趣味の経済学 
「お客様は神様」の現代資本主義社会 

アマチュアエコノミスト TANAKA1942b が経済学の神話に挑戦します     If you are not a liberal at age 20, you have no heart. If you are not a conservative at age 40, you have no brain.――Winston Churchill  30才前に社会主義者でない者は、ハートがない。30才過ぎても社会主義者である者は、頭がない。――ウィンストン・チャーチル      日曜エコノミスト TANAKA1942b が経済学の神話に挑戦します    アマチュアエコノミスト TANAKA1942b が経済学の神話に挑戦するとです    好奇心と遊び心いっぱいの TANAKA1942b が経済学の神話に挑戦します    TANAKA1942bです。「王様は裸だ!」と叫んでみたいとです      アマチュアエコノミスト TANAKA1942b が経済学の神話に挑戦します    アマチュアエコノミスト TANAKA1942b が経済学の神話に挑戦します
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「お客様は神様」の現代資本主義社会
 「消費者は王様」を認めさせた消費者運動 大企業独占告発への矢文 (2006年4月3日)
 戦後の消費者運動を振り返る 主流は主婦の値上げ反対運動だった (2006年4月10日)
 日本消費者連盟の誕生 竹内直一の経歴と運動に対する考え方 (2006年4月17日)
 最初に取り組んだのは、コーラの有毒性 以後大企業への「矢文」が追求する (2006年4月24日)
 果汁が入ってなくてもジュース? 消費者も果樹生産者も困ってしまう (2006年5月1日)
 チクロ問題と創立委員会 『消費者リポート』とNHK『日本の消費者運動』 (2006年5月8日)
 消費者軽視の企業体質を批判 三越・住友生命・共栄生命──ほか (2006年6月19日)
 学研百科辞典の誤りと校内販売を批判 連盟に刃向かう唯一の大企業 (2006年6月26日)
 ラルフ・ネーダーの内部告発のすすめ 倫理のグローバリゼーション (2006年7月24日)
 カラーテレビ不買運動と松下訴訟 オープン価格という新しい制度 (2006年7月31日)
 欠陥車問題追求が大きな節目 ユニオン幹部の逮捕という大きなショック (2006年8月21日)
 薬品問題・公害自主講座・消費者運動 高橋晄正・宇井純・竹内直一 (2006年8月28日)
 消費者主権に変わりつつある日本経済 学んだ企業、学ばなかった企業 (2006年9月4日)

趣味の経済学 アマチュアエコノミストのすすめ Index
2%インフレ目標政策失敗への途 量的緩和政策はひびの入った骨董品
(2013年5月8日)

FX、お客が損すりゃ業者は儲かる 仕組みの解明と適切な後始末を (2011年11月1日)

「消費者は王様」を認めさせた消費者運動
大企業独占告発への矢文
<総会屋の嫌がらせと間違えられた消費者運動> 私達の活動を総会屋の類と誤解するむきがある。以下、その一例をあげておこう。
 45年6月、ちっともゴキブリの捕れない東芝の「ゴキトール」を欠陥商品だとしてヤリ玉にあげたときのことである。 最初は担当社員が「欠陥ではない」と弁明にきたが、私たちがこれを公取委に不当表示で告発すると、パタリと連絡が途絶えたのである。 それからはいくら催促しても回答は出されなかった。46年1月までに3回も矢文が出された。やっと1月中旬、担当部長から文書回答がきて「回収中だ」といってきたが、こちらの質問のポイントには、答えていなかった。 私たちは「ミスはミスとしてフェアに認める態度こそ消費者の信用をかちとるゆえんではないか」と詰問した。
 3月22日になって、はじめて東芝商事の消費者部長と担当の乾電池事業部長が顔を出した。以下はそのときのやりとりである。
東芝 今日はおわびと報告に来た。早く連盟にお目にかかるべきだったが、なかなかすぐに会社全体がそういう雰囲気にはならなかったので遅れて申し訳ない。 
 ゴキトールにしても、確かに捕れるという実験もしている。皆さんの予測されたほど効果が上がらなかったのだ、ということもわかった。
━━こちらではいろんな条件の違うところで実験したが、ダメだった。かりに入っても大きいのは逃げ出す。そういうものを「欠陥商品じゃない」と言い張っているのがいけない。これはどう考えてもゴキブリ「取り」とは言えない。
東芝 誘引剤(エサ)と一緒に発売していればよかったかも知れない。私どもの実験では、入ると言う人があるのだ。2匹入るとしばらく途絶える。1週間ほど経つとまた入る。事前の実験で、ゴキブリが入ったことを嬉しがって宣伝したことについてはシャッポを脱ぐ。 
━━商品のことだから、当初の見込みと違って、思わぬ欠陥がでることもあるかも知れない。しかし、ゴキトールの場合は、欠陥であることが分かってから後の処置が全然なっていないのを問題にしているのだ。大会社らしからぬやり口ではないか。 
東芝 会社のメンツということではなく、9月末の謝罪広告という珍しい処置をとったことだし、これからは今までと違って、本当に消費者サイドに立ったマーケティングに徹していきたい。 
━━企業はウソをつくべきではない。非常なイメージダウンになる。 
東芝 きれいごとに片づけようとする意識は、確かにあったかも知れない。消費者の声は非常に素朴かつ根深い。だから決して軽く扱ってはならないことを知った。姿勢を正し、行動に表さなければダメだと思う。
━━あっさりと、悪かったと言えばよいのだ。それをなぜこだわるのか。 
東芝 消費者連盟が総会屋的な動きでないことがハッキリしたのなら、謝るべきだという姿勢になるまで時間がかかった。
━━それほど社内で大問題になったというのに、これまでに来たのは、一番初めに担当課長だけだ。それも、なかば抗議の通告のようなもので、絶対に欠陥でないと言い張った。 
東芝 申し訳なかった。
*                   *                    *
 東芝商事が大揺れに揺れた末、消費者部を新設、機構改革をやったのも、この事件が原因であるらしい。消費者を見くびって小手先細工を使い、メンツにこだわったことがとんでもない大事件にまで発展したあげく、イメージダウンになったのである。 しかし、考えようによっては、東芝がこの高い授業料を払ったおかげで名実ともに「消費者志向」の企業姿勢に徹することができるなら、企業にとっても幸いなことになるだろう。 それにしても私たちを”総会屋”と見立てて「相手にするかしないか」と1年近くも小田原評定をしていたとは、図太い企業の弱点をよく暴露しているではないか。 (『消費者運動宣言』から)
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<今までになかった告発型の消費者運動> 上の文章は1969(昭和44)年に発足した「日本消費者連盟準備委員会」が行った告発型の消費者運動の1つの成果を『消費者運動宣言』から抜き出して引用したもの。 竹内直一などが始めた運動は新しい消費者運動であったし、その運動によって企業の消費者に対する姿勢は大きく変わり、「お客様は神様」は企業の経営姿勢の基本とするようになった。 実際はどのようなことをやっていたのか、『消費者運動宣言』からもう少し引用することにしよう。
告発の方法──トップ企業をねらえ 私たちはこれまで実に多くの企業の不正を摘発してきた。その件数は1千件余にのぼる。これらの成果は『消費者リポート』(旬刊・月刊とも)に逐一くわしく報告されている。 また、連盟、連盟編著の形で出版された『不良商品一覧表』『不良商品を斬る』『消費者手帖』『消費者パワー』(いずれも三一書房刊)などの単行本にもまとめられている。本書の巻末の”年表”によっても概略を知ることができる。
 私たちの活動が”告発型”だと称されるゆえんは私たちのやり方が、これまでの消費者運動のパターンと違うからである。私たちは「トップをねらえ」を合言葉にしている。 トップ企業といえば消費者の絶大な信頼感を得ているし、業界をリードする象徴的存在である。私たちはこのトップ企業がいい加減なことをやっている点を暴露し、「トップは無条件に信用できる」という神話をくずすために、またトップの姿勢を正せることによって、業界全体をまっとうな道に引き戻すために、告発活動を続けてきた。 私たちの警告、制裁にトップ企業が耳をかさないときは、決定的な打撃を受けることを身をもって知るまでは、追求の手をゆるめなかった。そして、かなりの成果をあげることができた。
 私たちの告発の方法を紹介しよう。消費者から苦情の申し出がある。あるいは独自の調査によってある企業の不正を発券する。この事実を示して「どう処理するか」という質問文書を必ず企業の責任者──代表取締役に送る。 私たちはこれを戦国時代のならわしにあやかって「矢文」(やぶみ)と呼んでいる。担当者とは直接交渉しない。これはいかに小さなトラブルであろうとも、消費者に対しては、企業経営のトップが全責任を負うべきだ、との考えに基づく。 また、担当者のもみ消しを封じるためでもある。この矢文はすべて手書きのコピー紙製の粗末きわまるものだが、年間数百通に達する。
 企業に矢文が届くと直ちに反応が現れる。普通の案件である場合は文書で回答が来る。重大なものあるいは火急を要するものは、社長、担当重役、幹部社員が事務局を訪れる。逐一処理経緯を電話、来訪などによって報告してくる。 もし、企業の処理に納得いかないことがあつ場合は、何回でも矢文を出し責任を追及する。
 なぜこのように企業が積極的に動くのか。彼らが私たちを恐れるのは、私たちはただ企業にもの申し、相対の話し合いをしているだけでないことを承知しているからだ。私たちは、企業に直接問題をぶっけるだけでなく、監督官庁、警察、検察当局、国会などに遠慮なくこれを持ち込み、 同時に新聞発表をし、私たちの機関紙『消費者リポート』にあからさまにするからである。自社の製品の欠陥や不当表示が新聞、テレビに報道されれば、たちまち売上げにひびくことを十分知っているからである。 現に私たちが告発すると「どうか新聞にだけは発表しねいでくれ」「もう発表したのなら取り下げるよう新聞社に言ってくれないか」など泣き声をはり上げてくる企業もいる。あるいは『消費者リポート』に掲載しないよう「ご配慮お願します」と真剣に頼んでくる企業もある。 (T注 この頃から大企業では「消費者を裏切ってヤバイことすると結局は損するよ」と分かっていたようだ)
