( 2002年9月16日 TANAKA1942b )
( 2002年9月23日 TANAKA1942b )
( 2002年9月30日 TANAKA1942b )
偽装表示の損益計算書
<雪印食品 豪州牛を国産に偽装 狂牛病買い上げ制悪用 詐欺容疑で捜査>雪印乳業の子会社の大手食肉メーカー「雪印食品」(本社・東京都中央区)の関西ミートセンター(兵庫県伊丹市)が昨年10月、オーストラリアからの輸入牛肉約14トンを国産牛肉の箱に詰め替え、業界団体に買い取らせていたことが1月23日、わかった。
<幹部社員の刑事責任追及>雪印食品(本社・東京)による偽装牛肉事件で、兵庫県警と警視庁、埼玉県警、北海道警の合同捜査本部は、牛海綿状脳症(BSE)対策で国産牛肉を買い取る国の助成制度を悪用し、業界団体から約1億9600万円をだまし取った詐欺容疑で、5月前半にも事件当時の同社幹部社員ら十数人の刑事責任追及に向け本格捜査に入る。
<雪印食品50億円の債務超過>岩瀬社長は事件の影響で今年3月期の損失が約100億円に拡大し、50億円の債務超過に陥る見通しを明らかにした。
<雪印食品4月末解散、本業回復見込めず・損失240億円>牛肉偽装事件で業績が悪化している雪印食品は2月22日、経営再建を断念し、4月末をめどに解散することを決めた。ハム・ソーセージなど4事業については営業譲渡を模索する。解散に伴う損失額は約240億円を見込む。親会社の雪印乳業も同日、250億円を限度に債務履行を支援すると発表した。事件発覚後わずか1カ月で会社存続を断念、グループ全体の再建策も練り直しを迫られる。
<雪印乳業株下落、食品は上場廃止へ>東京証券取引所は2月22日、会社解散を決めた雪印食品(東証2部)の株式を終日売買停止にするとともに、2月23日に上場廃止することを決めた。雪印食品株は23日から整理ポストに割り当てる。
一方、雪印食品の親会社である雪印乳業(同1部)の2月22日の株価は、前日の終値より大幅に下落して始まった。
雪印乳業は、子会社の雪印食品が解散する際に最大で250億円の損失が生じ、同額の金融支援を迫られる。イメージダウンによる業績悪化懸念も強く、株価は取引開始直後から値下がりした。雪印乳業株の午前の終値は前日比15円安の129円だった。
<雪印食品の債務は乳業が支援>雪印食品の金融機関からの借入金など通常の債務は、親会社で、65.6%の株式を保有する雪印乳業の支援を受けて全額を支払う。雪印乳業は食品の解散で生じる損失額について250億円を限度に金融支援する方針だ。
<乳業も人員削減>雪印乳業は事業再編に加え、追加の工場閉鎖などに伴い、乳業本体の社員数は4500人から04年3月末には1500人に減る見通し。
<雪印食品の関東工場閉鎖 多くの社員が失職>雪印食品(東京都中央区)は3月31日、約950人の社員のうち約800人を解雇する。30日には、139人の社員がいる埼玉県春日部市の関東工場が閉鎖した。同工場の社員で再就職先が決まっているのは約1割だけ、不安を抱えたまま多くの社員は失職する。
<乳業の売り上げ3割減>雪印乳業は、牛肉偽装事件による業績悪化で4月に解散する雪印食品に最大250億円の金融支援を実施する。さらに、事件の影響で乳業本体の売り上げは2月が前年同月に比べ約3割減。3月も同程度で推移しており、業績悪化が続いている。
<元部長ら5人逮捕 牛肉偽装、2億円を詐取>雪印食品(4月30日に解散)の偽装牛肉事件で、兵庫、北海道、埼玉各道県警と警視庁の合同捜査本部は5月10日、約2億円の詐欺容疑で元本社ミート営業調達部長、畠山茂容疑者(55)=埼玉県越谷市、懲戒解雇=ら5人を逮捕し、清算法人として存続する同社の本社(東京都中央区)や各容疑者の自宅などを家宅捜索した。5人は容疑を認めているという。
<熊本畜産流通センター、5億円の賠償求め雪印食品を提訴>雪印食品の偽装牛肉事件で、「熊本産」のラベルを北海道産の牛肉に張り替えられ信用を失墜させられたとして、ラベルの発行元の熊本畜産流通センター(熊本県七城町)は14日、同社に5億円の損害賠償を求める訴訟を熊本地裁に起こした。一連の偽装牛肉事件で、損害賠償請求訴訟が起こされたのは全国で初めて。
