病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

二十一歳D


 旭日(きょくじつ)が昇る。

 東から白々と明け始める紺碧の空。普段なら目覚めた鳥達のさえずりが聞こえ始める時間帯、朝露に濡れた大地を踏みしめ、イズーリ領へと続くテラハ領の丘陵地帯を物々しい装いで征(ゆ)くのは、騎兵と歩兵からなる長い人馬の列だ。

 その先頭で馬の手綱を握る大柄な壮年の男は、かつてアズール王国で騎兵長の役に就いていたカルロである。

 現在は自らが組織したレジスタンス「比類なき双剣(アンパラレルドゥ・デュアル・ウィールド)」を率いる立場となった彼は、並々ならぬ思いを胸にこの行軍に臨んでいた。

 武人らしい強面には古い傷痕が幾筋も走り、過酷な道を歩んできたであろう彼の人生を窺わせる。四十代半ばを超えてなお筋骨隆々とした肉体にも同様の痕跡が刻まれていることは、想像に難くない。そんなカルロの背後に続く八千の軍勢は、彼が残る人生の全てを捧げ、心血を注いで築き上げた執念の結晶で、彼と志を共にする者達だ。

 目指すはゼルニア大橋―――そこで祖国を踏みにじった怨敵、皇帝グレゴリオを待ち伏せ急襲する。

 この地一帯を我が物顔で蹂躙する大帝国に皇帝の暗殺という形で一矢報い、その混乱に乗じてこの手に光を―――祖国のカリスマにして王家唯一の生き残りであるスレンツェ王子を取り戻すのだ。彼を組織の指導者に据え、帝国に反旗を翻す旗印とする。そして、反帝国の急先鋒として志を同じくする諸勢力と結託し、一大勢力にまとめあげて、憎き帝国を必ずや打ち滅ぼす。

 そして、やがてはスレンツェ王子の下(もと)、アズール王国を再興するのだ……!

 野望に燃えるカルロの瞳が、遠く前方に騎影を捉えた。見間違いではない。丘陵の上に三騎ほど―――ゆっくりと丘を下り、どうやらこちらへと近付いてくるようだ。

 それに気付いた側近がすぐさま望遠筒を用いて対象の確認を取る。

 先行させた斥候(せっこう)からは、この周辺に特に異常は見られず問題なし、との報告を受けていたはずだが―――どこから湧いてきた?

 眼光鋭く見つめるカルロの傍らで、望遠筒を覗いていた側近が驚きの声を上げた。

「! あれは……! 先頭の一騎は、エレオラです!」
「エレオラだと?」

 カルロは片眉を跳ね上げた。

 エレオラは組織の古参メンバーの一人で、元はアズール王国の中堅貴族だった娘だ。真面目で聡く、スレンツェとの不思議な縁(えにし)に恵まれ、組織にとってしばしば貴重な情報をもたらす役割を果たした。カルロにとっても信頼のおける配下だったが、ブルーノの出現によってその関係に齟齬が生じた。実際にスレンツェと接触し行動を共にしたエレオラには、彼の使いを名乗るブルーノがどうしても信用出来なかったらしい。

 再三カルロに今回の作戦を思いとどまるよう忠言をした後、それが受け入れられないと悟ったエレオラは、組織から姿を消した。

 彼女の失踪はカルロに多少の衝撃を与えはしたが、それで彼がこの作戦を思いとどまることはなかった。カルロとて、当初からブルーノを信用したわけではない。様々なことを考慮した上で判断したことなのだ。

 ―――そのエレオラが……?

