身の回りのIT話

東海道線膝栗毛(1996年)

おく おく

東海道本線  僕は大学の春休みを利用して、友人のいる京都へ遊びに行くことになった。実家のある神奈川県平塚市から京都へ行く場合、小田原から京都まで新幹線に乗ることにしているのだが、大学1年生の時に早朝5時半に起床して、片道2時間、千葉までの通学で長時間電車に揺られることに慣れてしまった。そんなこともあって、平塚から京都まで鈍行を乗り継いで旅をしてみようという気になってしまった。
 鈍行を利用するのであれば、「青春18きっぷ」が手頃であるが、この春から5枚綴りであった切符が1枚にまとめられ、分割して利用することができなくなってしまった。これでは使い残した分を他人に譲ることもできず、切符が無駄になってしまうことは明らかだ。結局、「京阪神ミニ周遊券」を利用することで落ち着く。学割で11,600円。「青春18きっぷ」よりも300円高いけれど、特急券を買えば新幹線にも乗れるし、急行の自由席なら急行券は不要だ。
 切符の次は乗り継ぎの予定を考える。出発日の前日に考えた予定では、平塚を11時34分発の「快速アクティー」に乗り、熱海で14分、浜松で接続列車2本を見送り、43分の待ち合わせで米原行きの快速列車に乗る。米原では2分の接続で、京都には19時40分に到着する予定であった。
 出発日は1996年(平成8年)3月23日。目が覚めると随分と日が高い。時計を見ると既に11時を回っていた。これでは11時34分の「快速アクティー」には間に合わない。せっかく考えてた予定が最初から台無しになってしまった。しかし、今から計画を立て直している時間はないし、何よりも時刻表で調べるのが面倒だ。とりあえず平塚駅に向かい、やってきた列車に乗ってしまおう。
 身支度を整えて平塚駅に向かうと、12時16分発の小田原行きに乗ることができた。小田原で熱海行きの臨時列車に乗り換える。
 熱海に到着すると、駅前には年寄りの姿が多い。熱海はかつての新婚旅行のメッカだから、昔を懐かしんで熱海を訪れる年寄りが多いのであろう。
 熱海から浜松までは、乗り換え無しの2時間37分の長旅となる。乗り継ぎの合間に駅の売店で「デラックスこゆるぎ弁当」(850円)と「ジャワティ―」(120円)を買う。僕は車内で駅弁を食べることに抵抗があるので、なるべく人目につかない最後尾の車両の隅で食べようと思っていたのであるが、車内には駅弁を食べている人を何人か見掛ける。車内で弁当を食べている姿を見られて恥ずかしくないのであろうか。
 「デラックスこゆるぎ弁当」は、「デラックス」などと大袈裟なネーミングの割にはそれほどおいしいとは思えなかった。まずくもないけれど、冷えた駅弁を重宝する人の気がしれない。
 熱海までの列車は15両編成であったが、熱海からの列車は4両の短い編成となり、ローカル色が強くなる。駅弁を食べ終え、普段なら眠くなるのであるが、今日に限ってまったく眠くならない。お昼近くまで寝ていたのだから当然か。
 窓から外を眺めていると、沼津、三島、富士、清水といった都市部の駅以外は2面ホームの小さな駅が多い、平塚の隣に大磯という小さな駅があるが、大磯クラスの駅がごろごろとしている。
 静岡は県庁所在地だけあって、駅前にはビルが乱立している。その静岡よりも人口が多いという静岡県最大の都市である浜松では、横浜ランドマークタワーを思わせるような高層ビルが駅前に建っていた。
 浜松駅では米原駅行きの快速列車に5分の接続。この快速列車は、当初の計画で乗る予定であった列車だ。浜松で余裕を持たせた計画にしてあったので、結果的に出遅れを回復することができた。僕の隣に座っている学生は、浜松から名古屋までの1時間35分間、ずっとゲームギアの「スーパーぷよぷよ」に興じていた。よくも飽きないものである。
 終点の米原で列車を乗り継げば京都に到着できるのであるが、持参した小型の時刻表を眺めていると、名古屋で5分の接続で大阪行きのL特急「しなの18号」があることが判明した。「しなの」と言えば、名古屋と長野を結ぶ特急列車であるが、1日1往復だけ大阪まで運転しているのだ。新幹線にはスピードで勝てるはずもないが、地道に在来線を走る「しなの18号」に敬意を表し、乗ってみようと思った。
 名古屋で京都までの特急券を購入して、ホームへ上がる。ところが、ホームには「しなの18号」の姿はない。駅員に聞けば、既に「しなの18号」は発車してしまったという。特急券を買っている間に発車してしまったようだ。1日1往復の列車では、後続の列車に乗ることもできないので払い戻す羽目になる。
 後続の新快速列車で大垣まで行く。大垣駅のホームに降り立つとやたらと寒い。売店でホット紅茶と「名古屋タイムズ」を買う。「名古屋タイムズ」には、「百武すい星最接近」の文字が一面に躍っていた。
 大垣からは「京阪神ミニ周遊券」の特典を利用して、急行「たかやま」の自由席に乗る。今月16日には、東京−静岡間の急行「東海」が特急に格上げされてしまったため、東海道本線を走る急行列車はますます減ってしまった。「たかやま」には東海道を走る貴重な急行列車として頑張ってもらいたい。
 僕は車内の連結部に近い座席に陣取ったが、車内をウロウロして、ドアを開けっ放しにしていくマナーの悪い高校生にイライラする。怒りを爆発させて注意をしようと思ったが、相手は3人もいる。こちらが年上とは言っても、返り討ちに合うかもしれない。冷静に判断して、注意するのと思いとどまったが、今から考えても賢明な判断だったと思う。
 急行「たかやま」の車両は老朽化しており、窓からは隙間風が吹き込んでくる。急行券を買って、こんな車両に乗せられたのなら文句も言いたくなるが、急行料金を払っているわけではないので我慢する。
 京都到着は19時52分。予定よりも遅くなったが、結果的には特急料金を払わずに済んだのでよかったことにしよう。友人に電話で連絡をして、京都駅まで迎えに来てもらう。その間に京都タワーの地下にある「タワー浴場」でさっぱりしようと思ったら、入浴券の販売は20時までとのこと。タッチの差で入浴ができなかった。やっぱりL特急「しなの18号」に乗り遅れたのが失敗だったか。
 京都駅八条口の近鉄改札口で友人と落ち合い、駅前の「天下一品」というラーメン屋へ行く。関西では有名なラーメン屋とのことで、友人の勧めに従って「こってり大盛」(600円)を注文すると、栄養価が高いという濃厚なスープのラーメンが運ばれてきた。まあまあ美味しかった。ここの勘定は僕が払う。これから友人宅で世話になるのだから当然のことだ。
 さて、友人宅はどうやって行くのかと尋ねると、京都から奈良線に乗るという。てっきり、すぐ近くだと思っていたのに、また電車か・・・。

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