全身を甘く苛む気怠い余韻に包まれながらふと気が付くと、薄闇の中、わたしの上に重なるようにしたドルクが優しくわたしの髪を梳きながら静かにこちらを見つめていた。
「……あれ? わたし……」
どうしていたんだった……?
ぼんやりと瞳を瞬かせながら彼を見つめ返し、周囲に目を走らせる。辺りは蒼い夜の闇に包まれていて、わたし達がいるのは天蓋付きの広いベッドの上だった。
そしてわたしも、わたしの上からこちらを見下ろすドルクも、一糸纏わぬ姿で―――。
唐突に先程まで彼と愛し合っていたことを思い出し、顔から火を噴きそうになる。わたしはそっとおでこにキスを落としてくる彼に真っ赤になりながら尋ねた。
「―――わ、わたしもしかして、気を失っていた?」
「ええ。ほんの短い間ですけど」
そう返されて、絶句する。
うわぁ、マジか。抱かれて気を失うなんて、初めての体験だ。
「ち―――ちなみに、どのくらい?」
「数十秒といったところですかね……身体、大丈夫ですか?」
「……うん、多分」
それを確認しようと身体を動かしかけたわたしは、その時になってようやく、自分がまだドルクと繋がったままなのだということに気が付いた。しかもわたしの中の彼は、どうやら完全に復活しているようだ。
「えっ? あれ!?」
思いがけない状況に戸惑うわたしを見やったドルクは穏やかに微笑むと、自らの上体を起こし、わたしの膝裏を掴みながらこう言った。
「おかしなところがないか、動かして確かめましょうか」
両の膝裏を持ち上げるようして脚を開かれ、ひたりと腰の位置を定められて、覚醒したてでまだおぼつかない頭のわたしはあせった。
「えっ、ちょ、ちょっと―――」
冗談なのか本気なのか半信半疑でいるうちにわたしの中を埋めていた彼のモノが入口ギリギリまで引き抜かれて、その刺激に腰が泳ぐ。
「ぅんっ……!」
あ、ダメ……! イッたばかりで、スゴく敏感になってる……!
先っぽだけで繋がっている状態になり物欲しそうに震えてしまうそこへ、ドルクが屹立した自身を再び根元まで埋め込んでいくと、そこから腰が蕩けてしまいそうな甘美な痺れが広がって、わたしは大きく吐息を震わせた。
「はっ……! あぁっ……!」
「痛くないですか……?」
囁きながら再びギリギリまで腰を引く彼に、わたしは身体をびくつかせながら訴えた。
「ダ、ダメ……! イッたばかりで、敏感になってるのに……!」
「『初めて』が体験出来て良かったです。でもさっきはオレも余裕がなくて、あなたのその顔を瞼に焼きつけることが出来ていなくて……だからもう一度、見せて下さい。あなたのイキ顔」
恥ずかしくなるようなことを言いながら熱い楔を深々と穿たれ、たまらず腰が跳ねる。
「はぁっ、ああっ!」
「あなたがオレを飲み込んでいく光景は、刺激的でたまらないな……分かります? あなたの奥まで、オレが入っているのが」
それを知らしめるように何度も何度もゆっくりと深く抜き差しされ、喘ぎと共に新たな愛液がしとどに溢れて内腿を濡らしていく。
リルムが男性用の避妊具を使うより、避妊薬を飲んだ方が生で挿入出来るから気持ちがいいし相手の形が分かると言っていたけれど、本当だった。
わたしの中に入っているドルクの形が分かる。その先端で奥のいい部分を突かれると、気持ち良すぎておかしくなってしまいそうだった。
「ぁんっ、はっ、わ、分かる……いいっ……」
目を閉じてその感覚を追いながら、わたしは無意識のうちにそう口走っていた。
「……っ」
ドルクの吐息が荒ぶった。緩やかな腰使いが性急さを増して、愛液と精液で滑りの良くなった膣内を彼の剛直が猛々しく行き来する。
「んんっ、あぁっ!」
結合部分から激しく濡れた淫らな音と肉を打つ荒々しくリズミカルな音が響き、こすれる部分がたまらない熱を帯びて、わたしの理性を溶かしていく。
「ぁん、ぁん、ぁん、ああっ……!」
チカチカと視界が明滅して腰が甘く痺れ、下腹部が蕩けてなくなってしまうかのような強烈な快楽がわたしの意識を再びさらっていこうとする。
連れて行かれる。また、あの高みへ。
「あッ……あ―――ッ! あああああぁ―――ッ!」
大きく反り返って喉を晒し、ガクガクと身体を震わせながらわたしは二度目の深い絶頂を迎えた。達して、奥へ奥へと引き込もうとする襞の動きにわたしの中のドルクが大きく震え、吐精する。
「―――っ、はッ……」