「残りの二騎は?」

 カルロの問いかけに望遠筒を覗いていた側近が喉を震わせた。

「……っ! 一人は身分の高そうな身なりをした、金髪の若い男です。もう一人は……! 黒髪の黒衣の男で、そ、双剣を携えています……! まさか、あれは……!?」
「双剣だと?」

 カルロは馬の足を止め、近付いてくる騎影に目を凝らした。肉眼でも輪郭が捉えられるようになってきた三つの騎馬は、戦意がないことを示すように馬上で両手を上げているように見える。

 やがてカルロ達から五馬身ほどの距離を置いて足を止めた三騎の先頭にいたのは、やはり姿を消したエレオラ本人だった。

 その左右に控える馬上の人物を確認したカルロは、我が目を疑った。

 エレオラの向かって左、白い外衣を纏った身なりの良い金髪の青年は、その容貌の特徴から察するに、おそらく帝国の第四皇子フラムアークだろう。

 そして、右側の今一人―――黒衣に身を包む精悍な顔立ちをした黒目黒髪の青年は、時の流れで記憶の中よりだいぶ男ぶりを増しているが、間違いない―――カルロが全身全霊をかけて救い出したいと願い続けてきた、希望の光―――かつて年端も行かぬ身でありながら近隣諸国に武勇の名を馳せた、アズール王家最後の生き残りにして最大のカリスマ―――……!

「スレンツェ様……!」

 大きく目を瞠り、愕然とその名を呼んだカルロに、相手はかすかに微笑み、幾分渋みを増した声を返した。

「久しいな、カルロ」
「これは……本当に、貴方様なのですか。ど、どうしてかような場所に!? エレオラ! これはいったい―――!?」

 想像だにしなかった事態にさすがに動揺の色を隠せないカルロへ、エレオラは簡潔に答えた。

「カルロ様、ブルーノはやはりスレンツェ様の手の者ではなかったのです。これは、宮廷の陰謀が絡んだ罠です。私はそれを確かめる為にスレンツェ様の元へと飛び、フラムアーク様のご助力を得て、あなたにこの事実をお伝えする為、この地へ参りました。詳しい説明は後ほど致します。どうか今は取り急ぎ、この場からお引き下さい。お願い致します」
「何だと!?」

 目を剥くカルロの前でスレンツェがエレオラの言葉を肯定した。

「本当だ。オレはブルーノという男に覚えがない。クーデターの話も寝耳に水で、エレオラから聞くまで全く知らなかった。そいつの言うことは全部デタラメだ」
「何と……!」

 絶句するカルロに向けて、フラムアークが静かに告げた。

「ブルーノの後ろにはおそらく私の兄がいる。相手の目的は私だ。君達をだしに使ってスレンツェもろとも、目障りな私を失脚させようとしているんだ。君達の行動はあちらに筒抜けで、それを想定した罠が張られているはずだ」
「……!」
「このまま進軍しても得るものは何もない。みすみす組織の者を死なせるだけだ。ここは我々の言葉を信じて、大人しく引いてはくれないだろうか」

 カルロはぎらついた眼差しでフラムアークを見据え、その真意を質(ただ)すように問いかけた。

「……第四皇子フラムアーク、様―――ですな。あなたは我々が反帝国を掲げるレジスタンスと知りながら、このまま見過ごすと言われるのか。帝国の第四皇子という、その立場にありながら」

 フラムアークは迷わず首肯した。

「帝国の第四皇子だからこそ、だ。君達はまだ何も事を起こしていない帝国の民であり、私にとっては守るべきものなのだから」
「は……」

 それを聞いたカルロの口元が凄絶に歪んだ。

「戦争で無理やり自国民にしておいて、何を―――これはまた、ずいぶんとお優しい詭弁ですな。我々はいずれ、あなたに危害を加えることになる民であるやもしれませぬのに」

 多分に皮肉を含んだ物言いだったが、フラムアークは動じなかった。

「ああ。そうかもしれないし、そうでないかもしれないな。未来(さき)のことなど、誰にも分からない。今はまだそれを決めつけるべき時ではない」
「…………」

 カルロはフラムアークをねめつけるようにしてしばし沈黙した。スレンツェとエレオラに視線をやり、それから再びフラムアークへと視線を戻して、ひび割れた唇をゆっくりと開く。

「……あなたのことは信用出来ないが、スレンツェ様とエレオラは私にとって信ずるに値する人物だ。分かり申した―――ブルーノにまんまと踊らされた己の不甲斐なさを猛省し、この場は引くとしましょう」