 それほど社会的に知名度の高くない地方の中小企業でもほとんどが生真面目に回答してくるし、徹底的な調査もする。ある場合には中小企業のほうが真剣でさえある。
 こうした私たちのやり方は、もしかじ取りを誤ったら大変なことになる両刃の剣である。現に企業側では私たちの告発活動をきわめて反社会的で危険なものとみて、盛んにアジっている一派もいるのだ。 そのような企業の術策に陥らないよう、最大の神経を使わなければならないことは言うまでもない。スキあらばと、私たちの一挙手一投足を見守る企業陣営を前に、やり直しの許されない真剣勝負の繰り返しを覚悟しなければならない。
 私たちはただの一度でも切り返されたら、それでおしまいである。絶対不敗の戦いを挑まなければならない宿命を負い、文字通り日々、白刃の下をかいくぐる心境の連続である。 (『消費者運動宣言』から)
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<消費者運動に対する認識の、当時と現代の違い> 新しいシリーズ<「お客様は神様」を認めさせた消費者運動>を始めることにした。TANAKAがこのホームページで書いているように、「お客様は神様」であり、「消費者を裏切ってヤバイことすると結局は損するよ」はかなり企業も意識してきていると思う。 しかし、これの見方が定着するのはそれほど古いことではない。そして、それを企業が認めるようになったのには、告発型の消費者運動=「日本消費者連盟」があったことを忘れてはいけない、と思う。
 ところで、当時の消費者運動、消費者保護に対する認識はどうであったのか、参考になりそうな文章があったので、ここに引用することにしよう。
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中谷哲也委員 「そうすると、消費者は王様だという言葉がありますね。いま1つは消費者は裸の王様だという言葉もあるが、大臣はそういうふうな言葉について、一体どういうふうにお考えになるでしょうか。 この点について1つお答えを頂きたいと思います」
椎名通産大臣 「消費者は王様であるなんていう言葉は、寡聞にして、まだ聞いたことがない。初めてあなたから承ったようなわけでございまして、従って、どう考えるかというようなことも何も考えはございません」
中谷哲也委員 「大臣、本当に消費者は王様という言葉をお聞きになったことはないのですか。そうすると、消費者主権という言葉はご存じでしょうか」
椎名通産大臣 「それも聞いたことがございません」
 消費者行政について責任の一端を負っている通産大臣と社会党議員のやり取り──衆議院商工委員会、昭和43年4月26日の議事録からの抜粋である。 おとぼけと皮肉で鳴らした椎名悦三郎氏のこと、「消費者は王様なり」は言葉の上だけにのことで、実態はとてもそこまではいってませんよと言いたかったのかも知れないが、今日であったら委員会審議が中断しけねない内容の答弁である。 消費者保護基本法の公布を間近に控えてはいたが、消費者問題に対する行政当局の関心はうすく、消費者運動の盛り上がりもいまひとつといった当時の状況を、象徴的に示す発言と言える。 (『日本の消費者運動』から)
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<主な参考文献・引用文献>
『消費者運動宣言』 1億人が告発人に       竹内直一 現代評論社     1972.11.30  
『日本の消費者運動』          日本放送出版協会編 日本放送出版協会  1980. 5.20 
( 2006年4月3日 TANAKA1942b )
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戦後の消費者運動を振り返る
主流は主婦の値上げ反対運動だった
<現代資本主義==消費者を裏切ってヤバイことすると結局は損する社会> TANAKAがこのホームページで何度も主張しているのは「現代資本主義社会は、消費者を裏切ってヤバイことすると結局は損する社会」ということだ。 その例として、<企業・市場・法・そして消費者>▲ で雪印食品、日本食品、日本ハムなどがいかに食肉偽装で消費者を裏切ったおかげて莫大な損失を被ったか、を書いた。
 市場経済ではコントロール・センターが一国の経済をコントロールするわけではない。経済が成長せず、物価水準が低下するデフレになると「日銀は何をしているのか?デフレから脱却する対策を採るべきだ」と経済のコントロールセンターとしての中央銀行に期待するエコノミストもいる。 たしかに「市場の動きに任せておくと、市場の失敗が起きる」とか「日銀がマネーサプライをコントロールできないと言うのは、中央銀行としての責任放棄だ」と強力な管制塔(たとえば「平成の鬼平」)の出現を期待する論者もいるようだ。 結局、社会主義経済は破綻したが「社会主義の理念は正しいが、それを実行しようとした指導者がミスを犯した」と、社会主義経済に対する夢を捨てきれない「隠れコミュニスト」が多くいるということだ。
 ところで、そうした「隠れコミュニスト」は「大企業の横暴」を警告する。たしかに大企業は社会に大きな影響力を持っているし、消費者を軽んじる行動もとってきた。それが徐々に変わってきて、現代では「お客様は神様」「消費者は王様」「消費者を裏切ってヤバイことすると結局は損する社会」 になってきている。企業経営者の意識が変わってきた。そして、そのきっかけを作ったのが「告発型の消費者運動」=「日本消費者連盟創立委員会」であったとTANAKAは主張する。このシリーズはそうした竹内直一を中心とする消費者運動を検証することにする。では、その時代、消費者運動はどうであったのか? 企業の消費者に対する態度はどのようなものであったのか?それに対する消費者運動はどのようであったのか?そして日本経済はどのような状況であったのか?そうした点から時代を振り返ってみることにしよう。
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<戦後のインフレ経済> 昭和20年、戦争が終わった日本の経済は、混乱そのものだった。生産工場では、軍需産業のために用意されていた材料を使って鍋・釜などを生産したが、それも半年で材料を使い果たす有様だった。一方、戦争のために国債が多く発行され、貨幣流通量が経済取引が必要とする以上の量になったために、インフレが起こり、国民生活は苦しくなった。 外地からは引揚者が続々日本列島に戻ってくる。食料生産が間に合わない。上野駅では到着する列車で、地方から主食であるサツマイモをリュックにいっぱい詰めた乗客が降りてくる。コメの売買は統制されていたので、警察はそうした乗客がやみ米を持ち込んでいないか目を光らしていた。コメは配給制なので人々は外食券食堂で、配給になった食券を使って外食を楽しんだ(?)。 TANAKAは一度だけ山手線のガード下にあった外食券食堂へ行ったのだけど、何を食べたかは子どもの頃にことで覚えていない。
 1946(昭和21)年12月27日に閣議で「傾斜生産方式」が決定され、翌1947年から実施された。これは石炭・鉄鋼・肥料の生産に限られた資材と資金を投入するという政策。金利は低く抑えられ、インフレ率よりも預入金利が低い、という異常な状況だった。 さらに1946年2月に新円切り替えが行われた。これは 第二次大戦直後のインフレ進行を阻止するために、政府は昭和21年(1946年)2月、金融緊急措置令および日本銀行券預入令を公布し、5円以上の日本銀行券を預金、あるいは貯金、金銭信託として強制的に金融機関に預入させ、「既存の預金とともに封鎖のうえ、生活費や事業費などに限って新銀行券による払出しを認める」という非常措置を実施しました。これが、いわゆる「新円切り替え」と呼ばれているものです。 (日銀ホームページから)
 つまりこういうことだ「今の紙幣は使えなくなります。銀行へ預金しなさい。引き出すときには新しい紙幣を渡します。ただし、生活費の引き出しは世帯主月額300円、のちに100円、世帯員ひとり月額100円以内が限度で、それ以上は引き出すことはできません」つまり「1月を1人100円で生活しなさい」ということだった。「たけのこ生活」という言葉はその頃生まれた。
<不良マッチ退治から始まった「おしゃもじ主婦連」> 敗戦で混乱した日本経済はありとあらゆる面で、物不足が激しかった。コメは当然配給で、魚の配給もあったし、マッチさえ配給であった。そのマッチ、不良品が多く、不満続出であった。 その不満を訴えようと、1948(昭和23)年9月に「不良マッチ退治主婦大会」が開催された。これがきっかけとなって、10月に「主婦連合会(主婦連)」が結成され、各地で主婦の海を開催し、物価値下げ運動を呼びかけ、12月には「物価値下げ運動全国主婦総決起大会」を開催した。初代会長奥むめおは参議院選挙に当選した。
 その後の主婦連は、「値上げ反対運動」「不良品追放運動」を実施していく。「女性が中心で、物価を問題にする」という点で、戦後消費者運動の1つの典型になった。
<大阪主婦の「米よこせ風呂敷デモ」> 戦後の物不足の昭和20年10月、大阪で「米よこせ風呂敷デモ」が行われた。これは、遅配・欠配の続く主食の配給に業を煮やした比嘉正子などが中心になって大阪・鴻の池の主婦たち15人が風呂敷を持って布施(現東大阪市)の米穀配給公団支所に対して抗議した事件。 これがきっかけとなって、昭和20年10月9日、「大阪府中河内郡盾津村鴻池新田主婦の会」(通称「主婦の会」)ができ、さらに「大阪主婦の会」、 「関西主婦連合会」が結成されることになる。
 「主婦の会」は、主婦の店をつくり、これが消費共同組合主婦の店に変わっていく。こうした主婦の運動はGHQも評価していて、敗戦直後の関西における物価引き下げ運動に大きな影響を与えた。
