このようなメカニズムのいろいろな場合を想定して、マネタリー・ベース増加と貨幣供給量の関係をあきらかにしよう。(中略)
金融政策は、裁量かルールか?
小さな政府と市場原理への移行は、1990年代の世界経済のキーワードであった。大きな政府による大きな財政支出と市場規制は、財政赤字と国際競争力の喪失を招いた。1980年代以降のイギリス金融ビッグバン、アメリカの規制緩和とサプライサイダーの経済は、大きな政府からの訣別と市況経済への復帰であった。 国家の役割を徐々に減らし、市場の価格メカニズムにその役割を委嘱していったのである。現代の経済政策は、市場メカニズムを重視した古典派経済学に回帰しているのである。
T注
日銀当預は準備金と日銀ネットを通じた取引のための資金とがあり、ベースマネーの内訳も問題にすべきで、単純に準備率の逆数とは言えない。
* * *
『入門マクロ経済学』
第2版
井堀利宏 新世社
2003.11.10
貨幣供給の総需要を拡大させる効果は、「貨幣乗数」と呼ばれる。(中略)
貨幣の供給メカニズムでは、中央銀行が直接コントロールできる貨幣であるハイパワード・マネー(あるいは、マネタリーベース)が重要な役割を演じている。ハイパワード・マネーとは、中央銀行の債務項目である現金通貨と預金通貨銀行(=市中銀行)による中央銀行への預け金とを加えたものである。 言い換えると、ハイパワード・マネーは中央銀行の債務の主要項目を形成し、その一部が民間によって直接現金通貨として保有され、残りは、預金通貨銀行の準備となる。
ここで、貨幣の信用乗数を説明しておこう。一般に、銀行は預金に充てる現金を100%準備しておくことはない。現金で持っていても何の収益を生まないからである。それよりも、貸出に回して収益をあげようとする。中央銀行は、市中の銀行に対して、支払に準備のために現金を中央銀行への預け金の形で、保有するように求めている。 このとき、預金に対する中央銀行への預け金の比率を、預金準備という。現金通貨が、預金準備率の逆数倍の預金通貨をもたらすプロセスは、信用創造と呼ばれている。準備率の逆数は、信用創造の乗数と呼ばれている。(中略)
いま、
預金準備率が10%であるとして
、信用創造のメカニズムを説明しよう。現金が10億円だけ増加したとする。これは、さしあたっては、どこかの銀行の預金の増加となるだろう。このとき、銀行は10X0.1=1億円を中央銀行への預け金に回し、残りを貸付に回すだろう。 なぜなら、銀行は貸し付けによって得られる利子率をそのまま収益源としているからである。貸し付けられたお金は、どこかの銀行の口座に振り込まれる。その銀行は、9億円のうち、9X0.1=0.9億円を中央銀行への預け金に回し、残りの8.1億円をさらに貸付に回す。
T注
数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。
* * *
『マクロ経済学』
新経済学ライブラリ=3
浅井和美・加納悟・倉澤資成 新世社
1993.2.25
信用創造のメカニズムを理解するために、次の例を考えてみよう。説明を簡単にするために、
法定準備率を10%とする
。いま、新しく銀行Aに100億円預金されたとしよう。銀行Aは、預金の10%を支払準備として手元に保有し、残りの90億円を企業aへ貸出す。企業aはそれを企業bに対する支払に当て、企業bがこれを銀行Bに預金すると、銀行Bには新たに90億円の預金が増える。 銀行Bは10%の9億円を支払準備として手元に残し、残りの81億円を貸し出す。貸出を受けた企業cはそれを企業dに支払い、企業dは銀行Cに預金する。こうした連鎖を考えると、銀行B、銀行C、と次々に預金が派生し、増加する。(中略)
総預金と本源的預金の比率(先の例では10)は信用乗数と呼ばれる。
信用乗数は、預金準備率の逆数となることに注意しよう。一般に預金準備率をkとすると、信用乗数は1/kとなる。 日本における預金準備率は平均すると、およそ2%程度であり、これをもとに信用乗数を求めると1/0.02=50となる。 したがって、上で説明した信用創造メカニズムが理論通り機能するならば、100億円の本源的預金に対して、5000億円の総預金が創造されうる。
(中略)
