睡眠時無呼吸症候群
(Sleep Apnea Syndrome: SAS)
睡眠時無呼吸では、睡眠中に上気道の閉塞(窒息)が発生し、
重症では1時間に30回以上、閉塞と開存を繰り返します。
(1時間に5回までは正常、5~15回は軽症、15~30回は中等症)
無呼吸の原因:
- ◆上気道が狭くなり、閉塞しやすい解剖学的な要因がある:
- 肥満、顔面形態に特徴(下顎後退・小顎)、仰臥位で睡眠、口呼吸など
- ◆上気道の閉塞を防ぐ神経・筋代償機能の異常がある:
- 高齢者、晩酌・睡眠薬、閉経後など
上気道閉塞の原因部位:
- 軟口蓋の下垂、舌根部の沈下が関与
睡眠時無呼吸が疑われる兆候:
- いびきをかく
- 睡眠中、無呼吸を指摘される
- 睡眠中、口で呼吸している
睡眠時無呼吸の症状:
- 日中の眠気
- 睡眠中の窒息感やあえぎ
- 繰り返す覚醒
- 起床時の爽快感・熟睡感の欠如
- 日中の疲労感
- 集中力・活力の欠如
- 起床時の頭痛(鈍痛)や頭重感
- 夜間頻尿
- うつ状態
図: 睡眠時無呼吸の悪影響
睡眠時無呼吸の3つの側面:
1.健康への影響 2.安全管理 3.生活の質
1).健康への影響
睡眠時無呼吸症候群が原因で発症、あるいは増悪する可能性がある疾患
- 高血圧
- 心不全
- 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
- 不整脈(心房細動)
- 脳血管障害(脳梗塞)
- 糖代謝異常(糖尿病)
* 中等症・重症の睡眠時無呼吸を放置した場合、生存率は低下する。
* 重症を放置すると心発作発生率が健康人より増加する。
* 無呼吸がある人の心筋梗塞発作は夜間帯(0時~6時)に多い。
(一般的には6時~12時が多い)
* 脳卒中に睡眠時無呼吸が合併していると、生存率が低下する。
2).安全管理
睡眠時無呼吸患者さんの交通事故率は健常者の7倍で、重症ほど居眠り事故率が高い。
重症者でも眠気を感じない場合が20%ほどある。事故の直前に眠気の自覚が無く、気づいたときに起こしていたという危険がある。
3).生活の質
睡眠時無呼吸では、昼間の疲労感、活力・集中力の低下が起こる。
睡眠時無呼吸に対する適切なCPAP治療は、睡眠の質を良くし、昼間の眠気や体調を改善し、生活の質・活動性を向上させる。その結果、交通事故・労働災害の安全管理に好影響をもたらす。
睡眠時無呼吸の治療
【1】.CPAP治療 (中等症の一部以上)
【2】.口腔内装具療法 (中等症の一部以下、CPAP不能の場合、携帯用)
【3】.ASV治療 (特に心不全による中枢性無呼吸-チェーンストークス呼吸の治療
【4】.生活指導 (栄養指導など)
【5】.外科治療法 (耳鼻科、口腔外科、歯科矯正外科)
【6】.小児領域における予防的歯科矯正
※当科では【1】~【4】に対応しています。
【1】
CPAP治療
◇CPAP治療の効果
- 中等症以上では、CPAP治療は心血管病の発症に対する一次予防効果がある。
- 既に基礎疾患(高血圧などの心・脳血管病)のある人の増悪・再発予防効果がある。
- 軽症でも昼間の眠気などの自覚症状があれば、その改善が期待できる。
◇CPAP継続使用の支障
- 1.CPAPデバイスの副作用
- 2.効果の自覚が乏しい
- 3.治療の必要性の理解不足
- 4.社会的理由
- 5.睡眠習慣の問題
◇CPAP長期使用者の特徴(満足面)
~アンケート結果(2011年8~9月)より
- 睡眠の質(よく眠れる、熟睡感)が向上
- 昼間の眠気または体調の改善を自覚
- CPAP装着下でPSG脳波の深睡眠相が増加
- 健康への影響(心血管疾患の1次予防効果、増悪・2次予防効果)を理解あるいは実感している
- 運転時の眠気が消失
- 副作用が少ない。効果が上回る
- いびきが消失し他人を気遣う不安が解消
- 睡眠衛生が改善
◇長期使用者における支障(不満な面)
~アンケート結果(2011年8~9月)より
- マスクまたはバンドの違和感が残る
- 騒音(リーク音、動作音)、風圧が気になる
- 効果の自覚が乏しい
- 医療費が気になる、通院による時間拘束
- 対症療法であることへの不満
- 不規則な睡眠衛生(転寝・仕事など)による装着忘れ、面倒さ
- 出張などによる中断
◇CPAPの副作用
- ①.マスク・バンド
- ②.鼻症状
- ③.口腔咽頭症状
- ④.治療圧設定
- ⑤.機器
- 鼻根部皮膚に潰瘍
- 皮膚アレルギー
- 空気漏れが多い
- 頭・顔に合わない。
- 違和感の残存
- 冬季(12月~2月に最多)の結露
- 鼻汁、鼻閉、鼻内乾燥、鼻内部の痛み、鼻出血
- 粘膜乾燥、咽頭痛、口からの空気漏れ
- 呼気時に抵抗感
- 空気嚥下による胃膨満感
- 耳鳴り/耳痛
- 自身の睡眠習慣が不規則(転寝、夜更かしなど)
- 装着が面倒、装着忘れ
- 仕事(交代勤務など)の影響
- 無意識に外れている(外す)
※個人毎の問題に対処いたします。
◇CPAPを開始時の留意点
CPAP治療が標準治療と言えるには継続率が高いことが必要であり、そのためにはCPAP治療を理解していただくための十分な説明を行います。
- ①睡眠時無呼吸の原因と程度:個人毎
- ②CPAP治療の効果:鼾消失、睡眠の質/昼間の眠気/QOLの改善、生活習慣病や予後への好影響
- ③CPAP治療の代替治療:治療の原理(対症療法であること)と副作用を治療法毎に比較
- ④CPAP治療に対するベッドパートナーの理解
◇CPAP使用の目標
CPAPの長期使用によって、健康へ好影響を与えるにはコンプライアンス70%以上(1日4時間以上使用する日が10日中7日以上)である必要があり、これを使用目標とする。※CPAP開始2年後、(メモリーデータで確認した)コンプライアンス70%以上を維持している人の割合は、76%でした(2010年12月調査結果)。
◇外来通院中の確認事項:
- CPAPメモリー記録:残存AHI、適正圧、リーク量、使用時間、使用開始/終了時刻
- 睡眠衛生:睡眠時間、就寝/起床時刻、使用開始時刻が遅い/終了時刻が早い理由
- デバイスの状態:マスクまたはバンドのフィット/違和感、機器動作音、リーク音
- 鼻通気状態、それがCPAP治療への支障をきたしているか?
