津波の日の最初の夜 3


夜の11時過ぎのNHKのニュース

夜の10時頃には、宮城県の気仙沼市では、
津波による浸水に加えて、火災が発生していることを
NHKのラジオのニュースで知った。 北海道の奥尻島を想い浮かべながら、
災害の全体像はまだ不明だが、大規模な災害になってしまったことは確実だ。 

さらに、夜中の11時15分のNHKのニュースで、

「仙台の荒浜海岸に 200人から300人の遺体が打ち上げられている
との通報がある。 現在、警察、消防など市職員が確認のため現場に向かっている。」 

との、ニュースが飛び込んで来た。 


このニュースを聴いて頭に浮かんだこと4つ

1. 「ああ、まずい、本格的な大災害が起きてしまった。」

気仙沼の津波と火災の規模を考えると仙台の海岸沿いで多数の人が亡くなっても
不思議でないように思えた。 それとは逆に、次のようにも考えた。

2.仙台の荒浜海岸のニュースは怪しい、確認が必要だ。

津波から1週間後ならともかく、津波に洗われた直後に
海岸に200−300人の遺体が並ぶのは不自然だと思った。


3. 1000年前の歴史的津波と同じような大津波が起きたのかもしれない。

前年の仙台の七夕祭りの1週間ほど前におよそ1000年前の大津波の話を聞いていたからである。
しかし、このことを、周りの人に話すのは、まだ早いと思った。


4. 確認にはどのくらい時間がかかるだろうか? 少なくても1時間だ、と考えた。

学生時代に、仙台駅からバスに乗り、下宿の5人で仙台多賀城の菖蒲田海岸に、
海水浴に出かけたことを思い出した。 だから方角はちがうけれども、確認に必要な時間を推測できた。

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夜中の11時40分頃 NHK仙台のニュース

「(宮城県)多賀城市では内陸奥深くまで浸水している模様です。」
との放送を聴いた。 「・・・模様です」 の文末なんて
NHKのニュース らしくないと思った。 でも、それほどの状況なのだろう。
そして、私はこの短いニュースを聴いて確信した。
およそ1000年前の貞観の大津波と同じような大津波と大災害が発生してしまったことを・・・。

なぜならば、前年の仙台の七夕祭りの1週間ほど前に貞観の大津波の話を聞いていた。
さらに、多賀城市の海岸から確か4キロメートル程内陸の地質調査の地層のサンプルを見ていた。
それには、幅が1−2センチメートルほどの貞観の津波による白い砂の層と
その1−2センチメートル程離れた上下に、厚さ1センチメートル程の火山灰の層があった。

そして、その貞観の津波による白い砂の層とその上下にあった
火山灰の層に自分の指で触れさせていただいた体験があったからである。


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やがて、午前零時となる

午前零時のNHKのニュースは皆に聴いてもらうのがよいと考えたので、
発電ハンドルを廻し、大きな音量でラジオを鳴らした。

暗いので表情はわからなかったが、炬燵の上に並んだ人々の黒いシルエットから、
全員ラジオに耳を傾けているようであった。 しかし、12−15分間のニュースの間、
炬燵の周りの人からは、何の声もなく、なんの反応もなく、何の感想も
聞こえなかった。 そういえば、私も、ラジオを聴こえるようにしただけで、
何も言葉を発することはなかった。 全員無言であった。


私にとって、午前零時のニュースは、これまでのニュースの繰り返しで、
新しい情報はなかった。 荒浜海岸の遺体の確認のニュースもなかった。

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