「もういい!止めたまえ!!!」

警視庁に数ある会議室の一室に、怒声が響き渡った。
部屋の中には警備部の部長以下、特車2課課長など警備部の幹部が顔を揃えていた。
円卓を挟んだ反対側には、秋子さんが座っている。
そして、祐一もまた部屋の隅で会議の様子を見守っていた。

「きけばこのシミュレートは、謹慎中のレイバー隊員が、整備員と共に開発した
プログラムによる物だそうだが?」

「君はそんな物が、信頼するに足ると本気で考えてるのかね。」

権威主義で頭の固いお偉いさん達は、一向にHOSの危険性を認めようともしない。
それでも秋子さんは、余裕とも取れる笑みをたたえたまま説明を続ける。

「気象庁の予報によれば、台風19号は本日未明には首都圏を直撃します。
 シミュレーションの追試を依頼する時間はありません。
 台風の上陸により方舟が鳴動、湾岸に林立する100数十に上る超高層が低周波の咆哮を上げ
 首都圏8000のレイバーが暴走を起こす。
 その結果がどうなるか、申し上げる必要もないと思います。
 湾岸並びに都内の工事現場はもとより、地下千メートルのジオフロント作業区、さらには一部の原発
 の炉心部でもレイバーは可動中であります。」

秋子さんの台詞に、さすがの幹部達も押し黙る。
そこに警備部長が口を開いた。

「水瀬君。首都圏におけるレイバーのOS書き換え作業は既に完了している。
 仮に君の主張する帆場映一の犯罪計画が実在するにせよ、事実上無効になったと見て良いのではないかな?」

「HOSの正体は、MITの協力を得て解析中とはいえまだ不明であります。
 レイバー本体のメモリー内に潜伏している可能性は否定できないと専門家の意見も一致しています。
 この場合、一度でもHOSに接触した機体は全て汚染されていると考えるのが妥当です。」

さらに続ける秋子さん、その表情はこの会議を楽しんでさえいるようだ。

「台風の進路を曲げるか、超高層をなぎ倒すか、8000台のレイバーを解体するか、それとも・・・・。
 四者択一、決断をお願いします。」

意味ありげな秋子さんの台詞を受け、部長が決定事項を言い渡す。

「本日未明より台風の通過を確認するまでの期間、都内におけるレイバーの起動を全面的に禁止する。
 レイバーの製造、補修ラインも同期間は停止すること。 
 消防庁、防衛庁、並びに隣接する各県にも趣旨説明を行って協力を求める。以上だ。」

部長の言葉を受けて、皆、退室しようと席を立ち始める。
そこで秋子さんが部長を引き留めた。

「部長、質問があります。・・・・・・・・・台風がしでかしたことでしたら、それが何であれ責任がどうこう
 という問題にはならないと思いますが?なんせ台風のすることですから。」

秋子さんのいつもの微笑みが、何を考えているのか判らないものに変わる。
課長を初めとする幹部も引いている。

「・・・・・。無論だ。天災なら致し方ない。」

部長は秋子さんの言葉に含まれた意味を、しばし考えた後に認めたのだった。

「部長〜。」

後には情けない顔をした課長達が残った。

「水瀬警部補、部署へ戻ります。」





「どういう事です?」

帰りのエレベーターの中で、一部始終を見ていた祐一が質問する。
頬に手をやったいつもの、ポーズで答える秋子さん。

「言ってたでしょう?天災なら仕方ないって。やっちゃった後で帆場の犯罪を証明できればヨシ。
 できなければ台風による災害とおとぼけを決め込む。バレたらバレたで課長に詰め腹を切らせるって事
 です。部長もワルですねー。」

「課長も可哀相に・・・。」

自分に謹慎を言い渡し課長ながら、ちょっとだけ同情する祐一。

「可哀相なのはこっちですよ。失敗すれば私達が犯罪者です。やっぱり止めておきます?」

「いえ。やらないで後悔するくらいなら、やった方が良いです。」

秋子さんからの質問に即答する祐一。
覚悟はとっくの昔に決まっている。

「それでこそ漢です。じゃあ決まりですね。」

ちょうど、エレベーターも一階についた。

「しばらく戻りませんから、由紀子さんの指示で動いておいてくださいね。」

「了解。」

敬礼して秋子さんを見送った祐一のところに、名雪が駆けてくる。

「ねえ、何が始まるの?」

名雪の質問に、祐一は意味ありげに笑うと告げた。

「方舟をぶち壊すのさ。」





「メモリーバンクとコクピットまわりの絶縁がすんだら、次は防水処理!!時間がないわよ!!!」

ハンガーに美坂香里整備班長の叱咤が飛び、整備員達が走り回る。
普段は、部品取りに使われている3号機までもが引っ張り出されて調整を受けている。
Kanonが3機勢揃いしている姿は、壮観である。