- 口内/鼻腔内乾燥、結露、冷気の刺激、暑さによる影響
- 睡眠の質の改善効果、昼間の眠気の自覚的改善効果
- 動脈硬化リスク因子(体重、喫煙、晩酌量)
- 併存する生活習慣病の状況
- 満足度と不満度の相対比
◇残存する眠気への対応
- 睡眠衛生の問題
- 睡眠時無呼吸以外の睡眠障害の合併
- デバイスの再調整
- CPAP治療下で深い睡眠相があるか?
- 薬物の併用
【2】 口腔内装具療法
◇口腔内装具療法の適応
- 口腔内装置の効果が期待できる症例
5≦AHI<15(軽症)の非肥満例
習慣性いびき症
- 口腔内装置の効果がある程度期待できる症例
CPAP治療を継続できない場合で、15≦AHI<30(軽~中等症)の非肥満例
- 口腔内装置の効果が期待しにくい症例
肥満例
AHI ≧30(重症)のSAS
◇口腔内装具の効果期待基準
- 肥満ではない人 (BMI≦30)
- 顎の形態に特徴がある人 (Fx値<80°不詳)
- 体位依存性がある人(AHIが側臥位で仰臥位の半分以下になる場合)
- 軽症(AHI<15)の人
- 喉の奥がよく見える人(mallampati score 4未満)
- 鼻腔内視鏡検査所見:下顎前方位で咽頭部の前後左右の拡大を確認できる人
- 咽頭側壁の脂肪付着が少ない人→首の周径が短い人
- 高齢でない人
- 女性>男性
◇口腔内装具の作製が困難と考えられる場合
- 残存歯数が少い。下顎の歯数が重要。臼歯が前歯部より重要。インプラントは少数なら可。
- 歯周疾患が顕著で動揺歯牙の場合(治療を先行すれば可能な場合あり)。
- 齲歯で治療を要する場合(治療を先行すれば可能)。
- 顎関節症が存在すると、下顎前方移動に制限があり効果が十分でない可能性あり。
- 鼻呼吸が困難(鼻治療を優先する)。
- 自己管理が不可能な場合(口内が不潔になり、長期的にみて不可)。
◇口腔内装具の副作用
- 副作用の多くは一過性、可逆性
- 過剰な唾液
- 口腔内乾燥
- 顎関節の痛み、違和感
- 咀嚼筋の違和感、こわばり、痛み
- 咬合時の歯の接触の違和感(朝のみ)、
- 自分の顎の位置が定まらない(朝1時間くらいで戻るが長く続く人も)
- 稀に永久的な歯の移動・咬合変化
◇口腔内装具療法の長期的効果
睡眠の質や眠気の改善効果を認める。 しかし、心血管疾患の発症予防、生存率の改善、交通事故や災害率の低下に関しては、CPAP治療のような高いエビデンスは現在のところない。
◇口腔内装具の継続性に関すること
- 受け入れ率50~75%
- 毎日ほぼ使用は60%
《 中断の理由》:
- 症状改善が自覚できない
- 装着中の副作用のため
- 変質・破損・逸失
- 歯に合わなくなる
- SASの重症度の変化
- ~
- ・ 短期的・長期的なメンテナンスケアが必要。
- ・ 治療継続中も教授しながら行うことが重要。
【3】 ASV治療
・ASV(Adaptive Servo-Ventilation)は中枢性無呼吸の治療に有効であるが、特に心不全に伴う「中枢性無呼吸-チェーンストークス呼吸」を消失させることにより心機能が改善しQOLの向上も期待できる。コンプライアンスもCPAPより良好で、患者さんに好まれる治療である。CPAP治療では反応(効果)が十分でないときに行います。
【4】 保存的治療・生活指導
- 減量(栄養指導)
- 側臥位保持睡眠
- 鼻治療 (鼻通気の改善)
- 口呼吸の矯正
- 節酒~禁酒
- 禁煙
※講座のお問い合わせ先;
地域医療連携室 TEL 0263-38-6288