● 住まいの絵本の魅力 第20回
カリーナのりんご -チェルノブイリの森-
震災をテーマにした絵本は、阪神淡路大震災(1995年)後には見かけませんでしたが、東日本大震災(2011年)後頃から 多様な視点で災害をテーマにした絵本が出版され増えてきています。
今回災害関連の絵本を具体的に紹介したいと考えて地震・津波・森林火災・竜巻などの天災や原発・核爆発・被曝・難民・戦争をキ−ワ−ドとして、住まいの絵本館の全蔵書を個別に検討してみました。
その時、目についたのが「カリ−ナのりんご」でした。東日本大震災(2011年)直後の2012年に日本で出版されていました。この絵本を始めて手にした時、ベラル−シの原発事故の物語なのに、なぜ日本で初版が出版されたのかと、とても不思議に思いました。
カリーナのりんご -チェルノブイリの森-
でもその疑問は直ぐに解けました。これはチェルノブイリだけでなく、そのまま日本の福島の物語でもあったのです。 少女カリ−ナが経験したチェルノブイリの原発事故によるその後の試練は、そのまま東日本大震災での福島第1原発の事故による被害に重なっていました。そして日本のカリーナ達もその同じ不安や苦しみの中で生活していました。
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となりのベッドのターニャちゃんは
もうずっと入院しているんだって。
「くすりのせいで、かみの毛がぬけてしまったの」
と、にっこりわらった。
おかあさんと同じ、血液のガンなんだって。
わたしのは、のどにある甲状腺のガン。
おなじ病気の子がたくさんいる。
みんな、わるい魔法使いがまいた毒のせいで、病気になったんだね。
「たくさんの人がつらいめにあっているのに、なぜ かみさまはたすけてくれないの?
もし、かみさまがなにもしてくれないんだったら、わたしがやらなくちゃ。」
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カリ−ナは森のおくの魔法つかいに、もう毒をまきちらすのはやめてって頼もうと、雪の積もる森の中をひとりお城をめざしてあるいていきました ・・・・・・・・。
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原発による被害にはハードの復興だけでは解決できない見えない復興の難しさがあります。「見えない被害」とは何なのか? どの程度あるのか? その実態自体分かり難く把握されていない状況があります。被曝によるガンと地域環境汚染による恐怖や苦悩は、環境を変えても残り続け、見えない復興の難しさが痛感されます。
日本で出版されている震災絵本として、「希望の牧場(2014)」があります。原発で立ち入り禁止区域になった牧場で売れない牛を生かしつづけ、考えても、考えても解決のしようがない事を考えずにはおられない牛飼い。追い詰められた状況の中で前向きに生きようと努力している人間の「強さ」が描かれており、救いを感じさせます。
カエルを通して描かれた福島からのメッセ−ジが「かえるふくしま(2016)」です。汚染土の入った青い土嚢の間に、ニホンアマガエルがくっついていました。 カエルは、はだかでくらしているが、土や水の汚染に敏感なちいさな命。 原発事故の被害を受けたのは人間だけではありません。誰にも気づかれずにひっそり消えていくカエルの目にはこの世はどのように映っているのでしょうか。
福島県浪江町津島はあれから10余年経った今も帰還困難区域です。
「百年後を生きる子どもたちへ -帰れないふるさとの記憶-(2020)」は放射能汚染による絶望の中で、田や畑が次第に自然の森に還っていく力に励まされています。 集落の仲間たちが、200年後に再び帰ってくるかも知れない自分達の子孫を思い描いて、ふるさとの暮らしや伝統・文化を伝えるために記録集を編纂しています。
震災をテーマとした絵本は、傷ついた人の心を癒す力になると同時に、市井の人々の思いを時間・空間を超えて後世に伝えるという大切な役割を果たしています。
(北浦 かほる 記)
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