 フラムアークはカルロの潔い決断に内心で瞠目した。理知的に状況を捉え、自らの過ちを速やかに認めたその度量は一軍の将に足るものであった。

「カルロ様……!」

 エレオラの顔が喜色に輝く。カルロはそんな彼女へ詫びの言葉を口にした。

「エレオラ。お前の諫言(かんげん)にもっと耳を傾けるべきだった。すまなかったな」
「いいえ! いいえ……!」

 涙ぐみながらかぶりを振る彼女に、カルロはわずかに瞳を細めて自戒した。

「時間ばかりが過ぎていく現状に、逸りと焦りで私の視野はいつの間にか狭まっていたのやも知れぬな……お前には礼を言わねば。むざむざ敵の計略に嵌まるのを未然に防いでくれただけでなく、こうしてスレンツェ様を我らの元へと導いてくれたこと―――。作戦は敢行前に頓挫(とんざ)とあいなったが、お前のおかげで誰も失わずに、我々にとっての宿願を果たすことが出来たようだ―――長い間待ちかねていた、君主の帰還という大望をな」

 カルロは感慨深げにそう言って、エレオラの右背後に佇むスレンツェへと手を差し伸べた。

「―――さあスレンツェ様、共に参りましょう。我らが故郷、アズールへ」

 疑いなく手を差し出すカルロを前に、スレンツェは苦し気な面持ちになり、自らの決断を伝えた。

「すまない―――カルロ。オレは、行けない」
「!? 何故です!?」

 カルロが狼狽の声を上げる。スレンツェはカルロを真っ直ぐに見つめて、彼に対する深い感謝とその誘いを断る理由を述べた。

「お前がオレの為にずっと尽力してきてくれたことは、エレオラに聞いて知っている。何もかもを失くした絶望の底から這いあがり、あの戦争で寄る辺なくなった者達の居場所を作って今日(こんにち)まで守り続けてきてくれたこと、感謝の念に堪(た)えない。それこそ、言葉では言い尽くせない程の苦難を伴ったことと思う。お前には本当に、感謝してもし足りない。だが、オレはお前と共に行くわけにはいかない。
お前も現在のアズールに暮らす者達をその目で見ているだろう。かつてのアズールの民もいれば、帝国から移住してきた者もいる。先の戦争から長い時間をかけて街は復興を遂げ、新たな命も数多く生まれた。アズールでは今、大勢の者達が再び平和に暮らしている。オレがお前の元へ行くということは、その平和を壊すということだ。再び戦火の幕が上がり、第二、第三のオレ達のような者を生み出すということだ。
オレの胸にも決して消えない無念の思いはある。国の再興を期する思いもずっとあった。だがそれは、現在の平和を壊してまで望むべきことじゃない。オレは戦火を起こすのではなく、別の形でアズールと関わっていく道を模索していこうと思う」

 スレンツェの言葉に黙って耳を傾けていたカルロは、いかつい頬骨に力を込めた。

「別の道とは何です? 我々の平和を、日常を踏みにじったのは帝国側ではありませぬか。彼奴等(きゃつら)に城も街も破壊し尽くされ、兵も民も、我々の家族も―――大勢の者が死にました。今のアズールは帝国が作り変えた紛い物です。平和に見える光景は、彼奴等によって作り出された仮初めの風景に他ならないのです。表立って声を上げていないだけで、帝国を憎むアズールの民は現在も数多くいます。貴方が我々と共に来て声を上げて下されば、貴方の下に集う者は今も大勢いるのです」
「そうかもしれない。だが、それを望んでいない者も一定数いるはずだ。戦争が起これば、ここにいるお前の部下達にも少なからぬ犠牲が出る。それ以上に数え切れない命が散っていくことになるんだ。更なる犠牲を強いて、その屍の上にアズール王国を再興したとして、何になる」
「国家とは、古来よりそういうものではありませぬか。一滴の血も流れずして作られた国など、ありません。我々は誰一人として、死を恐れてなどおりませぬ!」
「そうだな……お前のその言葉に嘘はないんだろう。祖国を、アズールを思うお前達の気持ちは嬉しい。武人として、その覚悟は立派だとも思う。だが、義勇と蛮勇を取り違えてはならない。お前達にその覚悟はあっても、否応なしに巻き込まれてしまう多くの民にその覚悟はないんだ。オレ達が憎むべきは先の戦争を起こした皇帝グレゴリオと帝国の重鎮達であって、帝国の民ではない。アズールの民も彼らも、オレ達の復讐に巻き込むべきではないんだ。
何よりオレはお前に、お前達に生きていてほしい。もう誰一人として、同胞を失いたくはないんだ」
「スレンツェ様……」

