住まいの絵本の魅力 第13回

あたし、メラハファがほしいな


 文:ケリー・クネイン
 絵:ホダー・ハッダーディ
 訳:こだま ともこ

 出版社:光村教育図書

 西アフリカのモーリタニアという砂漠の国のお話で、絵本の原題も「DEEP IN THE SAHARA」です。日本ではあまりなじみのない国のようですが、日本で食べるタコの約半数がモーリタニア産。国旗には、イスラム教の聖なる色の緑色に月と星が表されているイスラム教国家です。
 この国に住んでいる、メラハファというムスリムの女性の衣裳に憧れる女の子のお話です。色とりどりのメラハファをまとったお母さんはきれいで、セルマ姉さんのように秘密めいて、街角の女性のようにおとなっぽく、おばあちゃんのように、おきさきさまのようにみえたいのと女の子は思っています。
 メラハファは、身体全体を覆う綿生地の一枚布で、一つには、砂漠の砂や厳しい日差しから身を守るためのものですが、それだけのものではありません。おかあさんから砂漠の空のようにあおいメラハファをもらった女の子は、お祈りをするためのものだと気づきます。
 母から娘へと衣裳を伝えることで、イスラムの伝統文化を学び、自身の内側から信仰や文化に向かい合うことを知り、自律していく女性の姿をあらわしているようです。
 イスラム教と聞くと、テロなど暗く悪いイメージを抱くこともありますが、自分たちの信仰や文化を大切にしているムスリムの暮らしもあることを教えてくれました。
 また、この絵本には、メラハファを着た女性たちの背景に、砂漠の様子、土で造られた家、ラクダやヤギなどの動物、頭に荷物を載せて運ぶ女性の姿やお祈りの様子、この国のコミュニケーションツールとも言われている、おばあちゃんの甘いミントティーなど美しい絵で、日々の暮らしの様子も丁寧に描かれています。
 昨今は、共生や多様性という言葉をよく耳にするようになりました。その中で、この絵本のように、あまり知らない国の絵本も出版されるようになっています。
 様々な国や人の暮らし、文化を知り、多様性を受け入れ、これからの共生社会をどのように生きていくか等、子どもだけでなく、大人にも無理なく教えてくれることも住まいの絵本の魅力の一つと言えるでしょう。

(上田 仁美 記)

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