魔眼 あなたには、敵わない

03


 果実酒の淡い残香が重なる唇の間で溶け合い、互いの理性を蕩かして、室内を濃厚な夜の気配に包み込んでいく。

 下着姿のフレイアの上に重なるようにして彼女に深く口づけながら、オレは程良い大きさの胸を両掌で包み込むようにしてやんわりと揉みしだき、柔らかく弾力のある質感を愛でながら、腋の下の少し下から外側の胸の輪郭にかけての場所を優しくマッサージするように刺激していく。

 最初の頃はここを触るとくすぐったがって嫌がっていたフレイアだったが、最近はその反応が変わってきた。

「んっ……」

 小さく身体を揺らした彼女の吐息が色を帯びて、艶めかしさを覗かせる。その様子を瞳を細めて見やりながら、オレはじらすように下着の上から同じ動きを繰り返し、彼女のもどかしさを煽っていく。

 敏感な胸の頂には触れず、あくまでもまろやかな双丘だけを下着の上からいらいながら、その輪郭に這わせた指先で優しく血流を促すように刺激を続ける。

「……っ、は……ぁっ……」

 フレイアの吐息が火照りを纏う。脇から腰にかけてのなめらかなラインに手を滑らせると、均整の取れた肢体がひくんと揺れて、女の色香を漂わせた。

 彼女の感度が高まっているのを確認して、シンプルなハーフトップをたくし上げる。すると、つんと上向いた形の良い乳房がそこからこぼれ出して、たおやかに弾みオレの眼を惹きつけた。

 胸を露わにされた瞬間、フレイアがわずかに身じろいで恥ずかしそうな表情を見せた。何度肌を重ねても、彼女は明るいところで脱がされることに慣れないらしい。オレとしてはそんな彼女の反応が愉しくて、毎度たまらない気持ちにさせられるのだが。

 淡く色づいた先端はまだ触れられていないにも関わらず既に勃ち上がっていて、オレの愛撫を待ち望んでいるように映った。今すぐにそこへふるいつきたくなる衝動を抑えて、下着越しに触れるのとはまた違う、生の肌の感触を味わう。掌の中で柔らかく形を変える瑞々しい質感を充分に堪能してから可憐な突起に指を伸ばすと、フレイアの身体がびくっと震えて、悩ましい喘ぎがこぼれた。

「! ふっ、ぅんっ……!」

 オレがそうなるよう仕向けているせいもあるのだが、彼女は肌を合わせる度、ここの感度が着実に高まっているようだった。男からすれば胸に来るそんな反応も相まって、オレの愛撫にも熱が入る。

 薄紅の突起を指先で愛でるようにして優しくくすぐり、やんわりと押し潰すようにこね回して、柔らかく爪弾き、時折強弱をつけて摘まみながら、優しく扱き上げるようにする。

「んっ……んんっ……! っ、ぁ、ぁんっ……!」

 指の動きに合わせて、フレイアの喘ぎが変化する。ぎゅっと目をつぶり、整った顔を耳まで染めて、押し殺しきれない声でさえずる彼女はひどく可愛かった。声を堪(こら)えようとしているのに堪えきれていないところがたまらなくていつまでもその様子を眺めていたくなるが、それでは自分が持たなくなってしまうので、名残惜しさを覚えながら指を離し、次なる場所へと向かう。

 上気してしっとりと汗ばんだ彼女の肌は撫でるように触れるだけでびくびくと面白いように反応して、オレの本能を昂らせた。

 綺麗に引き締まった腹部を通り過ぎ下着に覆われた彼女の秘所へたどり着くと、防護スーツを脱がせる前からかなり濡れていたそこは、既に重い水分を含んで色が変わり、肌に張りついたショーツに秘められた形が浮かび上がるような状態になっていた。

