「彫刻の夢のある空間」
展覧会場の格別な雰囲気を十分に味わってみるには、自分が 心に親しめる幾つかの作品に目星を付けて置いて、後でもう一度それを順次堪能するまで鑑賞してみると、作品の印象は
深く徹し、作者の心根に触れるのである。深く美しいものを見ることはこの上ない楽しさであり、身が救われ、養いにもなるのである。さらに新しい夢の創造、啓発の糸口を得ることも出来よう。
人の考え方や願うものが、それぞれに違いもあるので、こうだと決めてかかるわけにはゆかないものである。
彫刻制作に於いてモデルにいろいろな姿勢を注文づけて、一定の姿勢を取らしたものよりも、モデル自身の姿勢がもたらす作品の方に好意をよせるのである。
また宇宙の単一性を信ずるところから、女、山岳、牛馬など、その胚胎するものは、皆同じ原則の上に築かれることを学んでいる。
(昭和43年7月)。
「人間の顔」
人間の顔。どの沢山の顔も神の単一的な設計である。それでいて、顔の持つ感じは千差万別、複雑微妙を極めている。一人として同じ者はない。またその一人の顔が、これがなんと心の願う動きにつれ無限の変化を見せる。
顔は摩訶不思議な生きものである。この魔性の奥に潜む一つの自然の深さが彫刻家に採ってとても面白い。従って初心から生涯を懸けて人の顔に深い関心を持つものである。
(昭和37年8月。)
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