(作成:2013年6月15日
修正:2013年6月21日)
「万有引力の導出」と題して2011年11月25日のブログに書いたこととダブるが、標題を変えてもう少し丁寧に説明する。
ケプラーはチコ・ブラ―エの観測データ(時間と位置座標)から惑星の運動が次の三つの法則に従っていることを発見した。これらはケプラーの法則と呼ばれている。なお、第3法則は第1、第2の法則から遅れて見出されたものである。
第1法則:惑星は太陽を一つの焦点とする楕円軌道を動いている。
第2法則:惑星が動く速さは太陽までの距離が掃引する面積速度が一定である。
第3法則:惑星の運動する公転周期の2乗は楕円軌道の長径の3乗に比例する。
惑星は太陽の周囲を回っており、等速直線運動ではない。つまり、何らかの加速度運動をしている。この加速度をgで表す。
面積速度一定の条件から惑星と太陽を結ぶ方向に直角方向の加速度はゼロであることが導ける。このことは直感的にも納得できることであろう。つまり惑星運動の加速度gは常に太陽と惑星を結ぶ方向である。
「直観的にも納得できる」というのはウソである。楕円軌道を回っている惑星は太陽に近いところでは早く、遠いところでは遅い。速さが変わっているのは明らかであるから、動径に直角方向の速さも変化してると考える方が正しい。速さは変化していても動径に直角方向の加速度がゼロであることは証明が必要である。しかし、ここでは(参考6)を引用することで、その証明を省略する。
長径の3乗が公転周期の二乗に比例することの条件から、加速度gは太陽からの惑星までの距離rの2乗に逆比例することが導ける。比例乗数をKとすると、加速度gは次式のような形に書けて、距離の逆二乗に比例するのである。
g=K/r^2
・・・(1)
ニュートンはKが太陽の質量Mに比例するに違いないと考え、新たに比例乗数Gを採用し、次式で書き直した。このGが後に万有引力定数と言われるものである。
K=GM ・・・(2)
ニュートンは加速度gが作用しているということは重力という力Fがかかっているからだと考えた。惑星の質量をmとすると、ニュートンの運動の第2法則から、次式が成立する。
g=F/m
・・・(3)
これら三つの式から、次のニュートンの万有引力の式が導き出された。
F=GmM/r^2
・・・(4)
ニュートンは万有引力の式を幾何学的に導いているが、要約するとケプラーの法則から万有引力の式の導出経緯は上述のようになる。
さて、(1)式の導出であるが、楕円軌道の場合は2元のベクトル計算が必要である。ただ、逆二乗則になることの直感は軌道を簡単にすれば得られる。つまり、惑星の運動は近似的に太陽を中心とする円軌道であるとみなす。
楕円軌道としてのより詳細な数式展開を知りたい人は例えば(参考6)の記事を見られたい。
半径rの円周を速さvで回転運動をしている物体の加速度αは次式である。これは遠心力加速度である。
α=v^2/r ・・・(5)
周期Tは円周の長さをvで割ったものである。
T=2πr/v ・・・(6)<
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ケプラーの第3法則から、比例乗数をAとすると、
T^2=Ar^3 ・・・(7)
(7)式に(6)式を入れる。
(2π)^2・r^2/v^2=Ar^3
従って、
v^2=(2π)^2/(Ar)
(5)式と組み合わせて、
α={(2π)^2/A}・(1/r^2)∝1/r^2 ・・・(8)
(8)式は、求める加速度が半径の逆二乗に比例していることを示している。
ニュートンは万有引力の式を導出するときに、加速度gをF/mで置き換えて力の式にしてしまった。しかし、実際に二つの質量に万有引力が力として作用している証拠はないのである。従って、ニュートンの万有引力は数式上の「見かけの力」に過ぎない。チコ・ブラーエの観測データから演繹的に導けるのは加速度gまでである。名づけるなら、万有加速度gとすべきであった。
(参考1)
ここで(4)式のmは、定義によって慣性質量である。一方、重力の元になっている太陽の質量Mは重力質量と呼ばれている。しかし、2連星の運動を考えれば容易に推察できるように、どちらがMでどちらがmでも同じことである。mとMで区別できないのであるから敢えて違 う名前を付ける必要はなかった。最初から質量は慣性質量の意味だけで不都合はなかった。
(参考2)
慣性質量と重力質量が等しいことを等価原理と書いている本もあるが、もともと重力質量の用語は不要であったのだから、等価原理を持ちだすまでもないことであった。
(参考3)
等価原理とは違いが見出せないものを同じというということである。
ラベルAとつけたコーヒー(A)とラベルBを付けたコーヒー(B)で少しも違いが判らなければこれら二つのコーヒー(A)と(B)は同じコーヒーであるみなすことを等価原理と呼ぶ。
(参考4)
地球の重力加速度は万有引力加速度から遠心力加速度など、他の影響を加えたものを言うが、天体と天体のように大きく見る場合は万有引力と重力は同義である。
(参考5)
(5)式の遠心力加速度に惑星の質量mを乗じた遠心力は、見かけの力であって実際の力ではない。遠心力が実際の力として働く場合の例としてハンマー投げがある。室伏選手のハンマー投げ参照。
(参考6)
「力の本質を秘める逆2乗則」荒木不二洋、別冊数理科学、「力」とは何か、サイエンス社、1995年4月
(了)
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