『新月の恋人たち』


(※この先R指定なので苦手な方はご遠慮ください。
なお、この話は涙(凶)の続きで涙(笑)の別バージョンになっています)
















オレの魔力の源は月。
それゆえ月の満ち欠けによって魔力が増減する。
満月の日に最大となり、新月の日は最も弱くなる。
満月の夜は最高潮となった魔力の影響を受けて精神も肉体も異常に昂ぶるが、新月の夜は魔力も体力も最低になる。
なによりもとても心細くなる。
いつもはオレの中にある自分の能力への自信や自負心、そういったものが全てなくなってしまったかのように感じる。
まるで母親からはぐれてしまった子供のように心細い。

こんな夜は一人では耐えられない。
誰かに傍にいて欲しい。
傍で慰めて欲しい。
暖めて欲しい。
いや、誰かにじゃない。
さくらに暖めて欲しい。
そう思うと居てもたってもいられなくなった。

『今すぐ会いたい』

たった1行だけのメールを送る。
来てくれ早く、と想いを込めて。

だが送信ボタンを押して数秒後、我に返ったオレは苦笑してしまった。
かつて満月の夜に同じメールで呼び出したさくらに自分が何をしたか、それを思い出したからだ。
暴走する月の魔力に憑りつかれたオレはさくらを散々に弄んだ。
涙を流して苦しむさくらを楽しみながら汚した。
あの時の苦痛と恐怖は、今でもさくらの心と体の両方に焼き付いているはずだ。
月齢の違いはあれど、あの夜とほぼ同じ時間に同じ文面のメール。

来るはずがない。

そう思ったからだ。
馬鹿な事をしたものだ・・・今日は1人で淋しさを抱えながら寝よう・・・そのつもりになった。


なのに、さくらは来た。
あの満月の夜と同じように。


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「来たよ、小狼くん」

オレはあまりに早いさくらの到着に驚いていた。
まだメールを送ってから10分も経っていない。
『翔(フライ)』を使ったにしても早い。
こいつはあのメールを見て何の逡巡も感じなかったのか。
またオレに酷いことをされるのではないか・・・そういう恐怖はなかったのか。

「さくら・・・来たのか」
「ほえ?来たのかって、小狼くんが呼んだから来たんだよ?」
「来てくれるとは思ってなかったよ。お前・・・この間の夜、オレに何をされたか忘れたのか?」

そう聞いた時、一瞬だったがさくらの顔に怯えの表情が浮かんだ。
やはりあの夜の出来事は忘れていない。
当たり前だ。あんな酷い目にあわされたのだ。忘れられるわけがない。
だが怯えの表情を見せたのは本当に一瞬だけだった。

「憶えてるよ・・・。本当はね、今も怖いの。また痛いことされるんじゃないかって思うとすごく怖いの」
「だったら、どうして来たんだ」
「だって小狼くんが『会いたい』って言ってるんだもん。会いたいのに会えないのはすごく辛いから・・・。だから、決めてたの。どんなに痛いことされても小狼くんが『会いたい』って言うなら絶対に会いに行くって」
「・・・バカだな、お前は・・・」
「バカでもいいよ。小狼くんと一緒にいられるなら」
「・・・ありがとう・・・さくら」


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それから二人で食事をし、テレビを見て、風呂に入り・・・
他愛ない会話を交わしあう、ただそれだけで心が安らいでいくのを感じた。
さっきまでの寂寥感がウソのように消えていく。
さくらと一緒にいる。ただそれだけで。


そして気がついた時には、暗がりの中でさくらと唇を重ねていた。
どちらがどちらを求めたのでもない。
二人が互いを求め合った結果だった。

最初は触れるだけの口づけ。
それが啄むように変わり、次第に長く、深くなっていく。
唇だけでは満足できなくなったオレは、首筋へ、鎖骨へと口づけする個所をずらしていく。
その度に震えるさくらが何とも愛しい。

だが、オレの唇が胸に近づいた時、さくらの瞳に怯えの色が走った。
満月の晩に与えられた痛みを思い出したのだろう。
それでもオレを拒絶する素振りは見せない。
黙ってなすがままにされている。

そんなさくらが可愛くて・・・そして少し意地悪がしたくなって・・・わざとさくらに見えるように歯をむき出して乳首に押し当てた。
ビクッとさくらの身体が強張る。
痛みに備えるためかギュッと目を閉じる。
ここまでされてもまだ、オレを拒絶しようとはしない。