<生産性本部主導の「(財)日本消費者協会」> 1961(昭和36)年7月、銀座東急ホテルで「(財)日本消費者協会」の設立発起人会が開催され、9月に「(財)日本消費者協会」が設立された。 発起人代表は、郷司浩平(生産性本部専務理事)、吉田英雄(東京商工会議所商業部会長)、滝田実(全労会議議長)、山高しげり(全地婦連会長)、奥むめお(主婦連会長)、氏家寿子(日本家政学会副会長)の6氏。 そして、初代会長は、生産性本部会長の足立正、理事長は野田信夫、専務理事には山崎進が就任した。
 設立に当たって日本消費者協会は、次のような「消費者宣言」を発表した。
消 費 者 宣 言
 経済活動は究極において消費生活の発展と、それによる人間能力の向上とを目的とする。したがって経済の基盤は、生産の終局の担い手である消費者の意志に支えられなければならない。 しかもいまわれわれは、新しい技術革新によって豊富な社会を迎えようとしている。この豊富な社会も良い品質と適切な機能を備えた商品やサービスが妥当な価格と正しい量目とで提供された時にはじめて理想的な姿において実現する。 それには経済の主権者としての消費者の発言と、構成な競争とが確保されなければならないことは言うまでもない。
 ところが、主権者であるべきわれわれ消費者は、生産者や労働者にの団結力に比べれば、いまなお甚だしく微力であり、したがって未組織であり、ときには消費生活が不健全化し、その声はともすれば社会の底辺にかき消されがちである。 日本消費者協会はこの弱い消費者の声を代弁し、同時に消費者が主権者としての資格と権威とを確保するために全力を尽くすものである。
 われわれは、ここに新しい力を呼び起こし、今後の運動の方向をつぎのように定め、消費者運動に邁進することを宣言する。
1、われわれは、正しい商品選択のための情報を消費者に提供するとともに、商品に対する苦情の処理に当たる。
2、われわれは、消費者の声を結集して生産者および販売者に伝え、消費者と生産者との間の疎隔を改め、わが国における消費生活の健全化をはかる。
3、われわれは、政府および地方行政機関に対し適切な焼死者行政の確立を要求する。
4、われわれは、消費者のための、消費者の声による消費社会の確立を期し、消費者主権の確立に邁進する。
5、われわれは、海外諸国の消費者団体との連帯を密にし、消費者の国際的団結を強化する。
 日本消費者協会のホームページにはつぎのような説明がある。
 財団法人日本消費者協会は、昭和36年9月に設立された、新しい時代の新しい消費者運動の推進機関です。一人一人の消費者にかわって、中立公正な立場で商品テストを行い、その結果を『月刊消費者』に掲載して、消費者の商品選択に役立たせます。また、消費者のために教育活動を行う一方、日常の苦情相談などを通じ、消費者を代表して生産者や流通業者、行政、業界団体等にその声を伝えます。私たちの活動をご理解のうえご支援ご協力をお願いいたします。
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<戦後の主要な消費者運動関係出来事>
1945(20) 10月・大阪鴻池の主婦「米よこせ風呂敷デモ」。11月・市川房枝などの新日本婦人同盟設立。
1946(21) 1月・鴻池主婦の会「主婦の店」開く。3月・松岡洋子委員長の婦人民主クラブ発足。5月・食料メーデー。
1947(22) 7月・独占禁止法施行、構成取引委員会発足。8月・皇居前で食糧確保国民大会。
1948(23) 7月・消費生活協同組合法公布。9月・不良マッチ退治主婦大会。「暮らしの手帖」創刊。10月・主婦連合会結成。
1949(24) 11月・主婦連が新橋駅前で「不良品追放デー」実施。12月・蛭つま会長の関西主婦連合会結成。
1950(25) 7月・日本労働総評議会結成。
1951(26) 3月・賀川豊彦会長の日本生活協同組合連合結成。
1952(27) 5月・血のメーデー。7月・山高しげり会長の全国地域婦人団体連絡協議会結成。
1953(28) 4月・平塚らいてふ会長の日本婦人団体連合会結成。9月・米価値上げ反対消費者大会。
1954(29) 8月・原水爆禁止署名運動全国協議会(原水禁)結成。
1955(30) 6月・第1回日本母親大会開催。9月・原水爆禁止日本協議会(原水協)結成。
1956(31) 12月・日生協、主婦連、婦人民主クラブ、総評、新産別などで全国消費者団体連絡会(全国消団連)結成。
1957(32) 2月・第1回全国消費者大会「消費者宣言」採択。7月・主婦連は不当表示ジュース追放運動始める。
1958(33) 1月・大日本製薬はイソミン(サリドマイド)大量販売。
1959(34) 1月・消団連、物価値上げ反対消費者団体連絡会議開催。3月・主婦連、第1回消費者ゼミナール開催。
1960(35) 1月・日本生産性本部「消費者教育室」開設。8月・主婦連「苦情処理の窓口」開設。
1961(36) 9月・日本消費者協会(日消協)発足。11月・主婦連、苦情相談窓口を35ヶ所に設置。
1962(37) 5月・大日本製薬イソミンによるサリドマイド事件発生。9月・サリドマイド系睡眠薬販売禁止。
1963(38) 10月・徳島地裁、森永ヒ素ミルク事件で、森永乳業に無罪判決。
1964(39) 4月・厚生省、合成着色料赤色1号と101号を使用禁止。9月・阿賀野川有機水銀被害者の会結成。
1965(40) 5月・第1回物価メーデー。
1966(41) 8月・主婦連、ユリア樹脂製食器からホルマリン検出等発表。
1967(42) 4月・全国的に牛乳値上げ反対運動起こる。7月・地婦連、千円化粧品と百円化粧品の効果に差はないと発表。
1968(43) 1月・水俣病対策市民会議結成。イタイイタイ病対策会議結成。5月・厚生省、イタイイタイ病を公害病と認定。
1969(44) 4月・日本消費者連盟創立委員会結成。
1970(45) 4月・日本自動車ユーザーユニオン結成。9月・消費者5団体、カラーテレビの買い控え運動開始。
1971(46) 3月・松下電器、公取委のヤミ再販審決成立。11月・自動車ユーザーユニオン幹部恐喝容疑で逮捕。
1972(47) 9月・消費者8団体、公取委に再販制度廃止を要望。11月・公取委、果実飲料表示に無果汁表示を義務づけ。
1973(48) 2月・石油タンパクの禁止を求める連絡会(石禁連)発足。
1974(49) 5月・創立委員会を解消、日本消費者連盟発足。10月・サリドマイド訴訟終結。
1975(50) 4月・厚生省、OPP使用の米国産グレープフルーツの流通・販売禁止。
1976(51) 6月・訪問販売等に関する法律(訪販法)公布。
1977(52) 6月・独禁法改正。10月・カネミ油症訴訟全面勝訴(福岡地裁)。
1978(53) 3月・スモン訴訟、金沢地裁で制約会社、国の賠償責任を求める判決。
1979(54) 9月・米スリーマイル島で原発事故発生。10月・金の先物取引で被害続出。
1980(55) 10月・東京都環境アセスメント条例成立。
1981(56) 4月・セールスマン登録制度発足。
1982(57) 5月・全国サラ金被害者連絡協議会結成。
1983(58) 5月・東北地方中心に新型ねずみ講発生。
1984(59) 5月・割賦販売法改正。
1985(60) 7月・全国豊田商事被害対策弁護団連絡会議結成。
1986(61) 3月・海外先物取引会社の破産相次ぐ。4月・ソ連でチェルノブイリ原発事故。
1987(62) 1月・農水省、特別栽培米制度導入。5月・全国霊感商法対策弁護士連合結成。
1988(63) 12月・一般消費税成立。
(『戦後消費者運動史』から)
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<主な参考文献・引用文献>
『戦後消費者運動史』          国民生活センター編 大蔵省印刷局    1997. 3.30 
( 2006年4月10日 TANAKA1942b )
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日本消費者連盟の誕生
竹内直一の経歴と運動に対する考え方  
<日本消費者連盟と竹内直一> このシリーズでは、「消費者は王様」を認めさせた消費者運動、として竹内直一の始めた「日本消費者連盟」を取り上げている。 その消費者連盟を始めた竹内直一とはどのような人だったのか、まず日本放送出版協会編『日本の消費者運動』の文章を紹介しよう。
 「ただ単に『かしこい消費者』であるというばかりでなく、さらに進んで、不当なことには何ごとにも物言いのつけられる『きびしい消費消費者』へと成長しなければなりません。」
 日本消費者連盟の機関紙「消費者リポート第1号」からの抜き書きである。
 日本消費者連盟(日消連)は昭和44年4月、東京目黒区のめぐみ幼稚園の2階に事務局を構えて、創立委員会という形で産声をあげた。それは企業の行動を監視し、その悪徳を追求、摘発する、いわゆる告発型の消費者運動の誕生を告げるものであった。
 ”告発”の時代が生まれるには、それなりの背景がある。日本消費者連盟創立委員会の発足の前年、43年には「消費者保護基本法」が制定されたが、そのころ町には危険な商品、欠陥商品があふれ、消費者の間に生命の安全に対する不安が頭をもたげていた。 主婦連による危険なヘア・スプレーの摘発(40年)、同じく主婦連の検査でユリア樹脂から人体に有害なホルマリンが検出された(41年)。さらには公正取引委員会によるポッカレモンの不当表示の摘発(42年)、カネミ油症事件(43年)が起こり、この間、サリドマイド訴訟(40年)、 イタイイタイ病訴訟(43年)も提起された。大量生産、大量消費で見せかけの繁栄に浮かれた高度経済成長のとがめが、広い範囲にわたって表面化し始めていたのだ。
 設立発起人の1人であり、いまなお代表委員として日商連を背負って立つ竹内直一に聞いてみよう。
 「消費者は王様なりと言うのは嘘っぱちで、実際は企業の横暴につねに泣き寝入りだ。起票には消費者のことなど頭にない。政府は企業べったり、官僚もまた縄張り争いと思い上がりで全く頼りにならない。 集会を開いて決議したり、チラシを配ったり、デモ、陳情、署名運動といった、それまでの形の消費者運動ではまるっきりパンチが効かないことを、痛切に感じていた。 それが私自身に消費者のために何かやってやろうという気持ちを起こさせ、消費者連盟を生む原動力になったのだ」