単純な想定のモデルを前提にすると、マネーサプライは、ハイパワード・マネーと貨幣乗数の積に等しい。したがって、もし貨幣乗数が安定的であれば、ハイパワード・マネーのコントロールによって、マネーサプライの管理が可能になる。実際、金融政策の責任主体である中央銀行にとっては、マネーサプライの管理が主要な関心事の1つである。
貨幣供給(とくに、ハイパワード・マネーの供給)が、通貨当局あるいは政府の収入を増加さっせる事実も見逃してはならない側面であろう。これはシーニョレッジと呼ばれた、シーニョレッジが得られるのは、中央銀行の負債が、実質上永久に返済する必要のない負債だからである。
T注
「日本における預金準備率は平均すると、およそ2%程度」ではない。
* * *
『初級・マクロ経済学』
鴇田忠彦・足立英之・藪下史郎 有斐閣
1998.6.20
日銀は金融機関から入札によって、たとえば1兆円の国債を購入するとしよう。すると1兆円の国債の代金、つまり日銀券が金融機関に支払われる。金融機関はこの1兆円を貸し出すことで利息を得ようとする。 仮に各金融機関は企業などに全額を貸し付けたとしよう。このとき一般的には各金融機関は、各企業の取引先の金融機関(自行を含む)に振り込むことになる。すると各金融機関は預金は1兆円増加したことになる。各金融機関は再びこの預金を貸し付けるのだが、このとき各金各融機関は増加した預金のうち、
一定部分たとえば単純化のために10%
を、日本銀行に準備預金として保有しなければならない。 この割合が法定準備率である。1兆円の預金増加のうち90%の9000億円だけが、各金融機関にとって貸出可能な金額である。そして再びこの金額を全額貸し付けたとしよう。前と同様に9000億円は各企業の口座に振り込まれ、各金融機関の預金が同額だけ増加する。各金融機関はやはり10%だけ日本銀行に準備預金し、残り8100億円は各企業への貸し付けにまわす。このようなプロセスは、際限なく続いていく。
T注
単純化するなら、「1%」でいい。このように実際よりも大きい数字を使うことによって、「高い準備率のために、貸出が制約される」との印象を与えることになる。
* * *
『経済学 基礎から実戦へ』
中桐宏文 有斐閣
2000.4.10
ところで、貨幣の供給のメカニズムはどのようになっているのだろうか。(中略)
民間銀行(信用創造能力をもつ民間金融機関)が行う非金融企業への貸出には、銀行組織全体からみるとき、預金通貨を創り出す独特のメカニズムがある。当初の本源的預金の数倍の預金通貨を創り出すことができる。そのメカニズムは次ぎのようなものである。
いまある人がP銀行に現金で100の預金(これを本源的預金という)をしたとする。P銀行は、支払準備として100のうち10
(仮に支払準備を10%とする)
を残し、90を貸出(または有価証券投資)に充てることができる。(中略)
中央銀行(たとえば日銀)が直接コントロールすることができる貨幣量のことをハイパワード・マネーまたはマネタリー・ベースといい、通貨当局が発行する通貨と民間銀行が中央銀行に預ける預け金の合計がハイパワード・マネーとなる。
T注
数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。
* * *
『ベーシック/金融入門』
日本経済新聞社 日本経済新聞社
1989.4.10
銀行の役割は大きく分けて3つあります。1番目は「金融仲介機能」(信用仲介機能ともいいます)。この機能は前節で説明した通り、最終的な借り手と最終的な貸し手を仲介する機能です。この機能を果たすために銀行は預金の受け入れと貸し出しという業務を営んでいます。
2番目は「決済機能」です。私たちはモノやサービスの代価としておカネを支払います。支払いによって取引は終了するわけですが、この支払い行為が決済です。最も基本的な決済は現金ですが、現金では不便なことも少なくありません。遠隔地にいる人や企業との取引、巨額の取引などを想像して下さい。 大量の現金を持ち運ぶのは大変です。そこで同じ通貨でも第1節で説明した預金通貨が登場します。小切手・手形、クレジットカード、自動口座振替、振込などで決済する方式です。いずれも銀行の預金口座が決済の舞台になります。預金口座を扱っているのは銀行だけで、これが銀行の決済機能の源泉です。
