In situ observations of elementary growth processes of ice and snow crystals;
氷および雪結晶の成長素過程のその場観察について

For the researchers in the fields of ice and snow crystals: To what extent now we can approach the "elementary growth processes" of ice and snow crystals
雪氷学,結晶成長の分野の方々へ:氷および雪結晶の「
成長素過程」にどこまで迫ることができるか
Every kinds of your comments and suggestions are welcome. ご意見・サジェスチョンをいただければ幸いです.

PNAS, ice crystal surface
さらに改良を重ねた走査型レーザー共焦点微分干渉顕微鏡でその場観察した,気相から成長する氷結晶(つまり雪と同じ)のベーサル面が二次元核成長する様子.二次元アイランドは単位ステップ(0.37nm高さ)から成ります.(トピックス1.のムービーをご覧ください)
これは原子間力顕微鏡で撮影したものではありません.光学顕微鏡写真です!!

氷は地球上で極めて大量に存在するため,その相転移(成長・融解・昇華)は地球の寒冷圏で起こる様々な自然現象を支配します.特に氷結晶の表面は,相転移が進行する場であるのみならず,紫外線によるオゾン・有機物の分解や,不凍タンパク質による寒冷地の動植物の凍結防止など,多くの物理的・化学的過程の鍵を握ります.そのため,氷結晶の表面を分子レベルで理解することは極めて重要です.

中谷宇吉郎博士が人工雪の成長に初めて成功して以来(1936年),低温科学研究所では,雪・氷結晶について多くの先駆的な研究が行われてきました.その結果,融点近くの氷結晶表面には疑似液体層と呼ばれる特殊な層が存在し,これが氷の様々な物性を支配することや,雪や氷の結晶が条件に応じて実に様々な形状を見せる原因などが明らかにされてきました.また,タンパク質などのマクロ分子が氷結晶の成長を制御する機構も明らかにされようとしています.

氷以外の結晶では,その表面上で結晶を形作る大本となる分子層の成長端(単位ステップ)表面モルフォロジーは様々な方法でよく観察されてきました.しかし,氷結晶の場合には,これまで結晶表面上のステップなどの分子高さレベルの表面モルフォロジーについては,実験的にアプローチすることが出来ませんでした.そのため,氷結晶の成長や融解に関しては,結晶表面は空間的に平均化されたブラックボックスとして扱われざるを得ませんでした.氷結晶の相転移や多くの物理的・化学的過程のメカニズムは想像されるにとどまっていました.

このような状況を打破するために,氷結晶表面上の分子高さのモルフォロジーやその時間発展を直接観察するための,様々な高分解光学顕微技術を開発してきました.その中でも,現在特に下記の二つの顕微技術のさらなる改良・改造に取り組んでいます.

レーザー共焦点微分干渉顕微鏡:透明な固体表面上のnm高さのステップを十分なコントラストで可視化できます.

薄液層型全反射蛍光顕微鏡:任意の固体表面上で,蛍光ラベル化した個々の分子の挙動をその場観察することができます.

これらの顕微法については,タンパク質結晶の成長素過程のその場観察や,レーザー共焦点微分干渉顕微鏡のページにもまとめていますので,こちらもご覧ください.

トピックスのあらすじ
 オリンパスと我々が共同で開発したレーザー共焦点顕微分干渉顕微鏡を,1)高さ分解能をさらに高め,2)反射率がより小さな結晶表面の観察を行うべく,さらなる改良/改造に取り組んできました.また,取得した画像から結晶表面以外の情報を効率的に除去するための3)画像解析技術も重要な開発要素です.これらの取り組みの結果,氷結晶表面の「単位ステップ」(ベーサル面では0.37nm高さ,プリズム面では0.37nm高さ)を直接観察できる様になりました.この顕微法を用いることで,氷と雪の世界で永年の謎であった様々な現象の解明に取り組んでゆきます:
(現在の計画)表面融解による疑似液体層の発生,水−氷(融液−結晶)界面のその場観察,不凍タンパク質の作用発現機構,などなど.

【トピックス】
1.In-situ observation of "elementary steps" at air-ice interfaces visualized by laser confocal microscopy combined with differencial interference contrast microscopy (LCM-DIM); レーザー共焦点微分干渉顕微法を用いた空気−氷結晶界面での「単位成長ステップ」のその場観察
ようやく1つ新たにアップしました.その他にもいろいろあるのですが,論文投稿になかなか手がまわりません...

付記

LCM-DIM
レーザー共焦点微分干渉顕微鏡(LCM-DIM)+種々の全反射蛍光一分子観察(TIRF)顕微鏡.2010年10月01日時点での外観です.東北大時代に比べてだいぶおどろおどろしくなりました.反射率が0.007%しかない水−氷結晶界面を観察するべく,ノイズ除去とパワーアップに取り組んできました.波長780 nmの50mW-SLD照明を用いるべく,全ての光路を赤外線対応にしました.右側上部は上方よりプリズムTIRF(ケラー型)照明するための光学系です.後ろ右側には均一広視野TIRF(ケラー型)照明するための光学系が(隠れて見えませんが),そして左奥側には左ポートより集中高輝度TIRF(クリティカル型)照明するための光学系があります.

空気−氷結晶界面での「単位ステップ」のその場観察ですが,イヤー,本当に出来てしまいました.古川研に来てはじめに研究対象として取り組んだものの,実現できるかどうか,最初は半信半疑でした.私自身がそんな具合ですから,古川先生は恐らく信じておられなかったと思います.オリンパス・エンジニアリングの斎藤さん,小林さんには,感謝感謝です.特に斎藤さんの様々な卓越したアイデアなしには,ここまでたどり着けなかったと思います.いつもながら本当にどうも有り難うございます.北大に移り,タンパク質結晶から氷結晶に研究題材を変えましたが,これで私も,氷と雪の世界でもようやくご飯を食べてゆけそうで安心しました.
なお, 本ページで紹介する研究の大部分は,佐浮ニオリンパス,古川研究室(北大低温研)のメンバーで行った共同研究の成果です.

To the top page; トップページに戻る.