ドヴァーフ編

真紅の残像


 挨拶を済ませ、いい男を手に入れたなら、すぐに“本命”の元へ向かおうと思っていた。

 冥竜ベルリオスを授けたとはいえ、シェスナの力では“彼ら”に対応しきれないだろうと思っていたし、何より、映像で見たあの鮮烈な光景が彼女の脳裏には焼きついていたからだ。

 未知の能力を秘めた、眩いまでのあの黄金の光-----あの光を目にした時、ゾクゾクとした言いようのない感覚が全身を駆け巡ったのを覚えている。

 いったいどんな精気を、あの青年は持っているのだろう?

 シェスナには殺せと命じた。彼女に殺されるようであればその程度の男だったということだ。自分が相手にするまでもない。だが、おそらくそういうことにはならないだろう。

 だから、こちらを片付けたらすぐにそちらに向かうつもりでいた。そのつもり、だったのだが-----。

 あーあ、困っちゃった……。

 残酷な愉悦に心震わせながら、セルジュは真紅に染まった目の前の遊び相手を見つめた。

 全身を朱に染めながらも、相手の紫水晶色(アメジスト)の瞳は凛とした輝きを失ってはいない。

 これほど絶望的な状況に置かれながら、本気で自分に勝てる可能性を信じて、傷付いても傷付いても彼女は立ち上がってくるのだ。

 大義名分の名の下に-----その実は、最も分かりやすい想い故に。

「しぶと〜いっっ、もーいい加減さっさと死んでくれない? あたしは早くお前の国王サマと遊びたいんだけどー」

 挑発めいた台詞を吐くと、相手の紫水晶色(アメジスト)の瞳にわずかな感情の色が走った。

 それを確認して、セルジュはうっすらほくそ笑む。

 どうしよう?

 楽しくて楽しくて、仕方がない。

「お前を陛下と遊ばせるわけにはいかぬ」

 荒い呼吸を吐きながらそう返すエレーンに、セルジュは意地悪く可愛らしい唇を歪めた。

「陛下……っていうかその男と、でしょ? 陛下と呼ばれる存在が別の人間だったなら、果たしてお前はそこまで頑張っているのかしら?」

 魔性の言葉に、レイドリックが微かに目を見開く-----それとは対照的にエレーンの表情には何の変化も現われなかった。

「どういう意味なのか、分からぬな」

 予想通りのその反応に、セルジュのピンク色の瞳が残忍な光を帯びる。

 この女は、自分の大嫌いなあの女に本当によく似ている-----。

 認めてしまえば、まだ許せなくはないだろうに-----その存在に誰よりも強い執着心を抱きながら、それをおくびにも出さず、澄ました顔でそうであることが当たり前のようにその隣に佇んでいる-----それが、そうなりたくてもなれない者の劣情をどれほど煽ることなのか知りもせずに!

「じゃあ、分かりやすく言ってあげよっか? お前が守っているのは『国王』じゃなくて、目の前のその男……好きなんでしょ? あたしに色目を使われるのがムカつくんでしょ?」
「……。何を勘違いしているのかは知らぬが……私はそのような不遜な想いは、陛下に対して抱いていない。人をからかうのもいい加減にしてもらおう」

 あくまでも淡々と、そうエレーンは応える。綺麗に感情を消し去ったその態度が、セルジュには気に入らない。

「あっそ? じゃあ、人の恋路を邪魔しないでくれるっ!?」
「それとこれとは、話が別だ!」

 襲いくる緑のムチをどうにかかわし、エレーンが魔法で応戦する! それを結界で防ぎながら、セルジュが再びムチを振るう!

 容赦のない連続攻撃をかわしきれず、エレーンの褐色の肌が裂け、新たな血がその全身を彩っていく。

 それでも彼女は苦悶の声ひとつ上げず、反撃の機会を狙って、虎視眈々と立ち向かってくるのだ。

 その様子が、セルジュの苛虐心に火をつける。

 容姿の全く異なる大嫌いな女の面影が、相手のそれに重なって、全身の血を逆流させるのだ。


 -----カルボナード……!