 竹内直一(大正7年生まれ)、消費者運動に身を投じる前は、農林省のエリート官僚の1人であった。しかし、竹内本人の表現を借りれば、「素人臭い」いくつかの行動が彼をエリートの座から追いやることになる。 彼が農林省から経済企画庁に出向して、発足したばかりの国民生活局の参事官として物価、消費者行政を担当していたとき、牛乳を安く飲もうという消費者の運動を経済企画庁が支持して、牛乳を値切って買うことを呼びかけた。 呼びかけから、時には消費者への作戦指導にまで進む。それは牛乳の小売価格引き上げを図ろうとしていた農林省や乳業メーカーの神経を逆なでするものであった。43年6月、追われるようにして官僚生活に終止符を打つ。
 大会で気勢をあげ、決議文を配って歩くそれまでの消費者運動の限界を、国民生活局時代の消費者団体との接触を通じて肌で知った。 組織が大きくなると、メンバー相互が仲間に寄りかかるようになり、また、組織を守ることにエネルギーを多く費やして、本来の活動については小回りがきかなくなる。 自分たちが身近に考えている消費者の問題について、誰にももたれかからずに自分たちのやり方で取り組んでみよう。消費者を食いものにしている政治家や官僚、それに企業の行動を改めさせよう、効果のあるパンチを放つためには、表面的な活動ではいけない。 ゲリラ活動が必要だ──こうして生まれたのが日本消費者連盟であった。
 炭鉱労働者から生協運動に飛び込んだ岩田友和(現在内外消費者問題研究所代表)が、創立委員として竹内と腕を組んだ。岩田はバプテスト教団の役員をしており、その関係で協会付属の幼稚園の2階を、月5,000円の家賃で借りることができた。
 日消連を支える3原則は、政治的中立、財政的自主独立、個人加入であり、男性参加者が多いという点にも既存の消費者団体との違いがあった。 政治的には特定政党との結びつきをはいしながら、委員会審議等を通じて問題をしばしば国会に持ち込んでいる。国会議員をうまく利用することについては、竹内の役人時代の経験が物をいっている。 (『日本の消費者運動』から)
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<厚生官僚の犯罪と竹内直一の官僚告発運動> ここでは『官僚帝国を撃つ』から、日本消費者連盟副運営委員長の久慈力の文章を引用することにしよう。
 竹内直一は、日本消費者連盟の代表としてのはなばなしい活躍で知られている。その数奇にみちた人生は、本書の序論で展開されているが、まず、彼の略歴を簡単に紹介しておこう。
 竹内が京都に生まれたのは、1918(大正7)年、ロシア革命の翌年で、大正デモクラシーはなやかなりし時代であった。と同時に、この年、米価が暴騰し、善行各地で米騒動が起きた、混乱の時代でもあった。
 京都一中、第三高等学校、東京帝国大学法学部と、超エリートコースを歩み、同大学を卒業したのが、1941(昭和16)年、第二次世界大戦の真っ只中であった。彼の青春時代は、戦争の軍靴の足音と共に過ごさざるを得なかった。 と同時に、国の内外の民衆が、権力と軍国主義の抑圧のもとで、いかに呻吟・苦闘してきたかをつぶさに見ることができた。
 灯台卒業の翌年1月、農林省に入省、食糧管理局、食品局、統計調査部などに勤務、続いて経済企画庁では、物価・消費者行政を担当した。まさに、食品行政、消費者行政の第一線の担い手であった。 農林省では、大臣官房、大臣秘書官など農林行政トップの下で、官僚や政治家の悪業の数々を注視してきた。
 このようなエリートコースを歩みながら、官僚帝国の安逸に染まることはなかった。1968年、牛乳一斉値上げ反対運動を先導したとして乳業各社の要求で退職を余儀なくされた。これをきっかけに、彼は、人生をまさに百八十度転換することになる。
 翌69年4月には、日本消費者連盟創立委員会を結成し、代表委員に就任、次々に大企業の不正を摘発し、消費者運動の旗手として活躍することになる。 60年代から70年代前半は、日本経済が高度成長を果たしたが、その一方で、食品禍、薬品禍、公害事件が頻発した。1970年は「安保の年」であるとともに「公害元年」と呼ばれた。
 1974年5月には、日本消費者連盟が発足し、代表委員に選出され、食品添加物追放、合成洗剤追放、企業犯罪告発、行政犯罪告発などの運動の戦闘に立った。 消費者運動でも農林省時代の体験、法制度の知識を十二分に生かしたことが、大きな成果を生み出すことにつながった。 (『官僚帝国を撃つ』から)
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<怒れ! 消費者──体験的消費者運動論> エリート官僚から消費者運動に転換した竹内直一、その考え方を著書から引用することにしよう。
生産は何のためにある? 敗戦の荒廃と窮乏は日本国民の生活観に大きな転換を要求した。あらゆる生活資材が動員され活用された。 いかに”物”がわれわれの生活に大切なものであるかを痛いほど知らしめた。「日本の復興は産業から」が合言葉となり、国民のエネルギーのすべてはこの1点に集中された。 その甲斐あって、いまや世界きっての”経済大国”の地位をほしいままにし、国民は”豊かな消費水準”を謳歌するにいたった。
 ところで、ここでいわゆる”豊かな消費”とは、一定の計算方式によって表される量による評価である。かつては”3種の神器”と名づけられたテレビや電気洗濯機などの耐久消費財も、いまでは粗大ゴミの代表になった。 また、有産階級のステイタス・シンボルといわれた自動車も、いまは文字どおり”下駄代わり”に使われるようになった。たしかに現代の日本は、欲しい物はなんでもたやすく手に入る社会になった。 しかし、一見はなやかに見える私たちの消費の中身に立ち入って見るならば、つまり消費の質という側面から私たちの生活を見るならば、あまりにも問題が多きことに気づかざるを得ないのである。
 洪水のように市場に氾濫する商品の中には、私たちの生命さえ脅かす危険な商品、善良な消費者を欺まんするウソつき商品、企業によってその価格と耐用年数が自由に操作される商品等々が横行かっ歩しているのである。 その実態に一端は本書によって明るみに出されているが、私たち消費者が「まさか」と思うようなビッグビジネス、有名ブランド商品ですらその例外ではないのである。私たちは企業経営というものは、”誇り高き紳士の業”と信じ、紳士は偽らずと信じていた。 その聖域にひとたび踏み入れるや、恐るべき欺まんと邪悪と横暴に満ち満ちていることを発見し、がく然としたのである。
 なぜ、このような邪悪、横暴がまかり通ようになったのか。いったいこれが、現代社会の運命(さだめ)、文明社会の必然の代償なのだろうか。否である。
 私たち消費者は、ここで私たちが行っている消費行動が、私たちにとってどのような意味を持っているのか、についてまず考えをめぐらせる必要があろう。言い換えるならば、私たち人間にとって「経済とは何ぞや」ということである。
 私たち人類の祖先が最初に経済行動を営んだのは、生命を維持するための食糧を確保することであった。とれたものを保存して食いのばすという行為が、その第1歩であった。進んでは、農作物をつくり、家畜を飼うという生産活動を営むようになった。 その場合、それはあくまでも「実様なだけ」という範囲に限定されていた。消費するに必要な限度において生産活動が営まれるという自給自足の経済であった。言い換えるならば、生産は消費のために行われた。生産は手段であり、消費が目的であった。
 経済が進歩すると、分業が行われ、交換経済の時代に移っていった。生産と消費の距離は次第に離れていった。さらに、資本主義の高度化につれて、経済化rすどうの目的は利潤追求へとその比重を移していった。そのためには大量生産、大量販売が必要となった。 もっと積極的に」”高圧販売””押し込み販売”戦略を採らざるを得なくなった。”消費は美徳”というキャッチフレーズがもてはやされ、そうした働きかけが、手をかえ品をかえて行われるようになった。 商品のライフサイクルをできるだけ短くし、多様化をねらい、”使い捨て時代”の到来となった。人びとはますます消費欲望をかきたてられ、ガツガツと商品の洪水の間を泳ぎ回って買うようにし向けられていった。
 企業は営利のために生産し、営利のために消費させるという経済関係がここにでき上がってしまったのである。本来、目的であったはずの消費が、いまや営利のための手段となるという、秩序の倒錯が生じたのである。
 このような社会では、産業の発展が目的となり消費はこれに規定され、手段と化してしまう。かつて池田内閣は所得倍増計画のもとに、消費者の分け前を論じる前に、まずパイ──経済の規模──を大きくすることだ、といった名分を打ち出し、高度経済成長政策を強行した。 その結果、わが国は物価高と公害でその”勇名”をとどろかせてしまったが、それも経済が成長するための”代償”だとして当然視された。そして、いまなお国家目標の第1順位にGNPの拡大が置かれている。
 戦時中「欲しがりません、勝つまでは」のスローガンが風びしたが、現在の政策の基調も戦時中の軍事予算優先を、経済成長のための設備投資優先にとって代えただけで、国民大衆の生活は依然として犠牲に供されている。つまるところ「生産は消費のためにある」という経済社会の本来の秩序が逆転し、消費は生産に隷属している。 (『費者運動宣言』から)
消費者の王権奪還を 企業はその販売戦略を有利に展開させるため「消費者は王様である」とたくみに消費者を持ち上げ、財布のひもを緩めさせることに成功した。 消費者はこれに踊らされた。その結果、消費者追求は”裸の王様”いやそれどころか、まるで奴隷のように踏んだり蹴ったりの扱いを受けている。”消費は美徳””いまは使い捨て時代”のキャッチフレーズのもとに、あの手此の手で迫る企業の商法は、消費者こそ金に卵なのであって、カネをしぼり取るための道具にすぎないと考えている証左だ。 消費者はハイエナのごとき企業のあまなき利潤のエジキにされつつある。
 そこで私たちは決意する。生産は消費の手段であり、経済は生活の手段である、という自然の原理を再認識し、その秩序回復を宣言する。 そもそも生産活動の究極の目標が消費にあるとするならば、消費の主体である消費者は、経済の社会においては”王様”でなければならない。 つまり企業は、消費者に奉仕する家臣でなければならないのである。現実には”家臣”であるべき企業が、その野望をむき出しにお人よしでおとなしい王様を追い落として、王権をさん奪しているのだ!