とりあえずはっきりした数字で式を作る。
(1)偽装による利益=1億9600万円<発覚による損失=240億円
(2)偽装による利益<発覚による損失X発覚する確率(2割程度として考える)
(2)はこうなる 1億9600万円<240億円X0.2 1億9600万円<24億円
この式の示すところは、偽装工作した方がいいか?しない方がいいか?どちらが会社の利益になるか?その計算式だ。これから分かるように明らかに、「偽装工作は会社の利益に反する」となる。「世間一般の常識ではなく、会社の利益だけしか考えていないから、消費者無視の不正行為をする」という批判は見当はずれ。会社の利益にならないことをしたのだから。そして損得勘定に徹して計算すれば、この計算式は予測できたはずだ。つまり会社の利益だけ考えて、損得勘定に徹していれば、このような会社に不利益となる行為はしなかったろう。
<担当社員の損得勘定>企業にとって偽装工作は、たとえ発覚する確率が2割程度としても、「やらない方がいい」となる。企業にとって無謀なことでも、社員個人にとってはどうだろう?そこで担当社員の損得勘定を考えてみよう。
偽装表示が成功した場合の利益=昇進・昇級・ボーナスアップ。
発覚した場合の損失=懲戒解雇・刑事罰処分
偽装工作が成功した場合の利益<発覚した場合の損失X発覚する確率(2割程度として考える)
社員のレベルで考えても、偽装工作の機会費用はあまりにも大きい。
消費が冷え込む一方で、昨年9月に発生したBSEの後遺症で消費者の牛肉離れが進み、業績が低迷した。昨年末には、主要取引先で、年間20億円の取引があった九州最大手のスーパー、寿屋(熊本市)が倒産。数億円の焦げ付きが発生した。さらに、寿屋が今年2月、134の全店舗の一時閉鎖に踏み切ったことで売り上げが激減した。02年3月期決算(単独ベース)では売上高が前期比20.1%減の193億3452万円と落ち込み、経常損益も2億8800万円の赤字となった。
6月末にBSE対策の助成金不正受給が発覚し、スーパーなどからの取引停止が相次いで、商品の供給ができないでいた。このため、4日以降、牛肉部門の操業自粛を決めたばかりだった。
不正受給については、九州農政局が2日、後山社長に営業自粛や事実関係の徹底解明などの実施を求めた。農水省は詐欺の疑いで刑事告発する方針。
日本食品は63年に設立した食肉、加工食品の製造会社。九州を拠点とし、全国のスーパーや量販店、外食産業に販売していた。ピークの95年3月期には約373億円の売上高を計上し、有数の食肉加工・販売会社に成長した。(2002年7月3日 朝日新聞)
<日本食品の損益計算書>
偽装表示が成功した場合の利益=1億3660万円
発覚による損失=約218億円
1億3660万円<43.6億円(218億円X0.2)
発覚する確率がたった1%と考えても、その機会費用は2億1800万円。機会費用の方が大きい。
では発覚による損失額はいくらか?これも余り報道されていない。マスコミは「勘定」よりも「感情」を報道する。その方が消費者を捉えるを考えているのだろう。
2002年9月21日になってやっと次の記事が出た。
<日本ハム10億円赤字 3月期業績予想 不祥事響き下方修正> 牛肉偽装事件を起こした食肉最大手の日本ハム(本社・大阪)は20日、03年3月期の業績予想を下方修正し、連結当期損益が10億円の赤字になる、と発表した。赤字になれば51年の創業以来初めて。不祥事発覚前の5月に発表した当初予想は190億円の黒字だった。一連の不祥事で、連結子会社の牛肉販売自粛や、店頭での製品撤去が広がったことによる売り上げ高減少が響いた。来期は黒字転換する見込み。(2002年9月21日 朝日新聞)
この記事から、日本ハムの発覚による損失は200億円となる。1000万円の不正利益のために200億円失ったわけだ。発覚する確率がたった 0.1%(1000件の不正行為の内発覚するのが1件)としても、その機会費用は2000万円。「悪いことをした」と非難するより、「バカなことをしたもんだ」と笑う方が合っている。