 いつしか彼女の目に映るのは、白銀の髪に紫水晶色(アメジスト)の瞳の美女ではなく、超絶の美を纏う長い漆黒の髪の、真紅の瞳をした幕僚の姿に置き換わっていた。

 楽になんか殺してやらない……ギッタギッタのボロボロにして、動けなくなったその目の前で、愛する男を弄んでから殺してやる……!

 その時の光景を想像すると、楽しくて可笑(おか)しくて、自然と嗤(わら)いが込み上げてくる。

 羅刹の如きその表情が凍りついたのは、息も絶え絶えなはずの相手の唇から発せられた言葉だった。


「セルジュ……お前は、誰と戦っている?」


 強い光を内に秘めた、紫水晶色(アメジスト)の眼差しに射抜かれ、セルジュは一瞬、言葉を失った。


 見透かされた、と思った。


 次の瞬間、その感情は怒りへと転じ、爆発した。

「知ったような口を……!」

 激情に駆られ、エレーンに襲いかかろうとしたその刹那、自らが囚われたことを彼女は悟った。

「なっ……!?」

 身体が動かない。周囲を見渡して、セルジュはハッと息を飲む-----床に点在しているエレーンの血の一部が法印を描き、淡い輝きを放っていた。


「血界(けっかい)……!」


 上手くカムフラージュされていて、気が付かなかった。あの言葉は、自分をここへ誘い込む為の罠だったのだ。

 いつの間に……!

 追い詰めたと思っていた獲物にまんまとしてやられたことに、セルジュの全身の血液が激しい怒りで沸騰する。

 この、女ッ……!

「っざっけんじゃないわよ……!」

 ぎりぎりと歯がみしながらセルジュはその場からの脱出を試みたが、見えない力で全身を抑えつけられ、身動きが取れない。

 血界は、その場に於いて術者の能力(チカラ)を何倍にも高める最強の“場”となる。

 仕掛けたエレーンも必死だった。

 ここで仕留められなければ、後がないのだ。

 この相手に、二度目はない-----殺らねば、殺られる。

 全身全霊を懸け、エレーンは自身の持つ最強の攻撃呪文を唱え始めた。

「-----開け天界の門! 聖霊よ、神の業(わざ)を遂行する者よ! 我が身に宿り、裁きの剣(つるぎ)を振るい給え!!」

 詠唱と共に高まり、凝縮されていく魔力-----頭上に掲げたエレーンの両手の上に巨大な光が収束し、それによって生まれた気流が彼女の長い白銀の髪をたなびかせ、天へと誘(いざな)う。

 それは、秘呪-----あまりにも強大な威力故に、その制御の難しさ故に、ごく一部の限られた者にしか扱えぬ、究極の呪文。


「“剣舞聖譚曲(オラトリオ)”!!」


 エレーンの手から放たれた巨大な光が無数の刃と化し、壮麗な流星群となって、セルジュへと降り注ぐ!

 裁きの剣はセルジュの結界を貫き、その肉体を深々と穿ち、凄まじい閃光を伴って爆裂した。

「ぐ……っ……!」

 セルジュの口から初めて苦悶の声がもれる。

 降り注ぐ刃の数だけ、爆裂は止まらない。

 王城が真皓き閃光に包まれる。轟音と共に激しい揺れを伴って、主塔の壁を、天井を破壊し、爆裂を繰り返しながら、光の奔流となって天へと駆け上る!

