住まいの絵本の魅力 第9回

いえのなかのかみさま


 文:もとした いづみ
 絵:早川 純子

 出版社:光村教育図書

 「神様は実在すると思いますか?」と問われると、ほとんどの人が「いないと思う」と言うでしょう。まして、「家の中にはたくさんの神様がいるのだ」なんて言うと、「そんなおったら、邪魔」ということになるでしょう。
 しかし家の中の神様は、家族が毎日食べて寝て、笑ったり泣いたりし、家族が増えて家が賑わうこともあれば悲しい別れもある、家の中で繰り返される暮らしを見守っています。さてそんな神様に“ともき”くんが挑みます。

 都会に住む主人公の“ともき”くんは、家族で田舎の親戚の家に行きました。初めて行くその家は、古くて大きな家。その家に住んでいる“げん”くんと姉の“つぐみ”ちゃんと遊び始めましたが、あちこちで神様と出くわします。
 縁の下には小鬼様、台所には竈の神様、古くなったものは付喪神、そして納戸で遊び始めた“ともき”が、何かが入っていったように見えた箱を覗き込むとその中に引き込まれ、気がつくと知らない場所にいました。“ともき”の周りに集まってきた不思議な格好の人たちは、“神様”。神様に誘われて一緒に踊り始めました。さて、“ともき”はどうなってしまうのでしょう。

 信じるかどうかは読者次第として、この物語のリアリティは、どこにでもありそうな街なかの中流住宅に住む子どもが神様の存在を知るところにあります。そして、この家に住む同年代の子どもたちは、当たり前のように神様と共生しているのです。
 この物語では、我が国の住文化の一つである八百万の神様は、たとえ会うことがなくても自分たちの心の中にいて、みんなの住まいや暮らしを見守っていることを伝え、古くなったものは付喪神になるからむやみに捨てないことを伝え、それを通していつまでも永く愛着を持って家を住みこなしていくことの大切さを伝えています。
 これは、近年の住宅政策である“長期優良住宅”を実現するための意識改革でもあります。最後のページに、“ともき”くんの家の神様も出現することで、都会に住むたくさんの子どもたちが第一人称で物語に入っていけるのです。この絵本を読んだ子どもたちには、自分の家に関心を持ち、身の回りの設えやお掃除、お片付けをする気持ちになってほしいものです。そして国土交通省には、神様の数にも補助金対象の設定をお願いします。

(中村 孝之 記)

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