 これは―――何て煽情的な……。

 思わず息を飲み、その情景に見入っていると、動きの止まったオレの名をフレイアが不思議そうに呼んだ。

「……? ドルク……?」
「……エロい光景だな。びしょびしょに濡れて、透けて見えそうですよ」

 興奮を隠し切れない声でそれを伝えると、いたたまれなさそうな彼女の声が返ってきた。

「やっ……! い、言うなっ……!」

 全身を赤く染めたフレイアが膝小僧を内側に向ける。間にオレの身体が入っているから脚を閉じられるはずもないのだが、そうせずにはいられないほど恥ずかしかったらしい。

 そんな彼女の行動はオレの劣情を余計に焚きつけた。

「こんなに濡らして……。酔っているせいですか? それとも、早く欲しくてたまらない?」

 オレは人の悪い笑みを湛えると、彼女の両の膝裏を掴み大きく開脚させて、その部分がまんべんなく見えるような姿勢にした。

「なっ!」

 動揺するフレイアに、臆面なく甘えた口調でねだってみせる。

「もっと見せて下さい、あなたが淫らに感じているところ」
「……!」

 真っ赤な顔で絶句する彼女の脚の中心、卑猥なラインが浮かび上がったその部分に熱い視線を注ぐと、彼女はオレの辱めに耐えきれない様子で身じろいだ。

「バカッ! やめろ!」
「恥ずかしいですか?」
「当たり前だろ! バカ!」

 ぬけぬけと尋ねるオレをフレイアがキッとねめつける。そんなに赤くなって潤んだ瞳でにらまれても、オレとしては子猫が精一杯の虚勢を張っているようで可愛いとしか思えず、もっと違う彼女の反応が見てみたくなり、つい意地悪を言ってしまう。

「でも、見られて感じてますよね?」
「えっ!?」
「さっきより濡れてきてますよ。あなたのここ……」
「……っ!?」
「愛液がどんどん溢れて、さっきよりくっきりと、ここの形が浮かび上がって見える」
「……!」

 頬を紅潮させたまま押し黙った彼女の秘所は、実際に先程より陰影を増して中心に走る卑猥なラインを色濃く浮かび上がらせていた。

「下着越しでも分かりますよ、あなたの形。ここでしょう? 強く感じるところ」

 ショーツの上から鼻先で彼女の敏感な部分を刺激すると、均整の取れた肢体がびくっと跳ねてわなないた。

「やっ……! バカ、やめっ……!」
「当たりました?」

 口元をほころばせながら硬くしこったその場所に再度鼻先を押し付けると、たまりかねたようにフレイアの手が伸びてきて、オレの頭をそこから押しのけようとした。

「やだっ……! そんなトコ、鼻でっ……! シャワー、浴びてないのにっ……!」
「大丈夫、あなたのいい香りしかしませんから」
「そ、そんなわけ……!」

 泣きそうな声を出すフレイアにオレは苦笑して、彼女の懸念を和らげようと努めた。

「そんな顔しないで下さい。愛液からフェロモンが出ているからかな。本当にオレには甘いようないいものに感じられるんです、ここの匂い。いつもの石鹸混じりの香りとは違いますけど、興奮を覚える好きな種類の匂いです。だから気にしなくて大丈夫ですよ」

 それは本当のことだった。上手く言えないが、彼女のそこからは誘われるような、オレとしては刺激的な好い匂いがする。だがそれは当の本人にとってはどうにも信じ難いことらしく、フレイアは頑なに首を振った。

「やだ、ドルク、ダメだっ……!」
「困ったな。どうしたら信じてもらえますか……?」

 言いながら彼女の秘所にショーツの上からそっと口づけると、ぎくん、とその身体が強張った。

「ッ!? ダメ……!」
「あなたの匂い、オレは好きです」

 赤い顔を青ざめさせたフレイアの制止をものともせず再度そこに口づけると、腰を引きつらせた彼女から悲鳴のような声が上がった。

「やっ……! 約束が、違う……! なめたりしないって……!」
「なめてませんよ……キスしてるだけです」
「何それ、ずるっ……! ……っあ、ダメ……ダメぇっ……!」

