『涙(笑)』


(※この先、R指定の上にバカギャグというしょうもない話ですのでどちらか苦手な方はご遠慮ください)



















オレの魔力の源は月。
それゆえ月の満ち欠けによって魔力が増減する。
新月の日にもっとも低下し満月の日に最大となる。
満月の夜は最高潮となった魔力の影響を受けて精神も身体も異常に昂ぶるが、新月の夜は魔力も体力も最低になる。
魔導師としては致命的な欠点だが、一人の高校生としてはこの方がいい。
魔力から開放された心がとても穏やかになるからだ。
いつもオレの中にある競争心、虚栄心、独占欲そういったものが綺麗さっぱりなくなる。
まるで自分が別のものになったかと思うほどに穏やかで優しい心になれる。
こんな夜こそさくらと一緒にすごしたい。

そう思ってさくらを呼んだ。
そうして今、オレの横にはさくらがいる。

二人で食事をして、テレビを見て、他愛ない会話を交わし・・・
気がつくと二人とも無口になっていた。
オレを見るさくらの瞳が何かを求めるように潤んでいる。
もう、ここから先は言葉も要らない時間だ。
今夜はとても素晴らしい夜になる・・・

・・・と思っていた。

まさかこんな目にあうことになるとは。


――――――――――――――――――――――――――――――


「星の力を秘めし鍵よ真の姿を我の前に示せ」
「さくら?」
「契約のもと、さくらが命じる。レリーズ!」
「おい、さくら!どうしたんだ」

何を思ったのかいきなりさくらが魔法を発動させたのだ。
あっけにとられるオレの前でカードを取り出し呪文を続ける。

「枝よ戒めの鎖となってかの者を捕らえよ。『木(ウッド)』!」

かの者だと?
誰かいるのか!侵入者か!?
魔力が少なくなっていたとはいえ、侵入者に気づかなかったとは不覚!
誰だ!?どこにいる?
あわてて『木』の枝が伸びていく先を見つめる。

しゅるしゅるしゅる
枝の伸び行く先は!

しゅるしゅるしゅる・・・

あれ?
あれれ?

『木』の枝が絡みついたのはオレの手足。
え?なんで?と考えている間にぐるぐる巻きにされてしまった。
魔力の弱った今の身体では抵抗することもできず、枝に引きずられてさくらの前に吊り下げられる。
「かの者」ってオレのことか!?
なんで???

「おい、さくら!いったい何をやってるんだ・・っておい、そのカードは!?」

さくらが新たに取り出したカードは・・・『剣(ソード)』?
それで何をするつもりだ!?
混乱するオレの目の前で『剣』が星の杖を剣の形に変える。

キラ〜ン

鋭い光を煌かせながら『剣』が振り上げられ・・・

「うわ〜〜〜!やめろ〜〜〜!」

スパッ!

剣光一閃、あわれオレはまっぷたつ!
・・・にはならなかったが、オレの服は下着まで見事に切り裂かれて床に落ちた。
つまり素っ裸にされてしまったわけだ。
さくらの前で手足の自由を奪われてあげくに裸にされて吊り下げられている。
めちゃくちゃカッコ悪くて恥ずかしい。

「さくら!何の真似だ!おい、さくら!聞いてるのか!」
「えへへへ〜〜〜知ってるよ小狼くん。今日は新月で小狼くん、魔力が少ないんでしょ?」
「なんでそれを!」
「ケロちゃんに聞いたの」

ケルベロスのやつか!あのぬいぐるみめ、余計なことをベラベラと!
それにしても、いったいさくらはどうなってるんだ?
酔っ払ってるようにも見えるけど、今日の食事にも飲み物にもアルコールの混じったものはなかったはずだ。
この目、いつものさくらじゃないし魔力も尋常じゃない。
この魔力・・・
魔力?

あ。
まさか?

満月 → 月が明るい → 月の魔力が暴走
新月 → 月が出ない → その分、星が明るい → 星の魔力が暴走!

ってことか〜〜〜???
星の魔力が暴走してるのか?
満月の時のオレと同じように!