 消費者と企業との関係をこのように位置付けるならば、消費者が王権を奪還することは当然の行為である。言い換えれば、経済の社会においては本来、消費者が主権者なのであるこのを消費者自身が強く自覚して、自らの手によって、その主権を奪還しようとする。 これがほかならぬ消費者運動の哲学である。そこにはイデオロギーもいわゆる政治的意図も介在する余地はない。人間が人間らしく生きるための当然の権利の主張があるだけである。 その意味において、消費者運動とは、人間回復運動、人間保全運動であると言って差しつかえない。コンシューマリズムの名によって呼ばれる思想の意味するところは、まさにここにある。
 一部の経済学者が唱えるように、消費者運動の理念を現代経済社会における対抗力として認識しようとしたり、「売り手と買い手の均衡回復運動」と定義づけるだけでは、その深い社会思想意義を説明することはできないのである。 (『費者運動宣言』から)
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<くさいものにフタ──消費者をごまかす苦情相談> ここでは機関紙である『消費者リポート』に書いた竹内の文章を紹介することにしよう。
 前号では、買い手たる消費者は不審の点があった場合には遠慮会釈なく勇猛果敢にクレームをつけるべきだということを述べましたが、たしかに近頃そういう風潮がわずかずつ盛りあがりつつあることは結構なことです。 あちこちの県庁や市役所などで消費者行政を店開きするのにまず手がけるのが苦情相談と相場がきまっているようですし、業界の団体でも同じような窓口を作りはじめました。 また個々の企業でも”女王蜂”や”王様”のご機嫌を取り結ぶために飛び切り愛想の良い社員を張り付けて大いに”前垂れがけ精神”を発揮するようになってきました。
菓子折持参で最敬礼のメーカー まず会社側のやっている苦情処理のやり方はどうでしょう。会社といっても掃いて捨てるほどあるのですから、もちろん木で鼻をくくったようなサービス精神、 起業家精神ゼロのひどい扱いに腹を立てられた経験者もゴマンとあるでしょう。こんなのは論外で、これこそ声を大にして悪徳業者追放を叫ばなければなりなせん。ところが、まことに心地よく苦情処理をしてくれる企業も数多くあらわれました。 たとえば消費者が買ってきた品物に欠陥があることを発見したとします。少し元気のある書油飛車が、買った店か本社へ電話をして苦情を申し立てます。 早速、会社からは課長代理か主任クラスの肩書きが刷り込まれた名刺を差し出して、玄関口で最敬礼をし、このような事故は会社始まって以来のことでまったく合点がいかぬことをクドクドと説明したあげく、新品とお取り替えさせていただきますと菓子折などといっしょに置いて帰ります。 あとで工場長か支店長かの名入りの手紙が届けられるという寸法です。一旦は柳眉をサカ立てた女王様もこれでヘナヘナとなってしまわれます。そしてこ丁寧にも「○○株式会社ほど良心的なメーカーは珍しい。すべての企業がこの○○社のようになってくれたらどんなにいいことでしょう」と感激のあまり新聞なんかに投書をなさいますのを時おり拝見します。
もみ消しが目当て ここでひとつ「はてな?」と思いかえしてみませんか。この消費者は一体何に感激しているのでしょうか。 それは、大会社など私の苦情なんか聞いてくれっこないわと頭から決め込んで、最悪の場合は「運が悪かったんだ」と泣き寝入りの覚悟を決めていたところへ、一流メーカーの役付の社員がわざわざ新品と名刺代わりのお菓子まで持参に及んだのですから、ポーッとされたものと推察いたします。 たしかにその消費者にとってはまさに禍を転じて福となったのですからご同慶のいたりです。しかし会社の方はホントに申し訳なかったと思ってそのような手の込んだことをしているのでしょうか。 「ノー」だと思いますね。 もしその苦情が世間に広がってしまったら、場合によっては会社にとってはそれこそ”御家断絶”ほどの重大事態になりかねません。 それが怖いから菓子折片手にすっ飛んで来るんだと推理するのはあまりにヤブにらみだとおっしゃいますか?それなら最近大きな話題になった自動車や電気製品の”欠陥商品”の回収のやり方はどうでしょう。 消費者にはできるだけ知られないようにと最大限の神経を使っていたえあけですが、とうとう隠しきれずに新聞広告で大っぴらに白状することになりました。恐らく会社にとっては大変な損害になるでしょう。 実はこれが怖いからお人のいい”女王様”や”王様”をもみ手でコロリとまいらせようとするわけです。
 次ぎに役所の苦情相談はどうでしょう。特に商品に対する苦情は、せいぜいのところメーカーに取り次ぎするのだ関の山です。とすると本質的には会社が直接受ける苦情処理と少しも変わりません。
 「役所だからもっとシャキッとしたことができないか」と考えられるでしょうか。ご存じのとおり」役所と業界とは内輪の関係にあることを考えれば、かりに役所の窓口の係官がいくら正義心に燃えてハッスルしてもとうてい及ぶものではありません。
 苦情処理ということは消費者保護のためには大切なことなのですが、それがいわゆる「クサイものにフタ」をするために利用され、逆に”企業保護”の隠れ蓑に使われるとしたら、これほど人を馬鹿にした話はありません。 (『草の根運動10年』消費者リポート8号 から)
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<主な参考文献・引用文献>
『日本の消費者運動』          日本放送出版協会編 日本放送出版協会  1980. 5.20
『官僚帝国を撃つ』                竹内直一 三一書房      1997. 4.30
『消費者運動宣言』 1億人が告発人に       竹内直一 現代評論社     1972.11.30
『草の根運動10年』 消費者リポート      編集・発行 日本消費者連盟   1979.12. 1
( 2006年4月17日 TANAKA1942b )
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最初に取り組んだのは、コーラの有毒性
以後大企業への「矢文」が追求する
 竹内直一が始めた日本消費者連盟創立委員会が行ったのは、集会、デモ、署名といった従来の市民運動とは違っていた。 問題を発見すると企業に手紙を出す。企業のトップに「御社の製品は次のような理由で欠陥商品と思われる。回答を頂きたい」「御社の営業の仕方は消費者保護の立場から認められない」というような内容で、これを「矢文」と呼んでいた。 こうした内容で矢文を出し、解決できない場合には国会での審議に持ち込むこともしばしばあった。こうした連盟の活動、具体的にどのような問題を扱っていたのか、幾つか例を挙げてみよう。
<衆議院特別委員会で、コーラの有毒性について論議> 日本消費者連盟が最初に取り組んだのは、コーラ飲料の有毒性の問題であった。衆議院の物価問題等に関する特別委員会では、昭和44年5月から数回にわたってコーラ飲料の問題が取り上げられ、カフェイン、リン酸を含んだコーラ飲料がジン他に与える影響にたういて、 社会党の武部文らが厚生省に迫ったが、そのきびしい追求の背後には、日消連と国会議員の緊密な連携プレーがあった。問題の解明が進まない9月1日、日消連は日本コカコーラ株式会社を外資法違反の事実があるとして告発した。 外資法では必要とされている農林大臣の認可を受けずにコカ・コーラの商標権を使用し製造販売していたというのである。 世界的大企業の法律違反と、これを微罪として始末書を取っただけの監督官庁の責任を追及するとともに、これをきっかけに日本コカ・コーラ社の経理内容と業務の実態を解明し、有害な添加物を摘発、規制させようという狙いを含んでいた。告発第1号である。
 日本消費者連盟が創立委員会としてスタートを切ってから昭和45年3月まで、1年間のおもな活動の中には、前記コーラ飲料をはじめ乳酸菌飲料の不当表示など、告発深刻が13件、大正は81社に及んだ。 メーカーに対する警告や質問は洗剤、酢など113件、計126件を取り上げ、半数近い58件を解決している。 国会にもち込んでの追求はこの間延べ30回に及んだ。 (『日本の消費者運動』から)
<大企業告発第1号として大きな反響> 創立委員会の発足とともに、企業の違法行為の摘発活動に取り組んだ。最初の取組は、コーラ飲料の有害性の問題である。 これは、1969年5月、衆議院物価問題等に関する特別委員会(物特委・帆足計委員長)で、社会党の武部文委員が厚生省の環境衛生局長に対し、コーラ飲料の成分の分析結果を公表せよと迫ったのが発端だが、 この時の時の資料等も日消連が丹念に調べあげたものであった。
 物特委では、その後もコーラ飲料に含まれるカフェイン、リン酸等が成長期の子供に与える影響等について厚生省を厳しく追及した。 国会での議論の過程で、厚生省側は、発育期の子供には望ましくないと認めながらも、カフェイン添加は違法ではない、立ち入り検査は困難、などと誠意のない答弁に終始したため、 日消連は、9月17日、日本消費者連盟創立委員会岩田友和名義で、日本コカコーラ株式会社を外資法違反の事実ありとして告発した。
 告発の内容は、同社が外資法に基づく技術援助契約に関する農林大臣の許可を受けずに、コカ・コーラなどの商標権の使用とコーラ飲料等の製造販売を続けたことが外資法違反に当たるというもの。 正解的巨大企業が法律を無視して営業活動を行っていたことだけでなく、監督官庁たる農林省が、この法律違反を」微罪として始末書を受け取っただけで済ませた事実も指摘した。 なお、告発状には@日本コカコーラ社の経理の解明、A食品衛生法との関連で同社の製品の分析調査の2点が希望事項とすて盛り込まれた。 この告発は、その後公訴時効により不起訴になったものの、日消連の大企業告発第1号として大きな反響を呼んだ。 (『戦後消費者運動史』から)
<『消費者リポート』でのコーラ問題の扱い> 日本消費者連盟創立委員会の機関紙『消費者リポート』では、創刊号(1969年6月7日号)から「コカ・コーラ」を取り上げている。 創刊号では「歯をとかす?コーラは果たして無害か」「厚生省 国会質問にもスカッとしない答弁」といった見出しが並び、国会での質疑が取り上げられている。
 第2号(1969.6.17)では「やっぱり子供には害 国会でコーラ論議」「厚生省しぶしぶ認む」との見出しがあり、さらに「コーラのカフェイン コーヒーと同じ量」「コーラの原料は企業の秘密」「コーラには厳しい諸外国」 「企業の政治力に押しつぶされる国民の健康」といった見出しが続く。第4号には「企業秘密が法に優先? コーラ工場、臨検できぬ厚生省」「核心に入った国会論議」「カフェイン 子供の脳に障害」といった大見出しがあり、小見出しとして「コーラの原料はお茶?」 「臨検しり込みする厚生省」「厚生省が珍説 リン酸は必要栄養なり」が続く。その後『消費者リポート』では第8号で「ポツリポツリ非を認める厚生省」、第12号で「連盟創立委がコーラ告発」、第13号で「コーラなどに使用の甘味料チクロは有害」、 第15号で「農相が厚生に要請」、第17号で「外資系コーラ飲料メーカーを独禁法違反で告発」、第19号で「売れゆき落ち目のコーラ」とコーラ批判の内容が続く。