 満身創痍のエレーンはその衝撃に踏み止(とど)まれず、爆風に煽られ吹き飛ばされた。

 その身体を、誰かが受け止めた。

 視界は白く焼け爛(ただ)れていたが、それが誰なのか、彼女にはすぐに分かった。

「陛下……」
「エレーン」

 互いの名を呼び合い意思の疎通を確認し合うと、レイドリックはバラ色の液体の入った小瓶の蓋を開け、それをそっとエレーンの唇に当てた。

 秘薬エリュシオール-----傷を癒し、体力と魔力を完全に回復させる神秘の液体を飲み込むと、霞がかったエレーンの瞳に光が戻ってきた。

 それを見て頬を微かに緩めながら、同時に狂おしい光を瞳に浮かべ、レイドリックはひと言、尋ねた。

「やれるか?」

 自分を支える主君の腕にわずかに力がこもるのを感じながら、エレーンは静かに頷いた。

「……はい」
「では、頼む」

 どのような想いで、彼がその言葉を口にしたのか-----全てを受け止め、エレーンは立ち上がった。

「お任せ下さい」

 今しか、ないのだ。

 手応えは確かにあった-----だが、あれで相手が大人しく倒れてくれるという保障は、ない。それほど甘い相手だとは、正直、思えなかった。

 全てを懸けるのは、今しかないのだ。

 一方、セルジュの蔓(つる)に束縛されたオルティスの元には、意外な救世主が現われていた。

「殿下……!」

 目を見開くオルティスの前に腰を抜かしかけたまま這いずるようにしてたどり着いたのは、王弟アルベルトだった。

 彼は肥満気味の身体を恐怖に震わせながらも、自らの剣を用いて、聖騎士を絡め取る緑色の蔓を取り除き始めた。

「オ、オルティス……た、頼む……エレーンを、皆を……お、お前の力で助けてやってくれ……!」

 オルティスは正直驚いて、そう訴える目の前のアルベルトを見つめた。

 昨日までの彼からは考えられない言動だった。

 この戦いの中で彼の中の何かが変わり、目覚めようとしているのを感じて、オルティスは熱い使命感が胸に湧き上がってくるのを感じた。

 この国は、やっとこれからひとつになってゆくのだ-----命に換えても、守り抜く。守り抜いてみせる!

「殿下……お任せ下さい」

 エレーンや部下達が苦戦する様を、無様に膝を着いたまま見続けるのは、もはや限界だった。

「殿下の勇気に、感謝致します」

 久方ぶりに蔓の呪縛から解放され、オルティスは立ち上がった。その彼に、アルベルトが回復呪文を唱える。

「い、今の私の力では、この程度しかお前の傷は癒せぬが……」
「充分です」

 セルジュに大部分の精気を吸い取られ、回復呪文を使うこともままならぬ身には、ありがたかった。

 痛みはあるが、身体はどうにか動かせる。腱も筋も、切れてはいない。

「団長!」

 立ち上がったオルティスの姿を認めて、騎士団副団長を務めるカイザードが安堵に顔を輝かせる。彼以下、他の部下達も同様に喜びの声を上げた。

 変わり果てたシャルーフの国王夫妻を相手に、彼らはよく持ちこたえていた。どの顔も血と汗にまみれ、疲労の色は隠しようもなかったが、その瞳は強い使命感に満ち溢れ、揺るぎない光を放っている。

 先程のエレーンの大呪文とオルティスの復活を目の当たりにして、彼らの士気は否応なしに高まっていた。

 その奮戦ぶりを受け、シャルーフの国王夫妻も無傷ではいられなかった。

 血反吐を吐き、虫の息となりながらも、繋がれている魔物(モンスター)の肉体の屈強さが災いして、死に切れない。自ら命を絶つことも出来ず、意識を失うことも出来ず、夫妻はまさに地獄の苦しみの中にいた。

 彼らを見つめるオルティスの胸に、激しい憤りと切ない想いとが迫ってくる。

 以前の国王夫妻に、オルティスは幾度か会ったことがあった。

 シャルーフの国王ヴェヌスは穏健な人柄で、機械の話になると喋りが止まらなくなる、少し困ったクセがあった。王妃ローラはいわゆる美女ではなかったが、少しのんびりした夫を上手くサポートする、内助の功に長けた女性だった。