そんな顔しなくても大丈夫ださくら。
今日のオレはあの時とは違うから。
押し当てた歯にそれ以上力を加えず、甘噛みの状態のまま敏感な突起に舌を這わせる。

「ん・・・あ・・・」

予想外の優しい刺激に反応したのか、さくらの口から甘い声が漏れ始めた。
しばらくそのまま乳首の感触を楽しんでから唇を離す。
その瞬間、さくらが明らかにホッとしたような、それでいて少し物足りなさそうな表情を浮かべたのをオレは見逃さなかった。

「どうしたさくら。そんな顔して」
「え?そんな顔って?」
「残念そうな顔してるぞ。ひょっとして痛くしてほしかったのか?」
「!そんなことないよ!小狼くんのいじわる・・・あぅっ!」

もう片方の胸にも同じキスをしてさくらの反論を封じる。
そうだ、さくらの言葉を遮るのに口を押さえる必要なんかない。
こうして敏感な個所を愛してやればいい。

やがてオレの視線と指はさくらの一番大切なところへ向かう。
そこは既に熱くぬるんでいた。
満月の時とは違う。
オレの愛撫に悦んでくれいてる。
オレを求めてくれている。
その証拠だ。

たまらなくなったオレはさくらのそこにキスを落とした。
一番敏感な突起にキスを繰り返し、舌で雫を拭いとる。
だが、拭っても拭っても雫が途切れることがない。
こんなに・・・こんなにもオレを求めてくれているのか。

「ひゃぅ・・・しゃ、しゃおらんくん・・・そこ・・・」
「さくらのここ、もうこんなになってるよ・・・」
「小狼くんが・・・小狼くんが愛してくれるからだよ・・・んん!」
「さくら・・・もう我慢できない。いいか?」

自分でもここまできていいか?はないと思う。
でも今日だけはさくらの口から確認したかった。
本当にオレを求めてくれているのかを。
それを確認するまではさくらを汚したくなかった。

「うん・・・きて、小狼くん・・・」

さくらの返事は予想通りの言葉。
それを確認してから、初めてさくらの中に自分を押し入れた。

「小狼くん、しゃおらんくん!」
「さくら・・・さくらぁっ!」

互いの名前を呼び合いながら抱き合う。
名を口にする度に上りつめて行く。
そして、最後は互いに名を呼びながら同時に絶頂を迎えた。


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激しい情交を終え、まどろむさくらの顔を眺めながらオレは満足していた。
あの夜とは違う、とても安らかな表情をしている。
今日はさくらを悦ばせることができたんだな・・・
それが嬉しくてつい、声に出してしまった。

「よかった・・・」

声を出した瞬間、さくらの目がパッチリと開いた。
オレの呟きが聞こえたらしい。
まだ眠ってなかったのか。
「よかった」をどういう意味にとらえたのか、恥ずかしそうな声で聞き返してくる。

「良かったなんて・・・なんかそう言われると恥ずかしいな///・・・そんなに気持ち良かった?」
「あ、いや、気持ち良かったっていう意味じゃない。いや、もちろんさくらの身体はすごく気持ち良かったけど。違う意味だ」
「違う意味って?」
「オレ、この間の夜からずっと自分が怖かったんだ。もう、あんなさくらを傷つけるようなやり方じゃないと満足できないんじゃないかって」

本当に怖かった。
魔力の暗黒面に囚われて堕ちていった者たちのことは今まで何度も耳にしていた。
過剰な快楽を求めて自己も他者も破滅に追いやってしまった男たち・・・自分もその一人になってしまうのではないか、それが怖かった。

「でも今日はさくらと一緒に悦ぶことができた。それが嬉しかったんだ。もしも、自分があんな酷いやり方じゃないと満足できない体になっていたら・・・」
「なっていたら?」
「もう、さくらの傍にはいられないかもって思ってたんだ。さくらを傷つけるくらいだったらオレは・・・」
「そんなのダメだよ!痛いのより小狼くんがいなくなる方が嫌だよ!わたし我慢するよ!小狼くんがいなくなるくらいだったら、どんなに痛くても我慢するから!」
「なんだ、さくら。やっぱり痛くされる方がよかったのか?」
「(かぁぁぁ〜〜〜っ)真面目に言ってるのに!もう、小狼くんのバカ!」
「ごめん。それよりさくら・・・もう一度いいか?」
「小狼くん・・・うん・・・」

そう、夜はまだ長いのだから。
新月の夜は。
そしてオレ達は今夜、何度目になるのかわからないキスを交わした。


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