「班長!!フロートが到着しました!!」

「よし!すぐ3班にかからせなさい。手空きの者から助っ人にまわすわ。」

ハンガーの別の場所でも、大声が上がっていた。

「使用許可が出たわ!ライアットガンも出しなさい!!」

声の主は特車2課の歩く弾薬庫、真琴だ。
近くでリボルバーカノンを引き出していた整備員を捕まえて命令する。

「試作の爆裂弾があったでしょ!あれにも炸薬を詰めておきなさい!!」

「いや、でも、あれはやばくて・・・。」

「いいからやるのよ!!」

問答無用である。

「ふふふふ。ふふふふ。うふふふふ。来るわよ。嵐がくるわよ!!


弾丸を抱えたままとんでも無いことを言う真琴は、端からはただの危ない人にしか見えない。
一方、祐一、美汐、栞の頭脳派3人は、電算室で方舟のデータのおさらいをしていた。
今回は時間との勝負だ。
いかに効率よく方舟を解体できるかににかかっている。

「やっぱり、緊急事態用のエマージェンシーシステムでパージするしかないですね。」

方舟の構造データを見ながら栞が分析する。

「どれだけ早く、制御室を占拠できるかが鍵でしょう。」

美汐も決断を下す。

「ガードロボットの資料は?」

今度は、方舟に配置されいる警備用のガードロボットの資料が表示される。
3人で着々と、突入プランを作り上げていく。

そして名雪とあゆの二人は、宅配便の受け取りをしていた。
が、送られてきたのは巨大なコンテナだ。
整備班に手伝ってもらって開けてみると出てくる出てくる、お世辞にも警察の装備品とは言えない重火器の山。
拳銃、自動小銃、ロケットランチャーらしきものに、弾薬類の束。
中にはレイバー用の武装まであった。

「これってヘルダイバー用のコンバットナイフじゃねーか?」

「取りあえず3号機にでも装備しとけ。」

着々と出撃準備が整っていく。

「すげぇ。本物の対レイバーライフルだぜ。」

専用ケースを開け感嘆の声を上げる北川。

名雪達が送られてきた火器の試し打ちをする。
巨大な対レイバーライフルを二人がかりで構えると、ぶっ放した。
もの凄い轟音と共に、的にされた軽自動車は、数メートル空に跳ね上がって四散し、そして、
撃った二人の方も反動で吹っ飛んでいた。

「うぐぅ、こんなんもの誰が使うの〜。」

留守を預かっている由紀子さんも呆れていた。
今は渉外に走り回っている秋子さんと電話中だ。

「レイバー3機のセットアップは完了。トレーラーへのフロートの装着も後数時間で終わります。
 それよりあんな化け物、何処で手に入れたんです?」

「霞ヶ浦の空挺レイバー部隊におねだりしたんですよ。
 例の試作レイバーの一件をちらつかせたら、すぐに貸してくださいました。」

秋子さんは今、フロートを装着したトレーラーを、特車2課から方舟まで牽引する漁船を手配しに
漁業組合に出向いていた。

「これから成田にまわります。場合によっては方舟の全レイバーを相手にしなければなりません。
 秘密兵器を・・・・。そう、そのまさかを呼んだんですよ。」



東京の空の玄関口、成田空港。
アメリカからの便が到着し、入国審査の前にも長蛇の列ができている。

「観光ですか?」

「・・・違う。闘うため。私は犯罪を取り締まる者だから・・・。」

「あははー。舞は仕事熱心ですねー。」

審査官の問いにそう答える女性が二人。
由紀子さんをしてまさかと言わしめた二人。
舞と佐祐里さん、堂々の来日である。




台風の接近により風雨の強くなってきた東京。
既に町中に出歩く人の姿はない。
そんな中、特車2課だけは違っていた。

「注入開始ー!!」

北川の合図で、トレーラーに取り付けられたフロートが展開していく。
既に牽引用の漁船も到着している
トレーラーの傍らでは、祐一以下第2小隊のメンバーとNYの二人組が秋子さんと由紀子さんを前に整列していた。