 低い声で唸るカルロに、スレンツェは己の胸に手を当てがい呼びかけた。

「カルロ、一緒に考えてみてはくれないか。戦争を起こすのではなく、別の形で我らの故郷を守り、繁栄させていく方法を。皆で、共に生きていく道を」
「貴方はあくまで、帝国との武力衝突に反対されると言うのですか。報復を是とせず、我々にこのまま、帝国に蹂躙されたまま耐え忍べと―――それでは、先の戦争で死んでいった者達の無念はどうなるのです!? 全てを奪われた我々の怒りの矛先は、どこに向ければ!? 我々にアズールを託して逝った者達の魂を、貴方は路傍に捨て置けと言われるのか!」
「それは違う!」

 強い口調でスレンツェは否定した。

「彼らのおかげでオレ達は今、こうして生きている。彼らが命を賭して、オレ達を生かしてくれたんだ……! その命をもっと大切にすべきだと、そう言っている……! オレ達は、今生きていることの意味をもっとよく考えるべきなんだ! オレ達の命は、こんなふうに簡単に投げ出そうとしてはいけないものなんだ!」
「言葉に気を付けられよ! 我々は軽々しく命を投げ出そうとしているのではない、断固たる決意の元にそうと決めて、その為に全てを捧げようとしているのだ! スレンツェ様、貴方もその目でご覧になられたはずだ……! 帝国兵によって無残に散っていく同胞達の姿を! 迸(ほとばし)る悲鳴を! 無念に彩られた末期(まつご)の叫びを! 貴方の耳には彼らの声が聞こえなくなってしまったのか……! アズール随一の剣豪にして剣聖と称えられた我らが王よ!!」

 激昂するカルロにスレンツェはかぶりを振った。

「彼らのことは、一日とて忘れたことはない! 彼らの血を、一族の血をこの身に浴びて生き長らえたオレは、それを一生背負って生きていく! どれほど無様な姿を晒そうとも生き抜いてアズールに関わり続け、見届けることこそがオレに課された責務だと、そう考えている! 彼らの犠牲を呪いに変えてはいけない、子々孫々に続く憎悪の螺旋の始まりにしてはならないんだ!」
「何故我らだけが戦争の理不尽に、煮えるような憎悪の滾(たぎ)りに甘んじて耐えねばならない!? 何故我らだけがそれを強いられねばならぬのだ! 仇を取りたい、故郷を取り戻したい、帝国に我らと同じ苦しみを味わわせたい、そう願うことのいったい何がいけないというのだ!!」

 激情に駆られ、冷静さを失っていくカルロにスレンツェが必死で言葉を紡ぐ。

「お前達のその気持ちはオレにも痛いほど分かる! 根源にある思いは一緒だからだ! カルロ! 落ち着いてオレの話を聞いてくれ!」
「いいや、貴方は分かっていない! 長い年月の間に貴方は帝国に毒されてしまわれた、奴らの考えに染まってしまった! 今の貴方は帝国によって洗脳されてしまっているのだ! それを解く為にも、力尽くでも我らの元にお連れしますぞ! 我らの元で今一度ご自身の役割を見つめ直し、アズール王家の血を引く者としての自覚と誇りを思い出されるが良い!」
「―――カルロ様、お待ち下さい!」

