コロンビア号を無事に帰還させる  

(2021年4月1日)


STS-107の空中分解

 2003年2月1日、スペースシャトル、コロンビア号はミッション(STS-107)を終え宇宙からの帰還中に高度約40kmのところで分解してしまいました。乗組員7名の犠牲を伴った悲惨な事故でした。

 この事故原因は直ちに解明されました。打ち上げ時に外部燃料タンク(ET)の発泡断熱材の一部が剥がれシャトルの左翼前縁部を破壊していたのです。スペースシャトルは帰還時に大気へ再突入します。この再突入時に生じる空力加熱の熱流が左翼の構造内部に入り込んで機体を破壊してしまいました。

 発泡断熱剤が剥がれることは過去の打ち上げでも生じていてSTS-107 でも打ち上げ時に損傷させたかも知れないとの技術者の心配はありました。米軍の宇宙探査望遠鏡で飛んでいるコロンビアの状況を見て欲しいとの要望も出されてはいたのです。

 しかし、NASAの幹部は米軍への要請を出しませんでした。もし、コロンビアの耐熱タイルが損傷を受けていても直せないからです。打つ手は無いと信じていたのです。そして、米軍の宇宙探査能力が世界中に知られてしまうことも憚られたのでしょう。

 もし、コロンビア号の耐熱タイルが損傷を受けていることが事前に確認できれば大きな空力加熱を避けて降りる方法があったと私は考えるのです。この方法を示しましょう。

空力加熱を避ける帰還方法

 コロンビア号は高度400kmの地球周回軌道を飛んでいましたから、軌道速度は秒速7.67kmです。帰還に当たって減速をしますが、減速量を130m/sもあると地球を半周もしないうちに大気に突入し空力加熱も多大なものになります。そこで減速量を100m/s程度にとどめ、半周した近地点がまだ高度100kmあるようにします。

 このままですと、次の半周で遠地点高度が400kmになりますから、半周して高度100kmに落ちたところで再び90m/sの減速を行い高度100kmの円軌道に入ります。このままですと地球を周回するうちに空気抵抗で減速し、結局大気が濃くなったところで急速にまだ高速なままで大気に突入してしまいます。

 そこで、高度100kmの円軌道に入ってからは迎え角を少し取って揚力飛行に入ります。空気が薄い間は高速でも揚力は充分でないでしょうが、この時は空力加熱も酷いものではありません。

 大気密度が高くなるにつれて揚力も充分大きくなり機体重量を越さない程度に揚力飛行を続けます。このようにすると高度を維持したまま機体の速度が落ちていきます。

 機体速度がゼロならば高度100kmからの自由落下による飛行でも耐熱タイルがなくても地上に降りられることはスペースシップワンで実証されています。

 高度40kmからなら気球で上がった勇敢なスカイダイバーが自由落下で無事に降りています。

 目標は空気密度が小さい高度を揚力により維持したまま軌道速度をゼロ近くまで減速することです。このため高度100kmから40kmまで下がる間に機体速度を1km/s程度にまで落とせば良いでしょう。この間地球を数回は周回することになるでしょう。

 それでも、経験のないことですし、コロンビア号はシャトル最初の頃のミッションでタイルが数枚剥がれることはあっても無事に降りてきた経験があったので帰還方法はこれまでどうりにしただろうとは思います。新たな方法で降りてきて着地点がフロリダでもカリフォルニアでもなく世界のどこかだと着陸自体が事故になる可能性もあります。沖縄の米軍基地などシャトルの非常時着陸場所としての世界中で10カ所ぐらい選定はされていました。

 必要なことは揚力を上手く使えば耐熱タイルなしに軌道から帰還できることの実証です。国際宇宙ステーション(ISS)から、無人の自動帰還機を発射させることで出来るでしょう。もっと、費用の掛からない方法が宇宙からの折り紙ヒコーキだったのです。

(計算メモ)

近地点が高度100km、遠地点が高度400kmの楕円軌道の遠地点軌道速度と近地点軌道速度

ra=(RE+ha)=6.778×106 [m]  

rp(RE+hp6.478×106 [m] 

V2= 2GME(ra/r )/(r+ra

万有引力定数 G: 6.674 × 10-11  m3kg-1-2 

地球の質量 ME: 5.972 × 1024 kg

GME=6.674×5.972×1013=3.986×1014  m3-2   

RE = 6.378×106  [m] 

V2=2×3.986×1014×6.778/6.478/(13.26×106)=62.9×106 

V=7.93×103 

Va=Vrp / ra

Va=7.93×6.478/6.778×103=7.57×103  [ms-1]  

高度100kmの地球周回円軌道の軌道速度

v=(rg)1/2 =(GME r-11/2

2=3.986/6.478×10 =61.5×106

v=7.84×103    [ms-1]  

 

(了)


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