「今更言うことは何もありません。退避命令が出て方舟は完全に無人です。思う存分暴れてきてください。」

秋子さんに敬礼で答えると、直ちに車両に乗り込み出発する第2小隊。
整備班の声援を受けながらエンジン音を轟かせ海へと突っ込み、漁船に曳航されていく。
3台のトレーラーと1台の指揮車は、すぐに波の間に見えなくなっていった。
隊員を見送ると、何処かへ行こうとする秋子さんを由紀子さんが呼び止めた。

「何処へ行くんですか?秋子先輩。」

「本庁の黙認を取り付けたとはいえ、東京湾の真ん中で派手にドンパチやらかすんです。
 そうなれば港湾局や海上保安庁が黙ってやしませんよ。こちらからで向いて時間を稼がなければ・・・。
 コレも隊長のつとめですよ。」

にっこり笑う秋子さん。

「それじゃあ、救援の手配お願いしますね。」

そう言い残すと自分のミニパトに乗って行ってしまう。
そんな秋子さんを敬礼で見送った由紀子さんだった。



ザブーーーン


いかに大型のレイバー用トレーラーといえど台風の接近で荒れる海の上では、木の葉も同然である。
高波に揺られ上に下に、右に左にと激しく揺さぶられる。
あゆなど顔色が真っ青になっていた。
そこへ祐一から無線が入る。

「見えてきたぞ!前方500メートル。方舟だ!!」

照らし出す明かりもなく、さながら海の上にそびえる魔窟である。
一行は最下層の搬入用デッキから方舟に上陸すると、レイバーを起動させ傾斜エレベーターで上層へ登った。
目の前には作業用レイバーが格納庫に収納されズラッと並んでいる。
特型指揮車のサーチライトと3機のKanonのパトライトだけが辺りを照らし出している。

「ねえ、何だか邪な感じしない?」

既にビビリ顔のあゆがそんなことを言う。

「あゆ、そう言うことは食い逃げする時に思っておいてくれ。」

「うぐぅ。祐一君ひどいよ。」

「・・・さながら偶像の神殿。エホバの名をかたる男にはピッタリ。」

そんなあゆに構わず舞は自分の感想を述べる。
祐一は、指揮車のハンドルを握り治すと全員に無線を入れた。

「聞いてくれ。ガードロボットは、接近させなければ大したことはないが、なんせ数が多い。
 戦闘は可能な限り避けろ。制御室の占拠が目的だ。
 先鋒は真琴、天野は後方の警戒にあたれ。名雪は指揮車の直援だ。」

指揮車の屋根の上には舞と佐祐里さんがそれぞれ、秋子さんが調達してきた火器を構えている。
佐祐里さんなど、対レイバーライフルを軽々と扱っていた。
栞とあゆもショットガンを携えて指揮車に乗り込んでいる。
そして名雪の1号機、真琴の2号機、美汐が駆る3号機。



「一気に突っ走るぞ!突撃〜!!!」



祐一の号令一下、2号機が駆けだしていく。
残りも後に続く。
侵入者を察知したセキュリティシステムが、すぐさまガードロボットを差し向けてくる。
ガードロボットが1機、床下から現れるが、すぐさま真琴にバラバラに打ち砕かれた。

「出てきなさい!ザコども!!この真琴が相手よ!!!」

警報が響き、別のフロアのロボットも現れる。
警告の電撃を構わず突き進んでいく第2小隊。




ズダァン、ダァン、ダァン。
ドンドンドン
ドカーンッ

ズダァン、ダァン。
ドガガガ、ドンドンドン

ドカン、ドカン


銃声が鳴り響き舞と佐祐里さんも次々にガードロボットを撃破していく。
それでも次から次へと現れてくる。

「後方から5台。いえ8台!どんどん増えてます。」

最後尾の美汐が報告する。
何とか追撃を振り切っってエレベータに乗り込んだ。

「戦闘は避けろって言っただろ!!」

「・・・可能な限り避けた。」

怒鳴る祐一に舞があっさりと言い放つ。

「現場に至っては臨機応変なのよ。状況は刻一刻と変化してるんだから!」

さらに真琴の追い打ち。

「とにかく弾丸は大事にしろよな!何が起きるのか分からないからな!!!」

「「「「「了解(だよ!)(したわよ!)(しました!)(ですよー!)(した)」」」」」

やたらと元気な返事が返ってきたことに思わずガクッとなる祐一。
しかし、その命令はあっさりと破られる。
エレベーターの扉が開いたその先には、何十台ものガードロボットで埋め尽くされていた。
真琴が戦端の口火を切り、他の皆も発砲する。
銃声が轟き、残弾を気にもしない銃撃が繰り出される。
ガードロボットの残骸を弾き飛ばしながら、制御室を目指し爆走する指揮車。
右に左に方舟の曲がりくねった通路を猛スピードで突っ走っていく。
栞とあゆはグロッキー状態になりかけている。
「見えたぞ!!」