 かぶりを振り、必死でオレの頭を押しのけようとするフレイアだったが、そこに何度もキスを繰り返すうち、徐々にその抵抗は弱々しく、制止する声は切なく快楽を堪えるものになっていった。

「ぁっ……、ふっ……ず、ずるいっ……」
「嘘は言ってないでしょう……?」

 ほくそ笑みながら震える内腿に口づけて、ショーツの上から敏感な神経の粒を吸引するように刺激すると、フレイアの腰がたまりかねたように反り返った。

「んぅっ―――!」

 手の甲をきつく唇に押し当てたまま、しなやかな肢体を小刻みに痙攣させて彼女が達するのを見届けたオレは、ぐしょぐしょのショーツを手早くその脚から抜き去ると、再び先程と同じ姿勢を彼女に取らせた。

「あっ!? いやっ……!」

 快楽の頂点から立ち戻るまでの間に、全てをオレの前に晒す恥ずかしい体勢を強いられ、フレイアの整った顔がこの上ない羞恥に染まる。

 オレは下腹部に痛いほどの血流が集中するのを覚えながら、息を詰めて彼女のその場所に見入った。

 達したばかりの彼女のそこはぬらぬらと濡れそぼって淫靡(いんび)に光り、溢れる愛液が美尻の谷間にまで伝い落ちていた。普段は慎ましく閉じられているに違いない花びらは今オレの目の前で淫らに咲き誇り、控え目に勃ち上がった繊細な神経の粒と絶頂の余韻でひくつく入口を惜しげもなく晒して、視覚からオレの理性を灼いていく。

「いやらしくて、綺麗だな……」

 ちろりと舌なめずりをしながら、オレはその光景に吸い寄せられるようにして震える陰核を口に含んでいた。

「ひっ、ぁ……!」

 達したばかりで敏感になっているそこを口内でねぶられて、のけ反ったフレイアがきつくシーツを握り締める。

「や……! ダ、メッ……! ドル、クッ……!」
「感じます……?」
「しゃ、べっちゃ、ダ……!」

 勃起してこりこりになったしこりを歯先がかすめた衝撃で全てを言うことが出来ず、ガクガクと快感に打ち震える彼女の様子がオレを獣のように煽り立てる。

 わざとリップ音を立てて「キス」を強調しながら、膝裏を固定していた手を離して秘裂に添えると、自由になったフレイアの太腿が強い感覚から逃れようとするようにオレの頭を挟み込んで邪魔をした。

「ダメですよ、脚閉じちゃ……ちゃんと見せて」

 優しく諭すように囁きながら、秘裂にあてがうように添えた左手の親指と人差し指でそこを押し開き、再び顔を覗かせた陰核に口づけて、右の人差し指と中指を蜜で溢れ返る膣内に挿入する。

「ぁッ」

 吐息混じりの濡れた声が耳朶をかすめ、蕩けるような彼女の媚肉が柔らかくオレの指を締めつける。閉じ合わされた襞を指先で押し広げるようにして温かくぬめった隘路(あいろ)を進んでいくと、フレイアの背が弓なりに反って、彼女は自らの口を両手で塞ぎ嬌声を堪えた。

「〜〜〜ッ!」

 びくびくと震える温かな彼女の体内を勝手知ったる様子で動き回り、すり、と襞の凹凸を愛でながら、少しだけ手触りの違うポイントにたどり着く。そこを指の表面で何度か優しく撫で、閉じ合わせた二本の指先をぐっと折り曲げてその部分を押し上げるように刺激すると、彼女の身体がびくっと跳ねて、くぐもった甘い声が上がった。幾度かそれを繰り返し、襞がひくついているのを確認してそのまま前後に素早く掻き出すように指を動かすと、愛液の分泌が目に見えて激しくなり、響く淫らな水音が濃厚な夜の気配を彩った。