 コーラ問題では企業の違法性が証明出来たわけではないし、企業が被害者に慰謝料を払ったというわけでも、企業のトップが記者会見で「世間を騒がせて申し訳有りません」と謝ったわけでもない。 しかし、その後の企業活動に大きな影響を与えたはずだ。消費者の中には企業の言いなりになる者ばかりではないこと、そして、消費者の気持ちを無視すると、手痛いしっぺ返しを受けることもある、という異を意識し始めたはずだ。 それは「消費者は王様」「お客様は神様」「消費者を裏切ってヤバイことすると結局は損する」ということを意識し始めた、ということでもあった。
 「広告・宣伝に金をかけ、消費者の好みや意識を企業の思う通りに変えられる」と思っていた企業が「そうではなさそうだ。消費者を無視すると、結局は損するようだ」と思い始めた。一部の業界では、消費者を無視して談合を重ねたり、 「永田町の論理」と言って一般人とは違ったモラルで行動したり、あるいは「食の安全性や自給率の問題について、消費者教育が必要だ」とサプライサイドの方が賢いかのように発言する人がいる。 一部では、「お客様は神様」の現代資本主義社会を理解していない人もいるが、竹内直一等の活動によって、日本コカ・コーラ株式会社だけでなく多くの大企業が「消費者を無視してはいけない」と思うようになった。
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<百科辞典ブリタニカを詐欺罪で告発> 理論武装した日本消費者連盟の活動は、その後も休むことを知らない。昭和45年11月には、百科辞典ブリタニカの販売に消費者をだます行為があったとして、 詐欺罪で東京知見に告発、最終的には1700人に及ぶ被害者が名乗りをあげて、総額1億9700万円にのぼる代金の返還を勝ち取った。日消連の会員自らがブリタニカのセールスマンに応募して講習を受け、 身をもって体験するという離れ技もやってのけたが、告発に至るまでには、当のブリタニカの元セールスマンの情報提供が物をいったと言われる。 (『日本の消費者運動』から)
<ブリタニカの内部告発> 1970年7月、『不良商品一覧表』を出版。この本を読んだ英文百科辞典のブリタニカ社のセールスマンが、「あの本を読んで連盟を信用し資料を全部提供するから、 悪徳商法で消費者を収奪しているブ社を告発してほしい」と訴えてきた。日消連では、「証拠固めのために、若い事務局員をブ社のセールスマンに応募させ、 詐欺商法の講習を全部録音したり、前記の内部告発者から詳しい実態を聞き」、1970年11月2日、同社を詐欺容疑で東京地検に告発した。
 これがマスコミで報道されると、次々と被害者が名乗り出、最終的には2,000人からなる「被害者の会」を結成、2年にわたる集団交渉の末、支払った金額プラス10%の損害賠償金約2億円を勝ち取った。 この事件は、72年6月の割賦販売法改正の際、クーリングオフ(冷却期間)という消費者保護制度の導入につながった。 その意味でもこの事件は、消費者運動の歴史に残る大事件であった。 (『戦後消費者運動史』から)
<『消費者リポート』でのブリタニカ社の扱い> 日本消費者連盟創立委員会の機関紙『消費者リポート』では、1970年4月7日の第31号から取り上げ、以後第52,53,54,55,56,57号と連続して取り上げている。
 訪問販売とは、経済学者が好んで使う表現をすれば「情報の非対称性」を利用した、セールスマン優位な販売方式だ。消費者は限られた情報しか与えられていない。セールスマンの言う言葉を一方的に信じるほかない。 セールスマンは自社に不利な情報は消費者に提供しないようにする。消費者が知ったとき、セールスマンは会社に帰ってしまっている。こうしたことを考慮して「クーリングオフ制度」が導入された。消費者保護にとって大きな一歩であった。
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<「消費者を裏切ってヤバイことして、結局は損した」アイフル> 2006年4月15日の新聞報道によると、金融庁は4月14日、消費者金融大手アイフルに対し、悪質な取り立てなど貸金業規制法違反が5店舗あったとして、国内の約1900店(06年3月末現在)全店の業務を5月8日から3〜25日間停止させる行政処分を出した。 消費者金融の大手に対し、全店の業務停止を命じたのは過去に例がない。福田吉孝アイフル社長は記者会見して陳謝するとともに、自らを含む役員の減給処分や社員教育実施、テレビCMなど広告宣伝の2カ月間自粛を発表した。
 消費者金融大手アイフルの好調さの裏には、強引な取り立てなど数々の違法行為があった。高い金利と厳しい取り立てという「サラ金」の印象が強かった消費者金融業界は、動物や女性タレントを使った広告と独自の審査や回収ノウハウとで急拡大してきたが、 銀行業界からの参入や相次ぐ規制強化で曲がり角を迎えている。金融庁の厳しい行政処分をきっかけに、業界全体のイメージが逆戻りするのは避けられそうもない。
 「成果主義が行き過ぎた。反省して撤廃する」
 全店での業務停止という異例の処分を受け、4月14日の記者会見で頭を深く下げアイフルの福田吉孝社長は、違法な取り立てや契約を生んだ原因についてこう話した。
 竹内直一が消費者連盟創立委員会で行ったことによる成果の1つは「消費者は王様」「お客様は神様」「消費者を裏切ってヤバイことすると、結局は損する社会」に変えたことだ。
 企業の不祥事が起こると「成果主義の行き過ぎ」とか「利潤追求の行き過ぎ」との反省の言葉が聞かれる。なるべく頭を下げ、謝って、早く世間で忘れてもらおう。そのためには無難なこと、世間を刺激しないことを言おうとする。 その結果が「利潤追求」とか「業績重視」などの表現になる。しかし、本当は違う。利潤追求なら「消費者は神様」を意識し、「消費者を裏切ったり、ヤバイことしないよう注意すること」が大切なはずだ。 もし、アイフル社長が「成果主義の行き過ぎ」と考えるならば、今後は「成果主義を捨てて、成果を重視せず、業績が悪化する」か「世間への建前はそうでも、実際は成果主義を貫き、再び消費者を裏切りヤバイことすることになる」だろう。
 こうした企業の不祥事を少なくするには「消費者を裏切ってヤバイことすると、結局は損する社会」であることを社員に徹底すること。それと部外者を非常勤でもいいから取締役に入れること。 同じ業界の人間ばかりでは消費者の気持ちの変化に気づかない。日本ハムが食肉偽装事件のあと「企業倫理委員会」をつくり、学者・ジャーナリスト・消費者団体。労組などの企業経営部外者から意見を聞く姿勢をとった。 異端な意見が出ることによって狭い社会での倫理観から広い社会の倫理観に変われる。狭い社会の仲間だけだと、土木・建築業界の談合のように、経済学者業界のように神話にとわられた、「土の匂いのしない者の意見は聞かない」農業界のようになる。
 消費者金融では武富士とアイフルが銀行と提携せず独自路線を進んできた。他の業者は銀行と提携し、消費者金融業界とは違った倫理観の人間が経営に参加している。こうしたところでは 雑種強勢・一代雑種▲ が期待できる。武富士もアイフルも自家不和合性に陥る危険性がある。 今後アイフルが変われるかどうか、「成果主義を捨てて、成果を重視せず、業績が悪化する」か「世間への建前はそうでも、実際は成果主義を貫き、再び消費者を裏切りヤバイことすることになる」との危険性は拭いきれない。
 竹内直一が生きていたら、厳しい矢文を発しただろう。現在、竹内直一のような先頭に立つリーダーはいないが、一般国民が賢くなっている。先頭に立つリーダーがいなくても「消費者を裏切ってヤバイことする企業は許さない」と行動するようになってきている。 「お客様は神様」の現代資本主義社会になりつつある。
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<「クボタ、住民に最高4600万円 石綿救済で合意> 2006年4月18日の新聞報道によると、大手機械メーカー「クボタ」(本社・大阪市)の旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺住民にアスベスト(石綿)による健康被害が広がっている問題で、 同社は17日、周辺住民の患者と遺族に「救済金」として1人最高4,600万円を支払う制度を創設したと発表した。 健康被害との因果関係は認めないながらも、石綿を扱ってきた企業の社会的責任があるとした。患者・遺族団体と合意し、まず88人に計32億1,700万円を支払う。 対象から外れる被害者への対応などを協議するため、同社と患者・遺族らによる「救済金運営協議会」も新設する。
 「企業の社会的責任」という面から評価することも出来るだろうが、もっと単純に「利潤追求」という面からも評価できる。「消費者を裏切ってヤバイことすると結局は損する社会」である日本では、 「クボタ旧神崎工場の周辺住民の被害が表面化してから10カ月足らず。時間がかかる訴訟に至らないうちに、クボタ側が「企業の社会的責任」を認める形で患者側に歩み寄ったことは被害者救済の観点から大きな意味をもつ」 と、新聞で書かれることは、企業のイメージアップに大きく貢献する。それだけのイメージアップ作戦にどの程度の広告宣伝費がかかるか考えれば分かる。それは、そうした企業の社会的責任を全うする姿勢を、国民がキチンと評価社会になっているからだ。それは「豊かな社会」の大きな特徴と言える。竹内直一が目指した「企業は社会的責任をとるべきだ」との倫理基準が浸透して来たと言える。
 アイフルとクボタ、社会的評価が違い、社員のモラルにも大きな影響の違いが生まれる。企業がどのような態度を取るべきか、「機会費用」という概念を使って考えると答えは容易に出てくる。これについては 企業・市場・法・そして消費者(中)偽装表示の損益計算書 を参照のこと。
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<主な参考文献・引用文献>
『日本の消費者運動』          日本放送出版協会編 日本放送出版協会  1980. 5.20
『消費者運動宣言』 1億人が告発人に       竹内直一 現代評論社     1972.11.30
『戦後消費者運動史』          国民生活センター編 大蔵省印刷局    1997. 3.30 
『草の根運動10年』 消費者リポート      編集・発行 日本消費者連盟   1979.12. 1
( 2006年4月24日 TANAKA1942b )
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果汁が入ってなくてもジュース?
