● 住まいの絵本の魅力 第21回
そらいろ男爵
文:ジル・ボム
絵:ティエリー・デデュー
訳:中島 さおり
出版社:主婦の友社
そらいろ男爵は、空と見分けがつかないように空色に塗った自作の飛行機に乗って、だれにもじゃまされずに鳥をながめて空を飛んでいました。
けれども戦争がはじまり、男爵も敵をやっつけに行かなければならなくなりました。
そこで男爵も砲弾になる、当たったらガツーンと痛いものをさがしました。天井にまで届く素敵な本棚にあった分厚い辞書、十二巻の百科事典です。
大活躍の男爵はたった一人で頑張りましたが、戦争は続きました。
もう家にあった本の砲弾はなくなり、たった一つ残ったのはロシアの小説『戦争と平和』。
ざんねん!本はまともに当たりませんでした。でも敵の隊長がそれをひろいだまって塹壕に閉じこもってしまいました。夜通し『戦争と平和』を読んでいたのです。
こうして戦いの命令はストップしました。
前線で激しいぶつかり合いがあるたびにそらいろ男爵がやってきて、たちまち戦いを止めてしまうのです。
料理の本が雨のように、思想の本が矢のように、歴史物語が光のようにふりそそぎます。
そしてある日、男爵は戦争をやめさせる名案を思いつきました。家族からの手紙をおとすのです。味方の兵士の家族からの手紙は敵の陣地に、敵の兵士への手紙は味方の陣地に。
お互いに話をするきっかけをつくったのです。兵士たちはみんな心を打たれました。
もちろん戦争は終わりました。そして、そらいろ男爵は勲章をもらいました…
この絵本は第一次世界大戦から100年目に当たる2014年にフランスで刊行されました。
2022年2月24日ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、休戦が見通せないまま一年が経とうとしています。
21世紀の戦争も『そらいろ男爵』の時代と、基本的には変わらないように感じます。
身勝手な歴史観に基づいた一方的で理不尽な侵略を、この情報の時代に目の当たりにしながら、私同様世界中の人々は無力感を抱いて日々を送っています。
この絵本を初めて読んだ時に感じた人と人との共感できる力を、何とか信じることができればと思います。
(谷口 美樹子 記)
他の回は<こちら>から