『生誕の日・オチ編』


(※この先はただのアホ話が展開されます。
小狼くんハピバ! とか期待されている方はUターンすることを強くオススメします)



「わたしのお話、どうだった? さくらちゃんの感想を聞かせてよ」
「・・・・・・・・・」

奈緒子ちゃんにそう尋ねられても、さくらは目を白黒させるだけで何も答えることができませんでした。
無理もありません。
自分と小狼様をモデルにしたラブ・ロマンスを書いているというので期待して待っていたら、できあがったのはご覧の通りのシロモノでした。
どうやら、奈緒子ちゃんの言うロマンスは普通のロマンスではなく、「日○ロマンス・ポ○ノ」のロマンスの方だったみたいです。
あまりのトンでもなさに声も出せないさくらに、奈緒子ちゃんはさらにブッ飛んだ提案を持ちかけてきます。

「ねぇ、どうかな。さくらちゃんさえいいって言ってくれたら、講○社の小説マガジンに投稿しようと思ってるんだけど」
「・・・・・・はっ!? だ、ダメ〜〜〜! そんなの絶対ダメぇぇぇ〜〜〜!! こんなの発表されたら、わたし学校に来れなくなっちゃうよ〜〜〜」

ま、そりゃあそうでしょう。
なにしろ、中身はこんな内容ですから。
さすがに小説の中では名前は変えてありますが、学校のみんなが読んだら一発で自分と小狼様のことだとわかってしまいます。
こんなものを発表されたら学校を歩けなくなってしまいます。
(※ちなみに、これまでの文中にあった『さくら』『小狼様』はさくらの脳内補完によるものです)
さくらとしては絶対に許せることではありません。
けれども、奈緒子ちゃんはそんなことは全然気にかけてないみたいです。
それどころか、さらにトンでもないことを言い出しました。

「そんなの問題ないと思うけどな〜〜。だって・・・」
「だって?」
「だって、みんな言ってるよ。さくらちゃんは李さんにエッチなことをいっぱいされちゃってるんだろうって」
「えぇぇぇ〜〜〜!?」
「さくらちゃんの本当のお仕事は李さんの夜のお相手をすることだ〜〜とか、さくらちゃんのメイド服には首輪と鎖がセットになってる〜〜とか。みんな噂してるけど。聞いたことなかった?」
「ほぇぇぇ〜〜〜!! なんでそうなっちゃうの〜〜??」

なんでそうなっちゃうのか?
その原因は小狼様の外面のよさ(悪さ?)にあります。
学校での小狼様は、大財閥の跡取り息子で学業優秀、スポーツ万能、そのうえクールなハンサムという、まさに完璧超人
誰言うとなく「氷の貴公子」の異名をつけられ、教師からも一目置かれる存在となっています。
そのため、みんなの頭の中では

『冷酷御曹司』 + 『可憐なメイド少女』 = 鬼畜調教!

という絶対方程式(アブソリュート・エクスプレッション)が成立してしまっているのです。
特に想像力(妄想力)豊かな奈緒子ちゃんの頭の中では、それはもう物凄いことになってしまっています。

「で、本当のところはどうなの? やっぱり、縄で縛られてエッチなことされちゃったりしたの?」
「そんなことないから! みんな誤解してるよ! 小狼様はそんな人じゃないから!」

それは、その通りですね。
たしかに小狼様はそんなご無体なことはなさいませんね。
それをやったのは小狼様のお姉さま達です。

「じゃあ、さくらちゃんの方から『わたしの体がお誕生日プレゼントでございます・・・』とか言ったことはないの?」
「うっ・・・。な、ないよ! わたしもそんなこと言わないからね!」

これは一度、言っちゃいましたね。
結果は小狼様の鼻血ブ〜〜〜でしたけれど。
まあ、なんと言いましょうか。
この二人の真の姿は、

『なかなか告白できないヘタレ』 + 『告白待ちの少女』 = いつまでたっても進展なし!

という別の方向に完璧な方程式だったりするのですが。
学校での小狼様しか知らないみんなには信じられないみたいですね〜〜

「と、とにかく! そんなお話、絶対に投稿しちゃダメだからね!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――

さてさて。

「う〜〜ん。知世ちゃんかぁ・・・。なんかイヤな予感がするな〜〜」

学校を終えてお邸に戻って来たさくらですが、今一つ浮かない顔をしています。
その理由はさっきの奈緒子ちゃんのお話です。
なんとか説得して、投稿は思い止まってもらったのですが、

「このお話、誰にも見せてないよね!?」

というさくらの問いに奈緒子ちゃんはシレッと

「知世ちゃんに見せちゃった」

と答えたのでした。
よりによって一番見せて欲しくなかった人物に・・・と思わずにはいられません。
おまけに奈緒子ちゃんが言うには小説を読んだ知世ちゃん、

「目をキラキラさせていた」

そうです。
これまでの経験から、知世ちゃんの目がキラキラする=ロクでもないことが起きる、というのはよくわかっています。
さくらとしては、どうにもイヤ〜〜な予感がしてなりません。

