六本木の国立新美術館(左写真)に日展を見にいってきた。
ここ数年、毎年、日展には足を運んでいるが、いつも溢れるばかりの 創作意欲に圧倒されて帰ってくる。
今年はネームプレートに黒リボンのついている作品(作者がお亡くなり になっている作品)が気になった。人生の最後まで、筆を握っていたそ の気持ちを想像すると、いよいよ心打たれる思いがする。
思えば、この国立新美術館も、黒川紀章氏の遺作のようなものだ。外 観といい、内部の作りといい、独創的でありながら、落ち着く雰囲気で、 新しいのに暖かく感じた。 | 日展も、何年も通い続けていると、お気に入りの作者が出来てくる。洋画の大友義博氏と木原和敏氏だ。
(大友氏とは個人的な繋がりもあるが、それを抜きにしても、大友氏の描く暖かい世界は、見ているこちらまで幸福 な気持ちになるようで、毎年見入ってしまう。もちろん、お気に入りといっても、二人の作品の小品一つ持っている 訳ではない。見るだけのファンだが…)
特選受賞歴二回の大友氏は「出品委託」、前年度特選受賞の木原氏は「無審査」という形で、今年の日展に作 品を出品していた。二人とも、毎年、女性像を描いて出品しているが、その世界は、とても対照的だ。
木原氏はこれでもかと思われるほどの細密な描写で、髪の毛の一本一本、アクセサリーに宿る小さな光点まで 描き出す。一瞬、肖像写真と見まがうほどの再現力だが、そこには肖像写真では描ききれないような女性の物語 がそこはかとなく感じられて、孤独で切ない。
一方、大友氏は、木原氏のような細密な再現力の世界とは違い、大胆で繊細な色使いを駆使した暖かい世界を 描いている。光の描き方も木原氏のようにディテールで描くというより、全体の雰囲気で描くという感じだ。今回の 作品も、おだやかな陽だまりの午後を思わせる、幸福感にあふれる作品だった。
このように対照的な二人の作品だが、しかし、二人とも、一瞬のうちに、「あ、この人の作品だ」と思わせるだけの 独特のワールドを持っている。自分のワールドを持っている作者の作品はやはり「迫ってくる力」が違うと、つくづく 感じた。
さらに、今回の二人の作品を鑑賞して思ったことは、二人とも、今までのワールドを保ちながら、また新しい世界 に挑戦しているということだ。木原氏は裸婦像を、大友氏は母子像を描いている。今まで、なかったモチーフだと思 う。自分のワールドに、常に新しい可能性を重ね、作品を作り出していくことは並大抵のことではないだろう。
すべての展示作品を観終えた後、また二人の作品の展示室に戻り、目に焼き付けた後、帰路についた。 |