ひどく色気のある声を漏らした彼の整った顔に月明りと長い睫毛の陰影が落ちて、ひと際艶(あで)やかに映った。
―――わたしもこの顔、さっきは見れなかったな……何て顔するんだ……。それに、何て色っぽい声……男の人の声をこんなに色っぽいと感じたの、初めてだ……。
絶頂の余韻にかすみがかる意識の片隅でそんなことを思っていると、そのドルクの顔が近付いてきて、深いキスをされた。
「んっ……んんっ……」
まだ呼吸の整わないわたしの舌を捕えて優しく吸い上げ、緩やかなクセのある赤毛に指を絡めながら大切そうに抱きしめる。彼はそうしながら妖艶な瞳を細めてわたしに囁きかけた。
「オレの腕の中で啼(な)くあなたは、例えようもないほど可愛いな……もっともっと、啼かせたくなる……」
魔的に煌めくその双眸はわたしの心の奥深くまで照射して、その言葉はわたしの女の部分を著しく刺激した。
彼に魅入られて、魅させられて、身体の奥底から震えが来る。
あなたはわたしをどこまで虜(とりこ)にするんだろう。わたしはどこまで、あなたに溺れていくんだろう。
ランドルク―――例え開眼していなくとも、あなたの瞳は紛れもなく魔眼だ。強烈なその引力に惹きつけられて、わたしはもう、完全にあなたに囚われてしまった。
改めて、その想いを自覚する。
「あ……あんたこそ。男のクセに、色っぽ過ぎ……」
そんな内心を押し隠して呼吸を整えながらどうにか言葉を紡ぎ返すと、それを聞いた彼の顔が悪戯っぽく輝いた。
瞬間、思った。
しまった、これは藪蛇だったかもしれない。
「へえ? そうなんですか? どの辺りが?」
「……っ、秘密」
顔を覗き込むようにして尋ねられ、追及をかわそうと反射的に彼の下で身をよじり背を向けると、未だ繋がったままだった彼自身が中でこすれてはしたない声を上げてしまいそうになり、わたしは自分のうかつさを呪った。
そ、そうだった―――まだ、ドルクと繋がって―――ああもう、バカ、自分で自分の首を絞めてどうするんだ!
身体を強張らせて密かに堪えるそんなわたしに気が付いていないということはないだろうに、ドルクは素知らぬふりで後ろからわたしを抱きしめると、うなじにそっと唇を押し当ててきた。
「んっ……」
びくっとするわたしの反応を楽しむようにそこへ何度かキスを繰り返した後、ゆっくりと唇を滑らせてわたしの耳朶へたどり着き、柔らかく食みながら笑みを含んだ声で囁く。
「ぜひ、聞いてみたいんですけど」
「聞くほどの、ことじゃ……」
「気になりますよ。あなたがオレのどこを色っぽいと感じてくれたのか」
言いながら耳朶から首筋へと移動した煽情的な唇が微妙な触れ加減を保ちながら、わたしの身体にくすぶる埋火をじりじりと煽っていく。わたしは自分の吐息が悩ましいものへ変えられていくのを感じながら、彼の言い分に妙に納得してしまっていた。
まぁ……それもそうだよな、逆の立場だったらわたしも気になるもんな。
でもこれまでの経験から、これは何となく危うい前兆のような気がして警戒してしまう。言わない方がいいと、わたしの直感が訴えている。
答えるのをためらうわたしを促すようにドルクは濡れた舌先を背筋に這わせ、更に腕と腋の隙間からするりと手を差し込んでわたしの胸を弄び始めた。
「あっ、ちょっ……!」
掌でふくらみを包み込むようにしてやんわりと揉みながら親指と人差し指で色づいた尖りをすりすりと扱(しご)かれて、制止の声もしぼんでしまう。
「やっ……ぁぁっ……」
ダ、ダメ……力、抜けてく……。
「教えて、フレイア? オレのどこを色っぽいと感じてくれたんですか?」
ドルクは絶妙な技巧でわたしのそこを追い詰めながら耳朶に唇を寄せて囁くと、なおためらうわたしを促すように尖り切ったそれをきゅっと摘まみ上げた。
「んんっ! はっ……あ、あんたの、イッた時の声と、顔がっ……艶っぽくて、煽情的でっ……」
たまらず白状すると、それを聞いたドルクが口角を上げ、動く気配が伝わってきた。
「へえ? なら―――もう一度、再現してみましょうか?」
「あっ!?」
後ろから腰を高く持ち上げられ、頭を低くする姿勢を取らされて、繋がったままいつの間にか回復していた彼自身の位置を微調整されて、自分の予感が当たったことと取らされた体勢の恥ずかしさに目を見開く。
ウソ!? こんな休みなく―――そ、それにこんな―――!
