● 住まいの絵本の魅力 第24回
ニッキーとヴィエラ ホロコーストの静かな英雄と救われた少女
作:ピーター・シス
訳:福本 友美子
出版社:BL出版
毎日、メディアを通じて戦争の痛ましさが報道され続けている。それは美しかった街並みが瓦礫と化し、平穏に暮らしていた住民の暮らしが一変した姿である。
2023年絵本館プロジェクトは戦争をテーマに取りあげることになり様々な絵本を読んでみたが、リアルな戦争を直視して読むには辛いものがあった。そのような中で「ニッキーとヴィエラ」に巡りあった。
この絵本は、チェコスロバキアで、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害の危機が迫る中、子どもたちをイギリスに脱出させようと尽力したドイツ系ユダヤ人のニッキーと、彼に救われた子どもたちの一人ヴィエラを記した実話である。イラストレーターで絵本作家のピーター・シスの絵は、全体的に優しい彩りでまとめられている。ニッキーが救えなかった子どもを思う苦しい胸のうちを描いた場面には共感する。
第二次世界大戦直前、チェコスロバキアではナチス・ドイツの侵攻によりユダヤ人に危機が迫っていた。ニッキーは、子どもたちを逃がすためイギリス行きの列車を手配し669人の命が救われた。運よく汽車に乗ることが出来たヴィエラはリバプールに住む里親に引き取られた。戦争が終わっても帰るところがなく、イギリスで結婚し3人の子どもを育てた。
ニッキーは、250人の子どもたちを乗せた9番目の汽車がチェコスロバキアを発つことができず救えなかったことを後悔し、口を閉ざし沈黙した。晩年、家族がニッキーの資料を発見したことにより、テレビ局の協力でニッキーと救われた嘗ての子どもたちとの対面の機会が設けられた。
この時、ニッキーが助けた669人の命が6000人になったという紹介に心が少し軽くなった。だからこそ、より一層、戦争はいけない、人を殺してはいけないという思いが深くなる。そして一人一人の命の重さを実感する。ニッキーが助けられなかった命を愁い後悔で沈黙したことも頷ける。
子どもたちの未来のために行動したニッキーと戦争で家族も故郷も失った少女ヴィエラの絵本は、現在の終わりの見えない戦争を遠い国で起こっている他人事とせずに、自分ごととして捉え私たちができる事は何なのかを考えるきっかけとなった。そして、どのような理由があっても戦争をしてはならないという思いが強く残った。
(長山 洋子 記)
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