3番目は「信用創造機能」と呼ばれるものです。銀行は受け入れた預金のうち一定額を支払い準備として手元に置いたり、日銀に預けています。しかし預金すべてを支払い準備にしておく必要はありません。このため銀行は最初に受け入れた預金の何倍もの貸し付けをすることができます。
まず100万円の預金を受け入れたとします。この預金を便宜上、本源的預金と呼びましょう。銀行はこのうち
20万円を支払い準備にあて
、80万円を貸し出します。貸し出された80万円はいずれ使われるのですが、とりあえず銀行に預金されます。 この80万円分の預金を派生的預金といいます。派生的預金についても銀行は一定の支払い準備をしたうえで、残りを貸し出します。ここでも借り手がいったん預金すれば、もうひとつ派生的預金ができ、銀行はまた支払い準備の残りを貸し出します。 これを繰り返していけば、銀行は本源的預金の何倍もの貸し出しができるわけです。これが銀行の「信用創造機能」です。もちろん信用創造は無限にできるわけではありませんが、銀行は預金をもとにおカネをつくり出すことができ、それによって経済が円滑に回っていくのです。
T注
数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。これでは「法定準備率は20%だ」と誤解してしまう。
(^_^) (^_^) (^_^)
<準備率が何パーセントかハッキリさせない教科書>
民間銀行は受け入れ預金額に対して準備金を日銀当座預金口座に積まなくてはならない。けれどもどの程度積まなければならないのか、具体的な数字を書かない教科書もある。 教科書の著者はその率を知らないのではないか?と心配になる。少なくとも、その教科書で学ぶ学生は知らないし、知ろうともしないかも知れない。金融経済学を学ぶ態度がそのようなものなら、「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」という神話を疑うこともないだろう。 そうして、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と同じように、自分では善悪を確かめず、他人の動きに逆らわず、従って行くことになる。
* * *
『金融』
小野善康 岩波書店
1996.1.22
日本銀行による民間金融機関への貸出しや、民間金融機関の発行する手形の購入によって、日銀から民間金融機関に流れ出た資金は、民間金融機関から企業や家計に貸し出されるか、あるいは民間金融機関による国債、株式、債券などの購入によって、非金融機関に資金が流れていく。こうして非金融部門に流れ出た資金は、その大きな部分が金融機関の預金として再び金融機関に環流してくる。 こうして金融機関に環流した資金は、
一定率の預金準備(預金者の預金引き出しに対する準備金)
を残しながら、残りは再び貸出しや債券・証券類の購入に使われて非金融部門に戻っていく。こうした金融機関の信用創造プロセスを繰り返すことにより、日本銀行によって発行されたハイパワード・マネーは、その何倍もの貨幣(=現金通貨+預金通貨)として、民間非金融部門に保有されることになる。
こうした信用創造の乗数を信用乗数と呼ぶが、これについては次項で詳しく論じることにする。なお、預金準備は通常、民間金融機関による日銀への無利子の当座預金(日銀預け金)として保有される。
T注
準備率は日銀のホームページでも、『金融経済統計月報』でも調べることができる。
* * *
『マクロ経済学』
<やさしい経済学シリーズ>
浜田文雄 東洋経済新報社
2002.4.30
日本銀行は、財政収支や貿易などの国際収支の変動によって、現金通貨が民間に供給される量が多すぎたり不足したりすることが起きないように絶えず調整する責任を負っている。そのために、日本銀行は民間の貨幣市場から余分な貨幣量を吸い上げたり供給を増やしたりする。 そのための手段として、日本銀行は民間が保有する政府発行の証券(政府短期証券や中・長期の国債など)を買い取ったり、短期の銀行間での資金取引をするコール市場への資金の供給を調節したりする。 日本銀行のこのような活動は、政府や民間の取引によって生じる現金通貨の貨幣市場への流出入を政策的に安定化させる役割を果たしている。
