『メイド物語・無惨編?』



「「さ・く・ら・ちゃ〜〜ん」」

とびっきりの笑顔でにじり寄るお友達を前に、さくらは背筋に冷たい汗が流れるのを感じていました。

知世ちゃんに奈緒子ちゃん。
二人とも小学生の時からの友達で、さくらのとっても大事なお友達です。
と同時に、ちょ〜〜っと変わったところのあるお友達でもあります。

知世ちゃんの趣味はさくらをビデオに撮ること。
知世ちゃんお手製のコスチュームをさくらに着せてそれをビデオに撮るという、男性だったら完全にアウトな感じの趣味です。
お手製のコスチュームを着せるの時点でアウトですね。
さらにビデオに撮るまでいっては懲役は確実なところでしょう。
最近はイラストも始めたようです。
イラストのモデルはもちろん、さくらです。

一方の奈緒子ちゃんの趣味は小説。
小学生のころは読む方専門でしたが、最近は自分でも小説を書くようになりました。
せっせと小説を書いてはいろいろな雑誌やらWebやらに投稿しています。
小説のモデルはやはりさくら。
年の近いご主人様に使えるメイドというシチュエーションが奈緒子ちゃんの創作意欲を刺激するようです。
さくらとしてもモデルにされるのはかまわないのですが、問題なのはその内容。
ぶっちゃけR指定な内容だったりします。
ご主人様×メイド=エッチ! というのが奈緒子ちゃんの中では常識になっているようです。

一人ずつでもかなり危険な二人。
ですが、真に危険なのはこの二人がコンビを組んだ時。
その破壊力は2倍ではなく、2乗にまで跳ね上がります。
ツインドライブシステムというかその、なんといいますか。
混ぜるな危険というやつでしょうか。

「な、なに? 知世ちゃん、奈緒子ちゃん」

つとめてさりげない風を装った返事をするさくらですが、頬の引きつりを隠すことはできませんでした。
この二人にはさくらをモデルにしたR指定作品を発表しようとした前科があります。
今回も何を言い出してくるのか、さくらとしては気が抜けません。

「おほほほほ。さくらちゃん、そんなに警戒なさらないでくださいな」
「け、警戒なんかしてないよ」
「あら。それならばよろしいのですが」

そう言いながらも知世ちゃんの頬にはにんまりとした笑みが浮かんでいます。
普通、女の子の笑みはニコッ、と表現するところですが、知世ちゃんのこの笑みはにんまり、もしくはニヤリと表現する方があってますね。
どう見ても悪だくみをしている時の笑い方です。

「そうそう。わたしたち、別にさくらちゃんに酷いことしにきたんじゃないから」

そう言う奈緒子ちゃんの顔にもやはり、知世ちゃんのそれと同質の笑みが浮かんでいます。
それを見た時、さくらはこの二人の用事が何なのかおおよその見当がついてしまいました。

「あのね。わたし、またさくらちゃんと李さんをモデルにした小説を書いたの」
「挿絵はわたしが描かせていただきました」
「それでね。発表する前に一応、さくらちゃんに許可をもらおうかなと思って」

やはり。
どうやら奈緒子ちゃん、またさくらをモデルにした小説を書いたようです。
そして、それをまたどこかに投稿しようとしているようです。

「ダメ〜〜!! 絶対ダメ〜〜〜〜!!」

ま、普通そうなりますよね。
奈緒子ちゃんの前作はこんなのでしたから。
さくらの反応も当然でしょう。
しかし、さくらのこの反応は二人とも想定済みの模様。

「さくらちゃん、読みもしないでそんなことを仰っては奈緒子ちゃんに失礼ですわよ」
「だ、だって! またエッチなやつなんでしょ? エッチなのはダメ〜〜!」
「大丈夫だよさくらちゃん。今回はエッチなやつじゃないから」
「ほ、本当に?」
「本当ですわ。今回はエッチ描写はなしです」
「わたしも前のはちょっとエッチな方面に行き過ぎちゃったかな〜〜って反省したの。だから今回は二人の心理描写をメインにしてみたの」
「大財閥の御曹司と彼に仕えるメイド。互いを想いながらも、あまりにも違う身分の壁が二人を阻む! 叶わぬ想いに苦しんだ二人の選んだ道は・・・・・・というのが今回のストーリーですわ」

熱く今作のストーリーを語る奈緒子ちゃんと知世ちゃん。
二人の熱意にさくらもちょっとだけ奈緒子ちゃんのお話に興味がわいてきました。
自分と小狼様をモデルにしたお話、それも身分違いの恋を題材にしたラブストーリーと言われては無関心ではいられません。
現実の自分は小狼様に想いを伝えることなど叶わぬ身。
ならばお話の中だけでもせめて・・・・・・と思ってしまうのはさくらとしては無理のないことでしょう。
無論、さくらがそう考えるであろうことは知世ちゃんも奈緒子ちゃんも想定済みなわけですが。

「ホントにエッチなのはないのね?」
「本当だよ!」
「本当ですわ! わたしが今までさくらちゃんにウソを言ったことがありまして?」

たしかに知世ちゃんはウソはつかないけれど〜〜。
トンでもないことはするよね〜〜。
という不安が一瞬、さくらの脳裏に浮かびはしたのですが、「身分違いの恋」という魅力的なフレーズへの好奇心がそれをわずかに上回ったようです。

「それじゃあ、ちょっとだけ・・・・・・」

結局は二人に押し切られて奈緒子ちゃんの小説を読むことになってしまったさくら。
さて、一体どんな内容なのやら。

『メイド物語・無惨編』

なんて物騒極まりないタイトルからしてまともな内容とは思えないのですが・・・・・・?

NEXT・・・・・・


続く・・・・・・

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