「ううん、ダメダメ! 今日は小狼様のお誕生日なんだから。こんな暗い顔してちゃダメ! もっと明るい顔で小狼様をお迎えしなきゃ!」

ペチペチと頬を叩いて気合を入れ直すさくら。
と、そこへ

「ただいま」

小狼様が戻ってきました。

「お帰りなさいませ、小狼様。でも、ずいぶんとお早いお帰りですね」
「ん、そうか? いつもとあまり変わらないはずだが」
「ですが、今日は小狼様のお誕生日の宴が催されるとお聞きしていたのですが」
「あぁ、あれか。さっさと抜けてきたよ」
「え・・・。そんなことをしてよろしいのでしょうか」
「かまわないさ。どうせオレの誕生日なんか口実で、みんなお酒が飲みたいだけなんだからな。未成年には居心地が悪いよ。それに・・・」
「それに?」
「い、いや! なんでもない」

それに、少しでも長くお前と一緒にいたいから・・・の一言を口に出せない小狼様。
本当に初心な御曹司様ですね。
学校のみんなにも見せてあげたいものです。

「あぁ、そうそう。パーティ会場で知世嬢に会ったよ」

照れ隠しなのか、小狼様、ちょっと強引に話題を変えます。

「わぁ、知世ちゃんも呼ばれてたんですか」
「あぁ。大道寺グループの影響力は香港でも無視できないものがあるからな。まあ、オレと同じで酒飲みの大人達に閉口してふてくされてたけど」
「ふふっ。知世ちゃんらしいですね」
「それでな。知世嬢にプレゼントを貰ったんだが・・・」

そう言いながら小狼様が取り出したのは薄い、四角い包み。
どうやら何かの本が梱包されているようです。
しかし、本にしてはちょっと薄いような気がします。

「これ・・・本、でしょうか」
「だと思うけど。なんでも知世嬢が言うには、お前と一緒の時に開けて欲しいんだそうだ」
「わたしと一緒にですか」
「そうだ。丁度いいから今、開けようと思うけどいいか?」
「はい。どうぞ」

ガサガサガサ。
二人で一緒に開いた包みの中から出てきたもの。
それは一冊のマンガ本でした。
どうやら、知世ちゃんが作った同人誌のようです。

「なんだこれ。マンガか? 知世嬢が作ったのか。知世嬢にそんな趣味があったとは知らなかったな」

能天気な感想を漏らす小狼様。
対照的に顔面蒼白になるさくら。

それもそのはず。
なぜなら、表紙にでかでかと書かれたタイトルは

『哀・メイド物語 〜〜散花の章〜〜』

さっきの奈緒子ちゃんの小説と同じタイトルだったからです。
さらによ〜〜っく見ると右下の方には

『絵:大道寺知世 原案:柳沢奈緒子』

の文字が読み取れます。
表紙に描かれているのは明らかに自分と小狼様ですが、そこに描かれた自分には鋼の首輪と鎖がかけられ、鎖の端は小狼様の手に握られているという、中身が一目でわかる親切な仕様
どうやら、奈緒子ちゃんの小説にインスピレーションを受けた知世ちゃん、奈緒子ちゃんのお話を同人誌にしてしまったようです。
しかもフルカラー・オフセット印刷で。
さすがは知世ちゃん、やるとなったらトコトンやります。
金に糸目はつけません。お見事です。

「このマンガ、オレ達がモデルなのか。さすがは知世嬢といったところだな。まあ、いい。一緒に見てくれって頼みだから見ようか。さくら」
「〜〜〜!?!?!?」
「ん? どうした、さくら」
「ダメ! 読んじゃダメです!」
「はぁ? いや、ダメって言われても。せっかく知世嬢が作ってくれたんだし」
「それでもダメぇぇぇ〜〜〜! ダメなものはダメですぅぅ〜〜〜!!」
「お、おい、さくら!?」
「ダメぇぇぇ〜〜〜!! ぜったいダメぇぇぇ〜〜〜!!!」

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なお、この知世ちゃん作の同人誌、『哀・メイド物語 〜〜散花の章〜〜』は、香港最大の同人誌即売会

『瑚美津駆・魔亜決闘』(こみっく・まあけっと)

で絶大な売り上げを記録したそうです。

えんど


生誕の日、オチ編。
アホ話に長々とお付き合いくださいありがとうございました。
自分的には冷酷な本性に目覚めた小狼が、さくらを堕とすという展開も悪くはないかな、思っています。

「どうした、さくら。こんなことされて感じてるのか? いやらしい女の子だなぁ、さくらは」
「こんなの、だめぇ・・・。だめだよ、小狼くん・・・」
「お前のここはそうは言ってないぞ」
「あぁぁ・・・しゃお・・・らんく・・・ん・・・んんっ!」

みたいな。
でも、やっぱり小狼はエリオルや知世のオモチャにされるヘタレ御曹司の方がお似合いか? という気もします。
皆様はどちらの小狼がお好みでしょうか。

おまけ。
生誕の日 〜〜純愛編・辱〜〜 に続く・・・かも。

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