「待っ―――」
驚いて制止しようとするわたしの言葉を待たずに、膣内に埋まっていた彼のモノが入口ギリギリまで引き抜かれて、その刺激に吐息が凍る。息を詰め背を震わせていると後ろから勢いよく熱い楔を打ちつけられて、今までとは角度の違う深い挿入に喉から切ない声が迸った。
「あぁ―――っ……!」
最奥まで貫かれると、目の前に火花が散って見えるようだった。
「ふ……あぁっ……!」
身体をわななかせて顔をシーツに突っ伏すわたしの臀部をゆったりとなでてくるドルクに、わたしは声を絞り出しながら抗議した。
「ず……ずるいっ……それに、これじゃ、あんたの顔、見えないじゃんっ……」
「そうですね……でも、声は聞こえますよ? 次の体位は顔が見えるのにしますから、許して下さい」
さらりととんでもないことを言われて、わたしは耳を疑った。
「えっ!? ま―――まだするの!?」
立て続けに三度ヤッて、またこの上!?
む、無理だ! 身体、持たない! 壊れる!!
「今夜は寝かせない、って言ったでしょう?」
そ、それは確かに聞いたけど、まさか、それを地で行くとは思わないじゃん!
「し―――死ぬ! 無理だから!」
悲鳴のような声を上げるわたしにドルクは涼し気な声を返した。
「無理かどうかは、試してみないと」
「お……鬼か!」
「ノンストップとは言っていませんよ? オレもそれは無理ですから……ちゃんと休憩は挟みますよ」
「そ、それにしたって……!」
なおも言い募ろうとしたわたしは、不意に結合部分を指ですい、となぞられて、ビクンと背筋をのけ反らせた。
「ずっとずっと抱きたかった女(ひと)をようやく抱けたんです―――これで済むと思っていたんなら、甘いですよ」
繋がった縁をなぞるようにしてゆっくりとたどられ、そのすぐ先にある剥き出しになった神経の粒を愛液を纏わせた指先で押し潰すようにして刺激されると、わたしはもう言葉を発することが出来ず、そこがぐしゃぐしゃに蕩けてしまいそうな快感に襲われながら半泣きになって身悶えた。
「ひ、ダメぇッ……!」
わたしにきつく締めつけられたドルクが色づいた息を漏らしながら律動の開始を告げる。
「―――はっ、……動きますよ」
彼がわたしの臀部を掴むようにして抽送を始めると、淫らな音と共に子宮に響くような深くて重い快感が伝わってきて、わたしはもたらされるその衝撃に切なく眉をひそめながら、シーツに頬を押し付けるようにして喘いだ。
「あッ……ぁんッ! ああああッ!」
立て続けに三回も抱かれて、何度もイカされて、もう、何が何だか分からない。快感を植え付けられて身体がおかしくなっているみたいだった。
激しくなる律動と共に、またあの気が遠くなるような感覚が近付いてくるのが分かる。
女であることを思い知らされ、女であることに悦びを感じながら、わたしはその予兆に心と身体を震わせた。
これから何度、体感することになるのだろう。彼と共にひとつになって昇り詰める、全てが満たされて蕩けるような、あの頂を―――……。