「小狼く〜ん」

オレを呼ぶさくらの目があやしい光を放つ。
やばい。
この目、完全にイッてる・・・

「小狼くん、満月の時はさくらのこといじめてくれたよね?」
「あれは、その・・・。まずは落ち着け。な、な?」
「今日はわたしが小狼くんをいじめる番だよ。いっぱいいじめてあげるからね!『泡(バブル)』!『霧(ミスト)』!『水(ウォーティー)』!」
「さくら、落ち着け!落ちついて・・・うわ〜〜〜!!!」


――――――――――――――――――――――――――――――


どれだけ時間がたったのか。
なんべん惨めな声を上げてしまったのか。
思い出したくない。
いや、忘れてしまいたい・・・

さくらは指と唇とさらにカードまで使って抵抗できないオレをめちゃくちゃにいじり回した。
おまけに途中から実体化した『光(ライト)』と『闇(ダーク)』の年増コンビが乱入。
クロウ直伝?の妖しいテクでオレを散々に翻弄した。

「お前ら〜〜〜!あとで覚えてろよ!」
「あらあら。ここをこんなにしながらそんなこと言っても説得力がないわよ?ほら!(ふにっ)」
「くぅっ!」
「オホホホ。貴方が悪いのよ。さくらさんを独り占めにするから」
「なんだと!・・・ひょっとして、このさくらの暴走もお前らの仕業か?」
「なにを人聞きの悪いことを。これはさくらさんの望み。貴方のことをもっと深く知りたいと。男冥利に尽きるわね」
「そうそう。私達はちょっとさくらさんの背を押してあげただけ」
「うそだぁぁぁ〜〜〜!!!」

どうやらオレはカードたちに恨まれてるらしい。
さくらを独占してるのが気にいらないみたいだ。
だからってお前たちにこんなことをされる筋合いはない!

「『光』さん『闇』さん、わたしにもやらせて〜〜〜」
「さくら!そんなとこ触るな〜〜〜!」
「うふふ、小狼くんのここ、こんなになってるよ?」
「(かぁぁぁ〜〜〜っ)」

なんとも恥ずかしいことに、こんな状況でもオレの分身は元気いっぱいだ。
いや、いつにないさくらの妖しい姿に反応していつも以上に張り切っている。
今もさくらの指に優しく擦られただけでたちまち直立してしまった。
しかし、この繊細で男のツボをおさえたしなやかな指使いは?

「お、お前どこでこんなテクニックを・・・」
「知世ちゃんが教えてくれたの。小狼くんが喜ぶよって。ちゅっ」
「うっ!」

大道寺!あいつか!
あいつは一体、さくらに何を教えてるんだ!
あいつとは一度ゆっくりと話し合う必要があるようだな!
それもこの状況を何とかしてからのことだが・・・うぅっ!

そうこうしてる間にもさくらはまた別のカードを取り出してきた。

「汝、我の姿を写しだせ・・・『鏡(ミラー)』!」

ミラーだと?今度はなにを?

「今度はミラーちゃんと二人でいっぱいキスしてあげるね。ミラーちゃん、お願いね」
「はい、さくらさん」
「やめろ〜〜〜!!!」

ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ

さくらとミラー、二人がかりでオレの全身にキスの嵐。
右を見ても左を見ても一糸まとわぬさくらの艶姿。
この壮絶な攻撃の前にオレはなすすべもなく絶頂を迎えてしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――


オレにはわかっている。
明日の朝、どういう展開が待っているのか。
おそらくさくらは今日のことは全く憶えていない。
オレに事情を説明されたら目を丸くして「ほえ〜〜〜」を連発することだろう。
そして可愛らしい顔で許しを請うのだ。

そしてもう一つわかっていることがある。
オレはそんなさくらをあっさり許してしまう。
男の度量を見せつけるため(そして今のミジメな姿を思い出させないために)何も言わずに許してしまうのだ。
いや、「今度はオレの番だな」とか言って朝からいちゃつく口実にするのかもしれない。

それもわかっている。
わかってはいるのだが。
それと今の状況が許容できるかどうかは別の話だ!!!


「どう?小狼くん。気持ちいい?」
「く・・・ぅ・・・さくら、よせ・・・あぅっ!」
「うふっ、小狼くん、とってもかわいいよ。もっともっと気持ちよくしてあげるね!」

かわいいって・・・・・・
男がそんなこと言われても。
それと我が分身よ。
いくらさくらが可愛いからって、そんなしょうもない台詞に反応していきり立つな。
トホホ。

情けなくて涙が出てきた。

END


満月→小狼暴走。
だったら新月→さくら暴走。
という思いつきネタ。
ただそれだけです。

最初、涙(狼)の続きで新月の夜に穏やかになった小狼が優しくさくらを愛する、という話を書いていたのですが何故かこうなってしまいました。
小狼をいじめる話だといくらでも書けるような気がします。

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