「っ、ぁっ、ふ、うぅっ……!」

 口を両手で覆い頬を紅潮させたフレイアの腹部が波打ち、整った眉が切なげにひそめられる。高まっていく快感を追うように、恥じらいを忘れ自ら開かれていく脚が、彼女に「その時」が迫っていることを教えてくれる。

 凛とした面差しを朱に染めて、うっすらと眦(まなじり)に涙を浮かべ、恥ずかしいのに感じて感じてたまらないといった彼女の表情が、オレを熱く滾らせる。

 気持ち的にはもっとじっくり可愛がりたいところだったが、壁の薄い部屋で万が一にも他人に彼女の声を聞かれたくない。そのジレンマに毎度悩まされる。

「ッ! んんんッ……!」

 自らの口を両手で押さえたまま大きく反り返り、フレイアが二度目の絶頂に達する。

「―――っ、ぁ、は、あぁっ……」

 額に汗を滲ませ、くったりと身体を弛緩させて余韻に喘ぐ彼女はしどけなく煽情的で、美しかった。

 そんな彼女の一部始終をつぶさに見ていたオレはもう限界だった。この上なく硬くなった自身を一刻も早く彼女の中へ突き入れたい。獣じみた焦燥感に駆られながらとろんとした茶色の瞳を覗き込み、余裕のない声で訴えた。

「フレイア、脱がせて下さい。今すぐにあなたと繋がりたい」

 全てを彼女に脱がせてもらう流れだった手前、勝手に脱いでしまうのも憚られ、肌に纏ったままの下着がひどく邪魔でもどかしかった。

 頬を染めてそんなオレを見やった彼女は、緩慢な動作で身体を起こすと、オレの求めに応じながら小さな声で呟いた。

「わたしも、完全には脱いでいないんだけど……?」

 窺うような表情でオレのアンダーシャツを脱がしていく彼女は下だけを脱いだ状態で、上はハーフトップをたくし上げられたままの中途半端な姿だった。少しだけ布地を残したその姿は、露出された胸をより強調して全裸よりも卑猥に映り、オレの興奮を掻き立てる。

「今日はこのままがいいな。エロくて、そそられます」
「っ、わたしは恥ずかしいんだけど!?」
「だからいいんじゃないですか」

 唸る彼女に当然の口調でにっこりと返し、その話を打ち切ったオレは、彼女の手を取ると自らのアンダーパンツまで導いた。

「早くこれも脱がせて下さい」
「……っ」

 明らかに質量を増したそこを前にして、フレイアは目のやり場に困った様子だった。ためらいがちに下着に手を掛け、それから覚悟を決めたように一気に引き下ろす。そこから反り返ったオレ自身が飛び出すと、分かりやすく視線を泳がせて恥じらった。

「もう何度も見ているじゃないですか」
「〜〜〜っ、そ、それはそうなんだけど、こんなふうに脱がせたことなかったし……!」

 確かにそうだが、シチュエーションの違いでこんなふうに反応が変わるのは新鮮だな。

「それで……どうですか? 初めて全部脱がせてみた感想は」
「っ、恥ずかしい!」

 それに尽きる! といった風情で即答する彼女にオレは小さく吹き出した。

「あなたらしい感想ですね。全部脱がせて素になったオレの印象はいつもと違いますか?」
「……憎たらしいくらい変わらないな。意地悪で、ずるくて、ふてぶてしい。あとエロい」
「褒め言葉として受け取っておきますね」

 散々な意見をにこやかに受け流そうとしたオレを軽く小突きながら、「でも、」とフレイアは付け加えた。

「でも……そうだな。いつもより、あんたの素肌の香りが強くして……そこは、いいかも。それに、シャワーを浴びた後と違って前髪が下りていない仕事モードの髪形に……ちょっとドキドキする」