消費者も果樹生産者も困ってしまう
 日本消費者連盟創立委の機関紙『消費者リポート』第1号からコーラの有毒性を取り上げていた(第1号の前に創刊準備号が2回出たが『草の根運動10年』には掲載されていない)。その次ぎに取り上げた大きな問題は「ジュース」問題だった。 そしてその取り上げ方は従来の市民運動とは違っていた。一般に市民運動は政府とか大企業とかを批判し、市民に訴え、もし自分たちが間違っていても責任をとらなければならない、という危険性は少ない。 しかし、日本消費者連盟創立委のやり方は、ちょっとした小さな間違えがあっても運動自身が立ち行かなくなる。真剣勝負の運動だった。
 そうした真剣勝負の厳しさについては 告発の方法──トップ企業をねらえ▲ で次のように言っていた。 
 それほど社会的に知名度の高くない地方の中小企業でもほとんどが生真面目に回答してくるし、徹底的な調査もする。ある場合には中小企業のほうが真剣でさえある。
 こうした私たちのやり方は、もしかじ取りを誤ったら大変なことになる両刃の剣である。現に企業側では私たちの告発活動をきわめて反社会的で危険なものとみて、盛んにアジっている一派もいるのだ。 そのような企業の術策に陥らないよう、最大の神経を使わなければならないことは言うまでもない。スキあらばと、私たちの一挙手一投足を見守る企業陣営を前に、やり直しの許されない真剣勝負の繰り返しを覚悟しなければならない。
 私たちはただの一度でも切り返されたら、それでおしまいである。絶対不敗の戦いを挑まなければならない宿命を負い、文字通り日々、白刃の下をかいくぐる心境の連続である。 (『消費者運動宣言』から)
 従来の市民運動になかった運動様式、それは今回取り上げる「ジュース問題」のように公取委に告発する、という方法だ。今週はこのジュース問題について取り上げることにしよう。
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<日本消費者連盟創立委が放つ第二弾──インチキ”生ジュース”>
 1969年9月26日、日本消費者連盟創立委員岩田友和は、公正取引委員会山田精一郎委員長に対し、天然果汁まがい飲料の不当表示について、つぎのような申告書を提出した。
 『左記飲料は、いずれも不当表示及び不当表示防止法第4条に違反するものと思料いたしますので、申告以外の類似ケースをも含め、早急にご調査のうえ、厳重に取り締まられるようお願いいたします。
 なお、昨年来、果実飲料の不当表示問題に関連して、公正競争規約案をご検討中と聞き及びますが消費者の立場からは、100%天然果汁相当以外は「ジュース」の表示をさせるべきでないという主張をしておりますにもかかわらず、果実飲料業界が理由もなく、頑固に反対しているため、いまだに結論が出ないまま放置されています。
 公正取引委員会は、法違反をきびしく取り締まる行政責任を有していられると考えますが、消費者の日々こうむる不利益を早急に排除するため、法規に従い、厳正果断な処置を執られるよう特に要望いたします。
  
明治パンピー・オレンジ(乳酸菌飲料)
明治りんごジュース(果汁飲料)
森永オレンジ(乳酸菌飲料)
雪印ピュア・オレンジ(乳酸菌飲料)
雪印リンゴ果汁(清涼飲料)
雪印ピュア・トマト(乳酸菌飲料)
ミルシャン(果汁入り清涼飲料)
プラッシー(果汁入り清涼飲料)
 不当景品類及び不当表示防止法第4条に違反する事実 (以下略)
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 申告書提出後、岩田委員は記者会見し、つぎのような談話を発表した。
 本日別紙申告書の通り天然果汁であるかのように消費者を誤認させる飲料を不当表示防止法違反として、厳重に取り締まるよう公正取引委員会に申し入れました。
 これらの飲料は、いずれも国内有数のメーカー製品であり、消費者が、これら一流メーカーに寄せている信頼感を逆用して、不当表示商品を売りつけようとすることは、著しく企業モラルに反する行為であると考えますので、申告に踏み切りました。
 一流の乳業、薬品メーカーがこれら不当表示の飲料を、あたかも天然食品であるかのような印象を与えて大々的に販売することにより、特に子供や老人、病人等が栄養飲料と誤認して引用している現状は、国民保険上ゆゆしきことと思いますので、早急にこのような食品を一掃されんことを要望します。
 われわれ消費者は、真に栄養的価値のある飲料が豊富に、しかし安価に供給されるような施策が講ぜられるよう政府当局に強く要望いたします。 (『消費者リポート』13号から)
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ジュースとは天然果汁のことではないのか  今回の申告書の本分のなお書き触れている果汁飲料の公正競争規約のことについて簡単に説明しておこう。
 果実飲料、つまりジュースと名づけられて売られているものは、実は人工甘味料で味つけされた色つき水なんだ。これはウソつき食品であるということで公取委が問題にしているケースだ。 この点について、消費者側は、ジュースと呼ぶことができるのは、100%天然果汁のものだけにせよという強い要求を出している。 ところが業界側では、ジュースという名は戦後20年間使いなれて、一般消費者の間に定着してしまっているから、いまさらこの名をとっぱらえと言うのはそりゃ聞こえませぬ、とういう主張をして譲らない。
 果樹生産農家は、リンゴもミカンもシーズンに生で消化しきれないほど増産したので、これをカン入り天然ジュースにして大いに飲んでもらおうと工場を作り始めたところが、色付き水や添加物入りの粉末がジュースと呼ばれて大々的に売られていて、消費者がホン物と思って飲むのだから、天然ジュースのカゲが薄くなってしまう。 だから生産農家も100%天然ものだけをジュースと呼ぶべきだ、と要求しているのだ。
 このように、消費者も生産者も一致して要求しているスジの通った要求を、業界がなぜこれほど頑固にはねつけるのだろうか。業界の言い分は、果汁を混入した割合をパーセンテージで標示すればそれでいいのではないか、と言うのだが、今のJAS規格で決められている分析方法では天然果汁の混合割合をほんとにハッキリ識別できないのだから、こんな案は実はナンセンスなのだ。 横車を押してくる理由は、大企業が”ジュース”を売っているからだ。ビール会社や大手乳業メーカーが色付き水を○○ジュースと言って打っている。 こういうところは、消費者の意向なんか眼中にない連中だから、「しろうとは黙ってろ」式に押しまくっているわけだ。
 では監督官庁の農林省はどうか、それがおかしいことに、業界案を後押ししている気配がある。農林省だから、果樹農家の味方をするのかと思ったら、さにあらず。消費者の味方になってくれないはよく分かるが、農家の味方にならないで、リンゴやミカンの木を引っこ抜けと内面指導していることは、あきれたお役所ではないか。
 消費者はもっと果物や天然ジュースを摂りたいと思っているし、生産者も、お米つくりの替わりに畜産や果樹農業をやっていこうと望んでいる。そういう希望が実現しない邪魔ものになっているのが、有害飲料やうそつきをやっつけることにどうして役所は尻込みするのだろうか。 業者の高姿勢をどうしてへこまさないのだろうか。どこかが狂っているに違いない。 (『消費者リポート』13号から)
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反省の色見せぬ業界──ウソつきジュース”告発”のその後  前号で紹介した大手乳業、薬品メーカーのインチキ生ジュース”告発”の1件は、意外なほど大きな波紋を描いている。 それは一流大手企業が予想もしなかった点を突かれてショックを受けたということであり、また一般消費者が、まさかと思って信用してきた有名ブランドが軒並み法違反の疑いが濃厚な商品をヌケヌケと販売していることに対する怒りが高まったということである。
 不当表示告発を掲載した『消費者リポート』13号に続いて、14号ではその反響の大きさを書いている。上記リード文に続き、業界側の反論や抵抗するさまが記事になっているので、その様子をまとめてみよう。
”営業妨害”とネジ込むメーカー  まず、業界の反応は鋭敏だった。あるメーカーは、社員をつかって次ぎのような抗議をさせてきた。それは「あの新聞記事が出てからは系列の小売店からつぎつぎに取扱拒否の通告をされて甚だ迷惑している。 ある商品はビタミンを強化した栄養飲料として販売しているので、そのために人工着色料は使わず、ベーターカロチンというタール系でない色素を使っている。 だからJASマークも取り、法律に違反など全然意識していないつもりだ。いったいどこが不当表示なのか」というきつい言い方だった。
 事務局では 「あの中に入れてあるモロモロしたものは、人工的に添加したみかんバルブだが、一般の消費者は、王冠に標示してある「果汁入り清涼飲料」とか、「かんきつ果実飲料果汁10」といった虫ねがねでないと読めないような字を見ないでびんに書いてある標示と中味の姿を見て判断して、これは天然果汁だと信じている。
 消費者ばかりでなく、これを扱っている小売店までがホンものの天延果汁と思って販売していたということも言ってきている。一見して天然果汁と「誤認」させていることが不当表示防止法に違反することになるのだ」 と反論した。
不当表示のホントの意味は  メーカー側ではどうしても不当表示の意味が飲み込めぬらしい。王冠に申し訳的な標示があればそれで免罪だという解釈であるらしい。