日本ハムの大社啓二社長は20日夜の記者会見で、社内で牛肉偽装を起こした原因として、グループ内に「利益追求と売上重視」の体質があったとの認識を示した。その結果「順法意識が希薄になったうえ、社内の閉鎖体質を生み出した」と説明した。(2002年8月20日 朝日新聞)
大社啓二社長の言っていることは、世間一般の感情に訴える弁明であり、その考えが不正をなくす決定打にはならない。TANAKA1942bの考えはその逆で「利益追求と売上重視の損得勘定が出来なかった」ことが原因、と考える。
損失額に大きな影響力を持つのが消費者パワー。偽装表示をおこなった者は消費者パワーを理解してなかったのだろう。「消費者=お客様=神様」の恒等式を理解してなかった。家電業界、自動車業界、流通業界ではこの恒等式は常識になっているが、食品業界では常識になっていなかった。なにしろこの業界に近い農業関係では、自給率・自然環境・無農薬などのことに関して、「自分は一般国民より賢くて、善悪・損得の判断ができるが、多くの国民はその能力に欠ける」との思い上がりから、まるで「人民は無知である。党が教育・指導しなればならない」とのテーゼのように消費者を教育(マインド・コントロール)しようとか、説教しようとする教祖・信者・取り巻きも多くいるようだから、消費者パワーを軽視したとしても無理はない。
竹内直一氏が経済企画庁を辞めて、「日本消費者連盟創立委員会」を結成したのが1969(昭和44)年4月。中内功のダイエーが松下に対抗して、「ブブ」と名付けた自社ブランドのカラーテレビを発売したのが1970(昭和45)年11月(ダイエーは翌1971年3月に大証2部に株式を上場)。こうした先人たちの努力によって日本の社会は消費者主導の経済になっていった。企業業績に大きな影響力を持つ部署の人間は、こうした社会の変化を理解しなければならない。食品業界の社員は狭い業界内の常識ではなく、広く世間一般の常識に従って「利益追求と売上重視」を優先させるべきであった。
ここでは「アマチュアエコノミストのすすめ」が「経済倫理学のすすめ」のような内容になりました。 なお不正行為の機会費用を扱った「接待汚職の経済学」▲もご参照下さい。
社会的費用のバランス
「企業の不正行為」という、衣食足りて礼節を知る人たちが増えた世の中になってもなくならない、やっかいな「倫理問題」も「損得勘定」という経済学の手法で、「感情問題」を「勘定問題」に置き換えることによって、解決への糸口が見出されるのではないだろうか、と考える。
しかし、この考え方は「物事を、何でもかんでも金勘定に置き換えしまう」「拝金主義だ」との批判を浴びるかも知れない。「全てを金勘定に置き換えるべきだ」とは主張しないが、価値評価を金額で表示すると便利な事は多い。例えば成功報酬=企業内でいい仕事をしたら、給料でそれに報いる。それ以外の方法は、自社製品の現物支給、昇給を伴わない昇格、表彰状と社長のお言葉、新興宗教などの階級社会では上の階級への昇格、国家権力は勲章。これらは「金をかけずに成功報酬を支払おう」とする倹約主義(単なるケチ)と考えられる。
多くの人はこうした場合「拝金主義」を支持するだろう。それに対して権力者は、「拝金主義者」を批判する事によって、金をかけずに権力を誇示しようとする。それに応えて「拝金主義」批判を行う「お調子者」が出る。
食肉偽装表示で分かったことは、企業が不正行為を行うと消費者=お客様=神様から嫌われて、売り上げが落ちる。このため業績が悪化し、それは企業側が予想も出来ないほど巨額になる。今回の件でそれが広く認識されれば、企業の不正行為の抑止力になる。企業の不正行為を防ぐための社会的費用が少なくて済む。行政・司法機関に代わり消費者パワーが企業の順法行動を促進する。
社会的費用という言葉を使うと、「自動車の社会的費用(宇沢弘文)」が頭に浮かぶ人もいるだろうが、あまり間口を広げると収拾がつかなくなるので、ここでは扱わないことにする。