 伏し目がちに小さな声で照れくさそうに、それでも一生懸命に気持ちを伝えようと言葉を紡ぐそんな姿に、愛しい想いが溢れ出した。

「……可愛すぎて、滅茶苦茶にしたくなる」

 オレの口からこぼれた熱っぽい囁きに、フレイアが目を瞠った。彼女を片手で抱き寄せてキスしながら手早く避妊具を装着したオレは、くびれた腰を掴んで持ち上げると、そのまま座した自分の正面に向き合う形で、ゆっくりと彼女の腰を落としていった

「ぁ……っ」

 聳(そそ)り立つオレの先端がぬかるんだ入口に触れた瞬間、フレイアが鼻にかかった声を漏らした。一瞬濡れそぼる愛液の冷たさを感じた直後、くぽりと凹凸が噛み合う感触と共に、自分自身が熱くぬめる彼女の体内に飲み込まれていく体感に全身が総毛立ち、めくるめくような恍惚の世界へと押し流されていく。

「っ……!」
「……! ふ、深……っ……!」

 オレを受け入れたフレイアが小さく悲鳴を上げて背筋を震わせる。彼女が感じている快感が膣壁を通じてダイレクトにこちらにも伝わってきて、その強烈な感覚に、は……っ、と荒い息がこぼれた。

 ―――彼女の中は、この世の至上だ。

 熱くて、とろとろで、甘くきつく絡みついてきて―――気を抜くとそれだけで達してしまいそうな官能の荒波に襲われる。

 ひとしきり結合の昂りが落ち着くまで、オレ達は互いを抱きしめ合っていた。フレイアの中はなかなかひくつきが収まらず、オレは張り詰めたモノをぬるぬるの媚肉でマッサージされているような状態が続き、チラつく限界から意識を逸らそうと、ひとつ深呼吸して彼女に話しかけた。

「……あなたの中、スゴいですね。好(よ)過ぎて、オレ、ヤバいんですけど」
「わたしも、ヤバい……。今日、ダメ……声、我慢出来ないかも……」
「そんなに?」

 珍しく弱気な発言に少々驚く。耳まで染めたフレイアはオレにぎゅっとしがみついたまま、無言で頷いた。どうやらやり過ぎてしまったようだ。

 オレは自身の行いを思い返して反省した。

 酔った彼女がいつもより敏感になっているのは感じていたのに、普段と違うシチュエーションに興奮して抑えが利かなかった。オレの責任だ。

「意地悪してしまった自覚はあるので、何ならオレの肩、噛んでもらっても構わないですよ。というか、噛んで下さい。あなたの声を誰にも聞かれたくない」

 そう言うと、予想外の答えが返ってきた。

「ねえ……お願いが、あるんだけど」

 お願い? このタイミングで? 珍しいな。

「……? 何ですか?」
「その……今日に限らず、結構前から……声、我慢するの、ツラいって思ってて……。今日はもう仕方がないからいいんだけどさ、今度は、その―――声、我慢しなくていいところで仲良くしたいな。時々は、その……声を気にしなくていいところで思う存分、あんたとこうしていたい」

 ―――そんなふうに思ってくれていたのか。

 愛しい相手からの思いがけない嬉しい要望に、否応なくボルテージが上がる。

 この場面でそのおねだりは、可愛すぎだろう……。

 どんな表情で彼女がそれを言っているのか確かめたくて、こつんと額を寄せて伏せたままの顔を上げてくれるよう促すと、少しためらう素振りを見せながら彼女の頭が動き、その全貌が露わになった。

 目元を赤く染め、羞恥といじらしさがないまぜになった、極上の女の顔―――妖艶さと可憐さが相まったその表情に思わず釘付けになるオレの前で、潤んだ瞳を伏せ気味にしたフレイアの色づいた唇から、とどめのように想像もしなかった発言が飛び出した。