「えぅ〜。」

「うぐぅ〜。」

すぐに制御室に向かう。


ガキィィィン


施錠された扉を舞が断ち切り、祐一と栞が中に駆け込んでいく。

「もう乱暴なんだから〜。」

「早くしないと方舟中のガードロボットで溢れ返っちまうぞ!!」

「エマージェンシーを立ち上げてください。それでセキュリティは自動停止するはずです。」

テキパキと制御室のコンピュータを起動させていく栞。
起動したモニター上に方舟の構造が表示される。

「これで陸の方にも警報が流れましたね。」

「天候が回復して海上保安庁の連中が、押っ取り刀で駆けつけてきた時、俺たちがヒーローになってるか
 極悪人になってるかお楽しみって訳だ。」

どことなく楽しそうにセキュリティを解除していく祐一。

「聞こえるか?今保安システムを解除した。」

「了解。このまま警戒に当たります。」

制御室の外にいる美汐から返事が返る。
何が起きるか分からない状況下である、警戒しているに越したことはない。

「さー。バラすぞ。」

やっぱり何となく楽しそうな祐一、そこにサブパネルを見ていた栞が大声を上げる。

「ゆ、祐一さん。最上階のサブコントロールに人が、人がいます!」

確かにモニター上には、人を示す表示がわずかに移動しながら表示されていた。
祐一が人物ファイルに検索をかけた結果、出た答えは・・・・。
E.HOBA・・・・帆場映一を示すものだった。

「まさか・・・。帆場の幽霊?」

「えぅ〜。そんなこと言う人は嫌いです〜。」

「上との通信は?」

「えぅ〜。できません・・・。元々サブコントロールは使用されていないんです。あちらから設定しないと。」

「行って確かめるしかないかか・・・。」

涙目の栞をよそに、祐一はしばし考えると決断を下した。
外で待機している名雪達に無線で呼びかける。

「名雪、聞こえるか名雪!」

「どうしたの?」

「問題が起きた。最上階のサブコントロールに人が残っている可能性がある。検索の結果は帆場映一と出た。」

「・・・トラップに間違いない。」

無線を聞いていた舞がいう。

「だが誰かがいることは、間違いないんだ。名雪行ってくれ。」

「私が〜!?」

素っ頓狂な声を上げて、驚く名雪。

「レイバー無しじゃ危険だし、デリケートな判断が必要になるかもしれない。真琴じゃ駄目なんだ!!」

「なんですってぇ!!!」

真琴が怒鳴るが祐一は無視した。
仕方なさそうに上層へ向かう名雪の1号機。
そこに祐一の追伸が入る。

「時間が切迫しているから、本来の作業も同時に進める!!」

つまり、方舟のパージ作業も同時に行うと言うことだ。
まかり間違えば海へ真っ逆さまと言うことである。
名雪は1号機を全速で、最上階へ向けた。



方舟でパージ作業が開始された頃、特車2課も風雨が強まっていた。
そんな中、香里を始めとする整備班の主立ったものは電算室にいた。
そこへ由紀子さんが入ってくる。

「ああ、小坂隊長。」

北川が迎える。

「HOSの正体が判明したんですって?」

「MITから入った通信によると、例の不可視属性ファイルのバラしにやっと成功したそうです。」

目の前のコンピュータのディスプレイには、プログラムらしき羅列が表示されている。

「それで?」

「黒ですよ。真っ黒。HOSには正真正銘のウイルスが仕掛けてあったんです。
 バックアップメモリーはもちろんのこと、あらゆる場所に名前を変えて潜伏する。
 HOS及びHOSに接触したコンピュータは全て汚染されていると見て間違いないでしょう。」

