●プロローグ●
ようこそ☆パチモンワールドへ。
「パチモン」とは何か? そこから話をはじめましょう。
たとえばミッキーマウスやキティちゃんといったキャラクターには商標登録や意匠登録、または著作権などにもとづく権利が付随します。世界の人気者ミッキーはウォルト・ディズニー社が、リンゴ3個分の体重しかないというキティちゃんは株式会社サンリオが権利を所有。そのキャラクターを使った商品を作る場合は、それぞれから商品化権といわれるライセンスを得る必要があります。
運動会や文化祭のポスター・看板にミッキーやキティちゃんの絵を描くことぐらいは大目に見てもらえても、こと商売となるとそうはいきません。「ライセンスを得る」とは、つまりは「契約にもとづいてキャラクター使用料を支払う」という意味であり、こういったキャラクターをプリントしたTシャツなどの商品が割高なのは、その料金が上乗せされているからにほかなりません。
ライセンスの発給者は、契約した製造メーカー等に対してキャラクター使用の対価を求めるだけでなく、そのデザイン性やイメージをこわさないように指導もします。いくら高いお金を支払っても、ガリガリにやせこけたキティちゃん人形の販売は、サンリオがぜったいに許さないでしょう。イメージがこわれるからです。
千葉の浦安にある東京ディズニーランドは、一般にディズニー社が主催するテーマパークと思われているようですが、実はそうではなくて、株式会社オリエンタルランドという会社が経営母体です。もちろん、ディズニー社との契約のもとに運営されているのですが、ミッキーやミニー、ドナルドダックといったキャラクターのサイズや動作、そして着グルミの素材にいたるまで、ディズニー社によって厳しく管理されているといいます。
これと同じようなことがブランド品にも当てはまることは言うまでもありません。
人気という付加価値を得たキャラクターや、高級品としての価値が浸透したブランド品は、それだけで経済的に優位な立場にあるわけで、かなり高額であっても市場に受け入れられます。「あやかりたい」と思う人がいても不思議ではありません。
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いまでも、特に発展途上のアジアの国々で、人気のキャラクターや高級ブランドにあやかった品物が作られているようです。日本に輸入した業者や人が摘発された、などというニュースを目にすることがあります。いわゆる「海賊品」というやつです。
「パチモン」とは、この海賊品とほぼ同義の言葉です。ただ、その使用範囲はもう少し広くて、まるっきり真似したわけではなく、特定のキャラをモチーフにしているにもかかわらず、あまりに粗末なためオリジナルキャラにしか見えないものとか、複数のキャラを組み合わせたパロディみたいな商品、あるいはひと目で「偽物」と見破ることのできるものなどにも用いられます。
また、パチモンは、名詞として活用するばかりでなく、「パチる」「パチった」など、動詞として応用することも可能です。文法的には口語のラ行四段活用。「パチら(ろ)」「パチり(っ)」「パチる」「パチる」「パチれ」「パチれ[よ]」ということになるのではないでしょうか。
パチモンの語源には諸説あります。
@「うそっぱちモノ」だからパチモンA「バチ当たりな品物」だからパチモンB「盗む」「捕まえる」の意味で使う「パクる」を大阪方面では「パチる」ともいい、意匠を「パチった(盗んだ)モノ」でパチモンCいくつかのキャラを混ぜ合わせたパッチワークのような品物だからパチモン……などなど。
Cはキャラの混成という一義的な意味しかなく、あまりにひねりすぎているようにも思えます。また、Bは大阪限定の言いまわしというところにいささか疑問があるし、Aは「だったらバチモンだろ」と思います。私としては一番シンプルな@に最も説得力を感じますが、どうでしょう。
さて、語源はどうあれ、このパチモン、もしもいま、日本で作ろうものなら、その業者や人はすぐに摘発されることでしょう。けれど、かつて、まだ「昭和」だったころには、この日本のどこかで確かに作られていたのです。
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昭和四十年代、一般家庭にテレビが普及したことで、子どもたちにもテレビ視聴という新しい楽しみが生まれました。なかでも、特に男の子の目を釘付けにしたのが、『ウルトラQ』(昭和41年1月〜TBS系列で放映)にはじまるウルトラシリーズでした。監修は円谷英二。同作品で「ゴメス」「ナメゴン」「ペギラ」などの名作怪獣を創造し、のちにウルトラマン等のヒーローを送り出し、テレビ界に特撮番組という新たなカテゴリーを確立させました。
同四十年代後半には仮面ライダーやスペクトルマン、バロム・1といったニューヒーローや、その怪獣や怪人など、無数のキャラクターが誕生します。
当然、円谷プロなどのライセンス発給者と契約をして作られた、たくさんのおもちゃが市場に出回りました。なかでも塩化ビニールを素材に作られたソフビ(ソフトビニール)人形は爆発的な人気を博し、複数のおもちゃメーカーが手がけます。マルサン、ブルマァク、ポピー、バンダイ、増田屋、タカトクなどが有名で、マルサンやブルマァクの製品は、時代を物語る独特の造形があり、いまではマニアの間でプレミアがついた高値で取り引きされています。
当時、こういったキャラクターの商品化権を得ないパチモンソフビが出回ったのは言うまでもありません。その多くは正規のルートを通すことができないため、玩具店よりも、駄菓子屋とか、観光地や温泉場の土産物店、あるいは縁日の露店などで売られるケースが多かったようです。また、素材も塩化ビニールよりも安価なポリエチレンだったりしました。子どものころ駄菓子屋に通った年代の方なら、その軒先につり下げられた怪獣やヒーローが欲しくてたまらなかった思い出の一つや二つ、きっとあることでしょう。
ここで紹介するのはこういった怪獣や変身ヒーローのパチモンです。ソフビ製もあればポリ製もあります。
その多くは造形が粗削りで、いたるところにチープ観が漂います。けれど、それがかえって郷愁を誘います。
また、なかには大手メーカーは発想もしなかったであろう素材をモチーフにした珠玉の作品もあります。たとえばテレビではなく漫画本に登場するキャラクターを造形した作品などがそうです。
意匠権や著作権が守られなければならないのは当たり前ですが、あまりに厳しい管理と統制には息苦しさがつきまといます。
昭和のあの時代はどうだったのでしょう。パチモンを、権利の発給者やライセンス契約したおもちゃメーカーなどが苦々しく思っていたことは確かですが、販売ルートが異なっているなどを理由に、見て見ぬ振りするくらいの余裕があったのではないでしょうか。
言い古された言葉ですが、昭和という時代には「古き良き時代」、そんなフレーズがよく似合います。
平成のいまとなっては、もう新たな出会いは望めない、昭和という時代が残してくれた陰の遺産「パチモン」ソフビの世界に、ご案内しましょう。
※パチモンのモチーフになった作品の放映局およびその年代については、株式会社竹書房発行の『超人画報』『ウルトラマン画報』を参考にしました。
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