 ここで消費者側も不当表示の意味をしっかり頭にたたき込んでおく必要がありそうだ。
 不当表示にはいろいろのかたちのものがある。中味とは違った名前を付けるのはいちばんハッキリした不当表示だが、かりに正しい標示がしてあってもそれが消費者の眼につきにくいかたちであるために、 それ以外の絵や中味の姿で消費者が誤認してしまうというのも不当表示になる場合がある。とにかく普通の消費者が端的にその商品の名称や内容や量目について誤認するようなことになれば、これが不当表示なんだ、ということは消費者の方でもよく認識しておいて厳しい監視の眼を光らせ、 さっきのマーカーのようないい加減な弁解に騙されないことが肝要だ。 (『消費者リポート』14号から)
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<2年かかってもこの調子──こじれたジュースの標示論争>  果汁が少ししか入っていない”人工化学飲料”がジュースとしてまかり通っているという訴えが消費者からあったのが今から2年も前の43年春。 それ以来公取委の警告や指導で、中味にふさわしい表示のルールを決める公正競争規約の案が何度かつくられては議論された。消費者が「ジュースというのはオール天然果汁のホンモノだけにつけるべき名前」と主張すれば、片や業者側は「終戦後20年以上も今のような飲みものをジュースと呼んで不思議に思わなくなっている」と頑張ってにらみ合いのままちっとも話は進まなかった。
 ところが昨年秋、世論の力に押されてとうとう業界は「100%果汁のもの以外は一切ジュースという名前は使いません」と公取委に申し入れてきた。
 以上がこれまでのいきさつのあらましであるが、1970年3月17日、久しぶりにジュースの表示連絡会が開かれた。 問題の発端からまる2年かかってやっと業界と消費者が同じ土俵に乗っかることができたという気の長い話なのである。
表示連絡会開かる 公取委事務局で開かれた表示連絡会は、役所側からは、公取委表示課をはじめ経済企画庁、農林省、厚生省、東京都、神奈川県など、消費者側は、主婦連、地婦連、日本生協連、消費科学連、消費者連盟の常連のほかに公取委のモニターも参加、 業界は果汁協会缶詰協会、清涼飲料工業界、果汁農協連等が出席して討議された。
 この席上、業界がつくってきた「果実飲料等の表示に関する公正競争規約(案)」が示された。
 まず定義。「この規約で果実飲料とは、果汁、果実飲料、ジュース等果実の搾汁を原料とする飲料、商品名中に果実の名称を使用する飲料及び色等によって果実の搾汁を使用すると印象づける飲料をいう」とある。
「ジュース」は果汁100%だけ 次は「必要な標示事項」@果汁含有率を10%から10%きざみで「果汁○○%」と標示、A果汁含有率の標示のないもの(10%未満のもの)は清涼飲料水と標示、 B原料名、食品添加物、事業者名と住所、内容量などの標示をすることが義務づけられる。
 第3に、禁止される不当標示。ここに「天然果汁以外のものにあっては、その商品名又は説明文書等にジュースの名称を使用してはならない」と書かれることになった。
 そのほかは、公正競争規約一般に入れられる事項となっている。
 業界としては”忍びがたきを忍んで”つくった案であるから、もう消費者も文句のつけようはないはず、といった顔つきで説明を行った。
 『消費者リポート』ではこの後、内容検討ということで、質疑応答が記載されているが、それは省いて、このページの終わりの方から引用しよう。
すっきりしない業界案  この日の連絡会ではっきりしたことは、業界が消費者の意向に従ったという触れ込みでつくってきた公正競争規約の内容が、実は”不当表示”の疑いが濃いということである。
 100%天然果汁だけをジュースと名付けるという点では消費者の意見に沿ってはいるが、それ以外の果汁分の少ないものにはやっぱりジュース・ドリンクだのオレンジ・エードだのといった消費者にとっては紛らわしい名称を付けようということであることがハッキリした。 それどころか、果汁分が5%しか入っていないものにまで果汁が入っているような名称を使おうというのだから、業界としては名を捨てて実を取ろうという作戦であるらしい。 業界としては必至の巻き返しを狙っての規約案とみられる。
 われわれ消費者は、ジュース問題でもずいぶん時間とエネルギーを使ってきた。業界も次第に認識してきたようでもあるが、しかしここで気を抜くと中途半端な結末に終わってしまう可能性もある。 せっかくここまでもんできたのであるから、食酢でみせたような粘りを発揮して初志を貫徹したいものだ。最後の胸突き八丁にさしかかってきたようである。
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<ジュース、理想の濃度は20%?それとも10%?> 日本消費者連盟創立委の運動によって業界は「消費者は王様」を意識してきたようであった。しかし、それでも次のような独り合点の広告もあった。企業の内部で「消費者は王様」を意識し始めた部署と昔と同じで意識していない部署があったようだ。
果汁20%で理想の濃度……明治製菓 1971年2月の末、日本食糧新聞という業界紙に明治オレンジドリンク(グレープ、パインもあり)の広告が載った。これはケッサクな内容であった。
 「天然果汁はそのままでは飲料には適しませんが、明治はあらゆる角度から研究して、最も飲みやすい濃度を追求しています」
 「理想の濃度(注20%)に仕上げました」
 「新鮮度……をもぎ立ての時と同じに保つ努力も重ねています」
 誰が見ても明らかに、果汁20%の果汁入清涼飲料が天然果汁よりすぐれているという不当表示だ。天然果汁が飲めないというに至っては、悪質営業妨害になりかねない。
 明治製菓に矢文を出したところ、しばらくしてやってきた。
 
 天然果汁はそのままでは飲料に適さないというのは、のどをうるおす飲みのもとしては嗜好に合わないという意味だ。 天然果汁はあくまで食卓のもので、外出先で水がわりに飲むものではないというつもりだが、仰せの通り非常な誤解を与え、勇み足だから今後は削る。出てしまったものは勘弁してくれ。
 
 果汁20%が理想の濃度というのはちゃんとした根拠がある。当社では毎年シーズン前に、モニターにいろんな濃度のものを飲ませ、その結果を集計して、一番人気のある濃度あお決めるえわけだ。 今年は20%のものがトップだった。しかし、これも固定したものではなく、毎年変わるものだ。去年のトップは45%だった。以上の次第で、この数次は決してでたらめなものではない。
 
 もぎ立ての時と同じに保つというのは、缶詰にするんだから当然だろう。
 まあ大企業らしくもない。品のない広告を出したもんだ。これは完璧に不当表示だから、公取委に告発したことはもちろんである。 公取委さんがどんな処分をなさるか、とくと拝見するとしよう。
果汁10%がいちばん……キリンビール 昨年はキリンジュースの派手な車内広告で男?をあげたキリンビールが、こんどはキリンオレンジエードと名前だけは自粛と相なったが、まだまだ改しゅんの情が見られない広告をやってのけた。
 東京私鉄の電車吊り広告がこれだ。その中身を見ると──。
 「自然な飲みものの自然な色」
 「果汁10%──いちばんおいしい比率です」
 「気になる混ざりものはいっさい入っていません」
 御覧になっていかが思召す?だいぶん”気になる”文句があります。早速会社に質問したところ、次のような返事が戻ってきた。
 
 『自然な飲みもの』というのは化学的合成品を使っていないという意味だ。 『自然な色』というのもベーターカロチンという化学合成品でない着色剤を使っているからだ。
 
 当社では果汁10%の飲みものがいちばんおいしいということは長年の経験から確立していることだ。
 
 「気になる混ざりもの」というのは、防腐剤やタール色素などが入っていないという意味だ。
 メーカーの人たちというのは、どうしてこんなに非常識なんだろう。私たち消費者は「自然な飲みもの」と言ったら、天然果汁に決まっている。「自然な色」と言ったら天然のオレンジの色そのものと信じるに決まっている。 果汁10%との清涼飲料水が”いちばんおいしい”などと誰が思うものですか。明治は20%が理想と言い、キリンは10%が最高。いったいどっちがホントなの?
 あまりに慇懃無礼な返答なので、サイドいちゃもんをつけたら、こんどは「広告表現につき調査・検討を加えたいと考えており、貴見も十分参考にさせて頂きます」と、どちらとも取れそうな答えを返してよこした。ビール業界の”高一点”キリンさんの心意気や壮なるものがある。下界のうじ虫どもなどクソ食らえということなのだろう。 (『消費者リポート』76号から)
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<主な参考文献・引用文献>
『消費者運動宣言』 1億人が告発人に       竹内直一 現代評論社     1972.11.30
『草の根運動10年』 消費者リポート      編集・発行 日本消費者連盟   1979.12. 1
( 2006年5月1日 TANAKA1942b )
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「お客様は神様」の現代資本主義社会
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趣味の経済学 Index  
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