被っていた整備員の帽子を被り直しながら北川が説明する。

「夜が明ければ大騒ぎですよ。MITじゃ早速ワクチンの製作に取りかかったそうですが、そんなんで
 間に合うかどうか・・・。」

「もう半日早ければ、彼等だけで行かせずに済んだのに・・・。今からじゃ増援も出せやしないわ。」

香里も悔しそうである。

「でも、これで秋子さんの説が証明されたんですから、救援態勢だけでも・・・。」

「ちょっとまって!!」

香里を慰めるように言う北川の言葉を由紀子さんが遮った。

「HOS及びHOSに接触した全コンピュータって言ったわね?それじゃ、彼らが方舟の解体に使っている、
 方舟のメインコンピュータは?」

由紀子さんの問いに、香里も北川も顔をしかめるしかできなかった。




Dレベル、ダイ5ブロック、パージ30ビョイウマエ。トウガイブロックデ、サギョウチュウノショクインハ
 タダチニ、タイヒシテクダサイ・・・。

無機的な機械音声が響く中、赤い回転灯が移動していく。
最上階のサブコントロールを目指す、名雪の背後では今通ってきたブロックが轟音を立てて落下していった。
パージされたブロックと移動していく名雪の1号機の様子は、制御室の祐一達にも確認されていた。

「D5ブロックパージ完了。名雪さんのけろぴー、D6からD7へ向け移動中。」

モニターを見上げながら栞が、祐一に報告する。

「次準備しとくぞ。D7のコードは?」

「FPD00207。せめて上層への移動を確認してから、通過フロアを一気に落とせば・・・。」

栞が提案する。

「一気に重量を失うと、方舟のバランス自体危なくなる。大丈夫、開放系のブロックから優先的にパージすれば
 共鳴効果を相当押さえられるはずだ。外の風速は?」

「風速35、今36に上昇しました。」

「D7、いくぞ!!」

Dレベル、ダイ7ブロックノパージガ、ジッコウサレマス

祐一が決定キーを押し込むと、機械音声と共にパージが実行されていった。
パージされたブロックが、激しい波しぶきを上げて海面に落下する。
一部には、パージされたためにむき出しになったレイバー格納庫もあった。
当然、台風の強風が吹き込み、うなり声のような風音が響く。
それに惹かれるように、停止していたレイバーが起動していく。
暗闇にコンソールの光を不気味に浮かび上がらせながら、その光は広がっていった。


「次、B2ブロックのコード。」

次々にパージを実行していく祐一に、栞が金切り声をあげた。

「ゆっ祐一さん!Dレベル第4、第5、第7。Cレベルも、どのフロアもレイバーで一杯です!!」

制御室に備えられた、モニターにはライトを不気味に浮かび上がらせたレイバーが所狭しと映っていた。

「でも、どうして?外の風速は、まだ40を越えていないのに。」

「えぅ〜分かりません。シュミレートが甘かったのか、それともパージ出てきた空洞で風が巻いたのか・・・。」

急激な状況の変化にうろたえる栞。


ズダァン、ズダァン、ズダァン


聞き慣れた銃声が、制御室に聞こえた。
Kanonに装備されたリボルバーカノンだ。
続いて発砲したであろう人物の怒声も聞こえてきた。

「かかってきなさい!この有象無象どもー!!」

「真琴、闇雲に突っ込んだら駄目です!」

別に人物の声も制御室に聞こえてきた。
言うまでもなく、真琴と美汐のものだ。
祐一は制御室の外に残っているであろう人物に無線を繋いだ。

「あゆ!どうした!?」

「祐一くん。橋の向こうに暴走したレイバーが殺到してるよ!!今、真琴ちゃんと美汐ちゃんが突撃した!!」

「舞は?」

あゆに変わって対レイバーライフルを撃っていた佐祐里さんが答える。

「ふぇ〜。さっき武器を探しに行くと言って、そのまんまなんですよ〜。」

佐祐里さんの言葉に祐一は、舞が向かった場所を危ぶんだ。

「アイツまさか・・・。」



ムーブOK。システムノーマル。タイプゼロスタンバイ。

狭い空間に機械音声が流れる。
果たして祐一の予想通り、舞は零式のコクピットにいた。

「止めろ舞!零式は危険だ!!」

祐一の叫び声を聞きながらも起動準備を整える舞。

「・・・放っておいてもコレは驚異になる。一か八かやってみるまで・・・。通信終わり。」

無線を一方的に切ると、零式を起動させ扉を突き破って格納庫の外に飛び出していく。
すぐ零式を確認した暴走レイバーが向かってくる。

舞は、零式に構えさせると暴走レイバーの群れの中へ突っ込んでいったのだった。



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二束三文より
とうとう箱船へ突入しましたね。
それにしても美汐が三号機……原作にないこの戦力がいかに活躍するんでしょうね?
続きが楽しみです。



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