日本銀行は、この他にも民間金融機関への貸出しをするという形での現金通貨供給も行っている。これは日本銀行の民間金融機関への信用供与という。したがって、現金通貨供給の要因は、政府の財政収支と民間の貿易などの国際収支、そして日本銀行の信用供与と貨幣供給総額の調整的な現金通貨の供給の合計であるということになる。 民間に供給された現金通貨の一部は銀行などの金融機関の内部と金融機関以外の民間に保有されることになる。この総額は、貨幣全体のもととなることから、ハイパワードマネーと呼ばれている。
民間の銀行は、消費者や企業が貯蓄した現金が預金として入ってくると、
その一部を預金支払い準備として
、残りを貸し出す。こうして貸し出された資金の大半は、いろいろな支払を経てまた預金される。このような預金を銀行の派生的預金という。これに対して、貯蓄から行われた最初の預金は本源的預金という。 本源的預金は銀行貸出しを通じて次々に派生預金を生み出す。これらの預金はすべて現金通貨と同じように貨幣としての役割を果たせるから、これらの預金は預金通貨と呼ばれ、貨幣供給のなかでもかなり大きな割合を占めている。 貨幣供給総額は、現金通貨と預金通貨の合計である。ハイパワードマネーに対する貨幣供給総額の比率は、貨幣乗数と呼ばれている。信用乗数の最近の値は、約13弱である。1997年の貨幣供給残高は、年平均で約570兆円であり、これは同じ年の国内総生産507兆円の1.12倍である。
日本銀行は、貨幣供給量つまり民間の現金通貨と預金通貨の合計がマクロ経済の規模と比較してちょうど適切な量になるように、民間の貨幣量を絶えず調整することを最重要の課題としている。もし、上に述べたような原因で日本銀行の貨幣供給量が増加すると、日本銀行は、金融市場を通じて手持ちの有価証券を売ったり、民間銀行への資金の貸しだしを抑制したりすることで、民間から現金通貨を引き上げる政策を実行する。 したがって、日本銀行は日本のマクロ経済に対する貨幣供給量を直接・間接に調整しているということができよう。
T注
準備率は日銀のホームページでも、『金融経済統計月報』でも調べることができる。
* * *
『マクロ経済学のナビゲーター』
(第2版)
脇田成 日本評論社
2004.12.20
「銀行は預金を貸し出して、その利ざやで儲けるんだけど、預金を全部貸し出してはならないんだ。
何%かは残しておいて
、急な引き出しに備えなければならない。このパーセンテージを預金準備率と言うんだ。
中央銀行は受け身の貨幣供給を行うと考えるのが銀行主義
マネーサプライは中央銀行が制御できると考えるのが通過主義
マネーサプライ論争
「このような貨幣の相異なとらえ方を背景として、バブル期のマネーサプライ急増とその後の急減に対する日本銀行の金融調節方式を巡って岩田・翁の「マネーサプライ論争」が行われた。
その中で
●
岩田規久男教授らが通貨主義の立場で日本銀行のマネーサプライ調節の失敗を追求するのに対し
●
日本銀行の翁邦雄は銀行主義的な弁明をとって、決済を円滑に進めるためには銀行の要請に基づき貨幣を受動的に供給するしかないと主張したんだ」
──
受動的で決まるって言い方だと日本銀行にはもともと金融政策の遂行能力がない、と言っているようなものじゃないですか。
「こう考えるとマネーサプライ論争とは端的に言って、金融調節を名目金利あるいは「価格」をターゲットにするか、貨幣供給量あるいは「数量」をターゲットにするかの論争であると言っても良いのかもしれない。
実はこのような論争は過去にも繰り返されているのだけれど、ここで疑問なのは、たとえどのような調整メカニズムであったとしても、異常な資産価格の上昇は金融政策の失敗以外のなにものでもないはずなのに、
なぜ同じような論争が繰り返されるのか
、と言うことだね」(中略)
金融政策運営の「3段階アプローチ」
政策手段 中央銀行貸出金利操作、準備率操作、市場操作
↓
操作目標 ハイパワードマネー、準備量、短期金融市場金利
↓
中間目標 マネー・サプライ、信用量、長期金利
↓
最終目標 物価安定、経済成長と雇用増加
T注