農業関係者や食糧自給率・残留農薬・環境破壊・地球温暖化・原子力発電反対などの市民運動家にバランス感覚を失った原理主義者がいるようだ。こうした問題を考えるとき基本となるのは、「許容量とは、利益と不利益とのバランスをはかる社会的な概念である」との考えだ。それは日本学術会議のシンポジウムの席上で、武谷三男氏が提出した次のような概念だ。
「放射能というものは、どんなに微量であっても、人体に悪い影響をあたえる。しかし一方では、これを使うことによって有利なこともあり、また使わざるを得ないということもある。その例としてレントゲン検査を考えれば、それによって何らかの影響はあるかも知れないが、同時に結核を早く発見することもできるというプラスもある。そこで、有害さとひきかえに有利さを得るバランスを考えて、”どこまで有害さを我慢するかの量”が、
許容量というものである。つまり許容量とは、利益と不利益とのバランスをはかる社会的な概念なのである」
この考え、本来は政府の原子力政策を批判する立場のものであった。つまり市民運動家の理論武装に役立つものであった。しかし現実には「どんなに少なくても危険なので、許容量はゼロにすべきだ」と、利益と不利益を計算すべきなのに、不利益だけしか計算しない主張が多くなって、バランス感覚を失った原理主義者が多くなったようだ。
排出権取引とは、国や企業ごとに割り当てられた二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出許容枠(排出権)を売買する仕組み。削減目標を持つ国だけで取引が可能になる。地球温暖化防止の京都議定書に、温室効果ガスの削減手段の一つとして排出権取引の活用が盛り込まれた。削減が予定通りに実行できなかった場合に外国の排出枠を買い、逆に余った枠を売ることができる。
日本のように省エネ努力が進み、さらなる温室効果ガスの削減には高いコストがかかる国は、ロシアのような削減余地のある国からCO2の排出枠を買えば、より安いコストで削減目標を達成することができる。
単純な具体例をあげてみる。世界がA国とB国の2国で構成されているとする。A国における二酸化炭素1単位あたりの削減費用を10とし、B国におけるそれを1とする。この2国が互いに1単位ずつ削減しなければならないとすると、合計11の費用がかかる。ところが、A国が削減せずにB国が2単位削減するなら、費用は合計2ですむ。そこで、たとえば、A国が一単位の許可証をB国から6という価格で購入すれば、A国は自国で削減するのに比べて費用4(10−6=4)得し、B国は費用5(6−1=5)の儲けを得る。つまり「社会的費用」を少なくて済ます工夫の一つと言える。
菓子屋が菓子を作るために、2台のモーターと粉つき機を利用していた。(モーターは60年以上にわたって、粉つき機は26年以上にわたって、同じ場所で運転され続けてきたものだった)。そこへ医者が越してきて、隣接する家屋に居を定めた。そこに暮らし始めて8年後、医者は菓子屋の厨房の真正面に位置する庭の片隅に、診療室を設けた。医者にとって菓子工場の騒音と振動は生活することに対しては無害であったが、診療室の活用には有害であった。
このため医者は、菓子屋の機械使用を差し止めようと、裁判所へ訴えでた。裁判所は医者の訴えを認め、菓子屋に操業差し止め命令を下した。
裁判所のこの決定は、医者に菓子屋の機械使用を差し止める権利があることを認めるものであった。しかしこの決定は、当事者間の相対取引で修正出来るものであった。
例えば、医者が騒音のため診療時間を短縮したり、他の場所に診療室を作り直したり、防音壁を作ったり、こうしたことをすれば費用がかかる。しかしそのコストより多額の補償金を菓子屋が払うとなれば、医者は機械の継続的な使用を容認するだろう。
菓子屋はどうするか?もし菓子屋が操業方法を変えたり、放棄したり、工場を移転したら多額の費用がかかる。そこで菓子屋は計算する。「(1)操業方法の変更に伴う費用と所得減少分、(2)医者に支払う弁済費用、どちらが大きいだろう?」。もし弁済額の方が少なければ、菓子屋は医者に補償金を支払って操業を続ける事になる。もし逆ならば、操業方法を変更する。
裁判に話を戻そう。もしもこの裁判で菓子屋が勝っていたらどうなるか?
