ナルトを取り巻くように、風が吹き荒れる。
やがて、それは空中へと伸びて行き、巨大な竜巻となった。
舞い上がる砂塵が、ナルトの周囲で渦巻き、視界をさえぎる。
あたり一帯が暗闇に包まれ、その中心から、凄まじいチャクラの炎が広がった。
オレンジ色のまばゆい光を放ちながら、激しい風をものともせず、ナルトの放つチャクラは、尾獣達を覆い尽くす。
炎の中へ溶け込むように、尾獣達は実体を失い、巨大な木の根を形づくった。
その根は、地響きをたてて地表へと横たわり、次々と枝分かれをしながら、ものすごい勢いで成長していく。
神樹の復活を目の当たりにしながら、ナルトは何の恐怖も感じなかった。
砂嵐の中に広がる暗闇も、耳をふさぐ荒々しい風の音も、今は味方だ。
六道の力が増し、木の成長を加速させた。
網の目のように地面を這う根が一斉に芽吹き、無数の枝となって、次々と空へ向かって立ち上がる。
そして、それらの枝は絡まりながら、ナルトの背後で、一本の太い幹となった。
すると、突然前方から細く、光が差し込み、ナルトは目を疑った。
(何か、来た……?!)
吹きすさぶ風をものともしない外からの強い力が、砂嵐の壁を押し破り、隙間を作ったのだ。
その明るくなった場所に、飛び込んで来る、ひとつの人影が浮かび上がった。
さらに、その背後から現れた、もう一人の人物は、高く掲げた拳を、いっきに足下へと、振り下ろす。
地表に割れ目が走り、盛り上がった地面が砕け散る岩々となって、ナルトの体をフワリと宙へ浮き上がらせた。
「しゃーんなろぉおーっ!!」
「サ、サクラちゃんっ?!」
気付けば、彼女は目の前にいた。
激しい風などお構いなしに、岩から岩へと飛び移り、ナルト目がけて、拳を振り上げている。
とっさにナルトは顔の上で両腕を組んだが、予想だにしなかったサクラの攻撃を、まともに喰らってしまった。
矢のように飛んで来た彼女に押され、神樹へぶつかりそうになる。
(クソッ、こうするしか!!)
サクラの腕をとり、嵐の影響を受けない、自分が放つチャクラの中へ引き入れた。
「アンタ、いったいどういうつもりっ?!」
勢いのまま、のめり込むように、神樹の根元へ着地した途端、サクラは大声で叫んだ。
「里抜けなんて、ナニ考えて……!」
「話はあとだってばよ!」
彼女の肩をつかみ、
「誰だ!! もう一人、一緒だったよな?!」
と、ナルトは早口で問い詰めた。
「えっ、うん! ヒナタが……!」
うろたえたように、左右を見回すサクラの隣で、
「ヒナタ?!」
と、動揺するナルトに合わせ、チャクラも乱れた。
神樹の枝が一本、風を切り裂き、ナルトとサクラ目がけて、襲いかかってきた。
サクラの腰へ腕を回し、抱え上げると、ナルトは地を蹴り、飛び上がった。
(ヒナタ! ドコだっ?! )
サクラが空けた地表の割れ目へと倒れ込む枝を真下にしながら、ナルトは必死に目を凝らす。
(アレかっ?!)
砂の舞い上がる暗い大地で、前のめりとなって、動けずにいる人影を見つけた。
「ヒナタァーッ!!」
振り返り、自分を見上げる彼女と目が合い、ナルトは歯噛みをした。
確かに、ヒナタなら可能だ。
日向の空掌なら、渦巻く、厚い風の壁をぶち壊すだけの、威力がある。
この竜巻の中まで、ナルトを追えたのも、白眼があったからだ。
(ソレにしたって、来んのが、早過ぎるだろーが!!)
ヒナタの真横へ着地し、自分のチャクラの中へ、彼女も取り込む。
「何なのよっ、コレは!! 綱手様から十尾を復活させるなって、忠告されたでしょ?! 忘れたなんて、いわせないんだからっ!」
吹き荒れる嵐を寄せ付けない、オレンジ色に輝くチャクラの中で、サクラはナルトの手を振り払い、怒りを露わにした。
「だいたい、一人で何とかしようなんて考えじたい、アンタらしくないわ!」
肩で息をしながら、未だしゃべれずにいるヒナタの背に手を添え、
「どうして、私達に内緒で里を出たりするのよ?!」
と、ナルトを見ないまま、火のようにまくしたてる。
「雨隠れの里であった、尾獣のチャクラを転生する”あれ”をするつもりなんでしょ! 本気なの?!」
サクラちゃん、と呼びかけ、自分へと注がれるヒナタの不安そうな眼差しに、ナルトの胸は騒いだ。
彼女から顔を背け、
「どうやって、こんなに早く、ココへ来たんだ? オレが里を出たのに気付いたのも、早過ぎるってばよ」
と、サクラにたずねる。
「九尾が知らせに来たのよ、アンタが里を出たって!」
「クラマが?!」
「こんな、ちっこい……子狐の姿をしたのが、私の部屋に現れたんだから! それで、急いで家を出たら、慌ててやって来たヒナタと、里の門で鉢合わせしたの」
ヒナタのトコへも九尾が来たのよね? とサクラが問いかけ、コクリとヒナタは首を縦に振った。
「ナルトくんが洪水のコトを気にしてるのは、知ってたから……そこへ向かえば、ナルトくんを白眼でとらえられると思ったの……」
ヒナタが小声で答え、サクラはナルトへと詰め寄った。
「ねえ、ナルト! アンタはどうなるの? コレは神樹よね? その姿は、十尾の器となったからなんでしょ?! 神樹を蘇らせて、何かをするつもりなんだろうけど、コレだけ巨大な力を使ったら、尾獣のチャクラなんて、消失してしまうわ!! アンタの中から九尾が消えたら、アンタの命だって、タダじゃ済まないのよっ?!」
「サクラちゃん、オレは一人じゃないってばよ!」
動揺を隠し、ナルトは歯を見せ、笑ってみせた。
「尾獣達と話をして、決めたんだ。それにもう、時間もねえ……」
ナルトが神樹を見上げるのに合わせ、体から吹き上げるチャクラの炎が、砂嵐をも巻き込みながら、大きく広がっていく。
成長を止めた神樹の、高く空へ突き出た幹の先には、大きなつぼみがついていた。
「サスケと幸せになれ、サクラちゃん」
視線をサクラへ戻し、告げると、彼女は顔色を変えた。
「バカッ、ナニあきらめてんのよ!!」
「あきらめてんじゃねェ! オレには守らなきゃなんねーモンがあるんだ!!」
「ナルト、私はアンタのコト……!」
揺れるサクラの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ち、ナルトはハッと息を呑む。
そこへ、あれを見て、という、ヒナタの声がした。