『新月の恋人たち・翌朝』



これで済んでいれば一夜の素晴らしい思い出で話は終わったろう。
だが、世の中そんなに甘くはないらしい。

翌朝、目を覚ましたオレは全く身体を動かせなくなっていることに気づいた。
何かの術に掛けられたという感じではない。
疲労が激しすぎて身体を動かすことができないのだ。

「全然動かせないの?」
「あぁ。まるっきりダメだな。体を起こすこともできない」
「そんな・・・昨日はあんなに元気だったのに。どうして急にそんなに疲れちゃったの?」

・・・その『昨日はあんなに元気だった』のところがマズかったんだろうな。
どうやらオレは情交の中で精を放つ際、魔力も一緒にさくらの中に放っているらしい。
さくらの中に少しでも自分の痕跡を残したい、そんな想いが無意識のうちに魔力を放っていたようだ。
普通の体調であれば問題なかったのだろうが、昨日は新月。
オレの魔力がもっとも低下する日。
それなのに、さくらが悦んでくれることが嬉しくてつい頑張りすぎてしまい、残り少なくなっていた魔力の全てをさくらの中に注ぎ込んでしまったのだ。
その結果がこれだ。
なんとも情けない。

「でも、どうしよう。お医者さん呼んだ方がいいのかな。あ、それともケロちゃんか月さんの方がいいかな?」
「いや!そこまでする必要はない。ちょっと疲れただけだ。今日1日休んでれば治る」
「そう?」

冗談じゃない。
こんなところにケルベロスや月を呼ばれてたまるか。
あいつらならば一目でオレがどういう状態かわかるだろう。
さんざん馬鹿にされたあげくに、いいようにオモチャにされるだけだ。

「今日は学校もないしな。1日寝てればいいさ」
「だったら今日は1日、わたしが小狼くんを看病してあげるね!」

おっ、そうくるか。
これで今日も1日さくらと一緒にいられる。
新月の夜も悪いことばかりじゃなさそうだな・・・と思っていたらなぜかさくらは星の鍵を解放した。
そして1枚のカードを取り出す。

『力(パワー)!』

???となったオレをさくらは両手でひょいっと抱えあげた。
この体勢はいわゆる『お姫様抱っこ』というやつだ。

「おい、さくら。なにやってるんだ」
「だって小狼くん、動けないんでしょ?だから今日は1日わたしが小狼くんを動かしてあげるね!」

おいおい。
動かしてくれるのはありがたいんだが、わざわざ『お姫様抱っこ』する必要はあるのか?
それに、さくらの目。
この状況を楽しんでないか?
ひょっとすると満月の夜の仕返しのつもりか?
だとしたらヤバいな。
魔力は当分、回復しそうにない。
身体を動かせるようになるまであと半日はかかるだろう。
その間、ずっとさくらのオモチャか。

やれやれ。

今日はとんでもない1日になりそうだ。

END


この話は涙(笑)のオリジナル版です。
最初書き始めた時はこういう感じだったのですが、なぜか途中から涙(笑)に変わってしまいました。
やはり自分の中では小狼はいじられキャラだからでしょうか。

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