「今、お救い致します」

 絞り出すような声で呟き、全身全霊を以(も)って、オルティスは剣を振るった。

 肉を深く斬り裂く感触と共に、悲鳴とも安息ともつかない、耳に尾を引く末期の声を放って、シャルーフの国王夫妻が血溜まりの中に崩れ落ちる。

 複雑な思いの入り混じった歓声が上がった。

 そして、一瞬の後、居合わせた者達は、ようやく長い苦しみから解放された亡国の国王夫妻に、深い哀悼の意を捧げたのだった。

 少し離れた位置からその様子を見守っていたレイドリックは、瞳を閉じ、亡国の盟友に黙祷(もくとう)を捧げた。

 自らの片腕である聖騎士オルティスの手によって葬ることが出来たのは、彼らへのせめてもの餞(はなむけ)と言えた。

「陛下……」

 沈痛な面持ちで、オルティスが歩み寄ってくる。

「辛い役目を担わせてしまったな……感謝する、オルティス」
「いえ……」

 伏し目がちにかぶりを振ったオルティスは、その時初めてエレーンが深い瞑想状態に入っていることに気が付いた。

「陛下……これは、まさか……!」
「あぁ、そうだ。聖竜ロードバーンを召喚する」

 主君の言葉に、オルティスは息を飲んだ。

「まさか……無茶です!」

 聖竜ロードバーン-----それは、魔法王国ドヴァーフの守護神と謳われる召喚獣。

 歴史の表舞台にも幾度となく登場し、歴史書にもその名を刻まれているあまりにも有名なこの召喚獣は、代々の魔導士団長によって受け継がれ、現在はその職にあるエレーンが所有している。

 聖属性を持つその力は強大で、過去幾多もの危機からこのドヴァーフを救ってきた霊獣だ。

 ロードバーンの力をもってすれば、禍々しいあの赤紫色の被膜を消し去ることは可能なはずだった。

 問題なのは、その被膜によって能力(チカラ)を抑え込まれた状態にあるエレーンが、ロードバーンの負荷に耐えられるかどうかだ。

 召喚獣は術者の魔力を媒介として現れ、その間、魔力を吸い続けることで活動する。

 強力な召喚獣ほど、消費する魔力はより大きいものとなり、力量に見合わない召喚獣を呼び出してしまった術者は、その生命力まで吸い尽くされ、死に至ってしまうのだ。

「エリュシオールを飲ませた。魔力も体力も全快だ」
「それでも無茶です!! ロードバーンは、他の召喚獣とはわけが違う! 今の状態のエレーンでは……! それは陛下もお分かりでしょう!?」