準備率は日銀のホームページでも、『金融経済統計月報』でも調べることができる。 「なぜ同じような論争が繰り返されるのか」と言えば、経済学者業界の人たちが、日銀関係者の言うことを理解しようとしないから。
(^_^) (^_^) (^_^)
<準備率以外のいろいろな問題点>
「景気対策、日銀にできること、できないこと」と題して日銀に関する問題を扱った。基本的な態度は「日銀に対するいわれなき批判と、多大な期待があるようなので基本的なことを押さえておこう。」 ということで書き始めた。インターネットの掲示板などで、日銀に対して多大な期待をしている意見が見受けられたからだ。「アマチュアだからしようがない」と思いながら書いたのだが、経済学者業界でも日銀に対して過大な期待を持っている人がいるようだ。 「日銀はベースマネーをコントロールし、それによってマネーサプライをコントロールする」との期待がある。期待していいのか、悪いのか、それにはマネーサプライが増加する仕組みを理解する必要がある。学生にその仕組みを説明せず、日銀に対する期待を書いている教科書もある。 そうした点も含めて、準備率以外に問題がある教科書を取り上げてみた。
* * *
『はじめて学ぶ金融のしくみ』
家森信善 中央経済社
2004.12.10
貨幣乗数の考え方に基づきますと、
中央銀行の作り出したマネタリーベースに対して、乗数倍のマネーサプライが生み出されることになります
。なお、貨幣乗数については8.1節で詳しく説明します。(中略)
マネーサプライと経済活動の関係が弱まっている理由としては、@金融システム危機による金融機関の貸出能力の低下、Aゼロ金利によって他の金融資産とマネーとの代替性の高まりなどが指摘されています。
このようにマネタリーベースの変化によって経済活動に影響を与えるという金融政策の有効性は、貨幣乗数の観点でも貨幣の流通速度の観点でも低下しているということになります。
前節で見たように貨幣と経済活動の関係は近年弱まり、また不安定化しています。5.4節で金融政策の効果波及のメカニズムに対して、銀行の貸出を通じるルートを強調するクレジットビューという見方があります。
クレジットビューの立場から見ると、金融政策の効果が弱まっているのは銀行の信用創造機能が低下しているからだと言うことになります。簡単に言えば、お金が余っていても銀行が貸出を行わないので、企業が投資を行えないというわけです。 実際、バブル崩壊後、銀行貸出は減少を続けています。
また、銀行の信用創造機能(預金1からどれだけの貸出が生み出されているか)は1999年頃から急激に低下しています。こうした銀行の信用創造機能の低下が、金融政策の効果を大幅に低下させたために、資産担保証券の買入オペのような「非伝統的な」手法を日本銀行が採用せざるを得なくなったのです。
T注
「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」という神話を正当化しようとして、いろいろ新しい新しい理論を生み出そうとする。まるで、ウソをついて、それをごまかすために新たなウソをつくのに似ている。 「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」のではなくて、「マネーサプライの増減により、ベースマネーが増減する」と言えば、問題は解決するのに……
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『マクロ経済学入門講義』
田中宏 慶應義塾大学出版会
2002.2.1
ではハイパワード・マネーの大きさを規定する要因はなにか。
ハイパワード・マネーを発行するのは中央銀行のみ
であるから、このことは中央銀行がどのような事由によってハイパワード・マネーを発行するかということである。 それは、(a)外貨の買い入れ、(b)民間銀行への貸出の増加、(c)公開市場での債券・手形の買い操作である。ハイパワード・マネーを減少させるのはこの(a),(b),(c)の各項目が逆の動きをするときである。つまり(a)外貨の売り出し、(b)民間銀行への貸出の減少、(c)公開市場での債券・手形の売り操作である。これらはハイパワード・マネーの源泉 (sources) であり、いわばハイパワード・マネーの供給面を指している。