「それに―――あんたの意地悪は、恥ずかしいけど、別に嫌じゃない……」

 ―――彼女のその言葉と表情に、全ての意識を一瞬持って行かれる。

 あっ、と思った時には遅かった。

「…………」
「……? ドルク?」
「……。あのタイミングであの発言はダメですよ……。反則です」
「えっ?」

 目を丸くするフレイアに、オレはひとつ息をつき、きまりが悪く言った。

「少しこのままでいて下さい。すぐ、回復しますから」
「? ? な……何が?」

 いまいち状況が掴めていないらしい彼女に対し、正直に説明するのもプライドが邪魔をして、オレは苦りきった表情のまま、持って回った言い回しをした。

「どうしてかな……ことあなたに限っては、こうも思い通りにいかないのは。追い詰めたつもりがいつの間にか逆に追い詰められていて、気が付くと足元をすくわれている」

 まさかこのオレが、挿れただけの状態で暴発してしまうとは―――欠片ほどにも思っていなかった、かつてない自身の醜態に額を押さえ込みたくなった。

 これではもう、アレクシスのことを言えないな。

「酒場で言ったことは本当ですよ……あなたが言うように何でもそつなくこなせてなんかいない。未だにあなたの前では余裕がないし、これまでもたくさん、オレ的には不本意な部分をあなたには見せてきているんです」
「男の人の生理はよく分からないけれど……」

 ようやく状況が掴めてきたらしいフレイアはそう言ってオレを見下ろすと、瞳を和らげ、優しい指でオレのこげ茶色の髪を梳いた。

「それだけ、わたしのことを好きでいてくれてるってことなんだろう? だったらむしろ、嬉しいかな。
わたしからすると何でもそつなくこなせているように見えるあんただけど……ふふ、そっか、あんたもおんなじなんだ。どうしてかな、好きな人の前ではままならなくなるっていうの、不思議だよね」

 彼女はどこか嬉しそうにそう微笑むと、オレの首の後ろに両手を回して指を絡め、オレの顔を覗き込むようにした。

「前言撤回。わたしだけが見ることの出来る素のドルクは、可愛くて大好きだ」

 太陽のような笑顔の綻び。見つめ合う眼差しから、彼女が自分を心から想ってくれていることが伝わってきて、胸が熱くなる。言葉にならない猛る想いがせり上がってきて、改めてこの女性(ひと)が好きなのだと、心の底から思い知る。

「―――フレイア」

『あんたもおんなじ』―――あなたはそう言ってくれるけれど、絶対にオレの方があなたを好きだ。

 ああ……好きすぎて、敵わない。

 オレは改めて彼女を抱きしめ、目の前にある形の良い胸の薄紅の頂に口づけた。

「あっ」

 ひくん、と反応する彼女の胸の先端に何度も何度も口づけて、その唇から可愛い喘ぎを散らしていく。

「ぁっ……あっ、ぁんっ……ドルクッ……」

 小さく身悶える彼女の中で自分自身がたちまち硬度を取り戻していくのを覚えながら、オレは荒ぶる感情を吐き出すようにして言った。

「―――あなたは本当に、可愛すぎる。そうやって、どれだけオレの心を捕えていくんですか」
「っ? 何の、話―――」
「できることなら今すぐ滅茶苦茶に乱れさせて、思う存分あなたの声を聞きたい。初めての夜のように、心ゆくまであなたを啼(な)かせて味わい尽くしたい」
「ぁッ」

 乳首を甘噛みされたフレイアが喉を晒した。その背を抱き寄せ、彼女の右の手首を掴んで固定しながら、濡れた音を立て執拗に敏感な頂を攻めたてる。そうしながら腰を突き入れて彼女の奥深くを抉るように攪拌(かくはん)した。

「ぁ〜〜〜ッ……!」

 悲鳴を飲み込んだフレイアの喉が鳴り、強い快楽を感じた彼女の背が大きく反り返りかけるが、背と右手首をオレに固定されている為、身体をよじって快感をいなすことが出来ず、下から突き上げてくる衝撃をまともに受け止めることしか出来ない。オレにされるがまま快感を受け止めるしかない彼女は瞬く間に追い詰められていった。