 そう訴えるオルティスに翳りを落とした眼差しを向け、レイドリックは頷いた。

「分かっている。だが、やるしかない-----あの結界を消滅させぬ限りは……我らに、勝利はないのだ」
「しかし……!」
「時間がないのだ!」

 珍しく声を荒げる国王に、オルティスが感情を爆発させる。

「正気か、レイドリック!? 大博打もいいところだぞ! みすみすエレーンを殺す気か!?」

 実は国王と乳兄弟の関係にあるオルティスは、興奮のあまりつい昔の口調に戻ってしまった。

「その大博打に打って出なければ、我が国は間違いなく滅亡する! ……エレーンは全てを承知の上でその身を賭(と)してくれたのだ」

 かみしめるようにそう呟いた国王の拳が微かに震えていることにオルティスは気が付いた。

 それは、ドヴァーフという国の命運を賭(か)けた、あまりにも危険な賭け-----自らの片腕たる者の生命をも懸けた、苦渋の決断。

 国王の言い分は、オルティスにも分かる。一刻の猶予もならぬこの状況で他の選択肢では、時間がかかりすぎるのだ。

 そして、その賭けに臨むならば、その機会は今をおいて他にない。

 オルティスは瞑目した。

 もしも自分がエレーンの立場にあったなら……やはり、彼女と同じ選択をしていたことだろう。

「……申し訳ありません」

 感情的になった自分を恥じるオルティスに首を振り、レイドリックは彼の肩に手を置いた。

「エレーンを守ってくれ。何者も彼女に近づけるな」
「……はっ!」

 そのタイミングをまるで見計らったかのように、粉塵に覆われていたエレーンの血界の中から、強力な力の波動が感じられ始めた。

「やはり、あれで大人しく倒れてくれるような相手ではなかったか……」

 苦々しく呟く主君の声を耳にしながら、オルティスは部下達に素早く指示を出した。

「騎士団、エレーンを中心に陣形を組め! 彼女を死守する!! カイザード、コフィーは陛下の前へ! 魔導士団は陛下を守護しつつこちらを援護しろ!!」

 号令をかけながら、オルティスは濃緑の自らの外套を胸元にたぐり寄せ、きつく握りしめた。

 例えこの身体が朽ち果てようとも、誓いは守り通す……!

 その光景を見守りながら、レイドリックは自らの法衣の胸元にそっと触れた。そこには、抱きとめた際に付着したエレーンの血が、赤く滲んでいた。



*



 深い精神世界の底で瞑想に耽っていたエレーンは、ゆっくりとその紫水晶色(アメジスト)の瞳を見開いた。

 彼女の心はひどく穏やかで冴え渡り、そして研ぎ澄まされていた。

 特別な覚悟は必要なかった。

 大きく息を吸い込み、その名を呼ぶ。

「聖竜ロードバーン!」

 凛と響き渡るその声に、しかし応える者はいなかった。

「聖竜ロードバーン!」

 もう一度、その名を呼ぶ。

 しかし、やはりその声に応える者はいなかった。

 思いがけぬ事態に、ざわり、と周りがさざめく。

「ロードバーン……?」

 エレーンは訝しげにその名を呼んだ。

 この声が届かぬはずがない。

 どうした……?

 そう心の中で問いかけた声に、返ってきた意思があった。

(エレーンよ……)

 それは、紛れもなく聖竜ロードバーンのものだった。

(私は古くからこの国と共に在り続けてきた……その中でも、お前は良い使い手だ……。私はお前を、失いたくはない)

 エレーンは微かに目を見開いた。

 緩やかな風が、優しく頬をなでていく。その風に瞳を細めながら、彼女は戦闘の影響で破壊された主塔の壁から、戦火の上がる王都を見下ろした。

 王城の外壁に立てかけられた白竜(ホワイトドラゴン)の紋章の旗が、ゆっくりと揺らめいているのが見える。

「ロードバーン……私の人となりは知っているだろう? 私は、私の誓いを果たす。その結果は、私の運命だ」

 囁くようにそう告げて、魔法王国ドヴァーフの魔導士団長たる証である自らの長衣(ローヴ)の胸元にそっと触れ、エレーンは微笑した。

「お前の力が必要だ。この国を守る為に、お前の力を貸してほしい」

(…………)

 召喚獣の沈黙を、エレーンは了承と受け取った。

 改めて、もう一度その名を呼ぶ。

「聖竜ロードバーン!」

 その瞬間、王城上空の空間が裂け、眩く輝く純白の巨大な竜(ドラゴン)がその場に出現した。

 その神々しいまでの霊気を浴び、周辺にいた魔物達が一瞬にして消滅する。

「おおっ……!」

 主塔から、地上から-----その姿を目にした全ての人々の間から、どよめきと感嘆の声とが上がる。光臨した聖獣を見上げる騎士や魔導士達の間からも、溜め息のような声がこぼれた。

「あれが……聖竜ロードバーン……」
「何て美しい……」

 瞳は、燃ゆるような深い蒼。額に戴く芸術的なオブジェのような二本の角。その体表は鱗ではなく柔らかな長毛に覆われており、純白の色彩と相まって、一層の神聖さを感じさせる。

 魔法王国ドヴァーフの運命の鍵を握る、守護神の召喚だった。
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