T注
日銀がオペによりベースマネーを増減させるのは確かだけれど、各銀行は日銀借入を増減させたりして、ベースマネーを増減させることもできる。そうした民間銀行の動きを日銀が規制することはできない。
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『入門 金融』
(第3版)
黒田晃生 東洋経済新報社
2002.5.24
一般に中央銀行の金融調節は、第4章で登場したハイパワード・マネーの需給を調節することによって、
短期金融市場金利(略して短期金利)をコントロールする
ことと言い換えることができます。 ハイパワード・マネーは、民間金融機関が保有している中央銀行当座預金(および、手持ち現金通貨)と企業・家計などが保有する現金通貨の合計として定義されます。そして、そうしたハイパワード・マネーを供給できるのは、銀行券の独占的発行者であり、また中央銀行当座預金(準備預金を含みます)の提供者である中央銀行なのです。 以下では中央銀行の例をとって、ハイパワード・マネーの需給均衡によって、短期金利が決定されるメカニズムについて解説します。
T注
金融政策の基本姿勢として、@短期金利を操作する。Aマネーサプライを操作する。の2つがある。@は日銀の考えで、Aは経済学者業界の人たちの考えだ。ハイパワード・マネーという言葉を使うのは業界人で、短期金利を問題にするのは日銀当局。この説明は両者の考え方の違いを一緒くたにしている。
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『金融論』
増補改訂版
柴沼武 創成社
1999.3.31
そもそも現実の日本銀行券の増減は、日本経済における所得、消費、投資等の動き、つまり経済実体面からの需要によって左右される面の方が強いのである。したがって、金融市場の動きをみる限り、国際収支の動き、財政収支の動き、民間からの日本銀行券の需要の動き、などを反映した日本銀行券への総需要の大きさが金融市場の外部から与えられ、 それに基づく金融市場での需給関係の過不足が、最終的な貸し手としての日本銀行の日本銀行券供給によって調整されるとみるほうが現実的であろう。
そうであるならば、日本銀行の銀行券供給の自立性はまったくないのであろうか。そうとは言えないであろう。日本銀行は、金融政策を通じて国内の実体経済(とくに景気)を調整し、実体経済面から発生する資金需要を動かすことによって、間接的にタイム・ラグを伴う銀行券の発行量・供給量を調節することができるはずである。 金融政策の意義もまたここにあるのである。さらに日本銀行は、金融行政・金融政策を通じて、銀行貸出を中心に民間金融機関の行動を動かし、預金通貨も含めたマネーサプライ全体をコントロールすることもできよう。つまり、預金通貨量に引きずられがちな現金通貨量を、預金通貨量のコントロールを通じてある大きさに制限することができるのである。 このような点からみて、日本銀行は銀行券の増減について当然その責任が問われることになろう。
現在では、
中央銀行は銀行券の供給をほぼコントロールできるとする見方が通説となっている。
また、より広義の貨幣としてのマネーサプライの発生の基礎となるものとして、ハイパワード・マネーあるいはマネタリー・ベースと呼ばれる概念が注目されるようになった。これは、現金通貨発行高に金融機関の中央銀行への預金を加えたものである。 中央銀行はこのハイパワード・マネーをコントロールできるかどうかについては、種々の議論もあるが、それはほぼ可能であるというのが多くの研究者の見方である。(中略)
さて、マネーサプライは上述の貨幣乗数とハイパワード・マネー供給量の積に等しいわけだから、もし貨幣乗数が安定的で一定の係数であり、しかも中央銀行がハイパワード・マネーをコントロールできるとすれば、中央銀行はマネーサプライをコントロールすることができることになる。
ハイパワード・マネーの供給に関しては、それは市場での需要動向に応じたものであるため、中央銀行は一方的に決定することはできないとする見方もあるが、現在ではすでに述べたように、金融政策等を通じて中央銀行はそれをほぼコントロールすることができるとする見方が有力となっている。
T注