 エレオラが悲痛な声を上げ、修羅の形相で進み出るカルロの前に立ちはだかった。

「お願いです、どうかスレンツェ様のお話をお聞き下さい! スレンツェ様は―――!」
「どけい、エレオラ! 話はアジトでじっくりと聞く!」
「カルロ、頼むから冷静になって話を聞いてくれ……! オレは―――!」
「ええ、アジトでいくらでも聞きますとも、さあ一緒にお越し下さい!」

 聞く耳持たぬ風情のカルロは強引に馬を進め、エレオラを押しのけてスレンツェへ詰め寄ろうとする。

「カルロ様ッ! おやめ下さい!」

 必死で押しとどめようとするエレオラを振り切ろうとするカルロに、フラムアークが馬上から呼びかけた。

「カルロ、冷静になるんだ。君を慕う者、君に従う者をむやみに死なせてはならない。どうか私に君を斬らせないでくれ」

 殺気立ったカルロは血走った眼(まなこ)を憎き帝国の第四皇子へ向けると、一笑に付した。

「笑止! あなた如き青二才が、この私を斬れるとでも? 冗談も大概にしていただこう! フラムアーク様、あなたにも共に来てもらいますぞ―――そう、我らの人質として!」

 そう言い放つやいなや、カルロは節くれ立った右手を上げた。

「スレンツェ様と第四皇子を確保しろ!」

 交渉が、決裂に終わる。

「カルロ……!」

 瞑目したスレンツェはきつく奥歯を噛みしめ、背を翻(ひるがえ)した。無念の表情でエレオラもそれに続く。同時に馬の手綱を操りながら、フラムアークが叫んだ。

「ユーファ!」
「逃(の)がすな! 捕えよ!!」

 下ってきた丘を駆け上がっていく三騎を追うカルロの軍勢は、その時、響く馬蹄の音に気が付き、反射的に足を止めた。その眼前で、丘を登り切りこちらを振り返った三騎の背後から、未確認の軍勢が姿を現す。

 それを目にしたカルロはギリ、と歯噛みした。

 仮にも帝国の皇子たる者が、ろくに護衛もつけずこのような場に現れるわけがないとは思ったが、やはり兵を忍ばせていたか―――。

 この周辺は丘陵地帯の中でも比較的傾斜がきつく、カーブが続いて見通しが悪い場所だ。相手はその地形を上手く利用してこちらの斥候の目を欺いたのだろう。

 だが、逆に言えばそうやって隠せる程度の兵数でしかないということだ。

 エレオラが姿を消してから今日まで、それほど時間があったわけではない。相手が皇太子と言うならまだしも、不遇された立場にある第四皇子がこちらの兵力に対抗し得るだけの戦力をこの短期間で用意し得るとは思えない。宮廷の謀略が絡んでいるのであれば、尚更だ。

 丘の上からこちらを見下ろす相手の兵力は全容が知れないが、冷静に考えてこちらを上回っていることはないだろう。おそらくはこちらの半分もいまい。

 ―――ならば、行く。

 目の前には取り戻すべき存在がいる。ようやく、悲願の第一歩に指がかかるところまで来たのだ。この機会を見逃すわけにはいかない。

 作戦は敢行以前に頓挫し、ここでスレンツェを取り戻せねば、何の為にここまで出向いてきたのか分からない。同胞達の士気が著しく低下することは免れず、組織の今後に大いなる悪影響を及ぼすことになるだろう。ここで退く術(すべ)はない。

「皆、心して聞け! 敵兵力はおそらく我らの半分にも満たぬはずだ! ここは正念場だ! 己が宿願の為に勇気を燃やせ! 薄汚き帝国のクズ共から、我らの手に希望の双剣を取り戻すのだ!!」

 剣を抜き放ったカルロの咆哮に、鬨(とき)の声が上がる。

 こうして、“比類なき双剣(アンパラレルドゥ・デュアル・ウィールド)”と第四皇子(フラムアーク)率いる即席の連合軍は、望まぬ相対を果たすこととなったのだ―――。
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