菓子屋はこの場合、医者に代償を払わずに、機械を運転しづけることになる。二人の立場は入れ替わる。菓子屋に機械使用をやめさせるには、医者が菓子屋に代償を払うことになる。
今度は医者が計算する。「(3)菓子屋に機械を止めてもらうための弁済費用、(4)騒音のもとで診療するか移転する費用、どちらが多額になるだろう?」
裁判で医者が勝訴し、菓子屋の機械使用差し止めの権利が医者にある時、医者への損失補償をしつつ機械を使用し続ける事が菓子屋にとって割に合わない状況は、(1)<(2)である。菓子屋が勝訴し、機械使用の権利が菓子屋にある時、菓子屋に代償を支払って機械使用を中止してもらうことが医者にとって割に合う状況は、(3)<(4)である。この場合(1)と(3)は菓子屋の操業方法変更に伴う機会費用であり、(2)と(4)は医者が騒音を我慢するか移転するのに伴う費用。この場合は裁判でどちらが勝っても、菓子屋が操業方法を変更する事になる。
もしも取引費用を無視して考えるなら(ほとんどの場合取引費用は発生し、これは非現実的な仮定ではあるが)、損害責任に関する裁判所の決定は、資源配分に対しては何の影響も与えない。裁判官の意見が正しいのは、必要な市場取引を実行する費用が、調停で得られる利益を超える場合だけに限られる。
取引費用を無視して言えば、「一番費用のかからない方法が採用される」となる。裁判はその費用をそれぞれがどのように負担し合うか、を決める。
日本ハムグループの偽装表示は、年間売り上げ9千億円もある大企業グループで、高々1千万円の売り上げ増を狙って不正工作をした。その結果が200億円の損失となった。偽装表示を非難するより営業感覚・経営意識のないお粗末さにあきれてしまう。雪印食品も同じように、日頃からエンド・ユーザー相手に売り上げ増に苦心している営業マンには、信じられないほどお粗末な不正行為だ。破綻した日本食品も不正行為に対するしっぺ返しは厳しかった。一連の偽装表示で分かるのは、不正行為そのことより、それに対する消費者パワーの強力さ。そして利潤を追求する企業にとって損得勘定で考えると、実にバカらしい事だった。もっともマスコミは損得勘定に付いては積極的には報道していない。「勘定」より「感情」で判断するようだ。
世間を騒がした食肉偽装表示会社、せめてもの罪滅ぼしのために「懺悔」をして欲しい。不正行為の総括損益決算書の公表だ。「利益追求と売上重視」とは反対の行為だったこと。そして他の企業人も「消費者を裏切ると、どれほど大きな損失を被るか」が分かって、以後企業の不正行為に対する抑止力になるに違いない。
「感情と勘定」「機会費用」「社会的費用」「社会的バランス」「消費者=お客様=神様」こうした言葉を使いながら経済学する、それは感情レベルで処理することではない。にもかかわらず、こうした態度をとるか、「拝金主義反対」「くたばれGNP]の立場をとるか、どうもセンスの違いのようだ。この違いの壁を乗り越えるのは難しい。教育(マインド・コントロール)しようとか、説得(説教)しようとか、こうしたことにあまり期待しない方がいいのだろう。
<お薦め本>
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「経済倫理学のすすめ」ー「感情」から「勘定」へ 竹内靖雄 中公新書 1989年12月20日
「安全性の考え方」 武谷三男編 岩波新書 1967年 5月20日
「企業・市場・法」ロナルド・H・コース 宮沢健一、後藤晃、藤垣芳文訳 東洋経済新報社 1992年10月29日
消費者パワーが効かない業界はどうする?
<三井物産、モンゴル高官に不正資金提供>
モンゴルにディーゼル発電設備を建設する政府開発援助(ODA)事業を巡り、三井物産がモンゴル政府高官に現金百数十万円を提供していたことが8月27日、分かった。東京地検特捜部は、受注に便宜を図ってもらった見返りの不正な利益提供に当たるとみて、不正競争防止法違反(外国公務員等への不正利益供与)での立件に向け、捜査を進めているもようだ。同法の不正利益供与罪は1998年改正で新設され、適用は初めて。特捜部は社員に加え、法人としての三井物産の同法違反での立件も視野に入れているとみられる。関係者によると、国後(くなしり)島ディーゼル発電設備工事を巡る入札業務妨害事件で起訴された三井物産の元チームリーダー、島崎雄介被告(39)は、日本政府が無償で資金を供与しモンゴルの村落に計150基のディーゼル発電設備を設置するODA事業を担当。モンゴル政府側から事業の受注に便宜を受けようと計画し、昨年夏以降、数回にわたり、インフラ部門を担当する局長級の同国政府高官に対し、東京都内のホテルなどで現金百数十万円を手渡したという。(2002/8/28)
<UFJ銀行システム障害>