「っく、ぁ、んんッ……!」
「フレイア、オレの肩を噛んで」

 自らの左拳を噛みしめて嬌声を堪える彼女を促すと、悦楽に蕩けかけた戦女神が濡れた瞳をこちらに向け、最後の力を振り絞るようにして、儚くも挑戦的な笑みを浮かべた。

「―――っ、後悔、するなよ」
「ええ」

 息を弾ませながら腰を強く押し付けて彼女の奥を攻め立てると、限界を迎えた襞が大きくわななき、直後、膣壁が強いうねりを帯びてオレを食い締め、深々と飲み込んだ。甘くきつく絞り上げて奥へ奥へと引き込んでいき、精を搾り取ろうと激しく収縮する。

 同時に肩に熱い痛みが走ったが、予見していた痛みは噴出する享楽を抑えるほどのものではなく、むしろ耳朶に近いところで切なく押し殺された愛しい女性の悩ましい声は、オレの興奮を煽るスパイスとなった。

「―――っ……」

 大切な人とひとつに溶け合って昇華する悦びを心から感じ、深い充足感に満たされる。

 互いの肌が熱い。繋がったままの中も熱い。

 そして、オレ達の熱情も―――……。

 ほぼ同時に達した後、熱に浮かされたように唇を重ね合い、オレ達はしばらくそのまま抱き合ってまぐわいの余韻に浸っていた。

 やがて余熱が落ち着き、オレの肩口に視線をやったフレイアは、そこに残る痕を目の当たりにして盛大に眉をしかめ、申し訳なさそうな顔になった。

「うわ……痛そうだな。言わんこっちゃない、大丈夫か?」
「ええ。痛いは痛いですけど、オレが望んだことですから」

 赤くくっきりとついた歯形を見やったオレは苦笑して、悪戯っぽく彼女を見上げた。

「でも毎回噛まれるのは遠慮したいので、時々は声を気にしなくて済むところで仲良くすることにしましょうか」
「う……うん」

 暴発騒ぎでうやむやになっていた要望の答えをここで聞くことになったフレイアは、頬を染めて頷いた。はにかんだその表情が可愛くてついつい構いたくなり、よせばいいと分かっているのに余計なことを言ってしまうのはオレの悪いクセだ。

「他にも思うところがあったら言って下さいね。どうされるのが好きとか、どの体位がいいとか」
「バ……バカ! そんなことっ」
「オレとしてはその方が色々参考になるので、恥ずかしがらずにどんどん言ってもらえるとありがたいんですけどね……」
「言えるか! 無理!」
「まあ、おいおいでいいです。とりあえず今日は、あなたがオレに意地悪をされるのが嫌いじゃないということが分かっただけで」
「―――っ!」

 真っ赤になって言葉を詰まらせるフレイアにオレはしたり顔で薄く笑って、追い打ちをかけるように囁いた。

「声を気にしなくてもいいところで、早くあなたに意地悪したいな」
「このっ……!」

 羞恥に耐えかねた彼女は手近にあったリネンを掴むと、乱暴に投げつけてオレを視界から覆い隠してしまった。

「バカ! エロ! 人を恥ずかしがらせるのがそんなに楽しいのか!」
「あなた限定ですけどね、スゴく楽しいです」
「悪趣味もいいところだぞ!」
「でも、嫌いじゃないんでしょう?」

 リネンをめくって顔を覗かせたオレは、赤い顔で唸る彼女ににじり寄ると、そのまま体重をかけてベッドへ押し倒し、自分に掛けられたそれでもって彼女ごとくるみこむようにした。

「ちょ、何……!」
「第二ラウンドのお誘いです。こうすれば、少しは声も漏れづらいかな」
「は!? 何で急に!?」
「いちいち可愛い反応をするあなたが悪い」
「え!? あっ、ちょ、〜〜〜っ」

 制止しかけたフレイアの声は、甘い彼女の味わいと共にくぐもった喘ぎとなって、リネンの中に溶け消えていった。

 ―――この夜、オレの肩にはもうひとつ歯形が付くこととなった。



<完>
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