第七話:八景島デート・マニュアル


保土ヶ谷バイパスから横浜横須賀道路へ抜け、並木 IC で降りれば、 もう八景島は目と鼻の先だ。八景島といえばシー・パラダイス。 「恋する遊び島」のキャッチコピー通り、カップルがうようよしているので、 一人で行く場合には背中から哀愁などを出さないよう注意が必要だ。

島内への一般車両の乗り入れは禁止されている。 島の入り口そばにある駐車場に車を停め、料金 1,000 円を支払ったら 早速島へ歩いていこう。走ってもいいけど。

さて、八景島に来たら食わねばなるまい。Piatto のチョコレート・パフェを。

冬季限定バードウォッチャー東京散歩協会認定五級など 様々な横顔を持つ私であるが、チョコレート・パフェ評論家という意外な一面が あることは覚えていてもまったく役に立たない。

どうも最近このチョコレート・パフェという食べ物は肩身の狭い思いを しているのではないか。まじめにコーヒーを飲ませるような店にはメニューに ないことが多いし、ファミリー・レストランなどでは様々な新しいスタイルの デザートに挟まれ、地味でオーソドックスな印象を醸し出してしまっている。 その名前の由来を「パーフェクト」に持つという凄まじいデザートのはずなのに、 である。一日も早い復権を願うものだ。

基本的な味は生クリーム、バニラアイスクリーム、そしてもちろん チョコレートで形成されているものこそが王道だ。 クリームにチョコレートシロップが溶け合い、さらに チョコレートアイスクリームが「これでもか!」という感じでチョコレート・パフェ というデザートの本質を熱く叫んでいるようなものこそが美しい。 フルーツにはその存在意義を認めない。ミカンやサクランボなどが 飾られているというのは良くあるケースだが、これらの爽やかさは本来 チョコレート・パフェとは無縁のものだ。許されるのはバナナぐらいである。

自由が丘のボイルストンという店にあるパフェは、ハードなファンを納得させる 逸品なのだが、町田東急ハンズ内にあるボイルストンのパフェはまったく頂けない。 をを、チョコレート・アイスクリームだ、素晴らしい、と思ってそっとスプーンを 差し入れ、口へと運んでみるとそれはモカ・アイスなのだ。こんなことが許されて 良いものなのか。もちろん否である。即刻その態度を改めるべきである。

そもそもこのモカ・アイスという物体はチョコレートファンにとっては敵である。 期待させておいて裏切る。なんという卑劣な輩であろうか。ちなみにうちの嫁は レーズンがあまり好きではない。理由は「チョコチップだと思って食べると 違うから」だそうである。馬鹿夫婦である。とほほ。

さて、話を八景島に戻そう。売店やレストランが並ぶエリアの端の方に その店「Piatto」はある。いかにもイタリア料理出しまっせという店構えの割に レジのそばにはシューマイが置いてあったりして、よくよく店の看板を見ると 「Kiyoken」という文字があったりしてなんだかよく分からないのだが、 ここでめげてはいけない。迷わず店内へ入り、男らしくチョコレート・パフェを 注文しよう。堂々としたキミの態度に彼女もメロメロだ。

出てきたパフェを眺めてみよう。 パフェらしい、底の尖った器には、まず軽くチョコレートシロップ、そして コーンフレークが軽く盛られている。その上にチョコレート・アイスクリームと バニラ・アイスクリーム二種類の半球が。さらにその上に飾られた生クリームと チョコレート・シロップがベーシックなシェイプを形作っている。 生クリームには扇形のさくさくしたゴーフルが添えられる。

このパフェのポイントは最上段に載せられたミニ・エクレアだ。エクレアであるから もちろんチョコレートでコーティングされている。怒涛のチョコレート、 とでも命名したい出来栄えだ。 そろそろ読んでいる皆様は胸が悪くなってきたのではないかと思うのだが、 書いている私はもっとつらいのだから我慢するのだっ。

さあ、この怒涛をぺろりと食べたら甘いゲップに噎せ返りながら表を歩こう。 高く高く聳え立つ棒が見える。少し近づいてみると、何やら棒には椅子がついている。 椅子には人が括り付けられている。椅子と棒はゆっくりと棒の先端まで 登って行き、登り切った途端に落下する。棒の高さはチラシによると 「世界最高 107 m」だそうだ。

絶叫マシンフリークスのあなたも満足。これが八景島名物「ブルー・フォール」 である。え、私は絶叫マシンなんて嫌い? いやこんなの見かけ倒しだって。 大した事ないよ。多分。だいじょぶだいじょぶ。すぐ終わるよ。はいチケット。

ちなみに「パフェの直後にブルー・フォール」というのはスリル五割増しである。 けっ。ナニが絶叫マシンでえ。ラクショーだぜ。というあなたには是非お勧めしたい コースである。

椅子に座り、身体を保護するバーを降ろすと、いよいよ登り始めます。 乗ってみるとかなりの速度で登っていくことが分かります。 周りでは「ちょっとー」「やめときゃよかったー」とかいう声が聞こえてきます。 登っている時点で早くも悲鳴を上げている人もいるようです。 多分この時点では半分も登っていません。さらに上昇は続きます。 こりゃ高い。海や街が一望。うひょひょひょ。げっぷ。

停止。

一瞬の静寂。

いきなりの落下。

ををっ。こりゃ面白いっ。しかしものすごい悲鳴を上げてるのがいるなあ。

ジェット・コースターだと「面白いポーズ/顔をする」「歌を歌う」など 縛りを設けて一人遊びも出来るのだが、フリーフォール初体験ということもあり、 余裕がなかったのは残念だ。精進したいところである。 あまりに一瞬で終わってしまうこと、 その一瞬が 1000 円もするという二点が難であるが、 スリルはなかなかのもの。お勧めです。

その他八景島には水族館などもあるようだが TPO に合わせて行ってみるのも 良いだろう。さて俺は帰るぞ。パフェも食ったし大満足。あー面白かった。

いかがだったであろうか。皆さんもこのマニュアルを参考に、恋人と楽しいひとときを 過ごして頂きたい。成功を祈る。

ところで、本マニュアル通りに行動したところ、連れに 「本気で絶叫したのは久しぶり」 「昔はスケートで騙されたがまたやられた」 「首が痛くなった」「髪が白髪になった」 「二度と八景島には来ない」「一週間おやつ抜き」 …などのコメントを頂いた。なんじゃ絶叫は君か。えっ。怒ってんの? ありゃりゃ。

諸君。本マニュアルを参考にするのは、今しばらく待った方が良いかもしれない。


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