UFJ銀行は1月28日夕方に緊急会見を開き,1月23日から絶え間なく発生していた口座引き落とし処理の遅れの原因や被害件数などを説明。新たに,預金の二重引き落としと引き落とし漏れが発生したことも明らかにした。口座引き落とし処理の遅れは,「口座振替システム」の不具合や処理の不手際があったために発生した。具体的には,口座振替システムで実施した引き落とし処理の結果を,電力会社やクレジット・カード会社ごとに自動集計するシステムの処理や,磁気テープやフロッピ・ディスクに格納する人手の処理が遅れた。この結果,1月25日までに合計175万件の引き落とし処理が遅れたうえ,電力会社など約1500社の取引先に対して,処理結果を正常に引き渡せなかった。 (2002/1/28)
<KDDIの法人向けメールサービス、丸一日故障 > KDDI(本社・東京)の法人向けインターネット商品の一つ、オリジナルメールサービスで6月28日から29日にかけて、システム障害が発生した。障害の復旧までにほぼ丸一日かかり、この間、電子メールの送受信が不能になった。同社によると、システム障害は28日午後2時半に発生し、29日午後2時ごろ復旧した。原因は、メールサーバーの故障という。オリジナルメールサービスは、ドメイン名を契約者が自由に設定できる商品で、9割以上は法人契約。中小企業の利用が多く、契約者数は、全国で約7100法人・個人。通常、各企業は、社員が使うメールを割り振っている。社員メールを含めると、ユーザー数は6万件に上るという。(2002/6/29 )
市場経済ではこの「インセンティブ」が重要なキーワードになる。自分にとって、会社にとって、社会にとって、国家にとって、「得か?損か?」。全てにとって得ならば、「うまくできた制度」と言える。全てにとって損だと分かれば、誰もやらない。不正行為、システム・ミスは全てにとって「損」だということを周知徹底させると、こうしたことを起こさないように気を配るようになる。発覚する確率がたったの2割程度としても損失が大きい。そのためにも「不法行為の損益計算書」「システム・ミスの損益計算書」が発表されるといい。
これまでの企業行動検証に「消費者・ユーザーの信頼の獲得」を新たに盛り込み、「実行の手引き」には不祥事を起こした企業の会員資格の停止、退会勧告、除名の処分を加えるなど防止策を強化した。しかし、当初、全会員企業に求める方針だった不祥事防止の確認書は、「企業の自主性を重んじるべきだ」という声が強く、新規会員のみに後退した。(2002年10月16日 朝日新聞)
企業倫理という感情の問題を、損得勘定に置き換えて考えると、「企業不祥事とは利潤追求とは反対の行為。不祥事を起こすなとは、利潤追求と反対のことをするな、ということだ」となる。不祥事防止の確認書を提出させる、ということは、「我が社は利潤追求に全力をあげます。大きな損失を生むような不祥事は起こしません」との誓約書を取るに等しいこと。利潤追求が目的である企業に、このような誓約書を提出させるとはおかしな事だ。つまり正論を主張するよりも世間の批判をやり過ごして置こう、ということになる。確認書の提出を新規会員のみにしたのは「後退」ではない。このあたりから「企業のありかた」「倫理」「不祥事」「売り上げ重視」などに対するセンスの違いがはっきりしてくる。
不祥事を起こせば業績が悪化する。このような仕組みになっていれば日本経団連はなにもする必要はない。もっとも消費者パワーの弱かった江戸時代なら「株仲間が取引停止処分」にしただろうから、「江戸時代の制度を現代に生かそう」との考えかも知れない。だとするとTANAKA1942bが「大江戸経済学」で書いていることに影響された、と考えられるだが???
「経営改革室」を作ってネット上で消費者の意見を汲み上げよう、との姿勢を見せる日本ハムも、窓口担当者の姿勢は事なかれ主義。「頂きましたご意見を真摯に受け止め、信頼回復に全力で取り組んで参ります」と言っても、結局は「自分の担当するうちは何事もなく終わって欲しい」
「どこの馬の骨か分からない人が、何か難しそうな事を言ってきても。なまじ中途半端な対応をすると、後が面倒だ。ここは暖簾に腕押し、ととぼけることにしよう」の姿勢とTANAKA1942bは見た。「クレーム客ほど大切にしろ」とは営業の世界でよく言われる。「利益追求と売上重視」に徹底すれば積極的に消費者のクレームを取り上げることになるのだが、企業は消費者から逃げている。本質的な体質は変わらないだろう。
竹内直一流の矢文は有効かも
消費者パワーが効かない場合は竹内直一氏が日本消費者連盟創立委員会で実績をあげた矢文がいい。不祥事を起こした企業、役所に対しては説明・弁解・陳謝していても消費者に対してはどうかな?最近は消費者もおとなしくなったかもしれない。マスコミは内部告発(whistle blowing=笛吹運動)を取り上げたがる。ニュース・ネタとしていいのだろう。竹内直一氏が活躍し始めた頃の手法が今頃見直される。ちょっと古いセンスじゃないのかな。